説明

ゴム組成物およびその製造方法、ならびに該ゴム組成物を用いた空気入りタイヤ

【課題】 ゴム製品を分解処理した後に再利用したゴムを含有し、かつ破壊強度や耐摩耗性に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。さらに、該ゴム組成物を用いることによって、ゴム製品のマテリアルリサイクルを実現しつつ耐摩耗性とグリップ性能とのバランスに優れたタイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】 天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを主成分とするゴム成分100質量部に対し、リグニン分解力を有する酸化酵素を用いて加硫ゴムを分解することによって得られる酵素分解ゴムを5〜150質量部の範囲内で配合したゴム組成物およびこれを用いた空気入りタイヤに関する。該酸化酵素は、加硫ゴム中の不飽和脂肪酸の過酸化反応により該加硫ゴムを酵素分解する酸化酵素であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化酵素によって分解処理された酵素分解ゴムを含有するゴム組成物およびその製造方法、ならびにこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤに高グリップ性能を付与する目的で種々のゴム組成物が検討されており、ガラス転移温度(Tg)の高いスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を使用する方法、プロセスオイルを高軟化点樹脂に等量置換する方法、軟化剤またはカーボンブラックを高充填する方法、粒子径の小さいカーボンブラックを使用する方法等が知られている。しかし、ガラス転移温度(Tg)の高いスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を使用した場合、タイヤ性能の温度依存性が高くなるため、温度変化によってタイヤ性能が大きく左右されてしまうという問題がある。また、プロセスオイルを高軟化点樹脂に等量置換する方法においては、置換量が多量である場合、高軟化点樹脂の影響によりタイヤ性能の温度依存性が高くなるという問題がある。さらに、軟化剤またはカーボンブラックを高充填した場合、または粒子径の小さいカーボンブラックを用いた場合には、軟化剤またはカーボンブラックの分散性が悪化し、破壊強度や耐摩耗性が低下するという問題がある。
【0003】
上記の問題点を解決し、耐摩耗性とグリップ性能とを両立させるための方法としては、たとえば低分子SBRを使用する方法が検討されている。しかし、この方法においては、SBRの有する架橋性の二重結合により、一部の二重結合部分はマトリクスのゴムと架橋してしまい、十分なヒステリシスロスや破壊強度が得られないという問題がある。一方、近年の環境問題という観点から、タイヤゴム片またはゴム粉末をそのまま再利用するマテリアルリサイクルが検討され、たとえば、二軸押出機等で大きな剪断力を加えて粉砕脱硫する方法や、微生物によってゴムを分解する方法等が検討されている。物理的な処理方法は大きなエネルギーを必要とする問題があるため、より少ないエネルギーでマテリアルリサイクルを行なう方法として、微生物による各種ゴムの分解処理方法は種々検討されており、たとえば、ノカルディア属に属する微生物を用い、軟質ゴム製品の存在下で硬質ゴム製品を処理する硬質ゴム製品の分解方法や、ノカルディア属に属する微生物を用い、軟質ゴムの不存在下で硬質ゴムを処理することを特徴とする硬質ゴムの分解処理方法が検討されている。しかし上記の方法はいずれも天然ゴムを多く含む硬質ゴム製品に限定された分解処理方法であり、合成ゴムを多く含有するタイヤ等の加硫ゴム製品のマテリアルリサイクルには適用し難しいという問題がある。
【0004】
すなわち、従来の方法では、タイヤのゴムを分解して再利用する場合、十分な破壊強度や耐摩耗性が得られない等、タイヤに要求される性能を十分に満足することが難しいという問題があった。
【0005】
特許文献1には、加硫ゴムと、木材腐朽菌に属し、該加硫ゴム組成物に含まれる加硫ゴムのスルフィド結合を切断することができる微生物と、該微生物の培養に適した培地と、を共にインキュベーションするステップを備える加硫ゴム組成物の分解処理方法が提案されている。スルフィド結合を切断することができる微生物としては担子菌類に含まれるものが提案されている。特許文献1においては分解処理後のゴムがマテリアルリサイクルの原料として用いられ得ることが示唆されているが、具体的なリサイクルの詳細な態様については提案されていない。
【特許文献1】特開2004−99738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の課題を解決し、ゴム製品を分解処理した後に再利用したゴムを含有し、かつ破壊強度や耐摩耗性に優れるゴム組成物を提供することを目的とする。さらに、該ゴム組成物を用いることによって、ゴム製品のマテリアルリサイクルを実現しつつ耐摩耗性とグリップ性能とのバランスに優れたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを主成分とするゴム成分100質量部に対し、リグニン分解力を有する酸化酵素を用いて加硫ゴムを分解することにより得られた酵素分解ゴムを5〜150質量部の範囲内で配合してなるゴム組成物に関する。
【0008】
該酸化酵素は、該加硫ゴム中の不飽和脂肪酸の過酸化反応により該加硫ゴムを酵素分解する酸化酵素であることが好ましい。
【0009】
また、該酸化酵素が、ペルオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、ラッカーゼから選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0010】
本発明においては、該酸化酵素がリグニン分解酵素であることも好ましい。
