説明

ゴルフクラブヘッド

【課題】部材間の境界における蒸着不良を抑制しうるゴルフクラブヘッドの提供。
【解決手段】このヘッド2は、第1部材としてのヘッド本体h1と、第2部材としてのフェースプレートp1とを備えている。ヘッド表面に、上記第1部材と上記第2部材との境界k1が存在する。上記ヘッド表面の、上記境界k1を含む領域に、蒸着層が形成されている。蒸着工程における温度Tpは、150℃以下である。好ましくは、上記蒸着はPVDである。好ましくは、上記第1部材と上記第2部材とが接着剤によって接着されている。好ましくは、上記蒸着層が表面層と下層とを有する。好ましくは、露出している上記蒸着層がTiC層である。好ましくは、上記蒸着層の総厚みTtは、0.5μm以上3.0μm以下である。このヘッド2では、境界k1近傍における外観不良部faの発生が効果的に抑制されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブヘッドには、表面処理が施されることがある。典型的な表面処理は、塗装及びメッキである。
【0003】
特開2001−327636号公報は、気相コーティングによって形成されたコーティング層により被覆されたゴルフクラブヘッドを開示する。この公報では、チタン合金製のフェース板を有するアイアンヘッドが開示されている。気相コーティングとして、PVD(物理的蒸着法)、CVD(化学的蒸着法)及び拡散法が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−327636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献で記載されているヘッドでは、フェース板とヘッド本体との境界が存在する。部材間の境界を有するヘッドに蒸着を行うと、この境界付近において不良が発生することが判明した。
【0006】
本発明の目的は、部材間の境界における蒸着不良を抑制しうるゴルフクラブヘッドの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のゴルフクラブヘッドは、第1部材と第2部材とを備えている。ヘッド表面に、上記第1部材と上記第2部材との境界が存在している。上記ヘッド表面の、上記境界を含む領域に、蒸着層が形成されている。蒸着工程における温度Tpが、150℃以下である。
【0008】
好ましくは、上記蒸着はPVDである。
【0009】
好ましくは、上記第1部材と上記第2部材とが接着剤によって接着されている。
【0010】
好ましくは、上記蒸着層は表面層と下層とを有する。
【0011】
好ましくは、露出している上記蒸着層はTiC層である。
【0012】
好ましくは、上記蒸着層の総厚みTtは、0.5μm以上3.0μm以下である。
【発明の効果】
【0013】
部材間の境界における蒸着不良が抑制されうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態のゴルフクラブヘッドの斜視図である。
【図2】図2は、図1のヘッドの正面図である。
【図3】図3は、図2のF3−F3線に沿った断面図である。
【図4】図4は、フェース表面における拡大断面図である。
【図5】図5は、図2の円F5における拡大図である。
【図6】図6は、第二実施形態に係るヘッドのフェース表面における拡大断面図である。
【図7】図7は、第三実施形態に係るヘッドのフェース表面における拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0016】
図1は、本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブヘッド2の斜視図である。図2はヘッド2の正面図である。図3は、図2のF3−F3線に沿った断面図である。ヘッド2は、アイアン型のゴルフクラブヘッドである。ヘッド2は、フェース4、ホーゼル6及びソール8を有する。ホーゼル6は、ホーゼル孔10を有する。フェース4の表面には、フェース溝gvが設けられている。なお図3では、フェース溝gvの記載が省略されている。
【0017】
フェース4の中央部には、ショットブラスト処理が施されている。全てのフェース溝gvは、ショットブラスト処理が施された領域Rsに位置する。フェース4のトウ側及びヒール側には、ショットブラスト処理が施されていない領域Rnが存在する。符号b1は、領域Rsと領域Rnとの境界線である。
