説明

ゴルフクラブ用グリップおよびその製造方法

【課題】筒状本体部とグリップエンド部との強固の接合しつつ、接合部のエア溜まりを防止する熱可塑性エラストマー製のゴルフクラブ用グリップおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】円筒部3aの周壁内側に筒軸方向一方端から他方端に延びる溝部5を形成するとともに、端面3bに貫通孔6を有するグリップエンド部3を、熱可塑性エラストマー組成物e2により予め成形しておき、このグリップエンド部3を金型8内に設置した後、グリップエンド部3を形成する熱可塑性エラストマー組成物e2よりも硬度の低い熱可塑性エラストマー組成物e1を射出して、グリップエンド部3の円筒部3aの周壁外側を覆うとともに溝部5の少なくとも一部を充填するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はゴルフクラブ用グリップに関し、さらに詳しくは、筒状本体部とグリップエンド部との接合をより強固にするとともに、接合部のエア溜まりを防止できる熱可塑性エラストマー製のゴルフクラブ用グリップおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブ用グリップとしては、天然ゴム、合成ゴム等から形成されるラバーグリップが知られているが、近年、表面デザイン性に優れた熱可塑性エラストマーなど、種々の熱可塑性エラストマー製のグリップが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
グリップは、強く握った際の安定感を向上させるために、筒状本体部よりもグリップエンド部を硬くすることがある。このようなグリップを製造する場合には、例えば、まず、熱可塑性エラストマー組成物を用いてグリップエンド部を射出成形しておく。次いで、グリップエンド部を金型内部に配置しておき、この金型内に、より硬度の低い熱可塑性エラストマー組成物を射出して筒状本体部を成形しつつ両者を接合する。
【0004】
このように、筒状本体部とグリップエンド部とは射出成形時の熱により接合されるので、射出材料の性質や射出成形条件等に影響を大きく受ける。そのため、十分な接合強度を得られない場合があった。また、両者の接合部にエアが溜まりが生じて外観不良になったり、エア溜まりに起因して接合強度が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2004−154228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、筒状本体部とグリップエンド部との接合をより強固にするとともに、接合部のエア溜まりを防止できる熱可塑性エラストマー製のゴルフクラブ用グリップおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴルフクラブ用グリップは、円筒部の筒軸方向一方端側に端面を有する熱可塑性エラストマー組成物により成形されたグリップエンド部と、このグリップエンド部を一方端に熱接合した前記熱可塑性エラストマー組成物よりも硬度の低い熱可塑性エラストマー組成物により成形された筒状本体部とを備えたゴルフクラブ用グリップであって、前記グリップエンド部の周壁内側に筒軸方向一方端から他方端に延びる溝部を有するとともに、グリップエンド部の端面に貫通孔を有し、前記筒状本体部を形成する熱可塑性エラストマー組成物が、前記グリップエンド部の周壁外側を覆うとともに、周壁内側に形成した溝部の少なくとも一部に充填されていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明のゴルフクラブ用グリップの製造方法は、円筒部の筒軸方向一方端側に端面を有するグリップエンド部を、予め熱可塑性エラストマー組成物により成形しておき、このグリップエンド部を金型内に設置した後、前記熱可塑性エラストマー組成物よりも硬度の低い熱可塑性エラストマー組成物を、この金型内に射出して筒状本体部を成形するとともに、この筒状本体部の一方端に前記グリップエンド部を熱接合するゴルフクラブ用グリップの製造方法であって、前記グリップエンド部の周壁内側に筒軸方向一方端から他方端に延びる溝部を形成するとともに、グリップエンド部の端面に貫通孔を設けておき、射出した熱可塑性エラストマー組成物により、前記グリップエンド部の周壁外側を覆うとともに周壁内側に形成した溝部の少なくとも一部を充填するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、グリップエンド部の周壁内側に筒軸方向一方端から他方端に延びる溝部を有し、筒状本体部を形成する熱可塑性エラストマー組成物が、前記グリップエンド部の周壁外側を覆うとともに、周壁内側に形成した溝部の少なくとも一部に充填されることにより、グリップエンド部と筒状本体部との接合部の面積が増大するので、両者の接合をより強固にすることが可能になる。また、筒状本体部を形成する熱可塑性エラストマー組成物を射出した際に、グリップエンド部の周壁内側の溝部に沿ってエアが移動して、グリップエンド部の端面の貫通孔を通じて金型の外部に排出させることができるので、接合部のエア溜まりを防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のゴルフクラブ用グリップおよびその製造方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
