ゴルフクラブシャフト
【課題】軽量性およびシャフト強度を維持しながら振動吸収性を高める。
【解決手段】繊維強化プリプレグ21〜23、24A、25〜29の積層体からなり、中空部を有する管状体の繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフト10であって、第一プリプレグP1を複数枚積層してなる第一積層体Iと、第二プリプレグP2を備え、第一積層体Iは、温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.005以上0.02以下とし、第二プリプレグP2は、温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.10以上0.50以下としている。
【解決手段】繊維強化プリプレグ21〜23、24A、25〜29の積層体からなり、中空部を有する管状体の繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフト10であって、第一プリプレグP1を複数枚積層してなる第一積層体Iと、第二プリプレグP2を備え、第一積層体Iは、温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.005以上0.02以下とし、第二プリプレグP2は、温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.10以上0.50以下としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関し、特に、打撃時の不快な振動や音鳴りを緩和するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、打球の速度向上、安定性向上のため、ゴルフクラブヘッドに重量を集中させ、ゴルフクラブシャフトは軽量化を図る傾向にある。そのため、ゴルフクラブシャフトの材料は、軽量で、比強度、比剛性の高いカーボンプリプレグ等の繊維強化樹脂が主流となっている。
【0003】
このような軽量なゴルフクラブシャフトは、スイング時のヘッドスピードが上がり、飛距離が伸びる点に長所がある一方、軽量化により、打撃時にプレーヤーに不快な振動や衝撃が伝わりやすいという欠点がある。これは、シャフト自体が軽くなることで、従来のシャフトの振動とは異なる高い周波数の振動が生じ、この高い周波数の振動に起因して打撃時の不快感が生じていることによる。そのため、近年のゴルフプレーヤーには、打撃時の振動、衝撃により、肘や肩などに障害を持つプレーヤーが増加している。
【0004】
前記問題に関し、特開平6−339551号(特許文献1)では、図16(A)(B)に示すように、心棒3cに通した錘体3dを粘弾性体3bを介して筒体3aに支持させた動吸振器3を、シャフト1のグリップ部2内に設けることにより、不快感の原因となる高次モードの固有振動数成分を重点的に抑制できるとされている。
【0005】
また、本出願人は、特開2003−70944号(特許文献2)において、図17(A)〜(D)に示すように、10℃でのtanδが0.7以上の弾性材料からなる振動吸収部材5を、グリップ側のシャフト4の中空部に設けることを提案している。この振動吸収部材5については、中空部を有する本体5aと、連結部5bを介して本体5aと連結される中央部5cと、本体5aの外周に設けられて中空部内周面と接する突起部5dとを備えた構造とすることを提供している。
該ゴルフクラブシャフトは、中央部5cがシャフト4の振動に対して共振することができ、打撃時の振動や衝撃を効果的に吸収できる。
【0006】
さらに、本出願人は、特開2004−275324号(特許文献3)において、繊維強化樹脂プリプレグで形成される傾斜層と逆傾斜層の間に、10℃における損失正接(tanδ)が1.0以上である双極子変換材料からなる振動吸収部材を介在させたゴルフクラブシャフトを提供している。
該ゴルフクラブシャフトは、傾斜層と逆傾斜層が互いに逆方向に捩じれ、かつ復元しようとすることにより生じる捩れ振動を、振動吸収部材が効率よく低減できる。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1のゴルフクラブシャフトでは、動吸振器3の錘体3dの重量が重く、粘弾性体3b、心棒3cの重量を考えると、かなりの重量増となり、軽量化の観点から問題がある。
また、前記特許文献2のゴルフクラブシャフトでは、振動吸収部材5はシャフト4の中空部内周面との接着面積、接着箇所が多いため、中央部5cの振動方向が制限され、振動吸収性の向上には改良の余地がある。
さらに、特許文献3のゴルフクラブシャフトでは、積層体の層間に軟らかい異種材料である振動吸収部材を挿入しているため、シャフト強度など、所望の性能確保とのバランスにおいて改良の余地がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−339551号公報
【特許文献2】特開2003−70944号公報
【特許文献3】特開2004−275324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、軽量性と強度を備えながら、打撃時に生じる不快な振動、衝撃を緩和できるゴルフクラブシャフトの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグの積層体からなり、中空部を有する管状体の繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトであって、
第一プリプレグを複数枚積層してなる第一積層体と、第二プリプレグを備え、
前記第一積層体は、温度10℃の条件下、周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.005以上0.02以下とし、前記第二プリプレグは温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.10以上0.50以下としていることを特徴とするゴルフクラブシャフトを提供している。
【0011】
プリプレグの損失係数(tanδ)は、その値が大きいほど、該プリプレグのエネルギー変換が大きくなり、打球時の振動および衝撃を抑制することが認められている。
【0012】
前記構成のゴルフクラブシャフトは、損失係数の異なる第一積層体と、第二プリプレグを設け、損失係数が低い第一積層体によってシャフトの強度、剛性を維持しながら、損失係数の高い第二プリプレグによって振動減衰性を高めることができる。
また、振動減衰材等の異種材料を繊維強化プリプレグの積層体中に介在させたり、シャフト内に配置するのではなく、本発明では、繊維強化プリプレグの損失係数を調整し、第二プリプレグの損失係数を大きくすることによって振動減衰性を向上させている。従って、異種材料に起因する異音の発生がないうえ、重量増加も抑制でき、軽量性を維持しながら振動減衰性を高めることができる。
【0013】
前記第一積層体の損失係数は、プリプレグを複数枚重ねて硬化させた状態で測定したものである。
【0014】
前記第一積層体の損失係数(tanδ)は温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定したものである。該損失係数(tanδ)が0.005以上0.02以下としているのは、0.005未満ではシャフトの振動減衰性が低くなりすぎ、0.02超では、シャフト強度が低くなりすぎるためである。好ましくは、下限は0.007以上、さらに0.010以上であり、上限は0.018以下、さらに0.015以下が良い。
【0015】
前記第二プリプレグの損失係数(tanδ)も、温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定されたものである。その損失係数(tanδ)を0.10以上0.50以下としているのは、0.10未満では、振動減衰性向上効果を十分に発揮できず、振動減衰性の低いシャフトとなってしまい、0.50超では、強度への影響が大きくなり、必要なシャフト強度を確保できなくなるためである。好ましくは、下限は0.20以上、さらに0.30以上であり、上限は0.45以下、さらに0.40以下が良い。
【0016】
前記損失係数(tanδ)は、粘弾性測定装置(レオロジ社製))によって測定した値とする。測定条件は、周波数を10Hzとし、温度10℃、昇温速度を4℃/min、変位振幅を±50μmとした条件下において、曲げモードとして測定している。
試験片は、測定対象のプリプレグを強化繊維の繊維角度が互いに直交方向となるように同じプリプレグを繊維角度を交互に9層積層した積層体を用い、外層のプリプレグの強化繊維の延在方向が試験片の長さ方向となるように、長さ30mm、幅5mmに切り取って形成している。この試験片の長さ方向の両端5mmずつはチャックされるため、試験片の変位部分は20mmとなる。第二積層体も同様の方法により形成した試験片を用い、同様の方法で測定する。
【0017】
温度条件を10℃以下で、0℃〜10℃の範囲内としているのは、粘弾性測定の経験則である周波数−温度換算則に起因する。この経験則では、周波数1オーダーが温度10℃に相当すると考えられる。ゴルフクラブ用シャフトの面外一次振動(打球方向への振動)は40〜100Hzであり、面外二次振動(捩じれ方向の振動)は150〜250Hz程度となる。従って、ゴルフクラブ用シャフトの使用温度である室温(10℃〜30℃)と前記周波数の関係より、0℃〜10℃の温度範囲に着目している。ゴルフクラブでボールを打球する際に生じる強制振動は30〜1000Hzの範囲内と考えられる。従って、前記温度範囲で測定された損失係数を前記範囲内に規定することによって、衝撃により発生する振動を効率的に抑制することが可能となる。
【0018】
前記第二プリプレグの重量は、複数枚の第一プリプレグを積層した第一積層体の重量の1%以上15%以下としていることが好ましい。
これは、1%未満では、第二積層体による振動減衰効果を十分に発現できず、15%超では、シャフト強度への影響が大きくなり、強度不足を招くことに因る。より好ましくは、下限は2%以上、さらに3%以上、上限は14%以下、さらに13%以下が良い。
【0019】
前記繊維強化プリプレグ積層体の全肉厚を100%とした場合において、肉厚中心位置から肉厚方向の一方側と他方側のそれぞれに20%以内の厚み範囲内に、前記第二プリプレグの少なくとも一部が配置されるように積層していることが好ましい。
【0020】
前記肉厚中心位置から肉厚方向の両側にそれぞれ20%以内の範囲内がゴルフクラブシャフトに衝撃が加わったときに最も大きい剪断力を受ける部分である。よって、この範囲内に第二プリプレグを配置することにより、シャフトに生じる振動を効率的に減衰させることができる。なお、前記厚み範囲内に第二プリプレグの50%以上、さらには100%が配置されていることがより好ましい。
【0021】
前記第二プリプレグのマトリクス樹脂成分には、シャフト全体の強度や成形性を良好とするために、熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、該熱硬化性樹脂に、双極子モーメント量を増加させる活性剤、液状ゴムや軟化剤等の各種添加剤等を配合することによって、損失係数を高めることができる。
【0022】
前記活性剤を熱硬化性樹脂に配合するときは、熱硬化性樹脂を硬化させるために配合する硬化剤と共に活性剤を加え、加熱して活性剤を相溶化させることが好ましい。更に、一般的な硬化促進剤、可塑剤、安定剤、乳化剤、充填剤、強化剤、着色剤、発泡剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑剤などを必要に応じて加えても良い。
【0023】
双極子を持った活性剤が組成物中に分散し相溶化されると、通常の状態では、±の双極子は、電荷が引き付けあって安定した状態で、樹脂と電気的に結合して存在している。この材料に振動が加わった場合、双極子が変位し、双極子同士が一端離れるが、その後、再び互いに引き付け合おうとする復元作用が働く。その際に、双極子がベースとなる樹脂の高分子鎖や他の双極子と接触し、摩擦熱として振動エネルギーが大量に熱エネルギーに変換される。この作用により、シャフトの振動エネルギーを効率よく吸収し、振動や衝撃を効果的に減衰することができる。
【0024】
詳細には、前記第二プリプレグのマトリクス樹脂組成物は、エポキシ樹脂に、ベンゾトリアゾール基を持つ化合物およびジフェニルアクリレート基を持つ化合物から選択される1種以上の活性剤が配合された組成物からなることが好ましい。具体的には、第二プリプレグのマトリクス樹脂組成物として、CCI社製のDL26、DL30が挙げられる。
前記のような活性剤を配合することにより、エポキシ樹脂が軟化され、損失係数を高めることができると共に、組成物中の双極子モーメント量を増加することができる。
【0025】
前記第二プリプレグに用いるエポキシ樹脂は、エポキシ分子の鎖が長く、側鎖が少ないものが好ましく、エポキシ当量が250〜350、分子量が500〜700のエポキシ樹脂が好ましい。このようなエポキシ樹脂は架橋点が少ないため、効率よく組成物を軟化させ、損失係数を高めることができる。
特に、ポロプロピレン−エーテル系エポキシ樹脂とG−グリシジルエーテル系エポキシ樹脂との混合物が好ましく、その他、種々のエポキシ樹脂を1種または2種以上組み合わせて用いても良い。活性剤の配合量により損失係数を調整することができるが、樹脂成分100重量部に対して、活性剤の配合量は10〜200重量部の範囲内とすることが好ましい。
なお、第二プリプレグのマトリクス樹脂成分に、熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物を用いることも可能である。
【0026】
前記第一プリプレグのマトリクス樹脂成分としては、シャフト強度や剛性を確保するために、前記したように、熱硬化性樹脂が好適に用いられる。また、該第一プリプレグのマトリクス樹脂成分には、前記第二プリプレグのマトリクス樹脂成分と同種の樹脂を用いることが好ましい。
