説明

ゴム組成物

【課題】耐スコーチ性を向上させ、さらに、加硫を行って、タイヤのトレッド用ゴムに使用した場合には、タイヤの転がり抵抗を低減させることができるゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、シリカ10〜100重量部と、一般式(I)で示されるシラン化合物1〜15重量部とを配合したタイヤ用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのトレッド用ゴムの原料として好適なゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への関心が高まるにつれ、自動車の低燃費化が強く求められるようになった。自動車の低燃費化には、タイヤの転がり抵抗を小さくする、即ち、ゴムの内部損失の低減が有効である。そして、ゴムの内部損失を低減させるために、タイヤのトレッド用ゴム組成物において、シリカとカップリング剤としてシラン化合物が配合されている。
【0003】
従来より、ゴム組成物に配合されているカップリング剤には、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドまたはビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドのような硫黄連鎖結合を含むジスルフィド系もしくはポリスルフィド系のシラン化合物がある。しかしながら、これらのシラン化合物は、ゴムとの化学的な反応性が高いために、ゴムの加工中にスコーチが起こるという問題があった。
【0004】
特許文献1には、ゴムの加工中におけるスコーチの発生を抑制するために、チオール基(S−H)をチオエステル基(S−CO−)等に置き換えた構造のシラン化合物が提案されている。しかしながら、これらのシラン化合物でも、満足すべき耐スコーチ性が得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−110997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐スコーチ性を向上させ、さらに、加硫を行って、タイヤのトレッド用ゴムに使用した場合には、タイヤの転がり抵抗を低減させることができるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、一般式(I)で示されるシラン化合物をカップリング剤としてゴムに配合することにより、所期の目的を達成することを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、ジエン系ゴム100重量部に対して、シリカ10〜100重量部と、一般式(I)で示されるシラン化合物1〜15重量部とを配合したことを特徴とするゴム組成物である。
【0008】
【化1】

(式中、R〜Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、または環状のアルキル基、アルケニル基を表わす。nは1〜12の整数である。また、Yは炭素数1〜18の2価のアルキル基、アルケニル基、アルキン基、アリール基、または一般式(II)で示される構造を表わす。)
【0009】
【化2】

