説明

ゴルフクラブシャフト

【課題】ゴルフクラブシャフトの軽量性を維持しながら、所望のトルクとフレックスと優れた強度を実現する。
【解決手段】プリプレグからなる全長層を6層以上備え、該全長層41〜47を積層数で半分に分割し、シャフト中心側半数を内層部I、シャフト外側半数を外層部IIとした場合において、内層部Iと外層部IIのそれぞれに、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が±25°以上65°以下の範囲内であると共に、該配向角が+θ°である一層のバイアス層と、−θ°である一層のバイアス層を、互いの強化繊維が交差するように重ね合わせて積層してなるバイアスセット層A1、A2を少なくとも一層ずつ備え、かつ、外層部IIの最外全長層47には、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が0°以上±10°以下の範囲内であるストレート層B2を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関し、特に、軽量なゴルフクラブシャフトの強度、方向性、飛距離の向上を図るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、打球の飛距離向上のため、ゴルフクラブシャフトとヘッドの軽量化が進んでいる。そのため、ゴルフクラブシャフトの材料は、従来の主流であったスチールから、軽量で、比強度、比剛性の高いカーボンプリプレグ等の繊維強化樹脂が主流となっている。
前記繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトの積層構成としては、トルクに影響を与えるバイアス層をシャフトの内層部に、フレックスに影響を与えるストレート層をシャフトの外層部に配置する構成が一般的である。
【0003】
シャフトの軽量化は、プリプレグのボリューム(目付量や層数)の削減で実施することが一般的であるが、この手法では、強度低下を招くと共に、トルクやフレックスが大きくなる点に問題がある。即ち、シャフトの軽量化により一般にヘッドスピードは速くなるが、トルクが大きい場合、ヘッドの返りが遅くなるため、方向性悪化の大きな原因となる。また、フレックスが大きい場合、シャフトが柔らかいため、撓り過ぎてエネルギーロスを生じ、飛距離増大の妨げとなる。
【0004】
トルクを小さくする方法としては、トルクに影響を与えるバイアス層の目付量増加、あるいは繊維種の高弾性化が一般的であり、フレックスを小さくする方法としては、フレックスに影響を与えるストレート層の目付量増加、あるいは繊維種の高弾性化が一般的である。しかしながら、目付量増加は軽量化に反し、繊維種の高弾性化は、繊維の引張弾性率が30tを超えると強度低下を招く点に問題がある。
そこで、軽量性と強度を維持しながら所望のフレックスとトルクを得ることが課題となっている。
【0005】
この種の問題に関し、特開2003−180890号(特許文献1)では、シャフトの中間部分に±20°〜65°のバイアス層を配置することで、軽量性を維持しながら、振動吸収性と方向性を向上させることが提案されている。しかしながら、この場合、バイアス層を追加するのであれば軽量化に反し、ストレート層やフープ層に置き換えてバイアス層を配置する場合、曲げ強度やつぶし強度が低下しやすいため、改善の余地がある。
【0006】
また、特開2004−305332号(特許文献2)では、シャフトの内層を繊維の配向角が±35°〜55°のバイアス層で形成すると共に、シャフトの外層をストレート層で形成し、かつ、最外層の少なくとも一部に繊維の配向角が±5°〜30°のバイアス層を形成することが提案されている。これにより、内層のバイアス層で捩じれ剛性を高め、外層のストレート層で曲げ剛性を高め、最外層のバイアス層で繊維の変形量を小さくし、曲げ強度を高めることができる。しかしながら、最外層は塗装の関係で研磨され、バイアス層が研磨されることで所期の強度やトルクが十分な性能が得られない恐れがある。
【0007】
特開平8−308969号(特許文献3)では、図10に示すように、第一バイアス層2の外側にストレート層3を形成し、該ストレート層3の外側に第二バイアス層4を形成し、第二バイアス層4の表面にシャフト表面調整層5を形成したシャフト1が提案され、これにより、打球時の衝撃に対して防振性と耐衝撃性を有することができるとされている。しかしながら、バイアス層2、4とストレート層3の積層数や形成位置等について、強度、軽量性、フレックス、トルクのバランスを図る観点からは言及されておらず、所望の性能は得られない。
【0008】
【特許文献1】特開2003−180890号公報
【特許文献2】特開2004−305332号公報
【特許文献3】特開平8−308969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、軽量性と優れた強度をバランスよく備えると共に、所望のフレックスおよびトルクを備えて優れた飛距離と打球方向性を併せ持つゴルフクラブシャフトの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、プリプレグの積層体からなるゴルフクラブシャフトであって、
