説明

サスペンション及びディスク・ドライブ装置

【課題】サスペンションにおいて、大きなピール剛性と小さいロール剛性及びピッチ剛性とを実現しながらヨー剛性を上げる。
【解決手段】本発明の一形態のジンバルは、前記ロード・ビームに前側で固定された固定点432aと、ロード・ビームに後側で固定された固定点432b、432cとを有する。ジンバル・タング431は、ディンプル接触点311においてピボット運動を行う。フロント・リングFRは固定点432aに結合し、ジンバル・タングを支持する。リア・リングRRは固定点432b、432cに結合し、ジンバル・タングを支持する。リア・リングRRはフロント・リングFRよりも大きなヨー剛性をジンバル・タングに与える。フロント・リングFRはリア・リングRRよりも大きなピール剛性をジンバル・タングに与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド・スライダを支持するサスペンション及びディスク・ドライブ装置に関し、特に、ヘッド・スライダが固定されるジンバルの剛性を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク・ドライブ(HDD)は、記録媒体である磁気ディスクを高速で回転し、ヘッド・スライダが磁気ディスク上を飛行しながら移動してデータの読み書きを行う。アクチュエータがヘッド・スライダを支持し、磁気ディスク上で揺動することによって、ヘッド・スライダを回転する磁気ディスクの半径方向に移動する。
【0003】
アクチュエータは、アームの先端に固定されたサスペンションを有し、そのサスペンションがヘッド・スライダを支持する。図9に示すように、典型的なサスペンション9は複数の部材から構成されており、ロード・ビーム91とロード・ビーム91の磁気ディスク側に固定されているジンバル92とを有している。ロード・ビーム91はアクチュエータの動作に従ってヘッド・スライダを所定のトラックへ位置づけると共に、ヘッド・スライダを磁気ディスク側に押しつける押圧力を生成する。ヘッド・スライダは、空気軸受面(ABS)と磁気ディスク表面との間の粘性気流による空気軸受から受ける浮力とロード・ビームによる押圧とのバランスのもとで、磁気ディスク表面から一定の距離において飛行する。
【0004】
ジンバル92は全体的に薄いステンレス鋼で形成され、ジンバル・タング(図10の921)を有している。ジンバル・タング上にヘッド・スライダが固定される。ジンバル・タングの背面はロード・ビーム91のディンプルと当接し、ジンバル・タング及びその上のヘッド・スライダは、ディンプルとの接触点においてピボット運動を行う。ピボット運動は、ピッチ・アンド・ロール運動あるいは、ジンバル運動として知られている。この動きにより、磁気ディスク表面に対するヘッド・スライダの距離及び姿勢を維持する。
【0005】
ロール運動は、図9においてRで示された方向における運動である。具体的には、サスペンション9の長手方向であるX軸の周りでのピボット動作である。ピッチ運動は、図9においてPで示された方向における運動である。具体的には、X軸に垂直でディスク面に平行な面に含まれるY軸の周りでのピボット動作である。ピッチ運動とロール運動の特性は、サスペンション全体の構造で定まる。ジンバル・タングのピッチ剛性とロール剛性が小さい方がトラックの追従性がよく、飛行姿勢の良好な制御を実現することができる。
【0006】
ヘッド・スライダがトラック上を飛行しながら追従動作をしている間、磁気ディスク表面の形状の変化に対してヘッド・スライダが追従動作を維持できるように、ジンバルは、ヘッド・スライダを柔軟に支持する必要がある。このため、ジンバル・タングのピッチ剛性とロール剛性を小さくすることが重要である。一方、HDDには、一層の耐衝撃性が求められるようになっている。また、ランプ・ロード・アンロード方式のHDDは、ロード・アンロードの際に、ヘッド・スライダをディスク表面から持ち上げ、また、ディスク表面に降ろす。
【0007】
装置の耐衝撃性を向上させ、ロード・アンロード時にヘッド・スライダが磁気ディスクと接触することなく安定した動きを示すようにするためには、ピッチ剛性及びロール剛性に加えて、ピール剛性を考慮することが必要である。ピール剛性は、ディスク表面の垂線に沿ってジンバル・タングに力を加えたときの縦剛性であり、耐衝撃性やロード・アンロード動作の観点からは、できるだけ大きいことが望ましい。
【0008】
ジンバル92は、ロード・ビームとの固定点を支点として、スライダを支持するバネ構造として機能する。一般的なジンバルの構造において、ピール剛性を大きくしていくとピッチ剛性やロール剛性も同時に大きくなってしまい、剛性に関するパラメータをいかに調整したとしてもピール剛性が大きくピッチ剛性とロール剛性が小さいジンバルを実現することはできなかった。
【0009】
これに対して、ピッチ剛性とロール剛性が小さく、ピール剛性は大きいバネ構造を有するジンバルが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。図10は、このジンバルの一部を示す平面図である。ジンバル92は、ジンバル・タング921を前後において挟む二つの固定点922a、922bにおいて、ロード・ビームに固定される。固定点922a、922bは、典型的には、ビーム溶接による溶接点である。以下においてアクチュエータの揺動軸からヘッド・スライダを見る方向を前方とし、ヘッド・スライダから揺動軸を見る方向を後方とする。
【0010】
図10のジンバル92において、ジンバル・タング921の各サイド・エッジの中央から、支持アーム923a、923bが突出している。支持アーム923a、923bは、前方に延びている主アーム924a、924bにそれぞれつながっている。二つの主アーム924a、924bは前側において合流しており、主アーム924a、924b及び支持アーム923a、923bは連続している。主アーム924a、924b及び支持アーム923a、923bは、ジンバル・タング921を支持するリング形状のバネ構造を形成している。主アーム924a、924bは、ジンバル92の中心線に対して垂直方向に膨らんで大きなリングを形成するように経路を形成している。
【0011】
また、支持アーム923a、923bは、後方に延びている副アーム925a、925bにそれぞれつながっている。副アーム925a、925bは、後側において支持本体部926に合流している。副アーム925a、925b、支持アーム923a、923bそして支持本体部926の一部は連続しており、ジンバル・タング921を支持するリング形状のバネ構造を形成している。副アーム925a、925bは、後方から前方に向かってジンバル92の中心線に対してほぼ平行に延びた後に膨らんで、主アーム924a、924b及び支持アーム923a、923bと一体となる。
【0012】
ジンバルにおいて、主アーム924a、924bを含む前側のリング形状のバネ構造(主リングMR)の剛性が、副アーム925a、925bを含む後側のリング形状のバネ構造(副リングSR)の剛性よりも大きく、主リングMRがジンバル・タング921の支持において支配的な役割を果たしている。ジンバル・タング921(ヘッド・スライダ)のピッチ剛性及びロール剛性は主リングの形状によって決まり、副リングSRがそれらにほとんど寄与しない。
