説明

ゴルフクラブシャフト

【課題】軽量ゴルフクラブシャフトのヘッドスピードを上げて打球の飛距離と方向性を向上させる。
【解決手段】シャフト10の重量が30g以上60g以下であり、少なくとも強化繊維のシャフト軸線の配向角が±10°以上80°以下であるプリプレグからなるバイアス層B1と、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が0°±10°以内であるプリプレグからなるストレート層A1〜A6を備えるゴルフクラブシャフト10であって、シャフト10のグリップ端12からシャフト全長Lの15%を隔てた点Pから、シャフト10のグリップ端12からシャフト全長Lの45%を隔てた点Qまでの重点補強領域X内のみに、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が90°±10°以内の部分補強フープ層C3を少なくとも1層備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブシャフトに関し、特に、軽量なゴルフクラブシャフトのヘッドスピードを上げて、打球の飛び性能の向上を図るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、打球の飛距離向上のため、ゴルフクラブシャフトとヘッドの軽量化が進んでいる。しかしながら、ゴルフクラブヘッドについては飛び性能に対するルール規制があり、飛び性能を高める設計に限界があることから、シャフトによる飛び性能の向上が望まれている。
飛び性能を高めるには、スイング中においてシャフトがうまくインパクトで返り、ヘッドスピードが上がることが重要であり、これにより打球の飛距離が伸びるうえ、打球方向性も安定することが知られている。
【0003】
本発明者がスイングシミュレーション技術でシャフトにかかる応力を研究したところ、スイング中に撓ったシャフトがボールインパクトでタイミングよく返らない場合は、スイング時にグリップ側の断面方向に応力がかかり、該グリップ側において断面方向の潰れ変形が発生することが原因となっていることが判明した。
かつ、シャフトはヘッド側からグリップ側にかけて、外径が大きくなり肉厚が薄くなるため、グリップ側では潰し剛性が低下し、大きな応力を受けることによってシャフト断面形状が楕円変形しやすいことも判明した。
【0004】
ゴルフクラブシャフトの材料は、従来の主流であったスチールから、軽量で、比強度、比剛性の高いカーボンプリプレグ等の積層体からなる繊維強化樹脂が主流となっている。
前記繊維強化樹脂製のゴルフクラブシャフトにおいては、バイアス層、ストレート層、フープ層を併用して、シャフトに必要な剛性や強度を調整する技術が知られている。
前記バイアス層は強化繊維がシャフト軸線方向に傾斜して螺旋状に強化繊維が延在するため、主として捩り剛性/強度を高める機能を有する。
前記ストレート層は強化繊維がシャフト軸線方向に平行に延在するため、主として曲げ剛性/強度を高める機能を有する。
前記フープ層は強化繊維がシャフト軸線方向に直交する円周方向に延在するため、主として潰し剛性/強度を高める機能を有する。
前記機能を有するバイアス層、ストレート層およびフープ層の配置位置を設計事項とすることで種々の目的に合致した特性を有するゴルフクラブシャフトを設けることができる。
【0005】
例えば、特許第3257238号(特許文献1)の円筒体では、最内層と最外層とにフープ層を配置し、中間層にストレート層を配置し、前記最内層のフープ層の引張弾性率を50t/mm以上とし、中間層のストレート層の引張弾性率を60t/mm以下とし、最外層のフープ層の引張弾性率を50t/mm以下とし、これによって、曲げ特性と圧壊強さが向上するとされている。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の円筒体では、バイアス層が無いため、ねじり剛性や強度が低く、ゴルフ用のシャフトとして使用した場合には、耐久性不足や方向性が悪くなる問題を有する。また、フープ層は全長層として配置されているため、フープ層による捩り剛性向上の特性をヘッドスピード向上に関連させる技術思想や構成の開示および示唆はなされていない。
さらに、フープ層は、強化繊維が円周方向に配置されるため、該フープ層のプリプレグの巻回工程において、フープ層の端部が内層側の層と密着不良を起こしやすく、最外層にフープ層を配置すると外観不良が発生しやすく、かつ、成形最終品におけるエアー溜まり不良が発生し耐久性の低下につながりやすい等の問題がある。
【0007】
