説明

ゴム組成物用繊維

【課題】軽量性や操縦安定性に優れたタイヤ、該タイヤのトレッド等に好適に使用できる加硫ゴム、および該加硫ゴムの原料等として好適に使用できるゴム組成物に用いる繊維を提供する。
【解決手段】繊維形成能を有する重合体Aと、Aに対して非相溶の重合体Bとからなり、繊維軸方向に垂直な繊維横断面で中空部を100個以上有しかつ該中空部が繊維軸方向に連通していない、繊維表層に中空部のないスキン層を有することを特徴とする、繊維長0.05〜30mmのゴム組成物用繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物用繊維に関する。さらに詳しくは、ゴム組成物の用途の中でも特に、軽量性や操縦安定性に優れたタイヤ、特に該タイヤのトレッド等に配合した場合に燃費向上性や操縦安定性の向上に好適に寄与する、ゴム組成物用繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
手押し車や、自転車、自動2輪、あるいは自家用車やトラック、耕作機、軍事用車両、宇宙開発用車両、海洋開発用車両などのいわゆる自動車などにおいては、タイヤは欠かせないものである。従来、このタイヤは、例えば、タイヤの空気が抜けた状態でも安定した走行が可能ないわゆるランフラットタイヤに関するものや、低燃費性能のために軽量化を図ったもの、雪氷路面での摩擦力を向上させたもの、操縦安定を向上させたものや乗り心地を快適とするものなど、その目的に応じて多種多様な機能付与の検討がなされている。
【0003】
例えば前記、タイヤの空気が抜けた状態でもクッション性を保持したまま安定な走行ができるようにする機能の付与技術については、タイヤ中に中空繊維を詰めるという技術が開示されている(特許文献1または2参照)。この技術では、タイヤの環状中空部に中空繊維を詰めてタイヤにクッション性を保持するのが目的であって、タイヤに軽量性を付与するものではない。またその本来のクッション性に関しても、中空繊維の繊維内部に形成しうる中空部分の量に限界があってクッション効果が十分に発揮されにくいものであったし、さらに中空繊維の中空部は潰れてしまいやすく、一度潰れると回復せずそのクッション性は経時的に劣化していくものであった。
【0004】
また、エネルギーについての環境問題から車両の低燃費性能の改善が求められており、それに応えるべくタイヤに転動摩擦の低減あるいは軽量性を付与する技術が開示されている(特許文献3参照)。該技術にはタイヤのビードエイペックスに中空部を形成もしくは軽量充填剤を充填させることで軽量化を図るものであり、たしかに軽量性は付与できるものの、安定した中空部の形成は困難で、軽量性の付与には難点があり、またビードエイペックス部分の強度も相対的に劣りやすくなることから、操縦安定性能を低下させてしまうものであった。
【0005】
一方で氷雪路面における摩擦力を向上させることで、駆動性あるいは制動性を改善する技術が開示されている(特許文献4、特許文献5、または特許文献6参照)。これら技術において、まず1穴型の中空繊維をトレッドゴムに含有させることでブロック剛性を備え、また中空繊維が路面上の水を吸い上げることを利用した技術においては、該技術で用いている中空繊維自体が特徴のない1穴型であるために、衝撃等により一旦つぶれた場合、その中空繊維は2度と復元せず、結果的にブロック剛性は経時的には徐々に劣っていくものであった。またゴム中に中空繊維と発泡剤とを共存させて加硫時に該中空繊維を溶融させ、同時に発泡剤を発泡させて中空繊維の跡の中空部分に発泡剤由来のガスを存在させることで中空部を形成させる技術については、中空繊維自体の剛性を利用するものではなく、中空繊維は加硫温度以下の温度で溶融するため、ただ単に中空部を形成するための「鋳型」そのものである。しかしながら該中空部も安定して形成されるものではなく中空部が繊維の外形に依存するため大きいものとなり、また路面上の水を吸い上げる能力も低いもので結果的に氷上性能はあまり向上が望めないものであった。
【0006】
既に本発明者らは繊維に軽量性を付与するため、ポリエステルとマレイミド構造を持たない熱可塑性ポリマ(除くポリエステル)とからなる海島状ポリエステル複合繊維において、海島状の複合界面の少なくとも一部に空隙を形成せしめることで、繊維の見かけ比重が1.2以下である軽量性に優れるポリエステル複合繊維を提案している(特許文献7参照)。該技術は、繊維内部に微細空隙が多数存在することで優れた軽量性が発現し、衣料用途、産業用途に好適な軽量繊維を得ることが出来るものである。しかしながら該技術を提案した際には、その繊維構造に由来する特定の用途、すなわちタイヤ用ゴム組成物に含有せしめた場合に、得られたタイヤが優れた機能を有することを見出したものではなかったし、さらにはタイヤがより優れた剛性および操縦安定性を備えるための好適な繊維構造については、何ら予見も示唆されたものでもなかった。
【特許文献1】特開昭51−113903号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平1−132403号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平6−286427号公報(特許請求の範囲、段落[0002])
【特許文献4】特開平4−110212号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平11−60771号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2001−2832号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開2004−183196号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、軽量性と操縦安定性に優れたタイヤや、氷雪上など不安定な路面でのスリップ抑制が必要な構造部に用いられる加硫ゴムなどの原料として好適なゴム組成物に添加するための繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軽量性と操縦安定性に優れたタイヤや加硫ゴムの原料として好適に用いられるゴム組成物用の繊維に関し、鋭意検討を重ね、その中で、特定の繊維構造を有する繊維を用いることにより従来技術の欠点を解消でき、かつ更なるメリットをも付与しうることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、 繊維形成能を有する重合体Aと、Aに対して非相溶の重合体Bとからなり、繊維軸方向に垂直な繊維横断面で中空部を100個以上有しかつ該中空部が繊維軸方向に連通しておらず、かつ繊維表層に中空部のないスキン層を有する、繊維長が0.05〜30mmであるゴム組成物用繊維を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の繊維を用いたゴム組成物により、前記従来における諸問題を解決することができる。すなわち、省エネルギーなどの環境問題に由来する車両の低燃費性能の向上については軽量性に優れ、また氷雪路面の走行に関しては無数の中空部に由来する強力かつ優れた水膜の除去能力を有していることから該氷雪路面上での操作安定性に非常に優れ、しかもこれら性能に関し、用いる軽量繊維の中空部分が無数に存在して、あらゆる応力を分散・排除しうることから該繊維断面形状および中空部分が潰れることなく保持され、結果的に永続的にこれら性能を具備しうるという従来にない高性能なタイヤを作製することができる。またタイヤ以外であっても、氷雪路面上など不安定な路面でのスリップの抑制が必要な構造物に好適な加硫ゴム等、これらに好適なゴム組成物を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で言う繊維とは、細長い形状を有していて、その見かけ直径に対する長さの比が少なくとも10であるものを指す。そして本発明においては、例えば従来の合成繊維の製造で作られる、短繊維(ステープル)の中でも特に、ゴム組成物中において良好な分散性を有するという点で30mm以下の長さである必要がある。また下限については、現実的に製造可能なカット長として0.05mm以上である。そして0.05〜20mmの長さであることがより好ましく、0.1〜10mmの長さであることが特に好ましく、0.2〜5mmの長さであることがもっとも好ましい。また繊維の繊維直径に関しては特に制限されるものではないが、後述する繊維軸方向に垂直な繊維横断面(以後、繊維軸方向に垂直な繊維横断面を単に「繊維横断面」と称することがある)において、中空部の個数あるいは中空部の平均直径がより好ましい大きさになるという点で、あるいは前述のとおりゴム組成物中において良好な分散性を有するという点で繊維直径は1000μm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以下であり、50μm以下であることが特に好ましい。また繊維直径の下限については細いほどゴム組成物中に含有させた場合の分散性が良好となり、またタイヤとなした場合の摩擦力が向上して、操作安定性が優れるため好ましいものの、繊維が安定した軽量性を保持しうるという点で0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。
【0012】
本発明のゴム組成物用繊維は、繊維軸方向に垂直な繊維横断面において中空部を100個以上有し、かつ該中空部が繊維軸方向に連通せず、不連続に存在する。本発明における中空部は、直径20nm以上のものを中空部とする。本発明において該繊維を用いた場合に、中空部を100個以上有することで、該中空部は応力を分散するため非常に潰れにくく、前述の軽量性あるいは操作安定性を永続的に保持しうる。該中空部の個数は、応力を分散しうることから、多ければ多いほど好ましく、また実際に形成しうる個数を鑑みて、300〜50,000個であることが好ましく。さらに、より優れた操作安定性を付与しうる点から、該中空部の個数は500〜20,000個であることが特に好ましい。なお該中空部の個数は、後述するC.項において測定される平均中空部数として定義される。
【0013】
また該中空部の大きさについて、繊維横断面における中空部の平均直径は、繊維横断面の繊維直径に対して、10分の1以下の大きさであることが好ましく、20分の1以下であることがより好ましい。また該中空部の平均直径は小さいほど中空部が潰れにくいため繊維形状維持の点では好ましいものの、一方で本発明の繊維を用いたゴム組成物から形成されたタイヤが氷雪路面上での操作安定性に優れるという点ではある程度の大きさを有することが望ましいため、下限については、繊維横断面の繊維直径に対して5000分の1以上であることが好ましく、2000分の1以上であることがより好ましい。そしてゴム組成物用という点で、平均直径がこの範囲であることで繊維自体、ひいてはタイヤを形成した場合の軽量性に優れることはもとより、繊維にかかる応力を分散しうるのに好適な大きさの中空部であることから中空部が殆ど潰れることがない。なお該中空部の平均直径は、後述するC.項により測定される。
【0014】
本発明の繊維の中空部は、繊維軸方向に連通せず不連続である。中空部を有することで前述の通り本発明の繊維を含有したゴム組成物からなるタイヤは非常に軽量性に優れたものとなる。また、該中空部は不連続であることで外力を分散し、中空部分を潰れにくいものとしうる。該中空部が繊維軸方向に不連続となる理由あるいは生成メカニズムの詳細は不明である。ただおそらく該不連続性は、後述する、軽量繊維を形成する重合体Aと重合体Bとの関係において、(1)重合体Aと、Aに対して非相溶の重合体Bとのブレンド界面が剥離する、(2)該重合体Bが紡糸時あるいは延伸時に重合体Aの変形に追従できずに任意に割裂して広がる、(3)重合体Aと重合体Bとの界面を起点として重合体A自体あるいは重合体Aと重合体Bとの複合体が裂ける、などこれら剥離や割裂などの現象が単独よりはむしろ複合的に発現し、相乗効果で繊維軸方向に向けて不連続な中空部が生成すると推測している。さらにこの中空部の生成は繊維中にランダムに発現するため、結果として該中空部は繊維軸方向に不連続となる。なお該中空部の繊維軸方向の不連続性は、後述するC.項により確認される。
【0015】
本発明の繊維の中空部は、繊維軸方向に垂直な繊維横断面において、繊維横断面の重心が繊維中に存在する場合に、該繊維横断面形状が、下記(1)の条件を満たす図形によって外層部と内層部に分けた場合に、内層部に存在する中空部の平均直径d1が、外層部に存在する中空部の平均直径d2より大きいことが好ましい。
(1)繊維横断面形状と相似の図形で繊維横断面形状と図形重心を共有し、かつ図形の、図形重心から図形外辺までの距離rが、繊維横断面の重心から外辺までの距離Rの1/2。
