説明

サンプリング装置、センサの出力信号の波形を分析する波形分析装置、およびプログラム

【課題】加速度センサ等のセンサの出力信号が所定の閾値を上回ったことを条件に波形分析を行う場合において、消費電力の低減と分析漏れの回避とを両立することを可能にする。
【解決手段】センサの出力信号をサンプリングしそのサンプル値が所定の閾値を上回っている場合には当該サンプル値を上記センサの出力信号の波形を分析する装置に供給する一方、当該サンプル値が上記所定の閾値以下である場合には、所定の待機時間を挟んで前記センサを間欠的に起動させるサンプリング装置に、当該サンプル値が上記所定の閾値以下である場合には、よりも小さな第2の閾値と当該サンプル値の大小比較を行い、後者のほうが大きい場合における待機時間が前者のほうが大きい場合における待機時間よりも短くなるように待機時間の長さを調整する処理を実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの出力信号をサンプリングして波形分析を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術の具体例としては、加速度センサを用いた歩数計が挙げられる。加速度センサを用いた歩数計では、加速度センサの出力信号に波形分析(歩行における一歩に対応した特定の波形パターンが表れているか否かの判定や一歩に対応したピークが表れているか否かの判定等)を施して当該歩数計の携帯者の一歩を検出し、歩数を累算する処理が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−191603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、携帯電話機に加速度センサを実装し、その加速度センサの出力信号のサンプリングおよび波形分析をアプリケーションプログラムによって実現する(換言すれば、ソフトウェアにより歩数計機能を実現させる)ことが提案されている。携帯電話機に歩数計機能を実現させる場合には、その歩数計機能の実現に要する電力をできるだけ低く抑えることが重要である。歩数計機能の実現に要する電力が大きいと、携帯電話機への充電を頻繁に行うことが必要となり、携帯電話機本来の特性である携帯性が損なわれる虞があるからである。
【0005】
歩数計機能の実現に要する電力を低く抑えるには、歩数計の携帯者が動作していない(歩行していない)と推測されるような状況下では加速度センサへの給電を停止するようにすることが考えられる。例えば、加速度センサへの給電を間欠的に行い、予め定めた閾値を上回るサンプル値が得られた場合など携帯者が何らかの動作を行っていると推定される場合にのみ加速度センサへの給電を継続し詳細な波形分析を行うようにするといった具合である。
【0006】
しかし、加速度センサの出力信号が所定の閾値を上回るまでの間は加速度センサへの給電を間欠的に行う態様においては、間欠的な電力供給の合間に加速度が所定の閾値を上回ると、実際に加速度が閾値を上回った時点から加速度センサの出力信号の波形分析が実行されるまでの遅延が長くなり、実際に加速度が閾値を上回った時点の直後における波形パターンやピークを検出し逃し、歩数の測定結果に誤差が生じる場合がある(図7点線のグラフ参照)。もっとも、加速度センサへの給電を停止する期間を短くするようにすれば、上記遅延を短くすることは可能であるが、歩数計機能の実現に要する電力を低く抑えるという観点からは、加速度センサへの給電を停止する期間を短くすることは好ましくない。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、加速度センサ等のセンサの出力信号が所定の閾値を上回ったことを条件に波形分析を行う場合において、消費電力の低減と分析漏れの回避とを両立することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、センサの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、前記サンプリング手段により得られたサンプル値が所定の閾値を上回った場合に、当該サンプル値を前記センサの出力信号の波形を分析する装置に供給する制御手段であって、当該サンプル値が前記所定の閾値以下である場合に、前記所定の閾値よりも小さい第2の閾値と当該サンプル値の大小比較を行い、前記第2の閾値よりも当該サンプル値が大きい場合には前記サンプリング手段のサンプリング周期を短くするサンプリング周期調整処理を実行する制御手段とを具備することを特徴とするサンプリング装置、を提供する。