また、特開平8−131588号(特許文献2)のゴルフクラブシャフトでは、最外層に全長バイアス層を配置し、中間層に全長ストレート層を配置し、最内層に全長フープ層を配置し、捩れ剛性を高めた構成とされている。
該特許文献2のゴルフクラブシャフトは、全長ストレート層の内周に全長フープ層を配置することで、シャフトに曲げがかかった時のストレート層の剥離防止を図っており、フープ層のつぶし剛性の向上をヘッドスピート向上に繋げるものではない。
【0008】
さらに、本出願人は 特開2004−57673号(特許文献3)で、部分的フープ層をグリップ端側に配置し、グリップ端における潰し強度を維持しながら軽量化をはかるゴルフクラブシャフトを提供している。
しかしながら、シャフトのグリップ端側はプレーヤーが把持する部分であるため、スイング中は撓りが発生しにくく、該部分の潰し剛性を高めてもヘッドスピード向上効果は期待できない。このように、部分的フープ層をグリップ端側に配置しただけでは、グリップ端側の潰し強度の向上を図ることができるが、フープ層による潰し剛性の特性をヘッドスピードの向上に繋げる技術思想の開示および構成としていないため、改善の余地がある。
【0009】
【特許文献1】特許第3257238号公報
【特許文献2】特開平8−131588号公報
【特許文献3】特開2004−57673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、軽量なゴルフクラブシャフトにおいて、フープ層の潰し強度の向上をヘッドスピードの向上に繋げることができるようにし、よって、打球の飛距離および方向性の向上を図ることができるゴルフクラブシャフトを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、シャフト重量が30g以上60g以下であり、
少なくとも強化繊維のシャフト軸線の配向角が±10°以上80°以下であるプリプレグからなるバイアス層と、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が0°±10°以内であるプリプレグからなるストレート層を備えるゴルフクラブシャフトであって、
前記シャフトのグリップ端からシャフト全長の15%を隔てた点Pから、前記シャフトのグリップ端からシャフト全長の45%を隔てた点Qまでの重点補強領域内のみに、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が90°±10°以内の部分補強フープ層を少なくとも1層備えていることを特徴とするゴルフクラブシャフトを提供している。
【0012】
本発明者がスイングシミュレーション解析を行った結果、スイング時に最も応力がかかる部分が前記点P、Q間の領域(以下「重点補強領域X」という)内にあることが判明した。この結果に基づいて、前記重点補強領域X内に潰し剛性を有する部分補強フープ層を配置している。
シャフトが撓る前は断面円形であり、撓った状態で断面楕円形に変形するが、前記重点補強領域Xに部分補強フープ層を配置すると、潰し剛性が大となるため、断面楕円形から断面円形に戻ろうとする力が大きくなり、その結果、撓り戻りが大きくなる。その結果、インパクトでのヘッドの返りが早まり、ヘッドスピードも速くなり、打球の飛距離が増大すると共に、打球の方向性も向上させることができる。
【0013】
逆に、前記点Pからシャフトのグリップ端までの間は、プレーヤーが把持する部分であり、プレーヤーの手が邪魔となってスイング中は撓りが発生しにくく、該部分の潰し剛性を高めてもヘッドスピード向上効果が低い。また、前記点Qよりヘッド側は、ヘッドスピードを上げるためにある程度の撓りが必要な領域であり、該領域にフープ層を配置すると、撓りが悪くなり、却ってヘッドスピードが落ちる要因となる。
【0014】
従って、前記部分補強フープ層の配置領域は、前記重点補強領域Xを超えないようにすることが必要であり、軽量性維持とのバランスも考慮して、該配置領域のグリップ側端は、シャフトのグリップ端からシャフト全長の20%を隔てた位置、さらには25%を隔てた位置がより好ましい。該部分補強フープ層のヘッド側端は、シャフトのグリップ端からシャフト全長の40%を隔てた位置、さらには35%を隔てた位置がより好ましい。
【0015】
シャフト重量を30g以上60g以下としているのは、30g未満では強度が低下し、破損しやすいシャフトとなる。一方、60gを超えると軽量なゴルフクラブシャフトとならず、かつ、シャフトの肉厚が大きくなるため潰し剛性も大きく、フープ層で部分補強する必要性が低くなる。シャフト重量の下限は、32g以上、さらに34g以上がより好ましく、シャフト重量の上限は、58g以下、さらに56g以下がより好ましい。
