サイレントチェーンの製造方法
【課題】 各リンクプレートに均一な予荷重を付与することを可能としたサイレントチェーンの製造方法を提供する。
【解決手段】 油圧サーボ式牽引装置の上部つかみ具41と下部つかみ具42とに有端チェーン31の両端をそれぞれ連結し、例えば上部つかみ具41に対して下部つかみ具42を下降させる。これにより、有端チェーン31には引張力Fが印加され、有端チェーン31を構成する各第1リンク列3と各第2リンク列7とに均一な予荷重が付与される。次に、有端チェーン31の両端を特定リンク列71とピン9とによって連結することにより、サイレントチェーン1を組み立てる。次に、プレス装置にサイレントチェーン1をセットし、所定の押下力Gをもって上部ウエッジ45を特定リンク列71に接続された2つの第1リンク列3の間に上部ウエッジ45を進入させ、特定リンク列71のピン孔11間に予荷重を付与する。
【解決手段】 油圧サーボ式牽引装置の上部つかみ具41と下部つかみ具42とに有端チェーン31の両端をそれぞれ連結し、例えば上部つかみ具41に対して下部つかみ具42を下降させる。これにより、有端チェーン31には引張力Fが印加され、有端チェーン31を構成する各第1リンク列3と各第2リンク列7とに均一な予荷重が付与される。次に、有端チェーン31の両端を特定リンク列71とピン9とによって連結することにより、サイレントチェーン1を組み立てる。次に、プレス装置にサイレントチェーン1をセットし、所定の押下力Gをもって上部ウエッジ45を特定リンク列71に接続された2つの第1リンク列3の間に上部ウエッジ45を進入させ、特定リンク列71のピン孔11間に予荷重を付与する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイレントチェーンの製造方法に係り、詳しくは各リンクプレートに均一な予荷重を付与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載されるレシプロエンジンでは、運転時にカムシャフトやオイルポンプを確実に作動させる必要があるため、これらが滑りを起こさない動力伝達部材を介してクランクシャフトに連結されている。動力伝達部材としては、ローラチェーンやタイミングベルトが一般に採用された時期もあったが、静粛性や耐久性に優れたサイレントチェーンが現在の主流となっている。サイレントチェーンはリンクプレートやガイドプレートからなるリンク列をピンによって連結した無端状のものであり、各リンクプレートにはスプロケットに噛み合うリンク歯がそれぞれ形成されている。
【0003】
サイレントチェーンの製造設備では、リンクプレートやガイドプレートをピンで連結して無端状のサイレントチェーンをかたちづくった後、一対のスプロケット(あるいは、ローラ)にサイレントチェーンを掛け渡し、両スプロケットを離間させることでサイレントチェーンに引張力を作用させてリンクプレートに塑性域の予荷重(プリストレス)を付与する(特許文献1参照)。予荷重を付与することにより、各リンクプレートにおけるピン孔間の距離が規定値に整えられるだけでなく、残留オーステナイトがマルテンサイトに変化することで各リンクプレートの強度やピン孔表面の硬度が著しく向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−505689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等が特許文献1の予荷重付与方法を試行したところ、以下に述べる問題が判明した。すなわち、図11に示すように、一対のスプロケット61,62にサイレントチェーン63を掛け渡して引張力fを付与した場合、両スプロケット61,62間(範囲A)では各リンクプレート63にf/2の予荷重が作用するが、サイレントチェーン63が両スプロケット61,62に巻き掛けられた部位(範囲B)ではリンクプレート64に作用する予荷重が不均一かつ比較的小さなものとなる。これは、範囲Bにおいては、サイレントチェーン63に作用する引張力が両スプロケット61,62への巻き掛け部位によって変化することによる。引用文献1にはリンクプレート64への予荷重の付与をスプロケット61,62を回転させながら行うことも記載されているが、目標とする予荷重がリンクプレート64の塑性域相当のものであるため(すなわち、サイレントチェーン63の破断荷重の70〜80%程度と極めて大きいことから)、この方法を採った場合には、各リンクプレート64間で付与される予荷重の大きさや付与時間に過不足が生じる他、各リンクプレート64を連結するピン65の折損等が避けられず、各リンクプレート64に均一な予荷重を付与することが殆ど不可能であることが判明した。