説明

ゴルフクラブシャフトとその製造方法

【課題】 本発明はヘッド側とグリップ側の中間部に急テーパ部を設けるに当たり、強化繊維の捩れや蛇行を防止したゴルフクラブシャフトとその製造方法を提供するる。
【解決手段】 先細テーパ状の芯金に強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグシートを巻回して形成され、ヘッド側の小径部とグリップ側の大径部との間にテーパの変化が大きい急テーパ部が設けられたゴルフクラブシャフトであって、前記芯金の軸方向に対し±35°以上±55°以下の角度で強化繊維を傾斜させたプリプレグシートを巻回,積層したバイアス層と、強化繊維を前記軸方向に引き揃えた複数枚のプリプレグシートを巻回,積層したストレート層とでシャフト本体層が形成され、前記ストレート層を形成する前記プリプレグシートは、夫々、1枚毎の巻回数が2層未満の幅に形成され、且つ前記急テーパ部領域に対応してプリプレグシートの幅が幅広になる部分に長手方向の切り込みが入れられて前記急テーパ部を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグシートからなるゴルフクラブシャフトとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、カーボン繊維やガラス繊維,ボロン繊維等の強化繊維に、エポキシやポリエステル等の合成樹脂からなるマトリックスを含浸した繊維強化プリプレグシート(以下、「プリプレグシート」という)で形成したゴルフクラブシャフト(以下、「シャフト」という)が広く知られている。
【0003】
而して、この種のシャフトは比強度,比剛性に優れるが、強化繊維の方向や積層条件によって物性が大きく変化し、また、シャフトの形状や肉厚によっても物性が大きく変化するため、軽量で振り抜き易く、飛距離が出せるという課題を達成するため、従来、様々な提案がなされている。
【0004】
図5は特許文献1に開示されたゴルフクラブを示し、この従来例は、振り抜き易く軽量で強度やバランスに優れ、握り易く飛距離が伸びるゴルフクラブ1を提供することを目的として、シャフト3のグリップ5側からヘッド7側に向って縮径する比較的緩いテーパを有する小径部9をヘッド7側に設け、グリップ5側からヘッド7側に向って縮径する比較的緩いテーパを有する大径部11をグリップ5側に設けると共に、小径部9と大径部11との中間部に前記テーパよりテーパの変化が大きい急テーパ部13を設けたもので、斯様にシャフト3の中間部に急テーパ部13を設けることによって、前記目的を達成できることは勿論、シャフト3全体のバランス調整がし易くなる利点を有している。そして、前記急テーパ部13のテーパは20/1000〜120/1000mmに設定されている。
【0005】
前記構成のシャフト3は、図6に示す芯金15(15aが前記小径部9に対応し、15bが大径部11に対応し、15cが急テーパ部13に対応する)に対し、図中、17〜33で示すプリプレグシートを順次巻回した後、テーピングによる締め付け,加熱硬化,芯金15の除去,テープの除去,研磨等の工程を経て製造したもので、図5に示す各プリプレグシート17〜33の線方向は強化繊維の繊維方向を示している。
【特許文献1】特許第3718559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、斯様にシャフト3の中間部にテーパ変化が大きい急テーパ部13を形成する場合、急テーパ部13は外形変化が大きいため、芯金15への前記プリプレグシート19〜27の巻回時に、前記テーパ部15cの領域でプリプレグシート19〜27が周方向に引っ張られて強化繊維に捩れや蛇行が発生し、シャフト3に強度的な不具合が発生してしまう虞があった。
【0007】
