説明

サイクリスト用ズボンに用いられる保護エレメント

本発明は、サイクリスト用ズボンに用いられる保護エレメントであって、該保護エレメントが、前側の保護領域(1)と後側の保護領域(2)とを有しており、前側の保護領域と後側の保護領域とが、くびれ部(3)により互いに結合されている形式のものに関する。保護領域(1,2)およびくびれ部(3)は、それぞれ1つの表面(10)を有しており、該表面(10)は三次元の構造体を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリスト用ズボン(自転車走行者が着用するズボン)に用いられる保護エレメントであって、該保護エレメントが、前側の保護領域と後側の保護領域とを有しており、前側の保護領域と後側の保護領域とが、くびれ部により互いに結合されており、保護領域とくびれ部とが、それぞれ1つの表面を有している形式のものに関する。
【0002】
サイクリスト用ズボンとは、本発明の枠内では、単にズボンだけではなく、上半身部分も含む、自転車走行のための女男用の競走用スポーツウェア(Renndress)であると理解される。このようなズボンもしくはスポーツウェアは、プロのサイクリストによっても、プロではないサイクリストによっても、路上走行時にも、トラック走行時にも、マウンテンバイキングにおいても使用される。このようなズボンもしくはスポーツウェアは、スポーツ用自転車の細長い競走用サドルへの長時間の持続的な着座時に、身体の保護を提供するために役立つ。細長いサドルにより、このサドルに直接接触している身体部分は、保護措置が講じられていない限り、該当する身体部分の重度の損傷をもたらし得る最も高い局所的な負荷を受ける。このような損傷から保護するために、特別なサイクリスト用ズボンが知られている。このサイクリスト用ズボンは、最も高く負荷される箇所に保護パッドを備えている。これにより、高い負荷をかけられた身体箇所を圧力および摩擦から保護することができる。
【0003】
圧力および摩擦に対するこのような保護を提供するためには、保護エレメントを、サイクリスト用ズボンまたはサイクリストのために製造された競走用スーツに縫い付けるか、または貼り付けることが知られている。このためには、ズボンの股上の領域に配置されたシートパッドが使用されている。このパッドは、パッドを詰められた天然皮革またはパッドを詰められた合成皮革から成っていてよい。ゲルクッションの使用も公知である。
【0004】
この公知の保護エレメントは、摩擦を減じる平滑な表面を有している。付加的な摩擦減少を達成するためには、天然皮革から製造された保護エレメントに使用前にグリースを塗布することが通常である。織り込まれたパッドでは摩耗を減じる布が使用されている。これらの保護エレメントには、パッドと使用者の皮膚との間の摩耗をできるだけ小さく維持するために保護エレメントが極めて平滑な表面を有している点が共通している。
【0005】
しかし、従来使用されている保護エレメントは、以下のような欠点を有している。すなわち、自転車走行時に、高められた身体的な負荷に基づいて発汗が生じる。この発汗は、サイクリスト用ズボンの保護エレメントの領域でも発生する。汗として存在する湿分は、一般的に皮膚と湿分とが接触した場合にそうであるように、サイクリストの皮膚の弱体化をもたらす。皮膚の弱体化によって、皮膚の機械的な負荷耐性が減じられる。これによって、摩擦による皮膚の損傷の恐れが高められ、これにより、能力が低減される。
【0006】
本発明は、上記欠点を除去しようとするものである。本発明の根底を成す課題は、同じ緩衝特性で、発汗時にも皮膚の弱体化を阻止する、サイクリスト用ズボンに用いられる保護エレメントを提供することである。この課題を解決するための本発明による構成では、保護エレメントの表面が、三次元の構造体を有しているようにした。
【0007】
本発明によれば、汗導出を可能にし、したがって湿分による皮膚への負荷を減じるために寄与する、サイクリスト用ズボンに用いられる保護エレメントが提供される。これによって、皮膚の機械的な負荷耐性があまり強く減じられないので、摩擦による損傷の恐れが著しく減じられている。この場合、サイクリスト用ズボンに用いられる保護エレメントのための表面として三次元の構造体を設けることは、従来の解決手段とは対照的である。従来の解決手段は、できるだけ平滑な、つまり二次元の表面が保護エレメントのためには最も適しているという理論から出発する。なぜならば、平滑な表面に基づいて摩擦が小さなレベルに維持されるからである。しかしこの場合、湿分が、抜け出る手段を有しておらず、これにより発生した湿分による皮膚への不断の負荷に基づいて皮膚の弱体化が行われることは考慮されていない。湿分の、持続的な皮膚への作用は、皮膚の機械的な負荷耐性を継続的に減じるので、摩擦による損傷の可能性が高くなる。皮革パッドにおけるグリースの使用により、この効果は強化される。なぜならば、グリースが孔の閉鎖をもたらすことがあり、これによって、空気循環が完全に阻止されているからである。