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、各リンクプレートに均一な予荷重を付与することを可能としたサイレントチェーンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面では、一対のピン孔(11)が穿設された複数枚の第1リンクプレート(2)を要素とする複数の第1リンク列(3)と、それぞれに一対のピン孔(13,15)が穿設された複数枚の第2リンクプレート(5)および2枚のガイドプレート(6)を要素とする複数の第2リンク列(7)とを前記ピン孔に嵌挿されるピン(9)によって交互に連結してなるサイレントチェーン(1)の製造方法であって、前記複数の第1リンク列と前記複数の第2リンク列との中から少なくとも1つを特定リンク列(71)として除いたうえで、当該複数の第1リンク列と当該複数の第2リンク列とを前記ピンによって交互に連結して有端チェーン(31)を形成する有端チェーン形成工程と、前記有端チェーンの両端を牽引手段(41,42)にセットし、当該牽引手段によって当該有端チェーンの全長にわたって所定の引張力を作用させる牽引工程と、引張力を作用させた有端チェーンの両端を前記有端チェーン形成工程で除いた特定リンク列とピンとによって連結することによって無端チェーンを形成する無端チェーン形成工程と、前記特定リンク列を引張力印加手段(45,46)にセットし、当該引張力印加手段によって当該特定リンク列のピン孔間に所定の引張力を印加する引張力印加工程とを含む。
【0008】
また、本発明の第2の側面では、前記引張力印加手段が、前記特定リンク列に連結された2つの第1リンク列または第2リンク列間にくさび(45)を進入させることによって前記引張力を印加する。
【発明の効果】
【0009】
第1の側面によれば、牽引工程では特定リンク列を除いた各リンク列に引張力による予荷重が均一に作用する一方、引張力印加工程では特定リンク列に引張力による予荷重が作用する。したがって、牽引工程における引張力と引張力印加工程における引張力とを同一に設定すれば、各リンク列(すなわち、各リンクプレート)に均一な予荷重を付与することが可能となる。また、第2の側面によれば、比較的簡便な構成を採りながら、特定リンク列に引張力(予荷重)を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るサイレントチェーンの要部を示す側面図である。
【図2】実施形態に係るサイレントチェーンの要部を示す平面図である。
【図3】実施形態に係るサイレントチェーンの要部分解斜視図である。
【図4】実施形態に係る第1リンクプレートを示す側面図である。
【図5】実施形態に係る第2リンクプレートを示す側面図である。
【図6】実施形態に係るガイドプレートを示す側面図である。
【図7】実施形態に係る有端チェーンを示す側面図である。
【図8】実施形態に係る牽引工程を正面および側面から示す図である。
【図9】実施形態に係る引張力印加工程を示す正面図である。
【図10】実施形態に係る予荷重付与後のピン間距離のばらつきを示すグラフである。
【図11】従来の予荷重印加方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を自動車用エンジンのカムシャフト駆動に供されるサイレントチェーンの製造に適用した一実施形態を詳細に説明する。なお、サイレントチェーンの構成要素については、説明の便宜上、図1中の下方を下とする。
【0012】
<サイレントチェーンの構成>
図1〜図3に示すように、本実施形態のサイレントチェーン1は、鋼板を素材とする2枚の第1リンクプレート2からなる第1リンク列3と、どちらも鋼板を素材とする2枚の第2リンクプレート5および2枚のガイドプレート6からなる第2リンク列7と、両リンク列3,7を交互に連結するピン9とから構成されている。第2リンクプレート5は、ガイドプレート6が外側に位置するかたちでガイドプレート6に重ねられている。また、両第1リンク列3は、2枚重ねにされた状態で、両第2リンクプレート5の内側に介装されている。
【0013】