シャフト全長に形成される前記プリプレグからなる全長層を少なくとも6層備え、
前記全長層の積層数のうち、シャフト中心側半数を内層部、シャフト外側半数を外層部として分け、
前記内層部の全長層と前記外層部の全長層のそれぞれに、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が±25°以上±65°以下の範囲内であると共に、該配向角が+θ°である一層のバイアス層と−θ°である一層のバイアス層とを互いの強化繊維が交差するように重ね合わせて積層してなるバイアスセット層を少なくとも一組ずつ備え、かつ、
前記外層部の最外全長層には、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が0°以上±10°以下の範囲内であるストレート層を備えていることを特徴とするゴルフクラブシャフトを提供している。
【0011】
前記積層数は、1枚のプリプレグによる1周層を1層として数えたものである。
また、前記全長層の積層数が偶数の場合は、半数ずつを内層部と外層部とに分けるが、奇数の場合は、中間の一層を中層部とし、該中層部を除いた半数ずつを内層部と外層部とに分ける。
【0012】
このように、通常内層側に配置されることが多かったバイアス層を分割し、内層部と外層部にバランスよく配置することで、フレックスやシャフト重量を変化させずにトルク値を低下させることが可能となる。
また、バイアス層は、繊維角度が小さいほど曲げ強度向上に寄与し、大きいほどつぶし強度向上に寄与するため、このバイアス層の繊維角度を±25°以上65°以下の範囲内で変更・調節することにより、シャフト強度をバランスよく高めることが可能となる。
さらに、最外層に全長ストレート層を形成することにより、研磨による影響をバイアス層が受けずに済み、強度やトルクにおいて十分な性能を発揮することができる。
従って、軽量シャフトにおいても、その軽量性を維持したまま、優れた強度を備えると共に、所望のフレックスとトルクをバランスよく設定でき、打球飛距離と方向性を高めることができる。
【0013】
前記バイアス層の強化繊維の配向角を±25°以上65°以下の範囲内としているのは、±25°未満あるいは±65°より大きい配向角では、シャフト捩じれ方向から逸脱するため所望のトルクが得られず、打球方向性を向上できないことに因る。
なお、前記バイアス層は、配向角が+θ°のプリプレグと−θ°のプリプレグとを重ね合わせた状態で巻きつけて積層しても、あるいは、一方を巻きつけた後に重ねて他方を巻きつけて積層してもよい。
【0014】
また、本発明のゴルフクラブシャフトにおいて、全長層を少なくとも6層としているのは、内層部及び外層部にそれぞれ1組のバイアスセット層を備えているため、2層の全長層を備え、かつ、外周層では更にストレート層を備えているため、外層部において全長層は3層以上必要となる。内層部においても、外層部との境界位置にストレート層を介在させることが好ましいため、全長層は3層必要となり、よって、全長層は内層部と外層部とを合わせて少なくとも6層必要としている。
【0015】
さらに、前記したように、全長層の全層数は奇数の場合は、中間の1層は中間層とし、この内層部と外層部の間に配置される中間層は全長ストレート層とすることが好ましい。
このように中間層としてストレート層を配置すると、フレックスの低下を最小限に抑え、トルクを小さくすることができる。
【0016】
前記シャフトの重量は50g以上70g以下とし、
前記内層部の全長バイアスセット層の強化繊維の配向角±θ1°と、前記外層部の全長バイアスセット層の強化繊維の配向角±θ2°の比θ2/θ1は、1より大きく2以下の範囲内としていることが好ましい。
【0017】
このように内外バイアスセット層の繊維角度比θ2/θ1を設定することにより、シャフトの重量あるいは肉厚に応じた強度向上が可能となる。即ち、θ2/θ1を1より大きく2以下としているのは、1未満では、フレックス値は維持できるが、つぶし方向の強度が低下することで曲げ強度も低下してしまい、2より大きくすると、強度は維持できるが、フレックスが大きくなりすぎて、エネルギーロスによる飛距離低下を生じることに因る。
このθ2/θ1の下限は、より好ましくは1.2以上、さらには1.3以上、上限は1.8以下、さらには1.5以下が好ましい。
【0018】
内層部の前記θ1は、小さい方が曲げ強度が向上するため、25°以上50°以下が好ましく、さらには25°以上45°以下が好ましく、特に25°以上40°以下が好ましい。
外層部の前記θ2は、大きい方がつぶし方向の強度が向上し、肉厚の薄い軽量シャフトではつぶし方向の強度向上に伴い曲げ強度も向上するため、40°以上65°以下が好ましく、さらには45°以上65°以下、特に50°以上65°以下が好ましい。
【0019】
シャフト重量を50g以上70g以下としているのは、50g未満では、シャフト重心点がヘッド側になるため、クラブバランスを調整する際に重いバランスにしか調整できず、スイング時に重く感じられ振り抜きにくいクラブとなり、70g以上では、ヘッドスピードが上がらないため、飛距離が低下してしまうことに因る。
