説明

サンプル分離吸着器具

【課題】2次元目の電気泳動から転写を連続的に行うことが可能なサンプル分離吸着器具において、高分解能なサンプル吸着を実現する。
【解決手段】本発明に係るサンプル分離吸着器具100は、陰電極2と、陽電極3と、陰電極2に対向する側に開口する第1開口17および陽電極3に対向する側に開口する第2開口18を有し、かつ、分離ゲル7を格納するサンプル分離部6と、第2開口18に対向する位置にスリット1を有するスリット構造体8とを備える。転写膜9は、第2開口18とスリット1との間に配置される。スリットは、第1電極から第2電極へと流れる電気力線を収束するため、電気力線に沿って流れるサンプルは、第2開口から排出され、サンプル吸着部材に吸着する過程において収束力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離媒体中のサンプルを分離し、かつ分離されたサンプルを引き続きサンプル吸着部材に吸着させるサンプル分離吸着器具に関する。
【背景技術】
【0002】
ポストゲノム研究の中心的位置を担っているプロテオーム解析において、二次元電気泳動法(2DE)およびウエスタンブロッティング法の組み合わせは、優れた分離分析手法として知られている。2DEは、タンパク質に固有の独立した2つの物理的性質(電荷および分子量)に基づいて、種々の分離媒体を用いて、プロテオームを複数の成分(タンパク質)に高分解能に分離することができる。2DEによる分離結果を利用してタンパク質をさらに分析する場合、分離媒体に含まれる複数のタンパク質を、ウエスタンブロッティング法によって転写膜に固定化することが好ましい。これは、転写膜に固定化されたタンパク質が、長期間にわたって安定して保存され得る上に、分析が容易だからである。特に、発現量の増減および翻訳後修飾の有無といった複数のタンパク質の生物学的特徴を、2DEによる分離結果を利用して網羅的に比較検討する場合、ウエスタンブロッティング法は必須の工程と言える。
【0003】
従来では、2DEおよびウエスタンブロッティング法のそれぞれを独立した装置を用いて行っている。このため、電気泳動の後には、分離媒体を電気泳動装置から取り出して転写装置に移し、これに転写膜をセットして転写を行う操作が必要になる。このように、電気泳動と転写との間に研究者の手作業が介入すると、得られる結果の再現性が低くなるという問題が存在する。また、分離媒体として非常に軟らかくて破れやすいゲルを扱うため、ウエスタンブロッティング法は熟練を要する手法になる。
【0004】
一方、特許文献1には、毛細管を用いた毛細電気泳動(CE)において、電気泳動と転写とを1台の装置で行う技術が提案されている。具体的には、毛細管(内部はゲルまたは溶液)を通って排出されるサンプルを、そのまま転写膜に吸着させ回収まで1台の装置で行うことができるというものである。本技術によれば、電気泳動および転写を連続的に行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−264253号公報(1992年9月21日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、電気泳動で分離されたサンプルが転写膜へ吸着したとき、その解像度の最小値は理論上、毛細管の末端径となってしまい、それ以上の分解能を得ることはできない。また、実際の転写の場面において、毛細管から排出されたサンプルは転写膜に吸着されるまでの間に拡散し、転写膜に対するサンプルの吸着パターンが不明瞭になってしまう場合がある。さらに、特許文献1に開示されている技術は、毛細電気泳動により泳動されたサンプルをそのまま転写する技術であるため、二次元方向への分離展開が原理的に不可能である。
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決するために、2次元目の電気泳動から転写を連続的に行うことが可能なサンプル分離吸着器具において、高分解能なサンプル吸着を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電気泳動および転写を連続的に行うにあたり、電気泳動に用いた電極対を利用して電気泳動媒体の端面から転写膜へ分離分子を転写するブロッティング方式に想到し、本方式において高分解能なサンプル吸着を実現させた。
【0009】
すなわち、本発明に係るサンプル分離吸着器具は、上記課題を解決するために、分離媒体に緩衝液を介して電流を流すことによって、上記分離媒体中のサンプルを分離し、かつ、分離されたサンプルを上記分離媒体からサンプル吸着部材へ吸着させるサンプル分離吸着器具であって、第1電極と、第2電極と、上記第1電極に対向する側に開口する第1開口および上記第2電極に対向する側に開口する第2開口を有し、かつ、上記分離媒体を格納するサンプル分離部と、上記第2開口に対向する位置にスリットを有するスリット構造体とを備え、上記サンプル吸着部材は、上記第2開口と上記スリットとの間に配置されることを特徴とする。
【0010】