【0016】
前記部分補強フープ層の強化繊維は、引張弾性率が40t/mm以上90t/mm以下の炭素繊維であることが好ましい。
これは、引張弾性率が40t/mm未満では、潰し剛性は向上するが向上の度合いが低く、ヘッドスピードを上げるまでの効果が低い。一方、90t/mmを超えると、シャフトを成型する際にフープ層を巻き付けにくく、巻き剥がれにより積層不良を生じやすいことに因る。前記引張弾性率の下限は46t/mm以上、さらに50t/mm以上がより好ましく、上限は85t/mm以下、さらに80t/mm以下がより好ましい。
【0017】
前記フープ層の強化繊維を炭素繊維としているのは、比重が小さく弾性率と強度が高いという点で好適であることに因る。なお、その他の一般に高性能強化繊維として使用される繊維、例えば、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等も用いることができる。
フープ層以外のバイアス層およびストレート層の強化繊維としても、炭素繊維が好適に用いられるが、前記他の強化繊維でもよい。
【0018】
前記部分補強フープ層に好適な炭素繊維を用いたプリプレグシートとしては、日本グラファイトファイバー社製の「YSH−60」「YSH−70」「YS−80」繊維を用いた「E6026A−07S」「E7026A−03S」「E7026B−05S」「E8026A−07S」が挙げられる。さらに、東レ社製の「M40S」「M46S」「M55J」「M50S」「M50J」「M60J」「M65J」繊維を用いた「P9053S−3」「P9053S−4」「P6053S−4」「P12056F−11」「P11255S−8」「P11255F−11」「P13056F−13」「P14056F−13」が挙げられる。
【0019】
前記部分補強フープ層、及び全長層のバイアス層、ストレート層等のプリプレグに用いられる樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられるが、強度と剛性の点より、熱硬化性樹脂が好ましく、特にエポキシ系樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、AS樹脂、メタクリル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0020】
前記部分補強フープ層は、2層より多く形成するとシャフト重量が増加してヘッドスピードがかえって低下するため、1層以上2層以下、特に1層形成することが好ましい。
なお、この部分補強フープ層のほかに、シャフト全長の潰し剛性・潰し強度を向上させて耐久性を高める目的で、別に1層以上の全長フープ層を設けてもよい。ただし、この全長フープ層も、多すぎるとシャフト重量増加を招きヘッドスピード低下の原因となるため、3層以下、さらに2層以下とすることが好ましい。
【0021】
前記部分補強フープ層の厚みは、0.02mm以上0.10mm以下が好ましい。これは、0.02mm未満では、非常に薄く、繊維含有率が低いため、潰し剛性を向上させてヘッドスピードを上げる効果が十分に得られないことによる。一方、0.10mmを超えると、該フープ層の長手方向両端の端形状がシャフト成型硬化後に表面に現れ、段差ができてしまい、応力が集中して破損しやすくなるうえ、外観上も好ましくないことに因る。部分補強フープ層の厚みの下限は、さらに0.03mm以上、特に0.04mm以上が好ましく、上限は、0.09mm以下、特に0.08mm以下が好ましい。
【0022】
前記バイアス層は、前記のように、強化繊維がシャフト軸線方向に対して傾斜して螺旋状に延在するため、主にねじり剛性・ねじり強度を高める特性を有する。
このバイアス層の層数は、2層以上8層以下とすることが好ましい。これは、2層未満では捩れ剛性・捩れ強度向上効果が十分に得られず、しかも1層の場合は捩れ剛性が非対象となり、8層より多くすると、限られたシャフト重量のなかで他のストレート層やフープ層の比率を下げざるを得ず、曲げ剛性・曲げ強度・潰し剛性・潰し強度を低下させてしまうことに因る。バイアス層の層数の上限は、さらに6層以下、特に4層以下がより好ましい。
【0023】
バイアス層の強化繊維の引張弾性率は、24t/mm以上55t/mm以下が好ましい。
これは、24t/mm未満では、トルクが増大するためにボールインパクト時にフェース面の返りが遅れ、方向性が悪くなる。一方、55t/mmを超えると、通常のスイングでも捩り強度が低下し、非常にシャフト強度が低下することに因る。バイアス層の強化繊維の引張弾性率の下限は、さらに30t/mm以上、特に35t/mm以上が好ましい。上限は50t/mm以下、特に46t/mm以下が好ましい。