この(1)の条件を満たす図形によって外層部と内層部に分けた場合に、内層部に存在する中空部の平均直径d1が、外層部に存在する中空部の平均直径d2より大きい、ということは、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における中空部の大きさ(直径)に関し、繊維外層部から内層部に向かって徐々に中空部の直径が大きくなる、すなわち該繊維横断面内における中空部が傾斜構造を有していて、それで繊維の中空部が潰れにくくなるため好ましい、ということを意味する。これにより、本発明の繊維を含有するゴム組成物から形成されるタイヤの軽量性に関し、繊維の中空部が潰れにくくなり、またタイヤの軽量性が更に高まるという点で非常に好ましいものとなる。
通常、例えば丸断面などの繊維横断面形状であれば、繊維横断面の重心が繊維中に存在するため(1)が適用でき、また繊維構造的にも潰れにくいものとなる。しかし繊維横断面形状が例えばC型のような繊維横断面形状の重心が繊維自体ではない空間部分をもつ場合には、繊維構造的に、繊維断面が応力を分散しきれず断面が潰れやすいし、また前述の中空部の繊維横断面内における傾斜構造が生成しにくい。更にまた(1)が適用できず、結果的に定義も困難である。すなわち本発明の繊維においては、後述するように異形断面繊維を適用することは十分可能であるものの、繊維横断面形状の重心が繊維自体ではない空間部分をもつ断面形状についてはあまり好ましくない。
【0016】
前述の内層部に存在する中空部の平均直径d1と、外層部に存在する中空部の平均直径d2との直径比d1/d2は、1.01以上である場合に中空部の配置が繊維内層部から繊維外層部に傾斜構造を有していると認められ、好ましいものの、該d1/d2は大きい値ほど繊維の中空部が潰れにくいため好ましく、その値として、d2/d1≧1.30がより好ましく、d2/d1≧1.5であることがさらに好ましく、d2/d1≧1.8であることが特に好ましい。一方でd2/d1の上限については特に制限されないが10.0以下が好ましい。例えば図4に示す繊維の模式図では、外層部は(ア)、内層部は(イ)で示される。なお該中空部の傾斜構造は、後述するC.項により確認される。
【0017】
本発明の繊維は、繊維軸方向に垂直な繊維横断面形状に関して、ゴム組成物中において、もっとゴムとの密着性を高くする点では繊維軸方向に垂直な繊維横断面形状は円形もしくは楕円等の略円形でも、あるいは一般的に偏平型と呼ばれる−型の断面でも良い。該断面形状が−型の扁平断面である場合には、楕円を更に引き延ばしたものとして認識されるが、ゴムとの密着性の点ではとても好ましい。該−型の断面構造の例として図2に示すが、図2に示すように横断面の幅(d)と長さ(L)を定義した場合に、これらの比L/dが1.2以上であることが好ましい。該L/dは大きいほど好ましいが、繊維の製糸性を鑑みて、概ね10以下を達成しうる。該−型の異形断面繊維の場合、前述の中空部が潰れにくいとされる中空部の傾斜構造が発現しやすく、本発明の繊維を含有したゴム組成物からなるタイヤを形成させた場合に軽量性が保持され大変好ましい。
【0018】
また本発明の繊維は、一方で後述するように、ゴム組成物としての更なる軽量化を図るためには、繊維軸方向に垂直な繊維横断面の異形度が1.2以上の異形断面であることが好ましい。異形度の算出方法については後述するが、該異形度が1.2以上であることで繊維自体の中空部による軽量性のほかに、ゴム組成物となした場合に、繊維外周部にゴムが侵入しがたいスペースが発現し、本発明の繊維を用いてなるゴム組成物からタイヤを形成した場合に、より軽量性が高まり好ましい。また副次的な作用として、単繊維同士が接して単繊維間距離が小さい場合に、単繊維間にもスペースが効果的に発現し、やはりタイヤとなした場合の軽量性向上に寄与するため好ましい。また、前述の中空部分の傾斜構造に関しても、該異形度は大きい値をとるほど相乗的に軽量性の向上が見られるので、異形度は1.3以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましく、1.5以上であることが特に好ましい。上限については特に制限されないが、繊維の製造段階での異形度の保持性を鑑みて7.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることが更により好ましく、2.0以下であることが特に好ましい。
【0019】
前述の異形度とは、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における外接円の直径D1と、内接円の直径D2の比(D1/D2)として定義される。異形断面については線対称性、点対称性などの対称性を保持した形状であっても、非対称性であってもよいが、均一な繊維物性を有する点で概ね対称性を有する形状であることが好ましい。異形断面が概ね線対称性、点対称性を保持すると判断される場合、内接円とは単繊維横断面において繊維の輪郭をなす曲線に内接する円であり、外接円とは単繊維横断面において繊維の輪郭をなす曲線に外接する円である。例えば図1に示す3葉型の異形断面繊維とした場合の異形度は、外接円1の直径D1と内接円2の直径D2とを用いて算出される。また、異形断面が線対称性、点対称性を全く保持しない形状であると判断される場合には、繊維の輪郭をなす曲線と少なくとも2点で内接し、繊維の内部にのみ存在して内接円の円周と繊維の輪郭をなす曲線とが交差しない範囲においてとりうる最大の半径を有する円を内接円とする。外接円は繊維の輪郭を示す曲線において少なくとも2点で外接し、単繊維横断面の外部にのみ存在し、外接円の円周と繊維の輪郭が交差しない範囲においてとりうる最小の半径を有する円を外接円とする。
【0020】
本発明の繊維が異形断面である場合の断面形状は特に制限されるものではなく、多種多様な断面形状をとることが出来る。例えば、一般的な呼称として多角形型、歯車型、花びら型、多葉型、星型、+型、等といった形状が挙げられる。繊維外周部にスペースを形成しやすい点で、多葉型、多角形型、歯車型、星型が好ましく、+型、多葉型であることがより好ましく、多葉型であることが特に好ましい。多葉型断面とは、断面に凹凸を有し、凹部と凸部の数が同数であるものを指し、繊維長手方向に連続して形成された多葉型繊維は、繊維外周部にゴムが侵入しがたいスペースを形成しやすい。また、単繊維間同士が近接した際にもスペースを形成し易いため、本発明の繊維を用いたゴム組成物からなるタイヤを形成した際に軽量性がより発現するため好ましい。なお本発明の繊維が多葉型断面である場合、その葉数の上限、下限については特に制限されるものではないものの、多くのスペースを抱え込み、かつ繊維自体の剛性や軽量性も良好となるという点で、3葉以上であることが好ましい。一方、繊維の製糸性および得られる繊維の繊維物性、あるいは断面形状を保持し易いといった点を考慮すると、8葉以下の多葉型異形断面であることが好ましく、6葉以下の多葉型異形断面であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明のゴム組成物用繊維は、繊維表面に中空部のないスキン層を有する必要がある。本発明におけるスキン層とは、後述C(f)項で求められるように直径20nm以上の中空部と認められるもっとも繊維表層に近い中空部について、中空部の最も繊維表面に近い辺と、繊維表面からの距離を本発明におけるスキン層とする。本発明の繊維はスキン層を有することでゴム中に含有せしめゴム組成物となした場合に、屈曲や摩耗などによる繊維表面の劣化が無いもしくは軽減され、それにも増して、繊維内部に存在する中空部の潰れに対する耐久性が高くなるために軽量性に優れ、さらにはゴム組成物をタイヤとなした場合にグリップ特性も向上し操縦安定が優れる。ただし該スキン層の厚さが厚すぎると繊維内部で中空部が形成される体積が減少し、結果として軽量性に劣る繊維となりやすいため、該スキン層の厚さは、繊維軸に垂直な繊維横断面の形状が円形もしくは楕円等の略円形の場合は繊維直径の1/8以下であることが好ましく、1/10以下であることが好ましく、1/15以下であることがさらに好ましい。あるいは繊維軸方向に垂直な繊維横断面が異形断面である場合、該スキン層の厚さは、外接円の直径D1の1/5以下であることが好ましく、1/10以下であることがより好ましく、1/15以下であることがさらに好ましい。またあまり薄いとスキン層としての効果がなくなる傾向にあり、好ましくないことから、前述の繊維横断面の形状が円形もしくは楕円等の略円形の場合は繊維直径の1/500以上である必要があり、1/200以上であることがより好ましく、1/100以上であることが特に好ましい。あるいは繊維軸方向に垂直な繊維横断面が異形断面である場合、該スキン層の厚さは、D1の1/500以上である必要があり、1/200以上であることが好ましく、1/100以上であることが特に好ましい。なおこのスキン層は、後述する中空部が形成される製造方法において、繊維の外層部ではボイド層が形成されずに自ずと生成する、重合体Aと重合体Bとのブレンド物からなるものであっても良いし、あるいは後述の通り、複合紡糸法により、重合体Aと重合体Bとのブレンド物ではない他の成分を鞘成分として配置してスキン層となして形成されても良い。ここで該複合紡糸法により鞘成分として配置して形成されるスキン層の成分は、重合体Aまたは重合体Bの少なくとも1種が含まれるものであっても良く、あるいは重合体Aとも重合体Bとも全く異なる他の成分であっても良い。
【0022】
また、繊維の中空部の容積割合を示す中空率については、本発明のゴム組成物からなるタイヤの軽量性に影響を与えるもので、該中空率は高いほど、タイヤは軽量性に優れたものとなり好ましい。中空率は、10〜65%であることが好ましく、製糸性を鑑みて15〜60%の中空率であることがより好ましい。なお該中空部の中空率は、後述するC.項により測定され、平均値として定義される。
【0023】
本発明の繊維は、繊維形成能を有する重合体Aを主成分としてなる。繊維形成能を有する重合体Aとしては多種多様なものを例示することができるものの、好ましいものとして、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマやその他のビニル系ポリマが挙げられる。より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、などが挙げられるが、これらは例えばポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマであっても良いし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマであっても良く、例えばスチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマが生成するが、発明の主旨を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマであっても良い。そしてこれらポリオレフィン系ポリマの中で、本発明の繊維をゴム組成物に用いて、タイヤを形成した場合に好ましい軽量性を付与しうるものとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテンがより好ましい。
【0024】
また繊維形成能を有する重合体Aとしては、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマを好ましいものとして挙げることができ、具体的にはナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7およびナイロン5,6などが挙げられるほか、本発明の主旨を損ねない範囲で他の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族、脂環族ジアミン成分が、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基を両方有したアミノカルボン酸化合物が単独で用いられていてもよく、あるいは第3、第4の共重合成分が共重合されているポリアミド系ポリマであっても良い。そしてこれらポリアミド系ポリマの中で、本発明においてより優れた軽量性を付与しうる、あるいはゴムとの親和性を有するものとして、ナイロン6,あるいはナイロン6,6がより好ましい。
【0025】
また繊維形成能を有する重合体Aとしては、例えば、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステル系ポリマを挙げることができる。ポリエステル系ポリマは樹脂としての各種機能にバランス良く優れているため本発明に用いられる重合体Aとして特に好ましい。具体的には、本発明で用いられるポリエステル系ポリマとしては、例えばジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート(ポリトリメチレンテレフタレートとも言う)、ポリブチレンテレフタレート(ポリテトラメチレンテレフタレートとも言う)、ポリエチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0026】
また重合体Aとして用いられる、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるこれらポリエステル系ポリマには、本発明の主旨を損ねない範囲で他の成分が共重合されていても良く、共重合成分として、例えば、ジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0027】