【0020】
前記内層部の全長バイアスセット層(以下「内側全長バイアスセット層」という)の厚さT1と、前記外層部の全長バイアスセット層(「外側全長バイアスセット層」という)の厚さT2の比T2/T1は、1より大きく1.4以下の範囲内としている。
これにより、シャフト強度を維持しながらトルクを小さくすることが可能となる。
【0021】
即ち、前記厚み比T2/T1を1より大きく1.4以下としているのは、1未満ではトルク低下の効果が小さく、方向性が向上せず、1.4より大きくすると、トルクが低下して捩じれにくいシャフトとなるが、相対的にストレート層が内寄りに配置されることになり、フレックスが増大し、強度が低下することに因る。好ましくは、T2/T1の下限は1.1以上がよい。
【0022】
前記繊維強化樹脂に用いられる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられるが、強度と剛性の点より、熱硬化性樹脂が好ましく、特にエポキシ系樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、AS樹脂、メタクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0023】
前記繊維強化樹脂に用いられる強化繊維としては、比重が小さく弾性率と強度が高いという点からカーボン繊維が好ましいが、その他、一般に高性能強化繊維として使用される繊維が用いられる。例えば、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等が挙げられる。
【発明の効果】
【0024】
上述のように本発明によれば、トルクに影響するバイアス層を、増加するのではなく、内層部と外層部とに分割してバランスよく配置し、かつ、最外全長層にストレート層を配置することにより、重量増加を抑制すると共に強度、フレックスを維持しながら、十分なトルク低下効果を発揮することが可能となる。従って、軽量性、優れた強度、優れた飛距離と方向性の全てをバランスよく備えるゴルフシャフトとすることができる。
【0025】
また、バイアス層の繊維角度を±25°〜65°の範囲内で変更、調節することで、低いトルクを維持したまま曲げ強度とつぶし強度を増減できるため、所望のトルクとシャフト強度とをバランスよく得ることができる。
【0026】
さらに、内側全長バイアスセット層の繊維角度θ1と外側全長バイアスセット層の繊維角度θ2の比θ2/θ1を1より大きく2以下とすることにより、所望のつぶし強度と所望のフレックスをバランスよく得ることができる。
また、内側全長バイアスセット層の厚みT1と外側全長バイアスセット層の厚みT2の比T2/T1を1より大きく1.4以下とすることにより、トルクの低下効果と、所望のフレックスをバランスよく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3は、本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフト10を示し、このシャフト10は、プリプレグ21〜31の積層体からなるテーパー状の長尺な管状体よりなり、前記プリプレグ21〜31のうち7層はシャフトの全長に配置する全長層としている。管状体の小径側のヘッド側先端11にヘッド13が取り付けられ、大径側のグリップ側後端12にグリップ14が取り付けられている。シャフト10の全長は1195mmとし、シャフト重量は61gとしている。
【0028】
上記シャフト10は、図2に示すように、前記プリプレグ21〜31を、内側からプリプレグ21〜31の順にシートワインディング製法によりマンドレル20に1周ずつ巻きつけて積層した後、ポリエチレン製やポリエチレンテレフタレート製等のテープで圧力をかけながらラッピングし、これをオーブン中で加熱加圧し樹脂を硬化させて一体的に成形し、その後、マンドレル20を引き抜いてシャフト10を製造している。シャフト表面は研磨を行った後、両端をカットして塗装している。
【0029】
シャフト10を構成する前記プリプレグ21〜31はいずれも、カーボン繊維からなる強化繊維F21〜F31を引き揃えてエポキシ樹脂を含浸させてなる。前記樹脂にはエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を使用してもよい。
【0030】
詳しくは、プリプレグ21は、ヘッド側先端部に配置され、長さを197mmとし、強化繊維F21は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°としている。
プリプレグ22、23はいずれも、シャフト全長に配置され、強化繊維F22は、シャフト軸線に対してなす配向角を−45°とし、強化繊維F23は、シャフト軸線に対してなす配向角を+45°としている。この2枚のプリプレグ22、23を、互いの強化繊維F22、F23が交差するように重ねて貼りあわせた状態で巻き付けて、後述の内側全長バイアスセット層A1を形成している。
プリプレグ24は、ヘッド側先端部に配置され、長さを267mmとし、強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°としている。