【0024】
バイアス層の厚みは、0.020mm以上0.150mm以下が好ましい。
これは、0.020mm未満では、プリプレグの樹脂量が非常に少ないために芯材への巻き付け作業がうまくいかず、積層密着不良を生じて強度が低下しやすい。一方、0.150mmを超えると、厚すぎて巻き付け作業時に芯材に沿いにくく、皺等の発生によって強度が低下することに因る。バイアス層の厚みの下限は、さらに0.030mm以上、特に0.040mm以上が好ましく、上限は、さらに0.140mm以下、特に0.130mm以下が好ましい。
【0025】
前記ストレート層は、前記したように、強化繊維がシャフト軸線方向に延在するため、主に曲げ剛性・曲げ強度を高める特性を有する。
このストレート層の層数は、1層以上8層以下とすることが好ましい。これは、1層未満では曲げ剛性・曲げ強度向上効果が十分に得られないうえ、捩れ剛性・捩れ強度も低下し、8層より多くすると、プリプレグ枚数が多くなりすぎて作業性が悪く、コストもかかることに因る。ストレート層の層数の下限は、さらに2層以上がより好ましく、上限は6層以下、特に4層以下が好ましい。
【0026】
ストレート層の強化繊維の引張弾性率は、10t/mm以上40t/mm以下が好ましい。
これは、10t/mm未満では、曲げ方向に非常に軟らかく、強度も弱くなるため、3点曲げ強度が低下する一方、40t/mmを超えると、曲げ剛性は高くなるが強度が低下することに因る。ストレート層の引張弾性率の下限は、さらに15t/mm以上、特に24t/mm以上が好ましく、上限は35t/mm以下、特に30t/mm以下が好ましい。
【0027】
ストレート層の厚みは、0.020mm以上0.150mm以下が好ましい。
これは、0.020mm未満では、プリプレグの樹脂量が非常に少ないために芯材への巻き付け作業がうまくいかず、積層密着不良を生じて強度が低下しやすい。一方、0.150mmを超えると、厚すぎて巻き付け作業時に芯材に沿いにくく、皺等の発生によって強度が低下するうえ、重量が重くなってスイングしにくくなることに因る。ストレート層の厚みの下限は、さらに0.030mm以上、特に0.040mm以上が好ましく、上限は、さらに0.140mm以下、特に0.130mm以下が好ましい。
【0028】
本発明のゴルフクラブシャフトは、シャフト全長に配置する層として、全長バイアス層と、全長ストレート層と、全長フープ層とを備え、前記全長ストレート層を最外層全長層として配置し、該全長ストレート層の内周に隣接して前記部分補強フープ層を配置している構成とすることが好ましい。
【0029】
また、ゴルフクラブシャフトの長さは700mm以上1195mm以下が好ましい。これは、700mm未満では、クラブが短すぎて飛距離性能が低く、1195mmを超えると、長すぎて非常に振りにくいクラブとなることに因る。シャフト長さの下限は、さらに750mm以上、特に800mm以上が好ましく、上限は、1181mm以下、特に1168mm以下が好ましい。
【0030】
前記ゴルフクラブシャフトの単位当たり重量は、0.025g/mm以上0.050g/mm以下が好ましい。これは、0.025g/mm未満では、現存の高強度材料で作製することができないうえ、作製できたとしても使用に耐えるだけの強度を有することができず、0.050g/mmを超えると、シャフトの軽量性を維持できないことに因る。シャフトの単位当たり重量の下限は、さらに0.026g/mm以上、特に0.027g/mm以上がより好ましく、上限は、さらに0.048g/mm以下、特に0.045g/mm以下がより好ましい。
【発明の効果】
【0031】
上述のように本発明によれば、シャフトのグリップ端からシャフト全長の15%を隔てた点Pから、シャフトのグリップ端からシャフト全長の45%を隔てた点Qまでの重点補強領域X内のみに、部分補強フープ層を配置しているため、スイング中に最も応力を受けて断面変形しやすい重点補強領域Xの潰し剛性を高め、スイング時に撓ったシャフトを早く元に戻すことができるため、インパクト時のシャフトの返りが早まり、ヘッドスピードを効果的に高めることができる。これにより、シャフトの軽量性を維持しながら、打球の飛距離および方向性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に、本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフト10(以下、シャフト10と略称する)を示す。
