説明

ゴム用添加剤及びゴム組成物

【課題】タイヤに乾燥路面での良好な操縦安定性、かつ優れた転がり抵抗を付与しうるゴム用添加剤、該ゴム用添加剤を含むゴム組成物、及び該ゴム組成物を部材として用いたタイヤを提供すること。
【解決手段】(A)下記一般式(1a):


〔式中、R1は炭素数2〜4のアルカンジイル基を表し、複数のR1は同じでも異なっていてもよい。mは平均付加モル数を示す2〜31の数を表す。〕
で表されるポリオキシアルカンジイルグリコール、及び(B)下記一般式(1b):


〔式中、R2及びR3は炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を表し、xは硫黄原子数を示す2〜8の整数である。〕
で表されるスルフィド基を含有するジカルボン酸モノマーが、(A)成分のヒドロキシル基モル量が、(B)成分のカルボキシ基モル量よりも多い量で重縮合してなるポリエステル化合物を主成分とするゴム用添加剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム用添加剤、及びこれを用いたゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の省エネルギーの社会的な要請に伴い、自動車の燃料消費節約を目的として、タイヤ用ゴムの低発熱化(すなわち、転がり抵抗の低減)を図る試みがなされている。タイヤ用ゴムの低発熱化を図るために、ゴム用補強充填剤として多用されるカーボンブラックの充填量の減量、あるいは大粒径のカーボンブラックの使用が検討されている。しかし、いずれの場合も、補強性,耐摩耗性,乾燥路面及び湿潤路面でのグリップ性(操縦安定性)が低下するのを免れないことが知られている。
他方、低転がり抵抗と湿潤路面での操縦安定性とを両立させる充填剤として、含水ケイ酸(湿式シリカ)が知られている(例えば特許文献1〜8参照)。しかし、この湿式シリカは、その表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向にあり、ゴム中へのシリカの分散を良くするためには混練時間を長くする必要がある。また、ゴム中へのシリカの分散が不十分なためゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、押出しなどの加工性に劣るなどの欠点を有していた。さらに、シリカ粒子の表面が酸性であることから、加硫促進剤として使用される塩基性物質を吸着し、ゴム組成物の加硫が十分に行われず、貯蔵弾性率が向上しないため、乾燥路面における操縦安定性が十分ではないという欠点を有していた。
【0003】
シリカ配合ゴムの省燃費性を損なわずに操縦安定性を向上させる方法として、樹脂を添加する方法や(例えば特許文献9、特許文献10参照)、重合性不飽和結合と特定の官能基をもった化合物を添加したゴム組成物が提案されている(例えば特許文献11)。しかし、このゴム組成物は、これらの樹脂とゴムとの相溶性が不十分であることによる加硫ゴムの表面荒れの問題、貯蔵弾性率を向上させる効果が不十分であり、乾燥路面における操縦安定性の向上が不十分であるといった問題があった。
一方、含硫黄ポリエステルの使用により、加硫ゴムの機械特性、及び良好なヒステリシス特性を与えることが可能であることが知られているが(例えば特許文献12)、貯蔵弾性率についての記載は一切ない。また、ゴム用添加剤として同一分子内にゴムに対する反応基とシリカなどの無機充填剤に対する吸着基とを有する化合物を用いたゴム組成物が提案されている(例えば特許文献13)。しかし、このゴム組成物は、貯蔵弾性率の向上については一定の効果を示しているが、乾燥路面における良好な操作安定性と優れた転がり抵抗とを両立させるゴム用添加物の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開平3−252431号公報
【特許文献2】特開平6−248116号公報
【特許文献3】特開平7−70369号公報
【特許文献4】特開平7−188466号公報
【特許文献5】特開平7−196850号公報
【特許文献6】特開平8−225684号公報
【特許文献7】特開平8−245838号公報
【特許文献8】特開平8−337687号公報
【特許文献9】特開2000−80205号公報
【特許文献10】特開2000−290433号公報
【特許文献11】特開2002−179841号公報
【特許文献12】特開平8−333488号公報
【特許文献13】特開2003−176378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、タイヤに乾燥路面での良好な操縦安定性、かつ優れた転がり抵抗を付与しうるゴム用添加剤、該ゴム用添加剤を含むゴム組成物、及び該ゴム組成物を部材として用いたタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のポリエステル化合物により、その目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)(A)下記一般式(1a):
【0007】
【化1】