また共重合成分として、例えばジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
また共重合成分として、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわちヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0029】
さらに共重合成分としては、1つの化合物に1分子内に3つ以上のエステル形成性官能基を有する多官能性分子であっても良く、該エステル形成性官能基としては、水酸基、カルボキシル基、水酸基とカルボキシル基の縮合により形成されるエステル結合、のいずれかの官能基であれば良く、該多官能性分子としては、例えばペンタエリスリトール、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、ジメチロールプロピオン酸、ジペンタエリスリトール、グリセロール、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールブタン、1,3,5−トリメチロールベンゼン、1,2,6−ヘキサントリオール、2,2,6,6−テトラメチロールシクロヘキサノール、ヘミメット酸、トリメシン酸、プレニット酸、メロファン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、2,5−ジヒドロキシイソフタル酸、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸、等およびこれらのエステル化合物が挙げられ、これらはアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体であっても良く、これら多官能性分子のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。これら多官能性分子を共重合させた場合には、中空部がより多く、あるいはより小さく緻密に生成するため好ましい。
【0030】
また該ポリエステル系ポリマとしては、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体であっても良く、特に制限されるものではないものの、例えばこれらにかかる重合体としては、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレートバリレート)、といったポリ(ヒドロキシカルボン酸)を挙げることができ、その他にも、これらポリ(ヒドロキシカルボン酸)には、本発明の主旨を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていても良い。
【0031】
そしてこれら好ましいとされるポリエステル系ポリマのうち、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、あるいは乳酸であるポリエステルがより好ましく、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルは特に軽量性が発現しやすく、最も好ましい。
【0032】
その他に本発明にて用いられる繊維形成能を有する重合体Aとしては、アルコールと炭酸誘導体のエステル交換反応により形成されるポリカーボネート系ポリマ、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマ、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマや、そのほかにもポリスルホン系ポリマ、ポリエーテル系ポリマ、ポリフェニレンスルフィド系ポリマ、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマ、ポリエーテルケトンケトン系ポリマ、脂肪族ポリケトンなどのポリマの他、セルロース系ポリマや、キチン、キトサンおよびそれらの誘導体など、天然高分子由来のポリマなども挙げられる。
【0033】
また、重合体Aは、通常、合成繊維に供する粘度のポリマを使用することができる。特に制限されるものではないものの、例えば、ポリエステル系ポリマは、ポリエチレンテレフタレートであれば、固有粘度(IV)が0.4〜1.5であることが好ましく、0.5〜1.3であることがより好ましい。また、ポリプロピレンテレフタレートであれば、IV0.7〜2.0であることが好ましく、0.8〜1.8であることがより好ましい。あるいは、ポリブチレンテレフタレートであれば、IV0.6〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.4であることがより好ましい。またポリアミド系ポリマは、例えばナイロン6であれば極限粘度[η]が1.9〜3.0であることが好ましく、2.1〜2.8であることがより好ましい。なお該固有粘度、あるいは極限粘度は後述するG.の方法で測定される。
【0034】
また、重合体Aの溶融粘度は、溶融紡糸に供する温度で、剪断速度が10sec−1における剪断粘度が1〜10,000[Pa・秒]のポリマが通常用いられ、好ましくは10〜5,000[Pa・秒]である。なお該溶融粘度は後述するH.の方法で測定できる。
【0035】
本発明の繊維中における重合体Aの含有量は主たる成分であることから50重量%以上であることが好ましい。特に、繊維物性において強度が高いことが好ましいことから、繊維における重合体Aの含有量は高いほど好ましく、70重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上である。また本発明の繊維は重合体Bを含有することから、重合体Aは99重量%以下が好ましい。
【0036】
本発明の繊維は、前記重合体Aと、Aに対して非相溶の重合体Bとからなるブレンド繊維である。具体的には、重合体BはAに対し非相溶であるために、繊維軸方向に垂直な繊維横断面の繊維を形成するポリマー成分において、あたかもAの海の中にBが島状に存在する。本発明において「非相溶」とは、重合体Aと重合体Bとが高分子の分子鎖サイズオーダーで相溶しない、すなわち、重合体Aの中で重合体Bにより形成される島の平均サイズ(島の最も短い直径相当長さ)が、少なくとも10nmの大きさを有するものを指す。重合体Aと重合体Bが相溶性である場合、すなわち島状の重合体Bの平均サイズが10nm以下である場合、形成された繊維は繊維軸方向に不連続な中空部を有することがない(この場合もはや「中実繊維」である)か、もしくは本発明にて用いられるために必要な中空部が十分に発現していない繊維、つまり軽量性に劣る繊維となって、本発明のゴム組成物、ひいてはタイヤにはもはや適用できない。
【0037】
本発明における重合体Bは、重合体Aに対して前述のとおり非相溶であれば特に制限されるものではなく、多種多様な重合体を使用することができる。その重合体としては、例えば、ポリアミド系ポリマ、ポリオレフィン系ポリマやその他ビニル重合体、フッ素系ポリマ、シリコーン系ポリマ、エラストマー、ポリカーボネート系ポリマ、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマ、ポリアミドイミド系ポリマ、ポリエーテルイミド系ポリマ、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマや、そのほかにもポリスルホン系ポリマ、ポリエーテルスルホン系ポリマ、脂肪族ポリエーテル系ポリマ、芳香族ポリエーテル系ポリマ、ポリフェニレンスルフィド系ポリマ、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマ、ポリエーテルケトンケトン系ポリマ、ポリアリレート系ポリマなどの合成ポリマやセルロース系ポリマや、キチン、キトサンの誘導体など、天然高分子由来のポリマ、その他多種多様な重合体などを挙げることができる。
【0038】
より具体的には、例えばビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合といった付加重合反応、もしくは開環重合反応により合成されるポリオレフィンやその他のビニル重合体などを挙げることができる。そしてポリオレフィンであればポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテンの単独重合体あるいは共重合体、誘導体が挙げられ、またその他のビニル重合体であればポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、およびこれらの共重合体や誘導体などが挙げられるものの、これら付加重合反応もしくは開環重合反応により合成されるポリマの中で、後述する臨界表面張力が低い、あるいは密度が小さいなどの観点から好ましいものとして、ポリオレフィン系ポリマをまず挙げることができる。
【0039】
該好ましいとするポリオレフィン系ポリマの中で、まず主たる繰り返し構造がオレフィンから成るポリオレフィンとして例えばエチレン、プロピレン、ブテン、メチルブテン、メチルペンテン、エチルペンテン、ヘキセン、エチルヘキセン、オクテン、デセン、テトラデセン、オクタデセンをモノマーとして用いたポリオレフィンが挙げられる。これらポリオレフィンの中で融点が高く、また後述する臨界表面張力が低いことからプロピレン、ブテン、またはメチルペンテンを主たる繰り返し構造とするポリオレフィンが好ましく、プロピレンまたはメチルペンテンが80モル%以上を占める主たる繰り返し構造を有するポリオレフィンの単独重合体あるいは共重合体がより好ましい。かかるプロピレンまたはメチルペンテンが80モル%以上を占める共重合体において、共重合されるものとしては、特に制限されるものではないものの、例えば炭素数が5個以上の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、あるいはこれらの誘導体を側鎖に有するビニル化合物が挙げられる。特に該メチルペンテンを主たる繰り返し構造とするポリオレフィンは融点が200℃以上と高く、かつ臨界表面張力も低く優れている。そして該ポリオレフィンとしては、例えば三井化学(株)製TPXが挙げられるものの、特にこれらに制限されるものではない。
【0040】
そのほかに、脂環族モノマーの開環重合、付加重合などにより合成される、例えば下記化学式1、化学式2、あるいは化学式3に示す、ノルボルネンあるいはテトラシクロドデセン由来の環状構造を有するポリオレフィン系ポリマが挙げられる。
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
ここで置換基X、Yはそれぞれ、水素、アルキル基、脂環基、シアノ基、アルキルエステル基、脂環エステル基の中から選ばれる基である。またnは、重合度を表し、n≧10の自然数である。任意のnとする事で粘度を制御することができる。
【0045】
化1〜化3の構造を有するものとしては、例えば、JSR(株)製アートン(登録商標)、日本ゼオン(株)製ゼオノア(登録商標)、ゼオネックス(登録商標)、ポリプラスチックス(株)製TOPAS(登録商標)などが挙げられるものの、ノルボルネンあるいはテトラシクロドデセン由来の環状構造を有するポリオレフィンは特にこれらに制限されるものではない。
【0046】
上記これら重合体Bとして用いられるポリオレフィン系ポリマは、モノマー1種類を単独で用いた単独重合体であっても良く、あるいは複数種を用いた共重合体であっても良く、さらにはオレフィンと他のビニル化合物とを共重合した共重合体であってもよい。共重合成分として具体的には、2〜6個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルや、1〜20個の炭素原子を有するアルコールから導かれるアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルや、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ナジック酸などの不飽和カルボン酸あるいは該不飽和カルボン酸の酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物およびエステルや、スチレンあるいはスチレン誘導体や、アクリロニトリルあるいはアクリロニトリル誘導体や、ビニロキシアルキル誘導体(アルコール型あるいはカルボン酸型)といったビニル化合物、あるいは脂肪族系の環状構造(脂環構造)を持つビニル化合物などが挙げられる。特に共重合成分として該脂環構造を有するポリオレフィン系ポリマは前述の環状構造を有するポリオレフィン系ポリマとしても認められ、例えば三井化学(株)製アペル(登録商標)などが挙げられるが、言うまでもなく該脂環構造を有するポリオレフィン系ポリマはこれに限定されるものではない。
【0047】