【0033】
シャフト10は、プリプレグ21〜31の積層体からなるテーパー状の長尺な管状体よりなる。管状体の小径側のヘッド端11にはヘッド13が取り付けられ、大径側のグリップ端12にはグリップ14が取り付けられている。シャフト10の全長Lは1158mmとし、シャフト重量は46gとしている。
【0034】
上記シャフト10は、図2に示すように、前記プリプレグ21〜31を、内側からプリプレグ21〜31の順にシートワインディング製法によりマンドレル20に1周ずつ巻きつけて積層した後、ポリエチレン製やポリエチレンテレフタレート製等のテープで圧力をかけながらラッピングし、これをオーブン中で加熱加圧し樹脂を硬化させて一体的に成形し、その後、マンドレル20を引き抜いてシャフト10を製造している。シャフト表面は研磨を行った後、全長Lが1158mmとなるように両端をカットして塗装している。
【0035】
シャフト10を構成する前記プリプレグ21〜31はいずれも、炭素繊維からなる強化繊維F21〜F31を引き揃えてエポキシ樹脂で含浸している。
【0036】
詳しくは、プリプレグ22、23、26〜28、30はシャフト全長に配置する全長層であり、プリプレグ21、24、25、29、31はシャフト10の長さ方向に部分的に配置する部分層であり、そのうちプリプレグ29が重点補強領域に配置する部分補強プリプレグである。
【0037】
プリプレグ21は、ヘッド側先端部に配置し、長さを267mm、厚みを0.0830mmとし、強化繊維F21は、引張弾性率を24.5t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、部分補強ストレート層A1を形成している。
プリプレグ22、23はいずれも、シャフト全長に配置し、厚みを0.0570mmとし、強化繊維F22は、引張弾性率を40.0t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を−45°とし、強化繊維F23は、シャフト軸線に対してなす配向角を+45°としている。この2枚の繊維強化プリプレグ22、23は、互いの強化繊維F22、F23が交差するように重ねて貼りあわせた状態で巻き付けて、全長バイアスセット層B1を形成している。
プリプレグ24は、ヘッド側先端部に配置し、長さを367mm、厚みを0.0850mmとし、強化繊維F24は、引張弾性率を30.0t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、部分補強ストレート層A2を形成している。
プリプレグ25は、グリップ端部に配置し、長さを453mm、厚みを0.1057mmとし、強化繊維F25は、引張弾性率を30.0t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、部分補強ストレート層A3を形成している。
プリプレグ26は、シャフト全長に配置し、厚みを0.0341mmとし、強化繊維F26は、引張弾性率を30.0t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、全長フープ層C1を形成している。
プリプレグ27は、シャフト全長に配置し、厚みを0.1057mmとし、強化繊維F27は、引張弾性率を30.0t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、全長ストレート層A4を形成している。
プリプレグ28は、シャフト全長に配置し、厚みを0.0341mmとし、強化繊維F28は、引張弾性率を30t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、全長フープ層C2を形成している。
【0038】
プリプレグ29は、前記したように部分補強フープ層C3を形成している。
即ち、長さを100mmとし、シャフト10のグリップ端12からシャフト全長Lの25%を隔てた点P1からグリップ端12からシャフト全長Lの35%を隔てた点Q1までの重要補強領域Xに配置している。厚みを0.0400mmとし、強化繊維F29は、引張弾性率を73.5t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を90°とし、部分補強フープ層C3を形成している。
【0039】
プリプレグ30は、シャフト全長に配置し、厚みを0.1057mmとし、強化繊維F30は、引張弾性率を30.0t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、全長ストレート層A5を形成している。