【0008】
〔式中、R1は炭素数2〜4のアルカンジイル基を表し、複数のR1は同じでも異なっていてもよい。mは平均付加モル数を示す2〜31の数を表す。〕
で表されるポリオキシアルカンジイルグリコール、及び(B)下記一般式(1b):
【0009】
【化2】

【0010】
〔式中、R2及びR3は炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を表し、xは硫黄原子数を示す2〜8の整数である。〕
で表されるスルフィド基を含有するジカルボン酸モノマーが、(A)成分のヒドロキシル基モル量が、(B)成分のカルボキシ基モル量よりも多い量で重縮合してなるポリエステル化合物を主成分とするゴム用添加剤、
(2)ポリエステル化合物が、前記(A)成分、(B)成分に、さらに(C)(B)成分以外のジカルボン酸モノマー及び/又は(D)ジオールモノマーを、(A)成分及び(D)成分のヒドロキシ基の合計モル量が、(B)成分及び(C)成分のカルボキシ基の合計モル量よりも多い量で配合して重縮合してなるものである上記(1)に記載のゴム用添加剤、
(3)(E)天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム、(F)充填剤、及び上記(1)又は(2)に記載のゴム用添加剤を含むゴム組成物、
(4)さらに、(G)シランカップリング剤をシリカに対して1〜20質量%の割合で含む上記(3)に記載のゴム組成物、及び
(5)上記(3)又は(4)に記載のゴム組成物を部材として用いたタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤに乾燥路面での良好な操縦安定性、かつ優れた転がり抵抗を付与しうるゴム用添加剤、該ゴム用添加剤を含むゴム組成物、及び該ゴム組成物を部材として用いたタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のゴム用添加剤は、(A)下記一般式(1a):
【0013】
【化3】

【0014】
〔式中、R1は炭素数2〜4のアルカンジイル基を表し、複数のR1は同じでも異なっていてもよい。mは平均付加モル数を示す2〜31の数を表す。〕
で表されるポリオキシアルカンジイルグリコール、及び(B)下記一般式(1b):
【0015】
【化4】

【0016】
〔式中、R2及びR3は炭素数1〜8のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を表し、xは硫黄原子数を示す2〜8の整数である。〕
で表されるスルフィド基を含有するジカルボン酸モノマーが、(A)成分のヒドロキシル基モル量が、(B)成分のカルボキシ基モル量よりも多い量で重縮合してなるポリエステル化合物を主成分とするものである。
【0017】
[(A)成分:ポリオキシアルカンジイルグリコール]
本発明に用いられる(A)ポリオキシアルカンジイルグリコールは、下記一般式(1a)で表される化合物である。
【0018】
【化5】

【0019】
式中、R1は炭素数2〜4のアルカンジイル基を表し、複数のR1は同じでも異なっていてもよい。例えば、R1Oとしては、エチレンオキサイド単独でもよいし、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの組合せであってもよい。また、mは平均付加モル数を示す2〜31の数であり、好ましくは3〜21の数を表す。
このような(A)ポリオキシアルカンジイルグリコールとしては、ポリオキシエチレングリコール,ポリオキシプロピレングリコールなどの他、エチレングリコール,プロピレングリコール,及びブタンジオールに、ポリオキシエチレン,ポリオキシプロピレン,ポリオキシトリメチレン,及び/又はポリオキシテトラメチレンが平均して1〜30モル、好ましくは2〜20モル付加したものが好ましく挙げられる。
(A)ポリオキシアルカンジイルグリコールは、これらを単独で、又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0020】
[(B)成分:スルフィド基を含有するジカルボン酸モノマー]
本発明に用いられる(B)スルフィド基を含有するジカルボン酸モノマーは、下記一般式(1b)で表される。
【0021】
【化6】

