説明

コーティング部品の温度推定式の作成方法

【課題】 耐食コーティングや遮熱コーティングが施されている高温部品のコーティングの組織変化の状態に基づき、低コストで、簡易且つ高精度にコーティング部品の温度を推定するための温度推定式の作成方法を提供する。
【解決手段】 実機における使用済み部品のコーティングのうち組織変化が認められない部位である供試部位を特定するとともに、前記供試部位から試験片を作製し、さらに前記試験片を加熱手段で所定時間、所定温度で加熱し、その後前記試験片のコーティングの組織が変化した部位の厚さを検出するとともに、前記厚さに基づき、温度を推定するコーティング部品のコーティングの組織が変化した部位の厚さと前記コーティング部品を有する実機の運転時間とを未知数とする前記コーティング部品の温度を推定するための温度推定式を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング部品の温度推定式の作成方法に関し、例えば耐食乃至遮熱コーティングが施されたガスタービン、ジェットエンジン、ボイラ等の高温コーティング部品の温度推定に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
発電用ガスタービン等、高温部品の寿命評価においては、部品の温度分布を把握することが重要である。しかしながら、かかる高温環境において温度分布を把握するための温度の実測は困難である。そこで、温度推定技術の確立が重要な課題となる。
【0003】
一方、高温部品には、一般に基材を保護するための耐食コーティングや遮熱コーティング(TBC)が施されている。そこで、高温部品に施されたコーティングの組織変化の状態を観察することによる温度推定方法が提案されている。これは、耐食コーティングにおける界面拡散層厚さ、TBCにおける外面Al低下層厚さあるいは界面酸化物層(TGO)厚さの成長挙動を予め把握して温度推定式を導出し、これにより高温部品の温度を推定するものである。ここで、界面拡散層とは、基材とコーティングとの界面に両者の化学的組成が異なることに起因して相互拡散により成長する層である。外面Al低下層とは、ボンドコートの外面の酸化に伴いボンドコート中にAlが拡散することにより形成される層である。界面酸化層とは、ボンドコートの外面が酸化して成長した層である。
【0004】
このため、従来技術においては、実機を模擬してコーティングを施した試験片(相当試験片)を作製し、この試験片を用いて所定温度で所定時間の加熱試験を行い、耐食コーティングにおける界面拡散層厚さ、TBCにおける外面Al低下層厚さあるいはTGO厚さを検出し、これらの厚さに基づき温度推定式を作成していた。こうして得た温度推定式に、対象となる実機のコーティング部品から得る所定のデータを代入してその温度を推定している(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電中研報告W01022,Q06005
【非特許文献2】電中研報告Q05010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述の如き温度推定方法に用いる温度推定式の作成の為には、別途相当試験片を作製する必要があるため、次のような問題がある。
1)相当試験片を別途作製するため、その分のコストがかかる。
2)実機の高温部品(例えばタービン翼)の組成が不明な場合等、相当試験片を作製することができない場合がある。ちなみに、実機から該当する高温部品を取り出して分析すればその組成は判明するが、例えばタービン翼の場合、それ自体が高価なものであるので相当試験片の作製のためだけに、該当する高温部品を実機から切り出すことは経済上好ましくない。
3)相当試験片は円柱乃至角柱の基材にコーティングを施したものであるが、実機の高温部品は、例えばタービン翼等、複雑な三次元形状の基材にコーティングを施したものであるため、相当試験片と実機の高温部品とでコーティングの材質や性状等が異なる場合があり、この場合には正確な温度推定式を作成することができず、温度推定の精度が劣る原因となる。