プリプレグ31は、ヘッド側先端部に配置し、長さを207mm、厚みを0.0830mmとし、強化繊維F31は、引張弾性率を24.5t/mm、シャフト軸線に対してなす配向角を0°とし、部分補強ストレート層A6を形成している。
【0040】
前記構成よりなるシャフト10は、図3に示すように、スイング中に最も応力を受けやすい重点補強領域X、即ち、シャフト10のグリップ端12からシャフト10の全長Lの15%(174mm)を隔てた点Pから、シャフト10のグリップ端12からシャフト10の全長Lの45%を隔てた点Q(521mm)までの領域内に、部分補強フープ層C3を形成している。かつ、該部分補強フープ層C3は最外層全長層の全長ストレート層A5の内周側に隣接して配置している。さらに、該部分補強フープ層C3を全長フープ層C2の外周に隣接して配置し、全長層の間に狭持して配置している。
【0041】
このように、グリップ端12より全長Lの15%隔てた点Pより全長の45%隔てた点Qまでの重点補強領域Xに部分補強フープ層C3を配置しているため、スイング中に最も応力を受けて断面変形しやすい前記重点補強領域Xの潰し剛性を高めることができる。よって、ボールインパクト時に、シャフト10が断面円形から断面楕円形状に変形した後に断面楕円形から元の断面円形に戻ろうとする力が大きく作用し、撓り戻りが大きくなり、ボールインパクト時のシャフト10の返りが早まり、ヘッドスピードを効果的に上げることができる。従って、シャフト10の軽量性を維持しながら、打球の飛距離および方向性を向上させることができる。
【0042】
また、前記部分補強フープ層C3の配置領域は、前記重点補強領域Xをグリップ側にもヘッド側にも超えていないため、無駄な重量増加を抑制できるうえ、飛距離増大にとって必要なシャフトの適度な撓りも確保できる。
さらに、部分補強フープ層C3を形成するプリプレグ29の繊維引張弾性率は73.5t/mmであり、40t/mm以上90t/mm以下の範囲内であるため、ヘッドスピード向上効果を発揮できる高弾性プリプレグでありながら、巻回作業が容易で積層密着不良も防止できる。
【0043】
(実施例)
本発明のゴルフクラブシャフトの実施例1〜6および比較例1〜5について詳述する。
以下の表1に示すとおり、実施例1〜6は、前記第1実施形態における9層目のプリプレグ、即ち、8層目の全長フープ層C2と10層目の全長ストレート層A5との間に積層するプリプレグの繊維引張弾性率、厚み、繊維配向角および積層領域を異ならせて作製した。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例1〜6および比較例1〜5のいずれも、シートワインディング製法により作製し、その作製方法は前記第一実施形態と同一とした。
【0046】
また、実施例1〜6および比較例1〜5はいずれも、前記第1実施形態における8層目の全長フープ層C2と10層目の全長ストレート層A5との間に積層する部分補強フープ層C3のプリプレグについてのみ表1に記載した。その他のプリプレグ積層構成は前記実施形態と同一とした。
【0047】
具体的には、実施例1〜6および比較例1〜5はいずれも、シャフト全長Lを1158mmとし、各実施例および比較例のシャフト重量および、部分補強フープ層C3は表1に示すとおり設定した。部分補強フープ層C3以外の各層は実施例1〜6および比較例1〜5とも全て以下の通りとした。
【0048】
内側から1層目は、三菱レイヨン社製の品番「TR350C−100S」(炭素繊維品番「TR50」)を用いてヘッド側部分補強ストレート層A1を形成した。 2、3層目には三菱レイヨン社製の品番「HRX350C−075S」(炭素繊維品番「HR40」)を用いて全長バイアスセット層B1を形成した。
4層目には、三菱レイヨン社製の品番「MR350C−100S」(炭素繊維品番「MR40」)を用いてヘッド側部分補強ストレート層A2を形成した。
5層目には東レ社製の品番「P8255S−10」(炭素繊維品番「M30S」)を用いてグリップ側部分補強ストレート層A3を形成した。
6層目には東レ社製の品番「P805S−3」(炭素繊維品番「M30S」)を用いて全長フープ層C1を形成した。
7層目には東レ社製の品番「P8255S−10」(炭素繊維品番「M30S」)を用いて全長ストレート層A4を形成した。
8層目には東レ社製の品番「P805S−3」(炭素繊維品番「M30S」)を用いて全長フープ層C2を形成した。
10層目には東レ社製の品番「P8255S−10」(炭素繊維品番「M30S」)を用いて全長ストレート層A5を形成した。
