ゴルフクラブシャフトの設計方法及びその製造方法
【課題】ゴルファに最適なゴルフクラブシャフトを見つける。
【解決手段】シャフト設計用のパラメータが定義された複数個の要素を用いてクラブシャフトをモデル化し、パラメータのシャフトの長さ方向の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するモデル設定ステップS1と、予め設定されたスイングパターンに基づいて、シャフトモデルを運動させ、その運動状態を個々のシャフトモデル毎に計算する解析ステップS3と、運動状態が最適なものを探索する探索ステップS6とを含むゴルフクラブシャフトの設計方法である。モデル設定ステップS1は、予め設定された前記パラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合して得られる複数の関数に基づいて、シャフトモデルを設定する。また基本関数に線形結合される基底関数の数が、前記シャフトモデルを構成する要素の数よりも少ない。
【解決手段】シャフト設計用のパラメータが定義された複数個の要素を用いてクラブシャフトをモデル化し、パラメータのシャフトの長さ方向の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するモデル設定ステップS1と、予め設定されたスイングパターンに基づいて、シャフトモデルを運動させ、その運動状態を個々のシャフトモデル毎に計算する解析ステップS3と、運動状態が最適なものを探索する探索ステップS6とを含むゴルフクラブシャフトの設計方法である。モデル設定ステップS1は、予め設定された前記パラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合して得られる複数の関数に基づいて、シャフトモデルを設定する。また基本関数に線形結合される基底関数の数が、前記シャフトモデルを構成する要素の数よりも少ない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータによる数値解析を利用してゴルファに最適なゴルフクラブシャフトを効率良く設計するのに役立つゴルフクラブシャフトの設計方法及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腕力やスイングパターンなどは、ゴルファ毎に異なる。従って、ゴルフスコアを向上させるために、自分に合ったゴルフクラブを使用することは重要である。とりわけ、ヘッドの軌道やヘッドスピードを決定付ける要素となるゴルフクラブシャフトの選択は、特に重要である。
【0003】
近年、コンピュータによる数値解析を利用し、特定のゴルファに最適なゴルフクラブシャフトを探求・設計するための方法が種々提案されている(例えば、下記特許文献1ないし3参照)。これらの方法は、概ね、有限要素法等で数値解析が可能かつシャフトの長さ方向において曲げ剛性の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するステップと、前記シャフトモデルを予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて運動させるスイングシミュレーションを行うことにより、各シャフトモデルに依存したクラブモデルの運動状態(例えば、ヘッドスピードやブロー角など)を計算するステップと、前記スイングシミュレーションの結果から、前記運動状態が最適なゴルフクラブシャフトの曲げ剛性の分布などを探索するステップとを含む。
【0004】
【特許文献1】特開2002−331060号公報
【特許文献2】特開2004−242855号公報
【特許文献3】特開2004−8521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば図13(a)に示されるように、従来のシャフトモデルSは、有限個の要素(この例では20個のビーム要素)b…を節点で接続することにより、棒状のモデルとしてコンピュータに定義される。また、各要素bには、それぞれ、その長さ、曲げ弾性率(以下、単に「弾性率」という。)E及び断面二次モーメントIといったスイングに影響を及ぼすパラメータが定義される。なお、個々の要素bにおいては、その長さ方向で前記パラメータは一定である。
【0006】
図13(b)には、前記シャフトモデルSの曲げ剛性(弾性率E×断面二次モーメントI)EIの分布の一例を示す。縦軸には前記曲げ剛性EIが、横軸には要素bの番号がそれぞれ設定される。特定のゴルファに最適なクラブシャフトの曲げ剛性の分布を見つけるためには、前記曲げ剛性の分布が異なる数多くのシャフトモデルSを設定し、それらの運動状態をシミュレーションする必要がある。従来では、例えば各要素bの断面二次モーメントIを変更せずに、弾性率Eを一定のレンジR内で適宜変化させかつこれらを組み合わせることにより、前記曲げ剛性EIの分布が異なる複数種類(通常、数百以上)のシャフトモデルが設定されていた。従って、この例では、各要素bの弾性率Eが設計変数となり、該設計変数の数は、シャフトモデルaを構成する要素の数である20個になる。
【0007】
しかしながら、このようなシャフトの設計方法では、設計変数の数が多く、最適な解を見つけるまでに非常に多くの時間を要するという問題がある。特に計算精度を高めるために、シャフトモデルを小さな要素で細かく分割した場合には、これに伴って設計変数の数が増大し、最適解の探索により多くの時間を要するという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、シャフトモデルを、予め設定されたゴルフクラブシャフトのパラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合することにより得られる複数の関数に基づいて、複数種類のシャフトモデルを設定するとともに、前記結合される基底関数の数をシャフトモデルの要素の数よりも少なくすることを基本として、設計変数を従来に比して大幅に減じることができ、ひいては最適な解を見つけるまでの計算時間を短縮することが可能なゴルフクラブシャフトの設計方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち請求項1記載の発明は、数値解析が可能かつスイング中のゴルフクラブヘッドの動きに影響を及ぼすシャフト設計用のパラメータが定義された複数個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化し、前記パラメータのシャフトの長さ方向の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するモデル設定ステップと、予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて、前記シャフトモデルを運動させるスイングシミュレーションを行い、該シャフトモデルに依存した運動状態を個々のシャフトモデル毎に計算する解析ステップと、前記複数種類のシャフトモデルから前記運動状態が最適なものを探索する探索ステップとを含むゴルフクラブシャフトの設計方法であって、前記モデル設定ステップは、予め設定された前記パラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合することにより得られる複数の関数に基づいて、前記複数種類のシャフトモデルが設定されるとともに、前記基本関数に線形結合される前記基底関数の数が、前記シャフトモデルを構成する要素の数よりも少ないことを特徴とする。
【0010】
また請求項2記載の発明は、前記基底関数は、定数関数と一次関数とからなる直線関数グループ、周期が異なる複数の正弦関数からなる正弦関数グループ及び周期が異なる複数の余弦関数からなる余弦関数グループの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた合計2以上の関数を含む請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0011】
また請求項3記載の発明は、前記正弦関数グループ及び前記余弦関数グループに属する各関数は、シャフトモデルの長さの1/2以上かつ2倍以下の周期を有する請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0012】
また請求項4記載の発明は、前記パラメータは、曲げ弾性率E、断面二次モーメントI、曲げ剛性EI又は捻り剛性の少なくとも一つを含む請求項1乃至3のいずれかに記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0013】
また請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載されたゴルフクラブシャフトの設計方法により得られた最適なシャフトモデルの前記パラメータの分布に基づいてゴルフクラブシャフトを製造するステップを含むことを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明において、モデル設定ステップは、スイング中のゴルフクラブヘッドの動きに影響を及ぼすシャフト設計用のパラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合して得られる複数の関数に基づいて、前記パラメータの分布が異なる複数種類のシャフトモデルが設定される。
【0015】
