説明

コールドピルガー圧延装置

【課題】潤滑油が残留しにくいコールドピルガー圧延装置2の提供。
【解決手段】コールドピルガー圧延装置2は、一対のロールダイス4、マンドレル6、ロッド8、ブラシ10及びユニバーサルジョイント12を備えている。それぞれのロールダイス4は、カリバー20を備えている。カリバー20の径は、周方向に沿って変化している。マンドレル6は、テーパー状である。マンドレル6とカリバー20との間で素パイプ14aが押圧されて、仕上げパイプ14bが得られる。ブラシ10は、パイプ14に挿入されている。ブラシ10は、パイプ14の内周面に当接している。ブラシ10は、多数のファイバーを有している。それぞれのファイバーは、ステンレス鋼からなる。ブラシ10は、ユニバーサルジョイント12を介してマンドレル6に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドピルガー圧延装置と、この装置が用いられた管製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
寸法精度の優れた鋼管を得る方法として、コールドピルガー圧延が知られている。コールドピルガー圧延には、カリバーを有する一対のロールダイスが用いられる。このカリバーの径は、周方向において徐々に変化する。テーパー状のマンドレルが通された素パイプが、このロールダイスへと供給される。ロールダイスとマンドレルとにより、素パイプは、間欠的に圧延される。圧延により、素パイプは塑性変形を起こす。具体的には、素パイプは、長尺化し、細径化し、かつ薄肉化する。この塑性変形により、製品であるパイプ(仕上げパイプと称されている)が得られる。
【0003】
圧延に先立ち、素パイプの内周面には潤滑油が供給される。潤滑油は、マンドレルを保持するロッドの外周面に形成された開口から流出する。圧延時、パイプとマンドレルとの間には加工熱及び摩擦熱が発生する。潤滑油により、パイプとマンドレルとの摩擦力が軽減される。潤滑油はさらに、加工熱及び摩擦熱を吸収し、パイプ及びマンドレルを冷却する役割も果たす。潤滑油は、圧延後も仕上げパイプの内面に残留する。仕上げパイプが圧延装置から搬出されると、残留する潤滑油も装置外に持ち出される。仕上げパイプから漏れ出した潤滑油は、周囲を汚す。
【0004】
仕上げパイプが熱処理に供されて、鋼管が得られることがある。この熱処理により、残留する潤滑油が炭化する。炭化した潤滑油に含まれる鉄分は、仕上げパイプとの間でマクロ電池効果を発生させる。これにより、鋼管の腐食が誘発される。
【0005】
特開2000−167607公報には、仕上げパイプから潤滑油を除去する装置が開示されている。この装置は、ゴムからなる円盤と、この円盤をマンドレルに取り付けるためのスプリングとを備えている。円盤は、マンドレルの下流に位置している。この円盤により、仕上げパイプの内周面に付着した潤滑油が掻き取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−167607公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2000−167607公報に開示された装置では、円盤がゴムからなるので、この円盤の強度が不十分である。繰り返し使用されることにより、円盤は永久歪みを起こす。永久歪みが生じた円盤では、潤滑油の掻き取りが十分にはなされ得ない。この円盤が用いられると、潤滑油が残留する。永久歪みが生じた円盤はマンドレルから取り外され、新たな円盤がマンドレルに取り付けられる。この交換作業には、時間を要する。
【0008】
本発明の目的は、潤滑油が残留しにくいコールドピルガー圧延装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るコールドピルガー圧延装置は、
テーパー状であり、パイプに通されてこのパイプの内周面と当接するマンドレル、
周方向において径が徐々に変化するカリバーを有しており、上記パイプの外周面に当接してこのパイプを押圧するロールダイス
及び
多数のファイバーを有しており、上記マンドレルよりも下流において上記パイプに挿入されており、このパイプの内周面に当接するブラシ
を備える。
【0010】
好ましくは、ブラシは、ユニバーサルジョイントを介してマンドレルに取り付けられる。
【0011】
好ましくは、ブラシは複合層を有する。この複合層は、ファイバーとエラストマーマトリクスとを含む。好ましくは、このエラストマーマトリクスの基材は、シリコーンゴムである。