図1〜図3に例示するように、本発明のゴルフクラブ用グリップ1(以下、グリップ1という)は、筒状本体部2と、グリップエンド部3とで構成されている。筒状本体部2は、筒軸方向にテーパを有する円筒状であり、その筒軸方向一方端(大径側)にグリップエンド部3が接合されている。筒状本体部2およびグリップエンド部3は、それぞれ熱可塑性エラストマー組成物e1、e2により形成され、グリップエンド部3は、筒状本体部2よりも硬度が高くなっている。
【0011】
図4〜図6に例示するように、グリップエンド部3は、円筒部3aの筒軸方向一方端側に端面3bを有している。円筒部3aは筒軸方向にテーパを付けて形成された形状であり、筒軸方向一方端側(大径側)が端面3bにより塞がれた形状になっているが、端面3bには貫通孔6が形成されてグリップエンド部3の内部と外部とが連通している。貫通孔6は、小径と大径の穴を連接して形成されている。
【0012】
また、グリップエンド部3は、円筒部3aの周壁内側に筒軸方向一方端から他方端に延びる溝部5を有している。この溝部5は、筒軸方向に直線状に形成され、グリップエンド部3の横断面で間隔をあけて複数設けられている。これにより、溝部5と溝部5との間は突起部4になっている。この実施形態では、円筒部3aの横断面で、同仕様の溝部5が均等の中心角度の配置で12本設けられている。
【0013】
溝部5は複数を均等の中心角度の配置で設けることが好ましく、溝部5の大きさや本数は適宜決定される。また、溝部5は後述するエア抜きの観点からは、図5に例示するように、円筒部3aの筒軸方向一方端から他方端まで最小長さにすることが好ましいが、筒軸方向と非平行な直線状に形成することもでき、螺旋状に形成することも可能である。
【0014】
図2、図3に例示するように、筒状本体部2を形成する熱可塑性エラストマー組成物e1が、グリップエンド部3の円筒部3aの周壁外側を覆うとともに、周壁内側に形成した溝部5に充填された状態になっている。尚、突起部4の頂面は、この熱可塑性エラストマー組成物e1で覆われず露出した状態になっている。
【0015】
このように本発明では、グリップエンド部3の周壁内側に溝部5を形成し、筒状本体部2を形成する熱可塑性エラストマー組成物e1が、グリップエンド部3の周壁外側を覆うとともに、溝部5の少なくとも一部に充填されるようにしているので、グリップエンド部3と筒状本体部2との接合部の面積が増大する。したがって、射出材料(熱可塑性エラストマー組成物e1、e2)の性質や射出成形条件等に関わらず、両者の接合をより強固にすることが可能になっている。
【0016】
この実施形態では、溝部5の他方端から筒軸方向中途の位置までが、筒状本体部2を形成する熱可塑性エラストマー組成物e1によって充填されている。溝部5の全長にわたって、熱可塑性エラストマー組成物e1が充填された状態にすると、接合面積を最大にすることができるが、本発明では、溝部5の少なくとも一部が充填されていればよい。
【0017】
筒状本体部2を形成する熱可塑性エラストマー組成物e1およびグリップエンド部3を形成する熱可塑性エラストマー組成物e2としては、カルボニ含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖およびカルボニ含有基および含窒素複素環を有する共有結合性架橋部位を含有する他の側鎖を有する熱可塑性エラストマーを含む組成物、若しくは、カルボニ含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖またはカルボニ含有基および含窒素複素環を有する共有結合性架橋部位を含有する側鎖を有する熱可塑性エラストマーを含む組成物のいずれかの組成物を例示することができる。
【0018】
より具体的には、筒状本体部2を形成する熱可塑性エラストマー組成物e1としては、例えば、マレイン化オレフィン系エラストマーに含窒素複素環多官能アルコールを架橋剤として、軟質ポリオレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびパラフィンオイルを必須成分として配合された熱可塑性エラストマー組成物を用いることができる。筒状本体部2の硬度は、例えば、40〜80(JIS−A)、100%モジュラスは0.5MPa〜4.0MPa、圧縮永久歪みは60%以下にする。
【0019】
