説明

ゴルフクラブ

【課題】フェースを開いて使用する場合、効果的にゴルフボールにバックスピンを付与できるゴルフクラブを提供する。
【解決手段】フェース表面部FAに、トウ・ヒール方向に沿って所定深さの複数本のスコアライン溝14を設けており、該スコアライン溝に直交するフェース表面の中間位置ラインCLよりもトウ寄り領域のフェース表面部にはスコアライン溝よりも浅くて幅の狭い数多くの小溝ライン16を設けており、中間位置ラインよりもトウ寄り領域の該小溝ラインは、ソールSL上かそれより下方の位置であって、中間位置ラインよりもヒール寄りに中心COを有する円弧状であり、トップ側に凸な円弧状曲線であって、該曲線の接線方向はトウ側に近づくに従って上下方向に近づき、前記小溝ラインは、前記トウ寄り領域のフェース表面部であるトウ側部分の他に、中間位置ラインよりもヒール寄り領域のフェース表面部のトウ・ヒール方向に沿った曲線のヒール側部分を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエッジ等のアイアンゴルフクラブを主体に、各種ゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドのフェース表面部には、複数本のスコアライン溝がトウ・ヒール方向に延伸するよう設けられている。これは、アドレス時にヘッドのセッティング状態を確認し易くし、また、打球時にゴルフボールにバックスピンを付与する目的で、一定規則の下に設けられている。
然しながら、例えば、ピッチングウエッジ、アプローチウエッジ、サンドウエッジ等のウエッジでは、打球の球筋を高くするため、ロフト角を大きくすべくフェースを開いて使用することがよくある。勿論、他の番手のゴルフクラブでもこうしたことはある。このようにフェースを開いて使用する場合、そうでない通常の構えの場合、即ち、地面に対して設定ライ角通りであって、ロフト角も設定値通りに載置した場合、ゴルフボールがフェース面をソール・トップ方向に転がり抜ける通常の転動ラインとは異なる傾斜方向の転動ラインとなる。具体的には、フェース表面に向かった視点で表現して、右下から左上方向に転がり抜ける転動ラインとなる。こうした場合、上記スコアライン溝は、転動ラインに対して傾斜する関係となるため、バックスピンを付与し難くなる。良好にスピンを付与するゴルフクラブが下記特許文献1に開示されている。小溝を交差状に設けると共に、フェース面の左右両側を密に、中央部では粗に形成し、これによりゴルフボールがスィートスポットを外れて打撃された際に、密な小溝によってスピンを付与するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3000921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
然しながら、打撃位置がスィートスポットからずれた場合というよりも、上記のようなフェースを開いて使用する場合に効果的にゴルフボールにバックスピンを付与したい。
依って解決しようとする課題は、フェースを開いて使用する場合、効果的にゴルフボールにバックスピンを付与できるゴルフクラブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明では、ヘッドのフェース表面部に、トウ・ヒール方向に沿って所定深さの複数本のスコアライン溝を設けており、該複数本のスコアライン溝の最トウ側端と最ヒール側端との中間を通り、スコアライン溝に直交するフェース表面の中間位置ラインに対し、少なくとも該中間位置ラインよりもトウ寄り領域のフェース表面部には前記スコアライン溝よりも浅くて幅の狭い数多くの小溝ラインを設けており、前記中間位置ラインよりもトウ寄り領域の該小溝ラインは、ソール上又はソールよりも下方の位置であって、前記中間位置ラインよりもヒール寄りに中心を有する円弧状であり、トップ側に凸な円弧状曲線であって、該曲線の接線方向はトウ側に近づくに従って上下方向に近づき、前記小溝ラインは、前記中間位置ラインよりもトウ寄り領域のフェース表面部であるトウ側部分の他に、前記中間位置ラインよりもヒール寄り領域のフェース表面部のトウ・ヒール方向に沿った曲線のヒール側部分を有することを特徴とするゴルフクラブを提供する。
