説明

ゴルフクラブシャフト及びゴルフクラブ

【課題】軽量で且つ高強度となりうるシャフトの提供。
【解決手段】シャフト6は、織物層を備えている。この織物層は、経糸と緯糸とからなる二軸織物20を有している。上記経糸は、シャフト軸方向に対して略平行に配向されている。上記緯糸は、シャフト軸方向に対して略直角に配向されている。上記経糸の引張弾性率がET(tf/mm)とされ、上記緯糸の引張弾性率がEY(tf/mm)とされるとき、引張弾性率ETが引張弾性率EYよりも小さい。好ましくは、上記経糸がPAN系炭素繊維であり、上記緯糸がピッチ系炭素繊維である。好ましくは、上記経糸の引張強度がST(kgf/mm)とされ、上記緯糸の引張強度がSY(kgf/mm)とされるとき、引張強度STが引張強度SYよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフト及びそのシャフトを備えたゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維を用いたゴルフクラブシャフトが市販されている。このシャフトは、カーボンシャフトとも称されている。炭素繊維により、軽量で且つ高強度なカーボンシャフトが製造されうる。
【0003】
カーボンシャフトの製造方法として、シートワインディング法とフィラメントワインディング法とが知られている。これらのうち、シートワインディング法では、プリプレグシートの配置、炭素繊維の配向、炭素繊維の種類等によって、異なった特性のシャフトが作製されうる。シートワインディング法は、設計自由度が高い。
【0004】
特開2008−148757公報は、経糸と緯糸とを有する織物層を備えたシャフトを開示する。この織物層は、軸方向繊維と周方向繊維とを有している。経糸及び緯糸のうち、一方が軸方向繊維とされ、他方が周方向繊維とされている。
【0005】
特開2004−329738公報は、平織りの織物層を有するシャフトを開示する。この織物層の経糸及び緯糸は、シャフトの長手方向に対して斜めに配置されている。
【0006】
特開2006−61473公報は、平織り織物層と三軸織物層とを有するシャフトを開示する。平織り織物層の経糸及び緯糸は、シャフトの長手方向に対して斜めに配置されている。三軸織物層は、緯糸、第一の経糸及び第二の経糸を有している。この三軸織物層の緯糸は、シャフトの長手方向に対して平行又は垂直に配置されている。
【0007】
特開2000−14843公報は、三軸織物層を有するシャフトを開示する。この公報では、三軸織物層を構成する繊維の物理的性質等を、シャフト長手方向において異ならせたシャフトが開示されている。この公報では、シャフトの長手方向の各位置(例えば、シャフトのチップ側、中間部分及びバット側)のそれぞれにおいて、三軸織物層を相違させるシャフトが開示されている。
【0008】
特開2000−288139公報では、最外層に二軸組物層を備え、その内側に三軸組物層を備えたシャフトが開示されている。
【0009】
特開2008−307701公報及び特開平8−131588号公報では、ストレート層とフープ層とを有するシャフトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−148757公報
【特許文献2】特開2004−329738公報
【特許文献3】特開2006−61473公報
【特許文献4】特開2000−14843公報
【特許文献5】特開2000−288139公報
【特許文献6】特開2008−307701公報
【特許文献7】特開平8−131588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願では、新たな技術思想に基づき、軽量で且つ高強度となりうるシャフトを発明するに至った。
【0012】
本発明の目的は、軽量で且つ高強度となりうるシャフトの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のゴルフクラブシャフトは、織物層を備えている。上記織物層は、炭素繊維の経糸と炭素繊維の緯糸とからなる二軸織物を有している。上記経糸は、シャフト軸方向に対して略平行に配向されている。上記緯糸は、シャフト軸方向に対して略直角に配向されている。上記経糸の引張弾性率がET(tf/mm)とされ、上記緯糸の引張弾性率がEY(tf/mm)とされるとき、引張弾性率ETが引張弾性率EYよりも小さい。
【0014】
好ましくは、上記経糸がPAN系炭素繊維であり、上記緯糸がピッチ系炭素繊維である。
【0015】
好ましくは、上記経糸の引張強度がST(kgf/mm)とされ、上記緯糸の引張強度がSY(kgf/mm)とされるとき、引張強度STが引張強度SYよりも大きい。
【0016】
本発明の他のゴルフクラブシャフトは、織物層を少なくとも1層備えており、上記織物層が、炭素繊維の経糸と炭素繊維の緯糸とからなる二軸織物を有しており、上記経糸が、シャフト軸方向に対して略平行に配向されており、上記緯糸が、シャフト軸方向に対して略直角に配向されており、上記経糸がPAN系炭素繊維であり、上記緯糸がピッチ系炭素繊維である。
【0017】
本発明の更に他のゴルフクラブシャフトは、織物層を少なくとも1層備えており、上記織物層が炭素繊維の経糸と炭素繊維の緯糸とからなる二軸織物を有しており、上記経糸がシャフト軸方向に対して略平行に配向されており、上記緯糸がシャフト軸方向に対して略直角に配向されており、上記経糸の引張強度がST(kgf/mm)とされ、上記緯糸の引張強度がSY(kgf/mm)とされるとき、引張強度STが引張強度SYよりも大きい。
【0018】
本発明のゴルフクラブは、上記のいずれかのシャフトと、ヘッドと、グリップとを備えている。
【発明の効果】
【0019】
経糸と緯糸とで炭素繊維を異ならせ、且つ、経糸及び緯糸の特性を適切に設定することにより、軽量で高強度なシャフトが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブの全体図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブシャフトの全体図である。
【図3】図3は、図2のシャフトの展開図である。
【図4】図4は、織物の一例を示す図である。
【図5】図5は、実施例及び比較例のシャフトの展開図である。
【図6】図6は、三点曲げ強度の測定方法を示す図である。
【図7】図7は、潰れ強度の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブ2の全体図である。図2は、シャフト6の全体図である。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8とを備えている。更にゴルフクラブ2は、フェラル10を備えている。ヘッド4は、ウッド型ゴルフクラブヘッドである。シャフト6の先端部に、ヘッド4が設けられている。シャフト6の後端部に、グリップ8が設けられている。図示しないが、ヘッド4は、中空構造を有する。ヘッド4は、例えばチタン合金製である。なおヘッド4及びグリップ8は限定されない。ヘッド4として、ウッド型ヘッド、ユーティリティ型ヘッド、ハイブリッド型ヘッド、アイアン型ヘッド及びパターヘッドが例示される。
