説明

ゴム補強用コードおよびその処理剤

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐屈曲性と耐熱性に優れた水素化ニトリルゴム(以後、H−NBRとする)とメタクリル酸亜鉛を分散させた水素化ニトリルゴム(以後、H−NBR/ZDMAとする)との混合ゴムの補強用に使用されるゴム補強用コードに関する。
【0002】
【従来の技術】ゴムベルト、ゴムタイヤ等のゴム製品の耐強度性、耐久性を向上させるために、ガラス繊維、化学繊維等を補強用繊維としてゴム内に埋め込むことが広く一般に行われている。
【0003】しかし、一般に補強用繊維自体はゴムと馴染みが悪く接着性が悪いため、補強用繊維の表面を加工処理せずにゴム内に埋め込んだ場合、補強用繊維とゴムとは接着しないまたは接着力が弱く使用中に簡単に剥離してしまう。このような状態では、補強用繊維はゴム製品の補強材として求められる性能を満たすことが出来ない。
【0004】そのため、各種補強用繊維をゴム製品に使用する場合には、使用するゴムとの馴染みを改善し接着性を向上させる被覆層を補強用繊維表面に形成させることが広く一般に行われている。
【0005】例えば、レゾルシン・ホルマリン縮合物とH−NBRラテックスの混合処理剤をガラス繊維に塗布し、乾燥硬化させ形成させた被膜を有するガラス繊維コード(特開昭63−270877号)が挙げられる。また、第2層にハロゲン含有ポリマー、イソシアネートを塗布し、さらにマトリックスゴムと同一のゴムを含む第3層を形成させたゴム補強用繊維が提案されている(特公平5−71710号)。しかし、前者はH−NBRおよびH−NBR/ZDMAを混合したゴムと十分な接着強度が得られず、後者は3層の塗布が必要であるため製造工程が煩雑となりコストも高くなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】以上述べたように、使用するゴムと補強用繊維との接着性向上のために補強用繊維表面に被覆層を形成させることは広く一般に行われている。しかし、現在使用されているゴムと補強用繊維との種類は多岐に渡り、ゴムと補強用繊維との種類が異なれば、当然に接着性を向上させる被覆層の種類も異なる。
【0007】近年、H−NBR/ZDMAゴムが、様々な方面で注目されている。H−NBR/ZDMAゴムをH−NBRゴムと混合したゴムは、従来から使用されていたH−NBRゴムに比べてさらに耐熱性が高いので、従来使用できなかった分野に、または従来品より高性能な代替品として使用できる。
【0008】本発明は、H−NBRとH−NBR/ZDMAとを主成分とするゴムに補強用繊維を使用する場合において、上記ゴムとの接着性を高めた補強用コードおよび当該補強用コードの被覆層(補強用繊維上の第2層の表面処理膜)を形成する処理剤を得ることを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のゴム補強用コードは、ゴム補強用繊維に、レゾルシン・ホルマリン縮合物とゴムラテックスを含む処理剤を塗布し乾燥硬化させ第1被覆層とし、当該第1被覆層上にさらに異なる処理剤を塗布し乾燥硬化させ形成させた第2被覆層を有するゴム補強用繊維コードにおいて、当該第2被覆層用の処理剤が、ゴム配合物、加硫剤およびシランカップリング剤を主成分とするものである。
【0010】請求項2に記載の発明のゴム補強用コードは、請求項1に記載の発明において、第2被覆層用処理剤に含まれるシランカップリング剤が、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シランであるものである。
【0011】請求項3に記載の発明のゴム補強用コードは、請求項1または2に記載の発明において、第2被覆層用処理剤に含まれるゴム配合物が水素化ニトリルゴムとメタクリル酸亜鉛を分散させた水素化ニトリルゴムとからなる混合ゴムの溶解物であるものである。
【0012】請求項4に記載の発明の処理剤は、請求項1〜3のいずれか一項に記載された第2被覆層用処理剤である。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、補強用コードの最外被覆層、すなわち本発明でいう第2被覆層に、ゴム配合物、加硫剤およびシランカップリング剤を含む被覆層用処理剤を用いることによって、H−NBRおよびH−NBR/ZDMAを主成分とするゴムと補強用コードとの接着性を劇的に改善できることを見出した。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】本発明で用いられるゴム補強用繊維に制限はなく、その具体例としてはガラス繊維、ビニロン繊維に代表されるポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、アラミド(芳香族ポリアミド)などのポリアミド繊維、カーボン繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維等を例示することができる。これらの中でガラス繊維およびアラミド繊維が好適に用いられる。ガラス繊維の種類は、特に限定されるものではなく、無アルカリガラス、高強度ガラス等が例示される。またガラス繊維のフィラメント直径も特に限定されるものではないが、5〜13μmのものが一般的に使用される。またアラミド繊維としては、500〜5,000デニールのものが一般的に使用される。これらの繊維の形態としてはステーブル、フィラメント、コード状、ロープ状、帆布等を具体例として上げることができる。