複数本のスコアライン溝のトウ側端が揃っていない場合は、最もトウ寄りの位置が最トウ側端であり、ヒール側端が揃っていない場合は、最もヒール寄りの位置が最ヒール側端である。また、小溝ラインは連続していても良く、途切れ途切れでも良い。例えば、ショットピーニングによって加工する場合は、一つ一つの窪みが飛び飛びに並んで全体として曲線を描く場合もあるが、これも本願にいう小溝ラインである。プレス加工によって点状痕を並べた曲線とする場合も同様である。円弧状は、状という用語が示すように厳密な円弧でなくても良い。また、トウ・ヒール方向に沿った曲線とは、曲線の曲率が小さく、緩いカーブであることを意味する。
【0006】
第2の発明では、第1の発明の中間位置ラインからトウ寄り領域の小溝ラインは、中間位置ラインから該小溝ラインの曲線に沿ってトウに近づくに従って漸次曲率が大きくなるように変化しているよう構成する。
第3の発明では、第1又は第2の発明のヘッドのフェース面の上方部は下方部に比べて相対的に小溝ラインを密に設けているよう構成する。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明では、スコアライン溝の最トウ側端と最ヒール側端との中間位置ラインに対し、該中間位置ラインよりもトウ寄り領域のフェース表面部には、トップ側に凸な円弧状曲線であって、該曲線の接線方向はトウ側に近づくに従って上下方向に近づく小溝ラインを多数設けているため、フェースを開いて打撃した際に、フェース面上を斜めにゴルフボールが転動するが、この際のゴルフボールに対する摩擦力を大きくでき、バックスピンを強く付与することができる。
また、円弧状の小溝ラインの中心位置がソール上又はソールよりも下方であって、ヒール寄りであれば、中間位置ラインよりもトウ寄り領域のフェース表面部には、接線方向が略右上から左下方向に向かって傾斜した曲線となり、トウ側に近づく。即ち、下方のソール面に近づくに従って接線方向が上下方向に近くなる。従って、例えば、ミーリング加工等によって容易にこのような円弧状の小溝ラインを形成できる。
更に、フェースを僅かに閉じる方向に構える場合や、地面に対して設定ライ角通りであって、ロフト角も設定値通りに載置し、中間位置ラインよりもヒール寄り位置で打撃した場合は、スコアライン溝以外に、トウ・ヒール方向に沿った曲線のヒール側部分の小溝ラインの存在によって打球にバックスピンが加算付与される。フェースを開いて打撃する場合は、中間位置ラインからトウ寄り領域のフェース表面部のトウ側部分の小溝ラインによって、フェース面上を斜めにゴルフボールが転動するが、この際のゴルフボールに対する摩擦力を大きくでき、バックスピンを強く付与することができる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明の一形態である。
第3の発明では、ゴルフボールがフェース面の上方部に当たった場合等にスピン量を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るゴルフクラブヘッドの正面図である。
【図2】図1のヘッド付近の拡大図である。
【図3】本発明の作用説明図である。
【図4】図2の矢視線D−Dによる横断面図である。
【図5】図2の矢視線E−Eによる横断面図である。
【図6】図2に対応する参考形態例を示す図である。
【図7】図2に対応する参考形態例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明に係るゴルフクラブの一例として、アイアンヘッドを有するゴルフクラブの正面図であり、水平載置面(地面)HPにライ角θ通りに載置した状態である。図2はそのヘッド12付近の拡大図である。ホーゼル部HBに、シャフト10を挿入して固定しており、参照記号Gはグリップを表わす。図4と図5は、夫々、矢視線D−D、E−Eによる横断面図である。チタン合金やステンレス合金等により鍛造や鋳造で成形されたヘッド本体20には、ヘッド本体とは異なる特性を有し、反発性の良い、チタン合金やステンレス合金製等を鍛造又は圧延形成した薄肉厚(2mm程度)のフェースプレート18を溶接接合してヘッド12を形成している。また、ヘッドのバックBK側は周辺部を残して開口しており、打撃時の慣性モーメントを大きくしている。