【0012】
好ましくは、ブラシの直径D1と、得られる仕上げパイプの内径D2との差(D1−D2)は、2mm以上である。
【0013】
本発明に係る管の製造方法は、
その内側にテーパー状のマンドレルが通され、かつ内周面に潤滑油が付着した素パイプを、周方向において径が徐々に変化するカリバーを有するロールダイスに向けて供給する工程、
上記素パイプの外周面を上記カリバーで押圧し、素パイプを長尺化かつ細径化させて仕上げパイプを得る工程
及び
この仕上げパイプの内周面にブラシを当接させてこの内主面に付着した潤滑油を除去する工程
を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るコールドピルガー圧延装置では、内周面の潤滑油が十分に除去されうる。この装置により、潤滑油による汚れが防止されうる。この圧延装置で得られた管に熱処理がなされても、潤滑油の炭化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るコールドピルガー圧延装置が示された断面図である。
【図2】図2は、図1の圧延装置の一部が示された拡大図である。
【図3】図3は、図2の圧延装置の一部が示された拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
図1及び2に示されたコールドピルガー圧延装置2は、一対のロールダイス4、マンドレル6、ロッド8、ブラシ10及びユニバーサルジョイント12を備えている。図1には、パイプ14も示されている。図1において、左側が上流であり、右側が下流である。パイプ14の上流側は素パイプ14aであり、パイプ14の下流側は仕上げパイプ14bである。
【0018】
それぞれのロールダイス4は、軸16、ボディ18及びカリバー20を有している。カリバー20は、パイプ14の外周面に当接している。このカリバー20の径は、周方向において徐々に変化している。ロールダイス4は、軸16を中心として回転する。ロールダイス4は、図1中の矢印A1の方向及び矢印A2の方向に、交互に回転する。矢印A1の方向にロールダイス4が回転することにより、カリバー20のうちパイプ14と当接する部分の径及び深さが、徐々に大きくなる。矢印A2の方向にロールダイス4が回転することにより、カリバー20のうちパイプ14と当接する部分の径及び深さが、徐々に小さくなる。ロールダイス4はさらに、図1の上流方向及び下流方向への往復運動も行う。ロールダイス4の回転及び往復運動により、パイプ14のうちカリバー20と当接する箇所が、パイプ14の軸方向において変動する。
【0019】
マンドレル6は、パイプ14に挿入されている。マンドレル6は、パイプ14の内周面と当接している。マンドレル6は、下流に向かってテーパー状である。マンドレル6は、硬質かつ高強度な金属材料からなる。図1の上下方向に沿ったマンドレル6の断面形状は、円である。
【0020】
ロッド8は、マンドレル6に固定されている。ロッド8の軸線は、マンドレル6の軸線と一致している。ロッド8が下流方向に進行することにより、このロッド8に押されてマンドレル6も下流方向に進行する。ロッド8がその軸線を中心として回転することにより、マンドレル6も回転する。マンドレル6の回転により、パイプ14のうちカリバー20と当接する箇所が、パイプ14の周方向において変動する。
【0021】
ロッド8は、開口22を有している。図示されていないが、この開口22は流路に通じている。流路は、ロッド8の内部に設けられている。この流路を、潤滑油が流動する。潤滑油は開口22から流出し、パイプ14の内部に供給される。
【0022】
ブラシ10は、マンドレル6よりも下流に位置している。ブラシ10は、パイプ14に挿入されている。ブラシ10は、パイプ14の内周面に当接している。
【0023】
ユニバーサルジョイント12は、第一要素24及び第二要素26からなる。第一要素24は、マンドレル6に固定されている。第二要素26は、ブラシ10に固定されている。換言すれば、ブラシ10は、ユニバーサルジョイント12を介してマンドレル6に取り付けられている。マンドレル6が下流方向に進行することにより、ユニバーサルジョイント12に押されてブラシ10も下流方向に進行する。
【0024】
前述の通り、ブラシ10がユニバーサルジョイント12を介してマンドレル6に取り付けられているので、ブラシ10はマンドレル6に対して回転自在である。従って、マンドレル6の回転によっても、ブラシ10に過大な負荷がかからない。マンドレル6に生じた振動をユニバーサルジョイント12が吸収するので、マンドレル6とユニバーサルジョイント12との間での破断及びユニバーサルジョイント12とブラシ10との間での破断は生じにくい。