第一プリプレグにエポキシ樹脂を用いる場合には、第二プリプレグのエポキシ樹脂よりエポキシ当量が小さく、分子量も小さいエポキシ樹脂を用いることが好ましい。具体的には、ビスフェニールA型エポキシ樹脂が好ましく、各種添加剤等を配合しても良い。
【0027】
前記第一プリプレグおよび第二プリプレグの強化繊維の引張弾性率は150t/mm2以上60t/mm2以下としていることが好ましい。
前記第一プリプレグおよび第二プリプレグの強化繊維の引張弾性率を15t/mm2以上60t/mm2以下としているのは、15t/mm2未満では、ゴルフクラブシャフトの剛性および反発性が低くなりすぎ、60t/mm2を超えると、所望の耐衝撃性を得にくくなることに因る。より好ましくは、下限は20t/mm2以上、さらには25t/mm2以上、上限は55t/mm2以下、さらには50t/mm2以下が良い。
【0028】
第一プリプレグおよび第二プリプレグの繊維含有率は、45%以上85%以下の範囲内であることが好ましい。繊維含有率が45%未満では、シャフトの剛性が低くなりすぎ、85%を超えると、所望の耐衝撃性を得にくくなるためである。なお、ここで繊維含有率とは、「(プリプレグ中の繊維体積/プリプレグの全体積)×100」である。
【0029】
前記第二プリプレグは、シャフトのヘッド側端部を始端とし、該ヘッド側端部からシャフト全長の30%の距離を隔てた位置を終端とする領域(以下「先端30%領域」とする)に少なくとも一部が配置されるように積層していることが好ましい。該先端30%領域は、シャフトの変形挙動と振動モードを考慮した場合、変形の大きい部分であり、該領域に第二積層体を配置することにより、衝撃吸収エネルギーを大きくすることができる。
【0030】
第二プリプレグのシャフト軸線方向の長さは100mm以上500mm以下が好ましい。100mm未満では、振動減衰効果を十分に発現できず、500mm超では、シャフト全体の強度および剛性への影響が大きくなり、所望のシャフト強度・剛性が得にくくなることに因る。より好ましくは、下限は120mm以上、さらには150mm以上であり、上限は480mm以下、さらには450mm以下が良い。
【0031】
前記第二プリプレグは、シャフトの断面において、断面周方向を全周するように配置することが好ましいが、一部あるいは複数個所に断続的に配置してもよい。
【0032】
前記第二プリプレグの強化繊維のシャフト軸線に対する配向角は30°以上90°以下とすることが好ましい。これは、30°未満では、繊維角度とシャフト曲げ方向が一致しやすくなるため、繊維の弾性が作用して層間での変形が小さくなり、振動吸収効果も小さくなるためである。
【0033】
前記第一、第二プリプレグに使用される強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる繊維が好適に用いられる。例えば、カーボン繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、芳香族ポリエステル繊維、超高分子ポリエチレン繊維等が挙げられる。また、金属繊維を用いてもよい。
これらの強化繊維は、長繊維、短繊維のいずれであってもよく、これらの繊維を2種以上混合して用いてもよい。強化繊維の形状や配列については限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、クロス状、組み紐状などのいずれであってもよい。
【0034】
第二プリプレグに使用される強化繊維としては、高強度と低比重との両立の点からカーボン繊維が好適である。また、シャフトを構成する全繊維強化樹脂層の50%以上の層で、さらには75%以上の層で、さらには100%の層で、カーボン繊維を用いることが好ましい。
【0035】
本発明のゴルフクラブシャフトの重量は30g以上70g以下が好ましい。これは、30g未満では、肉厚不足で強度が低くなりすぎ、70gを超えると、重すぎて操作性が悪化することに因る。
【発明の効果】
【0036】
上述したように、本発明によれば、ゴルフクラブシャフトを構成する繊維強化プリプレグの積層体を、複数の第一プリプレグからなる損失係数の低い第一積層体と、損失係数の高い第二プリプレグとで構成することにより、第一積層体でシャフト強度および剛性を維持しながら、第二プリプレグによって振動減衰性を高めることができる。
また、振動減衰材等の異種材料を用いることなく、繊維強化プリプレグの損失係数を調整することでゴルフクラブの振動減衰性を向上させているため、異種材料による異音の発生がないうえ、シャフトの軽量性も維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2は、本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフト10(以下、シャフト10と略称する)を示す。
シャフト10は、繊維強化プリプレグ21〜23、24A、25〜29の積層体からなるテーパー状の長尺な管状体よりなる。
シャフト10の小径側のヘッド側端部11にヘッド13が取り付けられ、大径側のグリップ側端部12にグリップ14が取り付けられている。
シャフト10の全長は46インチ(1168mm)とし、塗装前(部材装着前)のシャフト全重量は59.5gとしている。
【0038】
前記繊維強化プリプレグ21〜23、24A、25〜29は、10℃の条件下で周波数10Hzで測定したときの損失係数(tanδ)が低い第一プリプレグP1と、同条件下で測定した損失係数が高い第二プリプレグP2とで構成される。
第一プリプレグP1にプリプレグ21〜23、25〜29が該当し、第二プリプレグP2にはプリプレグ24Aが該当する。
【0039】
前記第一プリプレグP1は、強化繊維をカーボン繊維とし、マトリクス樹脂をエポキシ樹脂(添加剤無配合)とする市販のプリプレグ(東レ社製)を使用し、10℃の条件下で周波数10Hzで測定したときの損失係数(tanδ)が低い第一積層体Iを構成している。本実施形態では、第一積層体I(前記第一プリプレグを重ねて硬化させた状態)の損失係数を0.01としている。
【0040】
前記第二プリプレグP2は、カーボン繊維を、エポキシ樹脂に活性剤を配合したマトリクス樹脂組成物(CCI社製「DL26」)に含浸しながら、ドラムに一定の繊維方向となるように巻き付け、一定量巻き付けた後にドラムから切り取り、約80℃〜100℃の熱を加えて擬似硬化状態に作製したプリプレグを使用している。
第二プリプレグP2は1枚のプリプレグ24Aからなり、該第二プリプレグの損失係数を0.3としている。
【0041】
前記各プリプレグ21〜29の詳細は次のとおりである。図2にも示すように、
プリプレグ21は、ヘッド側先端部に配置され、長さを267mmとし、厚みを0.1030mmとし、を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F21は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を24t/mm2としている。
プリプレグ22は、シャフト全長に配置され、厚みを0.0820mmとし、幅を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F22は、シャフト軸線に対してなす配向角を−45°とし、引張弾性率を40t/mm2としている。
プリプレグ23は、シャフト全長に配置され、厚みを0.0820mmとし、幅を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F23は、シャフト軸線に対してなす配向角を+45°とし、引張弾性率を40t/mm2としている。
プリプレグ24Aは、ヘッド側先端部に配置され、長さを400mmとし、厚みを0.0840mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
プリプレグ25は、ヘッド側先端部に配置され、長さを367mmとし、厚みを0.0840mmとし、幅を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F25は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を24t/mm2としている。
プリプレグ26は、グリップ側後端部に配置され、長さを453mmとし、厚みを0.0840mmとし、幅を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F26は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
プリプレグ27は、シャフト全長に配置され、厚みを0.1450mmとし、幅を2回巻きする幅として2層形成している。強化繊維F27は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
プリプレグ28は、シャフト全長に配置され、厚みを0.1450mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F28は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
プリプレグ29は、ヘッド側先端部に配置され、厚みを0.1030mmとし、長さを207mmとし、幅を5回巻きする幅として5層形成している。強化繊維F29は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を24t/mm2としている。
【0042】
前記シャフト10は、図2に示すように、前記プリプレグ21〜29をシートワインディング製法によりマンドレル(図示せず)に、内周側から順次プリプレグ21、22、23、24A・・・29と巻きつけて積層した後、ポリエチレンテレフタレート樹脂製等のテープ(図示せず)でラッピングして、これをオーブン中で加熱加圧し樹脂を硬化させて一体的に成形し、マンドレルを引き抜いてシャフト10を作製している。シャフトの表面は研磨を行った後、両端をカットして塗装している。
【0043】
本実施形態では、第一プリプレグP1の積層体である第一積層体Iの重量を58.0gとし、第二プリプレグP2の重量を1.5gとしている。
また、第二プリプレグP2が配置されているシャフト先端側は、20層からなる第一積層体Iと1層の第二プリプレグP2を合わせて計21層からなり、そのうち、第二プリプレグは内周側から10層目に一層のみである。さらに、シャフト全肉厚を100%とした場合における、内周側から30%〜70%の厚み領域内、即ち、厚み方向中心から±20%の領域内(以下「厚み方向中心領域」という)に、第二プリプレグP2が配置されている。
【0044】
前記構成のゴルフクラブシャフト10は、損失係数の小さい第一積層体Iにより所望のシャフト強度および剛性を確保しながら、損失係数の大きい第二プリプレグP2によって振動吸収性を高めることができる。また、第二プリプレグP2は、マトリクス樹脂を改質した繊維強化樹脂プリプレグ24Aで形成され、異種材料からなる振動減衰材等ではないため、異音が発生せず、かつ、重量増加を抑制でき、軽量性を維持することができる。
【0045】
また、第二プリプレグP2の重量は、第一積層体Iの重量に対して約2%であり、1%以上15%以下の範囲内であるため、シャフト強度と振動吸収性と軽量性とをバランスよく備えることが出来る。
さらに、第二プリプレグP2は、打撃時に最も大きな剪断力が生じる厚み方向中心領域に、その全体(100%)が配置されているため、効率的に振動・衝撃を減衰することができる。
【0046】
第一プリプレグP1と第二プリプレグP2は、いずれも強化繊維の引張弾性率が15t/mm2以上60t/mm2以下の範囲内であるため、シャフト10の剛性、反発性と耐衝撃性をバランスよく備えることができる。
また、第二プリプレグP2の繊維角度を、シャフト10の曲げ方向に直交する90°としているため、層間の変形が大きくなり、振動吸収効果を高めることができる。
【0047】
第二プリプレグは、シャフト10のヘッド側端部11からシャフト全長の34%の領域に配置されている。即ち、第二プリプレグの大部分である約88%が、打撃時に最も大きな衝撃を受けるシャフト10の先端30%領域10Aに配置されているため、高い振動吸収効果を発現することができる。
【0048】
図3は本発明の第二実施形態を示し、第二プリプレグP2をシャフト10の長手方向中央部に配置している。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成する繊維強化プリプレグ24Bは、ヘッド側端部11から400mm〜800mmの領域に配置され、厚みを0.0840mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
該プリプレグ24Bに用いられるマトリクス樹脂組成物は、前記第一実施形態のプリプレグ24Aと同じCCI社製の「DL−26」であり、第二プリプレグの損失係数は0.3としている。
【0049】
本実施形態のシャフト10の総重量は60gとしている。また、前記第一積層体Iの重量を58.0g、第二プリプレグの重量を2.0gとし、第二プリプレグの重量は、第一積層体Iの重量の約3%としている。
【0050】
第二プリプレグP2が配置されているシャフト中央部は、12層からなる第一積層体Iと1層からなる第二プリプレグP2を合わせて計13層からなり、そのうち、第二プリプレグP2は内周側から7層目に一層のみ形成されている。また、前記厚み方向中心領域内に、第二プリプレグP2の全体(100%)が配置されている。
その他の構成は、前記第一実施形態と同一構成としている。
【0051】