【0013】
支配的な主リングMRのパラメータ値を決定することで、副リングSRによる剛性への寄与を実質的に無視して、ジンバル・タング921の各剛性値を決定することができる。具体的には、ジンバル・タングと固定点の距離を小さくすることでピール剛性を大きくすることができる。また、主リングの経路長、経路の形状、幅など値を調整することで、大きなピール剛性を維持しつつ、ピッチ剛性及びロール剛性を小さくすることができる。
【0014】
副リング(副アーム)は剛性への影響は小さく、上記3つの剛性値を決定する要素ではない。副アーム925a、925bは、サスペンションの生産において必要とされる。副アーム925a、925bは、ジンバルとロード・ビームの組立工程でジンバル全体を安定した形状に維持して作業性を向上させる役割を有している。
【特許文献1】特開2004−326891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記特許文献1に開示されているサスペンションによれば、小さいロール剛性及びピッチ剛性と、大きいピール剛性とを同時に実現することができる。上述のように、これは、副リングがジンバル・タングを補助的に支持するのみであり、主リングがンバル・タングに対して支配的に剛性を与えることができるからである。
【0016】
しかし、特許文献1のジンバル設計は、ジンバル・タングのピッチ剛性、ロール剛性、そしてピール剛性を考慮しているが、ヨー剛性を考慮していない。ヨー剛性は、ジンバル・タング(ヘッド・スライダ)のヨー運動に対する剛性である。ヨー運動は、図10のYAWで示す方向におけるピボット運動である。具体的には、これは、ジンバル・タングのヘッド・スライダ載置面(主面)の法線を中心としたピボット運動であり、ABS面内でのピボット運動である。
【0017】
HDDの記憶容量の増加と共に、データ・トラック・ピッチは大きく減少している。このため、ヘッド・スライダのわずかなヨー運動により、ヘッド素子部がターゲット位置から半径方向にずれ、リード/ライト・エラーが発生する。特に、上記特許文献1のジンバル設計のように、ヨー剛性について考慮することなくロール剛性とピッチ剛性を小さくすると、ヨー剛性も減少し、低い周波数におけるヨー・モードの発振を引き起こしやすいことがわかった。
【0018】
ロール剛性とピッチ剛性とを大きくすればヨー剛性も大きくすることができるが、それでは、磁気ディスク表面の形状変化に対するヘッド・スライダの追従性能を低下させることになる。従って、大きなピール剛性と、小さいロール剛性及びピッチ剛性とを維持しつつ、ヨー剛性を大きくするサスペンション構造が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様は、ロード・ビームと、前記ロード・ビームに固定されておりヘッド・スライダを支持するジンバルと、を含むサスペンションである。前記ジンバルは、前記ロード・ビームに前側で固定された第1固定点を含む第1支持領域と、前記ロード・ビームに後側で固定された第2固定点を含む第2支持領域と、前記ヘッド・スライダが載置される載置面を有し、ディンプル接触点においてピボット運動を行う、ジンバル・タングと、前記第1支持領域に結合しているリング状のバネ構造であり、前記ジンバル・タングを支持してピール剛性を与える、フロント・リングと、前記第2支持領と結合しているリング状のバネ構造であり、前記ジンバル・タングを支持して前記フロント・リングより大きなヨー剛性と前記フロント・リングより小さなピール剛性を与える、リア・リングを有する。このジンバル構造により、ジンバル・タングの適切な剛性を実現することができる。
【0020】
好ましくは、前記第1固定点と前記ディンプル接触点との距離は、前記第2固定点と前記ディンプル接触点との距離よりも小さい。これにより、他の剛性値への影響と小さくしながら、効果的にフロント・リングによるピール剛性を大きくすることができる。
【0021】
前記リア・リングは、前記第2支持領域から前方に延びる一対の帯状のリア・アームを有し、前記一対のリア・アームのそれぞれは、前記リア・アームの最小幅部を含みその最小幅を維持して前記リア・アームの前端から後端まで延びる直線状部を含むことが好ましい。これにより、他の剛性値への影響を小さくしながら、リア・リングによるヨー剛性を効果的に高くすることができる。
【0022】
さらに、前記一対のリア・アームのそれぞれの幅は、前記前端から後端に向かう方向において広がっていることが好ましい。これにより、リア・リングによるヨー剛性を高めることができる。ここで、リア・アームのそれぞれの幅は前記前端から後端に向かう方向において、漸次、広がっていなくてよい。例えば、一部の領域において幅が一定でもよい。しかし、前記前端から後端に向かう方向において、幅が減少することはない。
【0023】
好ましくは、前記一対のリア・アームの間隔は、前端から後端に向かうにつれて、漸次、減少している。これにより、リア・リングによるヨー剛性を高めつつ、他の剛性値への影響をより小さくすることができる。
【0024】
前記第2支持領域は、後側において前記ディンプル接触点に最も近い2つの固定点を含むことが好ましい。これにより、リア・リングによるヨー剛性を高めることができる。さらに、前記一対のリア・アームの前記第2支持領域との結合部は、前記一対のリア・アームの配列方向において、前記2つの固定点の間にあることが好ましい。これにより、他の剛性値への影響を小さくしながら、リア・リングによるヨー剛性を効果的に高くすることができる。
【0025】
前記リア・リングは、前記ジンバル・タングの側端と前記一対のリア・アームのそれぞれの前端とを結合する一対の支持アームをさらに有することが好ましい。さらに、前記ジンバル・タングの側端のそれぞれにおける前記支持アームの中心位置は、前記ディンプル接触点によりも前側にあることが好ましい。これらにより、リア・リングによるヨー剛性を高めることができる。
【0026】
好ましくは、前記フロント・リングは、一対のフロント・アームと一対の支持アームとを含み、前記一対の支持アームのそれぞれは、前記ジンバル・タングと前記一対のリア・アームのそれぞれを結合し、前記一対のフロント・アームのそれぞれは、前記一対のリア・アームのそれぞれに、前記一対の支持アームとの結合部よりも後側において結合している。これにより、フロント・リングによるピッチ剛性やロール剛性の増加を抑えることができる。
【0027】
さらに、前記一対のリア・アームのそれぞれの幅は、前記フロント・アームとの接合部より後ろ側の所定位置から前記第2支持領域に向かって、漸次、広がっていることが好ましい。これにより、リア・リングによるヨー剛性を高めることができる。
【0028】