【0025】
図3には、ブラシ10の断面が示されている。このブラシ10は、芯28と多数のファイバー30とを備えている。芯28は、ろう材32によってユニバーサルジョイント12に接合されている。好ましいろう材32は、銀ロウである。それぞれのファイバー30の一端は、芯28に埋設されている。ファイバー30は、金属材料からなる。好ましくは、ファイバー30は、ステンレス鋼からなる。
【0026】
ブラシ10は、複合層34を有している。この複合層34は、エラストマーマトリクスと、このエラストマーに囲まれた多数のファイバー30とからなる。多数のファイバー30の間にエラストマーが含浸させられることにより、複合層34が形成される。エラストマーマトリクスの基材には、耐油性及び耐熱性に優れたポリマーが用いられる。好ましいポリマーとしては、シリコーンゴムが例示される。
【0027】
以下、本発明に係る鋼管製造方法が説明される。この製造方法では、素パイプ14aが準備される。素パイプ14aは、ピアサー等の熱間加工で得られうる。他の方法により、素パイプ14aが得られてもよい。
【0028】
この素パイプ14aに、マンドレル6が通される。この素パイプ14a及びマンドレル6が、ロールダイス4に供給される。このとき、ロッド8の開口22からは潤滑油が供給される。潤滑油は、素パイプ14aの内周面に付着する。この素パイプ14aの外周面が、ロールダイス4のカリバー20で押圧される。ロールダイス4とマンドレル6とに挟まれて、素パイプ14aは塑性変形を起こす。具体的には、素パイプ14aが長尺化、細径化かつ薄肉化されて、仕上げパイプ14bが得られる。塑性変形により、仕上げパイプ14bは、マンドレル6に対して下流へと移動する。
【0029】
仕上げパイプ14bの内周面には、ブラシ10が当接している。仕上げパイプ14bが下流へと進行するとき、このブラシ10によって潤滑油が掻き取られる。仕上げパイプ14bは、潤滑油が除去された状態で、外部へ搬出される。従って、潤滑油による外部の汚れが防止されうる。この仕上げパイプ14bに各種処理が施され、鋼管が得られる。仕上げパイプ14bに熱処理が施された場合でも、潤滑油の炭化が抑制されるので、高品質な鋼管が得られうる。
【0030】
ブラシ10は、ゴムからなる円盤に比べて永久歪みが生じにくい。従って、このブラシ10が長期間使用されても、潤滑油を掻き取る能力が低下しにくい。複合層34の液密性が高いので、この複合層34を有するブラシ10は、潤滑油を掻き取る能力に優れる。
【0031】
図3において矢印D1で示されているのは、ブラシ10の直径である。直径D1は、パイプ14に挿入される前の段階で測定される。直径D1は、仕上げパイプ14bの内径D2との関係が考慮されて、適宜決定される。直径D1が内径D2よりも大きく設定されることにより、ファイバー30が強く仕上げパイプ14bに押し付けられる。潤滑油が十分に掻き取られるとの観点から、直径D1と内径D2との差(D1−D2)は2mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。差(D1−D2)は、50mm以下が好ましい。
【0032】
図3において矢印Tで示されているのは、複合層34の厚みである。潤滑油が十分に掻き取られるとの観点から、厚みTは5mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。厚みTは、100mm以下が好ましい。
【0033】
潤滑油が十分に掻き取られるとの観点から、それぞれのファイバー30の太さは、0.05mm以上が好ましく、0.10mm以上がより好ましい。太さは、2mm以下が好ましい。
【0034】
潤滑油が十分に掻き取られるとの観点から、それぞれのファイバー30の長さは10mm以上が好ましく、20mm以上がより好ましい。長さは、200mm以下が好ましい。
【0035】
潤滑油が十分に掻き取られるとの観点から、ファイバー30の密度は、50本/cm以上が好ましく、100本/cm以上がより好ましい。密度は、2000本/cm以下が好ましい。密度は、軸方向における1cmあたりのファイバー30の本数である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0037】
[実験1]
[実施例1]