【0023】
シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる。シャフト6は、管状体である。図示しないが、シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、先端(チップ)Tpと後端(バット)Btとを有する。先端Tpは、ヘッド4の内部に位置している。後端Btは、グリップ8の内部に位置している。
【0024】
シャフト6は、いわゆるカーボンシャフトである。好ましくは、シャフト6は、プリプレグシートを硬化させてなる。このプリプレグシートは、繊維とマトリクス樹脂とを有している。典型的には、この繊維は炭素繊維である。典型的には、このマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂である。
【0025】
好ましくは、シャフト6は、いわゆるシートワインディング製法により製造される。プリプレグにおいて、マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト6は、プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。この硬化とは、半硬化状態のマトリクス樹脂を硬化させることである。この硬化は、加熱により達成される。シャフト6の製造工程には、加熱工程が含まれる。この加熱工程により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。
【0026】
なお、シャフト6は、プリプレグシートを用いることなく製造することもできる。シャフト6の他の製法として、フィラメントワインディング製法が例示される。ただし、少なくとも、後述される織物層は、プリプレグシートよりなるのが好ましい。
【0027】
シートワインディング製法を採用する場合、シートの枚数は限定されない。また、各シートの配置、各シートの形状、各シートにおいて用いられている繊維等は限定されない。また、織物シートを除き、各シートにおける繊維の配向角度等は限定されない。
【0028】
図3は、本発明の一実施形態に係るシャフト6を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。シャフト6は、複数枚のシートにより構成されている。具体的には、シャフト6は、s1からs9までの9枚のシートにより構成されている。本願において、図3等で示される展開図は、シャフトを構成するシートを、シャフトの半径方向内側から順に示している。展開図において上側に位置しているシートから順にマンドレルに巻回される。図3等の展開図において、図面の左右方向は、シャフト軸方向と一致する。図3等の展開図において、図面の右側は、シャフトのチップTp側である。図3等の展開図において、図面の左側は、シャフトのバットBt側である。
【0029】
なお、図3等の展開図は、各シートの巻き付け順序のみならず、各シートのシャフト軸方向における配置をも示している。例えばシートs1の一端はチップTpに位置している。例えばシートs5の他端はバットBtに位置している。
【0030】
シャフト6は、ストレート層とバイアス層とを有する。図3等の展開図において、繊維の配向角度が記載されている。「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは、本願においてストレートシートとも称される。「−45°」及び「+45°」と記載されているシートが、バイアス層を構成している。バイアス層は、斜交層とも称される。バイアス層用のシートは、本願においてバイアスシートとも称される。
【0031】
ストレート層は、繊維の配向方向がシャフト軸方向に対して実質的に平行とされた層である。巻き付けの際の誤差等に起因して、通常、繊維の配向方向は、シャフト軸線方向に対して完全に平行とはならない。この点を考慮して、本願では、シャフト軸線に対する繊維の配向角度に関し、±10度の誤差が許容される。この許容誤差は、後述される経糸及び緯糸の配向角度にも適用される。
【0032】
プリプレグs1は、先端部を補強する層である。プリプレグs1において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して略平行である。「略平行」とは、シャフト軸線に対する角度が0度(±10度)であることを意味する。プリプレグs1は、ストレート層を構成する。このような先端部を補強するストレート層は、無くてもよい。シャフト重量を抑制しつつ強度を高める観点から、先端部を補強するストレート層が設けられるのが好ましい。シートs1は、チップ側部分ストレート層を構成する。
【0033】
プリプレグs2は、シャフトの全長に亘って設けられている。プリプレグs2は、いわゆるバイアス層を構成する。プリプレグs2において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して−45度(±10度)である。
【0034】
プリプレグs3も、シャフトの全長に亘って設けられている。プリプレグs3は、いわゆるバイアス層である。プリプレグs3において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して+45度(±10度)である。なお、プリプレグs2とプリプレグs3とは、互いに重ねられた状態とされ、この状態で巻き付けられる。プリプレグs2とプリプレグs3とを重なる際に、プリプレグs3は、図2の状態から裏返される。この裏返しにより、プリプレグs2の繊維配向角度とプリプレグs3のそれとが互いに逆向きとなる。捻れ剛性及び捻れ強度の観点から、バイアス層が設けられるのが好ましい。
【0035】
バイアス層の巻回数(層数)は限定されない。第一のバイアス層(上記プリプレグs2に相当)の巻回数b1は限定されない。プリプレグs2が丁度1周している場合、巻回数b1は1.0である。プリプレグs2が半周している場合、巻回数b1は0.5である。
【0036】
繊維の配向角度が上記第一のバイアス層と交差している第二のバイアス層(上記プリプレグs3に相当)の巻回数b2は限定されない。好ましくは、巻回数b2は、巻回数b1に等しい。
【0037】