一方、グリップエンド部3を形成する熱可塑性エラストマー組成物e2としては、例えば、マレイン化オレフィン系エラストマーに含窒素複素環多官能アルコールを架橋剤として、硬質ポリオレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびパラフィンオイルを必須成分として配合された熱可塑性エラストマー組成物を用いることができる。グリップエンド部3の硬度は、例えば、50〜90(JIS−A)、100%モジュラスは3.0MPa〜6.0MPaにする。
【0020】
筒状本体部2とグリップエンド部3の硬度および100%モジュラスは、上記に記載した範囲内で、グリップエンド部3の方が大きくなるように設定されている。
【0021】
筒状本体部2およびグリップエンド部3は、上記した成分を配合した熱可塑性エラストマー組成物e1、e2により成形されているので、柔軟性および耐摩耗性については、熱可塑性エラストマーよりも加硫ゴムに近い良好な物性を得ることができる。また、上記成分を配合した熱可塑性エラストマー組成物e1、e2は、射出成形が可能であり、一度成形した後であっても、それぞれのバージンの熱可塑性エラストマー組成物e1、e2に対して、ある程度の比率(例えば50重量%程度)までは、粉砕して混合することにより、再度、射出してリサイクル成形できるようになっている。
【0022】
筒状本体部2の硬度(JIS−A)が40未満であると、これに伴って100%モジュラスが小さくなって0.5MPa以上を確保することが難しくなる。そのため、グリップした時は柔らかい感触であるが、実際にスイングして打撃する際には、プレーヤは、より強く握るので安定感がなくなってグリップ1が手の中で動くように感じる。このような感覚は安定したスイングの妨げになる。
【0023】
一方、筒状本体部2の硬度(JIS−A)が80超であると、100%モジュラスが4.0MPa超になり易く、ソフト感が損なわれてボール打撃時の衝撃が大きくなって、プレーヤに不快感を与えることになる。したがって、筒状本体部2の硬度(JIS−A)を40〜80、100%モジュラスを0.5MPa以上4.0MPaにすることにより、良好なフィット感と安定感を両立した優れた感触を得ることができる。
【0024】
また、筒状本体部2の圧縮永久歪みを60%以下にすることにより、長期に渡って当初のグリップ特性(フィット感と安定感)を維持することが可能になる。
【0025】
グリップエンド部3の硬度および100%モジュラスは、筒状本体部2に比べて大きく設定されるとともに、その硬度が50〜90(JIS−A)、100%モジュラスが3.0MPa〜6.0MPaになっている。
【0026】
グリップエンド部3の硬度(JIS−A)が50未満であると、これに伴って100%モジュラスが小さくなってスイング時の安定感が損なわれ、握りにくく、違和感のある感触になる。一方、グリップエンド部3の硬度が90超であると、100%モジュラスが大きくなり過ぎてソフト感が損なわれる。
【0027】
プレーヤはゴルフクラブをスイングする際に、グリップ1をより強く握るが、グリップ1においてグリップエンド部3が相対的に硬くなっていることにより、スイングの安定性や打球の方向性に大きく影響する指が当接するグリップ1の先端部領域の変形が抑制される。即ち、右利きのプレーヤであれば、左手の中指、薬指、小指の握りが緩みにくくなり、一段と良好な安定感を得ることができる。握力の大きなプレーヤには、特に良好な感触となる。
【0028】
このグリップ1を製造する本発明による方法は、以下のとおりである。
【0029】
まず、グリップエンド部3を、予め熱可塑性エラストマー組成物e2により成形しておく。例えば、射出成形により所望の形状に形成する。
【0030】
次いで、図7に例示するように、このグリップエンド部3を金型8内の所定の位置に設置する。グリップエンド部3を設置する部分のキャビティ9には、貫通孔6に相当する位置にエア抜き穴(ベント)8aが形成されている。
【0031】
次いで、グリップエンド部3を形成している熱可塑性エラストマーe2よりも硬度の低い熱可塑性エラストマー組成物e1を、この金型8内に射出する。射出した熱可塑性エラストマー組成物e1は、ゲート部10を通じて金型8内部のキャビティ9に充填される。これにより、熱可塑性エラストマー組成物e1によって筒状本体部2が成形されるとともに、成形時の熱によって筒状本体部2とグリップエンド部3とが接合されて、グリップ1が完成する。
【0032】
この際に、熱可塑性エラストマー組成物e1が、溝部5の他方端側から充填され、これに伴ないエアaが溝部5に沿って移動して、エア抜き穴8aを通じて金型8の外部に排出させることができる。そのため、筒状本体部2とグリップエンド部3との接合部のエア溜まりを防止することが可能になる。これに伴い、外観不良や接合部のエア溜まりに起因する接合強度の低下を防止することもできる。
【0033】
熱可塑性エラストマー組成物e1によって溝部5の全長を充填するのではなく、溝部5の他方端側から筒軸方向中途の位置までを充填すると、接合部のエア溜まりをより効果的に防止することができる。
【0034】