【0022】
式中、R2及びR3は、炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を表す。また、xは硫黄原子数を示す2〜8の整数であり、ゴム組成物の調製における混練作業におけるポリマーのゲル化抑制の観点から2〜4が好ましく、2がより好ましい。
このようなスルフィド基を含有するジカルボン酸モノマーとしては、2,2’−ジチオジ酢酸,3,3’−ジチオジプロピオン酸,4,4’−ジチオジブタン酸,5,5’−ジチオジペンタン酸,6,6’−ジチオジヘキサン酸,7,7’−ジチオジヘプタン酸,8,8’−ジチオジオクタン酸,9,9’−ジチオジノナン酸,10,10’−ジチオジデカン酸などが好ましく挙げられ、なかでも3,3’−ジチオジプロピオン酸がより好ましい。
【0023】
[(C)成分:その他のジカルボン酸モノマー]
本発明にかかるポリエステル化合物は、前記(A)成分、(B)成分に、所望により、さらに(C)(B)成分以外のジカルボン酸モノマー及び/又は(D)ジオールモノマーを配合して重縮合してなるものであってもよい。
(C)(B)成分以外のジカルボン酸モノマーとしては、(B)成分以外のジカルボン酸モノマーであれば特に制限なく用いることができ、例えば、ジ酢酸,ジプロピオン酸,ジブタン酸,ジペンタン酸,ジヘキサン酸,ジヘプタン酸,ジオクタン酸,ジノナン酸,及びジデカン酸などの飽和ジカルボン酸;フマル酸,マレイン酸,イタコン酸,シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸;フタル酸などの芳香族ジカルボン酸などを挙げることができる。
ポリエステル化合物中の(C)成分の含有量は、1〜20モル%が好ましく、1〜10モル%が好ましい。
【0024】
[(D)成分:ジオールモノマー]
(D)ジオールモノマーとしては、特に制限なく用いることができるが、下記一般式(2)で表されるものが好ましく挙げられる。
【0025】
【化7】

【0026】
式中、R7は炭素数2〜18のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を表す。
このような(A)ジオールモノマーとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール,デカンジオールなどのアルカンジオール;エチレンジオール,プロピレンジオール,ブテンジオールなどのアルケンジオールが好ましく挙げられる。
ポリエステル化合物中の(D)成分の含有量は、1〜20モル%が好ましく、1〜10モル%が好ましい。
【0027】
[ポリエステル化合物]
本発明にかかるポリエステル化合物は、上記のような(A)ポリオキシアルカンジイルグリコール、及び(B)ジカルボン酸モノマー、さらに所望に応じて配合される(C)(B)成分以外のジカルボン酸モノマー及び/又は(D)ジオールモノマーが重縮合してなるものである。ここで、(A)成分中のヒドロキシル基モル量(以下、Aモル量という)は、(B)成分中のカルボキシ基モル量(以下、Bモル量という)よりも多い量で重縮合することを要する。また、さらに(C)成分及び(D)成分が配合される場合は、上記のAモル量は(A)成分及び(D)成分のヒドロキシル基の合計モル量とし、上記のBモル量は(B)成分及び(C)成分のカルボキシル基の合計モル量とする。
Aモル量は、Bモル量よりも多い量であれば特に制限はないが、後述するポリエステル化合物中の硫黄原子の重量分率が所定の範囲内となるように配合することが好ましい。このようなAモル量とBモル量との割合は、(B)成分に含まれる硫黄原子の量や、所望のポリエステル化合物の数平均分子量によって異なるので一概にはいえないが、通常Aモル量/Bモル量=1.01/1〜3/1程度であり、1.01/1〜2/1が好ましい。
ポリエステル化合物中の硫黄原子の質量分率は、操縦安定性向上の観点から、5%を超えることが好ましく、5%超〜45%がより好ましく、10〜30%がさらに好ましい。
【0028】
ポリエステル化合物の数平均分子量は、1000以上であることが好ましく、1000〜10000がより好ましく、1000〜7000がさらに好ましい。この範囲にあれば、貯蔵弾性率が向上するので、良好な操縦安定性が得られる。ここで、ポリエステル化合物の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した値である(ポリスチレン換算)。カラムにはG2000HXLとG1000HXL(いずれも東ソー株式会社製)とを直列につないで用いた。また、展開溶媒はテトラヒドロフラン(THF)とし、サンプル/溶媒=0.04g/10mlとした。
ポリエステル化合物の平均重合数は、0.8〜100が好ましく、貯蔵弾性率(操縦安定性)、及び転がり抵抗の観点から、5〜100がより好ましく、8〜100がさらに好ましい。ここで、ポリエステル化合物の平均重合数は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて得た数平均分子量Mnから、繰返し単位に該当しない末端部分の分子量を差引き、繰返し単位の単位分子量で除した値である。
【0029】
(A)ジオールモノマーと(B)ジカルボン酸モノマーとの重縮合の方法は、特に制限なく、ジオールモノマーとジカルボン酸モノマーとを直接エステル化させる方法、又はジオールモノマーとジカルボン酸のアルキルエステルとをエステル交換する方法などが挙げられる。当該重縮合は、温度60〜150℃で、水を除去して行うことが好ましく、シクロヘキサン,ベンゼン,トルエン及び/又はキシレンなどの溶媒を必要に応じて用いることができる。また、当該重縮合では、重縮合を促進させる目的で、上記のような方法に一般的に用いられる触媒、例えばp−トルエンスルホン酸,メタンスルホン酸など用いることが好ましい。
【0030】
このようにして得られるポリエステル化合物のなかでも、下記一般式(3)で表されるものを主成分とするものが好ましい。ポリエステル化合物中の、一般式(3)で表される化合物の含有量は、50〜99質量%が好ましく、70〜99質量%がより好ましく、80〜99質量%がさらに好ましい。
【0031】
【化8】