シャフトの捻れ剛性が過小である場合、打球の方向安定性が不足し、シャフト強度も不足しやすい。シャフトの捻れ剛性の観点から、上記巻回数b1及び上記巻回数b2は、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上がより好ましい。シャフトの軽量化の観点から、上記巻回数b1及び上記巻回数b2は、4以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3以下がより好ましい。
【0038】
プリプレグs4は、先端部を補強する補強層である。プリプレグs4において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して略平行である。プリプレグs4は、ストレート層を構成する。シートs4は、チップ側部分ストレート層を構成する。このようなシートs4は、用いられなくてもよい。
【0039】
プリプレグs5は、後端部を補強する層である。プリプレグs5において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して略平行である。プリプレグs5は、ストレート層を構成する。後端部を補強するストレート層は、設けられなくてもよい。シートs5は、バット側部分ストレート層を構成する。
【0040】
プリプレグs6は、シャフトの全長に亘って設けられている。プリプレグs6は、ストレート層である。プリプレグs6において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して略平行である。プリプレグs6は、ストレート層を構成する。シャフト強度の観点から、シャフトの全長に亘るストレート層が設けられるのが好ましい。
【0041】
プリプレグs7は、シャフトの全長に亘って設けられている。プリプレグs7は、織物プリプレグである。プリプレグs7は、織物20(後述)を含む。この織物20は、二軸織物である。プリプレグs7は、炭素繊維の二軸織物20に樹脂が含侵されてなる。プリプレグs7は、経糸及び緯糸を有する。プリプレグs7が、シャフト6の織物層を構成する。即ち、プリプレグs7が巻回され、更にこのプリプレグs7のマトリクス樹脂が硬化して、織物層となる。
【0042】
本実施形態では、織物層を形成する織物シートs7は、プリプレグである。なお、織物シートは、プリプレグでなくてもよい。例えば、織物シートが樹脂を含まなくてもよい。例えば、織物シートが織物そのものであってもよい。
【0043】
プリプレグs8は、シャフトの全長に亘って設けられている。プリプレグs8は、ストレート層である。プリプレグs8において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して略平行である。プリプレグs8は、ストレート層を構成する。研磨工程において織物層が削られるのを抑制する観点からは、織物層の半径方向外側に、その織物層の全体を覆うストレート層が設けられてもよい。ただし、後述するように、最外層が織物層であるのが最も好ましい。
【0044】
プリプレグs9は、先端部を補強する補強層である。プリプレグs9において、繊維の配向角度は、シャフト軸線に対して略平行である。プリプレグs9は、ストレート層を構成する。このようなシートs9は、用いられなくてもよい。このシートs9により、シャフトの先端部に、外径が一定の部分が形成される。この外径一定部は、内径が一定であるヘッドに接着されやすい。この観点から、先端部を補強するプリプレグとして直角三角形のプリプレグが用いられ、この直角三角形において直交する2辺のうち1辺がチップ側に配置されるのが好ましい。この好ましい例が、シートs9である。シートs9は、チップ側部分ストレート層を構成する。
【0045】
なお、ストレート層及びバイアス層以外の層が設けられても良い。例えば、フープ層が設けられても良い。フープ層において、シャフト軸線に対する繊維の配向角度は、通常、90度±10度である。本実施形態のシャフト6では、フープ層は設けられていない。
【0046】
後述するように、織物層はフープ層の役割をも果たしうる。軽量化の観点から、全長層であるフープ層の巻回数は、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0が最も好ましい。即ち、全長層のフープ層は設けられないのが最も好ましい。
【0047】
また、シャフト長手方向の一部にフープ層(部分フープ層)が設けられても良い。軽量化及び強度の観点から、部分フープ層は、織物層とは異なる位置に設けられるのが好ましい。換言すれば、部分フープ層のシャフト長手方向位置と、織物層のシャフト長手方向位置とが重複しないのが好ましい。この観点から、織物層が全長層である場合、フープ層は存在しないのが好ましい。
【0048】
このシャフト6の製造では、金属製のマンドレルと、上記複数枚のプリプレグシートとが用いられる。この製造では、先ず、図示しないマンドレルに、プリプレグs1、プリプレグs2、・・・、プリプレグs9の順で、9枚のプリプレグシートが巻き付けられる。図3において上側に示されているプリプレグほど、内側に積層されている。
【0049】
以下において、シャフト6の製造方法の概略が説明される。この製造方法は、以下の工程(1)から(9)を含む。
【0050】
(1)裁断工程
裁断工程では、プリプレグシートが所望の形状に裁断される。この裁断により、図3に示す各シートが作製される。シートは、全長シートと部分シートとを含む。全長シートは、シャフト軸方向の全体に亘って設けられる。図3の実施形態において、全長シートは、シートs2、シートs3、シートs6、シートs7及びシートs8である。
【0051】
本実施形態では、シートs7が全長シートである。即ち、本実施形態では、織物層がシャフト軸方向の全体に亘って設けられている。
【0052】
部分シートは、シャフト軸方向の一部に設けられる。図3の実施形態では、部分シートは、シートs1、シートs4、シートs5及びシートs9である。部分シートは、先端シートと後端シートとを含む。先端シートは、先端を含む位置に配置されている。後端シートは、後端を含む位置に配置されている。先端シートは、シートs1、シートs4及びシートs9である。後端シートは、シートs5である。裁断は、裁断機によりなされてもよいし、カッターナイフ等により手作業でなされてもよい。
【0053】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、バイアス層用のシート同士が貼り合わせられる。貼り合わせ工程は、通常、裁断工程の後になされる。
【0054】
なお、フープ層が設けられる場合も、このフープ層用のシート(フープシート)と、他のシート(他のストレートシート又はバイアスシート)とが貼り合わされる。フープシート単独では、シートが裂けてしまい、巻回が困難だからである。前述の通り、本発明では、フープ層が無いのが好ましい。フープ層の省略により、シャフトの製造工程が簡略化され、生産性が向上する。