(式中、mは1〜6の整数、pは2〜8の整数、Xは酸素原子または硫黄原子を表わす。)
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴム組成物は、耐スコーチ性が良好であり、さらに、これを加硫してタイヤのトレッド用ゴムに使用した場合には、ゴムの内部損失が少ないので、タイヤの転がり抵抗を低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の実施において使用するシラン化合物は、一般式(I)で示されるものであり、分子の両末端がアルコキシシリル基である左右対称の構造(ビス体構造)を有し、メルカプトシランのチオール基(S−H)をスルフィド基(S−C)に置き換えた構造を有する点に特長がある。
【0013】
当該シラン化合物としては、例えば、
1,2−ビス(トリメトキシシリルエチルチオ)エタン、
1,2−ビス(トリエトキシシリルエチルチオ)エタン、
1,2−ビス(トリメトキシシリルプロピルチオ)エタン、
1,2−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)エタン、
1,4−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)ブタン、
1,6−ビス(トリメトキシシリルエチルチオ)ヘキサン、
1,6−ビス(トリメトキシシリルプロピルチオ)ヘキサン、
1,6−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)ヘキサン、
1,6−ビス(トリプロポキシシリルプロピルチオ)ヘキサン、
1,6−ビス(トリシクロヘキシルオキシプロピルチオ)ヘキサン、
1,12−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)ドデカン、
ビス(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
ビス(トリエトキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
ビス(トリイソプロポキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
エチレングリコールビス(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
エチレングリコールビス(トリエトキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
ジエチレングリコールビス(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
ジエチレングリコールビス(トリエトキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
トリエチレングリコールビス(トリメトキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
トリエチレングリコールビス(トリエトキシシリルプロピルチオエチル)エーテル、
1,4−ビス(トリエトキシシリルプロピル)シクロヘキシルスルフィド、
1,4−ビス(トリエトキシシリルプロピル)フェニルスルフィド、
2,5−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)トルエン、
1,4−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)−2−ブテン、
2,2’−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)エチルスルフィド
等が挙げられ、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0014】
当該シラン化合物は、ハロゲン化アルキル基を有するシラン化合物とビスメルカプト基を有する化合物を、適当な脱ハロゲン化水素剤の存在下、適当な有機溶剤中で加熱反応させることにより合成することができる。
【0015】
例えば、クロロプロピルトリエトキシシランとビスメルカプトエチルエーテルを反応させる場合には、トリエチルアミンの存在下、エタノール中で加熱すればよい。
【0016】
当該シラン化合物をカップリング剤として使用する場合、ゴムにシリカを混合する前、または、ゴムにシリカを混合している途中に添加する事が好ましい。
【0017】
本発明のゴム組成物においては、ジエン系ゴム100重量部に対して、シリカを10〜100重量部の割合で配合することが好ましく、30〜80重量部の割合で配合することがより好ましい。シリカの配合量が10重量部未満では、内部損失の改善効果が十分ではない。また、シリカの配合量が100重量部を超えると、ゴムが増粘して加工性が低下する。
【0018】
本発明のゴム組成物においては、ジエン系ゴム100重量部に対して、シラン化合物を1〜15重量部の割合で配合することが好ましく、3〜12重量部の割合で配合することがより好ましい。シラン化合物の配合量が1重量部未満では、内部損失の改善効果が得られない。また、シラン化合物の配合量が15重量部を超えても、内部損失の改善効果はほぼ頭打ちとなり、シラン化合物の使用量が増えるばかりで経済的ではない。
【0019】
本発明のゴム組成物に配合するジエン系ゴムとしては、従来からゴム工業の分野において使用されているものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらのジエン系ゴムは単独または組合わせて使用することができる。
【0020】
本発明のゴム組成物をタイヤのトレッド用ゴムに適用して低燃費特性を改善させるためには、ジエン系ゴムとしてSBRを使用することが好ましい。特に有機リチウム化合物を開始剤とする1,3−ブタジエンとスチレンの共重合体より得られたSBRを単独で、または、該SBR50重量%以上と他のジエン系ゴム50重量%以下をブレンドしたゴムを使用する事が好ましい。
【0021】
本発明のゴム組成物に配合するシリカについては、その窒素吸着比表面積(BET法)が、80〜300m/gであることが好ましい。窒素吸着比表面積が80m/g未満では、シリカの補強効果が得られ難くなる。窒素吸着比表面積が300m/gを超えると、シリカの分散性やゴムの加工性が低下する。
また、シリカの分散性を良好に維持するためには、シリカのDBP給油量が、150〜300ml/100gであることが好ましい。シリカのDBP給油量が150ml/100gより少ないとゴムの耐摩耗性が低下し、300ml/100gを超えた場合にはゴムの加工性が低下する。
このようなシリカとしては、東ソーシリカ工業社製のニップシールAQ、トクヤマ社製のトクシールURやU−13、デグッサ社製のウルトラジルVN3等の市販品が使用できる。
【0022】
本発明のゴム組成物には、ジエン系ゴム100重量部に対して、加硫剤として、可溶性硫黄あるいは不溶性硫黄の硫黄成分を0.5〜10重量部配合することが好ましく、更に、2〜5重量部の範囲で配合することがより好ましい。
【0023】
本発明のゴム組成物には、前述のシラン化合物、ジエン系ゴム、シリカの他に、従来からゴム用に一般的に使用されているカーボンブラック(表面処理したものを含む)やクレー、タルク等の補強剤や充填剤を配合することができる。これら補強剤や添加剤の配合量も一般的な量とすることができるが、好ましくは、ジエン系ゴム100重量部に対して、40〜120重量部の割合である。
【0024】
また本発明のゴム組成物には、この種のゴム配合成分として一般に使用されているスルフェンアミド系等の加硫促進剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化マグネシウム等の加硫促進助剤、ナフテンオイル系、アロマオイル系等のプロセスオイル、ステアリン酸等の分散剤(ワックス)、老化防止剤、更には酸化防止剤、オゾン亀裂防止剤、素練り促進剤、粘着樹脂、加硫遅延剤等を本発明の効果を損なわない範囲において配合することができる。
【0025】