該リグニン分解酵素は、木材腐朽菌由来のリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、バーサタイルペルオキシダーゼから選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0011】
本発明において配合される酵素分解ゴムの重量平均分子量は、2,000〜80,000の範囲内であることが好ましい。
【0012】
また、該酵素分解ゴムの分子量分布Mw/Mnが1.0〜5.0の範囲内であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを主成分とするゴム成分100質量部に対し、リグニン分解力を有する酸化酵素を用いて加硫ゴムを分解することにより得られる酵素分解ゴムを5〜150質量部の範囲内で配合してなるゴム組成物の製造方法であって、該加硫ゴムを最大粒径が1mm以下となるように粉砕する工程と、粉砕された該加硫ゴムを該酸化酵素によって分解処理し、酵素分解ゴムを得る工程と、該酵素分解ゴムが他のゴム成分とともに混合されたゴム組成物を生成させる工程と、を含むゴム組成物の製造方法に関する。
【0014】
本発明に係るゴム組成物の製造方法における酵素分解によって得られる酵素分解ゴムの重量平均分子量は、2,000〜80,000の範囲内であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るゴム組成物の製造方法の該分解処理における反応時間は、10時間〜30日間の範囲内に設定されることが好ましい。
【0016】
本発明はさらに、上記のゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、再生ゴムを含有しつつ破壊強度および耐摩耗性に優れるゴム組成物を得ることが可能である。また該ゴム組成物を用いることによってグリップ性能および耐摩耗性に優れるタイヤの提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のゴム組成物は、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを主成分とするゴム成分100質量部に対し、リグニン分解力を有する酸化酵素を用いて加硫ゴムを分解することにより得られる酵素分解ゴムを5〜150質量部の範囲内で配合することを特徴とする。
【0019】
ゴム成分は、天然ゴムおよびジエン系ゴムの中から選択される少なくとも1種を主成分とするものであれば良く、ジエン系ゴムとしては、たとえばポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。
【0020】
なお、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)とは、エチレン−プロピレンゴム(EPM)に第三ジエン成分を含むものである。ここで第三ジエン成分としては、たとえば炭素数5〜20の非共役ジエンが挙げられ、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエンおよび1,4−オクタジエンや、1,4−シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエンなどの環状ジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネンおよび2−イソプロペニル−5−ノルボルネンなどのアルケニルノルボルネン等が好ましく例示できる。
【0021】
本発明において酸化酵素により分解される加硫ゴムは特に限定されず、天然ゴムおよび合成ゴムの中から選択される少なくとも1種を含むものであれば良い。合成ゴムとしてはジエン系ゴムが好ましく、たとえばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、等が挙げられる。
【0022】
酸化酵素により分解される加硫ゴムには、ゴム工業において通常使用されるカーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、シランカップリング剤、軟化剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、硫黄、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、過酸化物、酸化亜鉛、ステアリン酸等の配合剤が含まれていても良い。
【0023】
本発明に用いられる加硫ゴムには、廃タイヤ、チューブ等に限らず、タイヤ等の製造時に発生する未加硫スクラップ物やタイヤ等の加硫時に発生するスピュー片等が含まれ得る。
【0024】
本発明において酸化酵素により分解される加硫ゴムの形状は、該加硫ゴムの由来であるゴム製品の性状に応じて種々挙げられるが、分解処理速度に優れるという点で、酸化酵素による分解処理の前にゴム粉末とする方法が好ましく採用される。また、該ゴム粉末の最大粒径が1mm以下、さらに0.5mm以下である場合分解処理速度が特に優れる点で好ましい。なおゴム粉末の最大粒径はメッシュ等を用いる方法により評価することができる。
【0025】
具体的には、加硫ゴムを1mm以下の粒径まで粉砕する工程と、粉砕された加硫ゴムを酸化酵素によって分解処理し、酵素分解ゴムを得る工程と、該酵素分解ゴムが、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムからなる該ゴム成分とともに混合されたゴム組成物を生成させる工程と、を含む方法によって本発明のゴム組成物が製造されることが好ましい。加硫ゴムの好ましい粉砕方法としては、たとえばミキサーやロール、二軸押出機を用いる機械的粉砕法や冷凍粉砕法等が挙げられる。なお加硫ゴムの最大粒径はメッシュ法等により評価できる。
【0026】
