説明

ゴム製品又はゴム部材の使用方法

【課題】 ゴム材料からのゴミの発生防止と、後に付着するゴミの再付着防止とが可能なゴム製品又はゴム部材の使用方法、及びそれを利用した電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】 除塵環境下で使用するゴム製品又はゴム部材の表面の少なくとも一部を、溶剤により膨潤させた後に使用するゴム製品又はゴム部材の使用方法、及びそれを利用した電子部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、クリーンルーム等の除塵環境下で使用するゴム製品又はゴム部材の使用方法、及びそれを利用した電子部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、電子部品製造設備等におけるクリーンルーム内において、電子部品又は電子部品用部材等を取り扱う際の手袋としては、主に天然ゴム系のクラス100対応のもの等が使用されている。このようなゴム手袋は、製造時に十分な洗浄を行ってゴミの除去を行っているにもかかわらず、この手袋を用いてスパッタ処理前の基板等を取り扱うと、スパッタ処理の歩留まりが悪いといった問題があった。その原因として、手袋に付着したゴミの再付着によって基板が汚染されたものと考えられていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明者らが上記問題を解消すべく、手袋の交換回数を増加させたにもかかわらず、状況はほとんど改善しなかった。そこで問題となっているゴミを分析したところ、手袋自身から出るカルシウム、硫黄といったゴミが検出された。また、電子部品等に接触したときにゴム手袋に付着するシリカ、カーボン系のゴミが、基板に再付着してそれを汚染していることも判明した。
【0004】しかし、天然ゴム等のゴム材料では、これらのゴミの発生は不可避のものである。また、電子部品等に接触したときに手袋に付着するゴミについても、作業環境を改善するといった対策を行っても、それを減少させるには限界がある。そして、他のゴム材料やゴム材料に代替可能な材料についても検討したが、適切なものは特に存在しなかった。
【0005】一方、上記のような問題はゴム手袋に限らず、除塵環境下で使用するゴム製品又はゴム部材のいずれにも生じ得る問題であり、また、ゴム材料自体からの発塵については、取り扱い対象に直接接触しないようなゴム部材等でも生じ得る問題である。
【0006】そこで、本発明の目的は、ゴム材料からのゴミの発生防止と、後に付着するゴミの再付着防止とが可能なゴム製品又はゴム部材の使用方法、及びそれを利用した電子部品の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成すべく、ゴム材料表面の改質・処理などを種々試みた結果、適当な溶剤でゴム材料の表面を膨潤させるという意外にも簡単な方法により、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】即ち、本発明のゴム製品又はゴム部材の使用方法は、除塵環境下で使用するゴム製品又はゴム部材の表面の少なくとも一部を、溶剤により膨潤させた後に使用することを特徴とする。
【0009】本発明によると、ゴム製品又はゴム部材の表面の少なくとも一部を溶剤により膨潤させた状態とするため、後述の実施例の結果が示すように、ゴム材料からのゴミの発生防止と、後に付着するゴミの再付着防止とが可能となる。その理由の詳細は明らかではないが、膨潤したゴム材料は、自己の粘着力により発塵成分の脱落・再付着などを防止できると共に、外部から付着したゴミを粘着力により粘着しつつ溶着させて、外部に再付着するのを防止できるためと考えられる。なお、図2は、ゴム手袋1の表面にゴミ4が付着して、膨潤したゴム材料の粘着力により脱落しにくい状態を示している。
【0010】上記において、前記溶剤をほぼ定期的に前記表面に供給することが好ましい。これにより、溶剤供給後に付着したゴミを、新たな溶剤の供給によりゴム材料に溶着させて、その脱落や再付着をより確実に防止することができる。
【0011】また、前記除塵環境としては、後述する種々のものが挙げられるが、電子部品製造設備におけるものであることが好ましい。その場合、前述のように電子部品製造設備では、ゴム材料からのゴミの発生だけでなく、電子部品又は電子部品用部材からゴム材料へ付着するゴミの電子部品等への再付着が問題となるところ、本発明ではその両者をいずれも防止することができるため、本発明が特に有効なものになる。その結果、例えば半導体製造工程などにおいて基板等の汚染が少なくなり、後に続く成膜処理等における歩留まりを向上させることができる。
