説明

サプレッサ

【課題】イオン交換膜を支持してクロマトグラムのベースラインを安定化するとともに、その支持体による流路抵抗を小さくしてイオン交換膜にかかる負荷が大きくなるのを防ぐ。
【解決手段】イオン交換膜と、イオン交換膜の一方の面に接し、試料液が流される試料液流路と、イオン交換膜の他方の面に接し、イオン交換膜のイオン性官能基を再生するサプレス液が流されるサプレス液流路と、連続したマイクロ孔をもつモノリス構造体を構成し、試料液流路に充填されてイオン交換膜を支持しているイオン交換膜支持体とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料溶液中の無機イオン又は有機イオンを分離分析するイオンクロマトグラフにおいて分離カラムからの溶離液のバックグラウンド電気伝導率を抑制するために使用されるサプレッサに関し、特にイオン交換膜を使用したイオンクロマト用膜型サプレッサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフでは、試料を分離カラムに導入して成分イオンに分離させた後、分離カラムからの溶離液を電気伝導率計セルに導いて電気伝導度を検出することにより成分イオンの検出を行う。その際、分離カラムからの溶離液中の不用イオンを除去することにより溶離液の電気伝導率を下げて高感度測定を行えるようにするために、分離カラムと検出器の間にサプレッサが配置されている。
【0003】
そのようなサプレッサとしてはイオン交換膜を使用したものが用いられている。その一例はイオン交換膜を介して分離カラムからの溶離液が流れる流路とイオン交換膜のイオン性官能基を再生するサプレス液が流れる流路が対向または順方向になるように配置されたものである。イオン交換膜を挟む両流路は空洞になっていて、そこを液が流れる。しかし、イオン交換膜は剛性が低いため、サプレッサの背圧が変化して両流路間の差圧が大きくなると、イオン交換膜に圧力が働いてイオン交換膜が一方の流路側へ変位する。そして、イオン交換膜が変位すると、両流路の容積が変化する結果、溶離液中の不用イオンの処理量も変動し、クロマトグラムのベースラインが不安定になる。
【0004】
そこで、そのようなイオン交換膜の変位を防ぐために、溶離液が流れる流路に充填物としてイオン交換樹脂、ポリマービーズ、カラス球又は金属球が充填されたものが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平01−217260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
提案されたサプレッサでは、ポリマービーズなどの充填物によりイオン交換膜が強固に支持される利点がある反面、溶離液が流れる際に摩擦抵抗による圧力損失が大きくなり、サプレッサ入り口付近は高圧になる。そのため、送液圧力を大きくしなければならず、その結果イオン交換膜にかかる負荷が大きくなってイオン交換膜を固定している部分から液漏れが生じる等の不都合が生じることがある。
【0006】
本発明は、イオン交換膜を使用した膜型サプレッサにおいて、イオン交換膜を支持してクロマトグラムのベースラインを安定化するとともに、その支持体による流路抵抗を小さくしてイオン交換膜にかかる負荷が大きくなるのを防ぐことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明ではイオン交換膜支持体として連続したマイクロ孔をもつモノリス構造体を使用する。すなわち、本発明のサプレッサは、イオン交換膜と、イオン交換膜の一方の面に接し、試料液が流される試料液流路と、イオン交換膜の他方の面に接し、イオン交換膜のイオン性官能基を再生するサプレス液が流されるサプレス液流路と、連続したマイクロ孔をもつモノリス構造体を構成し、試料液流路に充填されてイオン交換膜を支持しているイオン交換膜支持体とを備えたものである。
【0008】
好ましいモノリス構造体の一例は、粒径が1〜5μmの微小球状体が一部溶融して互いに接合したものである。そのようなモノリス構造体は、イオン交換膜からなる流路内にポリスチレン(以下PSと称す。)やシリカからなるビーズを充填し、材質に応じて熱処理や化学処理によりビーズの表面を一部融解させて融着させることにより、融着したビーズの隙間に孔径が20μm以下、例えば1〜5μmの連続したマイクロ孔を形成させることにより得ることができる。この孔の数値は溶液の通常のポアサイズ(1μm未満)に比べて圧力損失が低くなるように大きい孔径となっている。
【0009】
他の好ましいモノリス構造体の一例は、ゾル−ゲル法により形成されたものである。ゾル−ゲル法では、例えばシリカの溶液をイオン交換膜からなる流路内に注入し、ゲル化させることにより得ることができる。
【0010】