本発明において用いられる酸化酵素は、木質成分の1つであるリグニンの分解力を有するものであり、微生物から単離したものや人工酵素等を使用でき、市販の酵素も好ましく用いられる。リグニン分解力を有する酸化酵素としては、たとえば、ペルオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、ラッカーゼ等が挙げられる。またリグニン分解力を有する植物由来の酸化酵素としては、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ、大豆由来リポキシゲナーゼ、ジャガイモ由来リポキシゲナーゼ等が挙げられる。
【0027】
本発明において使用されるリグニン分解力を有する酸化酵素としては、加硫ゴム中の不飽和脂肪酸の過酸化反応により該加硫ゴムを酵素分解する酸化酵素が好ましく挙げられる。このような酸化酵素は加硫ゴム中のスルフィド結合が切断する作用を有し、該加硫ゴムの脱硫化を良好に進行させることができるため、加硫ゴム中の不飽和脂肪酸の過酸化反応により該加硫ゴムを酵素分解する酸化酵素を用いた場合、再生ゴムが配合され、かつ良好な破壊強度および耐摩耗性を有するゴム組成物を得ることが可能となる。
【0028】
また、本発明における酸化酵素としては特にリグニン分解酵素が好ましく用いられる。リグニン分解酵素としては、細菌、糸状菌、担子菌等が主に知られており、これらのいずれも本発明において使用できるが、担子菌(木材腐朽菌)由来のリグニン分解酵素が分解速度や作業性の面で特に好ましい。木材腐朽菌には褐色腐朽菌および白色腐朽菌があり、これらのいずれも本発明において使用できるが、加硫ゴム中の硫黄鎖切断能力および酸化能力の面で白色腐朽菌由来のリグニン分解酵素が好ましく用いられる。具体的には、木材腐朽菌由来のリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼから選択される1種以上を含むことが好ましく、これらを単独で用いても2種以上の組み合わせで用いても良い。
【0029】
酸化酵素はその種類によって分解機構が異なる。よって本発明で使用される酸化酵素の種類は分解処理の対象である加硫ゴムに含まれるゴム成分や使用目的に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されない。たとえばゴム内部まで分解を進行させることが必要な場合にはラジカル連鎖反応を起こすことが可能なマンガンペルオキシダーゼ、加硫ゴムの表面積を増加させるために凹凸化処理を施すことを目的とする場合にはリグニンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等が好適に使用できる。これらの酸化酵素は単独で用いても良いが、たとえば複数の酸化酵素を用い、複数段階で分解処理を行なっても構わない。
【0030】
上記のように、加硫ゴムを分解処理して得られる再生ゴムを含有させた本発明のゴム組成物においては、使用する酸化酵素の選択により加硫ゴムの分解の程度や表面形状等が任意に制御できるため、ヴァージンゴムのみからなるゴム組成物と比べても破壊特性や耐摩耗性の著しい低下を生じさせないという効果を有する。
【0031】
酸化酵素を用いて加硫ゴムを分解する方法は特に限定されず、通常の酵素反応条件を利用して行なうことができる。たとえば、反応容器に白色腐朽菌であるPhanerochaete chrysosporium(ファネロキーテ・クリソスポリウム)由来のマンガンペルオキシダーゼと、電子受容体として過酸化水素水と加硫ゴムとを加え、酸素下で振とうまたは撹拌することにより、酵素分解ゴムを得ることができる。
【0032】
酸化酵素の添加量は、酸素活性によって適宜設定されることができるが、通常分解処理前の加硫ゴム100質量部に対して0.0001〜20質量部、より好ましくは0.001〜10質量部、さらに好ましくは0.01〜10質量部とされることができる。酸化酵素の添加量が0.0001質量部以上であれば加硫ゴムを十分分解でき、20質量部以下であれば酵素活性の低下を防止して十分な効果が得られるとともにコストの上昇を防止できる。
【0033】
本発明において、酵素活性は0.1U/ml〜50U/ml、特に1U/ml〜25U/mlの範囲内とされることが好ましい。ここで1U(Unit)は、酵素の最適条件下で、30℃において、1分間当たり1μmolの基質を変換させる酵素量として定義される。すなわち、酵素活性の単位U/mlは、1分間に1mlの酵素がどれだけの基質を変換できるかを表わすものであり、たとえば0.1U/mlは、酵素1mlが1分間に0.1μmolの基質を変換し得ることを意味する。酵素活性が0.1U/ml以上であれば効率的に酵素分解反応を進行させることができ、また50U/ml以下であれば分解により生成する酵素分解ゴムの物性が不安定になることを防止できる。
【0034】
本発明における酵素分解反応の温度は、所望の程度の反応速度が確保でき、かつ使用する酵素が失活しない範囲で適宜温度設定すれば良く、たとえば20℃〜40℃、特に25℃〜37℃とされることが好ましい。
【0035】
酵素分解反応の時間は、酵素分解ゴムが再生ゴムとして用いられる際に所望される特性に応じて適宜選択すれば良いが、たとえば2時間〜30日間とされることができ、さらに5時間〜20日間とされることが好ましい。また、酸化酵素としてリグニン分解酵素が用いられる場合には、たとえば10時間〜30日間、特に1日間〜20日間とされることが好ましい。2時間以上、さらにリグニン分解酵素を用いる場合には10時間以上の反応時間であれば、安定した反応により酵素分解ゴムに均一な物性を付与できる。一方反応時間が30日間以下であれば比較的低いコストで酵素分解ゴムを生成することができる。
【0036】
本発明で使用される酵素分解ゴムの重量平均分子量は、2,000〜80,000の範囲内とされることが好ましく、さらに2,000〜60,000の範囲内、さらに2,000〜50,000の範囲内とされることが好ましい。重量平均分子量が2,000以上であれば十分な耐摩耗性を有するゴム組成物が得られ、80,000以下であれば該ゴム組成物をタイヤに用いた場合のグリップ性能が良好となる。また、特に本発明における酸化酵素としてリグニン分解酵素を用いる場合、酵素分解ゴムの重量平均分子量は3,000以上とされることができ、また50,000以下、さらに40,000以下とされることができる。
【0037】