図4に示すように、第1リンクプレート2には、所定の間隔で一対のピン孔11が穿設されるとともに、図示しないスプロケットに噛み合う一対のリンク歯12が下側に形成されている。図5に示すように、第2リンクプレート5には、一対のピン孔13が第1リンクプレート2と同一の位置に穿設されるとともに、第1リンクプレート2と同一形状のリンク歯14が内側に形成されている。図6に示すように、ガイドプレート6には、一対のピン孔15が第1リンクプレート2と同一の位置に穿設されているが、スプロケットの側面に係合するように内側に膨出部16が形成されている。なお、第2リンクプレート5は第1リンクプレート2よりも板厚が小さく設定されており、ガイドプレート6は第2リンクプレート5よりも板厚が小さく設定されている。
【0014】
第1リンクプレート2のピン孔11は、第1リンクプレート2がピン9に対して相対回動できるように、ピン9の外径よりもその径が若干大きく設定されている。一方、第2リンクプレート5およびガイドプレート6のピン孔13,15は、ピン9が圧入/一体化されるように、ピン9の外径よりもその径が若干小さく設定されている。
【0015】
ピン9は、高強度の鋼棒を素材としており、第1リンク列3との相対回動による摩耗を抑制すべく、その表面に炭化クロム(CrC)および炭化バナジウム(VC)の皮膜が形成されている。
【0016】
<サイレントチェーンの製造工程>
(有端チェーン形成工程)
サイレントチェーン1の製造にあたり、製造作業者は先ず、図7に示すように、特定リンク列として1つの第2リンク列7を特定リンク列71として除いたうえで、各第1リンク列3と各第2リンク列7とをピン9によって連結して有端チェーン31を組み立てる。なお、有端チェーン31の組み立ては、手作業で行ってもよいし、自動組立機を用いて行ってもよい。
【0017】
(牽引工程)
次に、製造作業者は、図8に示すように、油圧サーボ式牽引装置(装置の全体は図示せず)の上部つかみ具41と下部つかみ具42とに有端チェーン31の両端をそれぞれ連結し、例えば上部つかみ具41に対して下部つかみ具42を下降させる。これにより、有端チェーン31には引張力Fが印加され、有端チェーン31を構成する各第1リンク列3と各第2リンク列7とに均一な予荷重が付与される。
【0018】
(無端チェーン形成工程)
次に、製造作業者は、有端チェーン31の両端を特定リンク列71とピン9とによって連結することにより、有端チェーン(すなわち、サイレントチェーン1)を組み立てる。
【0019】
(引張力印加工程)
次に、製造作業者は、プレス装置(装置の全体は図示せず)にサイレントチェーン1をセットし、図9に示すように、リンク歯14が上方に位置するかたちで、プレス装置の上部ウエッジ45と下部ウエッジ46との間に特定リンク列71をセットする。本実施形態の場合、上部ウエッジ45および下部ウエッジ46は先端がテーパ状に形成されており、上部ウエッジ45のテーパ角は15°に設定され、下部ウエッジ46のテーパ角は60°に設定されている。
【0020】
しかる後、製造作業者は、所定の押下力Gをもって上部ウエッジ45を下部ウエッジ46に対して下降させる。すると、特定リンク列71に接続された2つの第1リンク列3の間に上部ウエッジ45が進入し、ピン9を介して作用する引張力F’によって特定リンク列71のピン孔11間に予荷重が付与される。押下力Gは、上部ウエッジ45のテーパ角に応じて算出されるその水平成分、上部ウエッジ45と第1リンク列3との摩擦抵抗等に基づき、引張力F’が牽引工程での引張力Fと等しくなる値に設定される。
【0021】
本実施形態によれば、上述した構成を採ったことにより、サイレントチェーン1を構成する全てのリンク列3,7に対して均一な予荷重を付与することができる。図10に実線で示すように、予荷重付与後のサイレントチェーン1においては、破線で示した従来のものに較べ、ピン9間の距離のばらつき(すなわち、予荷重の不均一)がごく小さく抑えられている。