【0032】
式中、R4は炭素数2〜4のアルカンジイル基を、R5及びR6は炭素数2〜8のアルカンジイル基を表し、複数のR4、R5及びR6は同じでも異なっていてもよい。例えば、R4Oとしては、エチレンオキサイド単独でもよいし、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの組合せであってもよい。
yは硫黄原子数を示す2〜4の整数であり、2がより好ましい。nは平均重合数を示す2〜100の数であり、好ましい範囲は上記した平均重合数と同様である。また、mは前記と同様である。
【0033】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、(E)天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム、(F)充填剤、及び上記のゴム用添加剤を含むものである。
ゴム用添加剤は、(F)成分に対して0.5〜20質量%の割合で含まれることが好ましく、1〜15質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましい。ゴム用添加剤の含有量が上記の範囲内にあれば、該添加剤を配合した効果が十分に発揮され、配合量に見合った効果の向上がみられるので経済的に有利である。
【0034】
[ゴム組成物:(E)天然ゴム及び/またはジエン系合成ゴム]
ジエン系合成ゴムとしては、例えばポリイソプレン合成ゴム(IR),ポリブタジエンゴム(BR),スチレン−ブタジエンゴム(SBR),アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR),クロロプレンゴム(CR),ブチルゴム(IIR)などが挙げられる。この(E)成分の天然ゴムやジエン系合成ゴムは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
[ゴム組成物:(F)充填剤]
本発明のゴム組成物は、(F)充填剤を含有するものである。
(F)充填剤としては、通常カーボンブラックやシリカなどが挙げられ、これらを含むものが好ましい。カーボンブラックは、力学的性能を高め、加工性などを改善させるものである限り、I2吸着量、CTAB比表面積、N2吸着量、DBP吸着量などの範囲を適宜選択した公知のカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックの種類としては、例えば、SAF,ISAF−LS,HAF,HAF−HSなどの公知のものを適宜選択して使用することができる。耐摩耗性を考慮すると、微粒子径のISAFやSAFが好ましい。
また、シリカとしては、狭義の二酸化珪素のみを示すものではなく、ケイ酸系充填剤を意味し、具体的には、無水ケイ酸の他に、含水ケイ酸,ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩を含む。
【0036】
(F)充填剤は、一種でも複数を組み合わせて用いてもよいが、なかでも上記したカーボンブラックとシリカとを組み合わせて用いることが好ましい。
また、本発明の組成物における(F)充填剤の含有量は、前記(E)成分100質量部当たり、10〜140質量部の範囲が好ましい。この含有量を10〜140質量部とすることにより、補強性、及びその他のゴム物性に悪影響を与えることなく本発明の目的を達成することができる。この(F)成分の含有量は、10〜90質量部がより好ましい。また、(F)充填剤としてカーボンブラックとシリカとを組み合わせて用いる場合は、カーボンブラックとシリカの混合比[カーボンブラック]/[シリカ]は、質量比で0.04〜6.0が好ましく、0.1〜2.0がより好ましく、0.1〜1.0がさらに好ましい。
【0037】
[ゴム組成物:(G)シランカップリング剤]
本発明のゴム組成物においては、本発明の効果をさらに向上させる目的で、さらに(G)シランカップリング剤を含有させることが好ましい。(G)シランカップリング剤としては、従来公知のシランカップリング剤の中から任意のものを用いることができるが、なかでも一般式(4a):
【0038】
【化9】