【0055】
(3)巻回工程
巻回工程では、裁断されたシートがマンドレルに巻回される。巻回工程により、巻回体が得られる。この巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻き付けられてなる。巻回工程は、手作業によりなされてもよいし、ローリングマシン等と称される機械によりなされてもよい。
【0056】
(4)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、上記巻回体の外周面にテープが巻き付けられる。このテープは、ラッピングテープとも称される。このラッピングテープは、張力を付与されつつ巻き付けられる。
【0057】
(5)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が加熱される。この加熱により、マトリクス樹脂が硬化する。この硬化の課程で、マトリクス樹脂が一時的に流動化する。このマトリクス樹脂の流動化により、シート間又はシート内の空気が排出されうる。ラッピングテープの張力(締め付け力)により、この空気の排出が促進されている。この硬化により、硬化積層体が得られる。
【0058】
(6)マンドレルの引き抜き工程及びラッピングテープの除去工程
マンドレルの引き抜き工程とラッピングテープの除去工程とがなされる。両者の順序は限定されないが、ラッピングテープの除去工程の能率を向上させる観点から、マンドレルの引き抜き工程の後にラッピングテープの除去工程がなされるのが好ましい。
【0059】
(7)両端カット工程
この工程では、硬化積層体の両端部がカットされる。このカットにより、シャフトのチップTp及びバットBtが形成される。このカットにより、チップTpの端面及びバットBtの端面が平坦とされる。
【0060】
(8)研磨工程
この工程では、硬化積層体の表面が研磨される。この研磨は、表面研磨とも称される。硬化積層体の表面には、ラッピングテープの跡として残された螺旋状の凹凸が存在する。研磨により、このラッピングテープの跡としての凹凸が消滅し、表面が平滑とされる。
【0061】
(9)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体に塗装が施される。
【0062】
前述の通り、本実施形態では、織物シートs7が用いられる。この織物シートs7は、二軸織物を含む。
【0063】
図4は、織物層(シートs7)に含まれている織物20を示す図である。織物20は、二軸織物である。この織物20は、経糸ya1と緯糸ya2とから構成されている。
【0064】
この織物20は、平織りされている。この織り方は限定されない。経糸ya1と緯糸ya2との織り方として、平織りの他、綾織り及び朱子織りが例示される。
【0065】
本願では、シャフト軸方向z1に対して略平行に配向しているものが経糸ya1と称される。本願では、シャフト軸方向に対して略直角に配向しているものが、緯糸ya2と称される。経糸ya1と緯糸ya2とは、互いに略直交している。
【0066】
理解が容易な図面とする観点から、図4では、経糸ya1同士の間に隙間が設けられており、且つ、緯糸ya2同士の間に隙間が設けられている。これらの隙間は、存在しなくてもよい。わかりやすい図とする目的で、経糸ya1にはハッチングが付されている。
【0067】
シャフト6において、経糸ya1は、シャフトの軸方向z1に対して略平行に配向している。略平行とは、シャフト軸方向z1に対して0度±10度に配向していること意味する。シャフトの軸方向z1は、図4において一点鎖線で示されている。
【0068】
シャフト6において、緯糸ya2は、シャフトの軸方向z1に対して略直角に配向している。略直角とは、シャフト軸方向z1に対して90度±10度に配向していることを意味する。換言すれば、緯糸ya2は、シャフトの周方向に対して略平行に配向している。
【0069】
経糸ya1は、炭素繊維よりなる。経糸ya1のフィラメント数として、1K、2K、3K、6K及び12Kが例示される。1Kとは、フィラメント数が1000本であることを意味する。よって、例えば2Kは、フィラメント数が2000本であることを意味する。
【0070】
緯糸ya2は、炭素繊維よりなる。緯糸ya2のフィラメント数として、1K、2K、3K、6K及び12Kが例示される。
【0071】
経糸ya1とフィラメント数と緯糸ya2のフィラメント数とは、同じであってもよい。経糸ya1とフィラメント数と緯糸ya2のフィラメント数とは、異なっていてもよい。
【0072】
本実施形態では、経糸ya1の繊維と緯糸ya2の繊維とが、相違する。好ましくは、この相違点は、物理的特性及び/又は繊維の種類である。この物理的特性として、引張弾性率及び引張強度が挙げられる。本実施形態では、経糸ya1と緯糸ya2とで異なる繊維を用い、それら経糸ya1及び緯糸ya2を適切に配向させる。
【0073】
好ましい実施形態では、経糸ya1の引張弾性率がET(tf/mm)とされ、緯糸ya2の引張弾性率がEY(tf/mm)とされるとき、引張弾性率ETが引張弾性率EYよりも小さい。
【0074】
引張弾性率ET及び引張弾性率EYは、「JIS R7601:1986」に準拠して測定される。
【0075】
他の好ましい実施形態では、経糸ya1の引張強度がST(kgf/mm)とされ、緯糸ya2の引張強度がSY(kgf/mm)とされるとき、引張強度STが引張強度SYよりも大きい。
【0076】
引張強度ST及び引張強度SYは、「JIS R7601:1986」に準拠して測定される。
【0077】
更に他の好ましい実施形態では、経糸ya1と緯糸ya2とで、繊維の種類が異なる。より好ましくは、経糸ya1がPAN系炭素繊維とされ、経糸ya1がピッチ系炭素繊維とされる。
【0078】
PAN系炭素繊維は、ポリアクリロニトリルを原料とする。PAN系炭素繊維は、ポリアクリロニトリルを焼成して得られる。
【0079】
ピッチ系炭素繊維は、ピッチを原料とする。ピッチ系炭素繊維は、ピッチを紡糸し熱処理して得られる。ピッチの典型例は、石油ピッチである。石油ピッチは、原油を高温で蒸留したときの残渣である。ピッチ系炭素繊維として、等方性ピッチ系炭素繊維及び異方性ピッチ系炭素繊維が挙げられる。異方性ピッチ系炭素繊維は、メソフェーズピッチ系炭素繊維とも称される。高い弾性率が得られやすいという観点から、ピッチ系炭素繊維は、メソフェーズピッチ系炭素繊維とされるのが好ましい。
【0080】
ピッチ系炭素繊維は、PAN系炭素繊維と比較して、マトリクス樹脂との接着性が低いと考えられる。この低い接着性に起因して、ピッチ系炭素繊維のみを含むプリプレグが用いられた場合、シャフトの強度が低下する場合がある。PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維とが織られた織物を用いることにより、このピッチ系炭素繊維の欠点が克服されうる。接着性に劣るピッチ系炭素繊維と、接着性に優れるPAN系炭素繊維とが織られた織物を用いることにより、ピッチ系炭素繊維の低接着性がPAN系炭素繊維によって補われる。