本発明の他の態様に係るディスク・ドライブ装置は、ディスクと、前記ディスクにアクセスするヘッド・スライダと、前記ヘッド・スライダを支持するサスペンションを有し、回動軸において回動することで前記ヘッド・スライダを前記ディスク上で移動するアクチュエータとを有し、前記サスペンションが上記いずれかの構成を有するサスペンションである。このサスペンション構造により、ジンバル・タングの適切な剛性を実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ヘッド・スライダを支持するサスペンションにおいて、大きなピール剛性と小さいロール剛性及びピッチ剛性とを実現しながら、ヨー剛性を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明を適用した実施の形態を説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため必要に応じて重複説明は省略されている。本形態においては、ディスク・ドライブ装置の一例であるHDDについて説明する。本形態は、HDDに実装されるサスペンションの構造に特徴を有している。
【0031】
図1は、本形態のサスペンションが実装されているHDD1の全体構成を示している。ベース10は、その上部開口を塞ぐトップ・カバー(不図示)と固定されて筐体を構成し、HDD1の各構成要素を収容する。スピンドル・モータ13は、所定角速度で磁気ディスク11を回転する。データを記憶するディスクの一例である磁気ディスク11は、その記録面にデータを記憶する磁性層を有する。ディスクにアクセス(リードもしくはライト)するヘッド・スライダ12は、スライダと、スライダ表面に固定されたヘッド素子部を備える。ヘッド素子部は、記録素子及び/又は再生素子を有している。HDD1には、1もしくは複数枚の磁気ディスクが実装される。
【0032】
アクチュエータ14は揺動軸15に揺動自在に保持されており、ボイス・コイル・モータ(VCM)16によって駆動される。アクチュエータ14はヘッド・スライダ12を保持し、揺動軸15において揺動することによってヘッド・スライダ12を移動する。アクチュエータ14は、ヘッド・スライダ12が配置されたその先端部から、サスペンション141、サスペンション141を支持し揺動軸15が嵌合する孔を有するアーム142、コイル・サポート143、コイル・サポート143の内周側のフラットコイル144の順で結合された各構成部材を備えている。サスペンション141は、磁気ディスク11の各記録面に対応して設けられる。
【0033】
図1に例示するように、磁気ディスク11にアクセスするため、アクチュエータ14は回転している磁気ディスク11のデータ領域でヘッド・スライダ12を移動する。アクチュエータ14が揺動することによって、ヘッド・スライダ12が磁気ディスク11の表面の半径方向に沿って移動する。ヘッド・スライダ12は回転している磁気ディスク11上を浮上する。典型的には、磁気ディスク11は、図1において、反時計回りに回転する。
【0034】
ランプ17は磁気ディスク11の外周側において、磁気ディスク11の横に設けられている。HDD1の非動作時やアイドル時など、データ・アクセスを行わないとき、アクチュエータ14はランプ17上の待機位置にある。ヘッド・スライダ12のアンロードにおいて、アクチュエータ14は磁気ディスク11のデータ領域上からランプ17の方向に回動し(図1における時計回り)、アクチュエータ14先端のタブ145がランプ17上を摺動しながら移動し、アクチュエータ14は待機位置で停止する。このとき、ヘッド・スライダ12は、磁気ディスク11から外れた位置にある。ロードにおいて、アクチュエータ14は、アンロードと反対方向に揺動し、ヘッド・スライダ12を磁気ディスク11のデータ領域上に移動する。
【0035】
図2(a)、(b)は、本形態のサスペンション141及びヘッド・スライダ12のアセンブリであるヘッド・ジンバル・アセンブリ(HGA)の概略を示す平面図である。図2(a)は磁気ディスク側からHGAを見た図であり、図2(b)はその反対側からHGAを見た図である。サスペンション141は、マウント・プレート41、ロード・ビーム42、ジンバル43を有している。ジンバル43上には伝送配線44が形成されており、また、ヘッド・スライダ12は、ジンバル43上に固定されている。
【0036】
マウント・プレート41の開口411において、サスペンション141はアーム142に固定される。本明細書において、タブ145が形成されている側を、サスペンション141の先端側あるいは前側と呼ぶ。前側に対して、サスペンション141のアーム側あるいはアクチュエータ揺動軸側が後側である。このように、アクチュエータ揺動軸15とヘッド・スライダ12を結ぶ方向が前後方向であり、磁気ディスク記録面に平行で前後方向に垂直な方向が左右方向である。
【0037】
ロード・ビーム42は、ステンレス鋼などによって形成され、精密な薄板ばねとして機能する。ロード・ビーム42の形状は、揺動方向と垂直に長く延在し、薄くて軽量であると共に必要な剛性を有する。ロード・ビーム42のバネ性により、ヘッド・スライダ12の浮上力に対抗する荷重を発生させる。この荷重と、ヘッド・スライダ12の空気軸受面(ABS)と回転している磁気ディスク11との間の空気の粘性による圧力(浮上力)と、がバランスすることによって、ヘッド・スライダ12が所望高さで飛行する。ロード・ビーム42の先端に、タブ145が形成されている。
【0038】
ジンバル43は、ロード・ビーム42の磁気ディスク面側に、スポット溶接によって溶着される。溶接は、レーザによる熱あるいは電流によるジュール熱を使用することができる。ジンバル43は、例えばステンレス鋼で形成される。ジンバル43は所望の弾性を有し、変形可能に形成されている。ジンバル43の前部において、舌片状のジンバル・タング431(図4を参照)が形成されている。ヘッド・スライダ12はジンバル・タング431に固定される。ジンバル43の構造については後に詳述する。
【0039】
ジンバル43上に形成されている伝送配線44はヘッド・スライダ12上の素子の信号を伝送する。伝送配線44の一端は各リードの接続端子を有するマルチコネクタ441である。マルチコネクタ441は、プリアンプICに接続される。伝送配線44の他端はヘッド・スライダ12の接続パッドに接続される。
【0040】
図3(a)〜(f)は、ジンバル43の構造を示す図である。ジンバル43はフォトリソグラフィック・エッチング工程、蒸着工程などの微細加工技術を用いて積層構造として形成される。図3(a)、(b)は、複数の層が積層されてなるジンバル43を示し、図3(c)〜図3(f)は、ジンバルを構成する各層の構造を示している。図3(a)は、ジンバル43を磁気ディスク側からみた図であり、図3(b)は、その反対側からみた図である。
【0041】
図3(c)〜図3(f)は、ディスク面に向かって積層されていく順番で各部品を示している。図3(c)は金属層430を示しており、典型的には、ステンレス鋼の薄い板から形成される。金属層430は、スタンピングやエッチングにより所望の形状に形成してもよい。金属層430の材料はステンレス鋼に限定されるものではなく、ベリリウム、銅又はチタンなどの他の硬質のバネ材料を選択することもできる。
【0042】
金属層430は、ジンバル43のバネ構造を形成するもので、典型的には均一な厚さを有している。金属層430の厚さはバネ構造が与える剛性を決めるパラメータの一つであり、パラメータ値を決めるために部分的に厚さを変化させてもよい。また、材質もパラメータの一つであり部分的に異なる材質を取り入れても良い。
【0043】