【0012】また、前記ゴム製品又は前記ゴム部材としては、後述する種々のものが挙げられるが、ゴム手袋、吸引保持部材、搬送支持部材、又は把持部材であることが好ましい。これらはいずれも除塵環境下で使用されると共に、清浄に維持すべき取り扱い対象物と直接接触する部分を有するため、ゴム材料からのゴミの発生と一旦ゴム材料に付着したゴミの再付着とが、特に大きな影響を与えるので、本発明が特に有効なものになる。
【0013】更に、前記ゴム製品又は前記ゴム部材の原料ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM,ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、及び多硫化ゴム(T)よりなる群から選ばれる1種以上が好ましい。これらは、いずれも架橋ゴムとして使用されるため、溶剤による膨潤が適度に生じて適度な粘着性を示すと共に、ゴム成分の溶出なども生じにくいものとなる。
【0014】一方、本発明の電子部品の製造方法は、除塵環境下において、ゴム製品又はゴム部材の表面の少なくとも一部を溶剤により膨潤させた後、電子部品又は電子部品用部材を取り扱うことで、電子部品を製造するものである。本発明の製造方法によると、上記の如く、ゴム材料からのゴミの発生と、一旦ゴム材料に付着したゴミの再付着とを有効に防止できるため、電子部品又は電子部品用部材の汚染が少なくなり、電子部品の製造の際の各種工程における歩留まりを向上させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明のゴム製品又はゴム部材は、除塵環境下で使用されるものであるが、除塵環境としては、上述の電子部品製造設備の他、精密機器製造設備、バイオテクノロジー関連設備、医療設備、食品製造設備、薬品製造設備、純水製造設備などのクリーンルーム、クリーンブース等を使用する各種設備におけるものが挙げられる。
【0016】ゴム製品としては、各種ゴム手袋の他、ゴム栓、ゴムチューブ、ゴムホースなどが挙げられる。また、ゴム部材としては、各種自動化機器における吸引保持部材、搬送支持部材、把持部材の他、シール部材、緩衝部材、防振動部材、免振部材などが挙げられる。なお、これらの部材は、表面にのみゴム材料が被覆されたものも含まれる。
【0017】上記ゴム製品等の表面を溶剤により膨潤させる方法は、いずれの方法でもよいが、例えば洗浄ビンに入った溶剤をふきかける方法、溶剤が入っている容器に浸漬する方法、スプレーで表面に吹き付ける方法などが挙げられる。なお、溶剤が表面に液滴として残留すると、その液滴が他のものに付着して汚染するおそれがあるため、表面に残留する溶剤液滴は少ない方が好ましい。これは、揮発性の溶剤を使用したり、ゴミの発生の少ないクロス等で吸収除去すること、あるいはクリーンエアーで強制的にゴム材料の表面を乾燥させることで達成される。
【0018】膨潤させる箇所としては、発塵防止等の観点からは表面全体とすることが好ましいが、清浄に維持すべき取り扱い対象物と直接接触する部分を少なくとも膨潤させることが好ましい。
【0019】前記溶剤をほぼ定期的にゴム表面に供給する方法としては、新たなゴミの付着量などを考慮して適当な時間間隔を設定すればよい。例えば数分〜数十分毎に上記の方法にて溶剤を供給するなどすればよい。また、溶剤の蒸発速度を考慮して上記間隔を設定してもよい。また、時間ではなく、一定量の作業後に溶剤を供給するようにしてもよい。
【0020】本発明に用いられる溶剤を、原料ゴムとの対応で例示すると表1のようになる。
【0021】
【表1】


これらのうち、適度な揮発性を有する低分子量(低炭素数)のもの、例えばアセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、石油エーテル、エタノール、トリクレン、ベンゼン、トルエンなどが、表面に液滴として残留しにくいため好ましい。特に、ケトン類としてのアセトンは、揮発性が高く乾燥までの時間が短く待ち時間が少なくなるため作業性を向上させることができること、また取り扱いやすいことから望ましい。なお、上記溶剤を複数混ぜ合わせたものも使用可能である。
【0022】一方、本発明の電子部品の製造方法は、以上で説明した本発明の使用方法を利用するものであり、除塵環境下において、ゴム製品又はゴム部材の表面の少なくとも一部を溶剤により膨潤させた後、電子部品又は電子部品用部材を取り扱うことで、電子部品を製造するものである。その際、膨潤を行う以外の点は、従来の電子部品を製造方法や、電子部品又は電子部品用部材の取り扱い方法を、何れも採用することができる。
【0023】製造される電子部品としては、特にクリーンな環境が要求される集積回路類(ULSI,VLSI,LSI,IC等)、光半導体素子、トランジスタ類などのいわゆる半導体部品、又は、電子回路を構成する各種電子部品、その他、プリント配線基板、多層配線基板、電池など、電子機器類を構成する部品の全てが包含される。また、電子部品用部材としては、電子部品を構成する各種素材、素子、材料、中間製品などが挙げられる。
