説明

ゴルフ試打装置

【課題】スイングアーム機構を備えた構成において、その重心バランスを崩すことなく、飛距離向上が実現可能な構成のゴルフ試打装置を提供する。
【解決手段】ゴルフクラブを保持して試打可能に回転制御されるスイングアーム機構を備えたゴルフ試打装置において、スイングアーム機構を設けた上体部と、上体部を前傾角調整可能に支持する下胴部と、下胴部を高さ調整可能に支持するベース部と、ベース部を支持する台脚部と、下胴部をスイングアーム機構と連動して水平回転させる打力補助機構とからなる。ベース部は台脚部に回転可能に支持されてなり、打力補助機構は、ベース部と共回り可能にベース部に一体的に設けた主ギアと、台脚部に固定された駆動源としてのモータと、モータをスイングアーム機構とは独立して制御可能としたサーボ手段と、モータの駆動力を主ギアに伝達してベース部を介し下胴部を水平回転させる伝達ギアとからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゴルフクラブの性能評価等のため機械的にテストスイング(試打)するゴルフ試打装置に係り、より詳しくは飛距離を向上する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からゴルフクラブの製造開発では、実際にゴルフボールを打つテストスイングをして、コンピュータによるシュミレーション分析から、そのゴルフクラブの性能を評価することが行われている。テストスイングは人間が行うこともあるが、これを機械的に実行させるためのゴルフ試打装置(スイングロボットやショットロボットと称されることもある)も開発されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
即ち、従来のゴルフ試打装置は、特許文献1・2に示されるように、腕に相当する第一アームと手に相当する第二アームとによってスイングアーム機構を構成し、これらを連動して回転させることで、第二アームで保持したゴルフクラブのテストスイングを実行するものである。なお、第一アームと第二アームは、回転方向を同じくして連動するものの、回転軸の位置を異にすると共に、別個の駆動用モータにより回転角度や回転速度をそれぞれ独立的に制御することによって、多様なクラブ旋回軌跡パターンを実行可能としている。また、ゴルフクラブの保持手段(クランプ手段)として、第二アームにクラブ軸を回転軸とする捻回機構を設け、これを更に別の駆動用モータで回転させることで、手首の返しを模したスイングが可能となり、より人間に近いスイングを実行するものである。
【0004】
一方、特許文献3に示されるゴルフ試打装置は、腰に相当する装置胴体の一部に回転駆動部を設け、該回転駆動部をオシレーティングドライブ等によって往復回転させることによってテストスイングし、ゴルフクラブのトルクを測定するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平9−149958号公報
【特許文献2】特許第3285484号掲載公報
【特許文献3】特開2001−29516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ゴルフクラブに要求される性能の一つに飛距離がある。特に、ドライビングショットを担うドライバーの開発にあたっては、飛距離向上が重要なポイントとなっている。人間の場合、主として腕の振りと腰の振りの二つの要素で飛距離を調整するが、特許文献1・2に示されたゴルフ試打装置の場合は、腰の振りに相当する回転部がないため、スイングアーム機構のみによって飛距離を調整することになる。具体的には、駆動用モータの出力調整により、スイングアーム機構の回転速度等を上下することで、飛距離を制御することになる。つまり、従来装置の場合、飛距離を向上させるためには、スイングアーム機構の駆動源として最大出力の大きいモータを採用することが必要となるが、大出力のモータは重量が重く、装置全体の重心バランスを最適なものに設計すると、自ずと装置が大型化する。
【0007】
これに対して、特許文献3に示されたゴルフ試打装置は、逆に、腰の振りに相当する装置胴部に設けた回転駆動部の回転のみによってスイングするものであるから、そのままでは飛距離の向上を図ることができない。そこで、スイングアーム機構を備える特許文献1・2の構成と、胴部に回転駆動部を備える特許文献3の構成を組み合わせ、アームの回転と胴部の回転を併用することにより、飛距離向上を図ることが考えられる。
【0008】