【0018】
ヘッド2は、第1部材としてのヘッド本体h1と、第2部材としてのフェースプレートp1とを有する。ヘッド本体h1(第1部材)は、金属である。ヘッド本体h1の材質は、ステンレス鋼である。フェースプレートp1(第2部材)は、金属である。フェースプレートp1の材質は、チタン合金である。ヘッド2は、キャビティバックアイアンである。ヘッド2の形状は限定されない。
【0019】
ヘッド本体h1はフェース開口を有する。このフェース開口の輪郭は、フェースプレートp1の輪郭に略等しい。このフェース開口に、フェースプレートp1が嵌め込まれている(図3参照)。フェースプレートp1は、フェース4の大半を構成している。全てのフェース溝gvは、フェースプレートp1に設けられている。図2には、フェースプレートp1とヘッド本体h1との境界k1が図示されている。この境界k1は、実際のヘッドでは、ほとんど目立たない。このため図1では、境界k1の記載が省略されている。
【0020】
フェース4において、フェースプレートp1とヘッド本体h1とは、同一の平面PL1を構成している。この平面PL1がフェース面である。境界k1は、この平面PL1に位置している。
【0021】
フェース4には、表面処理が施されている。フェース4の全体に表面処理が施されている。この表面処理は、蒸着である。本実施形態では、この蒸着として、PVDが採用されている。
【0022】
本実施形態では、ショットブラスト処理は、蒸着処理の後になされている。ショットブラスト処理の後に蒸着処理がなされてもよい。
【0023】
フェース溝gvは、切削加工によって形成されている。具体的には、フェース溝gvは、カッターによって加工されている。この加工は、NC加工である。NCとは、数値制御(Numerical Control)を意味する。フェース溝gvが形成された後に、蒸着処理がなされている。よってフェース溝gvの表面(フェース溝gvの底面を含む)にも、蒸着処理が施されている。
【0024】
図2が示すように、フェースプレートp1のヒール側の端は、境界線b1に略沿っている。一方、フェースプレートp1のトウ側の端は、ヘッド2の輪郭線に略沿っている。フェースプレートp1は、領域Rsと領域Rnとを有する。フェースプレートp1のトウ側の部分は、領域Rnである。フェースプレートp1は、境界線b1を有する。
【0025】
フェース4の表面は平面である。この平面部分の全体に蒸着がなされている。蒸着が施されている領域は、境界k1を含む。
【0026】
なお、蒸着として、PVD(物理的蒸着法)及びCVD(化学的蒸着法)が例示される。PVDとして、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、イオンビーム蒸着及びイオン注入蒸着が例示される。CVDとして、プラズマCVD、レーザ励起CVD、光励起CVD等が挙げられる。化学反応が行われるチャンバー内の圧力の観点からは、常圧CVD及び減圧CVDが例示される。公知の設備によって蒸着が実施されうる。
【0027】
蒸着される物質として、例えば、TiC、TiN、TiAlN、TiCN、CrN、Zr、ZrN、SiC、Al、BN、SiO、TiO、ZrO、MgF等が挙げられる。DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が用いられても良い。これらは、蒸着される物質として公知である。
【0028】
図4は、ヘッド2の表面付近の断面図である。フェース4の表面には、表面層Lsが形成されている。この表面層Lsが蒸着層である。この表面層Lsが、PVDにより形成されている。表面層Lsは、露出している蒸着層である。
【0029】
本実施形態では、TiC(炭化チタン)が用いられている。即ち、表面層Lsは、TiC層である。このTiCは、黒色を呈する。
【0030】
図5は、図2においてF5で示された円内の拡大図である。図5において2点鎖線で示されるのは、外観不良部faである。本発明を適用しないヘッドについて、外観不良部faが観察された。外観不良部faは、周囲の部分と比較して、視認可能な色差を形成していた。この外観不良部faは、視覚によって認識可能であった。この外観不良部faは、製品価値を低下させる。外観不良部faが生じた場合、蒸着処理をやり直す(改修する)必要が生じる。なお、本実施形態では、この外観不良部faはほとんど発生しない。またこの外観不良部faが発生した場合でも、改修(やり直し)が可能である。