【0039】
〔式中、Aは炭素数1〜3のアルコキシ基又は塩素原子、Bは炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基あるいは炭素数7〜15のアリーレン基、aは1〜3の整数、bは1以上の整数で分布を有することもある。ただし、aが1のときは2つのBは同じであっても異なっていてもよく、aが2又は3のときは2つ又は3つのAは同じであっても異なっていてもよい。〕
で表される化合物、一般式(4b):
【0040】
【化10】

【0041】
〔式中、A、B、X、aは前記と同様、Yはメルカプト基,ビニル基,アミノ基,グリシドキシ基又はエポキシ基〕
で表される化合物、一般式(4c):
【0042】
【化11】

【0043】
〔式中、A、B、X、a、bは前記と同様、Zはベンゾチアゾリル基,N,N−ジメチルチオカルバモイル基又はメタクリロイル基、炭素数1〜15の飽和又は不飽和の炭化水素基〕
で表される化合物、及び一般式(4d):
【0044】
【化12】

【0045】
〔式中、A、B、Xは前記と同様、X1は炭素数1〜20の飽和又は不飽和アルキル基、又は炭素数6〜15のアレーンジイル基である。DはA、B、又は−[O(XO)n0.5−基であり、nは1〜4の整数で分布を有することがあり、Xは前記と同様である。また、c、d、及びeは、0≦c≦3、0≦d≦2、0≦e≦1、かつc+d+2e=3の関係を満たす数である。〕
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0046】
一般式(4a)で表されるシランカップリング剤の例としては、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド,ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド,ビス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド,ビス(3−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド,ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド,ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド,ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィドなどが、一般式(4b)で表されるシランカップリング剤の例としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン,3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−アミノプロピルトリメトキシシラン,3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどが、一般式(4c)で表されるシランカップリング剤の例としては、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルカルバモイルテトラスルフィド,3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド,3−トリメトキシシリルプロピルメタクリロイルモノスルフィド,3−トリエトキシシリルプロピルn−オクチルジスルフィドなどが、また、一般式(4d)で表されるシランカップリング剤の例としては、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシランなどが、それぞれ挙げられる。
【0047】
このような(G)シランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ゴム組成物中の(G)成分の含有量は、(F)充填剤に対して1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。(G)成分の含有量が上記の範囲内にあれば、シランカップリング剤を配合した効果が十分に発揮され、配合量に見合った効果の向上がみられるので経済的に有利である。
【0048】
[ゴム組成物:無機化合物粉体]
本発明のゴム組成物には、必要に応じて無機化合物粉体を含有させることができる。ここで無機化合物粉体としては、下記一般式(5)で表される化合物が好ましく挙げられる。
【0049】
【化13】