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、上述の如くシャフトのヘッド側とグリップ側の中間部に急テーパ部を設けるに当たり、該急テーパ部領域での強化繊維の捩れや蛇行を防止したシャフトとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係る発明は、先細テーパ状の芯金に強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグシートを巻回して形成され、ヘッド側の小径部とグリップ側の大径部との間にテーパの変化が大きい急テーパ部が設けられたシャフトであって、前記芯金の軸方向に対し±35°以上±55°以下の角度で強化繊維を傾斜させたプリプレグシートを巻回,積層したバイアス層と、強化繊維を前記軸方向に引き揃えた複数枚のプリプレグシートを巻回,積層したストレート層とでシャフト本体層が形成され、前記ストレート層を形成する前記プリプレグシートは、夫々、1枚毎の巻回数が2層未満の幅に形成され、且つ前記急テーパ部領域に対応してプリプレグシートの幅が幅広になる部分に長手方向の切り込みが入れられて前記急テーパ部を形成していることを特徴とする。
【0009】
そして、請求項2に係る発明は、請求項1に記載のシャフトに於て、前記シャフト本体層のストレート層は、前記切り込みが入れられて1枚のプリプレグシートの巻回数が前記急テーパ部領域で1.0未満で途切れた部分を有し、巻回数が1.0未満で途切れた該部分は、ストレート層を形成する内側または外側のプリプレグシートの前記切り込みのない位置で積層されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のシャフトに於て、前記シャフト本体層のストレート層は、複数枚の前記プリプレグシートの周方向の端部位置を夫々円周方向にずらし、且つ相対的に厚さの厚いプリプレグシートを周方向の対向する位置に配置して巻回,積層されていることを特徴とする。
【0011】
更に、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシャフトに於て、前記シャフト本体層に、前記芯金の周方向に強化繊維を引き揃えた厚さが0.04mm以下のプリプレグシートを巻回,積層して周方向層が形成されると共に、シャフト本体層の先部に強化繊維を芯金の軸方向に引き揃えたプリプレグシートを巻回,積層して補強層が形成されて、成形重量が50グラム以下とされていることを特徴とする。
【0012】
更にまた、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のシャフトに於て、前記急テーパ部の外側に、ストレート層より薄肉なプリプレグシートを巻回した補強層が形成され、該補強層の一部が研磨除去されていることを特徴とする。
【0013】
一方、請求項6に係る発明は、先細テーパ状の芯金に対し±35°以上±55°以下の角度で強化繊維を傾斜させたプリプレグシートと、強化繊維を前記軸方向に引き揃えた複数枚のプリプレグシートを巻回,積層して、ヘッド側の小径部とグリップ側の大径部との間にテーパの変化が大きい急テーパ部を有するシャフト本体層を形成するシャフトの製造方法であって、強化繊維を軸方向に引き揃えた複数枚の前記プリプレグシートを、夫々、1枚毎の巻回数が2層未満の幅に設定し、且つ前記急テーパ部領域に対応して該プリプレグシートを夫々幅広に形成して幅が幅広になる部分に長手方向の切り込みを入れ、これらを巻回,積層して前記急テーパ部を有するシャフト本体層のストレート層を形成することを特徴とする。
【0014】
そして、請求項7に係る発明は、請求項6に記載のシャフトの製造方法に於て、強化繊維を軸方向に引き揃えた前記プリプレグシートに、前記切り込みが入れられて巻回数が前記急テーパ部領域で1.0未満で途切れた部分を形成し、巻回数が1.0未満で途切れた該部分を、内側または外側のプリプレグシートの前記切り込みのない位置に巻回,積層させることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に係る発明は、請求項6または請求項7に記載のシャフトの製造方法に於て、強化繊維を前記軸方向に引き揃えた前記プリプレグシートの周方向の端部位置を夫々円周方向にずらし、且つ相対的に厚さの厚いプリプレグシートを周方向の対向する位置に配置して巻回,積層することを特徴とし、請求項9に係る発明は、請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載のシャフトの製造方法に於て、前記シャフト本体層に、前記芯金の周方向に強化繊維を引き揃えた厚さが0.04mm以下のプリプレグシートを巻回,積層して周方向層を形成すると共に、シャフト本体層の先部に強化繊維を芯金の軸方向に引き揃えたプリプレグシートを巻回,積層して補強層を形成し、成形重量を50グラム以下とすることを特徴とする。
