説明

サボテン類の高品位栽培方法

【課題】 十分な水分ストレスを与えることができ、高糖度を実現でき、育成時期の日光環境を最適に調整でき、かつ、摘果率を向上させることができるサボテン類の高品位栽培方法を提供すること。
【解決手段】 栽培ハウス内において、回転台上に設置され、底部に排水孔を有する容器を用いてサボテン類の栽培をし、収穫前の水切り処理により、植物に十分な水分ストレスを与えた後に、甘味料を施肥する。また、人工授粉において、同種で異なる品種の複数のおしべから採取した花粉を混合して、めしべ全体に接触、又は花粉管に投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サボテン類の良好な育成と、高糖度の実現、および摘果率を高めることができる、サボテン類の高品位栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、苺、トマト、メロン、すいかなどの果菜類や、マンゴー、みかん、桃などの 果実類の糖度を上げるための高品位栽培方法として、水切り栽培が行われている。
【0003】
これは、収穫時期の1、2ヶ月前から作物への灌水を中止し、水分不足による水分ストレスを強く生じさせる栽培管理を行い、糖度を高める栽培方法である。
【0004】
さらに、トマトなどでは、植物の根を切断したり、高濃度の肥料により根の機能を損なわせるなどの高糖度トマト栽培なども行われている。
【0005】
また、水切り方法としては、特開平6−121624号では、通気性防水シートで果実植物の根本周辺を覆い、雨水の浸透を防止して水切りするものが開示されている。
【0006】
また、小型の鉢で養液栽培を行い、毛細管現象で養液を供給するようにした、特開平10−127177号や、さらに最小限の水分管理を行うようにした、特開平10−28476号なども開示されている。
【0007】
また、野菜及び果実類では、摘果率を高めるために、人工授粉が行われているものがある。
【0008】
これは、棒の先にダチョウなどの羽根を多数取り付けた人工授粉用毛棒を用いて、花粉をめしべに優しくこすりつけるものである。
【0009】
より円滑に受粉作業が行えるように工夫した人工授粉用毛棒(登録実用新案第3026186号)や小型送風機を用いて効率を高めた(特開平7−44613号)などが開示されている。
【0010】
また、受粉効果を高める花粉増量剤(特開平11−192033号)などもある。
【特許文献1】特開平6−121624号公報
【特許文献2】特開平10−127177号公報
【特許文献3】特開平10−28476号公報
【特許文献4】登録実用新案第3026186号公報
【特許文献5】特開平7−44613号公報
【特許文献6】特開平11−192033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の方法における水切り処理においては、糖度が上がるものの満足いく高糖度には達していなかった。
【0012】
特開平6−121624号のように、根の周辺を通気性防水シートで覆ったものでは、周囲の土の水分を吸収できるので十分な水切りとはならず、糖度の向上効果は高くない。
【0013】
特開平10−127177号や特開平10−28476号では、毛細管現象により水分供給されており、完全な水切りではなく、十分な水分ストレスを与えられず、やはり、十分な糖度向上は期待できない。
【0014】
高糖度の実現には、十分な水分ストレスを与えることが必要であり、水切り時期においては、完全な水切り状態の実現が不可欠である。
【0015】
勿論、枯死させないように水切り期間を十分に検討する必要がある。
【0016】
また、糖度向上においては、実が熟成するまでに十分な日光を浴びることが必要であり、植物の日当たりの良い場所を確保することはなされるが、植物の向きを陽射しの向きに対応させるような工夫はなされていない。
【0017】
また、摘果率の向上においては、野菜及び果実では、受粉が大きく影響する。
【0018】
人工授粉などの工夫がなされているが、登録実用新案第3026186号や、特開平7−44613号では、羽根などで花粉をめしべにこすりつけるものである。
【0019】
めしべを傷つけずに花粉をこすりつけるものであるが、付着させた花粉が受精に至るまでに取れてしまうなどの問題があった。
【0020】
また、特開平11−192033号のように、花粉増量剤などでは、受粉環境を改善することで受精率を高めようとするものであるが、花粉は希釈されてしまうので、受精させる植物に適合した増量剤でなければ受精率は向上しない。