図3(d)は、金属層430と伝送配線44を構成する銅層442(図3(e)参照。)を絶縁するために、ポリイミドで形成された誘電体層443が示されている。誘電体層443は、その上にパターン化される銅層442の経路に併せて金属層430の上に積層される。銅層442は、ヘッド・スライダの信号を伝送し、誘電体層443により金属層430から絶縁される。
【0044】
図3(e)は、スライダに取り付けられるヘッドに対する配線パターンである銅層442を示している。図3(f)は、カバー層444で、銅層442の表面を保護するために、その上にポリイミドの層を付着させる。誘電体層443、銅層442、及びカバー層444は一体となって、伝送配線44を構成する。
【0045】
図4は、図3(a)で示したジンバル43の先端部分を拡大した平面図であり、磁気ディスク側から見た図である。ジンバル43の金属層430上に、伝送配線44が配置されている。図4に示されている部分内において、金属層430は、固定点432a〜432cにおいて、ロード・ビーム42(図4に不図示)に溶接により固定されている。本例において、固定点432b、432cよりも前側において、ジンバル43の形状は左右対称である。
【0046】
具体的には、前側の支持領域である先端の支持プレート433内の一つの固定点432aが存在する。また、後側の支持領域である支持本体部434内の一部領域には、2つの固定点432b、432cが存在する。図4において、後側の支持領域は、ジンバル・タング431よりも後側において最前にある2つの固定点432b、432cを含み、これらより後側の他の固定点を含まない領域である。
【0047】
図4に示された範囲において、ジンバル43は、これらの固定点においてロード・ビーム42に固定されている。固定点432aと固定点432b、432cとの間には、ロード・ビーム42に対する他の固定点は存在しない。つまり、固定点432aは、前側においてジンバル・タング431に前後方向において最も近い固定点である。
【0048】
固定点432b、432cは、後側においてジンバル・タング431に前後方向において最も近い固定点である。図4の例において、固定点432b、432cの位置は、ジンバル43の中心線において対称である。ジンバル43は、これら固定点が画定する範囲で、ロード・ビーム42から拘束されずにジンバル運動をすることができる。なお、支持本体部434は、固定点432b、432cよりも後側(アクチュエータ揺動軸側)において、他の溶接点(固定点)においてロード・ビーム42に固定されている。
【0049】
固定点432aと固定点432b、432cとの間において、先端側の固定点432aに近い位置にジンバル・タング431がある。ジンバル・タング431の中心にヘッド・スライダ12が接着される。ジンバル・タング431の左右方向における略中央に、ロード・ビームのディンプルとの接触点311が存在する。図4の例において、固定点432aとディンプル接触点311とは、ジンバル43の中心線上にある。固定点432b、432cとディンプル接触点311との距離は同じである。
【0050】
図5は、HGAの一部を模式的に示す側面図である。ジンバル43のジンバル・タング431には、ほぼ中央に収まるようにヘッド・スライダ12が接着剤で接着される。ヘッド・スライダ12のほぼ重心を通る垂線が通過する位置で、ジンバル・タング431のスライダ載置面とは反対側の面と接触するように、ロード・ビーム42にディンプル421が形成されおり、ヘッド・スライダ12のピボット運動の支点をジンバル・タング431に与える。なお、ディンプルをジンバルに形成することもできる。この場合のピボット運動の支点は、ディンプルとロード・ビームとの接触点となる。
【0051】
図4に戻って、ジンバル・タング431のヘッド・スライダ載置面には、スペーサ312a、312bが形成されている。典型的には、スペーサ312a、312bはポリイミド樹脂で形成されており、ヘッド・スライダ12は、スペーサ312a、312bと接触して固定される。スペーサ312a、312bは、ジンバル・タング431上で、ヘッド・スライダ12が所望の姿勢で接着剤により接着されるようにする。
【0052】
ジンバル・タング431は、その前後にある二つのリング形状のバネ構造により支持されている。具体的には、前側のリング形状のバネ構造は、フロント・アーム435a、435b、リア・アーム436a、436bの一部、そして支持アーム437a、437bで構成されているフロント・リングFRである。後側のリング形状のバネ構造は、リア・アーム436a、436b、支持アーム437a、437b、そして支持本体部434の一部で構成されているリア・リングRRである。
【0053】
フロント・リングFRとリア・リングRRを構成する各部は全て金属層430の一部である。また、フロント・リングFR及びリア・リングRRは、それぞれ、ジンバル43の金属層430における連続した一つの部分である。フロント・リングFRは、ジンバル・タング431の前方にあってジンバル・タング431を支持し、リア・リングRRは後方にあってジンバル・タング431を支持する。
【0054】
リア・アーム436a、436bは、支持本体部434の固定点432b、432c近傍から前方に延びている。支持アーム437a、437bは、それぞれ、リア・アーム436a、436bをジンバル・タング431にしている。フロント・アーム435a、435bは、それぞれ、リア・アーム436a、436bに結合されている。フロント・アーム435a、435bは、それぞれ、リア・アーム436a、436bから前方向かって延びた後、左右方向に屈曲して互いにつながっている。
【0055】
フロント・アーム435aと支持アーム437aとの間及びフロント・アーム435bと支持アーム437bとの間において、リミッタ・ブリッジ438a、438bが渡されている。典型的には、リミッタ・ブリッジ438a、438bはポリイミド樹脂で形成されており、ジンバル43の塑性変形を防止する。サスペンション141の設計により、リミッタ・ブリッジ438a、438bは省略することもできる。
【0056】
以下において、ジンバル・タング431の前側端313をトレーリング端、後側端314をリーディング端と呼ぶ。また、左右両側の端315a、315bを側端と呼ぶ。これは、ヘッド・スライダ12の各端の呼び名に対応している。図5に示すように、気流はヘッド・スライダ12のリーディング端121からABS122とディスク表面との間に入り込みトレーリング端123からでていくように流れる。
【0057】
図4に戻って、伝送配線44は、支持本体部434からジンバル・タング431のトレーリング端側まで、ジンバル43の中心線に沿って延びている。伝送配線44は、金属層の一部である支持本体部434上では金属層430に積層されているが、支持本体部434から分離したあと、支持アーム437a、437bまで中空内を延びている。
【0058】
ジンバル・タング431のトレーリング端側には、伝送配線44の伝送線をヘッド・スライダ12のトレーリング端面に設けられた接続パッドに接続する際、位置合わせとボンディングのための領域を提供するためのプレート439が形成されている。プレート439から、ヘッド・スライダ12の接続パッドに物理的及び電気的に接続される接続端子445が突出している。図4において6つの端子445が例示されている。
【0059】
