説明

ゴム組成物およびその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、水素化ニトリルゴムとシリコンゴムとを基本成分とするゴム組成物およびその製造方法に関する。本発明のゴム組成物は流動性に優れ、その架橋ゴム製品は、引張強さ、伸び、高ゴム弾性、耐熱性、耐寒性および耐油性に優れていて、広範囲の鉱工業分野および化学分野で有用である。
【0002】シリコンゴムは、離型性、耐熱老化性、耐寒性、耐候性などの性質に優るが、一方、引張強さ、耐油性、耐水性などの性質に劣ることが知られている。このために、シリコンゴムは機械的強度の要求される用途や油、水などに接触して使われる用途には限定的に使用されるに留まっている。水素化ニトリルゴムは、引張強さ、耐油性、耐熱性などの性質に優れるが、耐熱老化性、耐寒性、耐候性などの厳しい条件での使用に十分耐える性能をもっていない。このように、シリコンゴムと水素化ニトリルゴムは、それぞれの性能を補完し合うべき特性をもっており、両者を混合することにより優れたゴム組成物を与えることが期待される。
【0003】シリコンゴムと水素化ニトリルゴムを混合する公知技術として、ドイツ特許3812354にはシリコンゴムと水素化ニトリルゴムとを機械的に混合することが開示されている。ここで開示されている機械的混合は、通常、親和性の良好なゴムの組み合わせに用いられる単純な機械的混合である。シリコンゴムと水素化ニトリルゴムとは親和性に乏しく、且つ両者の混合物は高粘度であって、得られるゴム組成物は強度が低く、伸びも低いという難点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、シリコンゴムと水素化ニトリルゴムを基本成分とするゴム組成物において、良好な伸びと高い引張強さを付与することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的は、下記のゴム組成物によって達成される。(A)ポリマー成分100重量部、(B)メタアクリル酸亜鉛5〜100重量部、および(C)有機過酸化物、上記(A)と(B)の合計100重量部に対して0.2〜6重量部からなるゴム組成物であって、該ポリマー成分が(a)水素化ニトリルゴム20〜95重量%と(b)シリコンゴム80〜5重量%とからなることを特徴とするゴム組成物。
【0006】本発明で使用される水素化ニトリルゴムは、ニトリルゴムを公知の方法で部分的にまたは完全に水素化することにより製造することができる。水素化ニトリルゴムの水素化の程度はヨウ素価で示すことができるが、本発明では、通常、ヨウ素価120以下の水素化ニトリルゴムが使用される。好ましくは、ヨウ素価60以下である。
【0007】水素化するニトリルゴムの代表例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、その他の不飽和ニトリル10〜55重量%と1,3−ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、その他の共役ジエン90〜45重量%とからなる共重合体、およびさらにこれらのモノマーに加えて共重合可能なエチレン性不飽和モノマーを共重合せしめた多元共重合体が挙げられる。ニトリルゴム中の不飽和ニトリルの量が過少であると耐油性が低く、また逆に過大であるとゴムとしての一般的性質に劣る。エチレン性不飽和モノマーとしてはスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エトキシエチルアクリレート、マレイン酸、イタコン酸、モノメチルマレイン酸エステル、ジメチルマレイン酸エステルなどの不飽和ジカルボン酸、これらの不飽和ジカルボン酸のモノエステルおよびジエステルなどが挙げられる。
【0008】本発明で使用されるシリコンゴムは置換炭化水素基を有するシロキサンの繰り返しからなり、炭化水素基としては、メチル、エチル、プロピルなどのアルキル基、フェニル、トリルなどのアリール基、ビニル、アリル基などの脂肪族不飽和炭化水素基およびまたは、これらの炭化水素の水素の一部がハロゲン、シアンなどで置換された基が挙げられる。本発明で使用されるシリコンゴムは、好ましくは、炭素−炭素不飽和結合をシリコンゴム重量に基づき100ppm以上、さらに好ましくは200ppm以上含有する。炭素−炭素不飽和結合の含有量がシリコンゴム重量に基づき100ppm以上であると、本発明のゴム組成物の架橋後の引張強さがより向上する。
【0009】本発明においてシリコンゴムおよび必要に応じて水素化ニトリルゴムに充填剤を加えることができる。充填剤としては、補強性充填剤であるシリカおよびカーボンブラックが好ましい。シリカは、乾式シリカ、湿式シリカのいずれでもよいが、その比表面積が50m2 /g以上のものが好ましく、さらに好ましくは100〜400m2 /gのものである。これらのシリカは、そのまま用いても、またはオルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシラン、オルガノポリシロキサン、ヘキサオルガノジシラザンなどの有機ケイ素化合物で表面処理したものを使用してもよい。充填剤の添加量は、シリコンゴムにはゴム100重量部に対して通常60重量部以下、また水素化ニトリルゴムにはゴム100重量部に対して通常50重量部以下である。