11層目には三菱レイヨン社製の品番「TR350C−100S」(炭素繊維品番「TR50」)を用いてヘッド側部分補強ストレート層A6をそれぞれ形成した。
【0049】
実施例1〜6および比較例1〜5において、内周から9層目に配置する部分補強フープ層C3は下記の通りとした。
【0050】
(実施例1)
繊維配向角が90°のプリプレグをシャフト10のグリップ端12からシャフト全長Lの25%を隔てた点P1から35%隔てた点Q1までの領域に巻き付け、部分補強フープ層C3を形成した。また、この9層目のプリプレグに、繊維引張弾性率が73.5t/mm、厚みが0.04mmの日本グラファイトファイバー社製の品番「E7026A−03S」(炭素繊維品番「YSH−70」)を用いた。
(実施例2)
内側から9層目に、前記点P1〜点Q1の領域に繊維配向角90°の部分補強フープ層C3を形成した点は実施例1と同じであるが、この9層目のプリプレグに、引張弾性率が
80.1t/mm、厚みが0.07mmの日本グラファイトファイバー社製の品番「E8026A−07S」(炭素繊維品番「YS−80」)を使用した点で実施例1と相違させた。
(実施例3)
図4に示すように、部分補強フープ層C3の配置領域を、シャフト10のグリップ端12からシャフト全長Lの25%隔てた点P1から、該グリップ端12からシャフト全長Lの30%を隔てた点Q2までの領域としたが、その他の点は実施例1と同一とした。
(実施例4)
内側から9層目に、前記点P1〜点Q1の領域に繊維配向角90°の部分補強フープ層C3を形成した点は実施例1と同じであるが、この9層目のプリプレグに、引張弾性率が44.5t/mm、厚みが0.0227mmの東レ社製の品番「P6053S−3」(炭素繊維品番「M46S」)を使用した点で実施例1と相違させた。
(実施例5)
内側から9層目に、前記点P1〜点Q1の領域に繊維配向角90°の部分補強フープ層C3を形成した点は実施例1と同じであるが、この9層目のプリプレグに、引張弾性率が73.5t/mm、厚みが0.11mmの日本グラファイトファイバー社製の品番「NU71500−525S」(炭素繊維品番「YSH−70」)を使用した点で実施例1と相違させた。
(実施例6)
内側から9層目に、前記点P1〜点Q1の領域に繊維配向角90°の部分補強フープ層C3を形成した点は実施例1と同じであるが、この9層目のプリプレグに、引張弾性率が30t/mm、厚みが0.058mmの三菱レイヨン社製の品番「MR350J−050S」(炭素繊維品番「MR40」)を使用した点で実施例1と相違させた。
【0051】
(比較例1)
図5に示すように、内側から9層目に、繊維角度が90°のプリプレグをシャフト全長に配置して全長フープ層C4を形成した。その他の点は実施例1と同一とした。
(比較例2)
図6に示すように、実施例1の8層目の全長フープ層C2と10層目の全長ストレート層A5の間に、繊維角度が±45°の2枚のプリプレグを互いの繊維方向が交差するように重ねて貼り合わせた状態で巻き付けて全長バイアスセット層B2を形成した。このバイアスセット層B2を形成するプリプレグには、引張弾性率が73.5t/mm、厚みが0.04mmの日本グラファイトファイバー社製の品番「E7026A−03S」(炭素繊維品番「YSH−70」)を使用した。その他の構成は実施例1と同一とした。
(比較例3)
図7に示すように、実施例1の8層目の全長フープ層C2と10層目の全長ストレート層A5との間に何も積層しなかった。
(比較例4)
図8に示すように、部分補強フープ層C3をグリップ側後端部、即ち、シャフト10のグリップ端12からシャフト全長Lの0%隔てた点P2から、該グリップ端12からシャフト全長Lの10%隔てた点Q3までの領域に配置した。その他の点は実施例1と同一とした。
(比較例5)
図9に示すように、部分補強フープ層C3をヘッド側先端部、即ち、シャフト10のグリップ端12からシャフト全長Lの90%隔てた点P3から、該グリップ端12からシャフト全長Lの100%隔てた点Q4までの領域に配置した。その他の点は実施例1と同一とした。
【0052】
実施例1〜6、比較例1〜5のゴルフクラブシャフトに同一のヘッド、具体的にはSRIスポーツ(株)製 XXIOドライバー(ロフト角11°SLE適合モデル)に、フェラル、グリップを装着し、実打時のヘッドスピードおよび飛距離を測定した。その結果を表1に示した。
この実打テストは、ハンディキャップ20以上35以下のプレーヤー20名が、市販の3ピースボール(SRIスポーツ製「HI−BRID evrio」)からなるゴルフボールを前記シャフトを用いて、10球ずつ打球した。
【0053】