このように製造したグリップ1には、図8、図9に例示するように、シャフト7が装着される。ここで、グリップ1に内挿されたシャフト7の外周面には、グリップエンド部3においては、突起部4(熱可塑性エラストマー組成物e2)と溝部5に充填された熱可塑性エラストマー組成物e1とが密着する。
【0035】
したがって、相対的に硬い突起部4(熱可塑性エラストマー組成物e1)によって、シャフト7をしっかりと保持することができる。また、溝部5に充填された相対的に軟らかい熱可塑性エラストマー組成物e1が、グリップ1が強く握られた際の変形を吸収するので、このような場合でも突起部4によるシャフト7に対するしっかりとした保持を維持することができる。
【0036】
熱可塑性エラストマー組成物e1、e2に用いるマレイン化オレフィン系エラストマーとは、主鎖を形成する原子に無水マレイン酸が化学的に安定な結合(共有結合)をしているエラストマー性ポリマーのことをいい、上記エラストマー性ポリマーと無水マレイン酸を導入しうる化合物とを反応させることにより得られるものである。
【0037】
本発明においては、無水マレイン酸を側鎖に含有するエラストマー性ポリマーは、通常行われる方法、例えば、上記エラストマー性ポリマーに、通常行われる条件、例えば、加熱下での攪拌等により無水マレイン酸をグラフト重合させる方法で製造してもよく、また市販品を用いてもよい。
【0038】
市販品としては、例えば、LIR−403(クラレ社製)、LIR−410A(クラレ社試作品)などの無水マレイン酸変性イソプレンゴム;LIR−410(クラレ社製)などの変性イソプレンゴム;クライナック110、221、231(ポリサー社製)などのカルボキシ変性ニトリルゴム;CPIB(日石化学社製)、HRPIB(日石化学社ラボ試作品)などのカルボキシ変性ポリブテン;ニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)、ユカロン(三菱化学社製)、タフマーM(例えば、MA8510(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム;タフマーM(例えば、MH7020(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性エチレン−ブテンゴム;アドテックスシリーズ(無水マレイン酸変性EVA、無水マレイン酸変性EMA(日本ポリオレフィン社製))、HPRシリーズ(無水マレイン酸変性EEA、無水マレイン酸変性EVA(三井・ジュポンポリオレフィン社製))、ボンドファストシリーズ(無水マレイン酸変性EMA(住友化学社製))、デュミランシリーズ(無水マレイン酸変性EVOH(武田薬品工業社製))、ボンダイン(無水マレイン酸変性EEA(アトフィナ社製))、タフテック(無水マレイン酸変性SEBS、M1943(旭化成社製))、クレイトン(無水マレイン酸変性SEBS、FG1901X(クレイトンポリマー社製))、タフプレン(無水マレイン酸変性SBS、912(旭化成社製))、セプトン(無水マレイン酸変性SEPS(クラレ社製))、レクスパール(無水マレイン酸変性EEA、ET−182G、224M、234M(日本ポリオレフィン社製))、アウローレン(無水マレイン酸変性EEA、200S、250S(日本製紙ケミカル社製))などの無水マレイン酸変性ポリエチレン;アドマー(例えば、QB550、LF128(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性ポリプロピレン;等が挙げられる。
【0039】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、芳香族ビニル化合物および共役ジエンからブロック共重合体として得られる公知のスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることができる。本発明においては、スチレン系熱可塑性エラストマーは、圧縮永久歪をより良好にする観点から、末端に架橋点に相当する芳香族ビニルによるブロック重合部を有し、重量平均分子量が10万以上のものであるのが好ましい。
【0040】
芳香族ビニル化合物としては、具体的には、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン等が挙げられ、これらを1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、共役ジエンとしては、具体的には、例えば、ブタジエン、イソプレンおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0041】
このようなスチレン系熱可塑性エラストマーを含有することにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物は、圧縮永久歪が良好なものとなる。これは、スチレン系熱可塑性エラストマーが非相溶であり、流動性が低く、独立した相を形成し、また、スチレン系熱可塑性エラストマーはオイルとの親和性が高いため、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびオイルがスチレン系熱可塑性エラストマーがオイルを吸った状態で、熱可塑性エラストマー組成物の架橋構造中に取り込まれることになるためであると考えられる。