本実施形態は、第二プリプレグP2が、シャフト10の先端30%領域10Aに一部も配置されていないため、振動吸収性は第一実施形態よりは劣るが、強い剪断力が加わる前記厚み方向中心領域に該第二プリプレグP2の全体が配置されているため、効果的な振動吸収性を備えることができる。また、第二プリプレグP2の第一積層体Iに対する重量比も3%であるため、シャフト強度と軽量性も維持することができる。
【0052】
図4は本発明の第三実施形態を示し、第二プリプレグP2をシャフト10のグリップ側後端部に配置している。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成する繊維強化プリプレグ24Cは、ヘッド側端部11から800mm〜1168mm(グリップ側端部12)の領域に配置され、厚みを0.0840mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Cに用いられるマトリクス樹脂組成物は、前記第一実施形態のプリプレグ24Aと同じCCI社製の「DL−26」であり、第二プリプレグP2の損失係数は0.3としている。
【0053】
本実施形態のシャフト10の総重量は60.5gとし、そのうち、前記第一積層体Iの重量を58.0g、第二プリプレグP2の重量を2.5gとし、第二プリプレグP2の重量の、第一積層体Iの重量に対する比率を約4%としている。
【0054】
第二プリプレグP2が配置されているシャフト後端部は、12層からなる第一積層体Iと1層からなる第二プリプレグP2を合わせて計13層からなり、そのうち、第二プリプレグP2は内周側から7層目に一層のみ形成されている。また、前記厚み方向中心領域に、第二プリプレグP2の全体(100%)が配置されている。その他の構成は、前記第一実施形態と同一構成としている。
【0055】
本実施形態は、第二プリプレグP2が、シャフト10の先端30%領域10Aに一部も配置されていないため、振動吸収性は第一実施形態よりは劣るが、強い剪断力が加わる前記厚み方向中心領域に該第二プリプレグP2の全体が配置されているため、効果的な振動吸収性を備えることができる。また、第二プリプレグP2の第一積層体Iに対する重量比も4%であるため、シャフト強度と軽量性も維持することができる。
【0056】
図5は本発明の第四実施形態を示し、第二プリプレグP2をシャフト全長に配置している。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成する繊維強化プリプレグ24Dは、長さをシャフト全長とし、厚みを0.0840mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
該プリプレグ24Dに用いられるマトリクス樹脂組成物は、前記実施形態のプリプレグ24A〜24Cと同じCCI社製の「DL−26」であり、第二プリプレグの損失係数は0.3としている。
【0057】
本実施形態のシャフト10の総重量は64gとし、そのうち、前記第一積層体Iの重量を58.0g、第二プリプレグP2の重量を6.0gとし、第二プリプレグP2の重量の、第一積層体Iの重量に対する比率を約10%としている。
【0058】
シャフト10の先端側は、20層からなる第一積層体Iと1層からなる第二プリプレグP2を合わせて計21層からなり、そのうち、第二プリプレグP2は内周側から10層目に一層のみ形成されている。シャフト10の後端側は、12層からなる第一積層体Iと1層からなる第二プリプレグP2の計13層からなり、そのうち、第二プリプレグP2は内周側から7層目に一層のみ形成されている。
また、第二プリプレグP2は、シャフト全長にわたって、前記厚み方向中心領域内にその全体が配置されている。
その他の構成は、前記第一実施形態と同一構成としている。
【0059】
本実施形態は、第二プリプレグP2が、先端30%領域10Aを含むシャフト全長にわたって配置されているため、優れた振動吸収性は備えることができる。また、第二プリプレグP2の第一積層体Iに対する重量比も10%であるため、シャフト強度と軽量性も維持することができる。
【0060】
(実施例)
以上のことを確認するために、本発明のゴルフクラブシャフトの実施例1〜12および比較例1〜5について詳述する。なお、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきでない。
【0061】
以下の表1、表2に示すとおり、第一積層体Iおよび第二プリプレグP2の損失係数、プリプレグ積層構成、第二プリプレグP2の挿入重量、積層数、積層位置、繊維角度、配置位置を異ならせた実施例1〜11および比較例1〜4のゴルフクラブシャフトを作製し、それぞれの順式フレックス、振動減衰率(面外一次)、3点曲げ強度を測定すると共に、振動・衝撃吸収性に関する実打評価を行い、その結果を表1に表した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
実施例1〜11および比較例1〜4のいずれも、シートワインディング製法で作成し、その製造方法は前記実施形態と同一とした。シャフト重量およびシャフト重心は表1に示すとおり設定した。シャフト全長は、いずれも1168mmとした。
【0065】
(実施例1)
前記第一実施形態と同一構成とした。
即ち、第二プリプレグP2については、損失係数を0.3とし、配置位置をヘッド側端部から400mmの領域とし、挿入重量を1.5g、第一積層体Iに対する重量比を2%とし、積層数を1層、繊維角度を90°とした。該第二プリプレグP2の積層位置は、全21層のうち内周側から10層目とし、厚み方向中心領域内に第二積層体IIの全体(100%)を配置した。
第一積層体Iは、損失係数を0.01とした。
【0066】
シャフトを構成する各繊維強化プリプレグは次の通りとした。
まず、第一プリプレグP1については、いずれも東レ社製のプリプレグを使用し、プリプレグ21には品番「3255G−12」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.1030mm)のプリプレグを、プリプレグ22、23には品番「9255G−11」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0820mm)のプリプレグを、プリプレグ25には品番「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)のプリプレグを、プリプレグ26には品番「2255F−10」(繊維種:T800、引張弾性率:30t/mm2、厚み:0.0840mm)のプリプレグを、プリプレグ27、28には品番「2255F−15」(繊維種:T800、引張弾性率:30t/mm2、厚み:0.1450mm)のプリプレグを、プリプレグ29には品番「3255G−12」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.1030mm)のプリプレグを使用した。
第二プリプレグP2、即ちプリプレグ24Aには、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)をCCI社製のマトリクス樹脂組成物(品番:DL−26)に含浸させて作製した厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。
【0067】
(実施例2)
前記第二実施形態と同一構成とした。
即ち、第二プリプレグP2については、配置位置をヘッド側端部から400mm〜800mmの領域とし、挿入重量を2.0g、第一積層体Iに対する重量比を3%とし、積層位置は、全13層のうち内周側から7層目とし、厚み方向中心領域内に第二積層体IIの全体(100%)を配置した。
その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とし、損失係数は、第一積層体Iは0.01、第二プリプレグは0.3とした。
【0068】
(実施例3)
前記第三実施形態と同一構成とした。
即ち、第二プリプレグP2については、配置位置をヘッド側端部から800mm〜1168mmの領域とし、挿入重量を2.5g、第一積層体Iに対する重量比を4%とし、積層位置は、全13層のうち内周側から7層目とし、厚み方向中心領域内に第二プリプレグP2の全体(100%)を配置した。
その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とし、損失係数は、第一積層体Iは0.01、第二プリプレグP2は0.3とした。
【0069】
(実施例4)
前記第四実施形態と同一構成とした。
即ち、第二プリプレグP2については、配置位置をシャフト全長とし、挿入重量を6.0g、第一積層体Iに対する重量比を10%とし、積層位置は、シャフト先端側では全21層のうち内周側から10層目、シャフト後端側では全13層のうち内周側から7層目とし、厚み方向中心領域内に第二プリプレグP2の全体(100%)を配置した。
その他の構成および使用したプリプレグは実施例1と同一とし、損失係数は、第一積層体Iは0.01、第二プリプレグP2は0.3とした。
【0070】
(実施例5)
図6に示す積層構成とした。即ち、プリプレグ24A、24B、24C、24Dを積層せず、ストレート層のプリプレグ25を第二プリプレグP2とした点で実施例1〜4と相違する。
詳しくは、プリプレグ25で構成される第二プリプレグP2は、繊維角度を0°とし、配置位置をヘッド側端部から367mmの領域内とし、挿入重量を4.5g、第一積層体Iに対する重量比を8%とし、積層数は3層とし、積層位置は、全20層のうち内周側から10〜12層目とし、厚み方向中心領域に第二プリプレグP2の全体(100%)を配置とした。該第二プリプレグP2の損失係数は0.3とし、第一積層体Iの損失係数は0.01とした。
プリプレグ25には、カーボン繊維(繊維種:T700、引張弾性率24t/mm2)をCCI社製のマトリクス樹脂組成物(品番:DL−26)に含浸させて作製した厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0071】
(実施例6)
図7に示す積層構成とした。即ち、プリプレグ25を第一プリプレグP1とし、プリプレグ26を第二プリプレグP2とした点で実施例5と相違する。
詳しくは、プリプレグ26で構成される第二プリプレグP2は、繊維角度を0°とし、配置位置をグリップ側端部から453mmの領域内とし、挿入重量を7.5g、第一積層体Iに対する重量比を14%とし、3周巻きして積層数は3層とし、積層位置は、全12層のうち内周側から7〜9層目とし、厚み方向中心領域には第二プリプレグP2全体の80%に当たる6g分のみを配置した。該第二プリプレグP2は損失係数は0.3、第一積層体Iの損失係数は0.01とした。
プリプレグ26はカーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)をCCI社製のマトリクス樹脂組成物(品番:DL−26)に含浸させて作製した厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0072】
(実施例7)
実施例1と同一の積層構成としたが、第二プリプレグP2の損失係数を0.1とした点で実施例1と相違する。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Aとして、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)を、CCI社製のマトリクス樹脂組成物(品番:DL−26)とエポキシ樹脂を1:2の割合で配合した樹脂組成物に含浸させて作製した、厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。
その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0073】
(実施例8)
実施例1と同一の積層構成としたが、第二プリプレグP2の損失係数を0.5とした点で実施例1と相違する。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Aとして、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)を、CCI社製のマトリクス樹脂組成物「DL−26」と「DL−27」を1:1の割合で配合した樹脂組成物に含浸させて作製した、厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0074】
(実施例9)
実施例1と同一積層構成としたが、第一積層体Iの損失係数を0.02とした点で実施例1と相違する。
詳しくは、第一積層体Iを構成する各プリプレグ21〜23、25〜29のマトリクス樹脂に、CCI社製の「DL−26」とエポキシ樹脂を1:100の割合で配合したものを使用した。各プリプレグの厚さや、各プリプレグに使用した強化繊維の繊維種および引張弾性率については実施例1と同一とした。第二プリプレグP2については実施例1と同一とした。
【0075】
(実施例10)
図8に示す積層構成とした。
即ち、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Cを、プリプレグ27とプリプレグ28との間に配置した点で実施例3と相違させた。
詳しくは、前記プリプレグ24Cで構成される第二プリプレグP2は、繊維角度を90°とし、配置位置をヘッド側端部から800mm〜1168mmの領域とし、挿入重量を3.0g、第一積層体Iに対する重量比を5%とし、積層位置を全13層のうち内周側から12層目とし、厚み方向中心領域内に第二プリプレグP2の一部も配置しなかった。該第二プリプレグP2の損失係数は0.3とした。
第一積層体Iのうち、プリプレグ22、23には東レ社製の「9255G−7」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0570mm)を使用し、プリプレグ29には東レ社製の「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)を使用した。第一積層体Iの損失係数は0.01とした。その他の構成および使用プリプレグは実施例3と同一とした。