以下において、ジンバル43の金属層430の構造について、より詳細に説明する。図6は、図4に示したジンバル43から、伝送配線44及びリミッタ・ブリッジ438a、438bそしてスペーサ312a、312bを除いた構成を示している。上述のように、ジンバル・タング431は、前後の二つのリング形状のバネ、つまり、フロント・リングFRとリア・リングRRにより支持されている。
【0060】
フロント・アーム435a、435bを主な構成要素とするフロント・リングFRは、その後側において、ジンバル・タング431を支持する。さらに、フロント・リングFRは、固定点432aを含む支持プレート433と連結部351を介して結合しており、フロント・リングFRの前側において固定点432aにより固定されている。連結部351は、フロント・アーム435a、435bがつながる部分に形成されており、ジンバル43の中心線上にあり、固定点432aとディンプル接触点311との間にある。
【0061】
一方、リア・アーム436a、436bを主な構成要素とするリア・リングRRは、その前側においてジンバル・タング431を支持する。さらに、リア・リングRRは、支持本体部434の一部を介して固定点432b、432cと結合しており、リア・リングRRの後側において固定点432b、432cにより固定されている。
【0062】
ジンバル・タング431の剛性特性において、ヘッド・スライダ12の良好な飛行姿勢制御のために小さいロール剛性及びピッチ剛性が望まれる。一方、主に良好なロード/アンロード動作のためには大きいピール剛性が望まれ、さらに、高精度なヘッド・ポジショニングのために大きいヨー剛性が望まれる。
【0063】
本形態のジンバル43において、ジンバル・タング431のこれらの剛性値は、フロント・リングFRとリア・リングRRにより規定される。本形態において、フロント・リングFRがジンバル・タング431のピール剛性を主に規定する。一方、リア・リングRRは、ジンバル・タング431のヨー剛性を主に規定する。上述のように、ジンバル・タング431のピール剛性とヨー剛性とは大きいことが好ましい。本形態のサスペンション設計は、フロント・リングFRが与えるピール剛性とリア・リングRRが与えるヨー剛性とが大きくなるようにジンバル43を設計する。
【0064】
一方、ジンバル・タング431のロール剛性及びピッチ剛性はできるだけ小さいことが好ましい。従って、本形態のサスペンション設計は、フロント・リングFR及びリア・リングRRがジンバル・タング431に与えるロール剛性及びピッチ剛性が小さくなるようにジンバル43を設計する。
【0065】
このように、フロント・リングFRはリア・リングRRよりも大きなピール剛性をジンバル・タング431に与え、リア・リングRRはフロント・リングFRよりも大きなヨー剛性をジンバル・タング431に与える。ジンバル・タングの異なる剛性値をそれぞれ高める二つのリングでジンバル・タング431を支持することで、ジンバル・タング431に要求される小さいピッチ剛性とロール剛性、そして大きいピール剛性とヨー剛性とを同時に実現することができる。
【0066】
好ましくは、ピッチ剛性とロール剛性に対するリア・リングRRの影響をフロント・リングFRより小さする。さらに、フロント・リングFRが、支配的に、ロール剛性及びピッチ剛性をジンバル・タング431に与え、できるだけリア・リングRRの影響が小さくなるようにジンバル43を設計することが好ましい。フロント・リングFRの設計においてリア・リングRRの影響をほとんど考慮する必要がないため、大きなピール剛性と小さいピッチ剛性及びロール剛性のより好ましいバランスを実現することができる。
【0067】
ロール剛性及びピッチ剛性は、フロント・アーム435a、435bやリア・アーム436a、436bなどのリングを構成する帯状部分のパラメータにより規定される。このパラメータは、経路長、経路の形状、幅、材質そして材質を含む。これらのパラメータを変更することでロール剛性及びピッチ剛性を調整することができる。本実施の形態では、金属層430の材質及び厚さを一定であるため、本形態のサスペンション設計は、これらを除くパラメータを適切な値に設計することによりロール剛性及びピッチ剛性を所望の値とする。これらのパラメータの値を変更していくと、ピール剛性にも影響はでるがその変化の割合はさほど大きくはない。
【0068】
リア・リングRRによるロール剛性とピッチ剛性への寄与を小さくするため、リア・アーム436a、436bの先端部361a、361bと後端部362a、362bとの間の距離を大きくすることが重要である。リア・アーム436a、436bは、先端361a、361bにおいて支持アーム437a、437bにつながり、後端部362a、362bにおいて支持本体部434につながる。先端部361a、361bと後端部362a、362bとの間の距離を大きくすると、支持本体部434内の固定点432b、432cとディンプル接触点311との間の距離が大きくなる。
【0069】
ジンバル・タング431のピール剛性は、固定点432a、432b、432cとディンプル接触点311との間の距離により主に規定される。固定点432b、432cとディンプル接触点311との間の距離が大きくなると、リア・リングRRが与えるピール剛性は小さくなる。
【0070】
このため、本形態のサスペンション設計は、前側の固定点432aとディンプル接触点311との距離を小さくするとで、ジンバル・タング431のピール剛性を大きくする。固定点432aとディンプル接触点311との距離が小さくなると、フロント・リングFRがジンバル・タング431に与えるピール剛性が増加する。固定点432aとディンプル接触点311との距離は、固定点432b、432cとディンプル接触点311との間の距離よりも小さい。従って、フロント・リングFRがジンバル・タング431に与えるピール剛性は、リア・リングRRよりも大きい。
【0071】
図6の例において、これらの距離の差が大きいため、実質的に、フロント・リングFRによりジンバル・タング431のピール剛性が規定される。固定点432aとディンプル接触点311との距離を物理的な制約の範囲で適宜縮めることで、ピール剛性を大きくすることができる。
【0072】
図6の例において、固定点432b、432cとディンプル接触点311との間の距離のそれぞれは、ディンプル接触点311固定点432aとの距離の約2倍である。好ましくは、固定点432b、432cとディンプル接触点311との間の距離のそれぞれは、ディンプル接触点311固定点432aとの距離の1.5倍以上であり、さらに好ましくは1.8倍以上である。距離の上限はサスペンション・アセンブリの全体寸法や、製造上の条件などで定める。
【0073】
本例において、リア・リングRRは、二つの固定点432b、432cで固定されている。このように、リア・リングRRを複数の固定点で固定することで、リア・リングRRによるヨー剛性を大きくすることができる。好ましくは、図6に示すように、左右方向においてジンバル43を挟む位置に二つの固定点432b、432cを形成する。さらに、これらの固定点がディンプル接触点311を通る中心線において対称であることが好ましい。
【0074】
リア・リングRRがジンバル・タング431に与えるヨー剛性を大きくするため、本形態のサスペンション設計は、前後方向に延びる帯状のリア・アーム436a、436bが直線状部を含むように、リア・アーム436a、436bの形状を決定する。本明細書における直線状部を含むリア・アーム形状について、リア・アーム436aを例として説明する。
