説明

サイジング装置とサイジング方法

【課題】サイジング装置を工夫してサイジング性能を安定させ、矯正のばらつきを減少させて焼結部品の生産の歩留まりを向上させることを課題としている。
【解決手段】サイジング装置を、サイジング金型1のサイジングダイ2がサイジング孔6の側面6aに段差部6bとサイジング用突起6cを有し、サイジング対象の焼結部品がサイジング孔6に押し込まれるときと押し出されるときにサイジング用突起6cによって部品の凸部の寸法が矯正され、前記凸部の底面が段差部6bに押し当てられた位置で上パンチ3と下パンチ4により焼結部品が圧縮されるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1の面と第2の面が交差した角に凸部を有する焼結部品、例えば、底面と側面が交差した角に凸部を有するベアリングキャップなどの寸法を矯正するサイジング装置とそれを用いたサイジング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結部品は、通常、原料粉末を金型で成形する圧粉工程、その工程を経て得られた成形体を焼結炉で焼き固める焼結工程、終結後に部品(焼結体)の寸法をサイジング金型を用いて矯正するサイジング工程を経て製造される。
【0003】
ベアリングキャップは、エンジンブロックに対してクランクシャフトを回転自在に支える軸受を保持する部材であり、鋳鉄、鉄系焼結合金、アルミニウム合金などで製造されたものが市場に提供されている。以下の説明は、焼結されたベアリングキャップのサイジングを例に挙げて行う。
【0004】
その焼結ベアリングキャップ(以下では単にベアリングキャップと言う)のサイジングに用いられる一般的なサイジング装置とサイジング金型が、例えば、下記特許文献1に開示されている。
【0005】
その特許文献1が記載しているサイジング金型を図11に示す。図中2はサイジングダイ、3は上パンチ、4は下パンチ、5はコアロッド、20は焼結部品(図のそれはベアリングキャップ)である。
【0006】
そのベアリングキャップは、図12、図13に示すように、第1の面(底面)21とそれに対して垂直な第2の面(側面)22が交差した角に、第2の面22上から軸対称に側方(幅方向)に張り出す凸部23を有している。
【0007】
サイジングダイ2は、サイジング孔6を有しており、ベアリングキャップの凸部設置部の寸法矯正がそのサイジング孔6のサイジング面(側面6a)によってなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−254252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ベアリングキャップにおいて組み合わせる相手製品の位置決めのために、図12の凸部
幅寸法Wには高い寸法精度が要求される。ところが、特許文献1が開示しているようなサイジング装置では、サイジング後のスプリングバックにより矯正のばらつきが大きくて焼結部品の寸法Wの部分の矯正後寸法が安定しない。
【0010】
この発明は、サイジング装置を工夫してサイジング後の凸部寸法を安定させ、それにより、規格外の寸法をもつ不良品を減少させて焼結部品の生産の歩留まりを向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、第1の面に座ぐり部を有し、さらに、前記第1の面とその第1の面に垂直な第2の面が交差した角に前記第1の面から幅方向に突出する凸部を有する焼結部品の寸法を矯正するサイジング装置と、そのサイジング装置を用いるサイジング方法を提供する。
【0012】
この発明が提供するサイジング装置は、サイジング孔を有するサイジングダイと、上パンチと、下パンチを含んだサイジング金型を備え、
前記サイジングダイは、前記サイジング孔の前記第2の面に対応する側面に、前記凸部の底面に対応させた段差部と、内側に突出するサイジング用突起を有し、
前記サイジング用突起が、前記段差部よりも前記サイジング孔の入口側、かつ、前記段差部から前記凸部の金型軸方向寸法よりも大きく離れた位置に配置されたものである。
【0013】
前記サイジング用突起のサイジング孔側面からの突出量は、鉄系の粉末で形成される焼結ベアリングキャップのサイジングでは、0.03mm〜0.05mm程度がよかったが、その値に限定されるものではない。焼結部品の材質やサイジングの条件などを考慮して適正な値に設定すればよい。
【0014】
この発明が提供するサイジング方法は、上記のサイジング装置を用いて実施する。この方法では、前記第1の面が下になる向きにしてサイジングダイ上にセットした焼結部品を
、上パンチで押圧してサイジングダイのサイジング孔に押し込み、