そしてこれら重合体の中で好ましいとして例示したポリオレフィン系ポリマのうち、形成される繊維の中空部生成性が高いという点で、プロピレンおよび/またはメチルペンテンを主たる繰り返し単位とするポリオレフィン系ポリマ、あるいは環状構造を有するポリオレフィン系ポリマ、脂環構造を有する共重合ポリオレフィン系ポリマが好ましい。
【0048】
また重合体Bとしては、前述の付加重合反応もしくは開環重合反応により合成されるポリマの中で、後述する臨界表面張力あるいはガラス転移温度(Tg)などの観点から好ましいものとして、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、あるいはアクリロニトリルを主たる繰り返し構造として用いたビニル重合体が挙げられる。特にスチレンやメタクリル酸メチルを主たる繰り返し構造として用いたビニル重合体はTgが90℃以上と高く、本発明にて用いられる繊維となした場合に、後述する軽量性が高くなるため好ましい。また、これらスチレン、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、あるいはアクリロニトリルを主たる繰り返し構造として用いる場合には、これらの中から複数種以上共重合したものであっても良く、特にアクリロニトリルを第2成分として共重合した場合には、重合体Bとして用いた場合に、重合体Aがポリエステル系ポリマとした際の混和性が優れ、軽量性がより向上する。また樹脂自体の透明性も優れる。
【0049】
また、重合体Bとしては、前記ポリオレフィン系ポリマ、あるいはビニル重合体以外にもポリエーテル系ポリマが挙げられる。その中でポリフェニレンエーテルに代表される芳香族ポリエーテル系ポリマが好ましい。ポリフェニレンエーテルは、フェニレンオキサイドが主たる構造を成す単独重合体であっても良く、あるいは第2成分を共重合させた共重合体であっても良く、また発明の主旨を損ねない範囲の量の添加物を含有するもの、すなわちポリスチレン系ポリマ、ポリアミド系ポリマ、ポリエステル系ポリマ、ポリオレフィン系ポリマなどをアロイ化した変性ポリフェニレンエーテルを用いても良い。該ポリエーテル系ポリマとしては、例えば三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユピエース(登録商標)、レマロイ(登録商標)や、日本ジーイープラスチックス(株)製のノリル(登録商標)、旭化成(株)製のザイロン(登録商標)、住友化学(株)製のアートレックス(登録商標)、アートリー(登録商標)などが挙げられる。言うまでもなく好ましい重合体Bとして挙げられるポリエーテル系ポリマがこれらに限定されるものではない。
【0050】
あるいは、重合体Bとしてポリカーボネート系ポリマが好ましい。ポリカーボネート系ポリマは、ビスフェノールAとC=Oが主たる繰り返し構造を成す単独重合体であっても良く、あるいは第3成分を共重合させた共重合体であっても良く、また発明の主旨を損ねない範囲において、添加物を含有するもの、すなわちポリスチレン系ポリマ、ポリアミド系ポリマ、ポリエステル系ポリマ、ポリメタクリレート系ポリマなどをアロイ化した変性ポリカーボネートであっても良い。該変性ポリカーボネートとしては、例えば三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユーピロン(登録商標)やノバレックス(登録商標)、日本ジーイープラスチックス(株)製のレキサン(登録商標)、住友ダウ(株)製のカリバー(登録商標)、帝人化成(株)製のパンライト(登録商標)、出光石油化学(株)製のタフロン(登録商標)などが挙げられるが、言うまでもなく好ましい重合体Bとして挙げられるポリカーボネート系ポリマがこれらに限定されるものではない。
【0051】
本発明における重合体Bは、前述に列挙した多種多様なポリマにおいて、架橋されたポリマ(以後架橋ポリマと称することがある)であっても良い。同じモノマーから構成されていても架橋していないポリマと比較して、架橋ポリマはガラス転移温度が非常に高く、あるいは溶融粘度が非常に高いことから、加熱した場合に全く変形しないかもしくは殆ど変形しない。従って後述する製造方法において本発明において特徴的な繊維軸方向に不連続な中空部を生成しやすいことから非常に好ましい。ここで「架橋」とは一般にはモノマーがつながった長い線状のポリマ分子鎖の途中を、化学結合によってつなぎ合わせることを指し、その架橋の手法として、ジビニル化合物や硫黄化合物、エポキシ化合物、あるいはイソシアネート化合物などの架橋剤をポリマの重合段階もしくは重合後の溶融段階で添加、反応させる、ポリマに過酸化物などの触媒を添加せしめて加熱によりラジカル反応で架橋させる、ポリマ中の極性基と金属を使ってイオン結合を形成させる、ポリマ粒子形成後に後から光や放射線など高いエネルギーを照射してポリマの一部を化学結合させる、などが挙げられる。ここで架橋とは、本来、そのポリマが架橋していない場合には20℃で24時間以内に溶解する溶媒中に、該架橋ポリマを添加した場合に、その溶媒にて20℃で24時間経過しても溶解しない場合に「架橋している」と定義する。溶解しているか否かは、該溶媒を蒸発させた後のポリマに関し、そのポリマ形状が、溶解前のポリマ形状と比較して、10個以上のポリマについて最大直径に関して平均90%以上残存しているものを溶解していないとする。
【0052】
なお架橋ポリマとしては、一般的に10μm以下の平均直径の微粒子となっているものを好適に採用することができ、平均粒径は好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。また平均直径の下限については、小さいほど繊維中の中空部の形状を小さくできる点で好ましいものの、過度に小さい場合には凝集する可能性もあるため、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましい。また球状粒子であると特に好ましい。ここで球状とは、粒子の最大直径に対する最小直径の比が0.9以上であることを指す。例示できるものとして例えば、GE東芝シリコーン(株)社製のトスパール(登録商標)や綜研化学(株)社製のケミスノー(登録商標)など、架橋シリコーンからなる粒子、架橋ポリスチレンからなる粒子、架橋ポリアクリルからなる粒子、などあるいはその他多種多様な架橋ポリマが好ましく用いられる。
【0053】
本発明における重合体Bは、前述に列挙した多種多様なポリマの中から1種類を単独で用いても良く、あるいは発明の主旨を損ねない範囲において、複数種を併用しても良い。
【0054】
本発明の繊維に用いる重合体Bは、より軽量性を高めるために重合体Aよりも軽量、すなわち密度が小さいであることが好ましいが、さらに軽量化しうるという観点では、密度が1.0g/cm以下であることがより好ましい。該重合体Bの密度が1.0g/cm以下である場合に、本発明にて適用する繊維自体の軽量性がより高まり、ひいては本発明のゴム組成物より形成されるタイヤの軽量性が高まり好ましい。該重合体Bは、密度が小さいほど好適であり、好ましくは密度が0.95g/cm以下であり、特に好ましくは0.90g/cm以下である。そして該重合体Bにおいて、密度が1.0g/cm以下であるものとして、例えば前述のポリオレフィンが挙げられ、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルブテン、メチルペンテン、エチルペンテン、ヘキセン、エチルヘキセン、オクテン、デセン、テトラデセン、オクタデセンなどをモノマーとして用いることができる。特にプロピレンを主たるモノマーとして用いたポリプロピレンは比重0.91g/cm、メチルペンテンを主たるモノマーとして用いたポリメチルペンテンは比重0.83g/cmと、これらは密度の小さいものとして好ましい。これらポリオレフィンはモノマー1種類を単独で用いた単独重合体であっても良く、あるいは複数種を用いた共重合体であっても良い。また、これらオレフィンと他のエチレン性不飽和化合物とを共重合した共重合体であってもよく、具体的には、2〜6個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸のビニルエステルや、1〜20個の炭素原子を有するアルコールから導かれるアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルや、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ナジック酸などの不飽和カルボン酸あるいは該不飽和カルボン酸の酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物およびエステルや、スチレンあるいはスチレン誘導体や、アクリロニトリルあるいはアクリロニトリル誘導体や、ビニロキシアルキルアルコールあるいはその誘導体や、ビニロキシアルキルカルボン酸あるいはその誘導体などのエチレン性不飽和化合物が挙げられる。これら重合体Bは、1種類を単独で用いても良くあるいは発明の主旨を損ねない範囲において、複数種を併用しても良い。
【0055】
また本発明の繊維に用いる重合体Bの平均分子量については特に制限されるものではないものの、重合体Aとの混練性が優れる、あるいは繊維中における形態保持性、剛性といった点から数平均分子量が2,000〜10,000,000であることが好ましく、5,000〜5,000,000であることがより好ましく、10,000〜1,000,000であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明の繊維に用いる重合体Bは、より軽量性に優れ、かつ本発明に用いる繊維自体の糸物性が優れるという点で、含有量は1重量%以上30重量%以下であることが好ましく、3重量%以上20重量%以下であることがより好ましく、3重量%以上15重量%以下であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明における重合体Bは、前述の通り多種多様なポリマを用いることができるものの、ポリマの共重合成分としてマレイミド構造を有するポリマを用いる場合に関しては、過剰に用いた場合に繊維が脆くなる、とりわけ重合体Aがポリエステル系ポリマである場合にはマレイミド構造と相互作用が強く発現し、脆性が付与されやすく、また過度に微細な中空部が生成してスキン層を形成出来ない場合があることから、該ポリマの共重合成分としてマレイミド構造を有するポリマは、3重量%未満の含有量であることが好ましい。一般的にマレイミド構造とは無水マレイン酸とアンモニアもしくは一級アミンとの反応によって得られる構造であり、N−アルキルマレイミド、N−シクロアルキルマレイミド、あるいはN−フェニルマレイミドなどの構造があるが、特にポリエステル系ポリマと強く相互作用しやすく、脆化させやすいものとしてN−フェニルマレイミド構造が知られている。重合体Bが該マレイミド構造を有する場合、前述の通り3重量%未満の含有量で十分な軽量性を有する軽量繊維となりうる。しかしながら3重量%以上の含有量となした場合には、軽量繊維にむしろ副作用的に脆性が付与され、十分な軽量性が発現しにくいばかりか、一方で繊維の表層付近まで中空部が形成されやすく本発明で必要なスキン層が形成されず、繊維中の中空部が潰れやすくなり、更に繊維の強度や伸度といった基本的な繊維物性が劣りやすくなり、実用に耐えず、本発明に適用できないことがある。該黄味を帯びたマレイミド構造を有するポリマとしては、例えば電気化学(株)製のスチレン・マレイミドポリマ(タイプ:MS−NAなど)が挙げられる。なお該マレイミド構造の同定は後述するJ.の方法で測定される。
【0058】
本発明の繊維に用いる重合体Bは、前述のブレンド界面において中空部を生成しやすくし、結果的に繊維が軽量性に優れる、ひいては本発明のタイヤの軽量性も格段に優れるという点で、該重合体Bの臨界表面張力が35dyne/cm以下であることが好ましく、33dyne/cm以下であることがより好ましく、32dyne/cm以下であることがさらに好ましい。また該重合体Bの臨界表面張力は低いほど好ましいものの、通常得られる重合体Bの臨界表面張力は10dyne/cm以上である。そして該臨界表面張力が35dyne/cm以下である好ましい重合体Bとしては、前述のオレフィンモノマーあるいは他のエチレン性不飽和化合物からなるポリオレフィンのうち、プロピレンおよび/またはメチルペンテンが80モル%以上を占める単独重合体あるいは共重合体や、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、あるいはアクリロニトリルの中から単独もしくは複数選ばれ主たる繰り返し構造として用いたビニル重合体、環状構造を有するポリオレフィン系ポリマ、あるいは脂環構造を有する共重合ポリオレフィン系ポリマが挙げられ、メチルペンテンが80モル%以上を占める単独重合体あるいは共重合体が特に好ましいものとして挙げられる。
【0059】