上記構成では、分離媒体を格納するサンプル分離部が第1開口および第2開口を有するため、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することによって、第1電極と第2電極とが、緩衝液、分離媒体、およびサンプル吸着部材を介して電気的に接続される。また、第2開口に対向する位置に配置されたスリットは、第1電極から第2電極へ向かう電気力線を収束する。
【0011】
第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、サンプルは分離媒体中を泳動して複数の成分に分離される。分離されたサンプルは、第2開口から排出された後も電気力線に沿って流れ、サンプル吸着部材に吸着される。
【0012】
ここで、サンプル吸着部材は第2開口とスリットの間に配置されているため、電気力線は第2開口からスリットに向かって収束されながらサンプル吸着部材を通過する。つまり、電気力線に沿って流れるサンプルは、第2開口から排出され、サンプル吸着部材に吸着する過程において収束される。
【0013】
したがって、上記構成によれば、サンプル吸着部材に対するサンプル吸着の広がりを抑制することができ、分解能の高いサンプル吸着を実現することができる。
【0014】
なお、分離されたサンプルを分離媒体からサンプル吸着部材へ吸着させる際には、第1電極および第2電極により規定される第1方向に対して垂直な第2方向にサンプル吸着部材を移動させることによって、サンプル分離パターンを得ることが可能である。
【0015】
また、上記構成によれば、一次元目の電気泳動が行われた媒体をサンプルとしてセットすることによって、2次元目の電気泳動と転写とを連続的に行うことが可能である。
【0016】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具では、上記第1電極および上記第2電極により規定される第1方向に対して垂直な第2方向において、上記スリットの幅は、上記第2開口の幅よりも狭いことが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、スリットは上記電気力線を第2開口よりも狭い幅にまで収束することが可能である。これによって、第2開口から排出されたサンプルを当該第2開口の幅よりも狭い範囲に収束することができるため、より分解能の高いサンプル吸着を実現することができる。
【0018】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具において、上記スリット構造体は、絶縁性の材料から構成されていることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明に係るサンプル分離吸着器具において、上記スリットは、誘電率5.0以下の材料から構成されていることが好ましい。
【0020】
上記材料からなるスリット構造体がスリットを形成することによって、当該スリットは上記電気力線を効果的に収束することができる。これによって、より分解能の高いサンプル吸着を実現することができる。
【0021】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具において、上記サンプル吸着部材は上記スリットに接して配置され、上記第2開口と上記スリットとの間の上記第1方向における距離は、300μm以上4000μm以下であることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、上記第2開口と上記スリットとの間に、サンプルが収束するための距離が適切に確保される。仮に上記距離が300μm未満であれば、サンプルが十分に収束する前にサンプル吸着部材に到達してしまう。一方、上記距離が4000μmよりも長ければ、スリットによる収束力が第2開口付近までに十分に伝わらず、第2開口から排出されたサンプルには、拡散の力がより強く働いてしまう。
【0023】
また、上記構成によれば、サンプル吸着部材はスリットに接して配置されるため、サンプルが最も収束された位置において吸着が行われる。したがって、より分解能の高いサンプル吸着を実現することができる。
【0024】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具において、上記第2開口と上記サンプル吸着部材が接していない場合には、それらの間には、サンプル透過可能な導電性媒体が介在することが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、サンプルが緩衝液中に拡散することなく、サンプル吸着部材に確実に吸着することができる。