【0076】
(実施例11)
図9に示す積層構成とし、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Cを、プリプレグ22の内周面側に貼り合わせて巻回し、プリプレグ21とプリプレグ22の間に配置した点で実施例3、10と相違させた。
前記プリプレグ24Cで構成される第二プリプレグP2は、繊維角度を90°とし、配置位置をヘッド側端部から800mm〜1168mmの領域とし、挿入重量を2.0g、第一積層体Iに対する重量比を3%とし、積層位置を全13層のうち内周側から2層目とし、厚み方向中心領域に第二プリプレグP2の一部も配置しなかった。第二プリプレグP2の損失係数は0.3とし、第一積層体Iの損失係数は0.01とした。その他の構成および使用プリプレグは実施例10と同一とした。
【0077】
(比較例1)
図10に示す積層構成とした。
即ち、第二プリプレグP2を形成せず、プリプレグ21〜23、25〜29で第一積層体Iのみを形成した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0078】
(比較例2)
図2に示す実施例1と同一の積層構成としたが、第二プリプレグP2の損失係数を0.05とした点で実施例1と相違させた。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Aとして、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)を、CCI社製のマトリクス樹脂組成物「DL−26」とエポキシ樹脂とを1:6の割合で配合した樹脂組成物に含浸させて作製した、厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。
また、プリプレグ22、23には東レ社製の「9255G−7」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0570mm)を使用し、プリプレグ29には東レ社製の「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)を使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0079】
(比較例3)
図2に示す実施例1と同一の積層構成としたが、第二プリプレグP2の損失係数を0.7とした点で実施例1と相違させた。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Aとして、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)を、CCI社製のマトリクス樹脂組成物「DL−27」に含浸させて作製した、厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。
また、プリプレグ22、23には東レ社製の「9255G−7」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0570mm)を使用し、プリプレグ29には東レ社製の「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)を使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0080】
(比較例4)
図2に示す実施例1と同一の積層構成としたが、第一積層体Iの損失係数を0.05とした点で実施例1と相違させた。
詳しくは、第一積層体Iを構成する各プリプレグ21〜23、25〜29のマトリクス樹脂に、CCI社製の「DL−26」とエポキシ樹脂とを1:6の割合で配合したものを使用した。
また、プリプレグ22、23には東レ社製の「9255G−7」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0570mm)を使用し、プリプレグ29には東レ社製の「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)を使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0081】
(順式フレックスの測定方法)
図11に示すように、シャフトのグリップ側端部12から75mmの位置(グリップ取付側の後端)の上点31と、グリップ側端部12から215mmの位置(上点から140mm)の下点32との上下二点を支持点として、グリップ側端部12から1039mmの位置に2.7kgの荷重を掛けたときの順式フレックスを測定した。
なお、上点31における当接治具のシャフト当接部の断面形状はR=15mmの円弧形状で、シャフトと直交する方向での断面形状はR40mmで凹んだ形状で、長さは15mmである。また、下点32における当接治具のシャフト当接部のシャフト長手方向の向きの断面形状はR=15mmの円弧形状で、シャフトと直交する方向での断面形状は中央がR40mmで凹み、長さは15mmである。2.7kg荷重位置の荷重圧子の当接部の断面形状はR=10mmの円弧形状で、シャフトと直交する方向での断面形状は直線で、長さは18mmである。
【0082】
(振動減衰率の測定方法)
図12に示すように、シャフト10のグリップ側端部12を紐50で吊り下げ、グリップ側端部12から370mmの位置に加速度ピックアップ計51を取り付け、加速度ピックアップ計51を取り付けた反対側をインパクトハンマー52で加振した。インパクトハンマー52に取り付けられたフォースピックアップ計53で計測した入力振動Fと加速度ピックアップ計51で計測した応答振動αを、アンプ54A、54Bを介して周波数解析装置55(ヒューレットパッカード社製、ダイナミックシングルアナライザー、HP3562A)に入力して解析した。解析で得た周波数領域での伝達関数を求め、シャフトの振動数を得た。下式により振動減衰率(ζ)を求め、面外一次振動減衰率とした。
ζ=(1/2)×(△ω/ωn)
To=Tn×√2
【0083】
(3点曲げ強度の測定)
3点曲げ強度とは、製品安全協会が定める破壊強度である。図13に示すように、3点でシャフト10を支え、上方から荷重Fを加え、シャフト10が破断した時の荷重値(ピーク値)を測定した。測定点は、シャフト10のヘッド側端部11から175mm(A点)、525mm(B点)、グリップ側端部12から175mm(C点)の位置とし、支持点61のスパンは、A、B、C点のいずれの測定時も300mmとした(図示はA点測定の例)。
【0084】
(衝撃エネルギーの測定)
図14に示す落下衝撃試験機(米倉製作所製)を用い、シャフト10のヘッド側端部11から150mmの位置に、1.5cmの高さから500gの錘を落下させ、その時に発生した振動波形を振動計(昭和計測器株式会社製 チャージ振動計 モデル1607)で読み取った。振動波形は初期測度からエネルギ−の損失による速度低下分を補正し、荷重対変位関数を求めると共に、エネルギー値を計算する。変位,速度、エネルギーについて、次の関係が成立する。
【数1】
【数2】
【数3】
以上の(1)(2)(3)式を初期条件E(0)=0,V(0)=0,ζ(0)=0で解き、2次形で離散化する。
【数4】
【数5】
【数6】
(5)式をV(n)2で展開し、(6)式に代入し、次式を得る。
【数7】
(4)(5)(7)式から逐次、変位、エネルギーを計算する。
それによって得られた振動波形は図15に示す通りである。衝撃エネルギーは図15中の斜線で示す最大荷重点までの面積で計算している。
【0085】
(実打評価)
実施例および比較例の各シャフトに、「SRIXON W−505 L10.5」とフェラル、グリップを装着し、ハンディキャップ20〜35のゴルファー20名が、市販の3ピースボール(SRIスポーツ製 「HI−BRID evrio」)を10球ずつ打撃し、振動吸収性について5点満点の官能評価を行い(数値が大きいほど良い)、20名分の平均を表1に示した。
【0086】
表1の結果から分かるように、第一積層体I(第一プリプレグP1)のみからなる比較例1と、比較例1の第一プリプレグP1の一部を第二プリプレグP2に変えて第二プリプレグP2を積層した実施例5、6とを比較すると、実施例5、6は、比較例1と同等の強度および順式フレックスを維持しながら、高い振動吸収性を備えることが確認できた。
また、比較例1の積層構成に第二プリプレグP2を加えた実施例1〜4も、比較例1と同等の強度および順式フレックスを維持しながら、高い振動吸収性を備えることが確認できた。
【0087】
実施例9、10と比較例4、5を比較すると、第一積層体Iの損失係数は0.005以上0.02以下が良く、0.005未満では振動吸収性が低くなりすぎ、0.02超では3点曲げ強度が低くなりすぎることが確認できた。
また、実施例7、8と比較例2、3とを比較すると、第二プリプレグP2の損失係数は0.10以上0.50以下が良く、0.10未満では振動吸収性が低くなりすぎ、0.50超では3点曲げ強度が低くなりすぎることが確認できた。
【0088】
実施例1〜3を比較すると、ヘッド側先端部に第二プリプレグP2を形成した実施例1が、シャフト中央部やグリップ側に第二プリプレグP2を形成した実施例2、3よりも、振動吸収性がより向上し、衝撃エネルギーも向上することが確認できた。
シャフト全長に第二プリプレグP2を形成した実施例4は、重量が増加したものの、さらに振動吸収性を高めることができた。
【0089】
実施例3と実施例11、12とを比較すると、第二プリプレグP2を厚さ方向中心領域に配置した実施例3が、該厚さ方向中心領域よりも内周側や外周側に第二プリプレグP2を形成した実施例11、12よりも、優れた振動吸収性が備えることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブの概略図である。
【図2】図1に示すゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図3】第二実施形態に係るゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図4】第三実施形態に係るゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図5】第四実施形態に係るゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図6】実施例5のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図7】実施例6のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図8】実施例11のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図9】実施例12のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図10】比較例1のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図11】順式フレックスの測定方法を示す概略図である。
【図12】振動減衰率の測定方法を示す概略図である。
【図13】3点曲げ強度の測定方法を示す概略図である。
【図14】衝撃試験方法を示す概略図である。
【図15】衝撃エネルギーの求め方を示す図面である。
【図16】従来例を示す図である。
【図17】他の従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
10 ゴルフクラブシャフト
11 ヘッド側端部
12 グリップ側端部
21〜23、24A〜24D、25〜29 プリプレグ
P1 第一プリプレグ
P2 第二プリプレグ
I 第一積層体
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関し、特に、打撃時の不快な振動や音鳴りを緩和するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、打球の速度向上、安定性向上のため、ゴルフクラブヘッドに重量を集中させ、ゴルフクラブシャフトは軽量化を図る傾向にある。そのため、ゴルフクラブシャフトの材料は、軽量で、比強度、比剛性の高いカーボンプリプレグ等の繊維強化樹脂が主流となっている。
【0003】
このような軽量なゴルフクラブシャフトは、スイング時のヘッドスピードが上がり、飛距離が伸びる点に長所がある一方、軽量化により、打撃時にプレーヤーに不快な振動や衝撃が伝わりやすいという欠点がある。これは、シャフト自体が軽くなることで、従来のシャフトの振動とは異なる高い周波数の振動が生じ、この高い周波数の振動に起因して打撃時の不快感が生じていることによる。そのため、近年のゴルフプレーヤーには、打撃時の振動、衝撃により、肘や肩などに障害を持つプレーヤーが増加している。
【0004】
前記問題に関し、特開平6−339551号(特許文献1)では、図16(A)(B)に示すように、心棒3cに通した錘体3dを粘弾性体3bを介して筒体3aに支持させた動吸振器3を、シャフト1のグリップ部2内に設けることにより、不快感の原因となる高次モードの固有振動数成分を重点的に抑制できるとされている。
【0005】
また、本出願人は、特開2003−70944号(特許文献2)において、図17(A)〜(D)に示すように、10℃でのtanδが0.7以上の弾性材料からなる振動吸収部材5を、グリップ側のシャフト4の中空部に設けることを提案している。この振動吸収部材5については、中空部を有する本体5aと、連結部5bを介して本体5aと連結される中央部5cと、本体5aの外周に設けられて中空部内周面と接する突起部5dとを備えた構造とすることを提供している。
該ゴルフクラブシャフトは、中央部5cがシャフト4の振動に対して共振することができ、打撃時の振動や衝撃を効果的に吸収できる。