【0022】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、無端チェーンを形成する際に1つの第1リンク列を特定リンク列として除くようにしたが、第2リンク列を特定リンク列としてもよいし、互いに連結された複数のリンク列を特定リンク列としてもよい。また、上記実施形態では、引張力印加手段としてウェッジを採用したが、牽引装置によって2本の無端チェーンに引張力を作用させた後に連結する(すなわち、牽引手段に引張力印加手段を兼ねさせる)ようにしてもよい。また、上記実施形態では、サイレントチェーンを組み立てた後に特定リンク列を引張力を印加するようにしたが、単体の特定リンク列に引張力を印加した後に無端チェーンと連結することにより、サイレントチェーンを組み立てるようにしてもよい。また、上記実施形態では、幅方向の中央に第1リンク列が配置されたサイレントチェーンを採用したが、幅方向の中央に第2リンク列が配置されたサイレントチェーンを採用してもよい。その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば、第1リンクプレートや第2リンクプレートの枚数、両リンクプレートやガイドプレートの形状、牽引装置や引張力印加装置等についても適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 サイレントチェーン
2 第1リンクプレート
3 第1リンク列
5 第2リンクプレート
6 ガイドプレート
7 第2リンク列
9 ピン
11 ピン孔
13 ピン孔
15 ピン孔
31 有端チェーン
41 上部つかみ具(牽引手段)
42 上部つかみ具(牽引手段)
45 上部ウエッジ(引張力印加手段)
46 下部ウエッジ(引張力印加手段)
71 特定リンク列
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイレントチェーンの製造方法に係り、詳しくは各リンクプレートに均一な予荷重を付与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載されるレシプロエンジンでは、運転時にカムシャフトやオイルポンプを確実に作動させる必要があるため、これらが滑りを起こさない動力伝達部材を介してクランクシャフトに連結されている。動力伝達部材としては、ローラチェーンやタイミングベルトが一般に採用された時期もあったが、静粛性や耐久性に優れたサイレントチェーンが現在の主流となっている。サイレントチェーンはリンクプレートやガイドプレートからなるリンク列をピンによって連結した無端状のものであり、各リンクプレートにはスプロケットに噛み合うリンク歯がそれぞれ形成されている。
【0003】
サイレントチェーンの製造設備では、リンクプレートやガイドプレートをピンで連結して無端状のサイレントチェーンをかたちづくった後、一対のスプロケット(あるいは、ローラ)にサイレントチェーンを掛け渡し、両スプロケットを離間させることでサイレントチェーンに引張力を作用させてリンクプレートに塑性域の予荷重(プリストレス)を付与する(特許文献1参照)。予荷重を付与することにより、各リンクプレートにおけるピン孔間の距離が規定値に整えられるだけでなく、残留オーステナイトがマルテンサイトに変化することで各リンクプレートの強度やピン孔表面の硬度が著しく向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−505689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等が特許文献1の予荷重付与方法を試行したところ、以下に述べる問題が判明した。すなわち、図11に示すように、一対のスプロケット61,62にサイレントチェーン63を掛け渡して引張力fを付与した場合、両スプロケット61,62間(範囲A)では各リンクプレート63にf/2の予荷重が作用するが、サイレントチェーン63が両スプロケット61,62に巻き掛けられた部位(範囲B)ではリンクプレート64に作用する予荷重が不均一かつ比較的小さなものとなる。これは、範囲Bにおいては、サイレントチェーン63に作用する引張力が両スプロケット61,62への巻き掛け部位によって変化することによる。引用文献1にはリンクプレート64への予荷重の付与をスプロケット61,62を回転させながら行うことも記載されているが、目標とする予荷重がリンクプレート64の塑性域相当のものであるため(すなわち、サイレントチェーン63の破断荷重の70〜80%程度と極めて大きいことから)、この方法を採った場合には、各リンクプレート64間で付与される予荷重の大きさや付与時間に過不足が生じる他、各リンクプレート64を連結するピン65の折損等が避けられず、各リンクプレート64に均一な予荷重を付与することが殆ど不可能であることが判明した。