【0075】
図7は、リア・アーム436aの拡大図である。リア・アーム436bはリア・アーム436aと対称であるのでその説明を省略する。帯状のリア・アーム436aは、支持本体部434から前方に延びて支持アーム437aにつながる。リア・アーム436aは、これらに間において画定されている。
【0076】
直線状部は、リア・アーム436a内において最も幅が小さい部分(最小幅部)により規定される。最小幅の部分が広い場合、その内のいずれの部分を最小幅部として選択してもよい。例えば、フロント・アーム435aとリア・アーム436aの結合部363aと支持アーム437aとリア・アーム436aの結合部(先端361aの部分)との間の部分の幅W1は最小であり、この領域のいずれかの位置を最小幅部として選択することができる。図7において、最小幅部は364で示されている。
【0077】
直線状部は、この最小幅部364をリア・アーム436a内において前後方向に延ばすことにより画定される。図7において、直線状部は365で示されている。直線状部365は、リア・アーム436aの先端部361aから後端部362aまで延びており、その幅は一定であり最小幅部364と同一のW1である。直線状部365が延びる方向は、フロント・アーム435a内であれば任意である。図7の例においては、最小幅部364の幅方向に垂直な方向である。
【0078】
このように、本明細書において、リア・アームにおける直線状部とは、リア・アーム内の最も幅が狭い部分(最小幅部)を含み、前後方向にまっすぐに延びる部分である。直線状部の幅は最小幅部の幅であり、一定である。前後方向におけるリア・アームの先端部から後端部までの間で定義される。リア・アームの先端部から後端部まで延びていれば、直線状部の延びる方向は任意であるが、好ましくは、最小幅部の幅方向に垂直な方向である。このように、リア・アームが直線状部を含むことで、リア・リングは大きなヨー剛性をジンバル・タングに与えることができる。
【0079】
好ましくは、図7に示すように、リア・アーム436aの幅は、フロント・アーム435aと結合部363と支持アーム437aとの結合部361aとの間において最も狭いことが好ましい。この部分の幅がジンバル・タング431のロール剛性及びピッチ剛性に大きな影響を与えるからである。
【0080】
一方、より大きいヨー剛性をジンバル・タング431に与えるため、リア・アーム436aと支持本体部434との結合部(後端部362a)におけるリア・アーム436aの幅は大きいことが好ましい。従って、図7の例に示すように、支持本体部434との結合部の近傍における幅W2は、フロント・アーム435aと結合部363と支持アーム437aとの結合部361aとの間の幅よりも大きいことが好ましい。
【0081】
図7の例においては、リア・アーム436aの内側端辺(ジンバル・タング側の辺)366が中央において外側端辺から離れる方向に屈折している。屈折位置367の前後において、内側端辺は直線である。一方、外側端辺368は先端部361aから後端部362aまで直線である。
【0082】
従って、先端部361aから上記屈折位置まではリア・アーム436aの幅は一定のW1であり、上記屈曲位置から後端部362aまで漸次に幅が広がっている。これにより、リア・アーム436aによるヨー剛性以外の剛性に対する影響をより効果的に抑えて、ヨー剛性の増加に寄与することができる。図7の例は、リア・アーム436aの内側端辺366が屈折しているが、これに代えて、あるいはこれに加えて、外側端辺368を屈折させて、リア・アーム436aの幅を支持本体部側で広げてもよい。
【0083】
このように、リア・アーム436a、436bの幅を、前側から後側に向かう方向において広げることで、リア・リングRRによるヨー剛性を高めることができる。なお、幅を広げる態様は、上記例のように所定位置から幅が漸次増加するものが好ましいが、これに限らず、前側から後側に向かう方向において幅が減少しなければ、他の態様において幅が広がっていてもよい。
【0084】
次に、二つのリア・アーム436a、436bの間隔について説明する。図6に戻って、リア・リングRRによるロール剛性の増加を抑えるためには、後端部362a、362bにおけるリア・アーム436a、436b間の間隔W3は、小さいことが好ましい。従って、リア・アーム436a、436bの前端における間隔(W4)よりも、後端部362a、362bにおける間隔W3が小さいことが好ましい。
【0085】
ここで、リア・アーム436a、436b間の間隔は、リア・アーム436a、436bの外側端辺間の間隔である。リア・アーム436a、436bをジンバル・タング側に対して支持本体部側で狭めることで、リア・リングRRによるロール剛性を抑えつつ、ヨー剛性を増加させることができる。
【0086】
より効果的にリア・リングRRによるロール剛性を抑えつつ、ヨー剛性を増加させるためには、リア・アーム436a、436b間の間隔は、前側から後側に向かって減少していることが好ましい。つまり、リア・アーム436a、436b間の間隔は、前端から後端まで増加することなく、間隔W4から間隔W3へと小さくなることが好ましい。前端と後端との間において、リア・アーム436a、436b間の間隔が一定の部分があってもよい。
【0087】
また、図6の好ましい例においては、リア・アーム436a、436b間の間隔は、先端部361a、361bから後端部362a、362bに向かうにつれて、漸次減少している。つまり、リア・アーム436a、436bの外側端辺は、前側から後側において、内側に傾斜している。このような構成を有することで、リア・リングRRによるロール剛性を抑えつつ、より効果的にヨー剛性を増加させることができる。
【0088】
また、リア・アーム436a、436bと支持本体部434との結合部(後端部362a、362b)の位置と、固定点432b、432cとの位置関係は重要である。上述のように、リア・リングRRによるヨー剛性をたかめるためには、二つの固定点432b、432cが存在することが好ましい。一方、リア・アーム436a、436bによるロール剛性に対する影響をより小さくするためには、図6に示すように、左右方向(リア・アーム436a、436bが配列されている方向)において、後端部362a、362bが、固定点432b、432cの間にあることが好ましい。従って、後端部362a、362bにおけるリア・アーム436a、436b間の間隔W3は、二つの固定点432b、432cの間の間隔(左右方向の距離)よりも小さい。
【0089】
次に、支持アーム437a、437bについて説明する。図6において、支持アーム437a、437bは、ジンバル・タング431の左右側端315a、315bに結合している。従って、リア・アーム436a、436bは、支持アーム437a、437bによってジンバル・タング431の左右側端315a、315bに結合されている。このよに、リア・リングRRをジンバル・タング431の左右側端315a、315bに結合することにより、トレーリング端313あるいはリーディング端314に結合する場合と比較して、リア・リングRRによるヨー剛性を大きくすることができる。
【0090】