【0031】
この外観不良部faを解消するため、多数のテストがなされた。結果として、蒸着工程における条件により、外観不良部faの発生率が変化しうることが判明した。特に、蒸着工程における温度Tpが、外観不良部faの抑制に寄与することが判明した。
【0032】
外観不良部faを抑制する観点から、温度Tpは、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がより好ましく、120℃以下が更に好ましい。温度Tpが低すぎると、蒸着が困難となったり、密着性が低下したりする場合がある。この観点から、温度Tpは、90℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。複数の蒸着層がある場合、全ての蒸着工程において、温度Tpが、これらの好ましい温度範囲を満たすのがよい。
【0033】
ヘッドへのPVC処理において、これまで、処理温度Tpは、通常の温度、即ち、300℃程度とされていた。フェースとボディーとが一体構造のヘッドでは、この処理温度で問題は生じなかった。しかし複数部材の境界が存在する場合、外観不良の問題が生ずることが分かった。温度Tpを低くすることで、外観不良部faが減少するという結果が得られた。
【0034】
外観不良部faが発生する原因の詳細は不明であるが、後述される実施例の結果を分析することで、この発生原因が推測されうる。この推測されうる原因の一つは、境界k1に、蒸着を阻害する物質(以下、阻害物質Ptともいう)が存在することである。この阻害物質Ptとして、接着剤、切削油及びパテが例示される。この接着剤は、フェースプレートp1とヘッド本体h1との接合に用いられている。切削油は、フェース溝gvを切削加工する際に用いられる。パテは、切削油が境界k1に入り込むのを防止するために用いられうる。これらの阻害物質Ptが残留していたため、蒸着に不具合が生じたと考えられる。また、特に接着剤は、高温になると流れやすい。このため、高温での処理中に、接着剤の流出が生じた可能性がある。
【0035】
なお、パテとは、肉盛り用の材料であり、凹み、割れ、穴等を埋めるために用いられる。このパテとして、エポキシパテ、ポリエステルパテ、石膏パテ及び炭酸カルシウムパテが例示される。
【0036】
上記接着剤は限定されない。この接着剤として、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤等が例示される。接合強度の観点からは、エポキシ系接着剤が好ましい。耐熱性の観点からは、ウレタン系接着剤が好ましい。後述されるように、蒸着工程における温度Tpが低くされると、熱による接着剤の変質が抑制される。よって、温度Tpが低い場合、比較的耐熱性が弱い接着剤であっても用いることができる。この観点から、耐熱性は高くないものの接着力に優れたエポキシ系接着剤が、好ましく用いられ得る。温度Tpが低い場合、接着剤の選択自由度が向上する。温度Tpが低い場合、接着剤が変質しにくく、接着性が維持される。よってフェースプレートp1の固定が確実である。
【0037】
ヘッド2では、蒸着層が1層である。蒸着層は、1層であってもよいし、2層であってもよいし、3層以上であってもよい。以下では、蒸着層が2層である例が説明される。
【0038】
図6は、第二実施形態に係るヘッド20におけるフェース22の拡大断面図である。蒸着層が2層である他は、このヘッド20は、第一実施形態のヘッド2と同じである。
【0039】
ヘッド20では、蒸着層が複数である。ヘッド20では、蒸着層が2層である。表面層Ls及び第二層Lgは、蒸着層である。表面層Ls及び第二層Lgは、PVDにより形成されている。表面層Lsは、TiC層である。第二層は、CrN(窒化クロム)層である。
【0040】
第二層Lgは、下層の一例である。下層は、表面層Lsよりも内側の層である。下層は、1層であってもよいし、2層以上であってもよい。下層(第二層Lg)は、素材(金属素材)に接している。この素材は、フェースプレートp1又はヘッド本体h1である。
【0041】
前述の通り、TiC層は黒色を呈する。よってヘッド20のフェース22は、前述したヘッド2と同様に、黒色を呈する。摩耗によってTiC層が剥がれた場合、CrN層が露出する。このCrN層は、光沢のある金属色を呈する。
【0042】