【0016】
そして、請求項10に係る発明は、請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載のシャフトの製造方法に於て、前記急テーパ部の外側に、前記ストレート層より薄肉なプリプレグシートを巻回して補強層を形成した後、該補強層の一部を研磨除去することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、シャフトに急テーパ部を設けた際に、急テーパ部領域での強化繊維の捩れや蛇行等が防止できるため、シャフトの強度的な不具合が発生することがない利点を有する。
【0018】
そして、請求項2に係る発明によれば、シャフトの急テーパ部に必要最小限のプリプレグシートを効果的に積層できるため、より一層の軽量化,強度の向上,安定化が図れ、請求項3に係る発明によれば、偏肉や強度,曲げ剛性のバラツキがなくなって方向性の少ないシャフトを提供することが可能となる。
【0019】
また、請求項4に係る発明によれば、周方向層や補強層を形成することで、シャフト本体層のストレート層等を形成するプリプレグシートの薄肉化が図れるため、軽量,高強度のシャフトとすることができる。
【0020】
更に、請求項5に係る発明によれば、補強層の一部を残し一部を研磨除去したので、形状が変化する部分の強度を向上,安定化できると共に、急テーパ部が補強層でカバーされるため、シャフトに衝撃的な負荷が作用しても強化繊維の端部からの剥離や層間剥離を防止することができ、耐久性,信頼性に優れたシャフトとすることができる。
【0021】
そして、請求項6乃至請求項10に係る製造方法によれば、前記利点を有するシャフトを容易に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は請求項1,請求項3及び請求項4の一実施形態に係るシャフトを用いたウッドのゴルフクラブを示し、強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグシートを巻回して形成されたシャフト35の先端にヘッド37が取り付き、シャフト35の後端側にグリップ39が取り付いてゴルフクラブ41が形成されている。そして、図2に示すようにシャフト35は、グリップ39側からヘッド37側に向って縮径する比較的緩いテーパを有する小径部43がヘッド37側に形成され、グリップ39側からヘッド37側に向って縮径する比較的緩いテーパを有する大径部45がグリップ39側に形成されて、前記小径部43と大径部45との中間部に前記テーパよりテーパの変化が大きい急テーパ部47が設けられている。
【0024】
尚、ここで「比較的緩いテーパ」とはストレート形状を含む意味であり、具体的には0/1000〜5/1000mmである。また、「急テーパ部」とは前後のテーパとの差が20〜25/1000mm以上ある、テーパ変化の大きい領域を意味する。
【0025】
図2は前記シャフト35の断面図を示し、図中、A〜Eがシャフト35の全長,A〜Cが小径部43,C〜Dが急テーパ部47,D〜Eが大径部45を示しており、A〜Bは前記ヘッド37を固定する固定部に相当し、該固定部A〜Bは小径部43の他の部位に比し厚肉に形成されている。そして、本実施形態に於て、前記小径部43のテーパは約4/1000mm,急テーパ部47のテーパは約45/1000mm,大径部45のテーパは約5/1000mmに設定されている。
【0026】
而して、前記シャフト35は、請求項6,請求項8及び請求項9に係る発明方法の一実施形態によって以下の如く製造される。
【0027】
図3は前記シャフト35の製造工程を示し、図中、49は芯金で、以下に記述するように該芯金49にプリプレグシート51〜71を巻回した後、従来と同様、テーピングによる締め付け,加熱硬化,芯金除去,テープの除去,研磨等の工程を経てシャフト35が製造される。
【0028】
