説明

サイクル試験装置及びサイクル試験方法

【課題】無線通信を行う電子部品に対する耐腐食性を確認することを目的とした、塩水噴霧、乾燥等の条件を組み合わせたサイクル試験にかける場合に、無線通信の信頼性が要求される電子部品の、塩水噴霧、乾燥条件を組み合わせたサイクルに対する正確な寿命回数を知ることができるサイクル試験装置、及び、複合サイクル試験方法を提供することを目的とする。
【解決手段】浸漬部と乾燥炉からなる耐腐食性試験装置と、通信特性センサからなる通信特性読取装置と、被検査品の電子部品を装着する電子部品保持部と該電子部品保持部を上下駆動する運動機構及び装置管理部からなるサイクル試験装置であって、被検査品の電子部品を上下駆動する機能と、耐腐食試験装置の1サイクル試験を実行する機能と、通信特性読取装置の被検査品である電子部品の通信特性を読み取る機能とを備えたことを特徴とするサイクル試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信特性が要求される電子部品の耐腐食性を評価するサイクル試験装置および耐腐食性評価試験のサイクル試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子部品の信頼性を評価する手段として、電子部品の耐腐食性を評価する腐食環境試験がある。従来、この試験方法としては、中性塩化ナトリウム水溶液を噴霧する方法(例えば、日本工業規格 JIS C60068−2−11参照)や、塩水噴霧に乾燥等の条件を組み合わせることにより、より実使用に近い条件で耐腐食性を評価する複合サイクル試験方法(例えば、日本工業規格 JIS C60068−2−52参照)がある。
【0003】
一般に電子部品に実行される複合サイクル試験(サイクル試験)において、例えば、塩水噴霧に関しては、槽内の温度が35℃、相対湿度が98%RHに制御された環境下において、中性に保たれた5wt%の塩化ナトリウム水溶液を噴霧することが規定されており、その規定を満たしたサイクル試験装置が市販されている。
【0004】
しかし、上述のような市販のサイクル試験装置は、1つの槽中に塩水噴霧、乾燥等の工程を繰り返し行うことから、装置自体が非常に大型になる。試験による耐腐食性の判定方法としては、予め規定したサイクル終了後に被検査の電子部品を取り出して、腐食程度を目視で確認するか、機能性を確認するしかできない。というのも、1つの槽中に電子部品の機能性を評価しようとすると、電子部品に対して塩水噴霧を施す一方、機能測定装置に対しては塩水噴霧による腐食を回避しなければならないので、サイクル中に機能劣化をモニタリングすることは難しい。ましてや、無線通信を評価しなければならない電子部品に対して、サイクル中の通信特性をモニタリングすることは市販のサイクル試験装置では非常に困難といえる。
【0005】
従来での電子部品は、各接合部に対する電気的接続信頼性が確保されていれば十分であったが、将来において、あらゆる流通市場への導入が期待されるICタグなどの電子部品には、無線通信の信頼性が要求される場合が多くなっている。例えば、食品業界などに用いられるICタグは、無線通信等の使用後に洗浄、乾燥を行い、再び、再使用するなど実使用においても、相当過酷な環境に曝される場合を考慮しなくてはならない。
【0006】
しかしながら、市販されているサイクル装置は、無線通信を行う電子部品に対して、特定のサイクル履歴を与えた後に試料を取り出し、無線通信ができるかどうかを調べることしかできない。そのために、無線通信の信頼性が要求される電子部品の正確な耐腐食サイクル寿命を知ることができない、という問題点がある(特許文献1参照)。
【0007】
以下に公知文献を記す。
【特許文献1】特許3557530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、上記の問題を解決するために、無線通信の信頼性が要求される電子部品の、塩水噴霧、乾燥条件を組み合わせたサイクルに対する正確な寿命回数を知ることができるサイクル試験装置、及び、複合サイクル試験方法を提供することを目的とす
る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、無線通信を行う電子部品の耐腐食性を確認することを目的とした、塩水噴霧の条件と、乾燥の条件を組み合わせた耐腐食性のサイクル試験装置であって、