【0010】その他の充填剤としては、石英微粉末、ケイソウ土、亜鉛華、塩基性炭酸マグネシウム、活性炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、タルク、雲母粉末、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、アスベスト、ガラス繊維、などの無機充填剤、およびポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維などの有機補強剤ないし有機充填剤が挙げられる。
【0011】上記水素化ニトリルゴム(a)とシリコンゴム(b)は、両者の合計量に基づき、前者が20〜95重量%、好ましくは25〜92重量%、後者が80〜5重量%、好ましくは75〜8重量%の割合で配合する。水素化ニトリルゴム配合物が95重量%を超え、シリコンゴムが5重量%未満であるとゴム組成物の耐寒性が低下する。水素化ニトリルゴムが20重量%未満であって、シリコンゴムが80重量%を超えると、特にゴム組成物の強度その他の機械的性質が低下する。
【0012】本発明で使用するメタクリル酸亜鉛は酸化亜鉛、炭酸亜鉛、水酸化亜鉛などの亜鉛化合物とメタクリル酸とを2/1〜1/2(モル比)の範囲で反応させることにより得ることができる。メタクリル酸亜鉛は予め調製したものをゴム組成物(特に、シリコンゴムと混合する前の水素化ニトリルゴム)に配合してもよく、または、ゴム組成物の調製段階でゴム中に(特に、シリコンゴムと混合する前の水素化ニリトルゴム中に)メタクリル酸と亜鉛化合物を加えて、ゴム組成物中にメタクリル酸亜鉛を生成させてもよい。亜鉛化合物としては酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛などが挙げられる。また、亜鉛化合物およびメタクリル酸亜鉛は粗大粒子を除去したもの、すなわち、風力分級機などにより20μm以上の粗大粒子を除去したものが好ましい。
【0013】メタアクリル酸亜鉛の量は、水素化ニトリルゴムとシリコンゴムとの合計100重量部に対して、5〜100重量部、好ましくは7〜80重量部である。メタクリル酸亜鉛の配合量が過少であると強度その他の機械的性質が低下し、また、メタクリル酸亜鉛の配合量が過大であるときも、ゴム中に遊離のメタクリル酸が残存して、やはり強度その他の機械的性質が低下する。
【0014】本発明のゴム組成物は、さらに、水素化ニリトルゴム(a)とシリコンゴム(b)からなるポリマー成分(A)100重量部に対して、0.2〜6重量部、好ましくは0.3〜4重量部の過酸化物架橋剤を含む。過酸化物架橋剤の量が0.2重量部未満では架橋が不充分となり、引張強さなどが劣り、逆に、4重量部を超えると過架橋となり、伸びが劣るゴム配合物の架橋物となり、本発明の目的から外れることになる。
【0015】本発明で用いる過酸化物架橋剤の具体例としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ケタールパーオキサイドを挙げることができる。
【0016】本発明のゴム組成物の調製方法には、特に制約はない。ゴムの混合で行われる一般的な調製方法を採用することができる。しかしながら、予め水素化ニトリルゴムにメタアクリル酸亜鉛および、必要に応じて充填剤その他の添加剤を配合してマスターバッチを作成し、このマスターバッチと、必要に応じて充填剤その他の添加剤を配合したシリコンゴムとを混合することが望ましい。このような配合方法によりメタアクリル酸亜鉛の分散が均一となり、より優れた特性が得られるからである。メタアクリル酸亜鉛に代えて、亜鉛化合物とメタアクリル酸を水素化ニトリルゴムに配合してもよい。上記のように水素化ニトリルゴム、シリコンゴム、メタアクリル酸亜鉛および必要に応じて充填剤その他の添加剤を混練し、その他にロールなどで過酸化物架橋剤を配合して目的とするゴム組成物を得る。
【0017】本発明のゴム組成物の調製は、ミキシングロールなどの開放型混練機、プラベンダーミキサー、バンバリーミキサーなどの密閉型混練機、単軸押出機、二軸押出機、ファーレルミキサー、ブッスコニーダーなどの連続型混練機などで行うことができる。調製温度は室温〜300℃の範囲が好ましい。ゴム配合物への過酸化物架橋剤の混合は、過酸化物架橋剤の分解を抑制するために、室温〜120℃の範囲で行うことが好ましい。
【0018】本発明の樹脂組成物に配合することができる充填剤以外の添加剤としては、例えば、金属酸化物、アミン類、脂肪酸とその誘導体;可塑剤としては、例えばポリジメチルシロキサンオイル、ジフェニルシランジオール、トリメチルシラノール、フタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、トリメリット酸誘導体;軟化剤としては、例えば潤滑油、プロセスオイル、コールタール、ヒマシ油、ステアリン酸カルシウム;老化防止剤としては、例えばフェニレンジアミン類、フォスフェート類、キノリン類、クレゾール類、フェノール類、ジチオカルバメート金属塩類、耐熱剤としては、例えば酸化鉄、酸化セシウム、水酸化カリウム、ナフテン酸鉄、ナフテン酸カリウム;その他滑剤、粘着付与剤、スコーチ防止剤、架橋促進剤、架橋助剤、促進助剤、架橋遅延剤、着色剤、紫外線吸収剤、難燃剤、耐油性向上剤、発泡剤などが挙げられる。