なお、本発明の別の態様としては、コンピュータを上記各手段として機能させることを特徴とするプログラムを提供する態様が考えられ、このようなプログラムの具体的な提供態様としては、CD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に書き込んで配布する態様や、インターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードにより配布する態様が考えられる。
【0008】
このようなサンプリング装置によれば、センサの出力信号のサンプル値が第2の閾値を超えて第1の閾値に近づくと、それまでよりも短いサンプリング周期でセンサの出力信号のサンプリングが行われ、上記所定の閾値近傍の出力信号がきめ細やかにサンプリングされる。このため、センサの出力信号が実際に上記所定の閾値を上回ったタイミングとその旨の検出タイミングとのずれが小さくなり、センサの出力信号が実際に上記所定の閾値を上回った時点から波形分析が実行されるまでの遅延が短くなる。また、サンプリング手段の待機時間中にセンサへの給電を停止するようにすれば、消費電力の低減を実現することができることは言うまでもない。
【0009】
より好ましい態様においては、上記サンプリング装置の制御手段が実行するサンプリング周期調整処理では、各々の大きさが前記所定の閾値よりは小さく、かつ互いに大きさが異なる複数の閾値のうちの最も小さいものを前記第2の閾値として選択して前記センサの出力信号のサンプル値との大小比較を行い、後者のほうが大きくなったことを契機として前記複数の閾値のうちで次に小さいものを前記第2の閾値として選択し直す処理が行われることを特徴とする。このような態様によれば、上記所定の閾値近傍の出力信号をよりきめ細やかにサンプリングすることが可能になる。
【0010】
また、上記課題を解決するために本発明は、センサと、センサの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、与えられた信号のサンプル値に基づいて当該信号に波形分析を施す波形分析手段と、前記サンプリング手段により得られたサンプル値が所定の閾値を上回った場合に、当該サンプル値を前記波形分析手段に供給する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記サンプリング手段によりサンプリングされたサンプル値が前記所定の閾値以下である場合に、前記所定の閾値よりも小さい第2の閾値と当該サンプル値の大小比較を行い、前記第2の閾値よりも当該サンプル値が大きい場合には前記サンプリング手段のサンプリング周期を短くするサンプリング周期調整処理を実行することを特徴とするセンサの出力信号の波形を分析する波形分析装置、を提供する。なお、このような波形分析装置の具体例としては、加速度センサを上記センサとして備え、当該加速度センサの出力信号にピーク検出等の波形分析を施して携帯者の一歩を検出し歩数を計数する歩数計が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態である歩数計測装置を含む携帯電話機の構成を示す図である。
【図2】同携帯電話機の外観を表す斜視図である。
【図3】図1に示すホストCPUの状態遷移を示す図である。
【図4】図1に示すMCUの状態遷移を示す図である。
【図5】図1に示すMCUの動作を示すフローチャートである。
【図6】図1に示すMCUおよび加速度センサの動作を示すタイミングチャートである。
【図7】動作判定処理の実行間隔T3を一定にした場合の問題点を説明するための図である。
【図8】図1に示すMCUが実行するサンプリング周期調整処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】本実施形態の効果を説明するための図である。