また本発明における重合体Aの臨界表面張力についても、特に制限されるものではないものの前述の通り繊維軸方向に不連続な中空部が生成する際に重合体Bとの剥離性がより高いことが好ましいことから、35dyne/cmより高いことが好ましく、38dyne/cm以上であることがより好ましい。例えばポリエチレンテレフタレートやポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系ポリマは共に臨界表面張力が約43〜46dyne/cmであり、また脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸やポリグリコール酸は臨界表面張力が約36dyne/cmである。またさらに、より臨界表面張力を高くしうる共重合成分、例えばスルホイソフタル酸塩や、リン酸塩などの極性基を有する成分を共重合させた共重合ポリエステルなどではそれら極性基を有する成分を共重合していないポリエステルに比べて、より大きな臨界表面張力をとりうるため好ましい。またナイロン6や、ナイロン6,6は臨界表面張力が46dyne/cmである。なお臨界表面張力は後述F.の方法で定義される。
【0060】
本発明の繊維に用いる重合体Bの溶融粘度は、溶融紡糸温度で、剪断速度が10sec−1の剪断粘度が10〜10,000[Pa・秒]のポリマが通常用いられ、好ましくは100〜5,000[Pa・秒]である。なお該溶融粘度は後述するH.の方法で測定できる。
【0061】
本発明の繊維において、前述の通り島成分を形成する重合体Bは、重合体Aよりもガラス転移温度が高ければ、延伸の際に重合体Bの方が変形しがたく、結果的に繊維軸方向に不連続な中空部が生成しやすくて得られる繊維の軽量性が高い。ここで変形温度が明確に差を有するという意味で、重合体Bのガラス転移温度(Tg)は重合体Aのガラス転移温度(Tgp)より5℃以上高いことが好ましい。ここでガラス転移温度(Tg)とは、後述実施例のE.の方法で定義される。そして該TgはTgpより10℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高いことがさらに好ましく、50℃以上高いことが特に好ましい。TgがTgpより5℃以上高いことで、延伸時の中空部形成においては重合体Aと重合体B間の界面剥離で発現するのみならず、重合体B自体の変形よりはむしろ脆さによる割裂及び剥離が発現するため、より軽量性が増し非常に優れたものとなる。さらに溶融紡糸においても、重合体Bは重合体Aよりも高い温度で固化し中空部形成に有利な島構造を形成するため、やはり軽量性を向上させるため好ましい。そして該重合体Bのガラス転移温度(Tg)は、より中空部生成に適しているという点で、85℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることが更により好ましく、130℃以上であることが特に好ましい。そしてここでこれを満たす重合体Bとして、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、あるいはアクリロニトリルの中から単独もしくは複数選ばれ主たる繰り返し構造として用いたビニル重合体、環状構造を有するポリオレフィン系ポリマ、あるいは脂環構造を有する共重合ポリオレフィン系ポリマ、前述の芳香族ポリエーテル系ポリマ、前述のポリカーボネート系ポリマ、ポリスルホン系ポリマ(テイジンアモコエンジニアリングプラスチックス社のユーデル(登録商標)など)、ポリエーテルスルホン系ポリマ(アモコ社のレーデルA(登録商標)、BASF社のウルトラゾーンE(登録商標)、住友化学社のスミカエクセル(登録商標)など)、ポリアリレート系ポリマ(ユニチカ社のUポリマー(登録商標)など)などが好ましいものとして挙げられる。なお例えば重合体Aとして好適に用いられるポリエステル系ポリマのガラス転移温度Tgpは、ポリエチレンテレフタレートであれば約72℃に、ポリプロピレンテレフタレートであれば約47℃に、ポリブチレンテレフタレートであれば約24℃に、ポリ乳酸であれば約58℃に、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートであれば約87℃に、ポリエチレンナフタレートであれば約122℃に、それぞれ観測される。
【0062】
本発明の繊維に用いる重合体Aあるいは重合体Bは、例えば、本発明の繊維を添加してなるゴム組成物を加硫してタイヤ用に供するような場合に、本発明の繊維の中空部が溶融して潰れ、軽量性を喪失してしまうことを避けるために、該加硫温度として一般的な190℃よりも高い融点(Tm)を有することが好ましい。ここで融点(Tm)とは後述実施例のE.の方法で定義される。この場合、特に重合体Aに関しては、芳香族系のポリエステル系ポリマ、あるいはナイロン6,ナイロン6,6、などのポリアミド系ポリマが高い融点を有する点で好ましい。
【0063】
本発明の繊維では、重合体Aと重合体Bが非相溶である必要があるものの、過度に相溶性が悪いために混練を十分に行っても繊維を形成しえないほど混和性が悪い場合がある。そこで相溶化剤を含有せしめても良い。本発明における相溶化剤とは、重合体Bを海である重合体Aに含有せしめるときにブレンド界面における相互作用を変化させて両者の混和性を高め、該重合体Bの分散径を制御する化合物である。該相溶化剤としては、低分子化合物あるいは高分子化合物など多種多様の化合物を採用することができ、例えば、低分子化合物としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやアルキルスルホネートナトリウム塩、グリセリンモノステアレート、テトラブチルホスホニウムパラアミノベンゼンスルホネートなどのアニオン系あるいはカチオン系の界面活性剤や両性界面活性剤、ポリエチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリ(アルキレンオキシド)グリコールやエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体などの非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0064】
また、相溶化剤として挙げられる高分子化合物としては、重合体Aおよび重合体Bのそれぞれに対し、相溶性あるいは親和性の高い高分子化合物を用いれば良く、例えば、ポリスチレン系ポリマ、ポリアクリレート系ポリマ、ポリメタクリレート系ポリマ、ポリ(ビニルアルコール−エチレン)コポリマー、ポリ(ビニルアルコール−プロピレン)コポリマー、ポリ(ビニルアルコール−スチレン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル−エチレン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル−プロピレン)コポリマー、ポリ(酢酸ビニル−スチレン)コポリマーといったビニル系のポリマあるいはコポリマー、アイオノマー、側鎖部分を化学修飾することにより耐熱性及び溶融可塑性を向上させた多糖類、ポリアルキレンオキシドあるいはポリ(アルキレンオキシド−エチレン)コポリマー、ポリ(アルキレンオキシド−プロピレン)コポリマーなどのアルキレンオキシドと各ビニル誘導体のコポリマー、あるいはポリアルキレンオキシドの誘導体、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオールとのコポリマー、などといったポリマ、コポリマーなどが挙げられる。それらの中でも、相溶化剤としての効果が大きく、本発明の繊維を形成した場合の糸物性が良好であることを考慮すると、ポリスチレン系ポリマ、ポリアクリレート系ポリマ、ポリメタクリレート系ポリマ、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマー、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール、アルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオールとのコポリマー、またはこれらポリマの誘導体が好ましい。
【0065】
以下に、好ましいと思われるアルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオール、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマー、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマー、あるいはポリ(アルキレンオキシド)グリコールまたはその誘導体について具体例を述べるが、本発明における相溶化剤がこれらに制限されるものではない。
【0066】
アルキレンテレフタレートとポリアルキレンジオールとのコポリマーとしてはエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートなどから選ばれたアルキレンテレフタレートと、ポリエチレンジオール、ポリブチレンジオールなどから選ばれたポリアルキレンジオールとからなるコポリマーであり、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールをそれぞれ1種類ずつ用いても良く、あるいは複数種用いても良い。特に制限されるものではないものの、具体的には、ポリ(エチレンテレフタレート−ポリエチレンジオール)コポリマー、ポリ(プロピレンテレフタレート−ポリエチレンジオール)コポリマー、ポリ(ブチレンテレフタレート−ポリブチレンジオール)コポリマーなどを挙げることができる。
【0067】
アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールのコポリマーとしてはエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートなどから選ばれたアルキレンテレフタレートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール(あるいはテトラメチレングリコール)、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールから選ばれたアルキレングリコールとからなるコポリマーであり、アルキレンテレフタレートとアルキレングリコールをそれぞれ1種類ずつ用いても良く、あるいは複数種用いても良い。特に制限されるものではないものの、具体的には、ポリエチレンテレフタレート−ブチレグリコールコポリマー、ポリプロピレンテレフタレート−エチレングリコールコポリマー、ポリブチレンテレフタレート−テトラメチレングリコールコポリマーなどを挙げることができる。
【0068】
アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールのコポリマーとしてはエチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートなどから選ばれたアルキレンテレフタレートと、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ジプロピレングリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体からなるポリ(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)グリコール、などから選ばれたポリ(アルキレンオキシド)グリコールとからなるコポリマーであり、アルキレンテレフタレートとポリ(アルキレンオキシド)グリコールをそれぞれ1種類ずつ用いても良く、あるいは複数種用いても良い。特に制限されるものではないものの、具体的には、ポリエチレンテレフタレート−ジエチレングリコールコポリマー、ポリエチレンテレフタレート−ポリ(エチレンオキシド)グリコールコポリマー、ポリブチレングリコール−ポリ(エチレンオキシド)グリコールコポリマー、ポリプロピレンテレフタレート−ポリ(エチレンオキシド)グリコールコポリマーなどを挙げることができる。
【0069】
ポリ(アルキレンオキシド)グリコールまたはその誘導体の主たる化学構造としては、脂肪族、芳香族、脂環族などの炭素が主鎖をなしている基(もしくはグループ)と酸素原子が交互に結合しているような繰り返し構造を有しているものであれば良く、例えば下記一般式(4)で表されるような単一アルキレンオキシドを繰り返し単位としたポリ(アルキレンオキシド)グリコールを用いることができる。
−[(CH−O] − ・・・(4)
(4)式を満足するものとしては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)グリコール(a=2)、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール(a=3)、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(a=4)、などのポリ(アルキレンオキシド)グリコールが挙げられる。
【0070】
また、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、たとえば下記一般式(5)で表されるような、異なったアルキレンオキシドの交互、ランダム、あるいはブロック共重合体でも良い。