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、耐食コーティングや遮熱コーティングが施されている高温部品のコーティングの組織変化の状態に基づき、低コストで、簡易且つ高精度にコーティング部品の温度を推定するための温度推定式の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、実機における使用済み部品のコーティングのうち組織変化が認められない部位である供試部位を特定するとともに、前記供試部位から試験片を作製し、さらに前記試験片を加熱手段で所定時間、所定温度で加熱し、その後前記試験片のコーティングの組織が変化した部位の厚さを検出するとともに、前記厚さに基づき、温度を推定するコーティング部品のコーティングの組織が変化した部位の厚さと前記コーティング部品を有する実機の運転時間とを未知数とする前記コーティング部品の温度を推定するための温度推定式を作成することを特徴とするコーティング部品の温度推定式の作成方法にある。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載するコーティング部品の温度推定式の作成方法において、前記コーティングの組織変化が認められない部位は、コーティングの界面拡散層が認められない部位とし、前記コーティングの組織が変化した部位の厚さとして、コーティングにおける界面拡散層の厚さを用いることを特徴とするコーティング部品の温度推定式の作成方法にある。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載するコーティング部品の温度推定式の作成方法において、前記コーティングの組織変化が認められない部位は、遮熱コーティングの外面Al低下層が認められない部位とし、前記コーティングの組織が変化した部位の厚さとして、遮熱コーティングにおける外面Al低下層厚さを用いることを特徴とするコーティング部品の温度推定式の作成方法にある。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1の態様に記載するコーティング部品の温度推定式の作成方法において、前記コーティングの組織変化が認められない部位は、遮熱コーティングの界面酸化物層が認められない部位とし、前記コーティングの組織が変化した部位の厚さとして、遮熱コーティングにおける界面酸化物層厚さを用いることを特徴とするコーティング部品の温度推定式の作成方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、実機における使用済みコーティング部品を用いて所定の温度推定式を作成しているので、別途相当試験片を作製する場合に比べ、安価に所定の試験片を得ることができ、所定の温度推定式を作成するためのコストを全体として低減することができる。これは、例えば交換する使用済みのコーティング部品にもコーティングの組織変化を生起していない部位が存在することに着目し、この変化がない部位を利用して試験片を作製したからである。ちなみに、タービンの場合、例えば年一回の定期診断の際に使用済みのブレード翼等は、取り外し、場合によっては廃棄していた。したがって、この場合には廃棄部品の有効利用を図ることもできる。
【0013】
また、実機のコーティング部品の組成等に関するデータがない場合でも容易且つ経済的に所定の温度推定式を作成することができる。ちなみに、実機から新品の該当部品(例えばタービン翼)を切り出せば良いが、温度推定式を作成するためだけにこれを切り出すのは不経済な場合がある。
【0014】
さらに、別途相当試験片を作製した場合には実機と異なる場合があるが、本発明によれば実際に実機で使用したコーティング部品から作製した試験片を用いているので、実態を正確に反映した高精度の温度推定式を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ガスタービンのタービン動翼の一枚を抽出して示す正面図である。
【図2】光学顕微鏡により得られるタービン動翼の各部における耐食コーティングの微視組織の様相を示す図である。
【図3】1000℃での試験片における耐食コーティング/基材界面の組織変化の様相を示す図である。
【図4】加熱温度をパラメータとする界面拡散層の厚さlbdと加熱時間tとの関係を示す特性図である。
【図5】図4の成長速度定数kbdと温度Tとの関係を示す特性図である。
【図6】SEMによって得られた遮熱コーティング施工タービン動翼の各部におけるボンドコートの微視組織の様相を示す図である。
【図7】遮熱コーティングを施した試験片の加熱前後におけるトップコート/ボンドコート界面近傍の組織変化の様相を示す図である。