【0015】請求項1に記載された第1被覆層を形成するゴムラテックスは、具体的にはブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、ジカルボキシル化ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、ビニルピリジン・ブタジエン・スチレンターポリマーラテックス、クロロプレンラテックス、ブタジエンゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンラテックス、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ラテックス、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムラテックスなどが好ましい。
【0016】第2被覆層用処理剤に含まれるゴム配合物としては、マトリックスゴムの種類により種々の単独、もしくは複数の混合ゴムが使用できる。ゴムの種類およびその溶媒は、特に限定されるものではないが、ゴムとしてはクロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、H−NBR、H−NBR/ZDMA等が用いられる。これらのゴムはマトリックスゴムの種類により、その相溶性等が考慮されて選択されるが、特にマトリックスゴムがH−NBRとH−NBR/ZDMAとの混合ゴムの場合、第2被覆剤中のゴム配合物も同じゴムを溶解したものが好適に使用される。
【0017】溶解されるH−NBRとH−NBR/ZDMAとの重量比は、H−NBR/(H−NBR/ZDMA)=45〜80/55〜20が好ましく、H−NBR/ZDMAの割合が小さいと十分な接着強度が得られず、割合が大きくなるとコードが硬くなり屈曲疲労性が悪くなる。
【0018】H−NBRとしては、ヨウ素価が120以下であることがゴムのフィルム強度およびマトリックスゴムとの接着性の観点から必要であり、好ましくはヨウ素価が0〜100である。このゴムとしてはゼットポール(商品名 日本ゼオン社製)が好適に使用できる。なお、ヨウ素価はJIS K0070にしたがって決めた値である。
【0019】本発明で言うH−NBR/ZDMAとしては、上記のゼットポールにポリメタクリル酸亜鉛を分散させたZSC(商品名 日本ゼオン社製)が好適に使用できる。
【0020】ゴムを溶解するための溶媒はベンゼン、トルエンもしくはキシレンのような芳香族炭化水素、トリクロロエチレンのようなハロゲン化炭化水素、メチルエチルケトン(以下MEKという)あるいは酢酸エチルなどが使用される。前記のH−NBRの様な配合ゴムの場合は、MEKが通常用いられる。
【0021】第2被覆層用処理剤に含まれる加硫剤は、硫黄やジクミルペルオキシド、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン等の有機過酸化物、およびp-ジニトロソナフタレンやp-ジニトロソベンゼンなどの芳香族ニトロソ化合物等があげられる。これらの多くはゴム配合物中にあらかじめ配合されている場合があるため、特に必要な場合添加される。
【0022】第1項記載のシランカップリング剤は、その種類に特に限定されるものではないが、具体的にはビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、 N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシランもしくはγ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。特に請求項2に記載のビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シランは接着性向上のために好適に使用できる。
【0023】その被覆層用処理剤の配合率は、ゴム配合物/加硫剤/シランカップリング剤=100/0〜10/1〜150重量部であり、さらに100/0〜6/30〜80重量部の範囲で好適に使用できる。
【0024】本発明の第2被覆層用処理剤は、カーボンブラック等の無機充填剤や可塑剤、老化防止剤、架橋助剤を含んでもかまわない。
【0025】本発明のガラス繊維の第2被覆層用処理剤は、通常は固形分含量3〜25重量%、より好ましくは5〜15重量%の溶液または分散液として調整される。
【0026】第2被覆層を形成させる方法は、特に限定されないが、通常は1次被覆層を備えているゴム補強用繊維を第2被覆層用処理剤の入った溶剤漕に浸し、その後乾燥炉を潜らせて、被覆層を形成させる。乾燥条件も限定されないが、一般に80〜160℃で0.1〜1分間行われる。付着率は1〜10%、好ましくは3〜7%である。
【0027】
【実施例】[実施例1]ガラス繊維(E-ガラス;9μm径のガラスフィラメント200本集束)は、3本引き揃えられて、公知の方法により、下記表1の第1被覆層用処理剤を塗布された。
【0028】
【表1】
------------------------------------------------------------------- 組成 配合量(重量部)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ビニルピリジンラテックス(固形分40%) 45 クロロスルホン化ポリエチレンラテックス(固形分40%) 20 レゾルシン・ホルマリン縮合物(固形分8%) 30 (レゾルシン/ホルマリン=1/1.3 モル比)
25%アンモニア水 1 水 4-------------------------------------------------------------------
【0029】第1被覆層が形成されたガラス繊維は、8回/10cmの下撚後、11本引き揃えて、さらに8回/10cmの上撚を掛けられた後、第2被覆層用処理剤を上記と同様の方法で塗布および乾燥硬化され、ガラス繊維コードとされた。
【0030】
【表2】