図1から3に示されたブラシを用意した。このブラシは、ステンレス鋼からなる多数のファイバーを有している。このブラシはさらに、シリコーンゴムを含む複合層を有している。このブラシの直径D1は、35mmである。複合層の厚みは、15mmである。このブラシを備えたコールドピルガー圧延装置により、内径が30mmである仕上げパイプを得た。
【0038】
[実施例2から4]
ブラシの直径D1を下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、仕上げパイプを得た。
【0039】
[比較例1]
ブラシを設けなかった他は実施例1と同様にして、仕上げパイプを得た。
【0040】
[残留する潤滑油の量の測定]
長さが5mである仕上げパイプの内部に残留する潤滑油の量を測定した。この結果が、下記の表1に示されている。
【0041】
【表1】

【0042】
[実験2]
[実施例5]
図1から3に示されたブラシ(除去手段)を用意した。このブラシは、ステンレス鋼からなる多数のファイバーを有している。このブラシはさらに、シリコーンゴムを含む複合層を有している。このブラシの直径D1は、30mmである。複合層の厚みは、15mmである。このブラシを備えたコールドピルガー圧延装置により、内径が25mmである仕上げパイプを得た。
【0043】
[実施例6及び7]
ブラシの直径及びパイプの内径D2を下記の表2に示される通りとした他は実施例5と同様にして、仕上げパイプを得た。
【0044】
[比較例2]
ブラシに代えてゴム製の円盤を設けた他は実施例1と同様にして、仕上げパイプを得た。
【0045】
[比較例3及び4]
円盤の直径及びパイプの内径D2を下記の表2に示される通りとした他は比較例2と同様にして、仕上げパイプを得た。
【0046】
[残留する潤滑油の量の測定]
実験1と同様にして、仕上げパイプの内部に残留する潤滑油の量を測定した。この結果が、下記の表2に示されている。
【0047】
【表2】

【0048】
表1及び2に示されるように、実施例の製造方法では、比較例の製造方法に比べて潤滑油の残留量が少ない。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る圧延装置は、種々の管の製造に用いられうる。
【符号の説明】
【0050】
2・・・コールドピルガー圧延装置
4・・・ロールダイス
6・・・マンドレル
8・・・ロッド
10・・・ブラシ
12・・・ユニバーサルジョイント
14・・・パイプ
20・・・カリバー
24・・・第一要素
26・・・第二要素
30・・・ファイバー
34・・・複合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーパー状であり、パイプに通されてこのパイプの内周面と当接するマンドレル、
周方向において径が徐々に変化するカリバーを有しており、上記パイプの外周面に当接してこのパイプを押圧するロールダイス
及び
多数のファイバーを有しており、上記マンドレルよりも下流において上記パイプに挿入されており、このパイプの内周面に当接するブラシ
を備えたコールドピルガー圧延装置。
【請求項2】
上記ブラシがユニバーサルジョイントを介してマンドレルに取り付けられている請求項1に記載の圧延装置。
【請求項3】
上記ブラシが、複合層を有しており、この複合層が上記ファイバーとエラストマーマトリクスとを含む請求項1又は2に記載の圧延装置。
【請求項4】
上記エラストマーマトリクスの基材がシリコーンゴムである請求項3に記載の圧延装置。
【請求項5】
上記ブラシの直径D1と、得られる仕上げパイプの内径D2との差(D1−D2)が、2mm以上である請求項1から4のいずれかに記載の圧延装置。
【請求項6】
その内側にテーパー状のマンドレルが通され、かつ内周面に潤滑油が付着した素パイプを、周方向において径が徐々に変化するカリバーを有するロールダイスに向けて供給する工程、
上記素パイプの外周面を上記カリバーで押圧し、素パイプを長尺化かつ細径化させて仕上げパイプを得る工程
及び
この仕上げパイプの内周面にブラシを当接させてこの内主面に付着した潤滑油を除去する工程
を含む管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−131249(P2011−131249A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293974(P2009−293974)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)