−{[(CH−O]−[(CH−O]−・・・(5)
(5)式を満足するものとして、たとえばポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)共重合体(a=2または3、b=2または3、またaとbは同じであっても異なっても良い。)、ポリ(オキシテトラメチレン−オキシエチレン−オキシプロピレン)共重合体(a=1または2または3、b=1または2または3、またaとbは同じであっても異なっても良い。)などのように、異なったアルキレンオキシドの共重合体などが挙げられる。
【0071】
さらに、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、上記一般式(4)あるいは(5)で表されるポリアルキレンオキシドを、1種単独であっても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で、発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせたものを用いても良い。
【0072】
これら低分子量化合物あるいは高分子量化合物である相溶化剤は、1種類を単独で用いても良いし、あるいは発明の主旨を損ねない範囲で、2種類以上を組み合わせて用いても良い。そして特に限定するものではないものの、相溶化剤としては、明成化学工業製ポリエチレンオキサイドのアルコックス(登録商標)、東レ・デュポン製のハイトレル(登録商標)、新日鐵化学製ポリスチレン系樹脂のエスチレン(登録商標)などを好ましいものとして挙げることができる。
【0073】
また、該相溶化剤の含有量は、相溶化がより効果的に発現し、得られる繊維の繊維物性が優れたものとなるという点で、重合体Bに対し10〜200重量%であることが好ましく、20〜100重量%であることがより好ましい。
【0074】
本発明の繊維は、重合体Aと重合体Bとがブレンドされてなる繊維であるが、繊維中の繊維軸方向に不連続な中空部が緻密となり軽量性に優れることから、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における該重合体Bの平均分散直径は5μm以下であることが好ましい。本発明の繊維は重合体Bがブレンドされた繊維であり、前述の通り、重合体Aが海成分、重合体Bが島成分を形成する際に、該島成分は繊維軸方向に不連続に分散化あるいは伸長化して存在する。よって重合体Aと重合体Bとのブレンド界面の面積は非常に大きくなり、本発明の繊維を形成した際には、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における繊維軸方向に不連続な中空部の数が非常に多くなり、結果として軽量性に優れている。しかし繊維中の島成分が繊維軸方向に連続している場合、すなわち中空部を形成する前の繊維が芯鞘複合繊維あるいは海島複合繊維である場合には、もはやブレンドされた繊維ではなく、その複合界面(芯と鞘の界面もしくは海と島の界面)の面積はブレンド繊維と比較して非常に小さくなり、中空部は生成しないか、もしくは格段に低減し軽量性に非常に乏しい。
【0075】
また前述の通り重合体Bの繊維軸方向に垂直な繊維横断面における平均分散直径が5μm以下である場合、前述したようにブレンド界面の面積が非常に大きくなり、それに伴い繊維軸方向に不連続な中空部の数も多くなり、軽量性に優れる繊維となることに加え、生成した中空部が過度に大きいものではなく、繊維の欠陥とはなりがたいため、繊維強度も低下せずに優れたものとなる。しかし、重合体Bの繊維軸方向に垂直な繊維横断面における平均分散直径が5μmよりも大きい場合には、ブレンド界面の面積が減るため、中空部の数が少なくなりやすく、軽量性に劣る傾向にある。あるいは繊維強度についても低くなる場合がある。そして該重合体Bの繊維軸方向に垂直な繊維横断面における平均分散直径は、繊維の単糸直径に比べて小さいほど好ましく、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。また、該平均分散直径の繊維軸方向に垂直な繊維横断面の直径(換言すると繊維直径)との比率は、より多くの中空部が生成するあるいは繊維物性が優れるという点において、[繊維直径/島成分の平均分散直径]の値が5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましい。なお該重合体Bの繊維中の非相溶性及び平均分散直径は後述するD.の方法で確認、または測定によって得られる値の平均値として定義される。
【0076】
本発明の繊維は、特に制限されるものではないものの、特にタイヤ用素材として用いる際の加硫による形態変化が小さいことが望ましいことから、160℃加熱大気中、15分間保持した際の収縮率(乾熱収縮率)が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることがさらに好ましい。
【0077】
本発明の繊維の繊維強度は、高いほど好ましく、実用性を考慮して4.0cN/dtex以上であることが好ましい。特に本発明のようにタイヤに用いられる場合には、丈夫な素材であることが求められる。そして、かかる繊維の強度は4.2cN/dtex以上であることがより好ましく、4.5cN/dtex以上であることがさらに好ましく、4.7cN/dtex以上であることが特に好ましい。そして該強度は高いほど好ましいものの、中空部を形成する際の繊維の強度としては中空部の破壊が起こることを未然に防ぐために、10cN/dtex以下の強度とすることが好ましく、8cN/dtex以下の強度とすることがより好ましい。なお該繊維強度は後述するA.の方法で測定される。
【0078】
また本発明の繊維は、繊維自体の形態安定性が優れることが好ましいことから、20℃での繊維の破断伸度が100%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。また繊維の伸度の下限については特に制限されるものではないものの、生産にて達成しうるものとして3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。なお該繊維の破断伸度は後述A.の方法で測定される。
【0079】
本発明の繊維には、本発明の主旨を損ねない範囲で、重合体Aと重合体Bと前述の好ましいとされる相溶化剤以外のポリマを配合することもできる。
【0080】
本発明の繊維の見かけ比重は、1.20以下であることが好ましい。繊維の見かけ比重は繊維の軽量性そのものの指標であり、該見かけ比重が1.20以下であると軽量性に非常に優れ好ましい。そして、かかる繊維の見かけ比重は、1.10以下が好ましく、1.05以下がより好ましく、1.00以下が特に好ましい。また見掛け比重は小さいほど優れ好ましいものの、下限としては生産しうるものとして、見掛け比重は通常0.10以上、汎用的には0.40以上の繊維を達成・生産しうる。なお該繊維の見掛け比重は後述B.の方法で測定される。
【0081】
本発明の繊維は、ゴム組成物中で用いられる際に好適なディップ処理を施したものであっても良い。該ディップ処理を施す場合には、繊維を好ましくは230℃以下、より好ましくは150〜230℃の加熱炉中で一定時間熱処理し、同時にストレッチ条件で好ましくは0.6g/d以下、より好ましくは0.2〜0.5g/dの張力下で延伸しつつ、ディップ処理液中に浸漬して処理することが好ましい。前記ディップ処理液は特に制限されるものではなく、好ましいものとしては、合成繊維とゴムとの接着処理に用いる、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックスからなるR・F・L処理液、およびこのR・F・L処理液にパラクロルフェノールとレゾルシン・ホルムアルデヒドとからなる共縮合物(商品名:デナボンド(ナガセ化成工業製))等を添加した処理液、等が例示される。ディップ処理後、所望の繊維長にカットすることで繊維が得られる。
【0082】
本発明の繊維を製造する手段としては、概ね、通常用いられる合成繊維の製造方法を採用することができ、例えば、樹脂の溶融体をノズルから吐出する溶融紡糸法が好適に用いられる。この溶融紡糸法においては、前述の通り繊維表層に中空部のないスキン層を形成させるために芯鞘型の複合紡糸法を採用して、鞘成分としてスキン層を配置しても良い。
【0083】
該溶融紡糸法により得られた繊維(未延伸糸)の場合、必要に応じて、一旦、前述の重合体Aのガラス転移温度以下に冷却され、好ましくは100〜10000m/分、より好ましくは500〜8000m/分、特に好ましくは1000〜6000m/分の引取速度において引き取った後、巻き取ることなくもしくは一旦巻き取った後、好ましくは1.5倍以上の延伸倍率で、より好ましくは3.0倍以上の延伸倍率で、特に好ましくは4.0倍以上の延伸倍率で、高い延伸張力で延伸加工もしくはフィラメントの場合は高い張力での延伸仮撚り加工されることが好ましい。ここで中空部を発現させる方法としては前述の通り繊維に高い伸長応力を印可し中空部を発現しうる方法が好ましく採用され、例示すると、溶融紡糸で巻き取って得られた未延伸糸を高倍率で延伸する方法、紡糸時に未延伸糸を巻き取ることなく連続して高倍率で延伸する方法、紡糸において引取速度4500m/分以上の高速で引き取る方法、などが挙げられ、あるいは巻き取った繊維を、または走行中の繊維を加熱するか、あるいは特定の光を照射することにより、繊維中の重合体Bを収縮させる方法などであっても良く、それぞれ任意の方法を採用しうる。そしてこれらの方法の中で工程が簡便でかつ中空部生成の制御が容易という点で、溶融紡糸において引き取った繊維を巻き取って得た未延伸糸を4.5倍以上の高倍率で延伸する方法、紡糸において引き取った繊維を容器に入れて得た未延伸糸を4.5倍以上の高倍率で延伸する方法、あるいは紡糸時に未延伸糸を引き取った後、巻き取ることなく、または容器に入れることなく、連続して4.5倍以上の高倍率で延伸する方法が好ましい。特に該延伸する工程において繊維は、加熱されることなくもしくは加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、加熱された液状熱媒(たとえば水やシリコーンオイル、グリコールなど)、蒸気状熱媒(水蒸気など)、あるいはその他の媒体として加熱気体や電磁波などを用いた非接触型のヒーターなどにより加熱された後、1段もしくは複数段階によって延伸される。前述の中空部をより効果的に生成させるためには、高張力下でピン状物、プレート状物、加熱された液状熱媒(たとえば水やシリコーンオイル、グリコールなど)あるいは蒸気状熱媒(水蒸気など)を用いることにより、未延伸糸が加熱されると同時に延伸することが好ましく、特に40℃〜90℃に加熱された温水を熱媒として用いた温水浴中での加熱延伸では、中空部の生成が非常に優れ、顕著に軽量性に優れた繊維が得られるため特に好ましい。また延伸加工された繊維はそのまま巻き取られても良いが、延伸温度+10℃以上の温度で熱セットされた後に巻き取られることが好ましい。あるいは短繊維の場合は、延伸加工された後に、捲縮加工が施され、その後に熱処理を施し、0.05mm〜200mmの長さにカットされることで得られ、捲縮加工の前および/または後に加熱処理を施しても良い。
【0084】
また延伸仮撚り加工においては、繊維は、延伸した後に加熱しながら、もしくは加熱されることなく、あるいは未延伸糸を加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、加熱された液状熱媒(たとえば水やシリコーンオイル、グリコールなど)や蒸気状熱媒(水蒸気など)、あるいは非接触型のヒーターなどにより加熱した後、ディスク状物あるいはベルト状物によって仮撚り加工される。延伸仮撚り加工された繊維は、そのままもしくは特に制限されるものではないものの、延伸仮撚り温度+10℃以上の温度で熱セットされた後に巻き取られることが好ましい。
【0085】
本発明の繊維は、ゴム組成物用として、特にタイヤ用として用いられる際に、強い太陽光線にさらされたり、水洗いされたりなど経時的過酷な条件下で用いられることを想定した場合に、繊維の強度が短期間に劣化、寸法変化、などが生じないように、耐光剤を配合したり、防縮加工を施したりしても良い。
【0086】
本発明の繊維はゴム組成物用であるが、該ゴム組成物に用いられるゴムの種類については本発明の繊維の特性を損ねない限り特に制限されるものではなく、目的や用途に応じて適宜選択される。例えば、天然ゴム、各種ブタジエンゴム、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム 、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、などが例示され、これらゴムは1種類を単独で用いても良く、あるいは複数種類のゴムを任意の含有量で組み合わせて用いても良い。
【0087】