【0081】
一方、ピッチ系炭素繊維は、高い弾性率を実現しやすい。特に、メソフェーズピッチ系炭素繊維では、高い弾性率が得られやすい。ピッチ系炭素繊維をシャフトの軸方向z1に対して略直角に配向させることにより、潰れ変形が効果的に抑制される。この潰れ変形の抑制により、シャフト強度が効果的に向上しうる。加えて、PAN系炭素繊維をシャフトの軸方向z1に対して略平行に配向させることにより、シャフトの曲がり変形に対する強度が向上しやすい。ピッチ系炭素繊維とPAN系炭素繊維との織物を適切に用いることにより、シャフト強度が効果的に向上しうる。
【0082】
同一の引張弾性率を有するもの同士で比較する場合、引張弾性率が概ね50(tf/mm)以下である場合に、PAN系炭素繊維は、ピッチ系炭素繊維よりも安価である。よって、引張弾性率ET及び引張弾性率EYがいずれも50(tf/mm)以下である場合、材料コスト削減の観点からは、経糸ya1と緯糸ya2とがいずれもPAN系炭素繊維であるのが好ましい。また、引張弾性率が50(tf/mm)を超える場合、ピッチ系炭素繊維がPAN系炭素繊維よりも安価である。よって、引張弾性率ETが50(tf/mm)以下であり且つ引張弾性率EYが50(tf/mm)を超える場合、材料コスト削減の観点からは、経糸ya1がPAN系炭素繊維とされ且つ緯糸ya2がピッチ系炭素繊維であるのが好ましい。
【0083】
シャフトの潰れ変形は、曲げ変形と連動している。特に厚みの薄い軽量シャフトでは、曲げ変形と同時に潰れ変形が起こりやすい。過度な潰れ変形は、シャフト折れの原因となりうる。過度な潰れ変形が、曲げ強度を低下させうる。
【0084】
経糸ya1の引張弾性率ETを小さくすることにより、炭素繊維がシャフト長手方向に伸びやすい。この伸びやすさに起因して、シャフトの曲げ強度が向上しやすい。また、緯糸ya2の引張弾性率EYが大きくされることにより、潰れ変形が効果的に抑制されうる。引張弾性率ET(tf/mm)が引張弾性率EY(tf/mm)よりも小さくされることにより、潰れ剛性を高めつつ、曲げ強度が効果的に向上しうる。
【0085】
経糸ya1と緯糸ya2とが織られているため、経糸ya1のズレが緯糸ya2により抑制され、且つ、緯糸ya2のズレが経糸ya1により抑制される。織物層により、経糸ya1による効果と緯糸ya2による効果とが互いに相乗的に向上しうる。
【0086】
前述の通り、織物20の織り組織は限定されない。経糸ya1による緯糸ya2の拘束、及び緯糸ya2による経糸ya1の拘束をバランス良く高める観点から、織物20の織り組織は、平織り、綾織り及び朱子織りが好ましい。経糸ya1と緯糸ya2との織られ方を均等とし、曲げ剛性及び潰れ剛性の両方に対して効力を発揮しやすくする観点から、平織りが特に好ましい。
【0087】
織物層のシャフト半径方向における位置は限定されない。この位置として、最外位置、最内位置及び中間位置が例示される。中間位置とは、織物層が最外層ではなく且つ最内層でもないことを意味する。最外位置の場合、織物層が最外層を構成している。最内位置の場合、織物層が最内層を構成している。
【0088】
一般に、曲げモーメントは半径の3乗に比例することが知られている。織物層の効果を高める観点から、織物層は、シャフト半径方向の外側に設けられるのが好ましい。この観点から、織物層は、上記中間位置又は上記最外位置に設けられるのが好ましく、上記最外位置に設けられるのがより好ましい。
【0089】
シャフトの曲げ剛性の過度な低下を抑制する観点から、経糸ya1の引張弾性率ETは、10(tf/mm)以上が好ましく、15(tf/mm)以上がより好ましく、20(tf/mm)以上がより好ましい。シャフトの曲げ強度を高める観点から、経糸ya1の引張弾性率ETは、50(tf/mm)以下が好ましく、40(tf/mm)以下がより好ましく、30(tf/mm)以下がより好ましい。
【0090】
潰れ変形を抑制する観点から、緯糸ya2の引張弾性率EYは、20(tf/mm)以上が好ましく、30(tf/mm)以上がより好ましく、35(tf/mm)以上がより好ましい。引張弾性率EYが過大である場合、潰れ破壊が起こりやすい。また引張弾性率EYが過大である場合、巻き付けたシートがめくれ上がりやすい。即ち引張弾性率EYが過大である場合、織物シートを巻き付ける作業が行いにくい。これらの観点から、引張弾性率EYは、70(tf/mm)以下が好ましく、50(tf/mm)以下がより好ましく、40(tf/mm)以下がより好ましい。
【0091】
比(EY/ET)は限定されない。引張弾性率EYを引張弾性率ETよりも大きくすることに起因する上記効果を高める観点から、比(EY/ET)は、1.1以上が好ましく、1.3以上がより好ましく、1.5以上がより好ましい。引張弾性率ETが過小である場合、シャフトの曲げ剛性が不足する。引張弾性率EYが過大である場合、緯糸ya2の引張強度が過小となり、シャフト強度がかえって減少することがある。これらの観点から、比(EY/ET)は、4以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がより好ましい。
【0092】
引張強度ST(kgf/mm)が引張強度SY(kgf/mm)より大きくされることにより、潰れ変形を抑制しつつ、シャフトの曲げ強度を効果的に向上させることが可能である。
【0093】
シャフトの曲げ強度を高める観点から、経糸ya1の引張強度STは、350(kgf/mm)以上が好ましく、400(kgf/mm)以上がより好ましく、450(kgf/mm)以上がより好ましく、480(kgf/mm)以上がより好ましい。シャフト重量を抑制しつつシャフトに求められる曲げ剛性(フレックス)を確保する観点、及び材料コストの観点から、引張強度STは、650(kgf/mm)以下が好ましく、600(kgf/mm)以下がより好ましく、550(kgf/mm)以下がより好ましい。
【0094】
潰れ変形に対する強度を高める観点から、緯糸ya2の引張強度SYは、300(kgf/mm)以上が好ましく、350(kgf/mm)以上がより好ましく、400(kgf/mm)以上がより好ましい。引張弾性率EYを高めて潰れ変形をを高める観点、及び材料コストの観点から、引張強度SYは、600(kgf/mm)以下が好ましく、500(kgf/mm)以下がより好ましく、470(kgf/mm)以下がより好ましい。
【0095】