【0042】
本発明においては、スチレン系熱可塑性エラストマーの製造方法は特に限定されないが、例えば、上記芳香族ビニル化合物を重合させて得られる重合体(ブロック(A))と、上記共役ジエンを重合させて得られる重合体(ブロック(B))との共重合(ブロック共重合)により得る方法が好適に例示される。ここで、上記ブロック(A)の数平均分子量は、3000〜50000の範囲であるのが好ましい。分子量がこの範囲であると、得られるスチレン系熱可塑性エラストマーの機械的強度が良好となり、このスチレン系熱可塑性エラストマーを用いた本発明の組成物を得る際の耐圧縮永久歪が良好となる。
【0043】
また、上記ブロック(B)の数平均分子量は、10000〜200000の範囲であるのが好ましい。分子量がこの範囲であると、得られるスチレン系熱可塑性エラストマーを用いた本発明の組成物を得る際の混合溶融時の粘度が良好となり、得られる本発明の組成物の混合溶融時の粘度が良好となる。
【0044】
更に、ブロック共重合体として得られるスチレン系熱可塑性エラストマーは、1個以上のブロック(A)と1個以上のブロック(B)を有するものであり、そのブロック形態は、A−(B−A)nまたは(A−B)mで示すことができる。このうち、A−B−Aの形態であるのが流動性や機械的物性が良好になる理由から好ましく、A−BとA−B−Aとを併用する形態であってもよい。
【0045】
また、本発明においては、スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン含有率が10〜60質量%であるのが好ましく、30〜50質量%であるのがより好ましい。スチレン含有率がこの範囲であると、本発明の組成物を得る際の混合溶融時の粘度が良好となり、得られる本発明の組成物の機械的強度および耐圧縮永久歪がより向上する。
【0046】
このようなスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、水添スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合体、具体的には、例えば、スチレン−イソプレンブロック共重合体水添物(SEPS:スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体)、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)等が挙げられる。本発明においては、このようなスチレン系熱可塑性エラストマーとして、セプトン2006(SEPS、クラレ社製)、セプトン4055(SEEPS、クラレ社製)等の市販品を用いることができる。
【0047】
含窒素複素環多官能アルコールとしては、2個以上の水酸基を有し、含窒素複素環を併有する化合物であれば特に限定されない。
【0048】
含窒素複素環としては、五員環または六員環であることが好ましい。このような含窒素複素環としては、例えば、ピロリジン、ピロリドン、オキシインドール(2−オキシインドール)、インドキシル(3−オキシインドール)、ジオキシインドール、イサチン、インドリル、フタルイミジン、β−イソインジゴ、モノポルフィリン、ジポルフィリン、トリポルフィリン、アザポルフィリン、フタロシアニン、ヘモグロビン、ウロポルフィリン、クロロフィル、フィロエリトリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、イミダゾロン、イミダゾリドン、ヒダントイン、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリドン、インダゾール、ピリドインドール、プリン、シンノリン、ピロール、ピロリン、インドール、インドリン、オキシルインドール、カルバゾール、フェノチアジン、インドレニン、イソインドール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、フェナントロリン、オキサジン、ベンゾオキサジン、フタラジン、プテリジン、ピラジン、フェナジン、テトラジン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、アントラニル、ベンゾチアゾール、ベンゾフラザン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、アントラゾリン、ナフチリジン、チアジン、ピリダジン、ピリミジン、キナゾリン、キノキサリン、トリアジン、ヒスチジン、トリアゾリジン、メラミン、アデニン、イソシアヌレート、グアニン、チミン、シトシン、イソシアヌル酸およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0049】