【0050】
ここで、式中、M1は、アルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム、及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属、これらの金属の酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、またはこれらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であり、f、g、h及びiは、それぞれ1〜5の整数、0〜10の整数、2〜5の整数、及び0〜10の整数である。
なお、一般式(5)において、g、hがともに0である場合には、該無機化合物粉体はアルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムから選ばれる少なくとも1つの金属、金属酸化物又は金属水酸化物となる。
【0051】
上記一般式(5)で表わされる無機化合物粉体としては、M1がアルミニウム金属、アルミニウムの酸化物又は水酸化物、及びそれらの水和物、またはアルミニウムの炭酸塩から選ばれる少なくとも一つである場合が好ましい。
一般式(5)で表されるこれらの無機化合物粉体は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
また、本発明における無機化合物粉体は、その粒径が0.01〜10μmの粉体であることが好ましい。粒径が0.01μm未満ではグリップ力の向上が望めない割に混練作業が悪化し、10μmを超えると貯蔵弾性率が極端に低下し、耐磨耗性が悪くなるため好ましくない。また、これらの効果の観点から、粒径は0.05〜5μmの範囲がさらに好ましい。
【0052】
本発明の組成物において、この無機化合物粉体の含有量は、前記(E)成分100質量部当たり、10〜140質量部の範囲が好ましく、20〜90質量部がより好ましい。
【0053】
本発明のゴム組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、通常ゴム工業界で用いられる各種配合剤、例えば加硫剤,加硫促進剤,老化防止剤,スコーチ防止剤,軟化剤,亜鉛華,ステアリン酸などを含有させることができる。
【0054】
本発明におけるゴム用添加剤、(F)充填剤、(G)シランカップリング剤、及び各種配合剤のゴム組成物への添加方法は、特に限定されず、(E)天然ゴム及び/またはジエン系合成ゴムに通常の混練機、例えばバンバリーミキサー、ロール、インテンシブミキサーなどを用いて、添加混合することができる。
このようにして得られる本発明のゴム組成物は、タイヤの部材として用いることができ、部材としては特にトレッドやトレッドベースに好適に用いられる。空気入りタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて、上記のように各種薬品を含有させた本発明のゴム組成物が未加硫の段階で、例えばトレッド用部材に押出し加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが得られる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)動的粘弾性
各実施例及び比較例で得られたゴム組成物について、上島製作所(株)製スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用いて、周波数52Hz、初期歪率2%、動歪率1%で、60℃における貯蔵弾性率(E’)、及びtanδの値を測定し、比較例1,4〜7を100とした指数として第2表〜第6表に示した。貯蔵弾性率(E’)の指数が大きいほどゴム物性として良好であることを示し、tanδの指数が小さいほど低発熱性であることを示す。
(2)転がり抵抗
第2表〜第6表に示す配合処方のゴム組成物をトレッド部材として用い、一層構造のトレッドでタイヤサイズ225/45R17の空気入りタイヤを試作した。
試作したタイヤの空気圧を250kPaとし、3.92kNの荷重の作用下で、直径1700mmの回転ドラムを用いて80km/hの速度で回転させたときの転がり抵抗を、惰行法により測定し、比較例1,4〜7を100とした指数として第2表〜第6表に示した。転がり抵抗の指数が大きいほど、転がり抵抗は小さく良好であることを示す。
(3)乾燥路面における操縦安定性
第2表〜第6表に示す配合処方のゴム組成物をトレッド部材として用い、一層構造のトレッドでタイヤサイズ225/45R17の空気入りタイヤを試作した。
試作したタイヤの空気圧を250kPaとして、乗用車の4輪に装着し、このテスト車輌にてテストドライバーがテストコース走行を行った。テストドライバーによる各タイヤの操縦安定性および乗り心地についてのフィーリング結果につき、コントロールタイヤ(比較例1,4〜7)との対比にて、以下に示す評価基準に従い評点付けを行った結果を第2表〜第6表に示した。
+4:一般ドライバーが分かる程度に良いと感じる場合
+3:一般ドライバーのうち、熟練ドライバーが分かる程度に良いと感じる場合
+2:テストドライバーが明確に分かる程度に良いと感じる場合
+1:テストドライバーが微妙に分かる程度に良いと感じる場合
−1:テストドライバーが微妙に分かる程度に悪いと感じる場合
−2:テストドライバーが微妙に分かる程度に悪いと感じる場合
−3:一般ドライバーのうち、熟練ドライバーが分かる程度に悪いと感じる場合
−4:一般ドライバーが分かる程度に悪いと感じる場合
【0056】
製造例1:重縮合物の製造
1Lの4つ口フラスコにポリテトラメチレングリコール(数平均分子量:250,以下、PTMG250という。)285g(1.14モル)、及びジチオジプロピオン酸(以下、DTDPAという。)217.9g(1.04モル)を仕込み、得られた混合物の0.1質量%のp−トルエンスルホン酸を加えて、窒素気流下、140℃で12時間攪拌し、反応により生成した水を除去したところ、淡黄色の粘性油449gが得られた。当該粘性油の平均重合度は9.3であった。
【0057】
製造例2〜5
第1表に示す各成分を、第1表に示す配合割合で混合して、製造例1と同様にして重縮合を行い、重縮合物(ポリエステル化合物)を得た。
【0058】
実施例1〜8、比較例1〜7
第2表〜第6表に示す各成分を、第2表〜第6表に示す配合割合で混合して、ゴム組成物を調製した。調製にはバンバリーミキサー及びロールミキサーを用いた。加硫は温度165℃で行い、加硫時間はキュラストT90値(分)×1.5倍で規定した。得られたゴム組成物を用いて、一層構造のトレッドでタイヤサイズ225/45R17の空気入りタイヤを試作した。
これらのゴム組成物について、加硫ゴム物性の指標として、動的粘弾性測定試験の評価を行った。その結果を第2表〜第6表に示す。なお、動的粘弾性測定試験においては、比較例1,4〜7を基準として指数表示した。また、得られたタイヤについて、タイヤ性能の指標として、転がり抵抗、及び操縦安定性の評価を行った。その結果を第2表〜第6表に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
*1,PTMG250:ポリテトラメチレングリコール(シグマアルドリッチ社製、数平均分子量250)
*2,DTDPA:ジチオジプロピオン酸(東京化成工業株式会社製)
【0061】
【表2】