また、酵素分解ゴムの分子量分布Mw/Mnが1.0〜5.0の範囲内であることが好ましい。Mw/Mnが5.0以下であれば、酵素分解ゴムは比較的均一な分子量を有するため、ゴム組成物の破壊強度および耐摩耗性を安定して良好なレベルに維持することができ、グリップ性能および耐摩耗性のバランスが良好なタイヤを安定して製造することができる。Mw/Mnはさらに4.5以下、さらに4.0以下であることが好ましい。
【0038】
なお重量平均分子量および分子量分布は、たとえばGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によるポリスチレン換算平均分子量等から求めることができる。
【0039】
本発明において配合される酵素分解ゴムとしては、ソックスレー抽出法によって得られるクロロホルム抽出量が1〜80wt%の範囲内であるものも好ましく用いられる。クロロホルム抽出量が1wt%以上である場合、酸化酵素によって加硫ゴムのスルフィド結合が切断され、脱硫化が良好に進行していることとなり、このような酵素分解ゴムを配合したゴム組成物の破壊強度や耐摩耗性を安定かつ良好に維持することができる。またクロロホルム抽出量が80wt%以下である場合、酵素分解ゴムの物性が所望の程度確保されるため、酵素分解ゴムが配合されたゴム組成物の物性を著しく悪化させる危険性が少ない。上記のクロロホルム抽出量は、5wt%以上、特に10wt%以上とされることがより好ましく、また75wt%以下、特に70wt%以下とされることがより好ましい。
【0040】
本発明のゴム組成物においては、天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを主成分とするゴム成分100質量部に対する酵素分解ゴムの配合量は、5〜150質量部の範囲内とされる。酵素分解ゴムの配合量が5質量部以上であれば、該ゴム組成物がタイヤに用いられた場合のグリップ性能が十分得られ、150質量部以下であればゴム組成物の耐摩耗性が低下する危険性が少ない。該配合量は、さらに8〜120質量部の範囲内、さらに10〜100質量部の範囲内とされることが好ましい。本発明における酸化酵素としてリグニン分解酵素が用いられる場合、酵素分解ゴムの配合量は、好ましくは8質量部以上、さらに10質量部以上とされ、また、好ましくは120質量部以下、さらに100質量部以下とされることができる。
【0041】
本発明のゴム組成物においては、たとえばカーボンブラックやシリカ等の、通常タイヤ用ゴム組成物に対して使用される補強用充填剤が配合されることが好ましい。たとえばカーボンブラックが配合される場合、該カーボンブラックの窒素吸着比表面積は80〜280m2/gの範囲内、さらに100〜200m2/gの範囲内に設定されることが好ましい。窒素吸着比表面積が80m2/g以上であれば該ゴム組成物がタイヤに使用された場合に十分なグリップ性能および耐磨耗性が得られ、280m2/g以下であればゴム組成物を調製する際のカーボンブラックの分散性悪化によるゴム組成物の耐摩耗性の低下が防止される。
【0042】
本発明のゴム組成物においてカーボンブラックが配合される場合、カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対して10〜150質量部、さらに15〜120質量部とされることが好ましい。カーボンブラックの配合量が10質量部以上であれば十分な耐摩耗性が得られ、150質量部以下であればゴム組成物の調製時の分散性および作業性を悪化させる危険性が少ない。
【0043】
本発明のタイヤ用ゴム組成物にはゴム成分100質量部に対してシリカをたとえば5質量部以上100質量部以下で配合することができる。シリカとしては汎用ゴム一般に用いられるものを使用でき、たとえば補強剤として使用される乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ等が挙げられる。中でも含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。シリカの配合量が5質量部以上であればタイヤ用ゴム組成物の補強効果による耐摩耗性の向上効果が良好に得られ、100質量部以下であれば、タイヤ用ゴム組成物の製造時における未加硫ゴム組成物の粘度上昇による加工性の低下やコストの過度な上昇を防止できる。
【0044】
本発明のタイヤ用ゴム組成物にシリカを配合する場合には、シランカップリング剤、好ましくは含硫黄シランカップリング剤を0.1質量部以上10質量部以下、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下で配合することが好ましい。シランカップリング剤の配合によって耐摩耗性および操縦安定性は一層向上するが、シランカップリング剤の配合量が0.1質量部以上の場合、耐摩耗性および操縦安定性の向上効果が良好に得られる。また10質量部以下の場合、ゴムの混練、押出工程での焼け(スコーチ)が生じる危険性が少ない。含硫黄シランカップリング剤としては、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が例示される。
【0045】
本発明では用途に応じてその他のカップリング剤、例えばアルミネート系カップリング剤、チタン系カップリング剤を使用あるいはシラン系カップリング剤と併用させることも可能である。
【0046】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、さらに、クレー、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン等の無機充填剤を単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0047】
本発明のゴム組成物において軟化剤が配合されることもまた好ましい。該軟化剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して100質量部以下とされることが好ましく、この場合、該ゴム組成物がタイヤに使用された際のグリップ性能、操縦安定性を低下させる危険性が少ない。軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、などが挙げられる。