このCrN層が、外観性の維持に効果的であることが判明した。ヘッド2の場合、TiC層が剥がれると、ヘッド本体h1又はフェースプレートp1の金属素材が露出する。金属素材が露出した場合、外観性が低下しやすいことが判明した。バンカー等での使用に起因してTiC層が剥がれた場合、この剥がれの跡は、多数の傷のように見える。この傷のような跡は、外観性を損ねる。この跡は、使用者に、表面処理が剥がれたとの否定的な印象を与える。TiC層は黒色であり、この黒色が失われた部分は目立つ。
【0043】
CrN層が存在する場合、剥がれの跡が目立たなくなることが判明した。この理由の詳細は不明である。推測される理由は、CrN層が存在する場合、金属素材が露出した場合と比較して、露出部の表面の平滑度が高くなることである。平滑度が高い場合、表面の外観が向上し、剥がれの跡が目立たなくなると考えられる。又は、平滑度が高い場合、表面処理が剥がれたとの否定的な印象が生じにくい。
【0044】
図7は、第三実施形態に係るヘッド30におけるフェース32の拡大断面図である。蒸着層が2層である他は、このヘッド30は、第一実施形態のヘッド2と同じである。
【0045】
ヘッド30では、蒸着層が複数である。ヘッド30では、蒸着層が2層である。表面層Ls及び第二層Lgは、蒸着層である。表面層Ls及び第二層Lgは、PVDにより形成されている。表面層Lsは、TiC層である。第二層は、Zr(ジルコニウム)層である。
【0046】
前述の通り、TiC層は黒色を呈する。よってヘッド30のフェース32は、前述したヘッド2と同様に、黒色を呈する。摩耗によってTiC層が剥がれた場合、Zr層が露出する。このZr層は、光沢のある金属色を呈する。
【0047】
このZr層が、外観性の維持に効果的であることが判明した。ヘッド2の場合、TiC層が剥がれると、ヘッド本体h1又はフェースプレートp1の金属素材が露出する。金属素材が露出した場合、外観性が低下しやすいことが判明した。バンカー等での使用に起因してTiC層が剥がれた場合、この剥がれの跡は、多数の傷のように見える。この剥がれの跡は、外観性を損ねる。この剥がれの跡は、使用者に、表面処理が剥がれたとの否定的な印象を与える。TiC層は黒色であり、この黒色が失われた部分は目立つ。
【0048】
Zr層が存在する場合、剥がれの跡が目立たなくなることが判明した。この理由の詳細は不明である。推測される理由は、Zr層が存在する場合、金属素材が露出した場合と比較して、露出部の表面の平滑度が高くなることである。平滑度が高い場合、表面の外観が向上し、剥がれの跡が目立たなくなると考えられる。
【0049】
ヘッド20及びヘッド30が示すように、表面層の下に第二の蒸着層が存在することで、表面層が剥がれた場合の外観性が向上することが判明した。なお、金属素材(ステンレス鋼、チタン合金等)の色は、上記第二層の色と似ている。よって、表面層が剥がれた場合の外観は、第二層の有無によって変化しないと思われた。しかし実際には、第二層の存在が、表面層の摩耗時における外観性を向上させることが判明した。これは、当業者にとって意外であった。
【0050】
後述の実施例が示すように、ヘッド2、ヘッド20及びヘッド30において、蒸着工程の改修が行われた。その結果、ヘッド2及びヘッド20では、蒸着工程の改修の成功率Srが低いことが判明した。これに対してヘッド30では、成功率Srが高いことが判明した。
【0051】
蒸着工程の改修では、先ず、剥離工程がなされる。この剥離工程では、剥離剤が用いられる。好ましい剥離剤として、H(過酸化水素)が挙げられる。次に、再蒸着工程がなされる。再蒸着工程は、当初の蒸着工程と同じである。なお後述されるように、HによってCrNを完全に剥離することは難しいと推定される。
【0052】
ヘッド30において上記成功率Srが高い理由が検討された。上記剥離剤によって蒸着層が剥がれやすい場合、上記成功率Srが高いと考えられる。上記剥離剤によって蒸着層が剥がれにくい場合、上記成功率Srが低いと考えられる。剥離工程において蒸着が残存した場合、この残存した蒸着層が再蒸着の不良を生じさせると推測される。
【0053】
成功率Srを高める観点から、表面層Lsよりも下側の蒸着層は、表面層に比較して、剥離剤による剥離性が高いのが好ましい。剥離剤として、過酸化水素及び水酸化ナトリウムが挙げられ、好ましくは過酸化水素である。水酸化ナトリウム(NaOH)も試したが、フェース素材の腐食が発生した。
【0054】