【0006】
さらに、本出願人は、特開2004−275324号(特許文献3)において、繊維強化樹脂プリプレグで形成される傾斜層と逆傾斜層の間に、10℃における損失正接(tanδ)が1.0以上である双極子変換材料からなる振動吸収部材を介在させたゴルフクラブシャフトを提供している。
該ゴルフクラブシャフトは、傾斜層と逆傾斜層が互いに逆方向に捩じれ、かつ復元しようとすることにより生じる捩れ振動を、振動吸収部材が効率よく低減できる。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1のゴルフクラブシャフトでは、動吸振器3の錘体3dの重量が重く、粘弾性体3b、心棒3cの重量を考えると、かなりの重量増となり、軽量化の観点から問題がある。
また、前記特許文献2のゴルフクラブシャフトでは、振動吸収部材5はシャフト4の中空部内周面との接着面積、接着箇所が多いため、中央部5cの振動方向が制限され、振動吸収性の向上には改良の余地がある。
さらに、特許文献3のゴルフクラブシャフトでは、積層体の層間に軟らかい異種材料である振動吸収部材を挿入しているため、シャフト強度など、所望の性能確保とのバランスにおいて改良の余地がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−339551号公報
【特許文献2】特開2003−70944号公報
【特許文献3】特開2004−275324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、軽量性と強度を備えながら、打撃時に生じる不快な振動、衝撃を緩和できるゴルフクラブシャフトの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグの積層体からなり、中空部を有する管状体の繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトであって、
第一プリプレグを複数枚積層してなる第一積層体と、第二プリプレグを備え、
前記第一積層体は、温度10℃の条件下、周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.005以上0.02以下とし、前記第二プリプレグは温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.10以上0.50以下としていることを特徴とするゴルフクラブシャフトを提供している。
【0011】
プリプレグの損失係数(tanδ)は、その値が大きいほど、該プリプレグのエネルギー変換が大きくなり、打球時の振動および衝撃を抑制することが認められている。
【0012】
前記構成のゴルフクラブシャフトは、損失係数の異なる第一積層体と、第二プリプレグを設け、損失係数が低い第一積層体によってシャフトの強度、剛性を維持しながら、損失係数の高い第二プリプレグによって振動減衰性を高めることができる。
また、振動減衰材等の異種材料を繊維強化プリプレグの積層体中に介在させたり、シャフト内に配置するのではなく、本発明では、繊維強化プリプレグの損失係数を調整し、第二プリプレグの損失係数を大きくすることによって振動減衰性を向上させている。従って、異種材料に起因する異音の発生がないうえ、重量増加も抑制でき、軽量性を維持しながら振動減衰性を高めることができる。
【0013】
前記第一積層体の損失係数は、プリプレグを複数枚重ねて硬化させた状態で測定したものである。
【0014】
前記第一積層体の損失係数(tanδ)は温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定したものである。該損失係数(tanδ)が0.005以上0.02以下としているのは、0.005未満ではシャフトの振動減衰性が低くなりすぎ、0.02超では、シャフト強度が低くなりすぎるためである。好ましくは、下限は0.007以上、さらに0.010以上であり、上限は0.018以下、さらに0.015以下が良い。
【0015】
前記第二プリプレグの損失係数(tanδ)も、温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定されたものである。その損失係数(tanδ)を0.10以上0.50以下としているのは、0.10未満では、振動減衰性向上効果を十分に発揮できず、振動減衰性の低いシャフトとなってしまい、0.50超では、強度への影響が大きくなり、必要なシャフト強度を確保できなくなるためである。好ましくは、下限は0.20以上、さらに0.30以上であり、上限は0.45以下、さらに0.40以下が良い。
【0016】
前記損失係数(tanδ)は、粘弾性測定装置(レオロジ社製))によって測定した値とする。測定条件は、周波数を10Hzとし、温度10℃、昇温速度を4℃/min、変位振幅を±50μmとした条件下において、曲げモードとして測定している。
試験片は、測定対象のプリプレグを強化繊維の繊維角度が互いに直交方向となるように同じプリプレグを繊維角度を交互に9層積層した積層体を用い、外層のプリプレグの強化繊維の延在方向が試験片の長さ方向となるように、長さ30mm、幅5mmに切り取って形成している。この試験片の長さ方向の両端5mmずつはチャックされるため、試験片の変位部分は20mmとなる。第二積層体も同様の方法により形成した試験片を用い、同様の方法で測定する。
【0017】
温度条件を10℃以下で、0℃〜10℃の範囲内としているのは、粘弾性測定の経験則である周波数−温度換算則に起因する。この経験則では、周波数1オーダーが温度10℃に相当すると考えられる。ゴルフクラブ用シャフトの面外一次振動(打球方向への振動)は40〜100Hzであり、面外二次振動(捩じれ方向の振動)は150〜250Hz程度となる。従って、ゴルフクラブ用シャフトの使用温度である室温(10℃〜30℃)と前記周波数の関係より、0℃〜10℃の温度範囲に着目している。ゴルフクラブでボールを打球する際に生じる強制振動は30〜1000Hzの範囲内と考えられる。従って、前記温度範囲で測定された損失係数を前記範囲内に規定することによって、衝撃により発生する振動を効率的に抑制することが可能となる。
【0018】
前記第二プリプレグの重量は、複数枚の第一プリプレグを積層した第一積層体の重量の1%以上15%以下としていることが好ましい。
これは、1%未満では、第二積層体による振動減衰効果を十分に発現できず、15%超では、シャフト強度への影響が大きくなり、強度不足を招くことに因る。より好ましくは、下限は2%以上、さらに3%以上、上限は14%以下、さらに13%以下が良い。
【0019】
前記繊維強化プリプレグ積層体の全肉厚を100%とした場合において、肉厚中心位置から肉厚方向の一方側と他方側のそれぞれに20%以内の厚み範囲内に、前記第二プリプレグの少なくとも一部が配置されるように積層していることが好ましい。
【0020】
前記肉厚中心位置から肉厚方向の両側にそれぞれ20%以内の範囲内がゴルフクラブシャフトに衝撃が加わったときに最も大きい剪断力を受ける部分である。よって、この範囲内に第二プリプレグを配置することにより、シャフトに生じる振動を効率的に減衰させることができる。なお、前記厚み範囲内に第二プリプレグの50%以上、さらには100%が配置されていることがより好ましい。
【0021】
前記第二プリプレグのマトリクス樹脂成分には、シャフト全体の強度や成形性を良好とするために、熱硬化性樹脂を用いることが好ましく、該熱硬化性樹脂に、双極子モーメント量を増加させる活性剤、液状ゴムや軟化剤等の各種添加剤等を配合することによって、損失係数を高めることができる。
【0022】
前記活性剤を熱硬化性樹脂に配合するときは、熱硬化性樹脂を硬化させるために配合する硬化剤と共に活性剤を加え、加熱して活性剤を相溶化させることが好ましい。更に、一般的な硬化促進剤、可塑剤、安定剤、乳化剤、充填剤、強化剤、着色剤、発泡剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、滑剤などを必要に応じて加えても良い。
【0023】
双極子を持った活性剤が組成物中に分散し相溶化されると、通常の状態では、±の双極子は、電荷が引き付けあって安定した状態で、樹脂と電気的に結合して存在している。この材料に振動が加わった場合、双極子が変位し、双極子同士が一端離れるが、その後、再び互いに引き付け合おうとする復元作用が働く。その際に、双極子がベースとなる樹脂の高分子鎖や他の双極子と接触し、摩擦熱として振動エネルギーが大量に熱エネルギーに変換される。この作用により、シャフトの振動エネルギーを効率よく吸収し、振動や衝撃を効果的に減衰することができる。
【0024】
詳細には、前記第二プリプレグのマトリクス樹脂組成物は、エポキシ樹脂に、ベンゾトリアゾール基を持つ化合物およびジフェニルアクリレート基を持つ化合物から選択される1種以上の活性剤が配合された組成物からなることが好ましい。具体的には、第二プリプレグのマトリクス樹脂組成物として、CCI社製のDL26、DL30が挙げられる。
前記のような活性剤を配合することにより、エポキシ樹脂が軟化され、損失係数を高めることができると共に、組成物中の双極子モーメント量を増加することができる。
【0025】
前記第二プリプレグに用いるエポキシ樹脂は、エポキシ分子の鎖が長く、側鎖が少ないものが好ましく、エポキシ当量が250〜350、分子量が500〜700のエポキシ樹脂が好ましい。このようなエポキシ樹脂は架橋点が少ないため、効率よく組成物を軟化させ、損失係数を高めることができる。
特に、ポロプロピレン−エーテル系エポキシ樹脂とG−グリシジルエーテル系エポキシ樹脂との混合物が好ましく、その他、種々のエポキシ樹脂を1種または2種以上組み合わせて用いても良い。活性剤の配合量により損失係数を調整することができるが、樹脂成分100重量部に対して、活性剤の配合量は10〜200重量部の範囲内とすることが好ましい。
なお、第二プリプレグのマトリクス樹脂成分に、熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物を用いることも可能である。
【0026】
前記第一プリプレグのマトリクス樹脂成分としては、シャフト強度や剛性を確保するために、前記したように、熱硬化性樹脂が好適に用いられる。また、該第一プリプレグのマトリクス樹脂成分には、前記第二プリプレグのマトリクス樹脂成分と同種の樹脂を用いることが好ましい。
第一プリプレグにエポキシ樹脂を用いる場合には、第二プリプレグのエポキシ樹脂よりエポキシ当量が小さく、分子量も小さいエポキシ樹脂を用いることが好ましい。具体的には、ビスフェニールA型エポキシ樹脂が好ましく、各種添加剤等を配合しても良い。
【0027】
前記第一プリプレグおよび第二プリプレグの強化繊維の引張弾性率は150t/mm2以上60t/mm2以下としていることが好ましい。
前記第一プリプレグおよび第二プリプレグの強化繊維の引張弾性率を15t/mm2以上60t/mm2以下としているのは、15t/mm2未満では、ゴルフクラブシャフトの剛性および反発性が低くなりすぎ、60t/mm2を超えると、所望の耐衝撃性を得にくくなることに因る。より好ましくは、下限は20t/mm2以上、さらには25t/mm2以上、上限は55t/mm2以下、さらには50t/mm2以下が良い。
【0028】
第一プリプレグおよび第二プリプレグの繊維含有率は、45%以上85%以下の範囲内であることが好ましい。繊維含有率が45%未満では、シャフトの剛性が低くなりすぎ、85%を超えると、所望の耐衝撃性を得にくくなるためである。なお、ここで繊維含有率とは、「(プリプレグ中の繊維体積/プリプレグの全体積)×100」である。
【0029】
前記第二プリプレグは、シャフトのヘッド側端部を始端とし、該ヘッド側端部からシャフト全長の30%の距離を隔てた位置を終端とする領域(以下「先端30%領域」とする)に少なくとも一部が配置されるように積層していることが好ましい。該先端30%領域は、シャフトの変形挙動と振動モードを考慮した場合、変形の大きい部分であり、該領域に第二積層体を配置することにより、衝撃吸収エネルギーを大きくすることができる。
【0030】
第二プリプレグのシャフト軸線方向の長さは100mm以上500mm以下が好ましい。100mm未満では、振動減衰効果を十分に発現できず、500mm超では、シャフト全体の強度および剛性への影響が大きくなり、所望のシャフト強度・剛性が得にくくなることに因る。より好ましくは、下限は120mm以上、さらには150mm以上であり、上限は480mm以下、さらには450mm以下が良い。
【0031】
前記第二プリプレグは、シャフトの断面において、断面周方向を全周するように配置することが好ましいが、一部あるいは複数個所に断続的に配置してもよい。
【0032】
前記第二プリプレグの強化繊維のシャフト軸線に対する配向角は30°以上90°以下とすることが好ましい。これは、30°未満では、繊維角度とシャフト曲げ方向が一致しやすくなるため、繊維の弾性が作用して層間での変形が小さくなり、振動吸収効果も小さくなるためである。
【0033】
前記第一、第二プリプレグに使用される強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる繊維が好適に用いられる。例えば、カーボン繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、芳香族ポリエステル繊維、超高分子ポリエチレン繊維等が挙げられる。また、金属繊維を用いてもよい。
これらの強化繊維は、長繊維、短繊維のいずれであってもよく、これらの繊維を2種以上混合して用いてもよい。強化繊維の形状や配列については限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、クロス状、組み紐状などのいずれであってもよい。
【0034】