比(SY/ST)は限定されない。引張強度SYが過小である場合、シャフトの曲げ強度が低下することがある。引張強度STが過大である場合、経糸ya1の引張弾性率ETが過小となり、シャフト剛性が不足することがある。これらの観点から、比(SY/ST)は、0.5以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8以上がより好ましい。引張強度STを引張強度SYよりも大きくすることに起因する上記効果を高める観点から、比(SY/ST)は、0.99以下が好ましく、0.95以下がより好ましく、0.93以下がより好ましい。
【0096】
シャフトが曲げ変形をした場合、経糸ya1には、大きな引張応力が作用する。よって、経糸ya1の引張強度を高くすることにより、シャフトの強度が効果的に向上しうる。一方、潰れ変形により、緯糸ya2に引張応力が作用する。よって、潰れ応力に対するシャフト強度を高めるためには、潰れ変形を抑制するのが効果的であり、引張弾性率EYを高くするのが効果的である。
【0097】
1本の経糸ya1は、炭素繊維のフィラメントの束である。1本の経糸ya1が有するフィラメント数TKは限定されない。フィラメント数TKが過小である場合、シートの巻回数が過大となり、巻回工程の生産性が低下することがある。この観点から、フィラメント数TKは、1000本(1K)以上が好ましく、1200本以上がより好ましく、1500本以上がより好ましい。フィラメント数TKが過大である場合、打ち込み本数THが過小となり、繊維密度が過小となることがある。過小な繊維密度は、シャフトの強度を低下させる場合がある。繊維密度の観点から、フィラメント数TKは、6000本以下が好ましく、4000本以下がより好ましく、3000本以下がより好ましい。
【0098】
1本の緯糸ya2は、炭素繊維のフィラメントの束である。1本の緯糸ya2が有するフィラメント数YKは限定されない。フィラメント数YKが過小である場合、シートの巻回数が過大となり、巻回工程の生産性が低下することがある。この観点から、フィラメント数YKは、1000本(1K)以上が好ましく、1200本以上がより好ましく、1500本以上がより好ましい。フィラメント数YKが過大である場合、打ち込み本数YHが過小となり、繊維密度が過小となることがある。過小な繊維密度は、シャフトの強度を低下させる場合がある。繊維密度の観点から、フィラメント数YKは、6000本以下が好ましく、4000本以下がより好ましく、3000本以下がより好ましい。
【0099】
比(TK/YK)は限定されない。比(TK/YK)が小さい場合、シャフトの軸方向z1に対して略直角な繊維が過多となりやすく、シャフトの軸方向z1に対して略平行な繊維が過少となりやすい。この観点から、比(TK/YK)は、1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上がより好ましい。潰れ変形を抑制する観点から、比(TK/YK)は、4以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3以下がより好ましい。
【0100】
経糸ya1の打ち込み本数TH(本/25mm)は限定されない。織り目が粗すぎる場合、緯糸ya2に対する拘束力が低下する。緯糸ya2に対する拘束力を高める観点から、打ち込み本数THは、10(本/25mm)以上が好ましく、12.5(本/25mm)以上がより好ましく、15(本/25mm)以上がより好ましい。織り目が細かすぎる場合、織物の作製が困難となったり、織物のコストが増大したりする。これらの観点から、打ち込み本数THは、40(本/25mm)以下が好ましく、37.5(本/25mm)以下がより好ましく、35(本/25mm)以下がより好ましい。
【0101】
経糸ya1の延在方向に対して垂直な方向がDR1とされる。このとき、打ち込み本数THは、幅25mmの範囲A1(図4参照)に存在している経糸ya1の本数である。範囲A1の幅は、方向DR1に沿って測定される
【0102】
緯糸ya2の打ち込み本数YH(本/25mm)は限定されない。織り目が粗すぎる場合、経糸ya1に対する拘束力が低下する。経糸ya1に対する拘束力を高める観点から、打ち込み本数YHは、10(本/25mm)以上が好ましく、12.5(本/25mm)以上がより好ましく、15(本/25mm)以上がより好ましい。織り目が細かすぎる場合、織物の作製が困難となったり、織物のコストが増大したりする。これらの観点から、打ち込み本数YHは、40(本/25mm)以下が好ましく、37.5(本/25mm)以下がより好ましく、35(本/25mm)以下がより好ましい。
【0103】
緯糸ya2の延在方向に対して垂直な方向がDR2とされる。このとき、打ち込み本数YHは、幅25mmの範囲A2(図4参照)に存在している緯糸ya2の本数である。範囲A2の幅は、方向DR2に沿って測定される
【0104】
比(TH/YH)は限定されない。緯糸ya2が過多である場合、経糸ya1に起因する曲げ剛性が不足することがある。この観点から、比(TH/YH)は、1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上がより好ましい。緯糸ya2に起因する潰れ剛性を高める観点から、比(TH/YH)は、4以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3以下がより好ましい。
【0105】
織物層の厚みRtは限定されない。織物の製造を容易とする観点から、織物層の厚みRtは、0.05(mm)以上が好ましく、0.08(mm)以上がより好ましく、0.1(mm)以上がより好ましい。繊維密度を高めてシャフト強度を向上させる観点から、織物層の厚みRtは、0.4(mm)以下が好ましく、0.35(mm)以下がより好ましく、0.3(mm)以下がより好ましい。織物層の厚みRtは、使用される織物シート(織物プリプレグ)の厚みに略等しい。織物層の厚みRtは、シャフトの断面から測定されうる。
【0106】
織物層の樹脂含有率Rwは限定されない。プリプレグのタック性を向上させ、巻回工程における巻き剥がれを抑制する観点から、樹脂含有率Rwは、20質量%以上が好ましく、22質量%以上がより好ましく、24質量%以上がより好ましい。シャフト重量の過度な増加を抑制する観点から、樹脂含有率Rwは、40質量%以下が好ましく、38質量%以下がより好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0107】
織物層は、シャフト長手方向の全体に亘って設けられても良い。換言すれば、織物層は全長層であってもよい。前述した図3の実施形態では、織物層が全長層である。織物層が全長層である場合、この織物層は、全長織物層とも称される。
【0108】