そして、前記芯金49に於て、符号73で示す小径部がシャフト35の小径部43に対応し、符号75で示す大径部がシャフト35の大径部45に対応し、符号77で示すテーパ部がシャフト35の急テーパ部47に対応する。この場合、図示するように芯金49の大径部75にストレート部79を形成しておいてもよく、図中、符号81の先端部は、先端補強用の補助プリプレグシート51,71が巻回される領域である。そして、該先端部81が前記ヘッド37を固定する固定部A〜Bに対応し、該先端部81にも緩やかなテーパ部83が形成されている。
【0029】
また、図3に於て、各プリプレグシート51〜71の線方向は強化繊維85の繊維方向を示しており、シャフト35の軸長方向全体を構成するシャフト本体層はプリプレグシート55〜69で形成され、ヘッド37を固定する前記固定部A〜Bには、更に補助プリプレグシート51,71を巻回して補強層が更に設けられている。
【0030】
以下、シャフト35の製造方法を説明する。
[第1工程]
まず、芯金49の先端部81に補助プリプレグシート51を巻回して、シャフト35の小径部43の先端に補強層を形成する。
【0031】
前記補助プリプレグシート51は、芯金49の軸方向に引き揃えたカーボン繊維等の強化繊維85に、エポキシやポリエステル等の合成樹脂からなるマトリックスを含浸したもので、後端側に前記芯金49のテーパ部83の長さと一致させて傾斜部51aが形成された平面視台形形状に裁断され、先端側で2〜4プライ,後端側で同じく2〜4プライ程となるように形成されている。そして、樹脂含有率28〜36重量%,厚さ0.08〜0.16mmである。
【0032】
尚、前記補助プリプレグシート51を複数に分割したり、厚さや強化繊維の方向を異ならせたプリプレグシートを巻回してもよい。
【0033】
そして、斯様に補助プリプレグシート51を複数枚にする場合、芯金49に巻回するに当たり、シャフト35の偏肉を防止するため、補助プリプレグシートの周方向の端部位置を、夫々、芯金49の円周方向にずらして巻回する。例えば、2枚の場合は180°、3枚の場合は120°ずらして巻回する。
[第2工程]
次に、シャフト35のねじりトルクを向上させるため、一例として芯金49の軸方向に対し強化繊維85の繊維方向を±45°の2方向に傾斜させた2枚のプリプレグシート55a,55bを重ねたプリプレグシート55を芯金49に巻回して、シャフト35のバイアス層を形成する。シャフト35の軸長方向全体を構成するシャフト本体層は、前記バイアス層と後述するストレート層及び周方向層で構成される。尚、強化繊維85の傾斜角は±35°以上±55°以下の範囲で設定する。
【0034】
前記プリプレグシート55はシャフト35の全長と同一寸法で、先端側で2.4〜2.6プライ,後端側で1.9〜2.1プライ程となるように平面視台形形状に裁断されており、樹脂含有率20〜30重量%,厚さ0.08〜0.15mmである。
[第3工程]
次に、前記プリプレグシート55の外周に、強化繊維85を軸方向に引き揃えた樹脂含有率18〜28重量%,厚さ0.08〜0.15mmのプリプレグシート57を、芯金49の略中央よりやや前側から後端側に巻回する。
【0035】
前記プリプレグシート57はシャフト35の全長よりも短寸で、先端側で1プライ,後端側で1.03プライ程度となるよう裁断されている。そして、前記テーパ部77(急テーパ部47領域)に対応して幅広な幅広部57aが設けられており、該幅広部57aは、テーパ部77の長さと一致させた傾斜部57bを有する平面視三角形状とされている。
【0036】
そして、本実施形態は、前記幅広部57aの幅が幅広になる部分に、直線状の切り込み87を長手方向に入れたことを特徴とする。
[第4工程]
次に、芯金49に巻回した前記プリプレグシート57の先端側と重なるように、芯金49の周方向に強化繊維85を引き揃えたプリプレグシート59を巻回する。
【0037】
プリプレグシート59は、先端側で1.10プライ,後端側で1.10プライ程度となるよう裁断され、樹脂含有率33〜50重量%,厚さ0.02〜0.04mmとされている。
【0038】
このように周方向に強化繊維85を引き揃えた前記プリプレグシート59を巻回することで、潰れ方向に対するシャフト35の強度を向上させることができ、また、既述したように前記プリプレグシート55を巻回することで、捻れ方向に対するシャフト35の強度を向上させることができる。