第二プリプレグに使用される強化繊維としては、高強度と低比重との両立の点からカーボン繊維が好適である。また、シャフトを構成する全繊維強化樹脂層の50%以上の層で、さらには75%以上の層で、さらには100%の層で、カーボン繊維を用いることが好ましい。
【0035】
本発明のゴルフクラブシャフトの重量は30g以上70g以下が好ましい。これは、30g未満では、肉厚不足で強度が低くなりすぎ、70gを超えると、重すぎて操作性が悪化することに因る。
【発明の効果】
【0036】
上述したように、本発明によれば、ゴルフクラブシャフトを構成する繊維強化プリプレグの積層体を、複数の第一プリプレグからなる損失係数の低い第一積層体と、損失係数の高い第二プリプレグとで構成することにより、第一積層体でシャフト強度および剛性を維持しながら、第二プリプレグによって振動減衰性を高めることができる。
また、振動減衰材等の異種材料を用いることなく、繊維強化プリプレグの損失係数を調整することでゴルフクラブの振動減衰性を向上させているため、異種材料による異音の発生がないうえ、シャフトの軽量性も維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2は、本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフト10(以下、シャフト10と略称する)を示す。
シャフト10は、繊維強化プリプレグ21〜23、24A、25〜29の積層体からなるテーパー状の長尺な管状体よりなる。
シャフト10の小径側のヘッド側端部11にヘッド13が取り付けられ、大径側のグリップ側端部12にグリップ14が取り付けられている。
シャフト10の全長は46インチ(1168mm)とし、塗装前(部材装着前)のシャフト全重量は59.5gとしている。
【0038】
前記繊維強化プリプレグ21〜23、24A、25〜29は、10℃の条件下で周波数10Hzで測定したときの損失係数(tanδ)が低い第一プリプレグP1と、同条件下で測定した損失係数が高い第二プリプレグP2とで構成される。
第一プリプレグP1にプリプレグ21〜23、25〜29が該当し、第二プリプレグP2にはプリプレグ24Aが該当する。
【0039】
前記第一プリプレグP1は、強化繊維をカーボン繊維とし、マトリクス樹脂をエポキシ樹脂(添加剤無配合)とする市販のプリプレグ(東レ社製)を使用し、10℃の条件下で周波数10Hzで測定したときの損失係数(tanδ)が低い第一積層体Iを構成している。本実施形態では、第一積層体I(前記第一プリプレグを重ねて硬化させた状態)の損失係数を0.01としている。
【0040】
前記第二プリプレグP2は、カーボン繊維を、エポキシ樹脂に活性剤を配合したマトリクス樹脂組成物(CCI社製「DL26」)に含浸しながら、ドラムに一定の繊維方向となるように巻き付け、一定量巻き付けた後にドラムから切り取り、約80℃〜100℃の熱を加えて擬似硬化状態に作製したプリプレグを使用している。
第二プリプレグP2は1枚のプリプレグ24Aからなり、該第二プリプレグの損失係数を0.3としている。
【0041】
前記各プリプレグ21〜29の詳細は次のとおりである。図2にも示すように、
プリプレグ21は、ヘッド側先端部に配置され、長さを267mmとし、厚みを0.1030mmとし、を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F21は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を24t/mm2としている。
プリプレグ22は、シャフト全長に配置され、厚みを0.0820mmとし、幅を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F22は、シャフト軸線に対してなす配向角を−45°とし、引張弾性率を40t/mm2としている。
プリプレグ23は、シャフト全長に配置され、厚みを0.0820mmとし、幅を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F23は、シャフト軸線に対してなす配向角を+45°とし、引張弾性率を40t/mm2としている。
プリプレグ24Aは、ヘッド側先端部に配置され、長さを400mmとし、厚みを0.0840mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
プリプレグ25は、ヘッド側先端部に配置され、長さを367mmとし、厚みを0.0840mmとし、幅を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F25は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を24t/mm2としている。
プリプレグ26は、グリップ側後端部に配置され、長さを453mmとし、厚みを0.0840mmとし、幅を3回巻きする幅として3層形成している。強化繊維F26は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
プリプレグ27は、シャフト全長に配置され、厚みを0.1450mmとし、幅を2回巻きする幅として2層形成している。強化繊維F27は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
プリプレグ28は、シャフト全長に配置され、厚みを0.1450mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F28は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
プリプレグ29は、ヘッド側先端部に配置され、厚みを0.1030mmとし、長さを207mmとし、幅を5回巻きする幅として5層形成している。強化繊維F29は、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、引張弾性率を24t/mm2としている。
【0042】
前記シャフト10は、図2に示すように、前記プリプレグ21〜29をシートワインディング製法によりマンドレル(図示せず)に、内周側から順次プリプレグ21、22、23、24A・・・29と巻きつけて積層した後、ポリエチレンテレフタレート樹脂製等のテープ(図示せず)でラッピングして、これをオーブン中で加熱加圧し樹脂を硬化させて一体的に成形し、マンドレルを引き抜いてシャフト10を作製している。シャフトの表面は研磨を行った後、両端をカットして塗装している。
【0043】
本実施形態では、第一プリプレグP1の積層体である第一積層体Iの重量を58.0gとし、第二プリプレグP2の重量を1.5gとしている。
また、第二プリプレグP2が配置されているシャフト先端側は、20層からなる第一積層体Iと1層の第二プリプレグP2を合わせて計21層からなり、そのうち、第二プリプレグは内周側から10層目に一層のみである。さらに、シャフト全肉厚を100%とした場合における、内周側から30%〜70%の厚み領域内、即ち、厚み方向中心から±20%の領域内(以下「厚み方向中心領域」という)に、第二プリプレグP2が配置されている。
【0044】
前記構成のゴルフクラブシャフト10は、損失係数の小さい第一積層体Iにより所望のシャフト強度および剛性を確保しながら、損失係数の大きい第二プリプレグP2によって振動吸収性を高めることができる。また、第二プリプレグP2は、マトリクス樹脂を改質した繊維強化樹脂プリプレグ24Aで形成され、異種材料からなる振動減衰材等ではないため、異音が発生せず、かつ、重量増加を抑制でき、軽量性を維持することができる。
【0045】
また、第二プリプレグP2の重量は、第一積層体Iの重量に対して約2%であり、1%以上15%以下の範囲内であるため、シャフト強度と振動吸収性と軽量性とをバランスよく備えることが出来る。
さらに、第二プリプレグP2は、打撃時に最も大きな剪断力が生じる厚み方向中心領域に、その全体(100%)が配置されているため、効率的に振動・衝撃を減衰することができる。
【0046】
第一プリプレグP1と第二プリプレグP2は、いずれも強化繊維の引張弾性率が15t/mm2以上60t/mm2以下の範囲内であるため、シャフト10の剛性、反発性と耐衝撃性をバランスよく備えることができる。
また、第二プリプレグP2の繊維角度を、シャフト10の曲げ方向に直交する90°としているため、層間の変形が大きくなり、振動吸収効果を高めることができる。
【0047】
第二プリプレグは、シャフト10のヘッド側端部11からシャフト全長の34%の領域に配置されている。即ち、第二プリプレグの大部分である約88%が、打撃時に最も大きな衝撃を受けるシャフト10の先端30%領域10Aに配置されているため、高い振動吸収効果を発現することができる。
【0048】
図3は本発明の第二実施形態を示し、第二プリプレグP2をシャフト10の長手方向中央部に配置している。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成する繊維強化プリプレグ24Bは、ヘッド側端部11から400mm〜800mmの領域に配置され、厚みを0.0840mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
該プリプレグ24Bに用いられるマトリクス樹脂組成物は、前記第一実施形態のプリプレグ24Aと同じCCI社製の「DL−26」であり、第二プリプレグの損失係数は0.3としている。
【0049】
本実施形態のシャフト10の総重量は60gとしている。また、前記第一積層体Iの重量を58.0g、第二プリプレグの重量を2.0gとし、第二プリプレグの重量は、第一積層体Iの重量の約3%としている。
【0050】
第二プリプレグP2が配置されているシャフト中央部は、12層からなる第一積層体Iと1層からなる第二プリプレグP2を合わせて計13層からなり、そのうち、第二プリプレグP2は内周側から7層目に一層のみ形成されている。また、前記厚み方向中心領域内に、第二プリプレグP2の全体(100%)が配置されている。
その他の構成は、前記第一実施形態と同一構成としている。
【0051】
本実施形態は、第二プリプレグP2が、シャフト10の先端30%領域10Aに一部も配置されていないため、振動吸収性は第一実施形態よりは劣るが、強い剪断力が加わる前記厚み方向中心領域に該第二プリプレグP2の全体が配置されているため、効果的な振動吸収性を備えることができる。また、第二プリプレグP2の第一積層体Iに対する重量比も3%であるため、シャフト強度と軽量性も維持することができる。
【0052】
図4は本発明の第三実施形態を示し、第二プリプレグP2をシャフト10のグリップ側後端部に配置している。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成する繊維強化プリプレグ24Cは、ヘッド側端部11から800mm〜1168mm(グリップ側端部12)の領域に配置され、厚みを0.0840mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Cに用いられるマトリクス樹脂組成物は、前記第一実施形態のプリプレグ24Aと同じCCI社製の「DL−26」であり、第二プリプレグP2の損失係数は0.3としている。
【0053】
本実施形態のシャフト10の総重量は60.5gとし、そのうち、前記第一積層体Iの重量を58.0g、第二プリプレグP2の重量を2.5gとし、第二プリプレグP2の重量の、第一積層体Iの重量に対する比率を約4%としている。
【0054】
第二プリプレグP2が配置されているシャフト後端部は、12層からなる第一積層体Iと1層からなる第二プリプレグP2を合わせて計13層からなり、そのうち、第二プリプレグP2は内周側から7層目に一層のみ形成されている。また、前記厚み方向中心領域に、第二プリプレグP2の全体(100%)が配置されている。その他の構成は、前記第一実施形態と同一構成としている。
【0055】
本実施形態は、第二プリプレグP2が、シャフト10の先端30%領域10Aに一部も配置されていないため、振動吸収性は第一実施形態よりは劣るが、強い剪断力が加わる前記厚み方向中心領域に該第二プリプレグP2の全体が配置されているため、効果的な振動吸収性を備えることができる。また、第二プリプレグP2の第一積層体Iに対する重量比も4%であるため、シャフト強度と軽量性も維持することができる。
【0056】
図5は本発明の第四実施形態を示し、第二プリプレグP2をシャフト全長に配置している。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成する繊維強化プリプレグ24Dは、長さをシャフト全長とし、厚みを0.0840mmとし、幅を1回巻きする幅として1層形成している。強化繊維F24は、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、引張弾性率を30t/mm2としている。
該プリプレグ24Dに用いられるマトリクス樹脂組成物は、前記実施形態のプリプレグ24A〜24Cと同じCCI社製の「DL−26」であり、第二プリプレグの損失係数は0.3としている。
【0057】
本実施形態のシャフト10の総重量は64gとし、そのうち、前記第一積層体Iの重量を58.0g、第二プリプレグP2の重量を6.0gとし、第二プリプレグP2の重量の、第一積層体Iの重量に対する比率を約10%としている。
【0058】
シャフト10の先端側は、20層からなる第一積層体Iと1層からなる第二プリプレグP2を合わせて計21層からなり、そのうち、第二プリプレグP2は内周側から10層目に一層のみ形成されている。シャフト10の後端側は、12層からなる第一積層体Iと1層からなる第二プリプレグP2の計13層からなり、そのうち、第二プリプレグP2は内周側から7層目に一層のみ形成されている。
また、第二プリプレグP2は、シャフト全長にわたって、前記厚み方向中心領域内にその全体が配置されている。
その他の構成は、前記第一実施形態と同一構成としている。
【0059】