全長織物層の巻回数がnWとされ、全長ストレート層の巻回数がnSとされ、全長フープ層の巻回数がnFとされる。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nWがnS以上であるのが好ましく、nWがnSより大きいのがより好ましい。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nWがnFより大きいのが好ましい。
【0109】
織物層は、シャフト長手方向の一部に設けられても良い。換言すれば、織物層が部分層であってもよい。この部分織物層の配置は限定されない。部分織物層は、チップTp側に設けられても良いし、バットBt側に設けられても良い。チップTp側に設けられた部分織物層は、チップTpを含む範囲に存在する織物層であり、チップ側部分織物層とも称される。バットBt側に設けられた部分織物層は、バットBtを含む範囲に存在する織物層であり、バット側部分織物層とも称される。部分層が、チップTp及びバットBtを含まない位置に配置されてもよい。この部分織物層は、中間部分織物層とも称される。
【0110】
部分織物層は、織物プリプレグを部分シートとすることにより得られる。
【0111】
全長織物層を有するシャフトは、織物層による上記効果が、シャフト全長に亘って得られうる。よって、全長織物層は、軽量で薄肉なシャフトに有効である。この観点から、全長織物層を有するシャフトにおいて、シャフト厚みの最大値Tmaxは、4.0(mm)以下が好ましく、3.5(mm)以下がより好ましく、3.0(mm)以下がより好ましい。シャフト強度の観点から、シャフト厚みの最小値Tminは、0.3(mm)以上が好ましく、0.5(mm)以上がより好ましい。最大値Tmaxは、シャフト全体の中で最も厚い部分の厚みである。最小値Tminは、シャフト全体の中で最も薄い部分の厚みである。
【0112】
チップ側部分織物層を設けることは、チップ寄りの部分を補強するのに有効である。チップTp寄りの部分(例えばT点やA点)の強度が不足しやすい場合に、チップ側部分補強層を設けることが好ましい。この場合、シャフト重量の増加を抑制しつつ、シャフト強度が効果的に向上しうる。なお、T点は、チップTpから90mm隔てた位置であり、A点は、チップTpから175mm隔てた位置である(図2参照)。
【0113】
チップ側部分織物層の巻回数がnTWとされ、チップ側部分ストレート層の巻回数がnTSとされ、チップ側部分フープ層の巻回数がnTFとされる。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nTWがnTS以上であるのが好ましく、nTWがnTSより大きいのがより好ましい。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nTSは0であるのが好ましい。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nTWがnTF以上であるのが好ましく、nTWがnTFより大きいのがより好ましい。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nTFは0であるのが好ましい。
【0114】
バット側部分織物層を設けることは、バット寄りの部分を補強するのに有効である。バットBt寄りの部分(例えばC点付近)の強度が不足しやすい場合に、バット側部分補強層を設けることが好ましい。この場合、シャフト重量の増加を抑制しつつ、シャフト強度が効果的に向上しうる。C点は、バットBtから175mm隔てた位置である(図2参照)。
【0115】
バット側部分織物層の巻回数がnBWとされ、バット側部分ストレート層の巻回数がnBSとされ、バット側部分フープ層の巻回数がnBFとされる。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nBWがnBS以上であるのが好ましく、nBWがnBSより大きいのがより好ましい。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nBSは0であるのが好ましい。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nBWがnBF以上であるのが好ましく、nBWがnBFより大きいのがより好ましい。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、nBFは0であるのが好ましい。
【0116】
織物層の合計厚みがTW1とされ、フープ層の合計厚みがTF1とされる。軽量で且つ高強度なシャフトを得る観点から、シャフトの長手方向のあらゆる位置及びシャフト周方向のあらゆる位置において、合計厚みTW1が合計厚みTF1以上であるのが好ましく、合計厚みTW1が合計厚みTF1より大きいのがより好ましい。
【0117】
なお、上記合計厚みTW1及び上記合計厚みTF1は、シャフト長手方向のそれぞれの位置において決定され、且つ、シャフト周方向のそれぞれの位置において決定される。
【実施例】
【0118】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0119】
[実施例]
管状のシャフトを作製して、本発明の効果を検証した。シートの皺や繊維の配向の誤差を少なくして実験精度を高める観点から、シャフトの内径及び外径を一定とした。図5は、実施例のシャフトに用いられたプリプレグの展開図である。シートs10及びシートs11は、バイアスシートである。シートs12及びシートs13は、ストレートシートである。シートs14が、織物シートである。外径が13.8(mm)で一定である円柱形のマンドレルを用いた。巻回工程では、このマンドレルに、シートs10及びシートs11を貼り合わせたもの、シートs12、シートs13、シートs14の順で巻回が行れた。そして、前述された製造方法に従って、実施例1のシャフトを得た。ただし、研磨及び塗装による影響を排除して実験精度を高める観点から、研磨工程及び塗装工程はなされなかった。シャフトの厚みは1.0(mm)で一定であった。
【0120】
表1に、実施例で用いられた各シートの商品名が記載されている。シートs10、シートs11、シートs12及びシートs13は、三菱レイヨン社製のプリプレグである。シャフトの全長Lf(両端カット後)は、500(mm)とされた。
【0121】
織物シートs14として、織物にエポキシ樹脂(東レ#2500樹脂系)が含侵されたプリプレグが用いられた。このプリプレグの厚みは0.20(mm)であり、織物層の厚みRtも0.20(mm)であった。織物シートs14の樹脂含有率は40質量%とされた。よって、織物層の樹脂含有率Rwも40質量%である。
【0122】
この織物の経糸ya1は東レ社製の商品名「T700S」とされ、この織物の緯糸ya2は東レ社製の商品名「M40S」とされた。この織物では、経糸ya1と緯糸ya2とが平織りされている。
【0123】