[第5工程]
この後、強化繊維85を軸方向に引き揃えた樹脂含有率18〜28重量%で、厚さが夫々0.08〜0.15mmの範囲で、例えば0.10mm,0.10mm,0.08mmの肉厚からなる3枚のプリプレグシート61,63,65を芯金49に巻回する。これらのプリプレグシート61,63,65は、後述するプリプレグシート69と共にシャフト35のストレート層を形成するもので、夫々、先端側で1.0〜1.1プライ、後端側で1.0〜1.1プライとなるように裁断されている。
【0039】
そして、前記プリプレグシート57と同様、これらのプリプレグシート61,63,65にも、前記テーパ部77(急テーパ部47領域)に対応して幅広な幅広部61a,63a,65aが設けられており、前記幅広部57aと同様、これらの幅広部61a,63a,65aは、テーパ部77の長さと一致させた傾斜部61b,63b,65bを有する平面視三角形状とされている。そして、これらのプリプレグシート61,63,65にも、前記幅広部61a,63a,65aの幅が幅広になる部分に、直線状の切り込み87が長手方向に入れられている。
【0040】
尚、前記プリプレグシート57,61,63,65及び後述するプリプレグシート69を巻回するに当たり、ストレート層の偏肉を防止し、強度や曲げ剛性のバラツキをなくし方向性の少ないシャフト35を製造するため、プリプレグシート57,61,63,65,69の周方向の端部位置を夫々円周方向にずらし、且つ相対的に厚さの厚いプリプレグシートを周方向の対向する位置に配置して巻回,積層する。このように強化繊維85の引き揃え方向が同じプリプレグ57,61,63,65,69を重ねて(同じ位置の層近くに)巻回することで、十分な層間強度が得られる。
[第6工程]
次に、前記グリップ39が装着される部位に、周方向に強化繊維85を引き揃えたプリプレグシート67を巻回する。このプリプレグシート67はグリップ39が装着される部位に潰れ方向に対する強度を持たせる周方向層を形成するもので、樹脂含有率33〜50重量%、厚さ0.02〜0.04mmに設定され、先端側で1.05プライ,後端側で1.00プライ程となるように裁断されている。
[第7工程]
この後、強化繊維63を軸方向に引き揃えた樹脂含有率18〜28重量%,厚さ0.08〜0.15mmの範囲で、例えば0.12mmのプリプレグシート69を芯金49に巻回する。
【0041】
既述したようにこのプリプレグシート69はシャフト35のシャフト本体層を形成するもので、前記プリプレグシート61,63,65と同様、テーパ部77(急テーパ部47領域)に対応して幅広な幅広部69aが設けられており、該幅広部69aも、テーパ部77の長さと一致させた傾斜部69bを有する平面視三角形状とされている。そして、該幅広部69aの幅が幅広になる部分に、直線状の切り込み87が長手方向に入れられている。
[第8工程]
そして、芯金49の先端部81に、強化繊維85を軸方向に引き揃えた平面視三角形状の補助プリプレグシート71を巻回する。
【0042】
この補助プリプレグシート71は、ヘッド37を装着するシャフト35の先端に補強層を形成するもので、樹脂含有率28〜36重量%,厚さ0.08〜0.16mmに設定され、先端側で4.30プライ,後端側で0.00プライとなるように裁断されている。
[第9工程]
そして、これらの外周を緊締テープで緊縛して熱硬化処理を行った後、芯金49を引き抜き緊締テープを剥離してその外周を研磨することで、成形重量が50グラム以下のシャフト35が製造される。
【0043】
このように、前記[第1工程]〜[第9工程]を経てシャフト35が製造され、シャフト35に急テーパ部47がある構成の場合、上述したように芯金49のテーパ部77に対応して前記プリプレグシート57,61,63,65,69に幅広部57a,61a,63a,65a,69aを設けて前記急テーパ部47を形成するが、該幅広部57a,61a,63a,65a,69aをプリプレグシート57,61,63,65,69に一体化した構成にしてしまうと、急テーパ部47は外形変化が大きいため、図5及び図6で既述した従来例と同様、プリプレグシート57,61,63,65,69の巻回時にテーパ部77の領域でプリプレグシート57,61,63,65,69が周方向に引っ張られて強化繊維85に捩れや蛇行が生じてしまう。