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、各リンクプレートに均一な予荷重を付与することを可能としたサイレントチェーンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面では、一対のピン孔(11)が穿設された複数枚の第1リンクプレート(2)を要素とする複数の第1リンク列(3)と、それぞれに一対のピン孔(13,15)が穿設された複数枚の第2リンクプレート(5)および2枚のガイドプレート(6)を要素とする複数の第2リンク列(7)とを前記ピン孔に嵌挿されるピン(9)によって交互に連結してなるサイレントチェーン(1)の製造方法であって、前記複数の第1リンク列と前記複数の第2リンク列との中から少なくとも1つを特定リンク列(71)として除いたうえで、当該複数の第1リンク列と当該複数の第2リンク列とを前記ピンによって交互に連結して有端チェーン(31)を形成する有端チェーン形成工程と、前記有端チェーンの両端を牽引手段(41,42)にセットし、当該牽引手段によって当該有端チェーンの全長にわたって所定の引張力を作用させる牽引工程と、引張力を作用させた有端チェーンの両端を前記有端チェーン形成工程で除いた特定リンク列とピンとによって連結することによって無端チェーンを形成する無端チェーン形成工程と、前記特定リンク列を引張力印加手段(45,46)にセットし、当該引張力印加手段によって当該特定リンク列のピン孔間に所定の引張力を印加する引張力印加工程とを含む。
【0008】
また、本発明の第2の側面では、前記引張力印加手段が、前記特定リンク列に連結された2つの第1リンク列または第2リンク列間にくさび(45)を進入させることによって前記引張力を印加する。
【発明の効果】
【0009】
第1の側面によれば、牽引工程では特定リンク列を除いた各リンク列に引張力による予荷重が均一に作用する一方、引張力印加工程では特定リンク列に引張力による予荷重が作用する。したがって、牽引工程における引張力と引張力印加工程における引張力とを同一に設定すれば、各リンク列(すなわち、各リンクプレート)に均一な予荷重を付与することが可能となる。また、第2の側面によれば、比較的簡便な構成を採りながら、特定リンク列に引張力(予荷重)を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態に係るサイレントチェーンの要部を示す側面図である。
【図2】実施形態に係るサイレントチェーンの要部を示す平面図である。
【図3】実施形態に係るサイレントチェーンの要部分解斜視図である。
【図4】実施形態に係る第1リンクプレートを示す側面図である。
【図5】実施形態に係る第2リンクプレートを示す側面図である。
【図6】実施形態に係るガイドプレートを示す側面図である。
【図7】実施形態に係る有端チェーンを示す側面図である。
【図8】実施形態に係る牽引工程を正面および側面から示す図である。
【図9】実施形態に係る引張力印加工程を示す正面図である。
【図10】実施形態に係る予荷重付与後のピン間距離のばらつきを示すグラフである。
【図11】従来の予荷重印加方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を自動車用エンジンのカムシャフト駆動に供されるサイレントチェーンの製造に適用した一実施形態を詳細に説明する。なお、サイレントチェーンの構成要素については、説明の便宜上、図1中の下方を下とする。
【0012】
<サイレントチェーンの構成>
図1〜図3に示すように、本実施形態のサイレントチェーン1は、鋼板を素材とする2枚の第1リンクプレート2からなる第1リンク列3と、どちらも鋼板を素材とする2枚の第2リンクプレート5および2枚のガイドプレート6からなる第2リンク列7と、両リンク列3,7を交互に連結するピン9とから構成されている。第2リンクプレート5は、ガイドプレート6が外側に位置するかたちでガイドプレート6に重ねられている。また、両第1リンク列3は、2枚重ねにされた状態で、両第2リンクプレート5の内側に介装されている。
【0013】
図4に示すように、第1リンクプレート2には、所定の間隔で一対のピン孔11が穿設されるとともに、図示しないスプロケットに噛み合う一対のリンク歯12が下側に形成されている。図5に示すように、第2リンクプレート5には、一対のピン孔13が第1リンクプレート2と同一の位置に穿設されるとともに、第1リンクプレート2と同一形状のリンク歯14が内側に形成されている。図6に示すように、ガイドプレート6には、一対のピン孔15が第1リンクプレート2と同一の位置に穿設されているが、スプロケットの側面に係合するように内側に膨出部16が形成されている。なお、第2リンクプレート5は第1リンクプレート2よりも板厚が小さく設定されており、ガイドプレート6は第2リンクプレート5よりも板厚が小さく設定されている。