【0048】
本発明のゴム組成物には、さらにゴム工業界で通常使用される酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、硫黄、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、過酸化物、酸化亜鉛、ステアリン酸等の配合剤を含有させることができる。
【0049】
加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物としては、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3あるいは1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン等を使用することができる。また、硫黄系加硫剤としては、たとえば、硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
【0050】
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤のうち少なくとも一つを含有するものを使用することが可能である。
【0051】
スルフェンアミド系としては、たとえばCBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系化合物などが挙げられる。
【0052】
チアゾール系としては、たとえばMBT(2−メルカプトベンゾチアゾール)、MBTS(ジベンゾチアジルジスルフィド)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、亜鉛塩、銅塩、シクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2−(2,6−ジエチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0053】
チウラム系としては、たとえばTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられる。
【0054】
チオウレア系としては、たとえばチアカルバミド、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジオルトトリルチオ尿素などのチオ尿素化合物などが挙げられる。
【0055】
グアニジン系としては、たとえばジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、オルトトリルビグアニド、ジフェニルグアニジンフタレートなどのグアニジン系化合物が挙げられる。
【0056】
ジチオカルバミン酸系としては、たとえばエチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジアミルジチオカルバミン酸亜鉛、ジプロピルジチオカルバミン酸亜鉛、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛とピペリジンの錯塩、ヘキサデシル(またはオクタデシル)イソプロピルジチオカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。
【0057】
アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系としては、たとえばアセトアルデヒド−アニリン反応物、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物、ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒド−アンモニア反応物などが挙げられる。
【0058】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックスなどを適宜選択して使用することが可能である。
【0059】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物には必要に応じて可塑剤を配合することができる。具体的には、DMP(フタル酸ジメチル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DHP(フタル酸ジヘプチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DLP(フタル酸ジラウリル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、無水ヒドロフタル酸エステル、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、等が挙げられる。
【0060】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、スコーチを防止または遅延させるためスコーチ防止剤として、たとえば無水フタル酸、サリチル酸、安息香酸などの有機酸、N−ニトロソジフェニルアミンなどのニトロソ化合物、N−シクロヘキシルチオフタルイミド等を使用することができる。
【0061】
本発明のゴム組成物を用いてタイヤを製造する方法は特に限定されず、たとえば、本発明のゴム組成物を未加硫の段階で適用されるタイヤの部材の形状に合わせて押出加工し、タイヤ成型機によって加圧してタイヤを得る方法等、通常用いられる方法を採用することができる。
【0062】
本発明のゴム組成物は、バス用、トラック用、乗用車用等として使用される空気入りタイヤの、トレッド部、サイドウォール、カーカスプライやベルトプライ等に対して使用でき、特にトレッド部に対して好ましく適用される。
【0063】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(1)加硫ゴムの分解処理