浸漬部と乾燥炉からなる耐腐食性試験装置と、通信特性センサからなる通信特性読取装置と、被検査品の電子部品を装着する電子部品保持部と該電子部品保持部を上下駆動する運動機構及び装置管理部からなるサイクル試験装置であって、被検査品の電子部品を上下駆動する機能と、耐腐食試験装置の1サイクル試験を実行する機能と、通信特性読取装置の被検査品である電子部品の通信特性を読み取る機能とを備えたことを特徴とするサイクル試験装置である。
【0010】
本発明の請求項2に係る発明は、無線通信を行う電子部品の耐腐食性を確認することを目的とした、塩水噴霧の処理と、乾燥の処理を組み合わせた耐腐食性のサイクル試験方法であって、
被検査品の電子部品を浸漬処理と乾燥炉処理からなる耐腐食性試験の処理工程と、通信特性センサからなる通信特性読取の処理工程とからなるサイクル試験方法であって、被検査品の電子部品を装着する電子部品保持部を上下駆動による、耐腐食性試験による処理の1サイクルを実行する処理工程と、該1サイクル実行毎に、通信特性読取の処理による被検査品である電子部品の通信特性を読み取る処理工程を備えたことを特徴とするサイクル試験方法である。
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明のサイクル試験装置およびサイクル試験方法は、無線通信の信頼性が要求される電子部品の、耐腐食性を評価するためのサイクルに対する正確な寿命回数を知ることができる、機能を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐腐食性を評価するためのサイクル試験装置及びサイクル試験方法によれば、サイクル試験の途中で必ず通信特性を確認することができることから、電子部品の通信特性に対して正確な寿命回数を測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のサイクル試験装置、及びサイクル試験方法の実施の形態について、図1、2を用いながら詳細に説明する。
【0014】
図1に示すように、浸漬部2、温度制御機能付き磁気撹拌装置10、熱風乾燥炉3、及び電子部品1を保持した電子部品保持部4、運動機構5等が配置された耐腐食性試験装置30と、通信特性センサ8、通信特性センサ保持部9等の通信特性読取装置40と、両装置周辺部には、運動制御コントローラ6、温度センサ7、及び装置管理部50及びネット回線ケーブル、電磁波遮蔽用の板11等が設けられている。
【0015】
図1に示す電子部品1は、本サイクル試験装置で測定する電子部品であり、電子部品保持部4に保持される。運動機構5は、運動制御コントローラ6の制御によって電子部品保持部4を上下駆動させて電子部品1を上、又は下方向へ移動する。電子部品保持部4の上下駆動は、自動化され、予め指示された経路及び手順のプログラムにより逐次搬送される。その搬送先は、浸漬位置22、始点位置20、終点位置20a、通信特性読取位置28、熱風乾燥炉位置23に設定されている。前記プログラムでは、最初に始点位置20から電子部品1を浸漬部2まで降下させ、電子部品1を溶液へ浸漬する。次いで、熱風乾燥炉位置23まで上昇させる。熱風乾燥炉3では、溶液から取り出した後の電子部品1に付着した溶液をとばすための乾燥を行う。次いで、通信特性読取位置28まで下降、通信特性センサ8により通信特性を読み取る。前記浸漬と乾燥、および通信特性読取を1サイクルとし、当該通信特性が正常の場合、次の1サイクルを継続するため、一旦、始点位置20まで降下し、再び検査を継続する。前記当該通信特性が不良の場合は、検査を停止するため、終点位置20aまで降下し、検査を停止する。
【0016】
装置管理部50は、装置全体の動作制御、検査の情報や検査結果をネット回線により集約し、必要な検査データを出力する。
【0017】
以下、本実施例の試験装置を用いたサイクル試験方法の一実施例について具体的に説明する。電子部品1は耐熱テープで電子部品保持部4に固定する。この電子部品保持部4としては、無線通信への影響を与えないように、厚さ1cm程度のセラミックなどの非金属素材であることが必要である。
【0018】
サイクル試験装置は、電子部品1、浸漬部2、温度制御機能付き磁気撹拌装置10、熱風乾燥炉3、電子部品保持部4、運動機構5等の部品、機械を配置して、設置を行う。運動機構制御コントローラ6、温度センサ7、通信特性センサ8、通信特性センサ保持部9等の接続を行う。このとき、上記の電子機器及び電子機器を接続するケーブルに対して、アクリル系部材等で構成された電磁波遮蔽シートなどで覆っておくことが望ましい。これによって、サイクル試験途中に、電子部品1の無線通信に与える電磁波の影響を著しく小さくすることができる。