----------------------------------------------------------- 組成 配合率(重量部)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ゴム組成物 100 トルエン 416 メチルエチルケトン 180 ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン 50-----------------------------------------------------------
【0031】第2被覆層は、ガラス繊維コードの重量に対して、5重量%であった。上記のゴム組成物を下記表3に示す。
【0032】
【表3】
------------------------------------------------------- ゴム組成物 配合率(重量部)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ZETPOL2020(*1) 70 ZSC2000L(*2) 30 ZnO 10 ステアリン酸 1 カーボンブラック 30 TOTM(Trioctyl Trimellitate) 5 硫黄 0.1 1,3-Bis-(t-btylperoxy-isopropyl)-benzene 6-------------------------------------------------------(*1)商品名 H−NBR:日本ゼオン社製(*2)商品名 H−NBR/ZMDA:日本ゼオン社製
【0033】H−NBRおよびH−NBR/ZMDAの混合ゴムと上記ゴム補強用コードとの接着性をテストするために、表3の組成の試験片(幅25mm×長さ50mm×厚さ5mm)上に当該ガラス繊維コードを長辺沿いに並べて、160℃で30分加熱し接着した。
【0034】加熱接着後の当該試験片を、引張り試験器にかけ、繊維方向に引張ってその強度数値を測定した。その結果を、下記表5に記載した。
【0035】[実施例2]実施例1で使用したガラス繊維の代わりにアラミド繊維(テクノーラT202:帝人社製 1500d)を使用し、実施例1と同じ第1被覆層用処理剤を塗布した後、固形分付着率が12%となるよう調整し、250℃で1分間熱処理を行った。これを2本合糸して1インチあたり3.1回の下撚を施してアラミド繊維コードを得た。このようにして得られたアラミド繊維コードを用いて実施例1と同じ第2被覆層用処理剤を用いて処理を行った。第2被覆層は、アラミド繊維コードの重量に対して10重量%であった。接着性の評価方法は実施例1と同様にした。
【0036】[比較例1]上記実施例1で使用した第2被覆層用処理剤(表2に記載)の代わりに、下記表4に記載の処理剤を用いて第2被覆層を形成させた。その他は、実施例1と同じ条件で試験を行った。
【0037】
【表4】
------------------------------------------比較被覆層用処理剤 配合率(重量部)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−ゴム組成物 100トルエン 416メチルエチルケトン 180------------------------------------------
【0038】[比較例2]実施例2において、使用した第2被覆層用処理剤の代わりに、比較例1で使用した表4に記載の処理剤を用いて第2被覆層を形成させた。その他は、実施例2と同じ条件で試験を行った。
【0039】
【表5】


【0040】
【発明の効果】本発明は、耐屈強性、耐熱性に優れたH−NBRおよびH−NBR/ZDMA配合ゴムとガラス繊維との接着性を劇的に改善し、本発明によるガラス繊維コードを使用することによって、結果として高温環境下での使用が可能となり、かつ耐久性が大幅に向上したH−NBR系ゴム製品を得ることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ゴム補強用繊維に、レゾルシン・ホルマリン縮合物とゴムラテックスを含む処理剤を塗布し乾燥硬化させ第1被覆層とし、当該第1被覆層上にさらに異なる処理剤を塗布し乾燥硬化させ形成させた第2被覆層を有するゴム補強用繊維コードにおいて、当該第2被覆層用の処理剤が、ゴム配合物、加硫剤およびシランカップリング剤を主成分とすることを特徴とするゴム補強用コード。
【請求項2】 上記第2被覆層用処理剤に含まれるシランカップリング剤が、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シランである請求項1に記載のゴム補強用コード。
【請求項3】 上記第2被覆層用処理剤に含まれるゴム配合物が、水素化ニトリルゴムとメタクリル酸亜鉛を分散させた水素化ニトリルゴムとからなる混合ゴムの溶解物である請求項1または2に記載のゴム補強用コード。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか一項に記載の第2被覆層用処理剤。

【特許番号】特許第3360605号(P3360605)
【登録日】平成14年10月18日(2002.10.18)
【発行日】平成14年12月24日(2002.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−41841
【出願日】平成10年2月24日(1998.2.24)
【公開番号】特開平11−240308
【公開日】平成11年9月7日(1999.9.7)
【審査請求日】平成12年7月31日(2000.7.31)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【参考文献】
【文献】特開 昭47−11315(JP,A)
【文献】特開 平1−118534(JP,A)
【文献】特開 昭63−288283(JP,A)
【文献】特開 平2−18426(JP,A)