しかしながら、特許文献3に示された構成は、回転駆動部が胴部の前傾角度を調整する部分(特許文献3において回転軸17)よりも上に設けられているため、重心バランスを安定させ難い。つまり、上述した組み合わせでは、能動的駆動部分であるスイングアーム機構と胴部の回転駆動部の全てが、前述した角度調整部(回転軸17)の上部に集約されることになるため、装置上部での揺れが激しくなる上、角度調整部(回転軸17)にかかる負担も大きく、飛距離の向上はもちろんのこと、安定したテストスイングすら期待し難くなる。こうした装置上部の揺れや角度調整部の負担を解消して、安定したテストスイングを実行するためには、やはり装置の大型化が避けられない。
【0009】
本発明は、上述した従来技術の課題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、スイングアーム機構を備えた構成において、その重心バランスを崩すことなく、飛距離向上が実現可能な構成のゴルフ試打装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために本発明では、ゴルフクラブを保持してゴルフボールを試打可能に回転制御されるスイングアーム機構を備えたゴルフ試打装置において、前記スイングアーム機構を設けた上体部と、該上体部を前傾角調整可能に支持する下胴部と、該下胴部を高さ調整可能に支持するベース部と、該ベース部を支持する台脚部と、前記下胴部を前記スイングアーム機構と連動して水平回転させる打力補助機構とからゴルフ試打装置を構成するという手段を用いた。
【0011】
また、ベース部は下胴部を回転不能に支持すると共に台脚部に回転可能に支持されてなり、打力補助機構を、前記ベース部と共回り可能に該ベース部に一体的に設けた主ギアと、台脚部に固定された駆動源としてのモータと、該モータをスイングアーム機構とは独立して制御可能としたサーボ手段と、前記モータの駆動力を前記主ギアに伝達して前記ベース部を介し前記下胴部を水平回転させる伝達ギアとから構成するという具体的手段を用いる。
【0012】
他の具体的手段として、ベース部は下胴部を回転可能に挿入支持すると共に台脚部に回転不能に支持され、打力補助機構を、前記下胴部の下端に設けた主ギアと、前記ベース部の内部に配置された駆動源としてのモータと、該モータをスイングアーム機構とは独立して制御可能としたサーボ手段と、前記モータの駆動力を前記主ギアに伝達して前記下胴部を水平回転させる伝達ギアとから構成するという手段を用いる。
【0013】
さらに、スイングアーム機構を構成する具体的手段として、スイングアーム機構は、上腕部に相当する第一アームと、該第一アームの遊端に枢着された下腕部に相当する第二アームと、該第二アームに設けられゴルフクラブを着脱可能に保持するクランプ手段と、前記第一アームを変速可能に旋回操作する旋回手段と、前記第二アームを変速可能に回動する回動手段とを備え、前記旋回手段による第一アームの旋回動と前記回動手段による第二アームの回動とを独立制御すべく構成する。また、この構成において、スイングアーム機構は、さらにクランプ手段をゴルフクラブのシャフト軸周りに回動操作する捻回手段を備えることもある。
【発明の効果】
【0014】
上述した手段を採用した本発明によれば、スイングアーム機構と、これと連動して下胴部を水平回転させる打力補助機構を備えるため、腕の振りと腰の振りに相当する二つの回転機構によって、従来に比して最大飛距離を向上させることができる。また、打力補助機構は、相当重量を有するものでありながら、ベース部寄りに配置されるから、装置全体の低重心に寄与して、スイングアーム機構のみのものから装置を大型化することなく、依然として安定したテストスイングが可能となる。同時に、前傾角調整部に過剰な負担がかからず、テストスイングに必要な装置全体の強度を保ちつつ、揺れのない安定したテストスイングが可能である。さらに、本発明のスイングアーム機構によれば、旋回手段および回動手段による第一・第二の両アームの移動速度、また捻回手段によるクランプ手段の捻回角度を別個に制御することで、リストターン等のモデルプレーヤによる手首の動きを含む任意かつ多様なパターン(クラブ旋回軌跡)を得ることができて、各種パターンに対応した多様な試験結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係るゴルフ試打装置を示したもので、図中、10はゴルフクラブCを着脱可能に保持するスイングアーム機構、20は前記スイングアーム機構10および該機構10にテストスイングを実現させるための後述する第一・第二動力伝達経路を設けた上体部、30は鉛直方向に立設し上体部20を支持する下胴部、40は鉛直方向に立設し下胴部を支持するベース部、50はベース部40を支持する台脚部であって、さらに60は打力補助機構である。前記上体部20は、図2に示される通り、下胴部30との連結部である角度調整軸21によって、スイングアーム機構10と共に前傾角度を例えば30度の範囲で調整できるように構成されている。また、この下胴部30は高さ調整部31によって、上体部20と共に例えば20〜50cmの範囲で上下に伸縮して高さ調整できるように構成されている。これら角度調整および高さ調整は、例えば油圧コントロールによって制御することができる。さらに、台脚部50は等角度に四本の設置脚部51を迫り出して設け、テストスイング時の装置の揺れを規制している。
