説明

ゴルフクラブ用シャフト

【課題】比較的ヘッドスピードの遅いゴルファーでも打ち出し角が大きく、飛距離を増大させることのできるシャフトを提供する。
【解決手段】シャフトの長さが1100mm以上あるゴルフクラブ用シャフトにおいて、先端150mmの位置の曲げ剛性値と先端から950mmの位置の曲げ剛性値の差が5kg・m以上であり、先端150mmの位置の曲げ剛性値が2kg・m以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブ用シャフト、特に長さが1100mm以上のシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のゴルフクラブ用シャフトは、ゴルファーのヘッドスピードに応じた適正の変形量が得られるように、ヘッドスピード毎に剛性設計が行われている。ヘッドスピードの速いゴルファーが剛性の低いシャフトを使用すると、シャフトの変形量が大きくなり過ぎ、タイミングがとりにくく、飛球方向がばらついたり、ボールが吹き上がったりすると共に、フィーリング面においても頼りなさを感じることとなる。
【0003】
一方、ヘッドスピードの遅いゴルファーが剛性の高いシャフトを使用すると、十分にシャフトの変形量が得られないために飛距離をロスすると共に打球感が硬いために難しく感じることとなる。
【0004】
ヘッドスピードが35m/s〜40m/sあるいは38m/s〜43m/s程度のゴルファー用としては、一般的にシャフト硬度を「R」(レギュラー)で表示し、一般アマチュアゴルファーを対象としている。43m/sを超える場合のシャフトの硬さは、「S」「X」で表示され、35〜38/s未満では「L」で表示するのが一般的である。
【0005】
ヘッドスピードに対応した最適なシャフトを得るため、シャフトの曲げ剛性分布を最適に設定したものが開発された。これは、シャフトの長さを1100mm以上1220mm以下とし、シャフトのグリップ側端部から400mm〜900mmの範囲内に、長さが200mm〜500mmとなる領域Mを設け、シャフトのグリップ側端部から0mm〜450mmの領域内に、長さが100mm〜450mmとなる領域Hを設け、上記領域Mと領域Hは互いに重なることなく、上記領域M及び領域Hの各範囲内において、ヘッド側からグリップ側に向かって曲げ剛性を増加させ、(上記領域Hの曲げ剛性変化率/上記領域Mの曲げ剛性変化率)の値Xを1.0≦X≦5.0としているものである(特許文献1参照)。この「X」の値を小さく設定することでヘッドスピードの比較的遅い非力なゴルファー向けに設計することができ、反対に「X」の値を大きく設計することでヘッドスピードの速いゴルファーに対応することができるというものである。
【特許文献1】特開2002−177423号公報(第3頁、図1及び図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された従来技術も、基本的には手元の硬いシャフトをヘッドスピードの速いゴルファー用とし、反対に手元の軟らかいシャフトをヘッドスピードの遅いゴルファー用としている。いわゆる「R」表示された一般アマチュアゴルファー用のシャフトでも、手元を軟らかくしても、先端が硬い(特許文献1のものでは、図3に示すように、グリップ端から1000mmのシャフト先端部での曲げ剛性値は2kg・m超となっている)ので、ボールが上がらないという欠点があった。
【0007】
そこで、本発明は、ヘッドスピードの比較的遅い一般アマチュアゴルファーでも、ボールを上げ易くして飛距離の増大を図ることができるゴルフクラブ用シャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明は、シャフトの長さが1100mm以上あるゴルフクラブ用シャフトにおいて、先端150mmの位置の曲げ剛性値と先端から950mmの位置の曲げ剛性値の差が5kg・m以上であり、先端150mmの位置の曲げ剛性値が2kg・m以下としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シャフトの長さが1100mm以上あるゴルフクラブ用シャフトにおいて、先端150mmの位置の曲げ剛性値と先端から950mmの位置の曲げ剛性値の差が5kg・m以上であり、先端150mmの位置の曲げ剛性値が2kg・m以下としたので、剛性値(EI値)の差を大きくすることにより、インパクト直前にシャフトの撓りが大きくなり、高打ち出し角となり、飛距離の増大につながる。先端のEI値も2kg・m以下であることも、高打ち出し角の効果を得る上で有効に作用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態について、図面を参照にして説明する。
【0011】
図1は、いわゆるドライバーと呼ばれるゴルフクラブを示し、シャフト1の全長(シャフト長さ)を1100mm以上とし、このシャフト1の先端はヘッド2に挿入され固着されている。シャフト1の基端にはグリップ3を装着してあり、このシャフト1の先端から150mm、200mm、250mm、850mm、900mm、950mmの各位置を図面に表示する。そして、これらのシャフト1の各位置での曲げ剛性値(EI値)は、150mm、200mm、250mmの各位置EI値の平均値を1.8kg・m以下とし、850mm、900mm、950mmの各位置のEI値の平均値を6.5kg・m以上とした。シャフト先端から150mmの位置のEI値と950mmの位置のEI値の差が5kg・m以上あるようにするとともに、シャフト先端から150mmの位置のEI値が2kg・m以下となるようにした。
【0012】