【0021】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、摘果率を向上させることができるサボテン類の高品位栽培方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するために、本発明は、ハウス栽培において、おしべから採取した花粉を、めしべ全体に接触、又は花粉管に投入することで人工受粉させることを特徴とするサボテン類の高品位栽培方法である。
【0023】
植物の受粉は、通常昆虫などによって行われるが、病害虫の問題からハウス内で、手作業による人工授粉が行われているが、通常は花粉を付着させた刷毛でめしべを撫でて受粉させるが、受粉率は必ずしも高くない。これは、めしべに付着させた花粉が受精する前に、風や振動で取れてしまったり、花粉が十分でなかったりすることによる。刷毛で軽く撫でるのではなく、めしべ全体にふりかけるなどして全体に接触させて付着させる。あるいは、花粉管を有するめしべであれば、その花粉管に十分な量の花粉を投入、充填するものである。めしべに付着する花粉の量が十分となり、受精率が飛躍的に向上する。
【0024】
また、本発明は、同種で異なる品種の複数のおしべから採取した花粉を混合して用いることを特徴とするサボテン類の高品位栽培方法である。
【0025】
同種類の植物であれば良く、同じ植物でも、色や模様などその形質に異なる点のあるもの、すなわち、異なる品種のもののおしべから花粉を採取し、それらを混合して使用する。従来は、同種、同品種の複数のおしべからの花粉を使用することは行われていたが、異なる品種の花粉を混合して使用するものはなかった。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、以下のような効果がある。
【0027】
1)人工授粉による受精率が上がり、摘果率を高めることができる。
【0028】
2)花粉のブレンドにより、高品質で実が大きくなり、受精率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明によるサボテン類の高品位栽培方法について、図面を用いて説明する。
【0030】
本実施例は、糖度の向上が強く求められている、ドラゴンフルーツを例にした高品位栽培方法である。
【0031】
ドラゴンフルーツ(ピタヤ)は、サボテン科ヒモサボテン属の多年生の登攀性、多肉植物である。
【0032】
茎は三角状を呈し、茎節には登攀性の根が発生する。
【0033】
壁、棚などに登攀、成長することができる。
【0034】
果実はだ円形で、可食部は花、つぼみ、果実である。
【0035】
ビタミン、繊維、ブドウ糖及び人体に有効なミネラルと多く含んでいるとされる。
【0036】
病虫害、不良環境に強く、農薬を必要としない数少ない特殊な果実であり、健康、自然食品として好まれる。
【0037】
図1は、本発明による栽培設備を示す実施例である。
【0038】
ハウス1内に栽培容器2を適度な間隔で複数台設置されている。
【0039】
ハウス1は、通常のビニールハウスでも良い。
【0040】
本栽培容器2は、図2に示すように、ブロックによる架台3と、その上部に設置された回転台4と、該回転台上に設置され、培土5が充填され、底部に排水孔が設けられた円筒容器6と、その円筒容器6の上部に取り付けられた、ドラゴンフルーツの茎を這わせる棚となるリング状のガイド7とからなる。
【0041】
該円筒容器6は、ドラム缶を中央の高さで、水平に切断したものを用い、底部に多数の排水孔が開けられ、底部に網が敷設されている。
【0042】
培土5は、最下層として、石を敷き、その上層に砂を敷き、さらにその上層に、鹿沼土と赤土との混合土を敷き、最上層として、鶏糞肥料を盛土したものである。
【0043】
上記の回転台4は、図3に示すように、正方形の板材による基台4aと、その上部に複数のゴム製車輪4bが設けられた八角形状の回転板4cとからなり、互いの中心が回転軸4dで軸支され、回転板4cが基台4aに対して自由に回転できるようになっているものである。
【0044】
該基台4a及び回転板4cは、防水処理として防水塗装が3回塗りされている。該車輪4bは、各々耐加重40kgのものを使用し、4個で全体の対耐加重が160kgに耐えるようにしてある。栽培容器の重量に応じて適時、変更すれば良い。
【0045】
このような構成による栽培容器2をハウス1内に2、3m間隔で配置した。作業者が通れる程度の間隔であれば良い。
【0046】
各栽培容器2には、ドラゴンフルーツの苗8を4本ずつ移植した。図4にその移植状態を示す。
【0047】
図5は、ドラゴンフルーツが成長し、開花時期を迎えた状態を示す図である。栽培容器のリング状のガイドにより、ドラゴンフルーツの幹が支えられ、上部から周囲全体に広がって成長するので、日照りが良く、受粉作業や摘果作業がしやすい。