【0011】
上記例とは異なり、ヘッドを、フェース部とヘッド本体を別々に形成したものを溶接接合して成形する手法ではなく、フェース部も含めてヘッドを鋳造及び鍛造で一体に成形してもよい。素材は炭素鋼、ステンレス合金、チタン合金等が使用される。特にウエッジ等が一体形成される。
【0012】
フェース表面FAを前記フェースプレート18の表面とヘッド本体20の周辺部表面とで形成している。フェースプレートの表面部のスィートスポットを含む中央領域には、トウ・ヒール方向であって、水平載置面HPにライ角通りに載置した状態で、その水平載置面に平行な等間隔(1.5mm以上のピッチ)の数本〜20本(この図示では8本)、通常、10本〜20本のスコアライン溝14が形成されている。これの通常の長さは50〜60mmである。溝幅は0.5〜1.5mm、深さは0.1〜1.0mmである。この複数のスコアライン溝に沿った方向における最もトウ側の端(左端)と最もヒール側の端(右端)との中間位置を通り、スコアライン溝に直交するフェース表面上の中間位置ラインをCLで示している。
【0013】
フェース表面部には、この例では全面に亘って、前記スコアライン溝間隔よりも小さな間隔、即ち、より密に小溝ライン16が多数本形成されている。この小溝ラインの溝は、前記スコアライン溝の溝深さよりも浅く、溝幅も小さい。具体的には溝深さ0.005〜0.05mm、溝幅0.005〜1mm(好ましくは溝幅0.005〜0.05mm、更に好ましくは溝幅0.01〜0.025mm)、溝ピッチは0.005〜1mmである。また、この例のライン形状は、ソールSLよりも下方であって、中間位置ラインよりもヒールHL寄りの適宜位置に中心COを有する円弧としている。
【0014】
中間位置ラインCLから中心COまでの距離δは10mm以下が好ましく、更には5mm以下が好ましい。本願の範囲外であるが、中心COが中間位置ラインCLの上にあれば、中間位置ライン近くを打撃する場合、図3に示すように、フェースの開き角度に応じたゴルフボールのフェース面FA上の転動ラインR1,R2,R3,R4の何れも、小溝ラインに対して略直交する。従って、夫々、強いバックスピンを付与できる。また、円弧中心の位置が中間位置ラインよりも幾分ヒール寄りに位置していても、この効果は大きくは変わらない。
【0015】
小溝ラインは、中間位置ラインCLがソール面と交差する点P1を通ってスコアライン溝14に平行なラインに対しては、直交することが好ましい。即ち、小溝ラインが円弧の場合は、円弧の中心は中間位置ラインCL上の前記点P1又はこの付近にあればよい。但し、フェースを閉じる方向に構える場合(マイナス方向に開いた場合)は、僅かな角度しか閉じる方向に変化させないため、転動ラインR4のような後方傾斜角度はせいぜい図示の程度までである。従って、このことも考慮すれば、転動ラインR4に対して(概ね)直交する小溝ラインにさせるには、円弧の中心COを中間位置ラインCLよりも幾分ヒール寄りに位置させることが好ましい。また、更にソールSLよりも下方に位置させることが好ましい。
【0016】
上記のフェースを僅かに閉じる方向にして構える事態も考慮した他の形態例として、図6に参考形態例を示す。図6はヘッド付近の正面図であり、図2に対応する。中間位置ラインよりもヒール寄りの領域には、その領域の大部分において、スコアライン溝14に対して概ね平行、厳密には、幾分かヒール側が下がった直線状のヒール側部分の小溝ライン16Bが形成されている。中間位置ラインよりもトウ寄りの領域は、図2の場合と同様な円弧状曲線であるトウ側部分の小溝ライン16Aが形成されている。この形態例では、図3に示す転動ラインR4の場合も小溝ライン16Bに対して概ね直交する。他の転動ラインR1,R2,R3も小溝ライン16Aに概ね直交する。
【0017】
本発明では、ヒール側部分の小溝ライン16Bは直線でなくて、トウ・ヒール方向延伸といえる緩やかな曲線である。また、この形態例とは異なって、ヒール側部分の小溝ライン16Bはヒール側が上がった緩やかな曲線状にしてもよい。これらのラインはスコアライン溝の方向に対して±15度の範囲内に設定する。
【0018】