耐久性の観点から、蒸着層の総厚みTtは、0.5μm以上が好ましく1.0μm以上がより好ましい。厚みTtが過大である場合、剥離が起こりやすい。剥離の抑制及び改修の容易性の観点から、蒸着層の総厚みTtは、3.0μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましい。
【0055】
耐久性の観点から、TiC層の厚みは、0.3μm以上が好ましく、0.8μm以上がより好ましい。剥離の抑制及び改修の容易性の観点から、TiC層の厚みは、2.6μm以下が好ましく、2.1μm以下がより好ましい。
【0056】
表面層の剥離を目立たなくする観点から、下層の厚みT2は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。剥離の抑制及び改修の容易性の観点から、下層の厚みT2は、0.5μm以下が好ましく、0.4μm以下がより好ましい。なお下層とは、蒸着層のうち、表面層を除く部分を意味する。
【0057】
蒸着工程に要する時間Tmは、蒸着層の厚みが適切となるように設定されうる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0059】
テストA、B及びCが実施された。テストAでは、蒸着層がTiCのみとされた。テストBでは、蒸着層がTiC(第一層)及びCrN(第二層)とされた。テストCでは、蒸着層がTiC(第一層)及びZr(第二層)とされた。テストAの結果は、下記の表1及び表2に示される。テストBの結果は、下記の表3に示される。テストCの結果は、下記の表4に示される。
【0060】
[テストA]
【0061】
[実施例1a]
前述したヘッド2と同じヘッドが作製された。フェースプレートp1のフェース溝gvは、切削加工(NC加工)によりに形成された。このNC加工の際に切削油が用いられた。フェースプレートp1は、ヘッド本体h1の開口に圧入された。フェースプレートp1の固定では、圧入による嵌合と接着剤とが併用された。フェースプレートp1は、接着剤によって、ヘッド本体h1に接合された。この接着剤として、住友スリーエム社製の商品名「EW2010」が用いられた。蒸着工程の前に、フェース面が洗浄された。この洗浄には、有機溶剤が用いられた。この洗浄は、具体的には、拭き取り工程とされた。この拭き取り工程では、有機溶剤を含ませた布により、フェース面の拭き取りが実施された。この洗浄の後に、蒸着工程がなされた。蒸着の種類は、PVDとされた。PVD処理は、真空条件等、公知の条件により実施された。蒸着層は、TiCとされた。蒸着工程において、処理温度Tpは150℃とされた。蒸着に要した時間Tmは80分とされた。実施例1aの仕様及び評価結果が下記の表1に示される。
【0062】
[実施例2aから14a]
表1に示される仕様の他は実施例1aと同様にして、実施例2aから14aのヘッドを得た。これらの仕様及び評価結果が下記の表1に示される。なお、実施例8aでは、上記洗浄において、溶剤に代えて水が用いられた。また、実施例9aでは、上記接着剤が用いられなかった。
【0063】
[比較例1aから5a]
表2に示される仕様の他は実施例1aと同様にして、比較例1aから5aのヘッドを得た。これらの仕様及び評価結果が下記の表2に示される。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
[テストB]
【0067】
[実施例1b]
前述したヘッド20と同じヘッドが作製された。下層(第二層)としてCrNが形成され、各層の仕様が表3に示される通りとされた他は実施例1aと同様にして、実施例1bのヘッドを得た。実施例1bの仕様及び評価結果が下記の表3に示される。
【0068】
[実施例2bから10b及び比較例1bから4b]
表3に示される仕様の他は実施例1bと同様にして、実施例2bから10b及び比較例1bから4bのヘッドを得た。これらの仕様及び評価結果が下記の表3に示される。
【0069】
【表3】

【0070】
[テストC]
【0071】
[実施例1c]
前述したヘッド30と同じヘッドが作製された。下層(第二層)としてZrが形成され、各層の仕様が表4に示される通りとされた他は実施例1aと同様にして、実施例1cのヘッドを得た。実施例1cの仕様及び評価結果が下記の表4に示される。
【0072】
[実施例2cから9c及び比較例1cから4c]
表4に示される仕様の他は実施例1cと同様にして、実施例2cから9c及び比較例1cから4cのヘッドを得た。これらの仕様及び評価結果が下記の表4に示される。