その押し込みの過程において、前記凸部を前記サイジング用突起で部品幅方向に加圧し、
次いで、前記凸部が前記段差部に押し当てられた位置でその焼結部品を、前記凸部がサイジング孔の前記側面に密着するように上パンチと下パンチで加圧し、
しかる後、焼結部品を下パンチで突き上げて前記凸部を、再度、前記サイジング用突起で部品幅方向に加圧する。
【0015】
この方法は、半球状の座ぐり部を有しているベアリングキャップのサイジングに好適に利用することができるが、サイジング対象はベアリングキャップに限定されない。
【0016】
サイジング対象が、例えば、ベアリングキャップである場合、サイジング前は、粉末成形金型の形状規制により前記凸部の底面の角に平面の面取り部を有するものになっている。
【0017】
そのようなベアリングキャップは、エンジンブロックに組み付ける際に凸部の角が座の入口に引っかかり易いことから、その角を予め丸めておくことが要求される。
【0018】
この発明のサイジング方法によれば、焼結部品を上パンチと下パンチで圧縮して変形させるときに前記段差部に押し当てられた前記凸部の底面を、前記段差部によって底面の角に丸みがつくように成形することができ、この方法を採用することで、サイジング後に行う凸部の底面の角を丸めるための機械加工を不要となすことができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明のサイジング金型及びサイジング方法によれば、焼結部品をサイジング孔に押し込むときとサイジング孔から押し出すときに、サイジング用突起によって前記凸部がそれぞれ加圧され、1サイクルで2回の矯正が行われる。このうち、2回目の矯正が安定した条件の下で行われ、そのことによって、矯正後寸法が安定する。
【0020】
サイジング前の焼結部品は、寸法のばらつきが大きい。そのために、従来のサイジング装置やサイジング方法では、サイジングの条件(サイジング代とサイジング後のスプリングバック量)が変動し、これが矯正後寸法を大きくばらつかせる原因になっている。
【0021】
本願発明では、その問題が解消される。それは以下のメカニズムによるものである。すなわち、本願発明では、焼結部品がサイジング孔の段差部に押し当てられた位置でその焼結部品を上パンチと下パンチで加圧、変形させ、部品の凸部をサイジング孔の側面に密着させる。
【0022】
これにより、部品をサイジング孔から押し出す2回目の矯正(二次矯正)でのサイジング条件(サイジング代とサイジング後のスプリングバック量)がほぼ一定になって矯正後寸法が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明のサイジング装置の一例を示す断面図
【図2】図1の装置に用いたサイジングダイの断面図
【図3】図2のサイジングダイの平面図
【図4】図2のサイジングダイに設けたサイジング用突起の拡大断面図
【図5】図2のサイジングダイを縦に切断して示す斜視図
【図6】焼結部品をサイジング装置にセットした状態を示す図
【図7】焼結部品をサイジングダイのサイジング孔に途中まで押し込んだ状態を示す図
【図8】焼結部品をサイジング孔の段差部に押し当て、パンチで金型軸方向に圧縮した状態を示す図
【図9】圧縮後の焼結部品を下パンチでサイジング孔から押し出した状態を示す図
【図10】一次矯正後に金型軸方向圧縮を行うことの有効性の評価結果を示す図表
【図11】従来のサイジング金型の一例を示す断面図
【図12】サイジング対象の一例(ベアリングキャップ)を示す断面図
【図13】図12のベアリングキャップの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明のサイジング装置とサイジング方法の実施の形態を説明する。この発明のサイジング装置に利用するサイジング金型の一例を図1〜図5に示す。このサイジング金型1は、図6〜図9に示した焼結部品20のサイジングを行うものであって、サイジングダイ2と、上パンチ3と、この上パンチ3に対向させた下パンチ4とコアロッド5を組み合わせて構成されている。
【0025】
図示の焼結部品20は、図12、図13に示したベアリングキャップである。そのベアリングキャップ(焼結部品20)は、第1の面(底面)21と第1の面に対して垂直な第2の面22(側面)が交差した角に第2の面22上から軸対称に側方(幅方向)に張り出す凸部23を有している。また、第1の面21の幅方向途中に半円状の座ぐり部24を有し、さらに、第1の面21と凸部23との間に締結ボルトを通すサイド孔25を有している。そしてさらに、凸部23の底面の角に平面の面取り部26を有している。
【0026】