【図10】変形例(1)のサンプリング周期調整処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1は、この発明の一実施形態である歩数計測装置40を含む携帯電話機10の電気的構成を示すブロック図である。図2は、同電話機10の外観を示す斜視図である。図2に示すように、この携帯電話機10は、筐体21及び筐体22とこれらを互いに傾動し得るように連結するヒンジ部材23とを有する。筐体21の表面24にはスピーカ25とディスプレイ26が設けられている。筐体22の表面27には操作キー28とマイクロホン29が設けられている。また、筐体22には、ホストCPU(Central Processing Unit)31、RAM(Random Access Memory)32、ROM(Read Only
Memory)33、開閉センサ34、無線部35、キーセンサ36、音声処理部37、表示処理部38、及び歩数計測装置40を含む制御装置50と、当該携帯電話機10における電力の供給源であるバッテリ60とが内蔵されている。
【0013】
ホストCPU31は、携帯電話機10の制御中枢としての役割を果たす装置である。図3に示すように、ホストCPU31は、待受状態と起動状態の2つの状態間を遷移する。ホストCPU31は、各状態において次のような処理を行う。待受状態では、ホストCPU31は、待受状態から起動状態への遷移の条件となるイベントEV-activeの発生を監視する。待受状態から起動状態への遷移の条件となるイベントEV-activeには、筐体21を筐体22から遠ざける方向(図2のY方向)に傾動させたこと(すなわち、折り畳まれた状態の携帯電話機10を開く動作)が開閉センサ34によって検知されたことを示すイベントや、無線部35が着呼信号を受信したことを示すイベント、キーセンサ36が操作キー28の押下を検知したことを示すベントなどがある。待受状態では、ホストCPU31は、イベントEV-activeが発生していない場合は、時間T1が経過するまで休止(sleepコマンドの実行等)してから起動してイベントEV-activeの発生を監視する、という処理を繰り返す。ホストCPU31は、イベントEV-activeが発生した場合は、起動状態へと遷移する。
【0014】
起動状態では、ホストCPU31は、操作キー28の操作に従い、ROM33に記憶されているアプリケーションプログラムをRAM32に読み出す。ホストCPU31は、RAM32に読み出したアプリケーションプログラムに従って、音声処理部37や表示処理部38を制御する。音声処理部37は、ホストCPU31による制御の下、スピーカ25及びマイクロホン29とホストCPU31の間の音信号の送受信を仲介する処理を行う。表示処理部38は、ホストCPU31による制御の下、ディスプレイ26に画像を表示させる処理を行う。ROM33に記憶されているアプリケーションプログラムには、他の携帯電話機10との通話を行うための通話アプリケーション、WWW(World Wide Web)におけるHTML(Hyper
Text Markup Language)データを受信してその内容をディスプレイ26に表示させるブラウジングアプリケーションなどのほか、歩数計測装置40の処理結果である歩数Numを同装置40から取得してディスプレイ26に表示させるアプリケーションプログラムである歩数提示アプリケーションがある。ホストCPU31は、歩数提示アプリケーションの実行開始を指示されると、当該歩数提示アプリケーションをROM32からRAM32へ読み出してその実行を開始するとともに、後述する歩数計測プログラムの実行指示を歩数計測装置40に与える。
【0015】
また、起動状態では、ホストCPU31は、起動状態から待受状態への遷移の条件となるイベントEV-waitの発生を監視する。起動状態から待受状態への遷移の条件となるイベントEV-waitには、筐体21を筐体22に近づける方向(図2のX方向)への傾動(すなわち、開いた状態の携帯電話機10を折り畳む動作)が開閉センサ34によって検知されたことを示すイベントや、時間T2(T2<T1)に亙って何れの操作キー28も押下されなかったことを示すイベントなどがある。ホストCPU31は、イベントEV-waitが発生した場合は、待受状態へと遷移する。
【0016】