好ましい形態のサプレッサは、外管の内側に隙間をもってイオン交換膜からなる内管が収容された二重管構造をもち、内管を構成するイオン交換膜がその内部に充填されたイオン交換膜支持体により支持されており、外管と内管の間の隙間がサプレス液流路となり、内管の内側が試料液流路となっているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、イオン交換膜支持体としてモノリス構造体を充填して使用するのでイオン交換膜を安定して支持することができて低ノイズを実現することができる。また、カラムからの溶離液流路に何も充填していないサプレッサに比べて分析サンプルの拡散が抑制される。さらに、そのモノリス構造体が連続したマイクロ孔をもつことにより低圧損を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明が適用されるイオンクロマトグラフの一実施例を概略的に示したものである。分離カラム2には溶離液6を供給するために送液ポンプ4を備えた送液流路7が接続されている。送液流路7には試料を注入するインジェクタ8が配置されている。分離カラム2に注入された試料が分離カラム2中でそれぞれのイオンに分離され、分離カラム2からの溶離液流路9が電気伝導率計セル10に導かれて溶離液がそのセル10を通過するときに電気伝導率が検出される。セル10を通過した液はドレイン12へ廃液として排出される。
【0013】
分離カラム2とセル10の間の溶離液流路9には、カラム溶離液の電気伝導率を高くしている不用イオンを除去して高感度測定を可能にするためにサプレッサ14が配置されている。
【0014】
このイオンクロマトグラフが陰イオンを分析するためのものである場合には、サプレッサ14として溶離液中の陽イオンをイオン交換により除去するものが使用される。
【0015】
図2は一実施例のサプレッサを示したものである。サプレッサ14は外管20の内側に隙間をもってイオン交換膜からなる内管22が収容された二重管構造をもっている。内管22内にはイオン交換膜支持体24が充填されており、内管22を構成するイオン交換膜がイオン交換膜支持体24により支持されている。外管20と内管22の間の隙間26がサプレス液流路となり、内管22の内側が試料液流路となっている。すなわち、試料液流路にはイオン交換膜支持体24が充填されていることになる。
【0016】
サプレッサ14の両端にはサプレッサ14を流路に接続するためのジョイント28a,28bが設けられ、ジョイント28a,28bによりイオン交換膜からなる内管22に液を流すことができるようになっている。外管20の一端側には外管20と内管22の間の隙間26に液を流入させる液入口30aが設けられ、外管20の他端側には隙間26を流れた液を排出するための液出口30bが設けられている。
【0017】
特に制約されるものではないが、各部の寸法の一例を示すと、外管20の長さは約100cm、内径は約8mm、内管22の外形は約0.8mmで、外管20と内管22の間の隙間26の大きさが約1.6mmとなっている。内管22を構成するイオン交換膜は厚さが約200μmである。イオン交換膜支持体24は直径約10μmのポリスチレンビーズが熱により融着してビーズ間に約20μm以下の大きさの連続したマイクロ孔が形成されたものである。
【0018】
サプレス液は内管22を構成するイオン交換膜のイオン性官能基を再生する液であり、純水又は水溶液が使用される。イオン性官能基はH+又はOH-であるが、そのイオン交換膜が陽イオン交換膜である場合にはイオン性官能基はH+であり、そのイオン交換膜が陰イオン交換膜である場合にはイオン性官能基はOH-である。
【0019】
この実施例において、用いられるイオンクロマトグラフが陰イオン分析用のものであるとして説明すると、内管22を構成するイオン交換膜としては陽イオン交換膜が使用される。このサプレッサ14ではイオン交換膜による吸着及び透析によって溶離液流路24を流れるカラム溶離液から不用な陽イオンがそのイオン交換膜で水素イオンと交換されて選択的に除去される。不用な陽イオンと交換された水素イオンはカラム溶離液中の水酸化物イオンと反応して水に変換されるため、カラム溶離液の電気伝導率が低くなり、電気電度率計セル10での検出ノイズが小さくなる。そのイオン交換膜に吸着及び透析した不用な陽イオンはサプレス液流路26を流れるサプレス液中の水素イオンと交換されてサプレス液中に放出される。
【0020】
用いられるイオンクロマトグラフが陽イオン分析用のものであれば、内管22を構成するイオン交換膜としては陰イオン交換膜が使用される。そして、溶離液流路24を流れるカラム溶離液から不用な陰イオンがそのイオン交換膜で水酸化物イオンと交換されて選択的に除去される。不用な陰イオンと交換された水酸化物イオンはカラム溶離液中の水素イオンと反応して水に変換されるため、この場合もカラム溶離液の電気伝導率が低くなり、電気電度率計セル10での検出ノイズが小さくなる。また、そのイオン交換膜に吸着及び透析した不用な陰イオンはサプレス液流路26を流れるサプレス液中の水酸化物イオンと交換されてサプレス液中に放出される。
【0021】