従って、請求項1に記載の発明では、設計変数が、前記重み付け係数の数、言い換えると基本関数に線形結合される基底関数の数に等しい。そして、請求項1の発明では、この基底関数の数が、シャフトモデルを構成する要素の数よりも少なく設定されるので、設計変数の数が従来に比して少なくなる。よって、最適解を探索する時間を短縮でき、ひいては設計効率を高めうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のゴルフクラブシャフトの設計方法では、特定のゴルファに対して、スイング時のクラブヘッドの運動状態を最適とするゴルフクラブシャフト、とりわけ繊維強化樹脂を用いた非金属製のシャフトが好ましく設計される。図1には、このような設計方法の手順の一例が示される。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態の設計方法では、先ず、シャフトモデルが設定される(ステップS1)。該シャフトモデルを設定する具体的な処理の一例は図2に示される。本実施形態では、先ず、ゴルフクラブシャフトを複数個の要素を用いてモデル化する処理が行われる(ステップS11)。
【0018】
図3(b)には、シャフトモデル2の一例が視覚化される。該シャフトモデル2は、図3(a)に示されるように、ゴルフクラブ1のクラブシャフト3を参考として、数値解析が可能かつスイング中のゴルフクラブヘッドの動きに影響を及ぼすシャフト設計用のパラメータが定義された複数個の要素eを用いて設定される。前記数値解析として、例えば有限要素法が用いられる。また、数値解析が可能な要素とは、対象となる数値解析法において、物理学及び与えられた条件に従った変形挙動を示しうる要素を意味する。
【0019】
特に限定されるわけではないが、前記要素としては、例えばソリッド要素、ビーム要素又はシェル要素などが好ましい。本実施形態では56個のビーム要素e1を軸方向に連ねることにより、長さLを有する1本のシャフトモデル2が設定される。前記長さLは、設計の対象となる前記クラブシャフト3の長さL又は対象ゴルファが希望するクラブシャフトの長さに一致させるのが望ましい。慣例に従い、前記長さLは、通常、35ないし50インチ程度に設定される。
【0020】
シャフトモデル2を構成する要素eの数(全要素数)は、特に限定さるものではないが、少なすぎると、計算精度が低下するおそれがあり、逆に多すぎると、シャフトモデル2の変形計算に多くの時間を要するおそれがある。このような観点より、シャフトモデル2を構成する要素eの数は、好ましくは20個以上、より好ましくは30個以上、さらに好ましくは40個以上、特に好ましくは60個以上が望ましく、また、好ましくは100個以下、より好ましくは80個以下が望ましい。なお、個々の要素eの軸方向の長さは、同一でも良いし、異なっていても良い。
【0021】
また各ビーム要素e1は、図3(b)では両端に節点を有する直線で表されるが、一般的なクラブシャフトのように、パイプ状体として計算上取り扱うことができる。即ち、ビーム要素e1には、材料物性に基づく弾性率Eのみならず、外径d2及び内径d1から計算される断面二次モーメントI(=π(d24−d14)/64)が定義される。
【0022】
次に、本実施形態では、基本となるシャフトモデル2のスイング中の前記パラメータの分布を表す基本関数X0が設定される(ステップS12)。前記シャフト設計用のパラメータには、必要に応じて種々のものが採用されるが、主なものとして、例えば弾性率E、断面二次モーメントI、曲げ剛性EI又は捻り剛性の少なくとも一つを含むことが望ましい。本実施形態では、弾性率が採用される。
【0023】
このような弾性率の分布は、特に限定されることなく種々の方法によって決定される。例えば、前記シャフトモデル2の各要素eに、対象ゴルファが普段使用しているゴルフクラブのシャフトの弾性率の分布を割り当てて決定することができる。また、本実施形態では、実際のゴルフクラブを用いて対象ゴルファのスイングが予め測定されるが(後述)、この際に使用されるゴルフクラブのシャフトの弾性率の分布に基づいて前記基本関数X0が定められても良い。
【0024】
図4には、基本となるシャフトモデル2の弾性率の分布を表す基本関数X0が示される。図4では、縦軸にシャフトモデル2の要素の弾性率(Pa)が、横軸にシャフトモデル2のチップ側(クラブヘッドが装着されている側)からバット側(グリップが装着されている側)へ向かって順番に割り当てられた要素の番号が設定される。また、隣り合う要素e,e間では、多くの場合、弾性率は連続することなく離散的に定義される。しかし、本実施形態の基本関数X0は、図4に示されるように、シャフトモデル2の長さの区間において、各要素eに定義された弾性率を滑らかに継ぐ連続関数として定義される。
【0025】
次に、下記の例示式(1)のように、前記基本関数X0に、重み付け係数a1、a2、…anを変えて1以上、より好ましくは複数の連続関数からなる基底関数X1、X2、…Xnを、順次、線形結合(一次結合)することにより、前記基本関数X0とは異なった弾性率の分布を表す複数の関数XSを得る処理が行われる(ステップS13)。
XS=X0+a1・X1+a2・X2+…+an・Xn …(1)
【0026】
このように、基本関数X0に、重み付け係数a1、a2、…anを変えた基底関数X1、X2、…Xnを順次線形結合することにより、前記パラメータ(弾性率)の分布が異なる様々な関数XSを作ることができる。種々の関数Xsを得るために、基底関数X1、X2、…Xnには、いかなる連続関数が用いられても良く、例えば定数関数、一次関数、二次関数、三次関数、指数関数、対数関数及び三角関数といった連続関数から選ばれる1個以上、より好ましくは複数個が用いられる。
【0027】
また、選ばれた基底関数には、重み付け係数が乗じられる。これにより、様々な弾性率の分布を表す関数Xsを得ることができる。また、例えば、3つの基底関数X1、X2及びX3を基本関数X0に線形結合する場合、前記式(1)は次のように表される。
XS=X0+a1・X1+a2・X2+a3・X3
上式から明らかなように、シャフト設計用のパラメータの分布を示す新たに設定される前記関数Xsは、3つの変数(a1・X1)、(a2・X2)及び(a3・X3)のみで、シャフトモデル2の全長さLに亘る弾性率の分布を特定できる。従って、本発明の設計方法では、基本関数X0に線形結合される基底関数X1、X2…の数が、シャフトモデル2の設計変数の数となる。
【0028】
従来の設計方法においても、各要素に設計用のパラメータ(例えば弾性率)がそれぞれ割り当てられる。しかしながら、これらのパラメータは隣り合う要素間で何ら関連付けされていない。従って、従来の設計方法では、該シャフトモデル2を構成している要素の数が、シャフトモデル2の設計変数の数となる(例えば、シャフトモデルを構成する要素の数が56個の場合、その設計変数の数は56個必要になる。)。このように、本発明の設計方法と従来の設計方法とでは、設計変数の対象が異なる。
【0029】
さらに、本発明の設計方法では、基本関数X0に線形結合される基底関数の数は、シャフトモデル2を構成している要素eの数よりも少なく設定される。従って、従来よりも少ない設計変数(上記の例では僅か3つの設計変数)で様々なシャフトモデル2の弾性率Eの分布を定義しうる。しかも、このような設計変数の少ないシャフトモデル2は、コンピュータの負荷を低減でき、後述の最適解の探索処理に要する計算時間が短縮されるので、設計効率を大幅に向上しうる点で特に望ましい。
【0030】
特に限定されるわけではないが、前記式(1)で表される関数XSにおいて、基本関数X0に線形結合される基底関数X1、X2…の数が少なすぎると、シャフトモデル2の弾性率の分布の多様性が損なわれ、ひいてはクラブヘッドの運動状態を十分な向上させる最適解が得られないおそれがある。このような観点より、前記関数Xsを得る際に、基本関数X0に線形結合される基底関数の数は、好ましくは6個以上、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは14個以上が望ましい。他方、前記基底関数の数が多すぎると、従来と同様、シャフトモデル2の設計変数が多くなり、最適解を見つけ出すまでの計算時間が長くなるおそれがある。このような観点より、前記基底関数の数は、シャフトモデル2を構成する要素eの数よりも小であることを前提として、好ましくは30個以下、より好ましくは25個以下、さらに好ましくは20個以下が望ましい。
【0031】
以上の処理により、基本関数X0に、重み付け係数a1、a2、…anを変えた基底関数X1、X2、…Xnを順次線形結合することにより、前記基本関数X0とは異なる弾性率の分布を示す様々な関数Xsを多数得ることができる。
【0032】
ここで、弾性率の変化がより滑らかな関数Xsを得るためには、前記基底関数は、直線関数グループA、正弦関数グループB及び余弦関数グループCの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた合計2以上の関数が用いられるのが望ましい。
【0033】
図5には、前記直線関数グループAの例を示し、該グループAには、例えば定数関数A−1と一次関数A−2とを含めることができる。前記定数関数A−1は、シャフトモデルの長さの区間において弾性率が一定で連続する関数である。このような定数関数A−1を基底関数X1として基本関数X0に線形結合した場合、該基本関数X0を上又は下に平行移動させることができる。そして、その移動量及び方向は、重み付け係数a1の値及び符号を変えることにより調整できる。
【0034】