歩数計測装置40は、図1に示すように、加速度センサ44、MCU(Micro Control Unit)41、RAM42、及びROM43を有する。加速度センサ44は、IC(Inter-Integrated Circuit)バスによりMCU41と接続されている。加速度センサ44は、MCU41による制御の下、当該加速度センサ44に加わった外力に応じて生じた加速度を示す加速度値を出力する装置である。より具体的に説明すると、MCU41が加速度センサ44に対する電力供給を開始させ、ICバスを介して加速度センサ44に起動指示信号を与えると、加速度センサ44は、上記加速度を互いに直交する3つの軸方向の成分A,A,Aに分解して検出し、各成分A,A,Aの大きさを示すデータDA,DA,DAを次式に代入して求まる加速度値データDAをICバスを介してMCU41に供給する。
DA=(DA+DA+DA1/2…(1)
【0017】
MCU41は、当該歩数計測装置40の制御中枢である。MCU41は、RAM42をワークエリアとして利用しつつ、ROM43に記憶された歩数計測プログラムを実行する。図4に示すように、MCU41は、歩数計測プログラムに従い、待機状態と計測状態の2つの状態間を遷移する。図5は、MCU41が歩数計測プログラムにしたがって実行する処理の内容を示すフローチャートである。図5に示すように、MCU41は、まず、動作モードを待機状態にセットする(S101)。待機状態では、MCU41は、加速度センサ44への電源供給を間欠的に行うとともに、加速度センサ44から加速度値データDAを取得し、この加速度値データDAが閾値TH1(閾値TH1は、重力加速度(9.8m/s)よりも僅かに大きな値とする)を上回っているか否かを判定し、加速度値データDAが閾値TH1を上回っていると判定した場合に計測状態に遷移する。より具体的には、MCU41は、待機状態では、次のような処理を行う。
【0018】
まず、MCU41は、加速度センサ44への電源供給を行わせる(S102)。次に、MCU41は、加速度センサ44から加速度値データDAを取得する(S103)。この加速度値データDAはMCU41の内蔵レジスタ(1個分の加速度値データDAを格納する記憶領域)に格納される。つまり、歩数計測プログラムに従って作動しているMCU41は、加速度センサ44の出力信号をサンプリングするサンプリング手段の役割を果たすのである。
【0019】
次に、MCU41は、動作判定処理を行う(S104)。動作判定処理は、携帯電話機10が動いているか否かを判定する処理である。この動作判定処理では、MCU41は、ステップS103にて取り込んだ加速度値データDAと閾値TH1とを比較する。そして、加速度値データDAが閾値TH1を上回っている場合には携帯電話機10は動いているとみなし、閾値HT1以下の場合には携帯電話機10は静止しているとみなす。
【0020】
MCU41は、ステップS104において、加速度値データDAが閾値TH1を上回っていないと判定した場合(S104:No)、加速度センサ44に対する電源供給を停止させる(S105)。このように加速度センサ44への電源供給が停止されることにより、加速度センサ44によるバッテリ60の消耗が回避される。次いで、MCU41は、サンプリング周期調整処理を実行する(S106)。詳細については後述するが、このサンプリング周期調整処理S106では、MCU41は所定時間分の待機を行うとともに、その待機時間の長さを加速度値データDAの大きさに応じて調整する処理を実行する。そして、MCU41は、所定時間分の待機が完了すると、歩数の計測の終了を指示する操作が行われたか否かを判定する(S107)。MCU41は、歩数の計測の終了を指示する操作が行われていない場合には(S107:No)、ステップS102に戻って加速度センサ44を起動させ、以降の処理を繰り返す。逆に、歩数の計測の終了を指示する操作が行われた場合には(S107:Yes)、MCU41は、全ての処理を終了させる。
【0021】
MCU41は、ステップS104において、加速度値データDAが閾値TH1を上回っていると判定した場合(S104:Yes)、計測状態に遷移する(S201)。MCU41は、計測状態では、加速度センサ44への電源供給を継続させたまま同センサ44から出力される加速度値データDAを取得し、取得した過去所定個数の加速度値データDAに基づいて歩数Numの計測を行うとともに、携帯電話機10が静止しているか否かの静止判定を行い、静止していると判定した場合には待機状態に遷移する。より具体的に説明すると、MCU41は、計測状態では、次のような処理を行う。
【0022】