この実施例のサプレッサ14の製造方法について説明する。外管20内にイオン交換膜からなる内管22が収容された二重管構造を用意する。図3に示されるように、内管22内に直径が約10μmのポリスチレンビーズ32を充填する。ポリスチレンビーズ32を充填したサプレッサをオーブンで80〜105℃、約2時間加熱処理する。この加熱処理により、内管22内にモノリス構造体を形成する。
【0022】
このような熱処理条件で生成したモノリス構造体のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を図4に示す。ポリスチレンビーズ32が互いに融着固定されて、連続したマイクロ孔をもつモノリス構造体となっていることがわかる。
【0023】
他の実施例のサプレッサとして、多孔質シリカゲルによるイオン交換膜支持体をもつものを上げることができる。そのようなサプレッサのイオン交換膜支持体もモノリス構造体を構成している。その一例として挙げられるのは、ゾルゲル法によって製作したものである。
【0024】
そのような多孔質シリカゲルによるイオン交換膜支持体をもつサプレッサを製造するにはゾルゲル法を使用することができる。上の実施例と同じように、外管20内にイオン交換膜からなる内管22が収容された二重管構造を用意し、内管22内にゾル溶液を注入する。ゾル溶液はTMOS(テトラメトキシシラン)/MTMS(メチルトリメトキシシラン)/PEG(ポリエチレングリコール)を適当な比率で混合した溶液に0.01M酢酸を加えたものである。そのゾル溶液を、最初0℃で45分間反応させた後、40℃で0.5時間加熱処理してゲル化させる。その後、エタノールを通液して余分な反応液を除き、脱気後にゲル化反応をおえる。モノリス化反応後にエタノールやトルエンなどの有機溶媒を用いて未反応物を除去する。ゾルゲル法によるモノリス構造体は、上記試薬を加えることによって加水分解と共重合が起こり、スピノーダル分解による相分離が形成されて生じる。
【0025】
このような熱処理条件で生成した多孔質シリカゲルからなるモノリス構造体のSEM画像を図5に示す。シリカゲルからなる骨格により連続したマイクロ孔をもつモノリス構造体となっていることがわかる。
【0026】
イオン交換膜支持体は他の方法によっても製造することができる。例えば、内管22内にポリスチレンビーズ32を充填した後、ポリスチレンビーズを融解・融着させる方法として、加熱処理に替えて有機溶媒を流す。有機溶媒としてはメチルエチルケトン又はクロロホルムなどを用いることができる。
【0027】
また、シリカによるイオン交換膜支持体を形成する方法として、内管22内にシリカビーズを充填し、例えば1%フッ酸を流すことによりシリカビーズを融解・融着させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明が適用されるイオンクロマトグラフの一例を概略的に示す流路図である。
【図2】一実施例のサプレッサを示す概略断面図である。
【図3】同実施例のサプレッサの製造方法の一工程を示す断面図である。
【図4】同実施例のサプレッサで使用されるモノリス構造体のSEM画像を示す図である。
【図5】他の実施例のサプレッサで使用されるモノリス構造体のSEM画像を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
14 サプレッサ
20 外管
22 イオン交換膜からなる内管
24 イオン交換膜支持体
26 サプレス液流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換膜と、
前記イオン交換膜の一方の面に接し、試料液が流される試料液流路と、
前記イオン交換膜の他方の面に接し、前記イオン交換膜のイオン性官能基を再生するサプレス液が流されるサプレス液流路と、
連続したマイクロ孔をもつモノリス構造体を構成し、前記試料液流路に充填されて前記イオン交換膜を支持しているイオン交換膜支持体と、を備えたサプレッサ。
【請求項2】
前記モノリス構造体は粒径が1〜5μmの微小球状体が一部溶融して互いに接合したものであり1〜5μmのマイクロ孔を有する請求項1に記載のサプレッサ。
【請求項3】
前記モノリス構造体はゾル−ゲル法により形成されたものである請求項1に記載のサプレッサ。
【請求項4】
該サプレッサは外管の内側に隙間をもって前記イオン交換膜からなる内管が収容された二重管構造をもち、
前記内管を構成するイオン交換膜がその内部に充填された前記イオン交換膜支持体により支持されており、
前記外管と内管の間の隙間が前記サプレス液流路となり、前記内管の内側が試料液流路となっている請求項1から3のいずれかに記載のサプレッサ

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−115637(P2009−115637A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289416(P2007−289416)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)