【0044】
しかし、既述したように本実施形態は、各幅広部57a,61a,63a,65a,69aの幅が幅広になる部分に長手方向の切り込み87を入れて、各幅広部57a,61a,63a,65a,69aをその周方向のプリプレグシート57,61,63,65,69部分と分離したため、これらを周方向に連続状に巻回した場合、幅広部57a,61a,63a,65a,69aが周方向に引っ張られることがなく、強化繊維85に捩れや蛇行が生じることがない。
【0045】
従って、本実施形態に係る製造方法によれば、プリプレグシート57,61,63,65,69を巻回して前記急テーパ部47を形成するに当たり、急テーパ部47領域での強化繊維85の捩れや蛇行等の発生を防止することができ、斯かる製造方法によって製造されたシャフト35によれば、急テーパ部47領域での強化繊維85の捩れや蛇行等がないため、シャフト35の強度的な不具合が発生することがない利点を有する。
【0046】
而も、本実施形態は、プリプレグシート57,61,63,65,69を巻回するに当たり、プリプレグシート57,61,63,65,69の周方向の端部位置を夫々円周方向にずらし、且つ相対的に厚さの厚いプリプレグシートを周方向の対向する位置に配置して巻回,積層したため、偏肉や強度,曲げ剛性のバラツキがなくなって方向性の少ないシャフト35を提供することが可能となった。
【0047】
更に、本実施形態に係るシャフト35とその製造方法は、厚さが0.04mm以下の前記プリプレグシート59,67を巻回,積層して周方向層を形成すると共に、シャフト本体層の先部に前記補助プリプレグシート51,71を巻回,積層して補強層を形成したので、シャフト本体層のストレート層やバイアス層を形成するその他のプリプレグシート55,57,61,63,65,69の薄肉化が図れるため、これらシャフト本体層と周方向層,補強層の成形重量が50グラム以下というシャフト35の軽量化が図れる利点を有する。
【0048】
図4は、図示しない請求項1乃至請求項5に係るシャフトを製造する請求項6乃至請求項10の一実施形態に係る発明方法の製造工程を示す。
【0049】
図4に示すように本実施形態は、前記実施形態のプリプレグシート57,59,67に代え、テーパ部77の最外周に、シャフトのストレート層より薄肉な補助プリプレグシート89を巻回して補強層を形成した後、該補強層の一部を研磨除去すると共に、前記切り込みと幅広部の形状を変更したものである。
【0050】
即ち、先ず、図示するように前記補助プリプレグシート89は強化繊維85を芯金49の軸方向と周方向に交叉させて引き揃えたもので、樹脂含有率35〜65重量%,厚さ0.02〜0.04mmに設定され、先端側で1〜2プライ,後端側で1〜4プライとなるように裁断されている。
【0051】
そして、後述するプリプレグシート61,63,65を巻回した後、テーパ部77の最外周に前記補助プリプレグシート89を巻回して補強層を形成することでシャフトの強度アップを図ると同時に、該補強層の一部を研磨除去してシャフトのシャフトの軽量化を図っている。
【0052】
また、シャフトのストレート層は図示する4枚のプリプレグシート61-1,63-1,65-1,69-1で形成されるが、既述したように前記実施形態では、プリプレグシート61,63,65,69にテーパ部77の長さと一致させた傾斜部61b,63b,65b,69bを有する平面視三角形状の前記幅広部61a,63a,65a,69aを設けて、各幅広部61a,63a,65a,69aの幅が幅広になる部分に直線状の切り込み87を長手方向に入れた構成を採用した。
【0053】
これに対し、本実施形態は、直線状の切り込みに代え、二点鎖線で示すように平面視三角形状の切り込み91を入れて、長手方向に突出する平面視三角形状の幅広部61a-1,63a-1,65a-1,69a-1を各プリプレグシート61-1,63-1,65-1,69-1に設けたもので、これらの幅広部61a-1,63a-1,65a-1,69a-1はテーパ部77の長さよりも短くテーパ部77での巻回数が1.0未満とされている。そして、芯金49への巻回時に、ストレート層を形成する内側または外側のプリプレグシート61-1,63-1,65-1,69-1の前記切り込み91のない位置で積層する。