まず、MCU41は、加速度センサ44から出力された加速度値データDAを取得し(S202)、取得した加速度値データDAをRAM42内のリングバッファ(上記所定個数の加速度値データDAを格納可能な記憶領域であって、空きがない場合には古い加速度値データDAから順に上書きされる記憶領域)に書き込む。リングバッファに加速度値データDAを格納するようにしたのは、このリングバッファに格納されている加速度値データDAに基づいて加速度の時間波形に対する波形分析が行われるからである。
【0023】
次に、MCU41は、歩数計測処理を行う(S203)。歩数計測処理は、RAM42内のリングバッファに書き込まれている過去所定個数の加速度値データDAを用いて携帯者により一歩の歩行が行われたか否かを判定し、歩行した場合にはRAM42における歩数Numをカウントアップする処理である。より具体的に説明すると、歩数計測処理では、MCU41は、リングバッファにおける過去所定個数の加速度値データDAを走査して波形分析(本実施形態では、加速度値データDAの大きさが上昇から下降に転じるピークの検出)を行い、ピークが検出された場合に携帯者が歩行したとみなし、RAM42における歩数Numを1つカウントアップする。なお、本実施形態では、波形分析の一態様としてピーク検出を行う場合について説明するが、特許文献1に開示されたパターン検出を行う態様であっても良い。
【0024】
ステップS203に後続するステップS204では、MCU41は、静止判定処理を行う。静止判定処理は、携帯電話機10が静止したか否かを判定する処理である。静止判定処理では、MCU41は、RAM42のリングバッファに書き込まれている最新の所定個数の加速度値データDAと閾値TH1とを比較する。そして、最新の所定個数の加速度値データDAの全てが閾値TH1を下回っている場合は携帯電話機10が静止しているとみなし、閾値TH1を下回っていない場合は携帯電話機10が未だ動いているとみなす。
【0025】
MCU41は、ステップS204において、携帯電話機10が静止していると判定した場合(S204:Yes)、待機状態へと遷移する。一方、MCU41は、ステップS204において携帯電話機10が静止していないと判定した場合(S204:No)、時間T4(T4<T3:例えば、T4=40ミリ秒)が経過するまで待機する(S205)。そして、MCU41は、時間T4が経過した後、歩数の計測の終了を指示する操作が行われたか否かを判定する(S206)。MCU41は、歩数の計測の終了を指示する操作が行われなかった場合には(S206:No)、ステップS202に戻って加速度センサ44から出力された最新の加速度値データDAを取得し、ステップS203以降の処理を繰り返す。また、MCU41は、当該歩数計測装置40による歩数の計測の終了を指示する操作が行われた場合には(S206:Yes)、全ての処理を終了させる。
【0026】
ステップS205における待機時間T4は、ステップS202〜S204の全所要時間TBにより決定される加速度値データDAの取得の周期が、歩数計測処理において一歩の歩行が行われたかどうかの判定をするのに支障を来たさない程度の充分に短い周期となるように決定される。すなわち、一歩の歩行が行われたかどうかの判定に支障を来たさない加速度値データDAの取得周期がT2であるとした場合、この周期T2からステップS202〜S204の処理の所要時間TBを差し引いた時間がステップS205における待機時間T4となる。一方、待機状態では、一歩の歩行が行われたか否かの判定は行われず、単に加速度値データDAが閾値TH1を超えたか否かの判定を行うのみなので、待機状態における加速度値データDAの取得周期T1を計測状態での加速度値データDAの取得周期T2と同じにする必要はなく、待機状態における消費電力を極力減らすという観点からは、待機状態における加速度値データDAの取得周期T1は長いほうが好ましい。
【0027】