また、前記一次関数A−2は、弾性率がシャフトモデルの先端からの長さに比例して大きくなる関数である。該一次関数A−2を基底関数X2として基本関数X0に線形結合した場合、基本関数X0全体の傾きを変えることができる。前記傾きの方向及び角度は、重み付け係数a2の値及び符号によって調整できる。なお、本実施形態の一次関数A−2は、シャフトモデル2の長さの中間位置で弾性率Eがゼロになる。従って、該一次関数A−2は、基本関数X0をそのシャフト長さ方向の中間位置を支点して回転させ得る。
【0035】
また、図6には正弦関数グループBの例を示す。該グループBには、例えば周期が異なる複数の正弦関数(sin関数)を含む。具体的には、シャフトモデル2の長さLの1/2以上かつ2倍以下の周期を有する4つの正弦関数が望ましい。具体的には、シャフトモデル2の長さLの2倍の周期を有する基本正弦関数B−1、シャフトモデル2の長さLと等しい周期を有する2倍正弦関数B−2、シャフトモデル2の長さLの2/3の周期を有する3倍正弦関数B−3及びシャフトモデル2の長さLの1/2の周期を有する4倍の正弦関数B−4が示されている。
【0036】
さらに、図7には余弦関数グループCの例を示す。該グループCは、例えば周期が異なる複数の余弦関数(cos関数)を含む。具体的には、シャフトモデルの長さLの1/2以上かつ2倍以下の周期を有する4つの余弦関数の例が示される。具体的には、シャフトモデル2の長さLの2倍の周期を有する基本余弦関数C−1、シャフトモデル2の長さLと等しい周期を有する2倍余弦関数C−2、シャフトモデル2の長さLの2/3の周期を有する3倍余弦関数C−3及びシャフトモデル2の長さLの1/2の周期を有する4倍余弦関数C−4が示されている。
【0037】
これらの正弦関数及び余弦関数が基底関数として用いられた場合、その波形のピーク位置における基本関数X0 の弾性率を滑らかに増加させ又は減少させ得る。また、三角関数(正弦関数及び余弦関数)を適宜重ねることにより、実質的に全ての連続関数を表現できる点でも望ましい。さらに、本実施形態のように、正弦関数及び余弦関数の各周期を、いずれもシャフトモデルの長さLの1/2以上とした場合、正弦関数又は余弦関数の波形のピークは、最大でも5つしか存在しない。従って、このような基底関数は、基本関数X0の弾性率が、多数のピークを有して頻繁に上下動を繰り返すような波形に変形されるのを防止できる点で望ましい。
【0038】
特に好ましくは、直線関数グループA、正弦関数グループB及び余弦関数グループCの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた2以上の関数が用いられるのが望ましい。つまり、前記3つのグループAないしCから少なくとも2つのグループが選ばれ(例えばA及びB)、この選ばれた各グループからそれぞれ少なくとも一つの関数(例えば定数関数A−1及び基本正弦関数B−1)が選ばれるのが望ましい。これにより、基本関数X0で表された弾性率の分布を様々な態様に変化させ得る。特に好ましくは、前記3つのグループからそれぞれ少なくとも一つの関数が選ばれるのが望ましい。これによって、さらに多様な弾性率の分布が得られる。なお、関数XSを順次得る際に、結合される基底関数の数は一定でも良いし、また変化させても良いのは言うまでもない。
【0039】
前記基底関数の選択や、重み付け係数a1及びa2の値の設定については、特に限定されるものではなく、例えばランダムに行われても良いし、また予め定めた何らかのアルゴリズム(例えば遺伝的アルゴリズム等)に従って行われても良い。
【0040】
次に、設定された弾性率の分布を表す関数XSの種類数が十分か否かについて判断され(ステップS14)、結果が真(Y)の場合には、図1のステップS2に戻る。他方、ステップS14で結果が偽(N)の場合には、基底関数及び/又は重み付け係数の値を変更し(ステップS15)、ステップS14の結果が真(Y)になるまで上記ステップS13の処理が繰り返される。このようにして、ゴルフクラブシャフトの設計に必要かつ十分なシャフトモデルの弾性率の分布を表す関数Xsが得られる。これらの関数XSは、逐次、図示しないコンピュータの記憶装置などに記憶される。
【0041】
図8には、上記のステップS11ないしS15により得られたシャフトモデル2の弾性率の分布を示す複数の関数XSの例が基本関数X0とともに示される。本実施形態では、得られた関数XSは、予め定められた弾性率の上限及び下限の範囲内にあるものだけが採用され、これを満たさない場合には、その関数XSは利用されることなく削除される。このような基準としては、例えば、新たに設定される弾性率の分布を表す関数XSの最小値(加減)は、基本関数X0の最小値の50%以上とし、また関数XSの最大値(上弦)は、基本関数X0の最大値の150%以下とすることが挙げられる。このような上限及び下限の設定は、製造困難なクラブシャフトの弾性率の分布の生成を抑制する点で好ましい。
【0042】
次に、予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて、前記シャフトモデル2を運動させるスイングシミュレーションを行い、該シャフトモデルに依存した運動状態を個々のシャフトモデル毎に計算する処理が行われる(ステップS3)。
【0043】
前記スイングパターンは、例えば前記特許文献1に記載されているように、対象ゴルファのスイング(即ち、アドレスからバックスイングを経てダウンスイング及びフォロースルーまでの一連の動き)を複数の方向から撮像装置で撮像し、必要な画像処理等を行うことによって得ることができる。具体的には、スイング中におけるクラブのグリップ位置の三次元座標、シャフトの軸中心線周りのグリップの回転角、グリップの傾斜角及び加速度などが時系列的にコンピュータの記憶装置に記録される。
【0044】
図9には、スイングシミュレーションの一例が示される。本実施形態のスイングシミュレーションは、シャフトモデル2と、そのチップ側にゴルフクラブヘッドに相当する質量と重心とを有するクラブヘッドモデルHが取り付けられたゴルフクラブモデル5を用いて行われる。また、前記シャフトモデル2の各要素eには、設定された複数種類の前記関数XSから適宜選択された一つの関数に基づいて弾性率が離散的に割り当てられる。なお上述のように、各要素内では、弾性率は一定とされる。そして、順次関数XSを代えて、全ての種類のシャフトモデル2についてスイングシミュレーションが行われる。
【0045】
前記スイングシミュレーションでは、ゴルフクラブモデル5が前記スイングパターンに基づき運動させられる。即ち、シャフトモデル2のバット端側位置を、上述のスイングパターンと同様に移動する剛体Gに連結固定することにより、片持ち状態に保持されたゴルフクラブモデル5を、対象ゴルファと同じスイングパターンで運動させ得る。なお、図9には、スイング中のトップ位置Psからダウンスイング後のフィニッシュの位置Peまでが図示されている。
【0046】
上述のスイングパターンに基づく一連の運動により、シャフトモデル2は各種の力を受け曲げ変形が生じる。このシャフトモデル2の曲げ変形は、スイング中におけるクラブヘッドモデルHの動き、例えば、ボールインパクトの瞬間におけるクラブヘッドモデルHのスピード(いわゆるヘッドスピード)、ロフト角、ブロー角度(インパクト直前のクラブヘッドモデルの進入角度)及びクラブヘッドモデルHのぶれ量などに大きな影響を与える。前記スイングシミュレーションでは、各シャフトモデル2を運動させるスイングパターンは常に同一であるので、スイング中のゴルフクラブヘッドモデルHの動きは、シャフトモデル2の特性に依存する。従って、この動きを最適化するシャフトモデル2の弾性率の分布を見つけることにより、ゴルファに最適なクラブシャフトを設計することができる。本実施形態のスイングシミュレーションでは、シャフトモデル毎に、上記4つの運動状態が記録される。ただし、運動状態は、これらの4つに限定されるものではなく、また一つであっても構わない。
【0047】
次に、本実施形態の設計方法では、運動状態をスカラー化する処理が行われる(ステップS4)。互いに独立した複数の運動状態(目的関数)を最適化するシャフトモデル2の弾性率の分布を探索するためには、何らかの重み付け条件を与えないと、最適な弾性率の分布の決定が困難になる。そこで、本実施形態では、重み係数を各運動状態の値に乗じて加算等することにより、複数の運動状態をスカラー化することが行われる。これにより、重視すべき運動状態が決定され得る。スカラー化を実現する具体的な方法については、特に限定されるものではないが、例えば線形結合(一般式は下式(2)参照)やチェビシェフ型(一般式は下式(3)参照)などを採用できる。
F=w1・f1+w2・f2+…+wr・fr …(2)
F=Max{w1・f1,w2・f2,…,wr・fr} …(3)
ただし、符号は次の通りである。
F:運動状態のスカラー値
fi:各運動状態の値を正規化したもの
wi:各運動状態に対する係数
【0048】
次に、本実施形態では、近似応答関数が生成される(ステップS5)。近似応答関数は、設計変数である基底関数の重み付け係数a1、a2…anと、目的関数である運動状態のスカラー値Fとの間を、例えばニューラルネットワークを用いて関係付けるものと言える。図10には、一例として、2つの重み付け係数a1及びa2と、運動状態のスカラー値Fとを関係付ける三次元曲面からなる近似応答関数が示される。
【0049】