また、含窒素複素環は、例えば、上記と同様の置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。特に、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(タナック、日産化学(株)社製)が好適に用いられる。
【0050】
熱可塑性エラストマー組成物E1に用いる軟質ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンブロックとエチレンプロピレンブロックを有するエチレンプロピレン共重合体を例示することができる。より詳しくは、ポリプロピレン成分からなるブロック(ポリプロピレンブロック)と、プロピレン・エチレンランダム共重合体成分からなるブロック(エチレンプロピレンブロック)とが連なったブロック共重合体である。
【0051】
このような軟質ポリオレフィン系樹脂を含有することにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物は、優れた柔軟性を保持し、高温での流動性や機械的強度にも優れる。これは、結晶性および硬度の高いポリプロピレンブロックの存在により耐熱性、モジュラス、破断強度等の機械的強度が良好となり、ランダム共重合体であるエチレンプロピレンブロックの存在により柔軟性および高温での流動性が良好となるためであると考えられる。
【0052】
本発明においては、上記軟質ポリオレフィン系樹脂は、1〜50モル%の割合で上記ポリプロピレンブロックを有しているのが好ましく、10〜25モル%の割合で上記ポリプロピレンブロックを有しているのがより好ましい。ポリプロピレンブロックの割合がこの範囲であると、軟質ポリオレフィン系樹脂を含有する本発明の組成物の機械的強度がより良好となる。
【0053】
また、本発明においては、上記ポリプロピレンブロックが、軟質ポリオレフィン系樹脂を含有する本発明の組成物の機械的強度がより良好となる観点から立体規則性であるのが好ましく、機械的強度がさらに良好となる観点からアイソタクチックであるのが好ましい。
【0054】
さらに、本発明においては、上記エチレンプロピレンブロック中、プロピレンとエチレン以外に他のポリブテン成分なども必要に応じて5重量%以下程度で含まれてよい。
【0055】
従来、ポリオレフィン系樹脂よりなる軟質材料は、バナジウム系触媒を用いて製造された非晶質エチレン−プロピレンゴム(EPR)等をポリプロピレンに混在することによって製造されている。
【0056】
これに対し、本発明で用いる軟質ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンとプロピレン・エチレンランダム共重合体のエラストマー成分を、1つの重合槽で、チタン化合物や有機アルミニウム化合物などを用いて同時に重合することによって製造するのが好ましい。また、別途合成したポリプロピレンを別の合成タンクに移し、そこにエチレンおよびプロピレンを投入し、触媒等の存在下で重合することによって製造してもよい。
【0057】
このような軟質ポリオレフィン系樹脂は、上記エチレンプロピレンブロック中のエチレン分を増加させた、いわゆるリアクタータイプの共重合体であるのが好ましく、プライムポリマー社製のプライムTPOの軟質タイプとして市販されているもの、具体的には、M142Eの商品名で市販されているものが好適に用いられる。
【0058】
熱可塑製エラストマーe2に用いる硬質ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンを例示することができる。
【0059】
熱可塑性エラストマー組成物e1については、マレイン化オレフィン系エラストマー100重量部に対して、含窒素複素環多官能アルコールが0.1〜3.0重量部、軟質ポリオレフィン系樹脂が50〜150重量部、スチレン系熱可塑性エラストマーが20〜150重量部およびパラフィンオイルが50〜300重量部の配合量であることが好ましい。
【0060】
含窒素複素環多官能アルコールの配合量が0.1重量部未満では、架橋部が少なくなって引張り強度、圧縮永久歪み等の機械的特性に悪影響が生じ、3.0重量部超では、ペンダントする部位が増えすぎて同様に機械的特性に悪影響が生じる。軟質ポリオレフィン系樹脂の配合量が50重量部未満では、粘度が高くなって射出成形し難くなり、150重量部超では、成形後の圧縮永久歪みに悪影響が生じる。また、スチレン系熱可塑性エラストマーの配合量が20重量部未満では、オイルブリードが発生し易くなり、150重量部超では、成形加工性に悪影響が生じる。パラフィンオイルの配合量が50重量部未満では、粘度が高くなって射出成形し難くなり、300重量部超では、硬度が低下するとともに圧縮永久歪みに悪影響が生じ、オイルブリードも発生し易くなる。
【0061】