サイジングダイ2には、金型軸方向に貫通したサイジング孔6が設けられている。そのサイジング孔6は、第2の面22に対応する側面6aと、凸部23の底面に対応する段差部6bと、この発明を特徴づけるサイジング用突起6cを有しており、その孔の側面6aに設けたサイジング用突起6cが焼結部品20の凸部23を加圧してその凸部23の第2の面22からの突出量p(図12の凸部設置部の幅方向寸法W)を調整する。側面6aはサイジングを行う面ではない。
【0027】
サイジング用突起6cは、側面6aの金型軸方向途中、具体的には、段差部6bよりもサイジング孔6の入口側に設けられている。
【0028】
また、このサイジング用突起6cは、前記段差部6bから凸部23の金型軸方向寸法hよりも大きく離れた位置に設けられており、その突起の金型軸方向の端部は、側面6aからなだらかに立ち上がってサイジング用突起6cによる無理のない加圧がなされるようになっている。
【0029】
なお、サイジング用突起6cの側面6aからの突出量p1は、図12のベアリングキャップのサイジングにおいては、その値が過大であるとサイド孔25が傾くなどの不具合が生じることがあるので、そのような問題を起こさない数値を選ぶ。例示の金型は、その突出量p1を0.03mmに設定したが、この値に制限されるものではない。
【0030】
このサイジング用突起6cの有効部(側面6aからの立ち上がり部を除いた部分)の金型軸方向寸法L(図4参照)は、5mm程度が適当である。
【0031】
上パンチ3は、焼結部品20の第3の面(上面)を成形する成形面3aを有している。また、下パンチ4は、焼結部品20の第1の面(底面)21を成形する成形面4aと、座ぐり部24に対応した凸半円状の成形面4bを有している。
【0032】
焼結部品20には、締結ボルトを通すサイド孔25が設けられる。そのために例示のサイジング金型1には、サイド孔25を矯正するコアロッド5を含ませているが、サイジング対象の形状次第では、コアロッド5の含まれない金型になる。
【0033】
下パンチ4は、位置固定のベースプレート(図示せず)に支持される。また、上パンチ3はプレス機の上ラム(図示せず)によって駆動される上パンチプレート(これも図示せず)に、サイジングダイ2はプレス機の下ラムによって駆動されるヨークプレート(これらも図示せず)にそれぞれ支持される。
【0034】
このサイジング装置を用いたサイジングは、以下の手順で行われる。
まず、下パンチ4を、図6に示すように、成形面4aがサイジングダイ2の上面と面位置がほぼ揃うところまで上昇させ、この状況下で上パンチ3を降下させて下パンチ4との間に焼結部品20を挟む。
【0035】
次に、上パンチ3と下パンチ4を同調させてサイジングダイ2に対して相対的に降下させることで上記の状況を維持しながら上パンチ3により焼結部品20をサイジング孔6に押し込む(図7)。
【0036】
その押し込みの過程で凸部23がサイジング用突起6cにより部品幅方向に加圧されて一次矯正がなされる。ただし、この段階では、サイジング前の部品寸法のばらつきの影響が出て部品の寸法はまだ安定しない。
【0037】
そこで、焼結部品20がサイジング孔の段差部6bに押し当てられた図8の位置で、下パンチ4とサイジングダイ2の相対位置を固定し、この状況下で上パンチ3をさらに降下させて上パンチ3と下パンチ4で焼結部品20を金型軸方向に圧縮する。
【0038】
この圧縮で素材の一部を変形させて部品の凸部設置部の幅を広げる。そして幅方向外側に向って変位する凸部23をサイジング孔の側面6aで拘束してその凸部23を側面6aに密着させる。
【0039】
その後、図9に示すように、上パンチ3と下パンチ4をサイジングダイ2に対して相対的に上昇させて下パンチ4で焼結部品20をサイジング孔6から押出し、その過程で、凸部23をサイジング用突起6cにより部品幅方向に再度加圧する。
【0040】
この2回目の加圧(二次矯正)は、側面6aによる成形作用で幅が一定に調整された凸部設置部について行われるため、二次矯正でのサイジング代、サイジング後のスプリングバック量などのサイジング条件がほぼ一定し、矯正のばらつきが小さくなって完成した部品の寸法が安定する。
【0041】
焼結部品20が図示のベアリングキャップの場合、凸部23の底面の角に平面の面取り部26が形成されるが、この発明の方法によれば、サイジング孔6に設ける段差部6bのコーナを円弧状にし、そこに凸部23の底面の角を押し付けてその角を丸みがつくように成形することができ、凸部の底面の角の丸め加工をサイジング工程で実現することができる。
【実施例1】
【0042】
図2〜図5のサイジングダイ2と図11のサイジングダイ2を使用して図12、図13の焼結部品(ベアリングキャップ)20のサイジングを実施し、凸部幅寸法Wについて評価した。
【0043】