近似応答関数を生成することは本発明の必須要件ではない。しかし、近似応答関数は、設定されなかった設計変数a1及びa2の位置における解析結果(スカラー値F)を補間し、最適化の候補の予想を可能とする。従って、最適解を効率良くかつ短時間で探索するには、このような近似応答関数を生成することが望ましい。また、本発明の設計方法では、設計変数の数が従来に比べて少なくなるので、近似応答関数の生成も短時間で行うことができる。従って、設計効率が向上する。なお、近似応答関数は、慣例に従って、種々の方法で実現することができるが、例えば応答曲面法(RSM:Response Surface Methodology)、動径基底関数(RBF:Radial Basis Function)又はKriging法などが好適に用いられる。また、近似応答関数から最適解を探索する手法には、慣例に従い、例えば遺伝的アルゴリズム、勾配法又は焼きなまし法などが採用される。
【0050】
次に、探索された最適解(運動状態)が満足できるものか否かが判断され(ステップS7)、それが真(ステップS7でY)の場合、最適解をもたらすシャフトモデル2の弾性率の分布(関数)がモニタ又はプリンター等に出力される(ステップS8)。他方、得られた最適化では満足し得ない場合(ステップS7でN)、再度、ステップS1以降が繰り返され、最適化の探索が引き続き行われる。ステップS7での判定は、例えば最適化前の運動状態の変化率(向上率)などを基準として行うことができる。
【0051】
以上のようにして設計ないし製造された本実施形態のシャフトモデル2の弾性率の分布は、予め設定されたシャフトモデルの弾性率の分布を表す基本関数X0に、重み付け係数を変えて連続関数からなる基底関数X1、X2…を順次線形結合することにより得られる複数の関数Xsに基づいて設定されるので、弾性率の変化が比較的滑らかなものとなる。従って、製造容易な弾性率の分布を具えた最適化されたクラブシャフトを設計しうる利点がある。さらに、本発明の設計方法では、設計変数となる基底関数の数を、シャフトモデルを構成する要素の数よりも少なく設定しているので、設計変数の数が従来に比して減少する。よって、最適解を探索する時間を短縮でき、ひいては設計効率を大幅に向上させることができる。
【0052】
なお、出力された弾性率の分布に基づいたゴルフクラブシャフトは、慣例に従って種々の方法で作ることができる。例えば繊維強化樹脂シャフトの場合には、プリプレグ(強化繊維を未硬化樹脂に含浸させたシート材)の積層数、強化繊維の弾性率及び/又は繊維の配向角度となどを変えることによって、各部の弾性率を調節できる。
【0053】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されるものではなく、種々変更して実施され得るのは言うまでもない。例えば、上記実施形態では、シャフト設計用のパラメータとして、弾性率を用いたが、曲げ剛性EIが用いられても良いし、捻り剛性などが採用されても良い。
【実施例】
【0054】
本発明の効果を確認するために、2名のゴルファA及びBを対象とし、本発明に従ってゴルフクラブシャフトの最適設計化が行われた。基本関数は、図4に示したものとし、この弾性率の分布を有するゴルフクラブシャフトを装着したゴルフクラブを用いてクラブのヘッドスピード、インパクト時のロフト角、ブロー角及びブレ量という4つの運動状態及びスイングパターンが計測された。
【0055】
次に、上記の4つの運動状態を向上させるために、基本関数に種々の基底関数を線形結合して弾性率の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを作り、これらについて予め測定されたスイングパターンに基づいてスイングシミュレーションが行われた。
【0056】
また、シャフトモデルは56個のビーム要素で構成され、それらの断面二次モーメントIは固定とし、各要素の弾性率Eのみを変化させた。また、基底関数には、直線関数グループの他、周期がともにシャフトモデルの長さの1/2以上かつ2倍以下の正弦関数からなる正弦関数グループ及び余弦関数からなる余弦関数グループの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた合計10個の関数が用いられた。
【0057】
スイングシミュレーションの結果、各ゴルファAないしBについて、3つの運動性をバランス良く向上させるもの(バランス重視)、ヘッドスピードの向上を最も重視したもの(ヘッドスピード重視)、ロフト角の増大を最も重視したもの(ロフト角重視)、ブロー角の増大を最も重視したもの(ブロー角重視)及びヘッドのブレ抑制を重視したもの(ブレ抑制重視)をそれぞれ最適とするシャフトモデルの弾性率の分布は、図11及び図12に示す通りであった。これらの図から明らかなように、本発明方法によって得られたシャフトモデルの弾性率の分布では、隣り合う要素間で弾性率が大きく変化するいわゆる”弾性率の飛び”が生じておらず、しかもピークがいずれも5個以下に抑えられているので、製造が比較的容易に行える点で望ましい。なお、そのときのスイングシミュレーションにおける各運動状態は、表1の通りである。
【0058】
【表1】
【0059】
バランス重視のものについては、最適化前と比べて実質的な差が見られなかったが、それ以外の各運動状態を単独で重視させたクラブシャフトについては、有意な効果を発揮していることが確認できた。
【0060】
次に、各ゴルファA及びBについて、ヘッドスピードを重視したシャフトモデルの弾性率の分布に従い、繊維強化樹脂のゴルフクラブシャフトをそれぞれ試作し、それらを用いたウッド型ゴルフクラブで打球の飛距離を測定した。結果は、それぞれ10球打撃の平均飛距離を求め、最適化前の値を100とする指数で示した。数値が大きいほど良好である。テストの結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
テストの結果、最適化されたゴルフクラブシャフトを用いたクラブでは、最適前に比べて飛距離が増大していることが確認できた。また、飛距離の増加率は、シミュレーションで計算されたヘッドスピードの向上率とほぼ一致しており、シミュレーションの精度の良さが確認できた。
【0063】
さらに、同一のシャフトモデルを使用し、図13(b)に示されるように、個々の要素の弾性率を設計変数(つまり設計変数の個数は56個)として従来の設計方法で最適解の探索に要した時間は、上記実施例の2.5倍であった。従って、計算時間を有意に短縮していることも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態のゴルフクラブシャフトの設計方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【図2】シャフトモデルの設定手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】(a)はゴルフクラブの斜視図、(b)はシャフトモデルを視覚化して示す線図である。
【図4】シャフトモデルの基準の弾性率を表す基本関数を示すグラフである。
【図5】基底関数のうち直線関数グループに属する関数を示すグラフである。
【図6】基底関数のうち正弦関数グループに属する関数を示すグラフである。
【図7】基底関数のうち余弦関数グループに属する関数を示すグラフである。
【図8】基本関数及び該基本関数に基底関数を線形結合した関数を示すグラフである。
【図9】スイングシミュレーションを示す線図である。
【図10】近似応答関数を視覚化して例示するグラフである。
【図11】ゴルファAの運動状態を最適化するシャフトモデルの弾性率の分布を示すグラフである。
【図12】ゴルファBの運動状態を最適化するシャフトモデルの弾性率の分布を示すグラフである。
【図13】(a)はシャフトモデルを視覚化して示す線図、(b)はその曲げ剛性の分布を示す関数である。
【符号の説明】
【0065】
2 シャフトモデル
e 要素
e1 ビーム要素
X0 基本関数
X1,X2… 基底関数
A 直線関数グループ
B 正弦関数グループ
C 余弦関数グループ
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータによる数値解析を利用してゴルファに最適なゴルフクラブシャフトを効率良く設計するのに役立つゴルフクラブシャフトの設計方法及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腕力やスイングパターンなどは、ゴルファ毎に異なる。従って、ゴルフスコアを向上させるために、自分に合ったゴルフクラブを使用することは重要である。とりわけ、ヘッドの軌道やヘッドスピードを決定付ける要素となるゴルフクラブシャフトの選択は、特に重要である。
【0003】
近年、コンピュータによる数値解析を利用し、特定のゴルファに最適なゴルフクラブシャフトを探求・設計するための方法が種々提案されている(例えば、下記特許文献1ないし3参照)。これらの方法は、概ね、有限要素法等で数値解析が可能かつシャフトの長さ方向において曲げ剛性の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するステップと、前記シャフトモデルを予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて運動させるスイングシミュレーションを行うことにより、各シャフトモデルに依存したクラブモデルの運動状態(例えば、ヘッドスピードやブロー角など)を計算するステップと、前記スイングシミュレーションの結果から、前記運動状態が最適なゴルフクラブシャフトの曲げ剛性の分布などを探索するステップとを含む。
【0004】
【特許文献1】特開2002−331060号公報
【特許文献2】特開2004−242855号公報