熱可塑性エラストマー組成物e2については、マレイン化オレフィン系エラストマー100重量部に対して、含窒素複素環多官能アルコールが0.1〜3.0重量部、硬質ポリオレフィン系樹脂が50〜150重量部、スチレン系熱可塑性エラストマーが20〜150重量部およびパラフィンオイルが50〜300重量部の配合量であることが好ましい。
【0062】
硬質ポリオレフィン系樹脂の配合量が50重量部未満では、粘度が高くなって射出成形し難くなり、150重量部超では、成形後の硬度が高くなりすぎる。含窒素複素環多官能アルコール、スチレン系熱可塑性エラストマー、パラフィンオイルの配合量については、上記した筒状本体部2と同じ理由である。
【0063】
また、熱可塑性エラストマー組成物e1、e2に用いるパラフィンオイルの数平均分子量は、500〜1000であることが好ましい。この数平均分子量が500未満であると、粘度が低過ぎてブリードアウトを起こしてしまい、混練不良が生じるという問題があり、1000超であると、粘度が高過ぎて硬度低減効果が乏しくなるという問題があるためである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のゴルフクラブ用グリップを例示する側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2のB−B断面図である。
【図4】図1のグリップエンド部を例示する側面図である。
【図5】図4のC−C断面図である。
【図6】図5のD−D断面図である。
【図7】図1のグリップを製造する工程を例示する説明図である。
【図8】図1のグリップをシャフトに装着した状態を例示する側面図である。
【図9】図8のE−E断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 グリップ
2 筒状本体部
3 グリップエンド部
3a 円筒部
3b 端面
4 突起部
5 溝部部
6 貫通孔
7 シャフト
8 金型
8a エア抜き穴
9 キャビティ
10 ゲート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部の筒軸方向一方端側に端面を有する熱可塑性エラストマー組成物により成形されたグリップエンド部と、このグリップエンド部を一方端に熱接合した前記熱可塑性エラストマー組成物よりも硬度の低い熱可塑性エラストマー組成物により成形された筒状本体部とを備えたゴルフクラブ用グリップであって、前記グリップエンド部の周壁内側に筒軸方向一方端から他方端に延びる溝部を有するとともに、グリップエンド部の端面に貫通孔を有し、前記筒状本体部を形成する熱可塑性エラストマー組成物が、前記グリップエンド部の周壁外側を覆うとともに、周壁内側に形成した溝部の少なくとも一部に充填されているゴルフクラブ用グリップ。
【請求項2】
前記グリップエンド部の横断面で、前記溝部を間隔をあけて複数有するとともに、これら溝部が筒軸方向に直線状に形成されている請求項1に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項3】
前記溝部の筒軸方向中途の位置までに、前記筒状本体部を形成する熱可塑性エラストマー組成物が充填されている請求項1または2に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項4】
前記筒状本体部およびグリップエンド部が、カルボニ含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖およびカルボニ含有基および含窒素複素環を有する共有結合性架橋部位を含有する他の側鎖を有する熱可塑性エラストマーを含む組成物、若しくは、カルボニ含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖またはカルボニ含有基および含窒素複素環を有する共有結合性架橋部位を含有する側鎖を有する熱可塑性エラストマーを含む組成物のいずれかの組成物から形成される請求項1〜3のいずれかに記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項5】
前記筒状本体部が、マレイン化オレフィン系エラストマーに含窒素複素環多官能アルコールを架橋剤として、軟質ポリオレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびパラフィンオイルを必須成分として配合された熱可塑性エラストマー組成物から形成され、前記グリップエンド部がマレイン化オレフィン系エラストマーに含窒素複素環多官能アルコールを架橋剤として、硬質ポリオレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびパラフィンオイルを必須成分として配合された熱可塑性エラストマー組成物から形成され、筒状本体部の硬度が40〜80(JIS−A)、グリップエンド部の硬度が50〜90(JIS−A)であり、筒状本体部に比してグリップエンド部の100%モジュラスを大きく設定して、筒状本体部の100%モジュラスを0.5MPa〜4.0MPa、圧縮永久歪みを60%以下、グリップエンド部の100%モジュラスを3.0MPa〜6.0MPaにした請求項1〜4のいずれかに記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項6】