【0073】
【表4】

【0074】
評価方法は次の通りである。
【0075】
[外観不良率]
各ヘッドがそれぞれ10個ずつ作製された。目視により、境界k1付近の外観不良部faを確認した。外観不良部faが視認されたヘッドが不良とされた。外観不良率は以下の基準で5段階評価された。
A:不良率が20%以下
B:不良率が20%を超えて40%以下
C:不良率が40%を超えて60%以下
D:不良率が60%を超えて80%以下
E:不良率が80%を超える
【0076】
[改修評価]
全てのヘッドについて、蒸着工程の改修(やり直し)がなされた。剥離工程及び再蒸着工程が実施された。剥離工程では、剥離剤として過酸化水素水が用いられた。次に、そのヘッドに実施されていた元の蒸着工程と同様にして、再蒸着工程がなされた。その後、目視により、外観不良が確認された。以下の基準で3段階評価された。
A:不良率が10%以下
B:不良率が10%を超えて50%以下
C:不良率が50%を超える
【0077】
[バンカー耐久テスト]
各例のヘッドのそれぞれに、シャフト及びグリップが装着され、ゴルフクラブが作製された。バンカーショットを40回行い、ソールの状態を画像処理(2値化)により定量的に評価した。以下の基準で3段階評価された。
A:TiC(黒色)の剥離及びソールの傷がそれほど目立たない
B:TiC(黒色)の剥離及びソールの傷がやや目立つ
C:TiC(黒色)の剥離及びソールの傷が目立つ
【0078】
表1から表4の評価結果は、以下の如く分析される。
【0079】
[テストA]
実施例1aから14aでは、外観不良率が低い。これは、蒸着工程における温度Tpが低いからであると考えられる。温度Tpがより低い実施例4aから6aでは、外観不良率がより低下している。これらの結果は、接着剤が阻害物質Ptとして作用してことを示唆している。
【0080】
実施例8aでは、洗浄工程において、溶剤ではなく水が用いられている。実施例8aの外観不良率は、実施例5aよりもやや悪化している。このことから、阻害物質Ptの残留が、外観不良部faが発生する一因であることが推定される。
【0081】
実施例9aでは、接着剤が用いられておらず、外観不良率は低い。実施例10aでは、時間Tm(T1)が長くされ、厚みTtが厚くされている。
【0082】
実施例1aから13aでは、改修評価が良好であった。剥離剤によってTiCがほぼ完全に除去されたためと考えられる。実施例14aでは、厚みTtが厚いため、改修評価が劣っていた。
【0083】
比較例1aから3a及び5aでは、外観不良率が悪化している。これは、温度Tpが高いためであると考えられる。この結果は、接着剤が阻害物質Ptとして作用していることを示唆している。
【0084】
比較例4aは、外観不良率が比較的良好である。比較例4aでは接着剤が用いられていない。この結果は、接着剤が阻害物質Ptとして作用していることを示唆している。
【0085】
実施例1aから13aでは、バンカー耐久テストが良好ではない。これは、金属素材(ヘッド本体h1)が露出することにより外観性が低下しているためであると考えられる。実施例14aでは、厚みTtが厚すぎるためバンカー耐久テストが悪化した。
【0086】
[テストB]
実施例1bから10b(5bを除く)では、外観不良率が良好である。これは、温度Tpが低いからであると考えられる。この結果は、接着剤が阻害物質Ptとして作用してことを示唆している。
【0087】
実施例5bでは、洗浄工程において水が用いられている。実施例5bの外観不良率は、実施例2bよりも悪化している。このことから、阻害物質Ptの残留が外観不良部faが発生する一因であることが推定される。
【0088】
実施例1bから10bでは、改修評価が良好ではない。これは、剥離剤によってCrNは完全に除去されず、残留したCrNにより再蒸着が不均一になるためであると考えられる。
【0089】
比較例1bから4bでは、外観不良率が悪化している。これは、温度Tpのいずれかが高いためであると考えられる。この結果は、接着剤が阻害物質Ptとして作用していることを示唆している。
【0090】
実施例1bから6bでは、バンカー耐久テストが良好である。これは、下地としてのCrNが外観性を向上させているためであると考えられる。
【0091】
実施例7bでは、蒸着層の総厚みTtが薄い。このため、バンカー耐久テストでTiC及びCrNが剥離し、金属素材(ヘッド本体h1)が露出していた。
【0092】
[テストC]