【特許文献3】特開2004−8521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば図13(a)に示されるように、従来のシャフトモデルSは、有限個の要素(この例では20個のビーム要素)b…を節点で接続することにより、棒状のモデルとしてコンピュータに定義される。また、各要素bには、それぞれ、その長さ、曲げ弾性率(以下、単に「弾性率」という。)E及び断面二次モーメントIといったスイングに影響を及ぼすパラメータが定義される。なお、個々の要素bにおいては、その長さ方向で前記パラメータは一定である。
【0006】
図13(b)には、前記シャフトモデルSの曲げ剛性(弾性率E×断面二次モーメントI)EIの分布の一例を示す。縦軸には前記曲げ剛性EIが、横軸には要素bの番号がそれぞれ設定される。特定のゴルファに最適なクラブシャフトの曲げ剛性の分布を見つけるためには、前記曲げ剛性の分布が異なる数多くのシャフトモデルSを設定し、それらの運動状態をシミュレーションする必要がある。従来では、例えば各要素bの断面二次モーメントIを変更せずに、弾性率Eを一定のレンジR内で適宜変化させかつこれらを組み合わせることにより、前記曲げ剛性EIの分布が異なる複数種類(通常、数百以上)のシャフトモデルが設定されていた。従って、この例では、各要素bの弾性率Eが設計変数となり、該設計変数の数は、シャフトモデルaを構成する要素の数である20個になる。
【0007】
しかしながら、このようなシャフトの設計方法では、設計変数の数が多く、最適な解を見つけるまでに非常に多くの時間を要するという問題がある。特に計算精度を高めるために、シャフトモデルを小さな要素で細かく分割した場合には、これに伴って設計変数の数が増大し、最適解の探索により多くの時間を要するという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、シャフトモデルを、予め設定されたゴルフクラブシャフトのパラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合することにより得られる複数の関数に基づいて、複数種類のシャフトモデルを設定するとともに、前記結合される基底関数の数をシャフトモデルの要素の数よりも少なくすることを基本として、設計変数を従来に比して大幅に減じることができ、ひいては最適な解を見つけるまでの計算時間を短縮することが可能なゴルフクラブシャフトの設計方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち請求項1記載の発明は、数値解析が可能かつスイング中のゴルフクラブヘッドの動きに影響を及ぼすシャフト設計用のパラメータが定義された複数個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化し、前記パラメータのシャフトの長さ方向の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するモデル設定ステップと、予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて、前記シャフトモデルを運動させるスイングシミュレーションを行い、該シャフトモデルに依存した運動状態を個々のシャフトモデル毎に計算する解析ステップと、前記複数種類のシャフトモデルから前記運動状態が最適なものを探索する探索ステップとを含むゴルフクラブシャフトの設計方法であって、前記モデル設定ステップは、予め設定された前記パラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合することにより得られる複数の関数に基づいて、前記複数種類のシャフトモデルが設定されるとともに、前記基本関数に線形結合される前記基底関数の数が、前記シャフトモデルを構成する要素の数よりも少ないことを特徴とする。
【0010】
また請求項2記載の発明は、前記基底関数は、定数関数と一次関数とからなる直線関数グループ、周期が異なる複数の正弦関数からなる正弦関数グループ及び周期が異なる複数の余弦関数からなる余弦関数グループの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた合計2以上の関数を含む請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0011】
また請求項3記載の発明は、前記正弦関数グループ及び前記余弦関数グループに属する各関数は、シャフトモデルの長さの1/2以上かつ2倍以下の周期を有する請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0012】
また請求項4記載の発明は、前記パラメータは、曲げ弾性率E、断面二次モーメントI、曲げ剛性EI又は捻り剛性の少なくとも一つを含む請求項1乃至3のいずれかに記載のゴルフクラブシャフトの設計方法である。
【0013】
また請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載されたゴルフクラブシャフトの設計方法により得られた最適なシャフトモデルの前記パラメータの分布に基づいてゴルフクラブシャフトを製造するステップを含むことを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明において、モデル設定ステップは、スイング中のゴルフクラブヘッドの動きに影響を及ぼすシャフト設計用のパラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合して得られる複数の関数に基づいて、前記パラメータの分布が異なる複数種類のシャフトモデルが設定される。
【0015】
従って、請求項1に記載の発明では、設計変数が、前記重み付け係数の数、言い換えると基本関数に線形結合される基底関数の数に等しい。そして、請求項1の発明では、この基底関数の数が、シャフトモデルを構成する要素の数よりも少なく設定されるので、設計変数の数が従来に比して少なくなる。よって、最適解を探索する時間を短縮でき、ひいては設計効率を高めうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のゴルフクラブシャフトの設計方法では、特定のゴルファに対して、スイング時のクラブヘッドの運動状態を最適とするゴルフクラブシャフト、とりわけ繊維強化樹脂を用いた非金属製のシャフトが好ましく設計される。図1には、このような設計方法の手順の一例が示される。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態の設計方法では、先ず、シャフトモデルが設定される(ステップS1)。該シャフトモデルを設定する具体的な処理の一例は図2に示される。本実施形態では、先ず、ゴルフクラブシャフトを複数個の要素を用いてモデル化する処理が行われる(ステップS11)。
【0018】
図3(b)には、シャフトモデル2の一例が視覚化される。該シャフトモデル2は、図3(a)に示されるように、ゴルフクラブ1のクラブシャフト3を参考として、数値解析が可能かつスイング中のゴルフクラブヘッドの動きに影響を及ぼすシャフト設計用のパラメータが定義された複数個の要素eを用いて設定される。前記数値解析として、例えば有限要素法が用いられる。また、数値解析が可能な要素とは、対象となる数値解析法において、物理学及び与えられた条件に従った変形挙動を示しうる要素を意味する。
【0019】
特に限定されるわけではないが、前記要素としては、例えばソリッド要素、ビーム要素又はシェル要素などが好ましい。本実施形態では56個のビーム要素e1を軸方向に連ねることにより、長さLを有する1本のシャフトモデル2が設定される。前記長さLは、設計の対象となる前記クラブシャフト3の長さL又は対象ゴルファが希望するクラブシャフトの長さに一致させるのが望ましい。慣例に従い、前記長さLは、通常、35ないし50インチ程度に設定される。
【0020】
シャフトモデル2を構成する要素eの数(全要素数)は、特に限定さるものではないが、少なすぎると、計算精度が低下するおそれがあり、逆に多すぎると、シャフトモデル2の変形計算に多くの時間を要するおそれがある。このような観点より、シャフトモデル2を構成する要素eの数は、好ましくは20個以上、より好ましくは30個以上、さらに好ましくは40個以上、特に好ましくは60個以上が望ましく、また、好ましくは100個以下、より好ましくは80個以下が望ましい。なお、個々の要素eの軸方向の長さは、同一でも良いし、異なっていても良い。
【0021】
また各ビーム要素e1は、図3(b)では両端に節点を有する直線で表されるが、一般的なクラブシャフトのように、パイプ状体として計算上取り扱うことができる。即ち、ビーム要素e1には、材料物性に基づく弾性率Eのみならず、外径d2及び内径d1から計算される断面二次モーメントI(=π(d24−d14)/64)が定義される。
【0022】
次に、本実施形態では、基本となるシャフトモデル2のスイング中の前記パラメータの分布を表す基本関数X0が設定される(ステップS12)。前記シャフト設計用のパラメータには、必要に応じて種々のものが採用されるが、主なものとして、例えば弾性率E、断面二次モーメントI、曲げ剛性EI又は捻り剛性の少なくとも一つを含むことが望ましい。本実施形態では、弾性率が採用される。
【0023】
このような弾性率の分布は、特に限定されることなく種々の方法によって決定される。例えば、前記シャフトモデル2の各要素eに、対象ゴルファが普段使用しているゴルフクラブのシャフトの弾性率の分布を割り当てて決定することができる。また、本実施形態では、実際のゴルフクラブを用いて対象ゴルファのスイングが予め測定されるが(後述)、この際に使用されるゴルフクラブのシャフトの弾性率の分布に基づいて前記基本関数X0が定められても良い。