【0008】
本発明の別の実施形態では、三次元の構造体が編布から製造されている。このような製造により、三次元形状の十分に自由な構成が可能となる。したがって、編布の種々異なる形成により、種々異なる特性を有する種々の構造体を生ぜしめることができる。さらに、編布は高い弾性を有している。この弾性は、保護エレメントの、運動および身体への最適な適合のために寄与する。
【0009】
構造体に、ポケットおよび/または窪みが形成されていると有利である。ポケットおよび/または窪みは、汗の収容を可能にする。同時にポケットもしくは窪みは、空気で満たされているので、空気で満たされたポケットおよび窪み内への湿分の収容により、空気による汗の吸収が行われて、結果として蒸発する。これによって、特に負荷されている領域からの湿分の搬出が可能となる。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態では、構造体に空気通路が設けられている。この空気通路は、同じく、特に発汗によって負荷された領域から湿分を導出するために寄与し、このことは湿分による皮膚への負荷のさらなる減少をもたらす。
【0011】
本発明の別の実施形態および改良形は、請求項2以下に記載されている。本発明の実施形態を図面に示し、以下に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】保護エレメントを示す図である。
【図2】別の実施形態の保護エレメントを示す図である。
【図3】窪みが形成された表面の三次元の構造体を部分的に示す拡大した斜視図である。
【図4】ポケットが形成された表面の三次元の構造体を部分的に示す拡大した斜視図である。
【図5】保護エレメントの断面の概略図である。
【図6】別の実施形態の保護エレメントを所定の領域で破断して示す図である。
【図7】付加的な実施形態の保護エレメントを所定の領域で破断して示す図である。
【0013】
サイクリスト用ズボン(自転車走行者が着用するズボン)に用いられる、実施例として選択された保護エレメントは、前側の保護領域1と、後側の保護領域2とを有している。これらの保護領域1,2は、くびれ部3により互いに結合されている。保護エレメントは、少なくとも所定の領域において、その外周に縁部4を備えている。この縁部4は、保護エレメントをサイクリスト用ズボン(図示せず)に取り付けるために役立つ。保護エレメントとサイクリスト用ズボンとの間の結合は、縫付け、接着、溶接またはこれに類するものにより行うことができる。
【0014】
保護エレメントには、ゲルを充填されたクッション5,6および7が設けられている(図1および図2)。この実施形態の変化形では、クッションは、たとえば図5に図示されているように発泡させられたクッションであってもよい。これらのクッション5,6および7は、解剖学的に成形され、人間工学的に裁断されている。これらのクッション5,6および7は、衝撃の効果的な減衰を提供し、均一な圧力分配を可能にする。クッション5,6および7の図示された形状は、単に1つの可能な変化形態にすぎない。クッション5,6および7は、図6および図7に図示されているような別の形状を有していてもよい。
【0015】
図6による実施形態では、たとえばクッション5,6の他に、クッション7も設けられている。しかし、このクッション7は分割されて形成されている。これによって、クッション部分71およびクッション部分72が生ぜしめられている。さらに、くびれ部3の領域に、付加的にクッション11が設けられている。このクッション11は同じく分割されて形成されており、これによって、クッション部分111およびクッション部分112が生ぜしめられている。図7による実施形態でも、クッション5,6および7が設けられている。しかし、これらのクッション5,6および7は、別の実施形態に比べて小さな表面を有している。これによりこれらのクッション5,6および7の間に形成された自由空間は、一方ではくびれ部3の領域においてクッション12で充填されていて、他方では後側の保護領域2において2つのクッション13で充填されている。クッション11の分割された形態ならびに付加的なクッション12および13の配置により、長手方向の継ぎ目14と、横方向の継ぎ目15とが生ぜしめられている。長手方向の継ぎ目14と、横方向の継ぎ目15とは、保護エレメントの可動性を改善し、ひいては身体への適合性を高める。