【0019】本発明のゴム組成物は、過酸化物架橋剤によって架橋される。架橋条件は、通常のゴムの過酸化物架橋条件が適用できる。通常100〜250℃の温度で、0〜300kg/cm2 の圧力、5秒〜10時間(後架橋含む)の架橋時間で架橋が行われる。このような高温架橋条件は熱、電子線、紫外線、電磁波などのエネルギーを加えることにより得られる。本発明のゴム組成物の架橋方式は、通常ゴムの加硫で行われるプレス成形、トランスファー成形、射出成形、加硫缶などによる回分加硫、ホットチャンバー、加圧管、ロートキュアー、塩浴槽、流動床、高周波加熱などによる連続加硫で行うことができる。
【0020】
【実施例】以下、実施例について、本発明のゴム組成物をさらに具体的に説明する。なお、実施例及び比較例中の部及び%はとくに断りのないかぎり重量基準である。本発明を例示するために使用した(部分)水素化ニトリルゴム、シリコンゴムおよび有機過酸化物は下記に記載する通りである。
HNBR−1:アクリロニトリル−ブタジエン(36/64)共重合ゴムを沃素価が27まで水素化した水素化ニトリルゴム。
HNBR−2:HNBR−1、100部にロールを用いて酸化亜鉛36部およびメタアクリル酸48部を加え、ゴム中でメタアクリル酸亜鉛を生成させた水素化ニトリルゴム配合物。
HNBR−3:HNBR−1、100部にロールを用いてメタアクリル酸亜鉛80部を混合した水素化ニトリルゴム配合物。
HNBR−4:HNBR−1、100部にロールを用いてFEFカーボンブラックを40部加えロールで混合した水素化ニトリルゴム配合物。
Q:炭素−炭素不飽和結合含有量が470ppmのポリジメチルシロキサンゴム100部にシリカ(デグッサ社製 アエロジル#200)を50部加えバンバリーミキサーで混合したシリコンゴム配合物。
有機過酸化物:日本油脂(株)製 パーブチルP(α,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ)−m,p−イソプロピルベンゼン、純度40%)。
【0021】実施例1〜6、比較例1〜4水素化ニトリルゴム配合物(HNBR)とシリコンゴム配合物Qとを密閉式混練機である電熱式ラボプラストミルを使用して温度150℃、回転数50rpmの条件で15分混練した。混練した混合物を室温に調製した6インチロールに巻きつけ、有機過酸化物を練り込んでゴム組成物を得た。各実施例および比較例で採用した配合割合を表1に示す。なお、各組成物中の各成分の組成を表1の中段に示す。
【0022】上記のように調製したゴム組成物を6インチロールにより、50℃で混合し、シート出し後、170℃で30分プレス架橋した。得られたシートの物性はJIS K6301に準じて評価した。その結果は表1に示す。
【0023】
【表1】


【0024】
【発明の効果】本発明のゴム組成物は通常のゴム系補強剤であるカーボンブラックで補強したゴムに比べて同一硬さでは優れた強度を有しており、また、伸度にも優る。水素化ニトリルゴムとシリコンゴムとを基本成分とするゴム組成物が一般的に有する優れた耐熱性、耐寒性、耐油性を考慮すると、本発明のゴム組成物は鉱工業分野および化学分野において非常に有用な組成物である。特に、自動車用油圧ホース、自動車用エアーホース、自動車用ラジエターホース、建設機械・工作機械などの各種機械の油圧ホースなどのホース類;O−リング、パッキン、ガスケット、オイルシールなどのシール類;等速ジョイントブーツなどのブーツ類;ダイアフラム類;ケーブル類;キャップ類;ロール類;ベルト類などの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)ポリマー成分100重量部、(B)メタアクリル酸亜鉛5〜100重量部、および(C)有機過酸化物、上記(A)と(B)の合計100重量部に対して0.2〜6重量部からなるゴム組成物であって、該ポリマー成分が(a)水素化ニトリルゴム20〜95重量%と(b)シリコンゴム80〜5重量%とからなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】 メタクリル酸亜鉛5〜100重量部を水素化ニトリルゴム20〜95重量部に混合し、この混合物とシリコンゴム80〜5重量部(水素化ニトリルゴムとシリコンゴムとの合計量は100重量部である)とを混合し、さらに、メタクリル酸亜鉛、水素化ニトリルゴムおよびシリコンゴムの合計100重量部に対して有機過酸化物を0.2〜6重量部配合することを特徴とする請求項1記載のゴム組成物製造する方法。
【請求項3】 メタクリル酸亜鉛に代えて、亜鉛化合物とメタアクリル酸とを水素化ニトリルゴムに混合して、混合物中でメタアクリル酸を生成せしめる請求項2記載のゴム組成物の製造方法。

【特許番号】第2982483号
【登録日】平成11年(1999)9月24日
【発行日】平成11年(1999)11月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−102050
【出願日】平成4年(1992)3月27日
【公開番号】特開平5−271474
【公開日】平成5年(1993)10月19日
【審査請求日】平成9年(1997)1月16日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【参考文献】
【文献】特開 平4−366148(JP,A)