(酵素分解ゴム1)
2Lの耐圧ガラス容器に、再生ゴム粉末(村岡ゴム工業(株)製の再生ゴム(30メッシュ:最大粒径0.5mm))50gを入れ、これに、0.1M酒石酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を125ml、脱イオン水375ml、1%Tween20水溶液62.5ml、10mM硫酸マンガン水溶液125ml、2mM過酸化水素水250ml、600mMリノール酸アセトン溶液187.5mlを順次加えた。さらにマンガンペルオキシダーゼを5Uになるように加えた。次いで、反応系内を酸素で置換し、撹拌しながら35℃で1週間反応させた。反応終了後、分解処理後ゴムをろ別し、脱イオン水、メタノールおよびアセトンで洗浄した後、40℃で真空乾燥させて酵素分解ゴム1を得た。
【0065】
(酵素分解ゴム2)
2Lの耐圧ガラス容器に再生ゴム粉末(村岡ゴム工業(株)製の再生ゴム(30メッシュ:最大粒径0.5mm))50gを入れ、これに、リン酸緩衝液(pH6.0)を50ml、脱イオン水130ml、1%Tween20水溶液25ml、600mMリノール酸アセトン溶液75ml、2mM過酸化水素水100mlを順次加えた。さらに西洋わさび由来ペルオキシダーゼを5Uになるように加えた。次いで、反応系内を酸素で置換し、撹拌しながら35℃で1週間反応させた。反応終了後、分解処理後ゴムをろ別し、脱イオン水、メタノールおよびアセトンで洗浄した後、40℃で真空乾燥させて酵素分解ゴム2を得た。
【0066】
(酵素分解ゴム3)
西洋わさび由来ペルオキシダーゼを2Uにした他は酵素分解ゴム2と同様に加硫ゴムを分解処理し、酵素分解ゴム3を得た。
【0067】
(酵素分解ゴム4)
2Lの耐圧ガラス容器に、再生ゴム粉末(村岡ゴム工業(株)製の再生ゴム(30メッシュ:最大粒径0.5mm))50gを入れ、これに0.1Mリン酸緩衝液(pH6.0)125ml、脱イオン水325ml、1%Tween20水溶液62.5ml、600mMリノール酸187.5ml、2mM過酸化水素水250mlを順次加え、さらにマンガンペルオキシダーゼを2Uになるように加えた。さらに、ペルオキシダーゼを10Uになるように加えた。次いで、反応系内を酸素で置換し、撹拌しながら35℃で4日間反応させた。反応終了後、分解処理後ゴムをろ別し、脱イオン水およびアセトンで数回洗浄した後、40℃で真空乾燥させて酵素分解ゴム4を得た。
【0068】
(酵素分解ゴム5)
2Lの耐圧ガラス容器に、再生ゴム粉末(村岡ゴム工業(株)製の再生ゴム(30メッシュ:最大粒径0.5mm))50gを入れ、0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.18)を125ml、脱イオン水575ml、1%Tween20水溶液62.5ml、600mMリノール酸187.5mlを順次加えた。さらに、リポキシゲナーゼを10Uとなるように加えた。次いで、反応系内を酸素で置換し、撹拌しながら35℃で4日間反応させた。反応終了後、分解処理後ゴムをろ別し、脱イオン水およびアセトンで数回洗浄した後、40℃で真空乾燥させて酵素分解ゴム5を得た。
【0069】
(酵素分解ゴム6)
2Lの耐圧ガラス容器に、再生ゴム粉末(村岡ゴム工業(株)製の再生ゴム(30メッシュ:最大粒径0.5mm))50gを入れ、0.1M酒石酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を125ml、脱イオン水575ml、1%Tween20水溶液62.5ml、600mMリノール酸187.5ml、10mM1−ヒドロキシ−1−ベンゾチアゾール50mlを順次加えた。さらに、ラッカーゼを10Uになるように加えた。次いで、反応系内を酸素で置換し、撹拌しながら35℃で4日間反応させた。反応終了後、分解処理後ゴムをろ別し、脱イオン水およびアセトンで数回洗浄した後、40℃で真空乾燥させて酵素分解ゴム6を得た。
【0070】
(分解処理ゴム1)
マンガンペルオキシダーゼを加えない他は酵素分解ゴム1と同様に加硫ゴムを分解処理し、分解処理ゴム1を得た。
【0071】
(分解処理ゴム2)
マンガンペルオキシダーゼおよびペルオキシダーゼを加えない他は酵素分解ゴム4と同様に加硫ゴムを分解処理し、分解処理ゴム2を得た。
【0072】
(分解処理ゴム3)
リポキシゲナーゼを加えない他は酵素分解ゴム5と同様に加硫ゴムを分解処理し、分解処理ゴム3を得た。
【0073】
(分解処理ゴム4)
ラッカーゼを加えない他は酵素分解ゴム6と同様に加硫ゴムを分解処理し、分解処理ゴム4を得た。
【0074】
(2)低分子量SBRの調製
十分に窒素置換した、撹拌翼付の2Lオートクレーブに、シクロヘキサン1000g、テトラヒドロフラン(THF)20g、1,3−ブタジエン150gおよびスチレン50gを導入し、オートクレーブ内の温度を25℃に調整した。次に、n−ブチルリチウム2.0gを加えて昇温条件下で15分間重合し、低分子量SBRを得た。モノマーの転化率が99%であることを確認した。その後、老化防止剤として、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを1.5g加えた。
【0075】
(3)クロロホルム抽出量
ソックスレー抽出法で、酵素分解ゴム4〜6、分解処理ゴム2〜4、および再生ゴム粉末のクロロホルム抽出量を求めた。結果を表1に示す。
【0076】
(4)分子量測定
酵素分解ゴム1〜6、および低分子量SBRの重量平均分子量および分子量分布を測定した。測定には東ソー(株)製GPC−8000シリーズの装置を用い、検知器は示差屈折計を用い、ポリスチレン換算の平均分子量として求めた。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
(5)マンガンペルオキシダーゼ酵素活性測定
吸光度測定用のブラックセルに、4mM2,6−ジメトキシフェノール(2,6−DMP)水溶液50μl、0.1M酒石酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)250μl、5mM硫酸マンガン水溶液100μl、1mM過酸化水素水100μl、脱イオン水490μlを順次加えた。さらにマンガンペルオキシダーゼ(Phanerochaete chrysosporium由来)10μlを加え、素早く撹拌した後、波長470nmにおける吸光度を測定した。