前記シャフト1は、繊維強化樹脂製とし、繊維強化プリプレグの積層体により形成されているものが好適に用いられる。このようなシャフト1であれば、部分的に補強することが容易に行え、剛性変化を行い易くなる。シャフト1の剛性変化を行うには、プリプレグの長さや形状、配置位置等、補強繊維の弾性率等を変化させればよい。
【0013】
上述したように、本発明では、シャフト1の先端150mmの位置のEI値と950mmの位置のEI値を測るのは、三点曲げの試験方法により、最も先端部を測れる位置として、150mmの位置である為である。三点曲げによるEI値の測定では、スパンを狭くすると、測定誤差が大きくなるので、300mm程度がゴルフシャフトにおいては適当であるとした。950mmとしたのは、ウッド用のシャフト、特にドライバーに使用するシャフトは1100mm以上と長い為である。近年のドライバーは、ソール端までシャフトが延びていないメタルヘッドが主流となり、レディース用でも、クラブの長さが43.5インチ以上、45インチ以下の長さ、メンズ用で、44.5インチ以上、46インチ以下の長さが主流となっているためである。
【0014】
前記シャフト1は、一般用のシャフトとされるレギュラーサイズの硬さ、いわゆる「R」と表示されるシャフトであり、先端150mmの位置のEI値は2kg・m以下、詳しくは、1.6〜2kg・mの範囲にある。従来の一般的なシャフトの150mmの位置と950mmの位置でのEI値の差は、3.2〜4.8kg・mである。従来の剛性差よりも大きくすることにより、インパクト直前にシャフトの撓りが大きくなり、その結果ボールの打ち出し角が大きくなって飛距離を増大することができる。特に、シャフト1の先端部分を長く、低剛性にし、手元部分をある程度の長さ(先端部分の長さより短い)を高剛性にすると良い。
【0015】
上述したように、シャフト1の先端150mm、200mm、250mmの剛性値の平均値が1.8kg・m以下、好ましくは、1.6〜1.8kg・mであり、かつ先端から850mm、900mm、950mmの位置の剛性値の平均値が6.5kg・m以上、好ましくは、6.5〜7.0kg・mであるとよい。更に先端の低剛性領域を長くすると、ボールの方向が安定するので好ましい。具体的には、先端150mm、200mm、300mm、350mm、400mm、450mm、500mmの剛性値の平均値が2.0kg・m以下、好ましくは1.8〜2.0kg・mが好ましい。
【0016】
シャフト先端の剛性値が低すぎると、軟らかすぎて、球筋が安定しなくなる。高すぎると、球が上がりにくくなる。手元の剛性値が低すぎると、先端と剛性差が少なくなるので、球が上がりにくくなる。高すぎるとスイングのタイミングが取りにくいものとなる。剛性変化率のピークは、一般のシャフトより先端にして、手元が硬くなる長さを長くして、手元側の高剛性域から、先端側の低剛性域に大きく変化(剛性変化率)して、シャフト先端側の撓りを上手く使えるようにした。通常のシャフトだと、先端から800mmから850mmが一般的であるが、先端から750mmから800mmの間にあるようにした。剛性変化率のピーク値は1.6×10−2kg・mm〜2.2×10−2kg・mmが好ましい。極端に剛性率を上げると、シャフトの一部に応力集中し、強度上、あまり好ましくない。剛性変化率が低すぎると、スイング中にシャフトの撓りがシャフト全体で撓るようになり、打ち出し角が低くなり、ヘッドスピードの遅いゴルファーにとっては、ボールが飛びにくくなる。
【0017】
剛性変化率が700mmから750mmの位置、750mmから800mmの位置、800mmから850mmの位置の3点で1×10−2kg・mm以上、好ましくは、1.3×10−2kg・mm以上、2.2×10−2kg・mm以下がよい。かつ、その他の剛性変化率が1×10−2kg・mm未満、好ましくは0.9×10−2kg・mm以下、0.07×10−2kg・mm以上で、先端から700mmから850mmで剛性を高めることにより、先端から700mm未満までの長さの区域を低剛性区域とし、シャフトを撓りやすく、850mm区域を高剛性区域とすることで、ヘッドスピードの遅いゴルファーにおいても、打ち出し角が高くなり、ボールの飛びが、増す効果を得ることができる。
【0018】
手元側の剛性値の高い部分を通常のゴルフシャフトより長い部分を作り、逆に先端部分を軟らかくして、剛性値に差を設けることにより、スイング中のシャフト先端部を含む先のほうが集中的に撓るので、シャフト1の先のほう全体が撓りやすく、ボールの方向が安定しつつ、ボールの飛距離がアップする。一方、手元(バット)側まで軟らかくすると、更にシャフトが全体的に撓りやすくなるので、ボールは安定するが、剛性値の変化率が少ないので、力が全体に分散するため、球があがりにくく、非力なゴルファーには、向いていない。そのため、バット側に、ストレート層と言われるシャフト1の長さ方向に繊維の向きに配置して、高弾性のカーボン繊維の繊維強化樹脂(弾性率40トン)を多く積層して、バット側の剛性値を高くしてある。一方、先端のストレート部には、メタルヘッドに取り付けるために先端に一律な径を約8.5φ〜9.5φで長さ30〜100mmまで設けるために、弾性率10トンのカーボン繊維をシャフトの長さ方向に繊維の向きが並んでいる高弾性のカーボン繊維の繊維強化樹脂をシャフトの長さ方向に繊維の配置し、径の太さを一定長さ揃えるようにした。ガラス繊維自体は、剛性値が低いのだが、ガラス繊維強化樹脂では、繊維自体の径が太いため、厚さが増すため、かえって先端部の剛性値が高くなってしまった。このため、先端部の剛性値が上がるのを最小限に抑えた。
【0019】
曲げ剛性値の計測方法は、支点間距離L300mmで、その中心つまり、両サイドから150mmの位置に円筒形の圧支を設け、荷重W20kg掛けた時の撓み量δを計測しEI値を求める。