本発明の繊維がゴム組成物に用いられる際の繊維の含有量は、ゴム組成物自体、ひいては該ゴム組成物から形成されるタイヤの軽量性が向上する点から3重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。また本発明の繊維の含有量は、タイヤの軽量性が向上することから多いほど好ましいものの、過度に多い場合、ゴム組成物としての加工性が劣ることもあり得るため、50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0088】
本発明の繊維には、本発明の主旨を損ねない範囲において、発泡剤が保持されていても良い。発泡剤は、後述するように加硫時に発泡することでタイヤ中に好ましいとされる気泡を生成し、タイヤの操縦安定性などに効果的に寄与する。発泡剤は繊維表面に保持、すなわち吹きつけや塗布など様々な方法で繊維表面に付着されていても良く、あるいは繊維を発泡剤そのものもしくは発泡剤を含有する液体あるいは流体に常圧あるいは高圧で浸漬または含浸せしめて、繊維中の任意の場所に、特に繊維の中空部に発泡剤が保持されていても良い。その際、好ましく使用される発泡剤としては、例えば、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン化合物および重炭酸塩の中から選ばれる少なくとも一種を用いることができ、具体的には、アゾジカルボンアミド、N,N′−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4,4′−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ヒドラゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート、炭酸水素ナトリウム等が好適なものとして例示され、これらは、永和化成工業社からそれぞれ「ビニホール」、「セルラー」、「ネオセルボン」、「エクセラー」、「スパンセル」、「セルボン」等の商品名で市販され、入手可能である。
【0089】
該発泡剤は、分解温度が120〜180℃が好ましく、140〜160℃であることがより好ましい。この温度域で、ゴム組成物の成形、あるいはそれに続く加硫時に充分な大きさの均一な気泡を形成させることが可能となる。なお、該発泡剤の分解温度が高過ぎる場合には、尿素等の発泡助剤との併用によって分解温度を120〜180℃に調整することも可能である。また該発泡剤の繊維中での含有量は、0.01〜500重量部が好ましい。
【0090】
本発明の繊維には、発明の主旨を損ねない範囲で難燃剤、滑剤、酸化防止剤、結晶核剤、末端基封止剤等の添加剤を少量含有しても良い。更に、カーボンブラックやシリカ等のゴム組成物となした場合に有効に機能する補強剤、加硫剤、加硫促進剤、架橋剤、架橋促進剤、加硫各種オイル、老化防止剤、充填剤、軟化剤、可塑剤などの一般のタイヤ用ゴム組成物に配合される各種配合剤をあらかじめ繊維中に加えることができ、これら配合剤の配合量も一般的な量とすることができる。またこれら添加剤は、繊維全体に配合されていても、あるいは繊維中の特定部分のみ、すなわち繊維の中空部分であったり、繊維の中空部以外の部分であったりと、いずれかの場所に配合されていても良い。
【0091】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。本発明は、当然ながら以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【実施例】
【0092】
A.繊維の繊維強度および破断伸度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用い、短繊維にカットする前のフィラメント状繊維について、初期試料長200mm、引張速度200mm/分で測定し、5回測定した平均値を測定値とした。なお短繊維にカットした繊維を測定する場合は、概ね繊維長5mmまでであれば測定でき、繊維の上下20%ずつを挟んで保持して、挟まれていない残りの部分を初期試料長として引張速度50mm/分で測定して、5回測定した平均値を測定値とした。
B.繊維の見かけ比重の測定
繊維の見かけ比重は、以下の(a),(b)の方法で測定・算出した。
(a)繊維の見かけ比重が0.659以上の場合
JIS−L−1013(1999) 8.17.1項(日本規格協会発行、化学繊維フィラメント糸試験方法)に定められた浮沈法を参考にして、20℃±0.1℃の温度下、繊維の見かけ比重が1以上であればNaBr水溶液を用いて、繊維の見かけ比重が1〜0.789の間であれば重液に水を軽液にエチルアルコールを用いた混合液体にて、繊維の見かけ比重が0.789〜0.659の間であれば重液にエチルアルコールを軽液にn−ヘキサンを用いた混合液体にて、それぞれ繊維を5分放置した後の浮沈平衡状態を確認し、前述8.17.1項記載の通り、浮かびも沈みもしない混合液体の比重値を測定し、繊維5本を測定した比重値の平均値を測定比重値(Q)とした。
(b)繊維の見かけ比重が0.659未満の場合
マルチフィラメントを用いて、ゲージ巾が20/インチ(2.54cm)、ピッチ長が1mmである筒編を作製し、100g±10gとなるよう事前に重量を測定し、またあらかじめ重量および体積の分かったおもりを筒編に固定し、4℃±1℃に調製したイオン交換水に沈めて5分間の超音波による脱泡を行った後、筒編みの体積を測定し、10枚測定した布帛の比重値の平均値を測定比重値(Q)とした。
C.単繊維直径、中空部が繊維軸方向に連通していないことの確認、中空部の直径確認および平均直径算出、繊維の中空率の算出、平均中空部数、繊維横断面における中空部の傾斜構造の確認、スキン層の確認
試料台に貼り付けたカーボンテープ上に単繊維を設置し、白金蒸着処理(蒸着膜圧:25〜50オングストローム 処理時間:約120秒)を行った後、収束イオンビーム(FIB)切削加工−走査型電子顕微鏡(SEM)観察装置(FEI社製 STRATADB235)にて、加速電圧30kVで加速したGa収束イオンビームにより、粗切削加工(電流:約7000pA、処理時間:約20分)、および精密切削加工(電流:約3000pA、処理時間:約4分)の2工程で、真空度1.4×10−13Paの雰囲気中において、繊維横断面観察を行う際は試料を繊維軸方向に対して垂直に切削し、繊維縦断面観察を行う場合には試料の繊維中心付近を繊維軸方向に平行に繊維直径の5倍以上の長さで切削した。切削加工を施した後、該装置が所持する走査型電子顕微鏡を用い、真空度1.4×10−19Paの雰囲気中において、試料傾斜52度、加速電圧5kVの条件で、倍率200〜150000倍のうちの下記各項目で必要とする任意の倍率で繊維横断面、および繊維縦断面の観察を行った。なお横断面写真は通常試料傾斜52度で観察された写真であるため、得られた繊維横断面写真の本来の繊維形状については、その外接円が、短軸の長軸に対する比率が0.79の楕円となって見える。また単繊維直径については、繊維の繊維軸に垂直な繊維横断面の外接円の直径と同じであり、前述の楕円の長軸が該外接円直径となり、すなわちこれで単繊維直径が求められる。
(a)中空部が繊維軸方向に連通していないことの確認
該不連続性については、一つの縦断面写真において繊維軸方向に途切れている中空部が存在すること、または繊維直径よりも5倍以上大きく離れた任意の繊維横断面5枚について写真を重ねて、中空部の重なりが無いこともしくは中空部の位置関係が各々の写真で異なることによって確認した。なお繊維軸方向に不連続な中空部を有する場合は○、該中空部が全て連続であるか、もしくは中空部を有さない場合は×として評価した。
(b)中空部の直径確認、平均直径計算
倍率80000倍以上で観察した繊維横断面の画像を白黒にデジタル化し、コンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)を用いて繊維横断面の画像上に存在する認識できる個々の中空部について、それぞれ面積を計算し、該面積値から略円形と判断して計算して中空部の直径を算出した。またそれらのうち直径が20nm以上のものを本発明における中空部として認め、全ての中空部について平均値を求めることによって平均直径を算出した。
(c)繊維の中空率の算出
該横断面画像上に存在する倍率80000倍以上で認識できる全ての中空部の面積の総和を計算し、繊維横断面の面積との割合を算出した値を用い、前述の繊維直径よりも5倍以上大きく離れた任意の繊維横断面5枚について同様に算出したその5枚の中空率の平均を、用いた繊維の中空率とした。
(d)平均中空部数
繊維横断面において、前述の中空部の直径を算出した全ての中空部の数を数え、繊維直径よりも大きく離れた任意の繊維横断面5枚について中空部の平均値を算出し、用いた繊維の平均中空部数とした。
(e)繊維横断面における中空部の傾斜構造の確認
繊維の繊維軸方向に垂直な繊維横断面の写真において、上述(b)と同様の画像解析手法により、該繊維横断面形状が、(1)繊維横断面形状と相似、(2)繊維横断面形状と図形中心を共有する、(3)図形の、図形中心から外辺までの距離rが、繊維横断面の中心から外辺までの距離Rの半分、の条件を満たす図形によって外層部と内層部に分けた場合に、内層部に存在する中空部の平均直径d1と、外層部に存在する中空部の平均直径d2との関係でd1/d2≧1.01であることを満たす場合に、傾斜構造を有する(○)とした。
(f)スキン層の確認
前述(b)項にて求めた個々の中空部について、直径が20nm以上の中空部と認められるもっとも繊維表層に近い中空部について、中空部の最も繊維表面に近い辺と、繊維表面からの距離を求め、該距離をもってスキン層とみなしてかつスキン層の厚みとし、更に前述で求めた単繊維直径と該スキン層の厚みとの比率を求めた。
D.重合体Bの繊維中の非相溶性及び平均分散直径の確認
繊維をエポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて繊維軸方向と垂直方向に切削して単繊維横断面の超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所製 H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で横断面観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。該断面写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において画像解析することによって重合体Bの非相溶性及び平均分散直径について確認した。平均分散直径については横断面写真上に存在する重合体Bの大きい順から上位100個の全ての重合体Bの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算した重合体Bの直径の平均値によって算出した。更に非相溶性については、該平均分散直径が10nm以上であれば非相溶であると判断した。
E.ガラス転移温度(TgpあるいはTg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用いて試料10mgで、昇温速度16℃/分で測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される結晶融解の吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
F.臨界表面張力の測定
重合体Aあるいは重合体Bからなるフィルム(重合体Bでフィルムを形成できるものに限る)において、純水72.8dyne/cm、エチルアルコール(特級以上)22.3dyne/cm、ジオキサン33.6dyne/cm、ヘキサン18.4dyne/cm、20%アンモニア水59.3dyne/cmの5種類の液体を用いて、20℃、湿度60%、静置の条件下、平面試料上に液滴を置いて液滴が静止したときに、液滴が接している固体平面と液滴が空気層と接している液滴表面とがなす角度を接触角θとして測定し、用いた液体の表面張力に対しcosθをプロットし(Zismanプロット)、完全に濡れる、すなわちcosθ=1となるときの表面張力をプロットした点について外挿することで臨界表面張力を求めた。
G.固有粘度(IV)、極限粘度[η]の測定
ポリエステル系ポリマの場合は、試料をオルソクロロフェノール溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。ポリアミド系ポリマの場合は、試料を蟻酸に溶解し、ポリエステル系ポリマと同様の方法で測定した。
H.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、ノズル長10mm,ノズル内径1mmで、ピストン押し込み速度がそれぞれ1,2,5,10,20,50,100,200,500mm/分について測定し、得られた値についてX軸に剪断速度[sec−1]、Y軸に剪断粘度[Pa・秒]を両対数目盛でプロットし、剪断速度10sec−1の時の剪断粘度値を求めた。そして5回求めた値の平均値を溶融粘度の測定値とした。なお測定時間については、試料の劣化を防ぐため5回の測定を30分以内で完了した。
I.マレイミド構造の同定