【図8】加熱温度をパラメータとする外面Al低下層の厚さlAlと加熱時間tとの関係を示す特性図である。
【図9】図8に示す各特性の傾きを与える成長速度定数kAlの対数と温度Tの逆数との関係を示す特性図である。
【図10】加熱温度をパラメータとする界面酸化層の厚さlTGOと加熱時間tとの関係を示す特性図である。
【図11】図10に示す各特性の傾きを与える成長速度定数kTGOの対数と温度Tの逆数との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。以下に説明する各実施の形態は耐食コーティング乃至遮熱コーティングを施したタービン翼を対象として温度推定式を作成する場合であるが、勿論これに限定されるものではない。高温環境に晒されるコーティング部品であれば制限なく対象とすることができる。例えばガスタービンの燃焼器、ジェットエンジン乃至ボイラ等における高温コーティング部品も対象とすることができる。
【0017】
<第1の実施の形態>
図1はガスタービンのタービン動翼の一枚を抽出して示す正面図である。同図の下側がタービン動翼1の根元部、反対側が先端部、右側が前縁、左側が後縁である。燃焼ガスは前縁側から後縁側に流れる。本形態におけるタービン動翼1はその基材が、例えばNiベース,Cr,Co,W,Al,Tiの合金から成り、この基材にCoNiCrAlYのコーティングが施してある。かかるタービン動翼1は,例えば燃焼ガス温度1300℃で、約28000時間運転したものである。
【0018】
図2は光学顕微鏡によって得られたタービン動翼1の各部における耐食コーティングの微視組織の様相を示す図である。図2(a)は耐食コーティングと基材との界面に界面拡散層が形成されている場合である。このような界面拡散層は実機相当の耐食コーティングを施した従来技術における相当試験片を用いた高温加熱試験後に観察されることが確認されている。
【0019】
一方、図2(b)は界面拡散層が観察されない組織である。この場合、実機で使用されたタービン動翼1であっても界面拡散層が観察されていない。このことは、使用済みのタービン動翼1であっても耐食コーティングの初期状態が維持された部位が存在することを示している。ちなみに、図2(b)に示すように、界面拡散層が観察されない部位は、その近傍における温度が比較的低いため、界面拡散層が未成長であると考えられる。そこで、本形態では、耐熱コーティングが施され界面拡散層が観察されない部位から切り出した試験片を用いて所定の温度推定式を作成する。
【0020】
具体的には、先ずタービン動翼1における界面拡散層が未成長な部位から耐食コーティング施工面が含まれるように板状の断面を切り出して試験片を作製する。これは、温度が比較的低く界面拡散層が未成長な部位であると考えられるタービン動翼1の基端部から耐食コーティング施工面が含まれるように板状の断面を切り出すことにより好適に得ることができる。このときの切断線L10,L20の一例を図1に示す。
【0021】
次に、上述の如く界面拡散層が成長していない部位から切り出した複数の試験片を電気炉内で所定温度で所定時間加熱する。本形態では温度条件(定常時の温度)を900℃、950℃、1000℃及び1100℃の4種類に設定して、それぞれ最長2000hまで加熱した。ここで、一定の加熱時間ごとに試験片を取り出し、コーティング施工面の中央付近で試験片を切断し、その断面を研磨して光学顕微鏡を用いて組織分析を行うことにより界面拡散層の厚さlbd(μm)を検出した。さらに詳言すると、光学顕微鏡によって200倍で撮影し、その視野において10点ずつ測定し、その平均値を各試験片の界面拡散層の厚さlbd(μm)と定義した。
【0022】
図3は1000℃での試験片における耐食コーティング/基材界面の組織変化の様相を示す図で、同図(a)が試験前、(b)が100h加熱後、(c)が1000h加熱後のそれぞれの様相である。図3を参照すれば加熱後には界面近傍に白色の層状組織が観察され、加熱時間の経過とともにその厚さが厚くなっていることが分かる。
【0023】
図4は、加熱温度をパラメータとする界面拡散層の厚さlbdと加熱時間tとの関係を示す特性図である。同図を参照すれば界面拡散層の厚さlbd(μm)は加熱時間t(h)の平方根に比例して上昇していることが分る。したがって、界面拡散層の厚さlbd(μm)と加熱時間t(h)との関係は,次式(1)で表すことができる。
【0024】
【数1】