【0024】
図4には、基本となるシャフトモデル2の弾性率の分布を表す基本関数X0が示される。図4では、縦軸にシャフトモデル2の要素の弾性率(Pa)が、横軸にシャフトモデル2のチップ側(クラブヘッドが装着されている側)からバット側(グリップが装着されている側)へ向かって順番に割り当てられた要素の番号が設定される。また、隣り合う要素e,e間では、多くの場合、弾性率は連続することなく離散的に定義される。しかし、本実施形態の基本関数X0は、図4に示されるように、シャフトモデル2の長さの区間において、各要素eに定義された弾性率を滑らかに継ぐ連続関数として定義される。
【0025】
次に、下記の例示式(1)のように、前記基本関数X0に、重み付け係数a1、a2、…anを変えて1以上、より好ましくは複数の連続関数からなる基底関数X1、X2、…Xnを、順次、線形結合(一次結合)することにより、前記基本関数X0とは異なった弾性率の分布を表す複数の関数XSを得る処理が行われる(ステップS13)。
XS=X0+a1・X1+a2・X2+…+an・Xn …(1)
【0026】
このように、基本関数X0に、重み付け係数a1、a2、…anを変えた基底関数X1、X2、…Xnを順次線形結合することにより、前記パラメータ(弾性率)の分布が異なる様々な関数XSを作ることができる。種々の関数Xsを得るために、基底関数X1、X2、…Xnには、いかなる連続関数が用いられても良く、例えば定数関数、一次関数、二次関数、三次関数、指数関数、対数関数及び三角関数といった連続関数から選ばれる1個以上、より好ましくは複数個が用いられる。
【0027】
また、選ばれた基底関数には、重み付け係数が乗じられる。これにより、様々な弾性率の分布を表す関数Xsを得ることができる。また、例えば、3つの基底関数X1、X2及びX3を基本関数X0に線形結合する場合、前記式(1)は次のように表される。
XS=X0+a1・X1+a2・X2+a3・X3
上式から明らかなように、シャフト設計用のパラメータの分布を示す新たに設定される前記関数Xsは、3つの変数(a1・X1)、(a2・X2)及び(a3・X3)のみで、シャフトモデル2の全長さLに亘る弾性率の分布を特定できる。従って、本発明の設計方法では、基本関数X0に線形結合される基底関数X1、X2…の数が、シャフトモデル2の設計変数の数となる。
【0028】
従来の設計方法においても、各要素に設計用のパラメータ(例えば弾性率)がそれぞれ割り当てられる。しかしながら、これらのパラメータは隣り合う要素間で何ら関連付けされていない。従って、従来の設計方法では、該シャフトモデル2を構成している要素の数が、シャフトモデル2の設計変数の数となる(例えば、シャフトモデルを構成する要素の数が56個の場合、その設計変数の数は56個必要になる。)。このように、本発明の設計方法と従来の設計方法とでは、設計変数の対象が異なる。
【0029】
さらに、本発明の設計方法では、基本関数X0に線形結合される基底関数の数は、シャフトモデル2を構成している要素eの数よりも少なく設定される。従って、従来よりも少ない設計変数(上記の例では僅か3つの設計変数)で様々なシャフトモデル2の弾性率Eの分布を定義しうる。しかも、このような設計変数の少ないシャフトモデル2は、コンピュータの負荷を低減でき、後述の最適解の探索処理に要する計算時間が短縮されるので、設計効率を大幅に向上しうる点で特に望ましい。
【0030】
特に限定されるわけではないが、前記式(1)で表される関数XSにおいて、基本関数X0に線形結合される基底関数X1、X2…の数が少なすぎると、シャフトモデル2の弾性率の分布の多様性が損なわれ、ひいてはクラブヘッドの運動状態を十分な向上させる最適解が得られないおそれがある。このような観点より、前記関数Xsを得る際に、基本関数X0に線形結合される基底関数の数は、好ましくは6個以上、より好ましくは10個以上、さらに好ましくは14個以上が望ましい。他方、前記基底関数の数が多すぎると、従来と同様、シャフトモデル2の設計変数が多くなり、最適解を見つけ出すまでの計算時間が長くなるおそれがある。このような観点より、前記基底関数の数は、シャフトモデル2を構成する要素eの数よりも小であることを前提として、好ましくは30個以下、より好ましくは25個以下、さらに好ましくは20個以下が望ましい。
【0031】
以上の処理により、基本関数X0に、重み付け係数a1、a2、…anを変えた基底関数X1、X2、…Xnを順次線形結合することにより、前記基本関数X0とは異なる弾性率の分布を示す様々な関数Xsを多数得ることができる。
【0032】
ここで、弾性率の変化がより滑らかな関数Xsを得るためには、前記基底関数は、直線関数グループA、正弦関数グループB及び余弦関数グループCの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた合計2以上の関数が用いられるのが望ましい。
【0033】
図5には、前記直線関数グループAの例を示し、該グループAには、例えば定数関数A−1と一次関数A−2とを含めることができる。前記定数関数A−1は、シャフトモデルの長さの区間において弾性率が一定で連続する関数である。このような定数関数A−1を基底関数X1として基本関数X0に線形結合した場合、該基本関数X0を上又は下に平行移動させることができる。そして、その移動量及び方向は、重み付け係数a1の値及び符号を変えることにより調整できる。
【0034】
また、前記一次関数A−2は、弾性率がシャフトモデルの先端からの長さに比例して大きくなる関数である。該一次関数A−2を基底関数X2として基本関数X0に線形結合した場合、基本関数X0全体の傾きを変えることができる。前記傾きの方向及び角度は、重み付け係数a2の値及び符号によって調整できる。なお、本実施形態の一次関数A−2は、シャフトモデル2の長さの中間位置で弾性率Eがゼロになる。従って、該一次関数A−2は、基本関数X0をそのシャフト長さ方向の中間位置を支点して回転させ得る。
【0035】
また、図6には正弦関数グループBの例を示す。該グループBには、例えば周期が異なる複数の正弦関数(sin関数)を含む。具体的には、シャフトモデル2の長さLの1/2以上かつ2倍以下の周期を有する4つの正弦関数が望ましい。具体的には、シャフトモデル2の長さLの2倍の周期を有する基本正弦関数B−1、シャフトモデル2の長さLと等しい周期を有する2倍正弦関数B−2、シャフトモデル2の長さLの2/3の周期を有する3倍正弦関数B−3及びシャフトモデル2の長さLの1/2の周期を有する4倍の正弦関数B−4が示されている。
【0036】
さらに、図7には余弦関数グループCの例を示す。該グループCは、例えば周期が異なる複数の余弦関数(cos関数)を含む。具体的には、シャフトモデルの長さLの1/2以上かつ2倍以下の周期を有する4つの余弦関数の例が示される。具体的には、シャフトモデル2の長さLの2倍の周期を有する基本余弦関数C−1、シャフトモデル2の長さLと等しい周期を有する2倍余弦関数C−2、シャフトモデル2の長さLの2/3の周期を有する3倍余弦関数C−3及びシャフトモデル2の長さLの1/2の周期を有する4倍余弦関数C−4が示されている。
【0037】
これらの正弦関数及び余弦関数が基底関数として用いられた場合、その波形のピーク位置における基本関数X0 の弾性率を滑らかに増加させ又は減少させ得る。また、三角関数(正弦関数及び余弦関数)を適宜重ねることにより、実質的に全ての連続関数を表現できる点でも望ましい。さらに、本実施形態のように、正弦関数及び余弦関数の各周期を、いずれもシャフトモデルの長さLの1/2以上とした場合、正弦関数又は余弦関数の波形のピークは、最大でも5つしか存在しない。従って、このような基底関数は、基本関数X0の弾性率が、多数のピークを有して頻繁に上下動を繰り返すような波形に変形されるのを防止できる点で望ましい。
【0038】
特に好ましくは、直線関数グループA、正弦関数グループB及び余弦関数グループCの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた2以上の関数が用いられるのが望ましい。つまり、前記3つのグループAないしCから少なくとも2つのグループが選ばれ(例えばA及びB)、この選ばれた各グループからそれぞれ少なくとも一つの関数(例えば定数関数A−1及び基本正弦関数B−1)が選ばれるのが望ましい。これにより、基本関数X0で表された弾性率の分布を様々な態様に変化させ得る。特に好ましくは、前記3つのグループからそれぞれ少なくとも一つの関数が選ばれるのが望ましい。これによって、さらに多様な弾性率の分布が得られる。なお、関数XSを順次得る際に、結合される基底関数の数は一定でも良いし、また変化させても良いのは言うまでもない。
【0039】
前記基底関数の選択や、重み付け係数a1及びa2の値の設定については、特に限定されるものではなく、例えばランダムに行われても良いし、また予め定めた何らかのアルゴリズム(例えば遺伝的アルゴリズム等)に従って行われても良い。
【0040】
次に、設定された弾性率の分布を表す関数XSの種類数が十分か否かについて判断され(ステップS14)、結果が真(Y)の場合には、図1のステップS2に戻る。他方、ステップS14で結果が偽(N)の場合には、基底関数及び/又は重み付け係数の値を変更し(ステップS15)、ステップS14の結果が真(Y)になるまで上記ステップS13の処理が繰り返される。このようにして、ゴルフクラブシャフトの設計に必要かつ十分なシャフトモデルの弾性率の分布を表す関数Xsが得られる。これらの関数XSは、逐次、図示しないコンピュータの記憶装置などに記憶される。