BIO−RAD製FT−IR測定装置FTS−40を用いて、透過光強度を測定し、1184cm−1(C−N結合に由来するピーク)付近、1384cm−1(5員環構造に由来するピーク)付近、及び1710cm−1(マレイミドのC=Oに由来するピーク)付近のそれぞれに全てピークを有することを確認した場合に、マレイミド構造を有すると判断した。
J.タイヤの操縦安定性評価
氷盤上を初速30km/hで走行し、制動した時の制動距離を測定し、従来タイヤを100として指数表示した。数値は大きい値ほど、制動が良好であることを示す。
K.乗り心地性評価
5人のテストドライバーによる各タイヤの乗り心地を、従来タイヤ(評価は5点)に対して、0点から10点の10点法で採点した結果(5人の平均値)を点数で示した。数値は大きい値ほど、乗り心地性が良好であることを示す。
L.タイヤの軽量性評価
得られたタイヤの重量を、従来タイヤを100として指数表示した。数値は小さいほど軽量性が高いことを示す。
【0093】
<繊維の製造>
比較例1
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.02重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.07重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.05重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.65のポリエチレンテレフタレート(以下PET)を得た。
このPETを用いて、2軸エクストルーダ型溶融紡糸機を用いて、紡糸温度285℃で孔形状が丸、孔径が0.25mm、孔数が36個の口金を用いて溶融紡糸を行い、1000m/分の引き取り速度で引き取った後巻き取って、398dtex−36フィラメントの、断面形状が丸状のポリエステルマルチフィラメント繊維を得た。紡糸中に糸切れは発生せず、製糸性は優れていた。
得られたPET繊維について延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度を10m/分とし、送糸ローラーの次に設置した第1ローラーと第2ローラー間で延伸を行うために長さ80cmの浴長で、液温80℃に加熱した温水浴バスを設置し、この中に繊維を通過させることにより、延伸倍率5.0倍で延伸し、第2ローラーを130℃で熱処理した後、冷ローラーで糸をPETのTg以下に冷却した後に巻き取った。比較例1の結果を表1に示す。
【0094】
比較例2
比較例1で得られたPETを重合体Aとして用いて、2軸エクストルーダ型溶融紡糸機を用いて溶融紡糸を行う際に、重合体Bとして電気化学工業株式会社製スチレン−無水マレイン酸−Nフェニルマレイミド共重合樹脂(デンカIP、タイプMS−NA、以下デンカIP)を6重量%含有せしめた以外は、比較例1と同様にして溶融紡糸を行い、繊維断面形状が丸で、総繊度395dtex、フィラメント数36のマルチフィラメントを得た。そして比較例1と同様にして温水浴バスを用いて延伸する際に、送糸速度は同じのまま全て倍率4.5倍で延伸を行い繊維を得た。該繊維は延伸する際に繊維が脆く、比較例1ほどは高倍率で延伸が出来なかったため繊維強度が低くなったことに加え、延伸により生成する中空部が繊維の外辺部まで生成したため、単繊維直径に対するスキン層の厚みの比が1200分の1と、実質的にスキン層が形成されなかった。該繊維を折り曲げたところ繊維の曲がりが回復せず、中空部のつぶれと推測される、繊維の折り曲がり箇所が発生した。
【0095】
実施例1〜3
比較例1で得られたPETを重合体Aとして用いて、2軸エクストルーダ型溶融紡糸機を用いて溶融紡糸を行う際に、重合体Bとして実施例1:三井化学製ポリメチルペンテン(TPX(登録商標)、タイプRT18、以下PMP)、実施例2:JSR(株)製ポリ(テトラシクロドデセンモノエステル)のアートン(登録商標、タイプF5023、以下アートン)、実施例3:ポリプラスチックス(株)製エチレン・ノルボルネン共重合樹脂TOPAS(登録商標、実施例7も同様でタイプ6017,以下TOPAS)、および実施例1については相溶化剤として東レ・デュポン製のハイトレル(登録商標、タイプ4057)をそれぞれ含有せしめた以外は、比較例1と同様にして溶融紡糸を行い、繊維断面形状が丸でフィラメント数36のマルチフィラメント繊維を得た(実施例1の繊度:389dtex、実施例2および3の繊度392dtex)。そして比較例1と同様にして温水浴バスを用いて延伸する際に、送糸速度は同じのまま全て倍率5.5倍で延伸を行い、それぞれ繊維を得た。
【0096】
実施例4
実施例2において、重合体AとしてPETの代わりに東レ株式会社製ナイロン6アミラン(CM1017、以後ナイロンと称する)を用い、アートンの含有量を12重量%とし、紡糸温度を260℃とした以外は実施例1と同様の紡糸方法にて276dtex−36フィラメントの断面形状が丸のブレンドマルチフィラメントを得た。延伸倍率は4.6倍とし、液温40℃に加熱した温水浴バスと第2ローラーを100℃で熱処理した以外は比較例1と同様の方法で延伸を行い、断面形状が丸の繊維を得た。
【0097】
実施例5
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)、酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得た低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.15のポリトリメチレンテレフタレート(以下PPT)を得た。
実施例4において、重合体Aとしてナイロンの代わりに該PPTを用いて、また重合体Bとして三井化学製アペル(登録商標、タイプ6015T、以下アペル)を12重量%、さらに相溶化剤に実施例1と同じ東レ・デュポン製のハイトレル(登録商標、タイプ4057)を15重量%用いた以外は実施例4と同様の溶融紡糸を行い、また延伸については延伸倍率は4.6倍とし、液温60℃に加熱した温水浴バスと第2ローラーを120℃で熱処理した以外は比較例1と同様の方法で延伸を行い、断面形状が丸の繊維を得た。
【0098】
実施例6
実施例2において図2に示すスリット長L0.5mm、スリット幅d0.08mm、孔深度0.4mm、孔数が24である口金を用いた以外は実施例2と同様の溶融紡糸および延伸を行い、断面形状が扁平(−)型の異形断面繊維を得た。
【0099】
実施例7
実施例3において図3に示す、各々のスリット同士が120度の角度をなすスリット長X0.5mm、スリット幅Y0.08mm、孔深度0.4mm、孔数が24であるY字型の孔形状の口金を用いた以外は実施例3と同様の溶融紡糸および延伸を行い、断面形状が図1に示す3葉型の異形断面繊維を得た。
【0100】
実施例8〜10
実施例8では比較例1のPETを、実施例9では実施例5のPPTを、また実施例10では東レ株式会社製ポリブチレンテレフタレート(タイプ1100S、IV0.85、以下PBT)を用いて、また架橋ポリマとして実施例8では綜研化学株式会社製のケミスノー(登録商標)グレードMX−150(架橋アクリル)を、実施例9では同じくケミスノーのSX−130H(架橋ポリスチレン)を、実施例10ではGE東芝シリコーン株式会社製のトスパール(登録商標)のグレードXC99−A8808(架橋シリコーン)を、それぞれ5重量%(実施例8および9)、10重量%(実施例10)添加して、実施例8については延伸倍率を4.2倍とした以外は比較例1と同様の溶融紡糸および延伸を、実施例9、10については延伸倍率を4.0倍とした以外は実施例5と同様の溶融紡糸および延伸を行い、繊維をそれぞれ得た。なお、これら3つの架橋ポリマに関し、その臨界表面張力は測定できなかった。
【0101】
<ゴム組成物の製造>
ゴムとしてジエン系ゴムであるJSR(株)製SBR1502を用いて、表2に示す各種添加剤を各々ゴム100重量部に対する添加量(重量%)で、また前述比較例1および実施例1〜10で作製した繊維を用いて表3に示す繊維量(ゴム組成物となした場合の100重量部中における繊維の添加量(重量%))および繊維長で次の方法によりゴム組成物およびタイヤを作製した。なお表3に示す繊維は、約10万デシテックス程度のトウとした後にカッターで切断して、その繊維長となるように作製した。
まず(株)神戸製鋼所製1.7Lバンバリーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外を135℃で混練した後、得られた混練物に硫黄、加硫促進剤を加えて二軸ローラーにて混練してゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を用いてタイヤのトレッドを形成し、150℃において30分間加硫することで乗用車用195/60R15サイズのラジアルタイヤを得た。
該タイヤの軽量性評価、および該タイヤを装着した普通乗用車を使用して、テストコースにおいて操縦安定性と乗り心地性の試験をそれぞれ実施した。比較例1においては従来タイヤとほとんど変わらない性能を示していたが、実施例1〜10においては、タイヤの軽量性が向上したほか、氷盤上での操縦安定性も、また乗り心地性も向上しているとの評価を受けた。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のゴム組成物用繊維はゴム組成物に含有せしめ、これを用いてタイヤを形成した場合に、優れた軽量性および操縦安定性を有するため、環境問題に対する乗り物の低燃費化に大きく寄与する。本発明を用いたタイヤは、手押し車や、自転車、自動2輪、あるいは自家用車やトラック、耕作機、軍事用車両、宇宙開発用車両、海洋開発用車両などのいわゆる自動車に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明における異形度を算出する手法を示す説明図である。
【図2】本発明における異形断面の繊維(扁平断面)を得ることが出来る口金孔形状の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例2における異形断面の繊維(3葉型断面)を得ることが出来る口金孔形状を示す説明図である。
【図4】本発明の繊維で傾斜構造を判断するための外層部と内層部を分けた一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0107】
1:外接円
2:内接円
3:外接円と内接円との間に包含される領域
4:内接円の内側に包含される領域
D1:外接円の直径
D2:内接円の直径
d:スリット幅(扁平断面糸用口金)
L:スリット長(扁平断面糸用口金)
X:スリット長
Y:スリット幅
P:重合体A
Q:中空部
S:重合体B
(ア):外層部
(イ):内層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維形成能を有する重合体Aと、Aに対して非相溶の重合体Bとからなり、繊維軸方向に垂直な繊維横断面で中空部を100個以上有しかつ該中空部が繊維軸方向に連通しておらず、かつ繊維表層に中空部のないスキン層を有する、繊維長が0.05〜30mmであるゴム組成物用繊維。
【請求項2】
繊維軸方向に垂直な繊維横断面において、繊維横断面の重心が繊維中に存在する繊維横断面形状を持つ繊維であって、該繊維横断面形状が、下記(1)の条件を満たす図形によって外層部と内層部に分けた場合に、内層部に存在する中空部の平均直径d1と、外層部に存在する中空部の平均直径d2との関係でd1/d2≧1.01であることを特徴とする請求項1記載のゴム組成物用繊維。
(1)繊維横断面形状と相似の図形で、繊維横断面形状と図形重心を共有し、かつ図形の、図形重心から図形外辺までの距離rが、繊維横断面の重心から外辺までの距離Rの1/2
【請求項3】
繊維横断面が異形度1.2以上の異形断面であることを特徴とする請求項1または2項記載のゴム組成物用繊維。
【請求項4】
繊維軸方向に垂直な繊維横断面における中空部の平均直径が0.10〜1.50μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム組成物用繊維。
【請求項5】
中空率が10〜65%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム組成物用繊維。
【請求項6】
重合体Aがポリエステル系ポリマ、ポリアミド系ポリマ、ポリオレフィン系ポリマの中から少なくとも1種選ばれてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム組成物用繊維。
【請求項7】
重合体Bが架橋ポリマであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のゴム組成物用繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−169813(P2007−169813A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−367564(P2005−367564)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】