プリプレグ25、26はいずれも、シャフト全長に配置され、強化繊維F25、26は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°としている。
プリプレグ27、28はいずれも、シャフト全長に配置され、強化繊維F27は、シャフト軸線に対してなす配向角を−45°とし、強化繊維F28は、シャフト軸線に対してなす配向角を+45°としている。この2枚のプリプレグ27、28を、互いの強化繊維F27、F28が交差するように重ねて貼りあわせた状態で巻き付けて、後述の外側全長バイアスセット層A2を形成している。
プリプレグ29は、シャフト全長に配置され、強化繊維F29は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°としている。
プリプレグ30は、ヘッド側先端部に配置され、長さを217mmとし、強化繊維F30は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°としている。
プリプレグ31は、ヘッド側先端部に配置され、長さを167mmとし、強化繊維F31は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°としている。
【0031】
前記シャフト10は、前記プリプレグ22、23、25、26、27、28、29によって計7層の全長層41〜47を形成している。
詳しくは、図3にも示すように、シャフト中心側三層の全長層41〜43を含む内層部Iには、プリプレグ22、23で形成される内側全長バイアスセット層A1と、プリプレグ25で形成される全長ストレート層B1とを配置している。
シャフト外周側の三層の全長層45〜47を含む外層部IIには、プリプレグ27、28で形成される外側全長バイアスセット層A2と、プリプレグ29で形成される最外周全長ストレート層B2を配置している。全長層44からなる中層部IIIには、プリプレグ26で形成される全長ストレート層B3を配置している。
【0032】
前記内側バイアスセット層A1の厚み(T1)と外側バイアスセット層A2の厚み(T2)は、いずれも0.315mmとし、前記全長ストレート層B1〜B3の厚みは、いずれも0.158mmとしている。
【0033】
前記構成よりなるシャフト10は、トルクに影響を与えるバイアス層の積層数やプリプレグ目付量を増やすのではなく、従来であればシャフト内層部にのみ配置されていた全長バイアス層を、内側全長バイアスセット層A1と外側全長バイアスセット層A2とに分割し、前記内層部Iのみでなく前記外層部IIにもバランスよく配置しているため、シャフト重量を増加することなく、かつ、フレックスや強度を維持したまま、トルクを低下させることが可能となる。これにより、軽量性を備え、かつ強度、飛距離、方向性に優れたシャフトを実現できる。
【0034】
また、外側全長バイアスセット層A2の外周に最外周全長ストレート層B2を形成しているため、バイアス層A2は、塗装の関係で必要となる研磨の影響を受けずに済み、トルク低下効果を十分に発揮することができる。
【0035】
さらに、前記全長バイアスセット層A1、A2の強化繊維F22、F23、F27、F28の配向角は、いずれも+45°あるいは−45°であり、±25°以上65°以下の範囲内であるため、トルク低下効果を十分発揮できると共に、曲げ方向およびつぶし方向のシャフト強度もバランスよく高めることができる。
【0036】
(実施例)
本発明のゴルフクラブシャフトの実施例1〜11および比較例1〜5について詳述する。
以下の表1に示すとおり、全長層41〜47の繊維角度(強化繊維のシャフト軸線に対する配向角)および厚みを異ならせた実施例1〜11および比較例1〜5を作製し、順式フレックス、トルク、3点曲げ強度、つぶし強度を測定し、その結果を表1および表2に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
実施例1〜11および比較例1〜5のいずれも、カーボン繊維を強化繊維としてエポキシ樹脂を含浸してなる11枚の三菱レイヨン社製のプリプレグを用い、シートワインディング製法により作製し、その作製方法は前記第一実施形態と同一とした。下記の品番のプリプレグはいずれも前記したように三菱レイヨン社製のプリプレグである。
また、実施例1〜11および比較例1〜5はいずれも、シャフト長さを1195mmとし、シャフト全長に形成される計7層の全長層41〜47の積層位置、およびシャフトの一部に形成される部分補強層の構成を、前記第一実施形態と同一とした。表1には前記全長層41〜47についてのみ記載した。
各実施例および比較例のシャフト重量およびシャフトバランスは、表1に示すとおり設定した。
【0040】
(実施例1)
前記第一実施形態と同一構成とした。即ち、全長層41、42は繊維角度を−45°、+45°とし、厚みを0.315mmとする内側全長バイアスセット層A1とした。全長層43、44はそれぞれ繊維角度を0°とし、厚みを0.158mmとするストレート層B1、B3とした。全長層45、46は繊維角度を−45°、+45°とし、厚みを0.315mmとする外側全長バイアスセット層A2とした。全長層47は繊維角度を0°とし、厚みを0.158mmとする最外周ストレート層B2とした。