【0062】
*1,「SBR#1712(商品名)」:ジェイエスアール(株)製、SBR#1712の137.5質量部中、37.5質量部が油展である。
*2,「シースト300(商品名)」:東海カーボン(株)製
*3,「ニップシールVN3(商品名)」:東ソーシリカ(株)製
*4,ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
*5,トリメリット酸モノ(ω−アクリロイルオキシPOE(10))エステル、POE(10)は、オキシエチレンが10モル付加したポリオキシエチレンを示す。
*6,N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド
*7,ジフェニルグアニン
*8,N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−フェニレンジアミン
【0063】
【表3】

【0064】
*9,「シースト7HM(商品名)」:東海カーボン株式会社製
*10,「ニップシールAQ(商品名)」:東ソーシリカ株式会社製
*11,「Si75(商品名)」:degussa社製
*12,「サンセラーDM(商標)」:三新化学工業株式会社製
*13,「サンセラーNS(商標)」:三新化学工業株式会社製
*14,「ノクセラーD(商標)」:大内新興化学工業株式会社製
*15,「ノクラック6C(商標)」:大内新興化学工業株式会社製
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
*16,「SBR#1500(商品名)」:ジェイエスアール株式会社製
*17,「シーストKH(商品名)」:東海カーボン株式会社製
*18,「ニップシールKQ(商品名)」:東ソーシリカ株式会社製
*19,「NTXシラン(商標)」:モメンティブパフォーマンスマテリアルズ製
【0068】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のゴム用添加剤は、タイヤに乾燥路面での良好な操縦安定性、かつ優れた転がり抵抗を付与しうるものである。当該ゴム用添加剤を用いたゴム組成物は、タイヤのトレッドやトレッドベースの部材としての用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1a):
【化1】