ここで、kbdは界面拡散層の厚さの成長速度定数である。
【0025】
図4に示す各特性の傾きを与える成長速度定数kbdの対数と温度Tの逆数との関係は図5のようになる。図5の特性は、成長速度定数kbdがアレニウスの関係に従うことを示している。すなわち、成長速度定数kbdは式(2)で表わすことができる。
【0026】
【数2】

ここで、kは定数、Qbdは見かけの活性エネルギー(J/mol)、Rはガス定数(8.31J/(mol・K)、Tは温度(K)である。
【0027】
次に、式(1)、(2)を温度Tについて書き直すと式(3)を得る。
【0028】
【数3】

ここで、kは図5に示す直線の切片として、またQbdは直線の傾きからそれぞれ実験的に求めることができる。この結果、式(3)は、温度を推定する耐食コーティング部品のコーティングの組織が変化した部位の厚さである界面拡散層の厚さlbdと当該耐食コーティング部品を有する実機の運転時間tとを未知数とする耐食コーティング部品の温度を推定するための温度推定式ということになる。かくして耐食コーティングの界面拡散層の厚さlbdに基づく所望の温度推定式を得る。
【0029】
したがって、実機のタービン動翼の界面拡散層の厚さlbdを測定し、当該実機の運転時間とともに、上式(3)に代入すれば所定の温度を推定することができる。ここで、実機の運転時間は、通常運転記録に記録されているのでこれを用いれば良い。
【0030】
<第2の実施の形態>
本形態は、遮熱コーティング(TBC)を施したガスタービン動翼の温度推定式の作成方法である。本形態におけるタービン動翼はその基材が、例えばNiベース,Cr,Co,Al,Ti,Wの合金から成り、この基材にボンドコートとしてCoNiCrAlYのコーティング、トップコートとしてZrO、Yが施してある。かかるタービン動翼は,例えば燃焼ガス温度1300度で、約12000時間運転したものである。
【0031】
図6はSEMによって得られたTBC施工タービン動翼の各部におけるボンドコートの微視組織の様相を示す図である。同図(a)に示すように当該ボンドコートは2相組織から成り立っている。当該タービン動翼では、その多くの部位で、ボンドコート全体が、図6(a)に示すような2相組織を呈していた。一方、図6(b)に示すように、一部の部位では、ボンドコート外面近傍において白色の層状組織が観察された。これは、ボンドコートの外面が酸化して界面酸化層(TGO)が成長し、それに伴いボンドコート中のAlが拡散するために形成される外面Al低下層である。
【0032】
図6(a)に示すようなボンドコート組織の部位では、温度が比較的低いと考えられ、ボンドコートの外面がほとんど酸化しなかったため、外面Al低下層が形成しなかったと考えられる。このことは、使用済みのタービン動翼であっても遮熱コーティングの初期状態が維持された部位が存在することを示している。 そこで、本形態では、遮熱コーティングが施され外面Al低下層が観察されない部位から切り出した試験片を用いて所定の温度推定式を作成する。
【0033】
具体的には、第1の実施の形態と同様に、先ずタービン動翼における外面Al低下層が未成長な部位から遮熱コーティング施工面が含まれるように板状の断面を切り出して試験片を作製する。
【0034】
次に、上述の如く外面Al低下層が成長していない部位から切り出した複数の試験片を電気炉内で所定温度で所定時間加熱する。本形態では温度条件(定常時の温度)を900℃、950℃、1000℃及び1050℃の4種類に設定して、それぞれ最長3000hまで加熱した。ここで、一定の加熱時間ごとに試験片を取り出し、コーティング施工面の中央付近で試験片を切断し、その断面を研磨して光学顕微鏡を用いて組織分析を行うことにより外面Al低下層の厚さlAl(μm)を検出した。さらに詳言すると、光学顕微鏡によって200倍で撮影し、その視野において10点ずつ測定し、その平均値を各試験片の外面Al低下層の厚さlAl(μm)と定義した。
【0035】
図7は1000℃での試験片におけるトップコート/ボンドコート界面近傍の組織変化の様相を示す図で、同図(a)が試験前、(b)が100h加熱後のそれぞれの様相である。図7を参照すれば所定時間の加熱後にはボンドコート外面に外面Al低下層が成長していることが観察される。図7に、図示はしないが、外面Al低下層は加熱時間の経過とともにその厚さが増大する。
【0036】
図8は、加熱温度をパラメータとする外面Al低下層の厚さlAlと加熱時間tとの関係を示す特性図である。同図を参照すれば外面Al低下層の厚さlAl(μm)は加熱時間t(h)の平方根に比例して上昇していることが分る。したがって、外面Al低下層の厚さlAl(μm)と加熱時間t(h)との関係は,次式(4)で表すことができる。
【0037】
【数4】