(ヘッドスピードの測定方法)
インパクト前の直前1000μs、3000μsでのヘッド位置を計測することでヘッドスピード(H/S)を計測した。
【0054】
(飛距離の測定方法)
目標と打撃点を結んだ直線からボールの停止位置までの最短距離を実測し、20名分の全打球の平均飛距離を表1に示した。
【0055】
表1から確認できるように、実施例1〜6は比較例1〜5に比して、ヘッドスピードも飛距離も好結果となった。これは、実施例1〜6は重点補強領域X内のみにフープ層を配置したことによって、スイング中における該領域Xの断面変形が抑制され、シャフトの返りが早くなったためと考えられる。
【0056】
比較例1では、9層目に全長フープ層C4を配置したため、飛距離が伸びず、ヘッドスピードも低かった。これは、9層目のフープ層を重点補強領域Xを超えて配置したことによって、飛距離増大に必要なシャフトの適度な撓りまでが抑制されてしまったためと考えられる。
比較例2では、9層目に全長バイアスセット層B2を配置したため、実施例1〜6の結果を比較すると、バイアス層よりもフープ層の方が、シャフトの返りを早くすることに効果的であることが分かった。
比較例4、5では、9層目のフープ層を重点補強領域X外に配置したため、実施例1、3の結果と比較すると、重点補強領域X内にフープ層を配置することがシャフトの返りを早めるために効果的であることが分かった。
【0057】
実施例1〜4、6を比較すると、9層目のフープ層の繊維引張弾性率が高いほうが飛距離およびヘッドスピード向上に効果的であることが分かった。
また、実施例1と実施例5を比較すると、9層目のフープ層を厚くしすぎると、飛距離およびヘッドスピード向上効果が低減することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフトの概略図である。
【図2】図1に示すゴルフクラブシャフトの繊維強化プリプレグの積層構成を示す図である。
【図3】図1に示すゴルフクラブシャフトの平面図である。
【図4】実施例3のシャフトの積層構成を示す図である。
【図5】比較例1のシャフトの積層構成を示す図である。
【図6】比較例2のシャフトの積層構成を示す図である。
【図7】比較例3のシャフトの積層構成を示す図である。
【図8】比較例4のシャフトの積層構成を示す図である。
【図9】比較例5のシャフトの積層構成を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
10 シャフト
12 グリップ端
21〜31 プリプレグ
A1〜A6 ストレート層
B1 バイアス(セット)層
C3 部分補強フープ層
L シャフト全長
X 重点補強領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト重量が30g以上60g以下であり、
少なくとも強化繊維のシャフト軸線の配向角が±10°以上80°以下であるプリプレグからなるバイアス層と、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が0°±10°以内であるプリプレグからなるストレート層を備えるゴルフクラブシャフトであって、
前記シャフトのグリップ端からシャフト全長の15%を隔てた点Pから、前記シャフトのグリップ端からシャフト全長の45%を隔てた点Qまでの重点補強領域内のみに、強化繊維のシャフト軸線に対する配向角が90°±10°以内の部分補強フープ層を少なくとも1層備えていることを特徴とするゴルフクラブシャフト。
【請求項2】
前記部分補強フープ層の強化繊維は、引張弾性率が40t/mm以上90t/mm以下の炭素繊維である請求項1に記載のゴルフクラブシャフト。
【請求項3】
前記シャフト全長に配置する層として、全長バイアス層と、全長ストレート層と、全長フープ層とを備え、前記全長ストレート層を最外層全長層として配置し、該全長ストレート層の内周に隣接して前記部分補強フープ層を配置している請求項1または請求項2に記載のゴルフクラブシャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−22622(P2009−22622A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190431(P2007−190431)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(504017809)SRIスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】