【0016】
保護エレメント、ひいては保護領域1,2およびくびれ部3は、1つの表面10を有している。この表面10は、図1および図2による実施形態では、保護エレメント全体を、この保護エレメントの、皮膚に面した側で取り囲んでいる。図6および図7による実施形態では、表面10は、クッション5〜7およびクッション11〜13の領域にしか設けられていない。表面10は、三次元の構造体を有している。この三次元の構造体は、編布から製造されている。この編布を製造するためには、種々異なる糸を使用することができる。この場合、糸は、有利には、アレルギーを引き起こさない、制菌、防臭および静電防止特性を有する皮膚になじむ(hautsympatisch)糸である。
【0017】
保護領域1の構造体には、図2による実施形態では窪み8が形成されている。この窪み8は、くびれ部3にまで延びている。図6による実施形態では、窪み8は、クッション7および11上に設けられている。これらの窪み8は発生した汗を収容し、この汗を誘導し、かつこの汗を発汗の多い前側の保護領域1から迅速に搬送する。後側の領域2には、図2による実施形態では、ポケット9が形成されている。これらのポケット9は、全体図では、ハニカム状の構造体を成している。このハニカム状の構造体は、所定の領域においてくびれ部3にまで延びている。ポケット9は、図6および図7による実施形態でも設けられている。しかし、図6および図7のポケット9は、変化させられた形状である。図6では、ポケット9は、クッション5およびクッション6上に設けられている。図7では、全てのクッションが、ポケット9を形成するハニカム状の構造体を備えている。ポケット9は、圧力の、大きな面での分配のために寄与し、したがって快適性を高める。同時に、皮膚は、ポケット9により裏通気(hinterlueftet)される。さらに、ポケット9は、窪み8に匹敵し得るように汗を収容し、その汗を皮膚から迅速に搬出するために寄与する。したがって、窪み8およびポケット9は、乾燥した皮膚感覚を達成するために寄与し、これにより、該当する領域の皮膚の機械的特性は湿分により不都合に影響を与えられないので、特に摩擦による損傷の恐れが著しく減じられている。図1に示した実施形態では、この作用は網状の構造体によって得られる。
【0018】
サイクリスト用ズボンに用いられる保護エレメントの、図5に図示された断面図は、この保護エレメントの構造を明らかにする。前側の保護領域1では、クッション7が発泡させられていることが判る。これに対して、断面で示されたクッション5にはゲルが充填されている。ゲルの充填は、いわゆるゲルパッド18により達成される。ゲルパッド18は、実質的にクッション5の形状を有している。発泡させられたクッション7の形状は、発泡パッド19により再現されている。発泡させられたクッション7もしくは発泡パッド19内には、通気通路16が設けられている。この通気通路16は、垂直方向に配向されている。通気通路16は、保護エレメントの領域の通気および脱気のために役立つ。このようにして、発生した湿分の搬出および新鮮な空気との交換が付加的に改善されている。
【0019】
図5には、さらに、クッション5および7の領域の表面10の三次元の構造体が図示されている。表面10上には、隆起部と凹部とが交互に形成され、この場合、これらの凹部が窪み8もしくはポケット9を形成していることが判る。これは、残りのクッション6および11〜13においても比較可能に形成される。図5からは、同じく、クッション5と表面10との間に中間層17が配置されていることが判る。この中間層17は、一方では減衰特性を有しており、他方では保護エレメントの形状安定性を支援する。
【0020】
本発明による保護エレメントでは、三次元の構造体が、当該三次元の構造体に形成されかつ空気を満たされた窪み8およびポケット9によって、保護エレメントの「通気」構造をもたらす。従来技術から公知の保護エレメントに比べて著しく改善された通気により、著しく改善された気候調整が達成される。この気候調整は、自転車走行時の運動が保護エレメントに伝達されることによって付加的に改善される。これにより生じる、保護エレメントへの変化する圧力によって、窪み8およびポケット9へ圧力が作用し、これによって窪み8およびポケット9が変形させられる。窪み8およびポケット9内に位置する空気の一種のポンプ作用が生じる。このことは、空気の、加速された供給および排出をもたらし、冷却効果を増強する。同時に、湿分を帯びた空気の加速された搬出を生ぜしめ、これによって能力が高められる。上記の作用は、通気通路16が設けられていることによって付加的に高められる。なぜならば、これによって一方では新鮮な空気が下方から保護エレメント内に送られて、他方では湿分を帯びた空気が通気通路16を通って加速して搬出されるからである。