ここで、kAlは外面Al低下層の厚さの成長速度定数である。
【0038】
図8に示す各特性の傾きを与える成長速度定数kAlの対数と温度Tの逆数との関係は図9のようになる。図9の特性は、成長速度定数kAlがアレニウスの関係に従うことを示している。すなわち、成長速度定数kAlは式(5)で表わすことができる。
【0039】
【数5】

ここで、kは定数、QAlは見かけの活性エネルギー(J/mol)、Rはガス定数(8.31J/(mol・K)、Tは温度(K)である。
【0040】
次に、式(4)、(5)を温度Tについて書き直すと式(6)を得る。
【0041】
【数6】

ここで、kは図9に示す直線の切片として、またQAlは直線の傾きからそれぞれ実験的に求めることができる。この結果、式(6)は、温度を推定する遮熱コーティング部品のコーティングの組織が変化した部位の厚さである外面Al低下層の厚さlAlと当該遮熱コーティング部品を有する実機の運転時間tとを未知数とする遮熱コーティング部品の温度を推定するための温度推定式ということになる。かくして遮熱コーティングの外面Al低下層の厚さlAlに基づく所望の温度推定式を得る。
【0042】
したがって、実機のタービン動翼の外面Al低下層の厚さlAlを測定し、当該実機の運転時間とともに、上式(6)に代入すれば所定の温度を推定することができる。ここで、実機の運転時間は、通常運転記録に記録されているのでこれを用いれば良い。
【0043】
<第3の実施の形態>
本形態は、遮熱コーティング(TBC)を施したガスタービン動翼の温度推定式の作成方法という点で第2の実施の形態と同様であるが、第2の実施の形態が外面Al低下層の厚さに基づき所定の温度推定式を作成しているのに対し、本形態は界面酸化物層(TGO)の厚さに基づき所定の温度推定式を作成するものである。したがって、試験片の作製及びその後の加熱工程は第2の実施の形態と全く同様であり、加熱後の試験片における遮熱コーティングの組織状態の分析方法が異なる。したがって、第2の実施の形態と異なる点を中心に説明する。
【0044】
図7(b)に示すように、1000℃で100h加熱した試験片におけるトップコート/ボンドコート界面にはTGO(図中の黒色部分)が成長しており、TGOの下に外面Al低下層が成長している。本形態では、TGOの厚さを検出することで所定の温度推定式を作成する。そこで、所定温度による所定時間の加熱後の試験片の組織分析をSEMを用いて行うことによりTGOの厚さΔlTGO(μm)を検出した。なお、ここで、ΔlTGO(μm)は初期値からの変化量である。すなわち、遮熱コーティングはその安定化のため、コーティング施工後熱処理を行うが、この熱処理に伴い薄い酸化膜(1μm程度)ができる。かかる酸化膜の影響を除去するため、これを初期値として見込んで実測値から引いた厚さΔlTGO(μm)を用いている。
【0045】
さらに詳言すると、TGOの実測厚さはSEMによって1000倍で各試験片を2視野撮影し、各視野において10点ずつ20点測定し、その平均値を各試験片のTGOの実測厚さlTGO(μm)と定義し、このTGOの実測厚さlTGOから所定の初期値を引いたΔlTGO(μm)をTGOの厚さとして用いている。
【0046】
図10は、加熱温度をパラメータとするTGOの厚さΔlTGOと加熱時間tとの関係を示す特性図である。同図を参照すればTGOの厚さΔlTGO(μm)は加熱時間t(h)の平方根に比例して上昇していることが分る。したがって、TGOの厚さΔlTGO(μm)と加熱時間t(h)との関係は,次式(7)で表すことができる。
【0047】
【数7】

ここで、kTGOはTGOの厚さΔlTGOの厚さの成長速度定数である。
【0048】
図10に示す各特性の傾きを与える成長速度定数kTGOの対数と温度Tの逆数との関係は図11のようになる。図11の特性は、成長速度定数kTGOがアレニウスの関係に従うことを示している。すなわち、成長速度定数kTGOは式(8)で表わすことができる。
【0049】
【数8】

ここで、kは定数、QTGOは見かけの活性エネルギー(J/mol)、Rはガス定数(8.31J/(mol・K)、Tは温度(K)である。
【0050】
次に、式(7)、(8)を温度Tについて書き直すと式(9)を得る。
【0051】
【数9】