【0019】
浸漬部2のビーカー内部には電子部品を腐食させるための環境をつくる溶液と、磁気回転子が入っている。温度制御機能付き磁気撹拌装置10は、ビーカー内部の温度を調節するとともに、モーターでビーカー内の水溶液を撹拌する。熱風乾燥炉3は浸漬部2の鉛直上100cmの高さに設置され、乾燥させるための熱風を送風する機能が求められる。
【0020】
通信特性センサ8は、サイクル試験の途中において、浸漬部2と熱風乾燥炉3との鉛直線上の中点上にあり、且つ、通信特性読み取り位置から、規格で決められた距離(例えば、ISO/IEC14443に従うと、10cm)だけ離した位置に保持する。室温状態(25℃)にある電子部品1が、通信特性読み取り位置に到達したときに、通信特性センサ8を用いて通信特性を評価する。また、この通信特性センサ8は、通信特性センサ保持部9において、保持するアームの長さが変えられることから、通信特性センサ8と電子部品1との通信距離を自在に制御することが可能である。
【0021】
運動制御コントローラ6は、運動機構5を制御し、電子部品保持部4を熱風乾燥炉3と浸漬部2を上下方向へ往復させることによって、実環境に近い条件下で電子部品1に腐食損傷を与えるために設けられている。運動制御コントローラ6としては、以下の工程において電子部品保持部4の上下運動を制御する(図2、図3参照)。
【0022】
電子部品保持部4の上下運動の制御では、以下(1a)〜(7g)を順次実行する。
【0023】
図2(a)〜(c)は、耐腐食性試験の処理工程を説明する側断面図である。
【0024】
図2(a)では、電子部品1は始点位置20に停止している。最初の(1a)は、電子部品保持部4を始点位置20から浸漬位置22の浸漬部2まで下降させる。
【0025】
図2(b)では、次いで(2b)は、浸漬部2で撹拌された状態において、電子部品1を一定時間浸漬する。浸漬時間は2〜3秒程度とする。
【0026】
次いで(3c)は、一定時間の浸漬後、電子部品保持部4を浸漬部2から取り出す。以上(1a)、(2b)、(3c)により浸漬処理が終了する。
【0027】
図2(c)では、次いで(4d)は、電子部品保持部4を熱風乾燥炉3まで上昇させる。
【0028】
次いで(5e)は、熱風乾燥炉3において、熱風を吹きかけることで電子部品1を乾燥する。乾燥時間は5秒程度とする。以上(4d)、(5e)により乾燥処理が終了する。
【0029】
図3(a)〜(c)は、通信特性読取の処理工程を説明する側断面図である。
【0030】
図3(a)では、次いで(6f)は、送風乾燥終了後、電子部品保持部4を通信特性読取位置28まで下降させる。
【0031】
次いで(7g)は、通信特性読取位置28に保持した状態で、通信特性センサ8による読み取りを行う。保持時間は1サイクルごとの通信特性を評価する時間として10秒程度とする。以上(6f)、(7g)により通信特性読取の処理が終了する。
【0032】
図3(b)では、読取した通信特性が正常の場合、次の1サイクルを継続するため、一旦、始点位置20まで降下した後、サイクル試験を継続する。
【0033】
図3(c)では、前記当該通信特性が不良の場合は、検査を停止するため、終点位置20aまで降下し、検査を停止する。
【0034】
本発明の試験装置では、(7g)において、1サイクルごとに通信特性を、逐次、評価する。この(1a)〜(7g)の工程を1サイクルとして繰り返すことによって、通信読み取りに対するサイクル試験を行うことができる。
【0035】
以上より、無線通信の信頼性が要求される電子部品の、耐腐食性を評価するためのサイクルに対する正確な寿命を知ることができる。
【0036】
本発明の形態による試験装置の試作品を用いてサイクル試験を行った際の実施例について以下に説明する。なお、今回の試験に用いた電子部品は、弊社で試作開発している3種類(タグA、タグB、タグC)のICタグ(3.5cm×7.5cm)の試料である。
【実施例1】
【0037】
最初に、水分の影響があるかを検証するために、資料のICタグ(以下ICタグCと記す)を用いた通信実験を行った。具体的には浸漬部2に充填された純水に一度浸漬して取り出した後に通信特性を評価した。その後に室温(25℃)の乾燥ドライヤ3aを5秒間当てた後、再度、通信特性を評価した。その結果、浸漬直後ではICタグCの通信特性が不合格に対して、送風後ではICタグCの通信特性が安定し、合格を確認した。このことから、本発明の試験装置では、乾燥ドライヤ3aの送風によって水分の影響を著しく排除できることがわかり、ICタグの乾燥条件が設定され、ICタグのサイクルに対する寿命を評価できることを確認した(図2(c)参照)。