【0041】
図8には、上記のステップS11ないしS15により得られたシャフトモデル2の弾性率の分布を示す複数の関数XSの例が基本関数X0とともに示される。本実施形態では、得られた関数XSは、予め定められた弾性率の上限及び下限の範囲内にあるものだけが採用され、これを満たさない場合には、その関数XSは利用されることなく削除される。このような基準としては、例えば、新たに設定される弾性率の分布を表す関数XSの最小値(加減)は、基本関数X0の最小値の50%以上とし、また関数XSの最大値(上弦)は、基本関数X0の最大値の150%以下とすることが挙げられる。このような上限及び下限の設定は、製造困難なクラブシャフトの弾性率の分布の生成を抑制する点で好ましい。
【0042】
次に、予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて、前記シャフトモデル2を運動させるスイングシミュレーションを行い、該シャフトモデルに依存した運動状態を個々のシャフトモデル毎に計算する処理が行われる(ステップS3)。
【0043】
前記スイングパターンは、例えば前記特許文献1に記載されているように、対象ゴルファのスイング(即ち、アドレスからバックスイングを経てダウンスイング及びフォロースルーまでの一連の動き)を複数の方向から撮像装置で撮像し、必要な画像処理等を行うことによって得ることができる。具体的には、スイング中におけるクラブのグリップ位置の三次元座標、シャフトの軸中心線周りのグリップの回転角、グリップの傾斜角及び加速度などが時系列的にコンピュータの記憶装置に記録される。
【0044】
図9には、スイングシミュレーションの一例が示される。本実施形態のスイングシミュレーションは、シャフトモデル2と、そのチップ側にゴルフクラブヘッドに相当する質量と重心とを有するクラブヘッドモデルHが取り付けられたゴルフクラブモデル5を用いて行われる。また、前記シャフトモデル2の各要素eには、設定された複数種類の前記関数XSから適宜選択された一つの関数に基づいて弾性率が離散的に割り当てられる。なお上述のように、各要素内では、弾性率は一定とされる。そして、順次関数XSを代えて、全ての種類のシャフトモデル2についてスイングシミュレーションが行われる。
【0045】
前記スイングシミュレーションでは、ゴルフクラブモデル5が前記スイングパターンに基づき運動させられる。即ち、シャフトモデル2のバット端側位置を、上述のスイングパターンと同様に移動する剛体Gに連結固定することにより、片持ち状態に保持されたゴルフクラブモデル5を、対象ゴルファと同じスイングパターンで運動させ得る。なお、図9には、スイング中のトップ位置Psからダウンスイング後のフィニッシュの位置Peまでが図示されている。
【0046】
上述のスイングパターンに基づく一連の運動により、シャフトモデル2は各種の力を受け曲げ変形が生じる。このシャフトモデル2の曲げ変形は、スイング中におけるクラブヘッドモデルHの動き、例えば、ボールインパクトの瞬間におけるクラブヘッドモデルHのスピード(いわゆるヘッドスピード)、ロフト角、ブロー角度(インパクト直前のクラブヘッドモデルの進入角度)及びクラブヘッドモデルHのぶれ量などに大きな影響を与える。前記スイングシミュレーションでは、各シャフトモデル2を運動させるスイングパターンは常に同一であるので、スイング中のゴルフクラブヘッドモデルHの動きは、シャフトモデル2の特性に依存する。従って、この動きを最適化するシャフトモデル2の弾性率の分布を見つけることにより、ゴルファに最適なクラブシャフトを設計することができる。本実施形態のスイングシミュレーションでは、シャフトモデル毎に、上記4つの運動状態が記録される。ただし、運動状態は、これらの4つに限定されるものではなく、また一つであっても構わない。
【0047】
次に、本実施形態の設計方法では、運動状態をスカラー化する処理が行われる(ステップS4)。互いに独立した複数の運動状態(目的関数)を最適化するシャフトモデル2の弾性率の分布を探索するためには、何らかの重み付け条件を与えないと、最適な弾性率の分布の決定が困難になる。そこで、本実施形態では、重み係数を各運動状態の値に乗じて加算等することにより、複数の運動状態をスカラー化することが行われる。これにより、重視すべき運動状態が決定され得る。スカラー化を実現する具体的な方法については、特に限定されるものではないが、例えば線形結合(一般式は下式(2)参照)やチェビシェフ型(一般式は下式(3)参照)などを採用できる。
F=w1・f1+w2・f2+…+wr・fr …(2)
F=Max{w1・f1,w2・f2,…,wr・fr} …(3)
ただし、符号は次の通りである。
F:運動状態のスカラー値
fi:各運動状態の値を正規化したもの
wi:各運動状態に対する係数
【0048】
次に、本実施形態では、近似応答関数が生成される(ステップS5)。近似応答関数は、設計変数である基底関数の重み付け係数a1、a2…anと、目的関数である運動状態のスカラー値Fとの間を、例えばニューラルネットワークを用いて関係付けるものと言える。図10には、一例として、2つの重み付け係数a1及びa2と、運動状態のスカラー値Fとを関係付ける三次元曲面からなる近似応答関数が示される。
【0049】
近似応答関数を生成することは本発明の必須要件ではない。しかし、近似応答関数は、設定されなかった設計変数a1及びa2の位置における解析結果(スカラー値F)を補間し、最適化の候補の予想を可能とする。従って、最適解を効率良くかつ短時間で探索するには、このような近似応答関数を生成することが望ましい。また、本発明の設計方法では、設計変数の数が従来に比べて少なくなるので、近似応答関数の生成も短時間で行うことができる。従って、設計効率が向上する。なお、近似応答関数は、慣例に従って、種々の方法で実現することができるが、例えば応答曲面法(RSM:Response Surface Methodology)、動径基底関数(RBF:Radial Basis Function)又はKriging法などが好適に用いられる。また、近似応答関数から最適解を探索する手法には、慣例に従い、例えば遺伝的アルゴリズム、勾配法又は焼きなまし法などが採用される。
【0050】
次に、探索された最適解(運動状態)が満足できるものか否かが判断され(ステップS7)、それが真(ステップS7でY)の場合、最適解をもたらすシャフトモデル2の弾性率の分布(関数)がモニタ又はプリンター等に出力される(ステップS8)。他方、得られた最適化では満足し得ない場合(ステップS7でN)、再度、ステップS1以降が繰り返され、最適化の探索が引き続き行われる。ステップS7での判定は、例えば最適化前の運動状態の変化率(向上率)などを基準として行うことができる。
【0051】
以上のようにして設計ないし製造された本実施形態のシャフトモデル2の弾性率の分布は、予め設定されたシャフトモデルの弾性率の分布を表す基本関数X0に、重み付け係数を変えて連続関数からなる基底関数X1、X2…を順次線形結合することにより得られる複数の関数Xsに基づいて設定されるので、弾性率の変化が比較的滑らかなものとなる。従って、製造容易な弾性率の分布を具えた最適化されたクラブシャフトを設計しうる利点がある。さらに、本発明の設計方法では、設計変数となる基底関数の数を、シャフトモデルを構成する要素の数よりも少なく設定しているので、設計変数の数が従来に比して減少する。よって、最適解を探索する時間を短縮でき、ひいては設計効率を大幅に向上させることができる。
【0052】
なお、出力された弾性率の分布に基づいたゴルフクラブシャフトは、慣例に従って種々の方法で作ることができる。例えば繊維強化樹脂シャフトの場合には、プリプレグ(強化繊維を未硬化樹脂に含浸させたシート材)の積層数、強化繊維の弾性率及び/又は繊維の配向角度となどを変えることによって、各部の弾性率を調節できる。
【0053】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されるものではなく、種々変更して実施され得るのは言うまでもない。例えば、上記実施形態では、シャフト設計用のパラメータとして、弾性率を用いたが、曲げ剛性EIが用いられても良いし、捻り剛性などが採用されても良い。
【実施例】
【0054】
本発明の効果を確認するために、2名のゴルファA及びBを対象とし、本発明に従ってゴルフクラブシャフトの最適設計化が行われた。基本関数は、図4に示したものとし、この弾性率の分布を有するゴルフクラブシャフトを装着したゴルフクラブを用いてクラブのヘッドスピード、インパクト時のロフト角、ブロー角及びブレ量という4つの運動状態及びスイングパターンが計測された。
【0055】
次に、上記の4つの運動状態を向上させるために、基本関数に種々の基底関数を線形結合して弾性率の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを作り、これらについて予め測定されたスイングパターンに基づいてスイングシミュレーションが行われた。
【0056】
また、シャフトモデルは56個のビーム要素で構成され、それらの断面二次モーメントIは固定とし、各要素の弾性率Eのみを変化させた。また、基底関数には、直線関数グループの他、周期がともにシャフトモデルの長さの1/2以上かつ2倍以下の正弦関数からなる正弦関数グループ及び余弦関数からなる余弦関数グループの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた合計10個の関数が用いられた。
【0057】