図7は参考形態例を示しており、中間位置ラインCLからトウ寄り領域においてのみ小溝ラインを設けている。この場合の小溝ラインも円弧であり、その中心は本願範囲外である中間位置ラインCLの上であって、ソールよりも下方に位置している。
【0019】
以上の小溝ラインの円弧は、円弧以外の曲線としてもよい。特に、中間位置ラインからトウ寄り領域のトップ側に凸な曲線は、中間位置ラインから(曲線に沿って)トウ(或いはソール)に近づくに従って上下方向に近い方向に指向することが好ましいため、円弧以外に、漸次曲率が大きくなるように変化させてもよい。例えば、図2で言えば、中間位置ライン近くの小溝ライン曲線は、図2の点COに(瞬間)中心を位置させた(瞬間)円弧とするが、小溝ライン曲線がトウ(或いはソール)に近づくに従って、中心を、漸次、点P1の方向(斜め左上方向)に移動させる。
【0020】
また、以上の通り、フェース表面部にはスコアライン溝14と特許請求の範囲に述べる小溝ラインとは異なる形状の小溝ライン、例えば、逆方向に凸な(ソール側に凸な)曲線の小溝ラインは設けていない。また、小溝ラインは途切れ途切れでもよいことは既に述べた。
小溝ラインを形成するには、機械的な研削加工としてのミーリング加工等、プレス加工、ショットピーニング等の手法がある。また、スコアライン溝と小溝ラインとでは、全体形状の出来上がったヘッドのフェース表面部に対し、両者一緒に成形するか、或いは、スコアライン溝を後から形成する。
【0021】
ゴルフクラブをその設定値であるロフト角通りに載置して構えた場合でも、ゴルフボールがフェース面の上方部に当たるとフェースが開くため、フェース面の下方部に当たる場合と比較してスピン量を確保すべく、フェース面の上方部は下方部に比べて相対的に小溝ラインを密に設けるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ウエッジ、その他の番手のアイアンゴルフクラブや、ウッドヘッドゴルフクラブに利用できる。
【符号の説明】
【0023】
14 スコアライン溝
16 小溝ライン
CL 中間位置ライン
CO 円弧の中心(曲線の瞬間中心)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドのフェース表面部に、トウ・ヒール方向に沿って所定深さの複数本のスコアライン溝を設けており、該複数本のスコアライン溝の最トウ側端と最ヒール側端との中間を通り、スコアライン溝に直交するフェース表面の中間位置ラインに対し、少なくとも該中間位置ラインよりもトウ寄り領域のフェース表面部には前記スコアライン溝よりも浅くて幅の狭い数多くの小溝ラインを設けており、前記中間位置ラインよりもトウ寄り領域の該小溝ラインは、ソール上又はソールよりも下方の位置であって、前記中間位置ラインよりもヒール寄りに中心を有する円弧状であり、トップ側に凸な円弧状曲線であって、該曲線の接線方向はトウ側に近づくに従って上下方向に近づき、
前記小溝ラインは、前記中間位置ラインよりもトウ寄り領域のフェース表面部であるトウ側部分の他に、前記中間位置ラインよりもヒール寄り領域のフェース表面部のトウ・ヒール方向に沿った曲線のヒール側部分を有する
ことを特徴とするゴルフクラブ。
【請求項2】
中間位置ラインからトウ寄り領域の小溝ラインは、中間位置ラインから該小溝ラインの曲線に沿ってトウに近づくに従って漸次曲率が大きくなるように変化している請求項1記載のゴルフクラブ。
【請求項3】
ヘッドのフェース面の上方部は下方部に比べて相対的に小溝ラインを密に設けている請求項1又は2記載のゴルフクラブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−120921(P2012−120921A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−75503(P2012−75503)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【分割の表示】特願2007−120369(P2007−120369)の分割
【原出願日】平成19年4月28日(2007.4.28)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】