【0024】
【実施例】以下、本発明の具体的な構成と効果を示す実施例等について説明する。
【0025】実施例1(天然ゴム手袋)
ゴム手袋として、天然ゴム90重量%、亜鉛華6重量%、イオウ(加硫剤)3重量%、ステアリン酸(加硫助剤)1重量%の組成のものを用意した。図1に示すように、ゴム手袋1の取り扱う部品に接触する部分1a(主に指先部分)に洗浄ビン2でアセトン3をふきかけた。数十秒大気中(常温)に放置し、表面に液滴が残留してないことを確認した。この手袋を用いて、通常通り、絶縁膜製造工程においてアルミナチタンカーバイト基板を取り扱い、スパッタ処理を行った。なお、アルミナチタンカーバイト基板は、電子部品である薄膜磁気ヘッドを製造するための基板等として使用され、例えばスパッタ処理等の薄膜堆積技術によって、絶縁膜や合金層等が積層され、磁気素子等と共に薄膜磁気ヘッドが成形される。
【0026】その結果、上記膨潤処理により、基板1平方センチメータ中、100個前後存在した大きさ0.5〜10ミクロンのゴミを5個前後に減少させることができ、スパッタ処理後における歩留まりを大きく改善(比較例1の約2倍)することができた。つまり、ゴム手袋表面を膨潤させることによって、手袋自身からゴミが発生したり、また作業中に基板等からゴミが付着したとしても、手袋から離れずアルミナチタンカーバイト基板を汚染してしまうことがなかった。
【0027】なお、上記手袋の処理はアルミナチタンカーバイト基板を用いた電子部品の製造工程において、大きな効果があったが、ゴム材料を用いて部品等を製造するあらゆる場合に転用できると考えられる。
【0028】比較例1(膨潤なし)
実施例1において、アセトンによる膨潤処理を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、スパッタ処理を行った。その結果、基板1平方センチメータ中、100個前後のゴミが存在し、スパッタ処理後の歩留まりも実施例1の約半分程度であった。
【0029】実施例2(ニトリルゴム手袋)
実施例1において、天然ゴム手袋の代わりに下記組成のニトリルゴム手袋を用い、アセトンの代わりにベンゼンを用いる以外は、実施例1と同様にして、スパッタ処理を行った。その結果、実施例1と同様に大きさ0.5〜10ミクロンのゴミを5個前後に減少させることができ、また、スパッタ処理後における歩留まりを大きく改善(比較例1の約2倍)することができた。
【0030】(ニトリルゴムの組成)ニトリルゴム90重量%、亜鉛華6重量%、イオウ(加硫剤)3重量%、ステアリン酸(加硫助剤)1重量%
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における膨潤処理の説明図
【図2】ゴミの付着状態の説明図
【符号の説明】
1 ゴム手袋
2 洗浄ビン
3 アセトン(溶剤)
4 ゴミ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 除塵環境下で使用するゴム製品又はゴム部材の表面の少なくとも一部を、溶剤により膨潤させた後に使用するゴム製品又はゴム部材の使用方法。
【請求項2】 前記溶剤をほぼ定期的に前記表面に供給する請求項1記載の使用方法。
【請求項3】 前記除塵環境が、電子部品製造設備におけるものである請求項1又は2記載の使用方法。
【請求項4】 前記ゴム製品又は前記ゴム部材が、ゴム手袋、吸引保持部材、搬送支持部材、又は把持部材である請求項1〜3いずれかに記載の使用方法。
【請求項5】 前記ゴム製品又は前記ゴム部材の原料ゴムが、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM,ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、及び多硫化ゴム(T)よりなる群から選ばれる1種以上である請求項1〜4いずれかに記載の使用方法。
【請求項6】 除塵環境下において、ゴム製品又はゴム部材の表面の少なくとも一部を溶剤により膨潤させた後、電子部品又は電子部品用部材を取り扱うことで、電子部品を製造する電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−26633(P2000−26633A)
【公開日】平成12年1月25日(2000.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−111642
【出願日】平成11年4月20日(1999.4.20)
【出願人】(000183417)住友特殊金属株式会社 (121)