ここで、kは図11に示す直線の切片として、またQTGOは直線の傾きからそれぞれ実験的に求めることができる。この結果、式(9)は、温度を推定する遮熱コーティング部品のコーティングの組織が変化した部位の厚さであるTGOの厚さlTGOと当該遮熱コーティング部品を有する実機の運転時間tとを未知数とする遮熱コーティング部品の温度を推定するための温度推定式ということになる。かくして遮熱コーティングのTGOの厚さlTGOに基づく所望の温度推定式を得る。
【0052】
したがって、実機のタービン動翼のTGOの厚さlTGOを測定し、当該実機の運転時間とともに、上式(9)に代入すれば所定の温度を推定することができる。ここで、実機の運転時間は、通常運転記録に記録されているのでこれを用いれば良い。
【0053】
以上第1乃至第3の実施の形態とともに説明した本発明によれば、コーティング部品の材料組織を分析し、比較的温度が低く、界面拡散層、外面Al低下層及びTGOの成長等のコーティング組織の変化が認められない部位が存在することを確認し、これらの部位から切り出した試験片を用いて高温加熱試験を行うことにより以下の結果を得た。
(1)耐食コーティング
加熱後の実機試験片には界面拡散層が形成され、相当試験片と同様に、その厚さは加熱時間の平方根に比例して成長した。このことから、実機試験片を用いて界面拡散層の厚さの成長に基づく温度推定式を導き出すことができる。
(2)遮熱コーティング
加熱の実機試験片には外面Al低下層およびTGOが成長していた。そして、その厚さは相当試験片と同様に、実機験片における外面Al低下層及びTGOの厚さは加熱時間の平方根に比例して成長した。このことから、実機試験片を用いて外面Al低下層の厚さ乃至TGOの厚さの成長に基づく温度推定式を導出できる。
【0054】
なお、第2及び第3の実施の形態に係る遮熱コーティングの組織状態を利用する温度推定式の作成方法では、外面Al低下層乃至TGOの厚さを利用したが、これらに限るものではない。第1の実施の形態と同様に、遮熱コーティングの界面拡散層の厚さを利用しても同様の手順で温度推定式を作成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明はガスタービン等、高温環境で運転する機器の製造や保守を行う産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 タービン動翼
L10,L20 切断線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実機における使用済み部品のコーティングのうち組織変化が認められない部位である供試部位を特定するとともに、前記供試部位から試験片を作成し、
さらに前記試験片を加熱手段で所定時間、所定温度で加熱し、その後前記試験片のコーティングの組織が変化した部位の厚さを検出するとともに、前記厚さに基づき、温度を推定するコーティング部品のコーティングの組織が変化した部位の厚さと前記コーティング部品を有する実機の運転時間とを未知数とする前記コーティング部品の温度を推定するための温度推定式を作成することを特徴とするコーティング部品の温度推定式の作成方法。
【請求項2】
請求項1に記載するコーティング部品の温度推定式の作成方法において、
前記コーティングの組織変化が認められない部位は、コーティングの界面拡散層が認められない部位とし、
前記コーティングの組織が変化した部位の厚さとして、コーティングにおける界面拡散層の厚さを用いることを特徴とするコーティング部品の温度推定式の作成方法。
【請求項3】
請求項1に記載するコーティング部品の温度推定式の作成方法において、
前記コーティングの組織変化が認められない部位は、遮熱コーティングの外面Al低下層が認められない部位とし、
前記コーティングの組織が変化した部位の厚さとして、遮熱コーティングにおける外面Al低下層厚さを用いることを特徴とするコーティング部品の温度推定式の作成方法。
【請求項4】
請求項1に記載するコーティング部品の温度推定式の作成方法において、
前記コーティングの組織変化が認められない部位は、遮熱コーティングの界面酸化物層が認められない部位とし、
前記コーティングの組織が変化した部位の厚さとして、遮熱コーティングにおける界面酸化物層厚さを用いることを特徴とするコーティング部品の温度推定式の作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−27602(P2011−27602A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174829(P2009−174829)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】