なお、設計によっては、リア・リングRRをトレーリング端313あるいはリーディング端314に結合してもよい。この場合、ジンバル・タング431から左右方向に延びるアームは支持アームであり、支持アームに結合して支持アームから後方に向かって延びるアームがリア・アームである。
【0091】
リア・リングRRがジンバル・タング431の左右側端315a、315bにおいて結合する位置、つまり、左右側端315a、315bにおける支持アーム437a、437bの位置は、リア・リングRRによるピッチ剛性に影響を与える。支持アーム437a、437bがより前方にあるほうが、ヨー剛性を増加させつつ、リア・リングRRによるピッチ剛性を小さくすることができる。
【0092】
従って、左右側端315a、315bにおいて、支持アーム437a、437bの前後方向における中心位置は、ディンプル接触点311よりも前にあることが好まししい。図8は、支持アーム437aの左右側端315aにおける中心ACが、ディンプル接触点311よりも前側にあることを示している。
【0093】
また、支持アーム437a、437bの幅(前後方向における寸法)は、リア・リングRRが与えるヨー剛性の大きさに影響を与える。ヨー剛性を大きくするためには、支持アーム437a、437bの幅が大きいことが好ましい。一方、支持アーム437a、437bの幅が大きくなると、リア・リングRRによるピッチ剛性が大きくなる傾向がある。
【0094】
支持アーム437a、437bは、左右側端315a、315bにおいてジンバル・タング431に結合し、その反対側でリア・アーム436a、436bに結合している。ヨー剛性のために特に重要なのは、左右側端315a、315bにおける支持アーム437a、437bの幅である。図8は、支持アーム437aの左右側端315aにおける幅W5を示している。ヨー剛性を大きくするため、この幅は、リア・アーム436a、436bの最小幅(図の7におけるW1)よりも大きくいことが好ましく、さらには、リア・アーム436a、436bの最大幅(図7におけるW2)よりも大きいことが好ましい。
【0095】
支持アーム437a、437bによるピッチ剛性への影響を小さくするため、支持アーム437a、437bは、ジンバル・タング431の左右側端315a、315bから離れた部分(左右側端315a、315bよりもリア・アーム436a、436bに近い部分)において左右側端315a、315bよりも小さい幅を有していることが好ましい。
【0096】
図8に示すように、支持アーム437aは、側端315aから離れた部分における狭い幅W6を有している。支持アーム437bも同様である。より具体的には、図6及び8に示す好ましい本例では、支持アーム437a、437bの幅は、ジンバル・タング431の側端315a、315bから離れるに従って、W5からW6へ漸次減少している。
【0097】
図6及び図8に示すように、本例の支持アーム437a、437bにおいて、後端が削られるようにして幅が減少している。つまり、支持アーム437a、437bの後端辺が左右側端315a、315bから前方に向かって傾斜しており、前後方向における支持アーム437a、437bの中心位置(図8で点線で示した)は、ジンバル・タング431の左右側端315a、315bから離れた位置において、前方にシフトしている。これにより、支持アーム437a、437bの位置をより前方にするのと同様の効果が得られ、リア・リングRRによるピッチ剛性を小さくすることができる。
【0098】
次に、フロント・アーム435a、435bについて説明する。フロント・アーム435a、435bは、先端側の固定点432aの近傍から、それぞれ左右両側に延び、後方に屈曲した後、リア・アーム436a、436bの外側において後方に延びて、リア・アーム436a、436bに結合している。本例において、フロント・アーム435a、435bの幅は一定である。
【0099】
フロント・アーム435a、435b、支持アーム437a、437b、そして、リア・アーム436a、436bにおける結合部363a、363bと結合部361a、361bとの間の部分が、フロント・リングFRを構成している。フロント・リングFRは、ジンバル・タングの両側端315a、315bにおいてジンバル・タング431を支持する。フロント・リングFRは、前端中央の連結部351によって、固定点432aに結合している。連結部351は、フロント・リングFRによるピッチ剛性とロール剛性を小さくする働きを有している。設計によって、連結部351をしようすることなく、固定点432aをフロント・リングFR上に形成してもよい。
【0100】
本形態のフロント・アーム435a、435bにおいて重要な点は、フロント・アーム435a、435bが、リア・アーム436a、436bの途中に結合していることである。つまり、リア・アーム436a、436bとフロント・アーム435a、435との結合部363a、363bは、先端部361a、361bと後端部362a、362b
との間にある。このような構造により、ロント・アーム435a、435bの剛性が低下し、フロント・リングFRがジンバル・タング431に与えるピッチ剛性とロール剛性を小さくすることができる。
【0101】
また、フロント・リングFRによるピッチ剛性とロール剛性を確実に小さくするため、リア・アーム436a、436bとフロント・アーム435a、435との結合部363a、363bは、ディンプル接触点311よりも後側にあることが好ましい(図6及び図8を参照)。
【0102】
本形態において図6に示した構造を有するジンバルの剛性と、従来技術として図10を参照して説明した構造を有するジンバルの剛性とを解析した。以下において、その結果を示す。図10の構造を有するジンバルの各剛性値を1として、図6に示した構造を有するジンバルの各剛性値は、以下の通りであった。ピッチ剛性は1.09、ロール剛性は1.03、ピール剛性は0.97、そして、ヨー剛性は6.8であった。
【0103】
ピッチ剛性(μNm/deg)は、ディンプル接触点を中心にしてジンバル・タングをピッチングの方向に単位角度傾斜させるときのモーメント(μNm)で、ロール剛性(μNm/deg)は、ディンプル接触点を中心にしてジンバル・タングをローリング方向に単位角度傾斜させるときのモーメント(μNm)をいう。
【0104】
また、ピール剛性(N/m)は、ジンバル・タングをディンプル接触点の位置で単位長さだけ磁気ディスクの方を向に変位させるのに要する力であり、ヨー剛性(μNm/deg)は、ディンプル接触点を中心にしてジンバル・タングをヨーイングの方向に単位角度変化させるときのモーメント(μNm)である。これらの剛性の測定は当業者ならば周知の方法で実施可能である。
【0105】
上記解析結果から理解されるように、本形態のジンバル構造は、従来のジンバル構造と略同様のピッチ剛性、ロール剛性及びピール剛性を有すると共に、はるかに大きなヨー剛性を実現している。また、ヨー剛性が大きくなることで、ジンバル・タングのヨー・モードの振動周波数を高い値にシフトさせることができた。これにより、より精細なヘッド・ポジショニングを実現することができる。
【0106】