本実施形態は、第二プリプレグP2が、先端30%領域10Aを含むシャフト全長にわたって配置されているため、優れた振動吸収性は備えることができる。また、第二プリプレグP2の第一積層体Iに対する重量比も10%であるため、シャフト強度と軽量性も維持することができる。
【0060】
(実施例)
以上のことを確認するために、本発明のゴルフクラブシャフトの実施例1〜12および比較例1〜5について詳述する。なお、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきでない。
【0061】
以下の表1、表2に示すとおり、第一積層体Iおよび第二プリプレグP2の損失係数、プリプレグ積層構成、第二プリプレグP2の挿入重量、積層数、積層位置、繊維角度、配置位置を異ならせた実施例1〜11および比較例1〜4のゴルフクラブシャフトを作製し、それぞれの順式フレックス、振動減衰率(面外一次)、3点曲げ強度を測定すると共に、振動・衝撃吸収性に関する実打評価を行い、その結果を表1に表した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
実施例1〜11および比較例1〜4のいずれも、シートワインディング製法で作成し、その製造方法は前記実施形態と同一とした。シャフト重量およびシャフト重心は表1に示すとおり設定した。シャフト全長は、いずれも1168mmとした。
【0065】
(実施例1)
前記第一実施形態と同一構成とした。
即ち、第二プリプレグP2については、損失係数を0.3とし、配置位置をヘッド側端部から400mmの領域とし、挿入重量を1.5g、第一積層体Iに対する重量比を2%とし、積層数を1層、繊維角度を90°とした。該第二プリプレグP2の積層位置は、全21層のうち内周側から10層目とし、厚み方向中心領域内に第二積層体IIの全体(100%)を配置した。
第一積層体Iは、損失係数を0.01とした。
【0066】
シャフトを構成する各繊維強化プリプレグは次の通りとした。
まず、第一プリプレグP1については、いずれも東レ社製のプリプレグを使用し、プリプレグ21には品番「3255G−12」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.1030mm)のプリプレグを、プリプレグ22、23には品番「9255G−11」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0820mm)のプリプレグを、プリプレグ25には品番「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)のプリプレグを、プリプレグ26には品番「2255F−10」(繊維種:T800、引張弾性率:30t/mm2、厚み:0.0840mm)のプリプレグを、プリプレグ27、28には品番「2255F−15」(繊維種:T800、引張弾性率:30t/mm2、厚み:0.1450mm)のプリプレグを、プリプレグ29には品番「3255G−12」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.1030mm)のプリプレグを使用した。
第二プリプレグP2、即ちプリプレグ24Aには、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)をCCI社製のマトリクス樹脂組成物(品番:DL−26)に含浸させて作製した厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。
【0067】
(実施例2)
前記第二実施形態と同一構成とした。
即ち、第二プリプレグP2については、配置位置をヘッド側端部から400mm〜800mmの領域とし、挿入重量を2.0g、第一積層体Iに対する重量比を3%とし、積層位置は、全13層のうち内周側から7層目とし、厚み方向中心領域内に第二積層体IIの全体(100%)を配置した。
その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とし、損失係数は、第一積層体Iは0.01、第二プリプレグは0.3とした。
【0068】
(実施例3)
前記第三実施形態と同一構成とした。
即ち、第二プリプレグP2については、配置位置をヘッド側端部から800mm〜1168mmの領域とし、挿入重量を2.5g、第一積層体Iに対する重量比を4%とし、積層位置は、全13層のうち内周側から7層目とし、厚み方向中心領域内に第二プリプレグP2の全体(100%)を配置した。
その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とし、損失係数は、第一積層体Iは0.01、第二プリプレグP2は0.3とした。
【0069】
(実施例4)
前記第四実施形態と同一構成とした。
即ち、第二プリプレグP2については、配置位置をシャフト全長とし、挿入重量を6.0g、第一積層体Iに対する重量比を10%とし、積層位置は、シャフト先端側では全21層のうち内周側から10層目、シャフト後端側では全13層のうち内周側から7層目とし、厚み方向中心領域内に第二プリプレグP2の全体(100%)を配置した。
その他の構成および使用したプリプレグは実施例1と同一とし、損失係数は、第一積層体Iは0.01、第二プリプレグP2は0.3とした。
【0070】
(実施例5)
図6に示す積層構成とした。即ち、プリプレグ24A、24B、24C、24Dを積層せず、ストレート層のプリプレグ25を第二プリプレグP2とした点で実施例1〜4と相違する。
詳しくは、プリプレグ25で構成される第二プリプレグP2は、繊維角度を0°とし、配置位置をヘッド側端部から367mmの領域内とし、挿入重量を4.5g、第一積層体Iに対する重量比を8%とし、積層数は3層とし、積層位置は、全20層のうち内周側から10〜12層目とし、厚み方向中心領域に第二プリプレグP2の全体(100%)を配置とした。該第二プリプレグP2の損失係数は0.3とし、第一積層体Iの損失係数は0.01とした。
プリプレグ25には、カーボン繊維(繊維種:T700、引張弾性率24t/mm2)をCCI社製のマトリクス樹脂組成物(品番:DL−26)に含浸させて作製した厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0071】
(実施例6)
図7に示す積層構成とした。即ち、プリプレグ25を第一プリプレグP1とし、プリプレグ26を第二プリプレグP2とした点で実施例5と相違する。
詳しくは、プリプレグ26で構成される第二プリプレグP2は、繊維角度を0°とし、配置位置をグリップ側端部から453mmの領域内とし、挿入重量を7.5g、第一積層体Iに対する重量比を14%とし、3周巻きして積層数は3層とし、積層位置は、全12層のうち内周側から7〜9層目とし、厚み方向中心領域には第二プリプレグP2全体の80%に当たる6g分のみを配置した。該第二プリプレグP2は損失係数は0.3、第一積層体Iの損失係数は0.01とした。
プリプレグ26はカーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)をCCI社製のマトリクス樹脂組成物(品番:DL−26)に含浸させて作製した厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0072】
(実施例7)
実施例1と同一の積層構成としたが、第二プリプレグP2の損失係数を0.1とした点で実施例1と相違する。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Aとして、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)を、CCI社製のマトリクス樹脂組成物(品番:DL−26)とエポキシ樹脂を1:2の割合で配合した樹脂組成物に含浸させて作製した、厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。
その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0073】
(実施例8)
実施例1と同一の積層構成としたが、第二プリプレグP2の損失係数を0.5とした点で実施例1と相違する。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Aとして、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)を、CCI社製のマトリクス樹脂組成物「DL−26」と「DL−27」を1:1の割合で配合した樹脂組成物に含浸させて作製した、厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0074】
(実施例9)
実施例1と同一積層構成としたが、第一積層体Iの損失係数を0.02とした点で実施例1と相違する。
詳しくは、第一積層体Iを構成する各プリプレグ21〜23、25〜29のマトリクス樹脂に、CCI社製の「DL−26」とエポキシ樹脂を1:100の割合で配合したものを使用した。各プリプレグの厚さや、各プリプレグに使用した強化繊維の繊維種および引張弾性率については実施例1と同一とした。第二プリプレグP2については実施例1と同一とした。
【0075】
(実施例10)
図8に示す積層構成とした。
即ち、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Cを、プリプレグ27とプリプレグ28との間に配置した点で実施例3と相違させた。
詳しくは、前記プリプレグ24Cで構成される第二プリプレグP2は、繊維角度を90°とし、配置位置をヘッド側端部から800mm〜1168mmの領域とし、挿入重量を3.0g、第一積層体Iに対する重量比を5%とし、積層位置を全13層のうち内周側から12層目とし、厚み方向中心領域内に第二プリプレグP2の一部も配置しなかった。該第二プリプレグP2の損失係数は0.3とした。
第一積層体Iのうち、プリプレグ22、23には東レ社製の「9255G−7」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0570mm)を使用し、プリプレグ29には東レ社製の「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)を使用した。第一積層体Iの損失係数は0.01とした。その他の構成および使用プリプレグは実施例3と同一とした。
【0076】
(実施例11)
図9に示す積層構成とし、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Cを、プリプレグ22の内周面側に貼り合わせて巻回し、プリプレグ21とプリプレグ22の間に配置した点で実施例3、10と相違させた。
前記プリプレグ24Cで構成される第二プリプレグP2は、繊維角度を90°とし、配置位置をヘッド側端部から800mm〜1168mmの領域とし、挿入重量を2.0g、第一積層体Iに対する重量比を3%とし、積層位置を全13層のうち内周側から2層目とし、厚み方向中心領域に第二プリプレグP2の一部も配置しなかった。第二プリプレグP2の損失係数は0.3とし、第一積層体Iの損失係数は0.01とした。その他の構成および使用プリプレグは実施例10と同一とした。
【0077】
(比較例1)
図10に示す積層構成とした。
即ち、第二プリプレグP2を形成せず、プリプレグ21〜23、25〜29で第一積層体Iのみを形成した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0078】
(比較例2)
図2に示す実施例1と同一の積層構成としたが、第二プリプレグP2の損失係数を0.05とした点で実施例1と相違させた。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Aとして、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)を、CCI社製のマトリクス樹脂組成物「DL−26」とエポキシ樹脂とを1:6の割合で配合した樹脂組成物に含浸させて作製した、厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。
また、プリプレグ22、23には東レ社製の「9255G−7」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0570mm)を使用し、プリプレグ29には東レ社製の「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)を使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0079】
(比較例3)
図2に示す実施例1と同一の積層構成としたが、第二プリプレグP2の損失係数を0.7とした点で実施例1と相違させた。
詳しくは、第二プリプレグP2を構成するプリプレグ24Aとして、カーボン繊維(繊維種:T800、引張弾性率30t/mm2)を、CCI社製のマトリクス樹脂組成物「DL−27」に含浸させて作製した、厚さ0.0840mmのプリプレグを使用した。
また、プリプレグ22、23には東レ社製の「9255G−7」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0570mm)を使用し、プリプレグ29には東レ社製の「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)を使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0080】
(比較例4)
図2に示す実施例1と同一の積層構成としたが、第一積層体Iの損失係数を0.05とした点で実施例1と相違させた。
詳しくは、第一積層体Iを構成する各プリプレグ21〜23、25〜29のマトリクス樹脂に、CCI社製の「DL−26」とエポキシ樹脂とを1:6の割合で配合したものを使用した。