前記軟質ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレンブロックとエチレンプロピレンブロックを有し、前記硬質ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン、前記スチレン系熱可塑性エラストマーが水添スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合物である請求項5に記載のゴルフクラブ用グリップ。
【請求項7】
円筒部の筒軸方向一方端側に端面を有するグリップエンド部を、予め熱可塑性エラストマー組成物により成形しておき、このグリップエンド部を金型内に設置した後、前記熱可塑性エラストマー組成物よりも硬度の低い熱可塑性エラストマー組成物を、この金型内に射出して筒状本体部を成形するとともに、この筒状本体部の一方端に前記グリップエンド部を熱接合するゴルフクラブ用グリップの製造方法であって、前記グリップエンド部の周壁内側に筒軸方向一方端から他方端に延びる溝部を形成するとともに、グリップエンド部の端面に貫通孔を設けておき、射出した熱可塑性エラストマー組成物により、前記グリップエンド部の周壁外側を覆うとともに周壁内側に形成した溝部の少なくとも一部を充填するようにしたゴルフクラブ用グリップの製造方法。
【請求項8】
前記グリップエンド部の横断面で、前記溝部を間隔をあけて複数設けるとともに、筒軸方向に直線状に形成しておく請求項7に記載のゴルフクラブ用グリップの製造方法。
【請求項9】
前記溝部の筒軸方向中途の位置までを、前記筒状本体部を形成する熱可塑性エラストマー組成物で充填する請求項7または8に記載のゴルフクラブ用グリップの製造方法。
【請求項10】
前記筒状本体部およびグリップエンド部が、カルボニ含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖およびカルボニ含有基および含窒素複素環を有する共有結合性架橋部位を含有する他の側鎖を有する熱可塑性エラストマーを含む組成物、若しくは、カルボニ含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖またはカルボニ含有基および含窒素複素環を有する共有結合性架橋部位を含有する側鎖を有する熱可塑性エラストマーを含む組成物のいずれかの組成物から形成される請求項7〜9のいずれかに記載のゴルフクラブ用グリップの製造方法。
【請求項11】
前記筒状本体部が、マレイン化オレフィン系エラストマーに含窒素複素環多官能アルコールを架橋剤として、軟質ポリオレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびパラフィンオイルを必須成分として配合された熱可塑性エラストマー組成物から形成され、前記グリップエンド部がマレイン化オレフィン系エラストマーに含窒素複素環多官能アルコールを架橋剤として、硬質ポリオレフィン系樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびパラフィンオイルを必須成分として配合された熱可塑性エラストマー組成物から形成され、筒状本体部の硬度を40〜80(JIS−A)、グリップエンド部の硬度を50〜90(JIS−A)にするとともに、筒状本体部に比してグリップエンド部の100%モジュラスを大きく設定し、筒状本体部の100%モジュラスを0.5MPa〜4.0MPa、圧縮永久歪みを60%以下、グリップエンド部の100%モジュラスを3.0MPa〜6.0MPaにした請求項7〜10のいずれかに記載のゴルフクラブ用グリップの製造方法。
【請求項12】
前記軟質ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレンブロックとエチレンプロピレンブロックを有し、前記硬質ポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン、前記スチレン系熱可塑性エラストマーが水添スチレン・イソプレン・ブタジエンブロック共重合物である請求項11に記載のゴルフクラブ用グリップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−154979(P2010−154979A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335430(P2008−335430)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(000157278)丸五ゴム工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】