【0014】
第1リンクプレート2のピン孔11は、第1リンクプレート2がピン9に対して相対回動できるように、ピン9の外径よりもその径が若干大きく設定されている。一方、第2リンクプレート5およびガイドプレート6のピン孔13,15は、ピン9が圧入/一体化されるように、ピン9の外径よりもその径が若干小さく設定されている。
【0015】
ピン9は、高強度の鋼棒を素材としており、第1リンク列3との相対回動による摩耗を抑制すべく、その表面に炭化クロム(CrC)および炭化バナジウム(VC)の皮膜が形成されている。
【0016】
<サイレントチェーンの製造工程>
(有端チェーン形成工程)
サイレントチェーン1の製造にあたり、製造作業者は先ず、図7に示すように、特定リンク列として1つの第2リンク列7を特定リンク列71として除いたうえで、各第1リンク列3と各第2リンク列7とをピン9によって連結して有端チェーン31を組み立てる。なお、有端チェーン31の組み立ては、手作業で行ってもよいし、自動組立機を用いて行ってもよい。
【0017】
(牽引工程)
次に、製造作業者は、図8に示すように、油圧サーボ式牽引装置(装置の全体は図示せず)の上部つかみ具41と下部つかみ具42とに有端チェーン31の両端をそれぞれ連結し、例えば上部つかみ具41に対して下部つかみ具42を下降させる。これにより、有端チェーン31には引張力Fが印加され、有端チェーン31を構成する各第1リンク列3と各第2リンク列7とに均一な予荷重が付与される。
【0018】
(無端チェーン形成工程)
次に、製造作業者は、有端チェーン31の両端を特定リンク列71とピン9とによって連結することにより、有端チェーン(すなわち、サイレントチェーン1)を組み立てる。
【0019】
(引張力印加工程)
次に、製造作業者は、プレス装置(装置の全体は図示せず)にサイレントチェーン1をセットし、図9に示すように、リンク歯14が上方に位置するかたちで、プレス装置の上部ウエッジ45と下部ウエッジ46との間に特定リンク列71をセットする。本実施形態の場合、上部ウエッジ45および下部ウエッジ46は先端がテーパ状に形成されており、上部ウエッジ45のテーパ角は15°に設定され、下部ウエッジ46のテーパ角は60°に設定されている。
【0020】
しかる後、製造作業者は、所定の押下力Gをもって上部ウエッジ45を下部ウエッジ46に対して下降させる。すると、特定リンク列71に接続された2つの第1リンク列3の間に上部ウエッジ45が進入し、ピン9を介して作用する引張力F’によって特定リンク列71のピン孔11間に予荷重が付与される。押下力Gは、上部ウエッジ45のテーパ角に応じて算出されるその水平成分、上部ウエッジ45と第1リンク列3との摩擦抵抗等に基づき、引張力F’が牽引工程での引張力Fと等しくなる値に設定される。
【0021】
本実施形態によれば、上述した構成を採ったことにより、サイレントチェーン1を構成する全てのリンク列3,7に対して均一な予荷重を付与することができる。図10に実線で示すように、予荷重付与後のサイレントチェーン1においては、破線で示した従来のものに較べ、ピン9間の距離のばらつき(すなわち、予荷重の不均一)がごく小さく抑えられている。
【0022】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、無端チェーンを形成する際に1つの第1リンク列を特定リンク列として除くようにしたが、第2リンク列を特定リンク列としてもよいし、互いに連結された複数のリンク列を特定リンク列としてもよい。また、上記実施形態では、引張力印加手段としてウェッジを採用したが、牽引装置によって2本の無端チェーンに引張力を作用させた後に連結する(すなわち、牽引手段に引張力印加手段を兼ねさせる)ようにしてもよい。また、上記実施形態では、サイレントチェーンを組み立てた後に特定リンク列を引張力を印加するようにしたが、単体の特定リンク列に引張力を印加した後に無端チェーンと連結することにより、サイレントチェーンを組み立てるようにしてもよい。また、上記実施形態では、幅方向の中央に第1リンク列が配置されたサイレントチェーンを採用したが、幅方向の中央に第2リンク列が配置されたサイレントチェーンを採用してもよい。その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば、第1リンクプレートや第2リンクプレートの枚数、両リンクプレートやガイドプレートの形状、牽引装置や引張力印加装置等についても適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0023】