待機状態における加速度値データDAの取得周期(すなわち、加速度波形のサンプリング周期)T1は、ステップS102〜S105の処理の所要時間TA(TA<TB)とステップS106における待機時間T3の和に相当する。したがって、図6(A)に示すように、待機時間T3を一定(200ミリ秒)にしたとすると、加速度センサ44の起動、加速度値データDAの取得、動作判定および加速度センサ44の停止の各処理は一定の待機時間T3の休止を挟んで一定の周期(周期T1)で間欠的に行われる。そして、加速度値データDAが閾値TH1を上回ると、ステップS104の判定結果が“Yes”となり、MCU41は動作モードを計測状態に遷移させる。計測状態では、加速度値データDAの取得及び歩数計測処理の各処理は、図6(B)に示すように、時間T4の休止を挟んで一定の周期(周期T2)で間欠的に行われる。このように、本実施形態では、待機状態および計測状態の何れにおいてもMCU41および加速度センサ44を間欠的に起動させ、さらに待機状態において加速度センサ44を停止させている期間(図6(A)の待機時間T3の期間)においては、その加速度センサ44への給電を停止させている。このため、MCU41および加速度センサ44の休止を挟むことなく起動させ続ける場合に比較して歩数計測装置40の消費電力を低く抑えることが可能になるのである。
【0028】
しかしながら、サンプリング周期調整処理S106において常に一定時間の待機を行わせるようにすると、図7にて点線で示すように、携帯者の動作に伴う加速度の大きさが実際に閾値TH1を上回るタイミングと間欠的に実行される動作判定処理S104の実行タイミングとに大きなずれが生じ、動作判定処理S104の実行タイミングにおいて加速度値データDAの時間波形がピークとなってしまう場合がある。動作判定処理S104の実行タイミングにおいて加速度値データDAの時間波形がピークとなってしまうと、計測状態への遷移後の所定個数分の加速度値データDAを走査しても当該ピークが歩数測定処理S203にて検出されることはなく、一歩分の歩数の測定誤りが生じる。そこで、本実施形態では、加速度の大きさが実際に閾値TH1を上回るタイミングと、間欠的に実行される動作判定処理S104の実行タイミングとに大きなずれが生じないようにするために、サンプリング周期調整処理S106において加速度値データDAの大きさに応じて待機時間の長さを調整する(換言すれば、加速度波形のサンプリング周期を調整する)ようにしているのである。以下、本実施形態の特徴を顕著に示すサンプリング周期調整処理S106について説明する。
【0029】
図8は、サンプリング周期調整処理S106の流れを示すフローチャートである。図8に示すように、このサンプリング周期調整処理S106においては、MCU41は、まず、前述したステップS103において取得した加速度値データDAが、前述した閾値TH1よりも小さい第2の閾値TH2を上回っているか否かを判定する(S1062)。そして、MCU41は、ステップS1062の判定結果が“No”である場合(すなわち、加速度値データDA≦第2の閾値TH2の場合)には、時間T3(=200ミリ秒)の待機を行い(S1064)、逆にステップS1062の判定結果が“Yes”である場合には、時間T3よりも短い時間T5(例えば、50ミリ秒)の待機を行って(S1066)、図5のステップS107以降の処理を実行するのである。つまり、本実施形態では、加速度値データDAのほうが閾値TH2よりも大きい場合における待機時間が、閾値TH2のほうが加速度値データDAよりも大きい場合における待機時間よりも短くなるように待機時間の長さを調整しているのである。
【0030】
このようなサンプリング周期調整処理S106が実行されるため、本実施形態の歩数計測装置40では、図9に示すように、加速度値データDAの大きさが閾値TH2以下の場合には、比較的長い時間T3(=200ミリ秒)の休止を挟みつつ周期T1で間欠的に動作判定処理S104が実行され、加速度値データDAの大きさが閾値TH2を上回ると、より短い時間T5(=50ミリ秒)の休止を挟んでより短い時間間隔T1‘で間欠的に動作判定処理S104が実行される。本実施形態では、間欠的に実行される動作判定処理の実行間隔は、加速度センサ44の出力信号の波形をサンプリングする際のサンプリング間隔(すなわち、サンプリング周期)に他ならない。つまり、本実施形態によれば、閾値TH1近傍における加速度の時間波形がよりきめ細かくサンプリングされ、加速度が実際に閾値TH1を上回った時点を的確に捉えることができる。その結果、本実施形態によれば、加速度が閾値TH1を上回った時点と動作判定処理S104の実行タイミングとのずれが小さくなり、計測状態への状態遷移が発生するまでの遅延を短くして歩数の計測漏れを回避することが可能になるのである。
【0031】
以上本発明の実施形態について説明したが、この実施形態に以下の変形を加えても勿論良い。