【0021】
さらに、窪み8およびポケット9は、使用者によってサイクリスト用ズボンに使用されたグリースを貯える可能性を提供する。たとえば、グリースの使用が孔の閉鎖をもたらし得る皮革製パッドの場合とは異なり、本発明による保護エレメントでは、三次元の構造体が、グリースを窪み8もしくはポケット9内に、通気機能および脱気機能を損なうことなしに貯えることができる。なぜならば、グリースが窪み8もしくはポケット9に浸透することができるからである。
【0022】
この実施形態に追加して、さらに、構造体に別の空気供給および空気排出を可能にする空気通路(図示せず)を設ける可能性が存在する。この空気通路は、一方では表面10の直接下側に配置されていてよく、他方では構造体内に織り込まれていてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクリスト用ズボンに用いられる保護エレメントであって、該保護エレメントが、前側の保護領域と後側の保護領域とを有しており、前側の保護領域と後側の保護領域とが、くびれ部により互いに結合されており、保護領域とくびれ部とが、それぞれ1つの表面を有している形式のものにおいて、表面(10)が、三次元の構造体を有していることを特徴とする、サイクリスト用ズボンに用いられる保護エレメント。
【請求項2】
前記構造体が、編布から製造されている、請求項1記載の保護エレメント。
【請求項3】
前記構造体に、ポケット(9)が形成されている、請求項1または2記載の保護エレメント。
【請求項4】
前記構造体に、窪み(8)が形成されている、請求項1または2記載の保護エレメント。
【請求項5】
前記構造体に、空気通路が設けられている、請求項1から4までのいずれか1項記載の保護エレメント。
【請求項6】
クッション(5,6,7,11,12,13)が設けられていて、該クッション(5,6,7,11,12,13)にゲルが充填されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の保護エレメント。
【請求項7】
クッション(5,6,7,11,12,13)が設けられていて、該クッション(5,6,7,11,12,13)が発泡させられている、請求項1から6までのいずれか1項記載の保護エレメント。
【請求項8】
発泡させられたクッション(5,6,7,11,12,13)内に通気通路(16)が設けられている、請求項7記載の保護エレメント。
【請求項9】
クッション(5,6,7,11,12,13)と前記表面(10)との間に、中間層(17)が配置されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の保護エレメント。
【請求項10】
クッション(5,6,7,11,12,13)の間に、長手方向の継ぎ目(14)および/または横方向の継ぎ目(15)が形成されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の保護エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−502192(P2012−502192A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525462(P2011−525462)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006395
【国際公開番号】WO2010/025920
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(504303687)エクス−テクノロジー スイス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (23)
【氏名又は名称原語表記】X−Technology Swiss GmbH
【住所又は居所原語表記】Samstagernstrasse 45, CH−8832 Wollerau, Switzerland
【Fターム(参考)】