【0016】
なお、図1中、70は装置のコントロールユニットであり、所定のプログラムをインストールしたパーソナルコンピュータ71を用い、マウス72やキーボード73等の入力装置により、上述した角度調整や高さ調整等の装置設定を行うと共に、スイングアーム機構10や打力補助機構60の回転速度や回転角度等のスイング設定を行い、さらにCRTディスプレイ74等の表示装置によって、テストスイングの分析結果を表示するものである。このコントロールユニット70による制御方法やテストショットの分析方法は、本出願人による特許出願(特許文献1)に開示されている通りである。
【0017】
この実施形態において打力補助機構60は、図3にも示すように、ベース部40を台脚部50の平板プレート52に適宜ベアリングを介して正逆転可能に枢支すると共に、その下部に平歯車からなる主ギア61を設け、前記平板プレート52にそれぞれ配された駆動源としてのサーボモータ62および減速のための伝達ギア63を設け、サーボモータ62の駆動力を伝達ギア63を介して主ギア61に伝達し、もってベース部40を正逆(往復)に水平回転可能に制御するものである。また、ベース部40は中空の角柱状に成型され、これに同じく角柱状に成型された下胴部30を挿入嵌合することで、高さ調整を可能としつつ、ベース部40の回転と共回りして、スイングアーム機構10と共に上体部20を往復回転させるものである。
【0018】
このような構成のゴルフ試打装置にあって、スイングアーム機構10と連動して打力補助機構60を作動するように、サーボモータ62を上記コントロールユニット70で制御することで、スイングアーム機構10の振りに打力補助機構60の振りを加えた状態でテストスイングすることができる。つまり、腕の振りと腰の振りの二要素によってスイングする人間の動きに似せた動作によって、飛距離を向上することができる。また、打力補助機構60は装置の下方に設けられるため、これが装置の低重心化に寄与して、台脚部50を大型化したり、各支持部を補強することなく、テストスイング時の揺れ防止機能も同時に高めることができる。なお、打力補助機構60は例えばインパクト時を0度として±30度の範囲で回動させるなどの制御が可能であるが、スイングアーム機構10の打力を補助する範囲であれば作動タイミングや回動範囲を限定するものではない。
【0019】
次に、図4は、本発明の第二実施形態に係るゴルフ試打装置の打力補助機構80を示したもので、ベース部81および下胴部82を共に円柱状に成型すると共に、下胴部82をベース部81に挿入することで、下胴部82を高さ調整および回転可能に支持している。そして、下胴部82の下端には主ギア83を形成すると共に、ベース部81の内部に駆動源としてのサーボモータ84および該サーボモータ84の駆動力を前記主ギア83に伝達する減速ギア85を設けることで、下胴部82を往復回転可能に構成し、その結果、上記第一実施形態と同様の動作および作用効果が得られる。
【0020】
なお、本発明において下胴部およびベース部は鉛直に立設するものであるが、打力補助機構におけるモータ軸の角度は鉛直であっても水平であってもよい。だたし、モータ軸を水平とするなど、モータ軸と下胴部やベース部の立設軸との間に角度が生じた場合は、伝達ギアとしてベベルギアを採用するなどして、鉛直方向にある下胴部あるいはベース部を往復回転させるようにモータの出力軸を角度変換する必要がある。
【0021】
一方、スイングアーム機構10の構成は、特許文献1に開示されている通りであるが、その概略をを説明すると、上体部20上にはバックスイングトップ位置を0度として、インパクト対応位置を経てフォロースルーエンド位置に至る360度の範囲にわたって旋回可能な第一アーム11を設けると共に、この第一アーム11の遊端部にはプラス90度からマイナス90度の合計180度の範囲にわたって回動可能な第二アーム12を枢着している。
【0022】
ここで、上述の第一アーム11は上腕部に相当し、第二アーム12は下腕部に相当するものであって、上述の第二アーム12の上面にはクランプ装置13を取付け、このクランプ装置13にゴルフクラブCのグリップ部を着脱可能に固定すべく構成している。
【0023】
続いて、図5を用いて、第一アーム11および第二アーム12に対する2系統の独立動力伝達経路の構成について説明する。上述の上体部20の一側下面に、可逆回転および速度変更可能な旋回手段としての第一モータ14を取付けると共に、上述の上体部20の下面中間部から他側下方に延びるブラケット15を取付けて、このブラケット15の延出端部下面には、可逆回転および速度変更可能な回動手段としての第二モータ16を取付けている。これら各モータ14、16としては制御電流に比例した回転速度で回転子を指定方向に回転し得る交流サーボモータなどを用いる。