(1)上述した実施形態のサンプリング周期調整処理S106では、動作判定処理S104にて使用する閾値TH1よりも小さい閾値TH2と加速度値データDAとを比較し、後者のほうが大きい場合(すなわち、閾値TH2<加速度値データDA≦閾値TH1である場合)には待機時間を短くして動作判定処理S104の実行間隔(換言すれば加速度波形のサンプリング間隔)を短くした。しかし、加速度値データDAの大きさが閾値TH2を上回っている場合には、当該閾値TH2よりは大きく、かつ閾値TH1よりは小さい閾値TH3と加速度値データDAとの大小比較を行い、よりきめ細やかに、動作判定処理の実行間隔(加速度波形のサンプリング間隔)を調整しても良い。具体的には、図8に示すサンプリング周期調整処理に換えて図10に示すサンプリング周期調整処理をMCU41に実行させるのである。
【0032】
図10に示すサンプリング周期調整処理では、ステップS1062の判定結果が“Yes”である場合(すなわち、加速度値データDA>閾値TH2である場合)、MCU41は、加速度値データDAが閾値TH3(閾値TH3>閾値TH2)を上回っているか否かを判定する(S1065)。そして、MCU41は、ステップS1065の判定結果が“No”である場合(すなわち、閾値TH2<加速度値データDA≦閾値TH3である場合)には、時間T3(例えば、200ミリ秒)よりは短く、かつ時間T5(例えば、50ミリ秒)よりは長い時間T6(例えば、100ミリ秒)の待機を行う(S1067)。逆にステップS1065の判定結果が“Yes”である場合(すなわち、閾値TH3<加速度値データDA<閾値TH1である場合)には、MCU41は、前述したステップS1066の処理(すなわち、時間T5の待機)を行うのである。図10に示すサンプリング周期調整処理によれば、動作判定処理の実行間隔(換言すれば、加速度波形のサンプリング周期)は、加速度値データDA≦閾値TH2の場合には時間T3、閾値TH2<加速度値データDA≦閾値TH3である場合には時間T6、閾値TH3<加速度値データDA<閾値TH1である場合には時間T5と3段階に切り換えられることになる。
【0033】
また、各々の大きさが閾値TH1よりは小さく、かつ互いに大きさが異なる複数の閾値を予め用意しておき、サンプリング周期調整処理においては、これら複数の閾値のうちの最も小さいものを閾値TH2として選択して加速度値データDAとの大小比較を行い、後者のほうが大きくなったことを契機として次に小さいものを閾値TH2として選択し直すようにしても良く、上記複数の閾値の各々を小さい順に並べて区画される範囲の各々に対応づけて加速度値データDAが当該範囲に収まる場合の待機時間が書き込まれたテーブルをROM42に格納しておき、サンプリング周期調整処理では当該テーブルを参照して待機時間を決定するようにしても良い。要は、図10に示す処理と同様に、加速度値データDAの大きさが閾値TH1に近いほどサンプリング周期が短くなるようにサンプリング周期を調整する態様であれば良い。
【0034】
(2)上述した実施形態では、本実施形態の特徴を顕著に示すサンプリング周期調整処理をMCU41に実行させる歩数測定装置40が携帯電話機10に内蔵されていたが、この歩数測定装置40をPDA(Personal Digital Assistant)や携帯型ゲームなどの携帯端末に内蔵させても良く、また、歩数測定装置40を歩数計として提供しても勿論良い。また、上述した実施形態では動作判定と静止判定とで同一の閾値TH1を用いたが異なる閾値を用いるようにしても勿論良い。
【0035】
(3)上述した実施形態では、加速度センサ44の出力信号をサンプリングし、そのサンプル値が閾値TH1を上回った場合に波形分析を施して歩数を計測する歩数計測装置に本発明を適用した。しかし、本発明の適用対象は歩数計測装置に限定されるものではない。センサの出力信号をサンプリングし、そのサンプル値が所定の閾値を上回ったことを条件にピーク検出等の波形分析を行う装置であれば、本発明を適用することで、センサの出力信号が上記閾値を上回った時点からその旨が実際に検出されるまでの遅延を短くし、波形分析を遅滞なく行うことが可能になる。なお、歩数計以外への具体的な適用例としては、加速度センサを備えた携帯電話機に、静止時には前述した待受状態の処理を行わせ、携帯者が筐体を揺らすなどした場合に起動状態へと遷移させる場合において、待受状態から起動状態への遷移を遅滞無く行わせるようにすることが考えられる。具体的には、待受状態においては、加速度センサの出力信号のサンプル値と所定の閾値との大小比較によって静止状態であるか否かの判定を間欠的に行わせるとともに、当該判定の実行間隔を上記サンプル値が上記閾値に近づくにつれて短くするのである。