経糸ya1に用いられた「T700S」に関し、引張弾性率(引張弾性率ET)は23.5(tf/mm)であり、引張強度(引張強度ST)は500(kgf/mm)であり、フィラメント数TKは3000本(3K)であった。また織物における経糸ya1の打ち込み本数THは17.5(本/25mm)とされた。「T700S」は、PAN系炭素繊維である。
【0124】
緯糸ya2に用いられた「M40S」に関し、引張弾性率(引張弾性率EY)は38.5(tf/mm)であり、引張強度(引張強度SY)は460(kgf/mm)であり、フィラメント数YKは3000本(3K)であった。また織物における緯糸ya2の打ち込み本数YHは17.5(本/25mm)とされた。「M40S」は、PAN系炭素繊維である。
【0125】
よって、織物における比(TK/YK)は1であり、比(TH/YH)は1である。
【0126】
この実施例の仕様が表1に示され、評価結果が表2に示される。
【0127】
[比較例1]
上記経糸ya1及び上記緯糸ya2の種類がいずれも上記「T700S」とされた他は実施例1と同様にして、比較例1のシャフトを得た。この比較例1の仕様が表1に示され、評価結果が表2に示される。
【0128】
[比較例2]
上記経糸ya1及び上記緯糸ya2の種類がいずれも上記「M40S]とされた他は実施例1と同様にして、比較例2のシャフトを得た。この比較例2の仕様が表1に示され、評価結果が表2に示される。
【0129】
[三点曲げ強度の測定]
SG式三点曲げ強度試験に準じた測定方法が採用された。この測定方法は、製品安全協会が定める試験である。図6は、この三点曲げ強度試験の測定方法を示す。図6が示すように、2つの支持点e1、e2においてシャフトStを下方から支持しつつ、荷重点e3において上方から下方に向かって荷重Fを加えた。上記スパンSは、300mmとされた。荷重点e3の位置は、支持点e1と支持点e2とを二等分する位置でとされた。荷重点e3が、測定点である。測定点は、シャフトStの長手方向の中心位置とされた。即ち測定点は、チップTp及びバットBtから250(mm)の地点とされた。圧子32を20mm/minの速さで下降させ、シャフトStが破損したときの荷重Fの値(ピーク値)が測定された。この結果が、下記の表2に示される。
【0130】
なお、支持点e1及び支持点e2を構成する支持体30の上端には、丸み(アール)が付与されている。この丸みの曲率半径は、シャフトStの軸線に沿った断面において、12.5(mm)とされた。また、荷重点e3を構成する圧子32の下端には、丸み(アール)が付与されている。この丸みの曲率半径は、シャフトStの軸線に沿った断面において、75(mm)とされた。また圧子32とシャフトStとの間には、厚みが2.0(mm)のシリコンラバー34が設けられた。
【0131】
[潰れ強度の測定]
図7は、潰れ強度の測定方法を示す図である。シャフトをカットして、シャフトの長手方向に沿った長さが10(mm)であるテスト用サンプルTs1を作製した。このテスト用サンプルTs1は、内径が13.8(mm)であり軸方向長さが10(mm)である円筒体である。このテスト用サンプルTs1を金属製の平板36の上に置き、下端面38が平面である金属製の圧子40で上方から押圧して、テスト用サンプルTs1が破壊したときの荷重(ピーク値)が測定された。この結果が、下記の表2に示されている。
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】

【0134】
表2に示されるように、実施例は、比較例に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上説明された発明は、あらゆるゴルフクラブシャフトに適用されうる。
【符号の説明】
【0136】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
10・・・フェラル
Tp・・・チップ(先端)
Bt・・・バット(後端)
ya1・・・経糸
ya2・・・緯糸
s1、s2、s3、s4、s5、s6、s7、s8、s9・・・プリプレグ
s10、s11、s12、s13、s14・・・プリプレグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織物層を備えており、
上記織物層が、炭素繊維の経糸と炭素繊維の緯糸とからなる二軸織物を有しており、
上記経糸が、シャフト軸方向に対して略平行に配向されており、
上記緯糸が、シャフト軸方向に対して略直角に配向されており、
上記経糸の引張弾性率がET(tf/mm)とされ、上記緯糸の引張弾性率がEY(tf/mm)とされるとき、引張弾性率ETが引張弾性率EYよりも小さいゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
上記経糸がPAN系炭素繊維であり、上記緯糸がピッチ系炭素繊維である請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
上記経糸の引張強度がST(kgf/mm)とされ、上記緯糸の引張強度がSY(kgf/mm)とされるとき、引張強度STが引張強度SYよりも大きい請求項1又は2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
織物層を少なくとも1層備え、
上記織物層が、炭素繊維の経糸と炭素繊維の緯糸とからなる二軸織物を有しており、
上記経糸が、シャフト軸方向に対して略平行に配向されており、
上記緯糸が、シャフト軸方向に対して略直角に配向されており、
上記経糸がPAN系炭素繊維であり、上記緯糸がピッチ系炭素繊維であるゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
織物層を少なくとも1層備え、
上記織物層が、炭素繊維の経糸と炭素繊維の緯糸とからなる二軸織物を有しており、
上記経糸が、シャフト軸方向に対して略平行に配向されており、
上記緯糸が、シャフト軸方向に対して略直角に配向されており、
上記経糸の引張強度がST(kgf/mm)とされ、上記緯糸の引張強度がSY(kgf/mm)とされるとき、引張強度STが引張強度SYよりも大きいゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のシャフトと、ヘッドと、グリップとを備えたゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−284343(P2010−284343A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140638(P2009−140638)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】