【0054】
また、本実施形態も、プリプレグシート61-1,63-1,65-1,69-1を巻回するに当たり、ストレート層の偏肉を防止し、強度や曲げ剛性のバラツキをなくし方向性の少ないシャフトを製造するため、各プリプレグシート61-1,63-1,65-1,69-1の周方向の端部位置を夫々円周方向にずらし、且つ相対的に厚さの厚いプリプレグシートを周方向の対向する位置に配置して巻回,積層する。
【0055】
尚、その他のシャフトの構造と製造方法は前記実施形態と同一であるため、前記実施形態と同一のものには同一符号を以って表示し、それらの説明は省略する。
【0056】
而して、本実施形態に係るシャフトと製造方法によっても、前記実施形態と同様、所期の目的を達成することができることは勿論、既述したように平面視三角形状の切り込み91を入れて、長手方向に突出する平面視三角形状の幅広部61a-1,63a-1,65a-1,69a-1を各プリプレグシート61-1,63-1,65-1,69-1に設けることで、シャフトの急テーパ部に必要最小限のプリプレグシート61-1,63-1,65-1,69-1(幅広部61a-1,63a-1,65a-1,69a-1)を効果的に積層でき、より一層の軽量化,強度の向上,安定化が図れる利点を有する。
【0057】
また、本実施形態は、前記補助プリプレグシート89で形成した補強層の一部を残し一部を研磨除去したので、形状が変化する部分の強度を向上,安定化できると共に、急テーパ部が補強層でカバーされるため、シャフトに衝撃的な負荷が作用しても強化繊維85の端部からの剥離や層間剥離を防止することができ、耐久性,信頼性に優れたシャフトとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】請求項1,請求項3及び請求項4の一実施形態に係るシャフトを用いたウッドのゴルフクラブの全体斜視図である。
【図2】シャフトの断面図である。
【図3】シャフトの製造工程図である。
【図4】シャフトの製造工程図である。
【図5】従来のゴルフクラブの全体斜視図である。
【図6】図5に示すゴルフクラブに用いたシャフトの製造工程の説明図である。
【符号の説明】
【0059】
35 シャフト
37 ヘッド
39 グリップ
41 ゴルフクラブ
43,73 小径部
45,75 大径部
47 急テーパ部
49 芯金
51,71,89 補助プリプレグシート
55,57,59,61,61-1,63,63-1,65,65-1,67,69,69-1 プリプレグシート
57a,61a,61a-1,63a,63-1a,65a,65a-1,69a,69a-1 幅広部
77 テーパ部
85 強化繊維
87,91 切り込み


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先細テーパ状の芯金に強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグシートを巻回して形成され、ヘッド側の小径部とグリップ側の大径部との間にテーパの変化が大きい急テーパ部が設けられたゴルフクラブシャフトであって、
前記芯金の軸方向に対し±35°以上±55°以下の角度で強化繊維を傾斜させた繊維強化プリプレグシートを巻回,積層したバイアス層と、強化繊維を前記軸方向に引き揃えた複数枚の繊維強化プリプレグシートを巻回,積層したストレート層とでシャフト本体層が形成され、
前記ストレート層を形成する前記繊維強化プリプレグシートは、夫々、1枚毎の巻回数が2層未満の幅に形成され、且つ前記急テーパ部領域に対応して繊維強化プリプレグシートの幅が幅広になる部分に長手方向の切り込みが入れられて前記急テーパ部を形成していることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記シャフト本体層のストレート層は、前記切り込みが入れられて1枚の繊維強化プリプレグシートの巻回数が前記急テーパ部領域で1.0未満で途切れた部分を有し、巻回数が1.0未満で途切れた該部分は、ストレート層を形成する内側または外側の繊維強化プリプレグシートの前記切り込みのない位置で積層されていることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