【0038】
実施例1では、浸漬部2には、100mlビーカーに中性の5wt%の塩化ナトリウム水溶液と磁気回転子を入れた。温度制御機能付磁気画攪拌装置10により、塩化ナトリウム水溶液を試験温度の35℃に保持した。最初に、電子部品保持部4の先端の電子部品(ICタグ)1を塩化ナトリウム水溶液に3秒間浸漬した。次いで、熱風乾燥炉3では85℃の熱風を5秒吹きかけて、ICタグ1の試料温度が85℃に到達、乾燥した。前記実施例1の条件設定によって、浸漬部2と熱風乾燥炉3とのサイクルをICタグ1の試料に1サイクルの負荷を実行した。次いで、1サイクル毎に、試料のICタグ1が通信特性センサ8による通信がとれるかどうかを調べた。試験を始めて最初に通信不良が生じたときのサイクル数を、ICタグ1の通信寿命とした。以下、通信寿命をサイクル寿命と記す。
【0039】
次に、浸漬部2と熱風乾燥炉3とのサイクルに、製造条件の異なる、ICタグ(以下ICタグAと記す)とICタグ(以下ICタグBと記す)へサイクル試験を実行した。その結果、ICタグAは、52サイクルではじめて通信不良を示した。一方でICタグBは、136サイクルではじめて通信不良を示した。
【0040】
この実験結果を受けて、ICタグAのサイクル寿命は52サイクル、ICタグBのサイクル寿命は136サイクルと判断した。実施例1の評価結果を下記の表1に記す。
【0041】
【表1】

通信特性読取の判定では、設定した閾値(検査規格)による。
【0042】
無線通信用の電子部品の耐腐食性、特に通信特性の耐性の評価を数値化できた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態によるサイクル試験装置の構成を示す側断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の実施形態によるサイクル試験の耐腐食試験工程を示す説明図である。
【図3】(a)〜(c)は、本発明の実施形態によるサイクル試験の通信特性読取工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1…電子部品
2…浸漬部
3…熱風乾燥炉
3a…乾燥ドライヤ
4…電子部品保持部
5…運動機構
6…運動制御コントローラ
7…温度センサ
8…通信特性センサ
9…通信特性センサ保持部
10…温度制御機能付き磁気撹拌装置
11…電磁波遮蔽板
20…始点位置
20a…終点位置
22…浸漬位置
23…熱風乾燥炉位置
28…通信特性読取位置
30…耐腐食性試験装置
40…通信特性読取装置
50…装置管理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信を行う電子部品の耐腐食性を確認することを目的とした、塩水噴霧の条件と、乾燥の条件を組み合わせた耐腐食性のサイクル試験装置であって、
浸漬部と乾燥炉からなる耐腐食性試験装置と、通信特性センサからなる通信特性読取装置と、被検査品の電子部品を装着する電子部品保持部と該電子部品保持部を上下駆動する運動機構及び装置管理部からなるサイクル試験装置であって、被検査品の電子部品を上下駆動する機能と、耐腐食試験装置の1サイクル試験を実行する機能と、通信特性読取装置の被検査品である電子部品の通信特性を読み取る機能とを備えたことを特徴とするサイクル試験装置。
【請求項2】
無線通信を行う電子部品の耐腐食性を確認することを目的とした、塩水噴霧の処理と、乾燥の処理を組み合わせた耐腐食性のサイクル試験方法であって、
被検査品の電子部品を浸漬処理と乾燥炉処理からなる耐腐食性試験の処理工程と、通信特性センサからなる通信特性読取の処理工程とからなるサイクル試験方法であって、被検査品の電子部品を装着する電子部品保持部を上下駆動による、耐腐食性試験による処理の1サイクルを実行する処理工程と、該1サイクル実行毎に、通信特性読取の処理による被検査品である電子部品の通信特性を読み取る処理工程を備えたことを特徴とするサイクル試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−63413(P2009−63413A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231283(P2007−231283)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】