本発明のゴム組成物は、前述の原料をバンバリーミキサー等の密閉式混練機、オープンロール等の混練機を用いて混練することによって得られる。そして、例えば、トレッドゴム等のタイヤ用ゴム部材として加硫成型される。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例及び比較例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において使用した主な原材料と、それらで採用した評価試験方法は以下のとおりである。
【0027】
[原材料]
実施例において使用したシラン化合物は、以下のとおりである。
・1,4−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)ブタン(「TESB」と略記する)
・1,6−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)ヘキサン(「TESH」と略記する)
・1,12−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)ドデカン(「TESD」と略記する)
・O,O’−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオエチル)エチレングリコール(「TES−DD」と略記する)
・2,2’−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)エチルエーテル(「TES−DE」と略記する)
・2,5−ビス(トリエトキシシリルプロピルチオ)トルエン(「BZY」と略記する)
【0028】
これらのシラン化合物については、クロロプロピルトリエトキシシランと1,4−ジメルカプトブタン等のジメルカプト基を有する化合物を、ナトリウムエトキシド存在下、エタノール中で加熱反応させた後、常法に従って単離・精製したものを使用した。収率は、いずれも80〜90%であった。
なお、これらについては、赤外線吸収スペクトル、NMRスペクトル、質量分析により所望のシラン化合物である事を確認した。
【0029】
比較例において使用したシラン化合物は、以下のとおりである。
・ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(デグッサ社製、商品名「Si69」)
化学式:(C25O)3Si-C36-S4-C36-Si(OC25)
・ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(デグッサ社製、商品名「Si75」)
化学式:(C25O)3Si-C36-S-C36-Si(OC25)
・3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製、商品名「NXT」)
化学式:(C25O)3Si-C36-S-CO-C15
【0030】
実施例及び比較例において使用した他の原材料は、以下のとおりである。
・SBR:(日本ゼオン社製、商品名「ニポール1723」)
・BR:(日本合成ゴム社製、商品名「BR01」)
・シリカ:(デグッサ社製、商品名「ウルトラジルVN3」、BET比表面積210m/g、DBP給油量172ml/100g)
・カーボンブラック:(旭カーボン社製、商品名「♯70」)
・プロセスオイル:(出光興産社製、商品名「アロマックス3」)
・ステアリン酸:(ミヨシ油脂社製、商品名「MXST」)
・亜鉛華:(正同化学工業社製、商品名「酸化亜鉛2種」)
・加硫剤:(四国化成工業社製、不溶性硫黄、商品名「ミュークロンOT20」)
・加硫促進剤:(大内新興化学工業社製、商品名「ノクセラーCZ−G」)
・老化防止剤:(大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック6C」)
【0031】
[加工性試験]
未加硫ゴムシートを用い、JIS K6300−1に基づいて、125℃条件のムーニースコーチタイム(t5)を測定した。
ムーニースコーチタイム(t5)は、数値が大きい程、加工性が良好であると判定される。
【0032】
[加硫特性試験]
未加硫ゴムシートを用い、日本ゴム協会標準規格SRIS3102−1977(加硫試験機による加硫試験方法)に基づいて、160℃条件での加硫試験を行い、加硫速度(tcΔ80)と最大加硫トルク(Mh)を測定した。加硫速度(tcΔ80)は、90%トルク到達時間(tc90)から10%トルク到達時間(tc10)を差し引いて示した。
加硫速度(tcΔ80)は、値が小さい程良好であると判定される。
また、最大加硫トルク(Mh)は、値が大きい程良好であると判定される。
【0033】
[内部損失測定試験]
未加硫ゴムシートを200×200×2mmの金型中で160℃×20分間加熱して、加硫ゴムシートを作成し、この加硫ゴムシートから5×20×2mmの短冊状の試験片を切り抜いた。
ユービーエム社製の粘弾性スペクトロメーター(型式Rheosol-G5000)に、掴み具間隔15mmで試験片をセットし、雰囲気温度60℃で周波数10Hz、動歪5°の捻り変形を与えて試験片の内部損失(60℃Tanδ)を測定した。
60℃での内部損失(60℃Tanδ)は、転がり抵抗の指標であり、値が小さい程、タイヤのトレッドゴムに使用した場合に、転がり抵抗が小さいことを表わす。
【0034】
〔実施例1〜10〕
SBR、BR、シリカ、カーボンブラック、プロセスオイル、ステアリン酸、シラン化合物を表1記載の配合割合になるように計量し、これらをバンバリーミキサーを用いて混練し、マスターバッチを調製した。これに、亜鉛華、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤を表1記載の配合割合になるように添加し、表面温度70℃の2本ロールミキサーを用いて混練し、シート状に加工したゴム組成物(未加硫ゴムシート)を調製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、加工性試験、加硫特性試験及び内部損失測定試験を行った。
得られた試験結果は、表1に示したとおりであった。
【0035】
〔比較例1〜7〕
実施例と同様にしてマスターバッチを調製し、これに、亜鉛華、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤を表2記載の配合割合になるように添加し、未加硫ゴムシートを調製して、評価試験を行った。得られた試験結果は、表2に示したとおりであった。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1及び表2に示した試験結果によれば、本発明のシラン化合物を配合したゴム組成物(実施例1〜10)は、従来技術のシラン化合物を配合したゴム組成物(比較例1〜7)に比べ、加硫特性は略同等であるものの、加工性及び内部損失特性(転がり抵抗)が改善されていた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上の通り、本発明のゴム組成物は、タイヤのトレッド用ゴムの原料に使用する事で、加工性に優れ、転がり抵抗がより一層低減された低燃費型タイヤを提供する事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、シリカ10〜100重量部と、一般式(I)で示されるシラン化合物1〜15重量部とを配合したことを特徴とするゴム組成物。
【化1】

(式中、R〜Rは炭素数1〜12の直鎖状、分岐状、または環状のアルキル基、アルケニル基を表わす。nは1〜12の整数である。また、Yは炭素数1〜18の2価のアルキル基、アルケニル基、アルキン基、アリール基、または一般式(II)で示される構造を表わす。)
【化2】

(式中、mは1〜6の整数、pは2〜8の整数、Xは酸素原子または硫黄原子を表わす。)

【公開番号】特開2012−111838(P2012−111838A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261660(P2010−261660)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】