以上、本発明を好ましい実施形態を例として説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。例えば、本発明は、磁気ディスクとことなるディスクを媒体として使用するディスク・ドライブ装置に適用することができる。ジンバルのロード・ビームへの固定は、典型的には溶接で行うが、これ以外の方法で行ってもよい。
【0107】
本発明は、左右非対称の形状を有するサスペンションに適用することができる。また、本発明はランプ・ロード・アンロードのディスク・ドライブ装置に特に有用であるが、コンタクト・スタート・ストップのディスク・ドライブ装置に適用してもよい。本発明は、ヘッド・スライダのトレーリング端がサスペンションの後方を向くHGAに適用することができる。このようなディスク・ドライブ装置においては、ディスク回転方向は上記の方向と逆となる。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本実施形態に係るHDDの構成を模式的に示す平面図である。
【図2】本実施形態に係るヘッド・ジンバル・アセンブリを模式的に示す平面図である。
【図3】本実施形態に係るジンバルの構造を模式的に示す平面図である。
【図4】本実施形態に係るジンバルの先端部分を拡大した平面図であり、磁気ディスク側から見た図である。
【図5】本実施形態に係るヘッド・ジンバル・アセンブリの一部を模式的に示す側面図である。
【図6】本実施形態に係るジンバルの金属層における先端部分を拡大した平面図である。
【図7】本実施形態に係るリア・アームの拡大図である。
【図8】本実施形態に係る支持アームの拡大図である。
【図9】従来の技術における、リード・ヘッドの構成を模式的に示す断面図である。
【図10】従来の技術における、リード・ヘッドの構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0109】
1 ハードディスク・ドライブ、9 サスペンション、10 ベース
11 磁気ディスク、12 ヘッド・スライダ、13 スピンドル・モータ
14 アクチュエータ、15 揺動軸、17 ランプ、41 マウント・プレート
42 ロード・ビーム、43 ジンバル、44 伝送配線、91 ロード・ビーム
92 ジンバル、121 リーディング端、123 トレーリング端
141 サスペンション、142 アーム、143 コイル・サポート
144 フラットコイル、145 タブ、311 ディンプル接触点
312a、312b スペーサ、313 トレーリング端、314 リーディング端
315a、315b 左右側端、351 連結部、361a、361b 結合部
362a、362b 結合部、363a、363b 結合部、364 最小幅部
365 直線状部、366 内側端辺、367 屈折位置、368 外側端辺
411 開口、421 ディンプル、430 金属層、431 ジンバル・タング
432a、432b 固定点、433 支持プレート、434 支持本体部
435a、435b フロント・アーム、436a、436b リア・アーム
437a、437b 支持アーム、438a、438b リミッタ・ブリッジ
439 プレート、441 マルチコネクタ、442 銅層、443 誘電体層
444 カバー層、445 接続端子、921 ジンバル・タング
922a、922b 固定点、923a、923b 支持アーム
924a、924b 主アーム、925a、925b 副アーム、926 支持本体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロード・ビームと、前記ロード・ビームに固定されておりヘッド・スライダを支持するジンバルと、を含むサスペンションであって、前記ジンバルは、
前記ロード・ビームに前側で固定された第1固定点を含む第1支持領域と、
前記ロード・ビームに後側で固定された第2固定点を含む第2支持領域と、
前記ヘッド・スライダが載置される載置面を有し、ディンプル接触点においてピボット運動を行う、ジンバル・タングと、
前記第1支持領域に結合しているリング状のバネ構造であり、前記ジンバル・タングを支持してピール剛性を与える、フロント・リングと、
前記第2支持領と結合しているリング状のバネ構造であり、前記ジンバル・タングを支持して前記フロント・リングより大きなヨー剛性と前記フロント・リングより小さなピール剛性を与える、リア・リングと、
を有するサスペンション。
【請求項2】
前記第1固定点と前記ディンプル接触点との距離は、前記第2固定点と前記ディンプル接触点との距離よりも小さい、
請求項1に記載のサスペンション。
【請求項3】
前記リア・リングは、前記第2支持領域から前方に延びる一対の帯状のリア・アームを有し、
前記一対のリア・アームのそれぞれは、前記リア・アームの最小幅部を含みその最小幅を維持して前記リア・アームの前端から後端まで延びる直線状部を含む、
請求項1に記載のサスペンション。
【請求項4】
前記一対のリア・アームのそれぞれの幅は、前記前端から前記後端に向かう方向において広がっている、
請求項3に記載のサスペンション。
【請求項5】
前記一対のリア・アームの間隔は、前記前端から前記後端に向かう方向において減少している、
請求項3に記載のサスペンション。
【請求項6】
前記第2支持領域は、後側において前記ディンプル接触点に最も近い2つの固定点を含む、
請求項1に記載のサスペンション。
【請求項7】
前記一対のリア・アームの前記第2支持領域との結合部は、前記一対のリア・アームの配列方向において、前記2つの固定点の間にある、
請求項6に記載のサスペンション。
【請求項8】
前記リア・リングは、前記ジンバル・タングの側端と前記一対のリア・アームのそれぞれの前端とを結合する一対の支持アームをさらに有する、
請求項3に記載のサスペンション。
【請求項9】
前記ジンバル・タングの側端のそれぞれにおける前記支持アームの中心位置は、前記ディンプル接触点によりも前側にある、
請求項8に記載のサスペンション。
【請求項10】
前記フロント・リングは、一対のフロント・アームと一対の支持アームとを含み、
前記一対の支持アームのそれぞれは、前記ジンバル・タングと前記一対のリア・アームのそれぞれを結合し、
前記一対のフロント・アームのそれぞれは、前記一対のリア・アームのそれぞれに、前記一対の支持アームとの結合部よりも後側において結合している、
請求項1に記載のサスペンション。
【請求項11】
前記一対のリア・アームのそれぞれの幅は、前記フロント・アームとの接合部より後ろ側の所定位置から前記第2支持領域に向かって、漸次広がっている、
請求項10に記載のサスペンション。
【請求項12】
ディスクと、
前記ディスクにアクセスするヘッド・スライダと、
前記ヘッド・スライダを支持するサスペンションを有し、回動軸において回動することで前記ヘッド・スライダを前記ディスク上で移動するアクチュエータと、
を有し、
前記サスペンションが請求項1〜11のいずれかに記載のサスペンションである、
ディスク・ドライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−259362(P2009−259362A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109692(P2008−109692)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】