また、プリプレグ22、23には東レ社製の「9255G−7」(繊維種:M40J、引張弾性率:40t/mm2、厚み:0.0570mm)を使用し、プリプレグ29には東レ社製の「3255G−10」(繊維種:T700、引張弾性率:24t/mm2、厚み:0.0840mm)を使用した。その他の構成および使用プリプレグは実施例1と同一とした。
【0081】
(順式フレックスの測定方法)
図11に示すように、シャフトのグリップ側端部12から75mmの位置(グリップ取付側の後端)の上点31と、グリップ側端部12から215mmの位置(上点から140mm)の下点32との上下二点を支持点として、グリップ側端部12から1039mmの位置に2.7kgの荷重を掛けたときの順式フレックスを測定した。
なお、上点31における当接治具のシャフト当接部の断面形状はR=15mmの円弧形状で、シャフトと直交する方向での断面形状はR40mmで凹んだ形状で、長さは15mmである。また、下点32における当接治具のシャフト当接部のシャフト長手方向の向きの断面形状はR=15mmの円弧形状で、シャフトと直交する方向での断面形状は中央がR40mmで凹み、長さは15mmである。2.7kg荷重位置の荷重圧子の当接部の断面形状はR=10mmの円弧形状で、シャフトと直交する方向での断面形状は直線で、長さは18mmである。
【0082】
(振動減衰率の測定方法)
図12に示すように、シャフト10のグリップ側端部12を紐50で吊り下げ、グリップ側端部12から370mmの位置に加速度ピックアップ計51を取り付け、加速度ピックアップ計51を取り付けた反対側をインパクトハンマー52で加振した。インパクトハンマー52に取り付けられたフォースピックアップ計53で計測した入力振動Fと加速度ピックアップ計51で計測した応答振動αを、アンプ54A、54Bを介して周波数解析装置55(ヒューレットパッカード社製、ダイナミックシングルアナライザー、HP3562A)に入力して解析した。解析で得た周波数領域での伝達関数を求め、シャフトの振動数を得た。下式により振動減衰率(ζ)を求め、面外一次振動減衰率とした。
ζ=(1/2)×(△ω/ωn)
To=Tn×√2
【0083】
(3点曲げ強度の測定)
3点曲げ強度とは、製品安全協会が定める破壊強度である。図13に示すように、3点でシャフト10を支え、上方から荷重Fを加え、シャフト10が破断した時の荷重値(ピーク値)を測定した。測定点は、シャフト10のヘッド側端部11から175mm(A点)、525mm(B点)、グリップ側端部12から175mm(C点)の位置とし、支持点61のスパンは、A、B、C点のいずれの測定時も300mmとした(図示はA点測定の例)。
【0084】
(衝撃エネルギーの測定)
図14に示す落下衝撃試験機(米倉製作所製)を用い、シャフト10のヘッド側端部11から150mmの位置に、1.5cmの高さから500gの錘を落下させ、その時に発生した振動波形を振動計(昭和計測器株式会社製 チャージ振動計 モデル1607)で読み取った。振動波形は初期測度からエネルギ−の損失による速度低下分を補正し、荷重対変位関数を求めると共に、エネルギー値を計算する。変位,速度、エネルギーについて、次の関係が成立する。
【数1】
【数2】
【数3】
以上の(1)(2)(3)式を初期条件E(0)=0,V(0)=0,ζ(0)=0で解き、2次形で離散化する。
【数4】
【数5】
【数6】
(5)式をV(n)2で展開し、(6)式に代入し、次式を得る。
【数7】
(4)(5)(7)式から逐次、変位、エネルギーを計算する。
それによって得られた振動波形は図15に示す通りである。衝撃エネルギーは図15中の斜線で示す最大荷重点までの面積で計算している。
【0085】
(実打評価)
実施例および比較例の各シャフトに、「SRIXON W−505 L10.5」とフェラル、グリップを装着し、ハンディキャップ20〜35のゴルファー20名が、市販の3ピースボール(SRIスポーツ製 「HI−BRID evrio」)を10球ずつ打撃し、振動吸収性について5点満点の官能評価を行い(数値が大きいほど良い)、20名分の平均を表1に示した。
【0086】
表1の結果から分かるように、第一積層体I(第一プリプレグP1)のみからなる比較例1と、比較例1の第一プリプレグP1の一部を第二プリプレグP2に変えて第二プリプレグP2を積層した実施例5、6とを比較すると、実施例5、6は、比較例1と同等の強度および順式フレックスを維持しながら、高い振動吸収性を備えることが確認できた。
また、比較例1の積層構成に第二プリプレグP2を加えた実施例1〜4も、比較例1と同等の強度および順式フレックスを維持しながら、高い振動吸収性を備えることが確認できた。
【0087】
実施例9、10と比較例4、5を比較すると、第一積層体Iの損失係数は0.005以上0.02以下が良く、0.005未満では振動吸収性が低くなりすぎ、0.02超では3点曲げ強度が低くなりすぎることが確認できた。
また、実施例7、8と比較例2、3とを比較すると、第二プリプレグP2の損失係数は0.10以上0.50以下が良く、0.10未満では振動吸収性が低くなりすぎ、0.50超では3点曲げ強度が低くなりすぎることが確認できた。
【0088】
実施例1〜3を比較すると、ヘッド側先端部に第二プリプレグP2を形成した実施例1が、シャフト中央部やグリップ側に第二プリプレグP2を形成した実施例2、3よりも、振動吸収性がより向上し、衝撃エネルギーも向上することが確認できた。
シャフト全長に第二プリプレグP2を形成した実施例4は、重量が増加したものの、さらに振動吸収性を高めることができた。
【0089】
実施例3と実施例11、12とを比較すると、第二プリプレグP2を厚さ方向中心領域に配置した実施例3が、該厚さ方向中心領域よりも内周側や外周側に第二プリプレグP2を形成した実施例11、12よりも、優れた振動吸収性が備えることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブの概略図である。
【図2】図1に示すゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図3】第二実施形態に係るゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図4】第三実施形態に係るゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図5】第四実施形態に係るゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図6】実施例5のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図7】実施例6のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図8】実施例11のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図9】実施例12のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図10】比較例1のゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構造を示す図である。
【図11】順式フレックスの測定方法を示す概略図である。
【図12】振動減衰率の測定方法を示す概略図である。
【図13】3点曲げ強度の測定方法を示す概略図である。
【図14】衝撃試験方法を示す概略図である。
【図15】衝撃エネルギーの求め方を示す図面である。
【図16】従来例を示す図である。
【図17】他の従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
10 ゴルフクラブシャフト
11 ヘッド側端部
12 グリップ側端部
21〜23、24A〜24D、25〜29 プリプレグ
P1 第一プリプレグ
P2 第二プリプレグ
I 第一積層体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維にマトリクス樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグの積層体からなり、中空部を有する管状体の繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトであって、
第一プリプレグを複数枚積層してなる第一積層体と、第二プリプレグを備え、
前記第一積層体は、温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.005以上0.02以下とし、前記第二プリプレグは温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.10以上0.50以下としていることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記第二プリプレグの重量は、前記第一プリプレグを複数枚積層した第一積層体の重量の1%以上15%以下とされている請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
繊維強化樹脂層の全肉厚100%として、該肉厚の中心位置から肉厚方向の一方側と他方側のそれぞれに20%以内の厚み範囲内に前記第二プリプレグの少なくとも一部が配置されている請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
前記第二プリプレグのマトリクス樹脂組成物は、エポキシ樹脂に双極子を有する活性剤が配合され、
前記第一プリプレグおよび第二プリプレグの強化繊維の引張弾性率は15t/mm2以上60t/mm2以下としている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
前記第二プリプレグは、エポキシ樹脂にベンゾトリアゾール基を持つ化合物およびジフェニルアクリレート基を持つ化合物から選択される1種以上の活性剤が配合された組成物かなる請求項4に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
前記第二プリプレグは、シャフトのヘッド側端部を始端とし、該ヘッド側端部からシャフト全長の30%の距離を隔てた位置を終端とする領域に配置されている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項7】
前記第二プリプレグの強化繊維のシャフト軸線に対する配向角は30°以上90°以下とされている請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項1】
強化繊維にマトリクス樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグの積層体からなり、中空部を有する管状体の繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトであって、
第一プリプレグを複数枚積層してなる第一積層体と、第二プリプレグを備え、
前記第一積層体は、温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.005以上0.02以下とし、前記第二プリプレグは温度10℃の条件下で周波数10Hzで測定された損失係数(tanδ)を0.10以上0.50以下としていることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記第二プリプレグの重量は、前記第一プリプレグを複数枚積層した第一積層体の重量の1%以上15%以下とされている請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
繊維強化樹脂層の全肉厚100%として、該肉厚の中心位置から肉厚方向の一方側と他方側のそれぞれに20%以内の厚み範囲内に前記第二プリプレグの少なくとも一部が配置されている請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項4】
前記第二プリプレグのマトリクス樹脂組成物は、エポキシ樹脂に双極子を有する活性剤が配合され、
前記第一プリプレグおよび第二プリプレグの強化繊維の引張弾性率は15t/mm2以上60t/mm2以下としている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項5】
前記第二プリプレグは、エポキシ樹脂にベンゾトリアゾール基を持つ化合物およびジフェニルアクリレート基を持つ化合物から選択される1種以上の活性剤が配合された組成物かなる請求項4に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項6】
前記第二プリプレグは、シャフトのヘッド側端部を始端とし、該ヘッド側端部からシャフト全長の30%の距離を隔てた位置を終端とする領域に配置されている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項7】
前記第二プリプレグの強化繊維のシャフト軸線に対する配向角は30°以上90°以下とされている請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のゴルフクラブシャフト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−29534(P2008−29534A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205364(P2006−205364)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】
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