〔式中、R1は炭素数2〜4のアルカンジイル基を表し、複数のR1は同じでも異なっていてもよい。mは平均付加モル数を示す2〜31の数を表す。〕
で表されるポリオキシアルカンジイルグリコール、及び(B)下記一般式(1b):
【化2】

〔式中、R2及びR3は炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を表し、xは硫黄原子数を示す2〜8の整数である。〕
で表されるスルフィド基を含有するジカルボン酸モノマーが、(A)成分のヒドロキシル基モル量が、(B)成分のカルボキシ基モル量よりも多い量で重縮合してなるポリエステル化合物を主成分とするゴム用添加剤。
【請求項2】
ポリエステル化合物が、前記(A)成分、(B)成分に、さらに(C)(B)成分以外のジカルボン酸モノマー及び/又は(D)ジオールモノマーを、(A)成分及び(D)成分のヒドロキシ基の合計モル量が、(B)成分及び(C)成分のカルボキシ基の合計モル量よりも多い量で配合して重縮合してなるものである請求項1に記載のゴム用添加剤。
【請求項3】
一般式(1b)において、xが2である請求項1又は2に記載のゴム用添加剤。
【請求項4】
ポリエステル化合物の数平均分子量が、1000以上である請求項1〜3のいずれかに記載のゴム用添加剤。
【請求項5】
ポリエステル化合物が、下記一般式(3):
【化3】

〔式中、R4は炭素数2〜4のアルカンジイル基を、R5及びR6は炭素数2〜8のアルカンジイル基を表し、複数のR4、R5及びR6は同じでも異なっていてもよい。yは硫黄原子数を示す2〜4の整数であり、nは平均重合数を示す0.8〜100の数である。また、mは前記と同様である。〕
で表されるものを主成分として含む請求項1〜4のいずれかに記載のゴム用添加剤。
【請求項6】
(E)天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム、(F)充填剤、及び請求項1〜5のいずれかに記載のゴム用添加剤を含むゴム組成物。
【請求項7】
ゴム用添加剤を(F)成分に対して0.5〜20質量%の割合で含む請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
(E)成分100質量部当たり、(F)成分10〜140質量部を含む請求項6又は7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
(F)充填剤が、シリカを含む請求項6〜8のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項10】
さらに、(G)シランカップリング剤をシリカに対して1〜20質量%の割合で含む請求項9のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項11】
(G)シランカップリング剤が、下記化学式(4a):
【化4】

〔式中、Aは炭素数1〜3のアルコキシ基又は塩素原子、Bは炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜9のアルカンジイル基又はアルケンジイル基あるいは炭素数7〜15のアリーレン基、aは1〜3の整数、bは1以上の整数で分布を有することもある。ただし、aが1のときは2つのBは同じであっても異なっていてもよく、aが2又は3のときは2つ又は3つのAは同じであっても異なっていてもよい。〕
で表される化合物、一般式(4b):
【化5】

〔式中、A、B、X、aは前記と同様、Yはメルカプト基,ビニル基,アミノ基,グリシドキシ基又はエポキシ基〕
で表される化合物、一般式(4c):
【化6】

〔式中、A、B、X、a、bは前記と同様、Zはベンゾチアゾリル基,N,N−ジメチルチオカルバモイル基又はメタクリロイル基、炭素数1〜15の飽和又は不飽和の炭化水素基〕
で表される化合物、及び一般式(4d):
【化7】

〔式中、A、B、Xは前記と同様、X1は炭素数1〜20の飽和又は不飽和アルキル基、又は炭素数6〜15のアレーンジイル基である。DはA、B、又は−[O(XO)n0.5−基であり、nは1〜4の整数で分布を有することがあり、Xは前記と同様である。また、c、d、及びeは、0≦c≦3、0≦d≦2、0≦e≦1、かつc+d+2e=3の関係を満たす数である。〕
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項10に記載のゴム組成物。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれかに記載のゴム組成物を部材として用いたタイヤ。
【請求項13】
部材が、トレッド及び/又はトレッドベースである請求項12に記載のタイヤ。

【公開番号】特開2009−91410(P2009−91410A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261281(P2007−261281)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】