これにより、内層部Iに内側バイアスセット層A1を、外層部IIに外側バイアスセット層A2を分割配置し、該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1は1.00とし、厚み比T2/T1も1.00とした。
全長層41〜47のいずれにも、品番「MR350C−125S」のプリプレグを使用した。
【0041】
(実施例2)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42を品番「MR350C−100S」のプリプレグを用い、該バイアスセット層A1の厚みを0.2625mmとした。外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46に品番「MR350C−150S」のプリプレグを用い、該バイアスセット層A2の厚みを0.3675mmとした。厚み比T2/T1を1.4とした。繊維角度など、その他の構成は実施例1と同一とした。
【0042】
(実施例3)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42を品番「MR350C−150S」のプリプレグを用い、該バイアスセット層A1の厚みを0.3675mmとした。外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46に品番「MR350C−100S」のプリプレグを用い、該バイアスセット層A2の厚みを0.2625mmとした。厚み比T2/T1を0.71とした。繊維角度など、その他の構成は実施例1と同一とした。
【0043】
(実施例4)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42を品番「MR350C−075S」のプリプレグを用い、該バイアスセット層A1の厚みを0.21mmとした。外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46に品番「MR350C−175S」のプリプレグを用い、該バイアスセット層A2の厚みを0.42mmとした。厚み比T2/T1を2とした。繊維角度など、その他の構成は実施例1と同一とした。
【0044】
(実施例5)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42を品番「MR350C−150S」のプリプレグを用い、該バイアスセット層A1の厚みを0.3675mmとした。外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46に品番「MR350C−175S」のプリプレグを用い、該バイアスセット層A2の厚みを0.42mmとした。厚み比T2/T1を1.1とした。繊維角度など、その他の構成は実施例1と同一とした。
【0045】
(実施例6)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42の繊維角度を−30°、+30°とし、外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46の繊維角度も−30°、+30°とした。該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1を1とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0046】
(実施例7)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42の繊維角度を−60°、+60°とし、外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46の繊維角度も−60°、+60°とした。該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1を1とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0047】
(実施例8)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42の繊維角度を−30°、+30°と、外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46の繊維角度を−60°、+60°とした。該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1を2とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0048】