【0048】
このように、設置された栽培容器は、ドラゴンフルーツの育成において、陽射しが最適となるように、回転台を回転させて調整することができるので、ドラゴンフルーツの成長と糖度の向上に大きく影響する。
【0049】
次に糖度を高めるための栽培方法の一実施例について説明する。
【0050】
1)上記のような栽培容器で最適な日照環境で生育させるとともに、十分な灌水を行う(図1)。
【0051】
2)茎の成長に合わせて、リング状のガイドに這わせる。
【0052】
3)さらに生育し、つぼみができ、開花する(図5)。
【0053】
4)開花後果実が大きくなる。
【0054】
5)果実が大きくなり、熟するとともに赤く変色する。
【0055】
6)果実全体が変色した時期に水切りを行う。
【0056】
水切りは、7日から14日程度とする。
【0057】
7)水切り後、甘味料を施肥する。
【0058】
甘味料としては、マンゴージュースを苗1本に対して500ccから1000cc与える。
【0059】
500cc以下では、効果がなく、1000cc以上では変化はなく、不経済である。
【0060】
甘味料は、糖度15以上となるものであればいずれでもよく、各種のジュール類や、ステビアなど砂糖類、シロップ類、蜂蜜やメープルシロップなどでも良い。
【0061】
8)甘味料を施肥後、1週間程度で採取する。
【0062】
このようにして高糖度処理をしたドラゴンフルーツの糖度を測定したところ、17〜20度の高糖度となった。
【0063】
通常のドラゴンフルーツの糖度は、7〜11程度で比較的低いが、本発明による方法を用いると、非常に糖度が高く、美味しいドラゴンフルーツとなった。
【0064】
次に、本発明による人工授粉について説明する。
【0065】
本実施例に使用したドラゴンフルーツは、ハウス栽培であるため、自然の虫による受粉は行われない。
【0066】
1)各品種のドラゴンフルーツのおしべから、刷毛を用いて皿に受け、花粉を採取する。
【0067】
ドラゴンフルーツは、白品種と赤品種があるが、その両方から、採取する。
【0068】
2)白品種と赤品種の花粉を混合する。
【0069】
混合は花粉を傷つけないように注意する。
【0070】
混合割合は、赤品種の花粉と白品種花粉との割合が50:50程度とすることが好ましい。
【0071】
3)めしべのある花粉管に混合した花粉をいっぱいになるまで投入する。
【0072】
投入後花粉管を指で弾いて軽く振動を与えると良い。
【0073】
花粉管に混合花粉が十分に充填された状態とすることにより、めしべと花粉の接触率が高くなり、受精率が飛躍的に高まるのである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明による栽培設備の実施例を示す図である。
【図2】本発明による栽培容器の実施例を示す図である。
【図3】本発明による栽培容器の回転台の実施例を示す図である。
【図4】本発明による栽培容器にドラゴンフルーツを移植した状態を示す図である。
【図5】本発明により栽培されたドラゴンフルーツの開花時期の状況を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 ハウス
2 栽培容器
3 架台
4 回転台
4a 基台
4b 車輪
4c 回転板
4d 回転軸
5 培土
6 円筒容器
7 リング状ガイド
8 ドラゴンフルーツの苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウス栽培において、おしべから採取した花粉を、めしべの全体に接触、又は花粉管に投入することで人工受粉させることを特徴とするサボテン類の高品位栽培方法。
【請求項2】
前記の人工授粉に用いる花粉は、同種で異なる品種の複数のおしべから採取した花粉を混合して用いることを特徴とする請求項1に記載のサボテン類の高品位栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−306934(P2007−306934A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180039(P2007−180039)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【分割の表示】特願2004−381451(P2004−381451)の分割
【原出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(304058952)
【Fターム(参考)】