1 サイレントチェーン
2 第1リンクプレート
3 第1リンク列
5 第2リンクプレート
6 ガイドプレート
7 第2リンク列
9 ピン
11 ピン孔
13 ピン孔
15 ピン孔
31 有端チェーン
41 上部つかみ具(牽引手段)
42 上部つかみ具(牽引手段)
45 上部ウエッジ(引張力印加手段)
46 下部ウエッジ(引張力印加手段)
71 特定リンク列
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のピン孔が穿設された複数枚の第1リンクプレートを要素とする複数の第1リンク列と、それぞれに一対のピン孔が穿設された複数枚の第2リンクプレートおよび2枚のガイドプレートを要素とする複数の第2リンク列とを前記ピン孔に嵌挿されるピンによって交互に連結してなるサイレントチェーンの製造方法であって、
前記複数の第1リンク列と前記複数の第2リンク列との中から少なくとも1つを特定リンク列として除いたうえで、当該複数の第1リンク列と当該複数の第2リンク列とを前記ピンによって交互に連結して有端チェーンを形成する有端チェーン形成工程と、
前記有端チェーンの両端を牽引手段にセットし、当該牽引手段によって当該有端チェーンの全長にわたって所定の引張力を作用させる牽引工程と、
引張力を作用させた有端チェーンの両端を前記有端チェーン形成工程で除いた特定リンク列とピンとによって連結することによって無端チェーンを形成する無端チェーン形成工程と、
前記特定リンク列を引張力印加手段にセットし、当該引張力印加手段によって当該特定リンク列のピン孔間に所定の引張力を印加する引張力印加工程と
を含むことを特徴とするサイレントチェーンの製造方法。
【請求項2】
前記引張力印加手段は、前記特定リンク列に連結された2つの第1リンク列または第2リンク列間にくさびを進入させることによって前記引張力を印加することを特徴とする、請求項1に記載されたサイレントチェーンの製造方法。
【請求項1】
一対のピン孔が穿設された複数枚の第1リンクプレートを要素とする複数の第1リンク列と、それぞれに一対のピン孔が穿設された複数枚の第2リンクプレートおよび2枚のガイドプレートを要素とする複数の第2リンク列とを前記ピン孔に嵌挿されるピンによって交互に連結してなるサイレントチェーンの製造方法であって、
前記複数の第1リンク列と前記複数の第2リンク列との中から少なくとも1つを特定リンク列として除いたうえで、当該複数の第1リンク列と当該複数の第2リンク列とを前記ピンによって交互に連結して有端チェーンを形成する有端チェーン形成工程と、
前記有端チェーンの両端を牽引手段にセットし、当該牽引手段によって当該有端チェーンの全長にわたって所定の引張力を作用させる牽引工程と、
引張力を作用させた有端チェーンの両端を前記有端チェーン形成工程で除いた特定リンク列とピンとによって連結することによって無端チェーンを形成する無端チェーン形成工程と、
前記特定リンク列を引張力印加手段にセットし、当該引張力印加手段によって当該特定リンク列のピン孔間に所定の引張力を印加する引張力印加工程と
を含むことを特徴とするサイレントチェーンの製造方法。
【請求項2】
前記引張力印加手段は、前記特定リンク列に連結された2つの第1リンク列または第2リンク列間にくさびを進入させることによって前記引張力を印加することを特徴とする、請求項1に記載されたサイレントチェーンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−45578(P2012−45578A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189953(P2010−189953)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
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