(実施例9)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42の繊維角度を−30°、+30°とし、外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46の繊維角度を−45°、+45°とした。該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1を1.5とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0049】
(実施例10)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42の繊維角度を−45°、+45°とし、外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46の繊維角度を−60°、+60°とした。該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1を1.33とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0050】
(実施例11)
図4に示すように、全長層41〜47のうち、内層部Iの構成を実施例1と相違させた。即ち、最内全長層41は、繊維角度を0°とするストレート層B1とし、全長層42、43を、繊維角度を−45°、+45°とする内側全長バイアスセット層A1とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0051】
(比較例1)
図5に示すように、全長層41〜47のうち、外層部IIにはバイアス層を形成せず、内層部Iおよび中層部IIIにのみバイアス層を形成した。即ち、全長層41〜44は、繊維角度を−45°、+45°、−45°、+45°として、厚みを0.315mmとするバイアスセット層を2組重ねて形成した。全長層45〜47はいずれも、繊維角度を0°とし、厚みを0.158mmとするストレート層とした。
各層に使用したプリプレグ種は実施例1と同一とした。
【0052】
(比較例2)
図に示すように、全長層41〜47のうち、内層部Iにはバイアス層を形成せず、外層部IIおよび中層部IIIにのみバイアス層を形成した。即ち、全長層41〜43はいずれも、繊維角度を0°とし、厚みを0.158mmとするストレート層とした。全長層44〜47は、繊維角度を−45°、+45°、−45°、+45°として、厚みを0.315mmとするバイアスセット層を2組重ねて形成した。
各層に使用したプリプレグ種は実施例1と同一とした。
【0053】
(比較例3)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42の繊維角度を−15°、+15°とし、外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46の繊維角度も−15°、+15°とした。該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1を1.00とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0054】
(比較例4)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42の繊維角度を−75°、+75°とし、外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46の繊維角度も−75°、+75°とした。該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1を1.00とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0055】
(比較例5)
内側全長バイアスセット層A1を構成する全長層41、42の繊維角度を−15°、+15°とし、外側全長バイアスセット層A2を構成する全長層45、46の繊維角度を−75°、+75°とした。該内外バイアスセット層A1、A2の繊維角度比θ2/θ1を5.00とした。各層の厚みや使用プリプレグ種など、その他は実施例1と同一とした。
【0056】
(順式フレックスの測定)
順式フレックスとはシャフトのグリップ側(手元側)の硬さの指標であり、図7に示すように、ヘッド側先端11から799mmの位置を支点P1とし、この支点P1からグリップ側後端12寄りの140mmの位置を固定点P2とし、ヘッド側先端11から64mmの位置に2.7kgの錘W1を吊り下げ、ヘット側先端11の撓み量を測定して得たものである。
【0057】
(トルクの測定)
前記トルク(deg)は、図8に示すように、シャフト10のヘッド側先端11から40mmの位置を固定し、該ヘッド側先端11から865mmの点に136.3N・cm(13.9kgf・cm)のトルクを加え、そのときの捩じれ角度を測定したものである。
【0058】
(3点曲げ強度の測定)
三点曲げ強度とは、製品安全協会が定める破壊強度である。図9に示すように、3点でシャフト10を支え、上方から荷重Fを加え、シャフト10が破断した時の荷重値(ピーク値)を測定した。測定点は、シャフト10のヘッド側先端11から175mmの位置(A点)、525mmの位置(B点)、993mmの位置(C点)とした。支持点51のスパンは300mmとした。(図示はA点測定の例)