前記シャフト本体層のストレート層は、複数枚の前記繊維強化プリプレグシートの周方向の端部位置を夫々円周方向にずらし、且つ相対的に厚さの厚い繊維強化プリプレグシートを周方向の対向する位置に配置して巻回,積層されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
前記シャフト本体層に、前記芯金の周方向に強化繊維を引き揃えた厚さが0.04mm以下の繊維強化プリプレグシートを巻回,積層して周方向層が形成されると共に、シャフト本体層の先部に強化繊維を芯金の軸方向に引き揃えた繊維強化プリプレグシートを巻回,積層して補強層が形成されて、成形重量が50グラム以下とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
前記急テーパ部の外側に、ストレート層より薄肉な繊維強化プリプレグシートを巻回した補強層が形成され、該補強層の一部が研磨除去されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
先細テーパ状の芯金に対し±35°以上±55°以下の角度で強化繊維を傾斜させた繊維強化プリプレグシートと、強化繊維を前記軸方向に引き揃えた複数枚の繊維強化プリプレグシートを巻回,積層して、
ヘッド側の小径部とグリップ側の大径部との間にテーパの変化が大きい急テーパ部を有するシャフト本体層を形成するゴルフクラブシャフトの製造方法であって、
強化繊維を軸方向に引き揃えた複数枚の前記繊維強化プリプレグシートを、夫々、1枚毎の巻回数が2層未満の幅に設定し、且つ前記急テーパ部領域に対応して該繊維強化プリプレグシートを夫々幅広に形成して幅が幅広になる部分に長手方向の切り込みを入れ、
これらを巻回,積層して前記急テーパ部を有するシャフト本体層のストレート層を形成することを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項7】
強化繊維を軸方向に引き揃えた前記繊維強化プリプレグシートに、前記切り込みが入れられて巻回数が前記急テーパ部領域で1.0未満で途切れた部分を形成し、巻回数が1.0未満で途切れた該部分を、内側または外側の繊維強化プリプレグシートの前記切り込みのない位置に巻回,積層させることを特徴とする請求項6に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項8】
強化繊維を前記軸方向に引き揃えた前記繊維強化プリプレグシートの周方向の端部位置を夫々円周方向にずらし、且つ相対的に厚さの厚い繊維強化プリプレグシートを周方向の対向する位置に配置して巻回,積層することを特徴とする請求項6または請求項7に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項9】
前記シャフト本体層に、前記芯金の周方向に強化繊維を引き揃えた厚さが0.04mm以下の繊維強化プリプレグシートを巻回,積層して周方向層を形成すると共に、シャフト本体層の先部に強化繊維を芯金の軸方向に引き揃えた繊維強化プリプレグシートを巻回,積層して補強層を形成し、成形重量を50グラム以下とすることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項10】
前記急テーパ部の外側に、前記ストレート層より薄肉な繊維強化プリプレグシートを巻回して補強層を形成した後、該補強層の一部を研磨除去することを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフトの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−219681(P2009−219681A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67609(P2008−67609)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】