実施例1cから9c(5cを除く)では、外観不良率が良好である。これは、温度Tpが低いからであると考えられる。この結果は、接着剤が阻害物質Ptとして作用してことを示唆している。
【0093】
実施例5cでは、洗浄工程において水が用いられている。実施例5cの外観不良率は、実施例1cよりも悪化している。このことから、阻害物質Ptの残留が、外観不良部faが発生する一因であることが推定される。
【0094】
実施例1cから9c(8cを除く)では、改修評価が良好である。これは、Zrは剥離剤によって除去されやすいためであると考えられる。実施例8cでは、厚みTtが厚すぎるため、改修評価が悪化した。
【0095】
実施例4cでは、バンカー耐久テストの結果が良好ではない。Zr層の厚さT2が大きい場合、表面層Ls(TiC層)と第二層Lg(Zr層)との硬度差が大きい。また、ヘッド素材と第二層Lgとの硬度差が大きい。また、第二層Lg(Zr層)の内部においては、歪みが生じやすいと考えられる。これらの硬度差及び歪みに基づき割れが生じやすいと考えられる。この観点から、Zr層の厚みは0.4μm以下が好ましい。
【0096】
比較例1cから4cでは、外観不良率が悪化している。これは、温度Tpのいずれかが高いためであると考えられる。この結果は、接着剤が阻害物質Ptとして作用していることを示唆している。複数の蒸着層がある場合、全ての蒸着工程において、温度Tpが低いのが好ましい。
【0097】
実施例1cから9c(4c及び8cを除く)では、バンカー耐久テストが良好である。これは、下地としてのZrが外観性を向上させているためであると考えられる。
【0098】
実施例14a、実施例9b及び実施例8cでは、総厚みTtが厚いため、バンカー耐久テストの結果が良好ではない。総厚みTtが厚すぎても、剥がれが生じやすいと考えられる。
【0099】
以上に示されるように、実施例は、比較例に比べて評価が高い。これらの評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、ウッド型ヘッド、ユーティリティ型ヘッド、ハイブリッド型ヘッド、アイアン型ヘッド、パターヘッドなど、あらゆるゴルフクラブヘッドに適用されうる。
【符号の説明】
【0101】
2・・・ヘッド
4・・・フェース
6・・・ホーゼル
8・・・ソール
10・・・ホーゼル孔
20・・・ヘッド
22・・・フェース
30・・・ヘッド
32・・・フェース
k1・・・第1部材と第2部材との境界
h1・・・ヘッド本体(第1部材)
p1・・・フェースプレート(第2部材)
gv・・・フェース溝
Rs・・・ショットブラスト処理が施された領域
Rn・・・ショットブラスト処理が施されていない領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材とを備え、
ヘッド表面に、上記第1部材と上記第2部材との境界が存在し、
上記ヘッド表面の、上記境界を含む領域に、蒸着層が形成されており、
蒸着工程における温度Tpが、150℃以下であるゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
上記蒸着がPVDである請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
上記第1部材と上記第2部材とが接着剤によって接着されている請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
上記蒸着層が表面層と下層とを有する請求項1から3のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
露出している上記蒸着層がTiC層である請求項1から4のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
上記蒸着層の総厚みTtが、0.5μm以上3.0μm以下である請求項1から5のいずれかに記載のゴルフクラブヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−42964(P2013−42964A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183128(P2011−183128)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】