【0059】
(つぶし強度の測定)
万能圧縮試験機を用い、シャフト10のグリップ側後端12から10mmの位置、100mmの位置、200mmの位置、300mmの位置を中心に長さ約10mmの試験片を作成し圧縮試験を行い、その強力を示した。
【0060】
表1から確認できるように、全長バイアス層を内層部Iと外層部IIにバランスよく分割配置した実施例1〜11は、フレックスと強度を維持しながらトルクを小さくできることが確認できた。
【0061】
全長バイアス層を内層側に集中させた比較例1は、トルクが大きくなることが分かった。また、全長バイアス層を外層側に集中させた比較例2は、トルクは小さくなったが、フレックスが大きくなりすぎるうえ、曲げ強度およびつぶし強度が低下することが確認できた。
【0062】
バイアス層の繊維角度を±25°よりも小さくした比較例3と、±65°よりも大きくした比較例4は、内外バイアス層の繊維角度比θ2/θ1が1であっても、いずれもトルクが小さくならなかったうえ、強度が低下した。
【0063】
内外バイアス層の繊維角度比θ2/θ1が2よりも極端に大きい比較例5は、トルクが大きくなるうえ、フレックスも大きくなりすぎることが確認できた。
一方、該繊維角度比が1.00の実施例1〜7、11と、1より大きく2以下の範囲内の実施例8、9、10は、トルクが低下すると共に、フレックスの増大も抑制できることも確認できた。また、実施例8、9、10は、実施例1〜7、11に比して、つぶし強度も向上した。
【0064】
内外バイアス層の厚み比T2/T1が1.4よりも大きい実施例4は、実施例1、2、5と比較すると、フレックスが大きくなりすぎるうえ、曲げ強度が低下することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフトの概略図である。
【図2】図1に示すゴルフクラブシャフトのプリプレグの積層構成を示す図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】実施例11のシャフトの積層構成を示す図である。
【図5】比較例1のシャフトの積層構成を示す図である。
【図6】比較例2のシャフトの積層構成を示す図である。
【図7】順式フレックスの測定方法を示す図である。
【図8】トルクの測定方法を示す図である。
【図9】三点曲げ強度の測定方法を示す図である。
【図10】従来例の図である。
【符号の説明】
【0066】
10 シャフト
21〜31 プリプレグ
41〜47 全長層
A1 内側全長バイアスセット層
A2 外側全長バイアスセット層
B1、B3 全長ストレート層
B2 最外周全長ストレート層
I 内層部
II 外層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグの積層体からなるゴルフクラブシャフトであって、
シャフト全長に形成される前記プリプレグからなる全長層を少なくとも6層備え、
前記全長層の積層数のうち、シャフト中心側半数を内層部、シャフト外側半数を外層部として分け、
前記内層部の全長層と前記外層部の全長層のそれぞれに、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が±25°以上±65°以下の範囲内であると共に、該配向角が+θ°である一層のバイアス層と−θ°である一層のバイアス層とを互いの強化繊維が交差するように重ね合わせて積層してなるバイアスセット層を少なくとも一組ずつ備え、かつ、
前記外層部の最外全長層には、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が0°以上±10°以下の範囲内であるストレート層を備えていることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記シャフトの重量は50g以上70g以下とし、
前記内層部の全長バイアスセット層の強化繊維の配向角±θ1°と、前記外層部の全長バイアスセット層の強化繊維の配向角±θ2°の比θ2/θ1は、1より大きく2以下の範囲内としている請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
前記内層部の全長バイアスセット層の厚さT1と、前記外層部の全長バイアスセット層の厚さT2の比T2/T1は、1より大きく1.4以下の範囲内としていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
前記全長層が奇数の場合は、中間の一層を中間層とし、該中間層としてストレート層を配置している請求項1乃至請求項3のいずれか1項のゴルフクラブシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−275443(P2007−275443A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108305(P2006−108305)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】