スイングシミュレーションの結果、各ゴルファAないしBについて、3つの運動性をバランス良く向上させるもの(バランス重視)、ヘッドスピードの向上を最も重視したもの(ヘッドスピード重視)、ロフト角の増大を最も重視したもの(ロフト角重視)、ブロー角の増大を最も重視したもの(ブロー角重視)及びヘッドのブレ抑制を重視したもの(ブレ抑制重視)をそれぞれ最適とするシャフトモデルの弾性率の分布は、図11及び図12に示す通りであった。これらの図から明らかなように、本発明方法によって得られたシャフトモデルの弾性率の分布では、隣り合う要素間で弾性率が大きく変化するいわゆる”弾性率の飛び”が生じておらず、しかもピークがいずれも5個以下に抑えられているので、製造が比較的容易に行える点で望ましい。なお、そのときのスイングシミュレーションにおける各運動状態は、表1の通りである。
【0058】
【表1】
【0059】
バランス重視のものについては、最適化前と比べて実質的な差が見られなかったが、それ以外の各運動状態を単独で重視させたクラブシャフトについては、有意な効果を発揮していることが確認できた。
【0060】
次に、各ゴルファA及びBについて、ヘッドスピードを重視したシャフトモデルの弾性率の分布に従い、繊維強化樹脂のゴルフクラブシャフトをそれぞれ試作し、それらを用いたウッド型ゴルフクラブで打球の飛距離を測定した。結果は、それぞれ10球打撃の平均飛距離を求め、最適化前の値を100とする指数で示した。数値が大きいほど良好である。テストの結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
テストの結果、最適化されたゴルフクラブシャフトを用いたクラブでは、最適前に比べて飛距離が増大していることが確認できた。また、飛距離の増加率は、シミュレーションで計算されたヘッドスピードの向上率とほぼ一致しており、シミュレーションの精度の良さが確認できた。
【0063】
さらに、同一のシャフトモデルを使用し、図13(b)に示されるように、個々の要素の弾性率を設計変数(つまり設計変数の個数は56個)として従来の設計方法で最適解の探索に要した時間は、上記実施例の2.5倍であった。従って、計算時間を有意に短縮していることも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態のゴルフクラブシャフトの設計方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【図2】シャフトモデルの設定手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】(a)はゴルフクラブの斜視図、(b)はシャフトモデルを視覚化して示す線図である。
【図4】シャフトモデルの基準の弾性率を表す基本関数を示すグラフである。
【図5】基底関数のうち直線関数グループに属する関数を示すグラフである。
【図6】基底関数のうち正弦関数グループに属する関数を示すグラフである。
【図7】基底関数のうち余弦関数グループに属する関数を示すグラフである。
【図8】基本関数及び該基本関数に基底関数を線形結合した関数を示すグラフである。
【図9】スイングシミュレーションを示す線図である。
【図10】近似応答関数を視覚化して例示するグラフである。
【図11】ゴルファAの運動状態を最適化するシャフトモデルの弾性率の分布を示すグラフである。
【図12】ゴルファBの運動状態を最適化するシャフトモデルの弾性率の分布を示すグラフである。
【図13】(a)はシャフトモデルを視覚化して示す線図、(b)はその曲げ剛性の分布を示す関数である。
【符号の説明】
【0065】
2 シャフトモデル
e 要素
e1 ビーム要素
X0 基本関数
X1,X2… 基底関数
A 直線関数グループ
B 正弦関数グループ
C 余弦関数グループ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値解析が可能かつスイング中のゴルフクラブヘッドの動きに影響を及ぼすシャフト設計用のパラメータが定義された複数個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化し、前記パラメータのシャフトの長さ方向の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するモデル設定ステップと、
予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて、前記シャフトモデルを運動させるスイングシミュレーションを行い、該シャフトモデルに依存した運動状態を個々のシャフトモデル毎に計算する解析ステップと、
前記複数種類のシャフトモデルから前記運動状態が最適なものを探索する探索ステップとを含むゴルフクラブシャフトの設計方法であって、
前記モデル設定ステップは、予め設定された前記パラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合することにより得られる複数の関数に基づいて、前記複数種類のシャフトモデルが設定されるとともに、
前記基本関数に線形結合される前記基底関数の数が、前記シャフトモデルを構成する要素の数よりも少ないことを特徴とするゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項2】
前記基底関数は、定数関数と一次関数とからなる直線関数グループ、周期が異なる複数の正弦関数からなる正弦関数グループ及び周期が異なる複数の余弦関数からなる余弦関数グループの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた合計2以上の関数を含む請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項3】
前記正弦関数グループ及び前記余弦関数グループに属する各関数は、シャフトモデルの長さの1/2以上かつ2倍以下の周期を有する請求項2記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項4】
前記パラメータは、曲げ弾性率E、断面二次モーメントI、曲げ剛性EI又は捻り剛性の少なくとも一つを含む請求項1乃至3のいずれかに記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたゴルフクラブシャフトの設計方法により得られた最適なシャフトモデルの前記パラメータの分布に基づいてゴルフクラブシャフトを製造するステップを含むことを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法。
【請求項1】
数値解析が可能かつスイング中のゴルフクラブヘッドの動きに影響を及ぼすシャフト設計用のパラメータが定義された複数個の要素を用いてゴルフクラブシャフトをモデル化し、前記パラメータのシャフトの長さ方向の分布が異なる複数種類のシャフトモデルを設定するモデル設定ステップと、
予め設定されたゴルファのスイングパターンに基づいて、前記シャフトモデルを運動させるスイングシミュレーションを行い、該シャフトモデルに依存した運動状態を個々のシャフトモデル毎に計算する解析ステップと、
前記複数種類のシャフトモデルから前記運動状態が最適なものを探索する探索ステップとを含むゴルフクラブシャフトの設計方法であって、
前記モデル設定ステップは、予め設定された前記パラメータの分布を表す基本関数に、重み付け係数を変えて連続関数からなる1以上の基底関数を順次線形結合することにより得られる複数の関数に基づいて、前記複数種類のシャフトモデルが設定されるとともに、
前記基本関数に線形結合される前記基底関数の数が、前記シャフトモデルを構成する要素の数よりも少ないことを特徴とするゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項2】
前記基底関数は、定数関数と一次関数とからなる直線関数グループ、周期が異なる複数の正弦関数からなる正弦関数グループ及び周期が異なる複数の余弦関数からなる余弦関数グループの少なくとも2つのグループからそれぞれ選ばれた合計2以上の関数を含む請求項1記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項3】
前記正弦関数グループ及び前記余弦関数グループに属する各関数は、シャフトモデルの長さの1/2以上かつ2倍以下の周期を有する請求項2記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項4】
前記パラメータは、曲げ弾性率E、断面二次モーメントI、曲げ剛性EI又は捻り剛性の少なくとも一つを含む請求項1乃至3のいずれかに記載のゴルフクラブシャフトの設計方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたゴルフクラブシャフトの設計方法により得られた最適なシャフトモデルの前記パラメータの分布に基づいてゴルフクラブシャフトを製造するステップを含むことを特徴とするゴルフクラブシャフトの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−302017(P2008−302017A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151933(P2007−151933)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】
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