【0079】
対照として、Mn非存在下での吸光度を測定した。ブラックセルに4mM2,6−DMP水溶液50μl、0.1M酒石酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)250μl、脱イオン水100μl、1mM過酸化水素水100μl、脱イオン水490μlを順次加え、素早く撹拌した後、波長470nmにおける吸光度を測定した。
【0080】
得られた吸光度から、以下の式に従い、マンガンペルオキシダーゼの活性量を算出し、必要量を決定した。
1Unit=1分間に1μmolの基質を反応させるのに必要な酵素量
1Unit/ml=1分間に1μmolの基質を反応させるのに必要な、酵素1ml当たりに含まれる酵素量
分子吸光係数ε=1/(生成物濃度[mol/l]×セルの長さ[cm])×吸光度[ABS]
すなわち、
生成物濃度=酵素活性=吸光度[ABS]/(ε×セルの長さ[cm])
である。
【0081】
(6)ペルオキシダーゼ酵素活性測定
西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(HRP)(東洋紡(株)製)10mgに脱イオン水10mlを加えてHRP溶液を調製した。吸光度測定用のセルに4mM2,6−ジメトキシフェノール50μl、リン酸緩衝液(pH6.0)250μl、2mM過酸化水素水100μl、脱イオン水590μl、HRP10μlを順次加え、素早く撹拌した後、波長470nmにおける吸光度を測定した。対照として、HRP非存在下での吸光度を測定した。得られた吸光度から、マンガンペルオキシダーゼと同様に酵素活性量を算出し、必要量を決定した。
【0082】
(7)リポキシゲナーゼ酵素活性測定
大豆由来リポキシゲナーゼ(LOX)(ナカライテスク(株)製)10mgに脱イオン水10mlを加えてリポキシゲナーゼ溶液を調製した。吸光度測定用セルに0.1Mホウ酸緩衝液(pH9.18)250μl、600mMリノール酸50μl、脱イオン水690μl、LOX10μlを順次加え、素早く撹拌した後、波長470nmにおける吸光度を測定した。対照として、LOX非存在下での吸光度を測定した。得られた吸光度から、マンガンペルオキシダーゼと同様に酵素活性量を算出し、必要量を決定した。
【0083】
(8)ラッカーゼ酵素活性測定
ラッカーゼ粉末22mgをプラスチックの試験管に入れ、脱イオン水10mlを加えてラッカーゼ溶液を調製した。吸光度測定用のセルに0.1M乳酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)250μl、4mM2,6−ジメトキシフェノール(2,6−DMP)50μl、脱イオン水690μl、ラッカーゼ10μlを順次加え、素早く撹拌した後、波長470nmにおける吸光度を測定した。対照として、ラッカーゼ不存在下での吸光度を測定した。得られた吸光度から、マンガンペルオキシダーゼと同様に酵素活性量を算出し、必要量を決定した。
【0084】
(9)ゴム組成物の調製
表2および表3に示す配合処方に従って配合成分を混練りし、ゴム組成物を得た。これを170℃で20分間プレス加硫して加硫物とした。
【0085】
(10)グリップ性能の評価
(株)上島製作所製フラットベルト式摩擦試験機(FR5010型)を用いて評価した。幅20mm、直径100mmの円筒形のゴム試験片を用い、速度20km/h、荷重4kgf、路面温度25℃で路面に対するサンプルのスリップ率を0〜70%まで変化させ、その際に検出される摩擦係数の中の最大値を読み取った。実施例1〜3および比較例1〜4については比較例1を100として、実施例4〜6および比較例5〜9については比較例5を100として、それぞれ相対値で表わした。数値が大きい程グリップ性能に優れる。結果を表2および表3に示す。
【0086】
(11)耐摩耗性の評価
ランボーン型摩耗試験機を用いて、温度25℃、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%、試験時間5分間の条件でランボーン摩耗量を測定し、容積損失を算出した。実施例1〜3および比較例1〜4については比較例1を100とし、以下の式、
摩耗指数=(比較例1の容積損失測定値)/(各実施例または比較例の容積損失測定値)×100
によって算出される相対値で表わした。また、実施例4〜6および比較例5〜9については比較例5を100とし、以下の式、
摩耗指数=(比較例5の容積損失測定値)/(各実施例または比較例の容積損失測定値)×100
によって算出される相対値で表わした。数値が大きい程耐摩耗性が良好であることを示す。結果を表2および表3に示す。
【0087】
(12)破壊強度の評価
実施例4〜6および比較例5〜9につき、JIS−K6301に準拠し、破壊強度(TB)を測定した。比較例5を100とし、以下の式、
破壊強度指数=(各実施例または比較例の破壊強度測定値)/(比較例5の破壊強度測定値)×100
によって算出される相対値で表わした。数値が大きい程破壊強度に優れることを示す。結果を表3に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
注1:SBRは、旭化成(株)製のスチレンブタジエンゴム「TUFDENE3330」(結合スチレン量=31%)である。
注2:樹脂1は、日石ネオポリマーL−100(重量平均分子量Mw=1100)である。
注3:カーボンブラックは、昭和キャボネット(株)製の「ショウブラックN110」(N2SA=143m2/g)である。
注4:軟化剤は、出光興産(株)製のダイアナプロセスオイル「AH−16」である。
注5:老化防止剤は、大内新興化学工業(株)製の「ノクラック6C」(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)である。
注6:ステアリン酸は、日本油脂(株)製である。