【0036】
(4)上述した実施形態では、本発明の特徴を示すサンプリング周期調整処理をMCU41に実行させる歩数計測プログラムがROM42に予め格納されていた。しかし、CD−ROMなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に上記歩数計測プログラム(或いは、図8または図10に示すサンプリング周期調整処理を実現するサブルーチンプログラム)を記録して配布しても良く、また、インターネットなどの電気通信回線経由のダウンロードにより配布しても良い。
【符号の説明】
【0037】
10…携帯電話機、21,22…筐体、23…ヒンジ部材、24,27…表面、25…スピーカ、26…ディスプレイ、28…操作キー、29…マイクロホン、31…ホストCPU、32,42…RAM、33,43…ROM、34…開閉センサ、35…無線部、36…キーセンサ、37…音声処理部、38…表示処理部、40…歩数計測装置、41…MCU、44…加速度センサ、50…制御装置、60…バッテリ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、
前記サンプリング手段により得られたサンプル値が所定の閾値を上回った場合に、当該サンプル値を前記センサの出力信号の波形を分析する装置に供給する制御手段であって、当該サンプル値が前記所定の閾値以下である場合に、前記所定の閾値よりも小さい第2の閾値と当該サンプル値の大小比較を行い、前記第2の閾値よりも当該サンプル値が大きい場合には、前記サンプリング手段のサンプリング周期を短くするサンプリング周期調整処理を実行する制御手段と、
を具備することを特徴とするサンプリング装置。
【請求項2】
前記サンプリング周期調整処理では、
各々の大きさが前記所定の閾値よりは小さく、かつ互いに大きさが異なる複数の閾値のうちの最も小さいものを前記第2の閾値として選択して前記センサの出力信号のサンプル値との大小比較を行い、後者のほうが大きくなったことを契機として前記複数の閾値のうちで次に小さいものを前記第2の閾値として選択し直す
ことを特徴とする請求項1に記載のサンプリング装置。
【請求項3】
センサと、
センサの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、
与えられた信号のサンプル値に基づいて当該信号に波形分析を施す波形分析手段と、
前記サンプリング手段により得られたサンプル値が所定の閾値を上回った場合に、当該サンプル値を前記波形分析手段に供給する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記サンプリング手段によりサンプリングされたサンプル値が前記所定の閾値以下である場合に、前記所定の閾値よりも小さい第2の閾値と当該サンプル値の大小比較を行い、前記第2の閾値よりも当該サンプル値が大きい場合には、前記サンプリング手段のサンプリング周期を短くするサンプリング周期調整処理を実行する
ことを特徴とするセンサの出力信号の波形を分析する波形分析装置。
【請求項4】
コンピュータを、
センサの出力信号をサンプリングするサンプリング手段と、
前記サンプリング手段により得られたサンプル値が所定の閾値を上回った場合に、当該サンプル値を前記センサの出力信号の波形を分析する装置に供給する制御手段であって、当該サンプル値が前記所定の閾値以下である場合に、前記所定の閾値よりも小さい第2の閾値と当該サンプル値の大小比較を行い、前記第2の閾値よりも当該サンプル値が大きい場合には前記サンプリング手段のサンプリング周期を短くするサンプリング周期調整処理を実行する制御手段、
として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−48536(P2012−48536A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190599(P2010−190599)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】