(式)・・・・EI=1/48×(WL/δ)[kg・m
ただし、先端150mmの位置を測定する場合は、支点間距離Lを290mmとし、両サイドから145mmの位置に円筒形の圧支をセットして測定を行った。これにより、シャフトの測定位置でのEI値を求めることができる。EI値は、シャフト先端から150mmの位置から、測定間隔Mを50mmで、950mmまで行った。試験体のシャフトは、カーボン繊維強化樹脂製のドライバー用シャフトで、1100mm以上のものである。剛性変化率は、各隣り合う測定位置でのEI値の差を求め、各測定間距離である50mmで割った数値を用いる。つまり、例えば150mmの測定位置のEI値をE15とし、200mmの測定位置のEI値をE20とした場合、測定間隔Mは、50mmなので、以下のように求める。EI値の単位を揃えるためにm(メートル)をmm(ミリ)に直して剛性変化率を表示する。
(式)・・・(E20−E15)/50[kg・mm
【0020】
本願発明の実施例として、表1に示すような2つの特性を有するシャフト1を製造した(実施例1、2)。また、市販品の「R」表示のドライバー用シャフトを4種類用意し、これらを比較例1〜4として各位置での曲げ剛性値を計測した。これを表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示す実施例1、2と比較例1〜4における150mmの位置と950mmの位置の剛性値と、これらの剛性値の差を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
次いで、先端150mm、200mm、250mmの剛性値の平均値と、先端から850mm、900mm、950mmの位置の剛性値の平均値を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
さらに、先端150mmの位置から50mm単位で500mmの位置までの剛性値の平均を計測したものを表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
上述した剛性変化率については、そのピークが先端から750mmから800mmの間にあるものが好ましい。また、剛性変化率が700mmから750mmの位置、750mmから800mmの位置、800mmから850mmの位置の3点で1×10−2kg・mm以上、かつ、その他の剛性変化率が1×10−2kg・mm未満であることが好ましい。このような、剛性変化率についても、実施例1、2と比較例1〜4のそれぞれについて計測し、その結果を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
上記の比較例1の市販されているカーボンシャフトの構造を基にして、グリップ側の剛性値を上げるとともに、手元側のストレート層の補強プリプレグを通常より10mm長く配置し、先端から700mm付近まで補強を行った。結果、本発明の範囲内のものとすることができる。
【0031】
上述した実施例1、2と比較例1〜4のシャフトを装着したドライバーをヘッドスピード35m/sと38m/sのゴルファーに試打してもらった実打評価を表6(35m/s)と表7(38m/s)に示す。
【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
図2は、表1に示した実施例1、2と比較例1〜4のシャフトの剛性分布を示すグラフである。
【0035】
図3は、表5に示した剛性変化率を計測したもののグラフである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ゴルフクラブを示す正面図。
【図2】各シャフトの剛性分布を示すグラフ。
【図3】各シャフトの剛性変化率を示すグラフ。
【符号の説明】
【0037】
1 シャフト
2 ヘッド
3 グリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの長さが1100mm以上あるゴルフクラブ用シャフトにおいて、
先端150mmの位置の曲げ剛性値と先端から950mmの位置の曲げ剛性値の差が5kg・m以上であり、
先端150mmの位置の曲げ剛性値が2kg・m以下であることを特徴とするゴルフクラブ用シャフト。
【請求項2】
先端150mm、200mm、250mmの曲げ剛性値の平均値が1.8kg・m以下であり、かつ先端から850mm、900mm、950mmの位置の曲げ剛性値の平均値が6.5kg・m以上であることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。
【請求項3】
剛性変化率のピークがシャフト先端から750mmから800mmの間にあることを特徴とする請求項1又は2に記載のゴルフクラブ用シャフト。
【請求項4】
剛性変化率がシャフト先端から700mmから750mmの位置、750mmから800mmの位置、800mmから850mmの位置の3点で1×10−2kg・mm以上、かつ、その他の剛性変化率が1×10−2kg・mm未満であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のゴルフクラブ用シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−212340(P2008−212340A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52873(P2007−52873)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】