注7:酸化亜鉛は、三井金属鉱業(株)製の「亜鉛華1号」である。
注8:硫黄は、鶴見化学(株)製の「粉末硫黄」である。
注9:加硫促進剤は、大内新興化学工業(株)製の「ノクセラーCZ」である。
注10:再生ゴム粉末は、村岡ゴム工業(株)製の再生ゴム(30メッシュ:最大粒径0.5mm)である。
【0091】
表2に示す結果より、分解処理ゴム1を配合した比較例2においては、加硫ゴムの分解が不十分であったためにグリップ性能および耐摩耗性が低下し、特に耐摩耗性は著しく低下した。また、軟化剤を多量に添加した比較例3においては、グリップ性能、耐摩耗性がともに大きく低下した。さらに、樹脂1(Mw=1100)を配合した比較例4においては、樹脂1の分子量が低過ぎたために耐摩耗性が著しく低下した。一方、Mwが9500である酵素分解ゴム1、Mwが11000である酵素分解ゴム2、Mwが25000である酵素分解ゴム3、をそれぞれ配合した実施例1〜3においては、グリップ性能および耐摩耗性がともに良好であった。以上より、本発明のゴム組成物を用いた実施例1〜3においては、再生ゴムを配合しつつ、タイヤのグリップ性能および耐摩耗性がバランス良く維持されていることが分かる。
【0092】
実施例4〜6において配合される酵素分解ゴム4〜6のクロロホルム抽出量はそれぞれ42.8wt%、14.5wt%、33.4wt%であり、比較例6において配合される再生ゴム粉末のクロロホルム抽出量は6.5wt%、比較例7〜9において配合される分解処理ゴム2〜4のクロロホルム抽出量はそれぞれ7.8wt%、8.2wt%、8.3wt%である。表3に示す結果より、再生ゴム粉末および分解処理ゴム2〜4においては、加硫ゴムの分解がされていないか不十分であるため、再生ゴムを配合してない比較例5と比べ、比較例6〜9においては破壊強度、耐摩耗性、グリップ性能が劣っている。これに対し、酵素分解ゴム2〜4においては、酸化酵素の作用により脱硫化による加硫ゴムの分解が良好に進行しているため、酵素分解ゴム2〜4をそれぞれ配合した実施例4〜6においては、破壊強度、耐摩耗性、グリップ性能が比較例5と同等か比較例5よりも向上していることが分かる。
【0093】
すなわち、酵素分解ゴムを配合した本発明のゴム組成物は、再生ゴムが配合され、かつ良好な破壊強度、耐摩耗性、グリップ性能を維持したゴム組成物であることが分かる。
【0094】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0095】
リグニン分解力を有する酸化酵素を用いて分解処理することにより得られる酵素分解ゴムを再生ゴムとして含有する本発明のゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッド、サイドウォール、カーカスプライやベルトプライ等に対して好適に使用され、グリップ性能および耐摩耗性をバランス良く付与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを主成分とするゴム成分100質量部に対し、リグニン分解力を有する酸化酵素を用いて加硫ゴムを分解することにより得られた酵素分解ゴムを5〜150質量部の範囲内で配合してなるゴム組成物。
【請求項2】
前記酸化酵素が、前記加硫ゴム中の不飽和脂肪酸の過酸化反応により前記加硫ゴムを酵素分解する酸化酵素である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記酸化酵素が、ペルオキシダーゼ、リポキシゲナーゼ、ラッカーゼから選択される1種以上を含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記酸化酵素がリグニン分解酵素である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記リグニン分解酵素が、木材腐朽菌由来のリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、バーサタイルペルオキシダーゼから選択される1種以上を含む、請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記酵素分解ゴムの重量平均分子量が2,000〜80,000の範囲内である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記酵素分解ゴムの分子量分布Mw/Mnが1.0〜5.0の範囲内である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項8】
天然ゴムおよび/またはジエン系ゴムを主成分とするゴム成分100質量部に対し、リグニン分解力を有する酸化酵素を用いて加硫ゴムを分解することにより得られる酵素分解ゴムを5〜150質量部の範囲内で配合してなるゴム組成物の製造方法であって、
前記加硫ゴムを最大粒径が1mm以下となるように粉砕する工程と、
粉砕された前記加硫ゴムを前記酸化酵素によって分解処理し、酵素分解ゴムを得る工程と、
前記酵素分解ゴムが他のゴム成分とともに混合されたゴム組成物を生成させる工程と、
を含むゴム組成物の製造方法。
【請求項9】
前記酵素分解ゴムの重量平均分子量が2,000〜80,000の範囲内である、請求項8に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項10】
前記分解処理における反応時間が10時間〜30日間の範囲内に設定される、請求項8に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のゴム組成物を用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2006−152237(P2006−152237A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134170(P2005−134170)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】