【0024】
第一アーム11と第一モータ14とは、複数のプーリおよびタイミングベルトによって接続され、第一モータ14の回転力をこれらプーリおよびタイミングベルトを介して第一アーム11の基端部に独立伝達する第一の動力伝達経路を構成している。
【0025】
また第二アーム12と第二モータ16との間にも、複数のプーリおよびタイミングベルトが設けられ、第二モータ16の回転力を第二アーム12の基端部に独立伝達する第二の動力伝達経路を構成している。
【0026】
以上のようにスイングアーム機構を構成したので、上腕部に相当する第一アーム11は上述の旋回手段(第一モータ14参照)により変速可能に旋回操作され、この第一アーム11の遊端に枢着された下腕部に相当する第二アーム12は上述の回動手段(第二モータ16参照)により変速可能される。しかも、上述の旋回手段(第一モータ14参照)による第一アーム11の旋回動と上述の回動手段(第二モータ16参照)による第二アーム12の回動とはそれぞれ独立制御されるので、旋回手段(第一モータ14参照)および回動手段(第二モータ16参照)による両アーム11・12の移動速度を適宜に変速制御することで、リストターン等のモデルプレーヤによる手首の動きを含む任意かつ多様なパターン(クラブ旋回軌跡)を得ることができて、各種パターンに対応した多様な試験結果を得ることができる効果がある。
【0027】
当該構成に加えて、更に独立制御されるサーボモータにより、クランプ装置13をゴルフクラブCのシャフト軸周りに回動させる捻回手段(サーボモータ)を設けることで、より多様なスイングパターンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一実施形態に係るゴルフ試打装置の全体斜視図
【図2】同、ゴルフ試打装置の側面図
【図3】同、打力補助機構の平面図
【図4】本発明の第二実施形態に係るゴルフ試打装置の打力補助機構を示した概略図
【図5】本発明に係るゴルフ試打装置のスイングアーム機構を示した一部切欠断面図
【符号の説明】
【0029】
10 スイングアーム機構
20 上体部
30 下胴部
40 ベース部
50 台脚部
60 打力補助機構
70 コントロールユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフクラブを保持してゴルフボールを試打可能に回転制御されるスイングアーム機構を備えたゴルフ試打装置において、前記スイングアーム機構を設けた上体部と、該上体部を前傾角調整可能に支持する下胴部と、該下胴部を高さ調整可能に支持するベース部と、該ベース部を支持する台脚部と、前記下胴部を前記スイングアーム機構と連動して水平回転させる打力補助機構とからなることを特徴としたゴルフ試打装置。
【請求項2】
ベース部は台脚部に回転可能に支持されてなり、打力補助機構は、前記ベース部と共回り可能に該ベース部に一体的に設けた主ギアと、台脚部に固定された駆動源としてのモータと、該モータをスイングアーム機構とは独立して制御可能としたサーボ手段と、前記モータの駆動力を前記主ギアに伝達して前記ベース部を介し前記下胴部を水平回転させる伝達ギアとからなる請求項1記載のゴルフ試打装置。
【請求項3】
ベース部は下胴部を回転可能に支持し、打力補助機構は、前記下胴部の下端に設けた主ギアと、前記ベース部の内部に配置された駆動源としてのモータと、該モータをスイングアーム機構とは独立して制御可能としたサーボ手段と、前記モータの駆動力を前記主ギアに伝達して前記下胴部を水平回転させる伝達ギアとからなる請求項1記載のゴルフ試打装置。
【請求項4】
スイングアーム機構は、上腕部に相当する第一アームと、該第一アームの遊端に枢着された下腕部に相当する第二アームと、該第二アームに設けられゴルフクラブを着脱可能に保持するクランプ手段と、前記第一アームを変速可能に旋回操作する旋回手段と、前記第二アームを変速可能に回動する回動手段とを備え、前記旋回手段による第一アームの旋回動と前記回動手段による第二アームの回動とを独立制御すべく構成した請求項1、2または3記載のゴルフ試打装置。
【請求項5】
スイングアーム機構は、さらにクランプ手段をゴルフクラブのシャフト軸周りに回動操作する捻回手段を備えた請求項4記載のゴルフ試打装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−244673(P2007−244673A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73003(P2006−73003)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000137878)株式会社ミヤマエ (16)