各サイジングダイ2の図2、図3に示した各部の寸法諸元は、サイジング孔6の孔幅w1=104.37mm、段差部6bの孔幅w2=96.4mm、サイジング孔6の孔幅直角方向寸法s=21mm、孔入口から段差部6bまでの距離d1=63mm、孔入口からサイジング用突起6cの有効部までの距離d2=40mm、図4に示したサイジング用突起6cの有効部の金型軸方向寸法L=5mm、サイジング用突起6cの突出量p1=0.03mm、サイジング用突起6cの端部の傾斜角θ=5°である。
【0044】
評価試験では、一次矯正後の部品を金型軸方向に圧縮し、そのときの加圧力を600kN〜1200kNまで200kN刻みで変動させ、加圧力と焼結部品の凸部設置部幅(104.4mm)の標準偏差を調査した。各加圧力での標準偏差6σの測定は、標本数n=10として行なった。
【0045】
その結果を図10に示す。この図10では、加圧力を大きくするほど標準偏差が小さくなっている。このデータから、一次矯正後の焼結部品を圧縮して二次矯正することで、圧縮せずに二次矯正する場合に比べて矯正後寸法のばらつきを小さくし得ることがわかる。
【0046】
なお、実施例のデータでは、1000kN以下の加圧力では規格値に対する標準偏差の変動幅が0.03mm以下となっている。これは、十分な圧力により焼結部品の圧縮、変形が十分に進行しているためである。従って、焼結部品がサイジング孔の段差部に押し当てられた位置で行なう加圧は、部品の種類や寸法などに応じた下限圧力を求め、その下限圧力以上の圧力を加えることで部品の凸部をサイジング孔の側面に密着するところまで塑性変形させて変位させるように行う必要がある。
【符号の説明】
【0047】
1 サイジング金型
2 サイジングダイ
3 上パンチ
3a 成形面
4 下パンチ
4a,4b 成形面
5 コアロッド
6 サイジング孔
6a 側面
6b 段差部
6c サイジング用突起
20 焼結部品
21 第1の面
22 第2の面
23 凸部
24 座ぐり部
25 サイド孔
26 面取り部
p 凸部の突出量
h 凸部の金型軸方向寸法
L サイジング用突起の有効部の金型軸方向長さ
w1 サイジング孔の孔幅
w2 段差部の孔幅
s サイジング孔の孔幅直角方向寸法
d1 孔入口から段差部までの距離
d2 孔入口からサイジング用突起の有効部までの距離
p1 サイジング用突起の突出量
θ サイジング用突起の端部の傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面(21)に座ぐり部(24)を有し、さらに、前記第1の面(21)とその第1の面に垂直な第2の面(22)から幅方向に突出する凸部(23)を有する焼結部品(20)の寸法を矯正するサイジング装置であって、
サイジング孔(6)を有するサイジングダイ(2)と、上パンチ(3)と、下パンチ(4)を含んだサイジング金型(1)を備え、
前記サイジングダイ(2)は、前記サイジング孔(6)の前記第2の面(22)に対応する側面(6a)に、前記凸部(23)の底面に対応させた段差部(6b)と、内側に突出するサイジング用突起(6c)を有し、
前記サイジング用突起(6c)が、前記段差部(6b)よりも前記サイジング孔(6)の入口側、かつ、前記段差部(6b)から前記凸部(23)の金型軸方向寸法よりも大きく離れた位置に配置されたサイジング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のサイジング装置を使用し、前記第1の面(21)が下になる向きにしてサイジングダイ(2)上にセットした焼結部品(20)を、上パンチ(3)で押圧して前記サイジング孔(6)に押し込み、
その押し込みの過程において、前記凸部(23)を前記サイジング用突起(6c)で部品幅方向に加圧し、次いで、前記凸部(23)が前記段差部(6b)に押し当てられた位置でその焼結部品(20)を上パンチ(3)と下パンチ(4)で加圧し、
しかる後、焼結部品(20)を下パンチ(4)で突き上げて前記凸部(23)を再度、前記サイジング用突起(6c)で部品幅方向に加圧する焼結部品のサイジング方法。
【請求項3】
前記焼結部品(20)がベアリングキャップであり、そのベアリングキャップのサイジングを前記サイジング装置で行う請求項2に記載の焼結部品のサイジング方法。
【請求項4】
サイジングを行う前の前記焼結部品(20)が前記凸部(23)の底面の角に平面の面取り部(26)を有し、その焼結部品(20)を上パンチ(3)と下パンチ(4)で圧縮して変形させるときに前記段差部(6b)に押し当てられた前記凸部(23)の底面を、前記段差部(6b)よって底面の角に丸みがつくように成形する請求項2又は3に記載の焼結部品のサイジング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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