【0026】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具において、上記スリット構造体は、上記第2開口側に突起する突起形状の間に上記スリットを形成する突起部を有しており、上記突起部の少なくとも一部は、上記サンプル吸着部材と共に、上記第2開口を介して上記サンプル分離部内に入り込み、上記分離媒体に接していることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、上記第2方向において、スリットの中央位置と第2開口の中央位置とを一致させることが容易になる。これらの位置が一致することによって、スリットによる収束力を偏らせることなくサンプル吸着の精度をより向上し得る。また、分離媒体とサンプル吸着部材とが密着するため、サンプルを確実に吸着させることができる。
【0028】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具において、上記スリット構造体は、
上記スリットの周囲から上記第2開口側に突起する形状であって、上記第2開口を介して上記サンプル分離部内に入り込む突起部と、
上記突起部と上記スリットとの間において上記サンプル吸着部材を保持する保持部とを有することが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、突起部とサンプル吸着部材とに囲まれた空間に分離媒体を存在させ、分離媒体とサンプル吸着部材との密着性を高めることによって、サンプルをより確実に吸着させることができる。また、上記第2方向において、スリットの中央位置と第2開口の中央位置とを一致させることが容易になるため、スリットによる収束力を偏らせることなくサンプル吸着の精度をより向上し得る。
【0030】
また、上記構成によれば、保持部がサンプル吸着部材を保持するため、サンプル吸着時にサンプル吸着部材を移動させる際、分離媒体とサンプル吸着部材との密着性を高めつつ、サンプル吸着部材を直線的に引き上げることが可能になる。これによって、より正確なサンプル分離パターンを得ることが可能になる。
【0031】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具は、上記第1電極が内部に配置された第1緩衝液槽と、上記第2電極が内部に配置された第2緩衝液槽とをさらに備え、上記スリット構造体は、上記第2緩衝液槽と一体的に構成されており、上記スリット構造体を含む上記第2緩衝液槽の少なくとも一部は、上記第2方向における上記スリットの中心を通る、当該第2方向に垂直な平面に対して対称に構成されていることが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、スリット構造体と第2緩衝液槽とが一体的であるため、サンプル分離吸着器具を容易に準備することができる。また、第2緩衝液槽の少なくとも一部が対称であることにより、サンプルの流れに異方性を与える僅かな要因も排除され、サンプル吸着の精度をより向上し得る。
【0033】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具において、上記スリット構造体は、上記サンプル分離部の上記第2開口側において、当該サンプル分離部と一体的に構成されていることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、第2開口に対するスリットの位置を合わせるための微調整等を必要とせず、サンプル分離吸着器具を容易に準備することができる。
【0035】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具において、上記第1電極、上記第1開口、上記第2開口、および上記第2電極が、一直線上に配置されていることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、第2開口付近の電気力線の流れがサンプル吸着部材に対して垂直になるため、第2開口から排出されたサンプルはサンプル吸着部材に対して垂直方向な方向から吸着される。これによってサンプル吸着の精度をより向上し得る。
【0037】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具は、上記サンプル吸着部材が移動する経路を規定するガイドをさらに備えていることが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、サンプル吸着部材は定められた経路を移動することによって、他の部材等に干渉することなく、滑らかに移動することができる。
【0039】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具は、上記第2開口に対向する位置において、上記サンプル吸着部材を上記第2方向に移動させる移動手段をさらに備えていることが好ましい。
【0040】
上記構成によれば、サンプル吸着部材を第2方向に自動的に移動させることができるため、より正確なサンプル分離パターンを得ることが可能でさる。
【0041】
また、本発明に係るサンプル分離吸着器具は、上記第1電極と上記第2電極との間の電圧を測定する電圧検出手段をさらに備えており、上記移動手段は、上記電圧検出手段によって検出された電圧に基づき、サンプル吸着部材の移動を開始させることが好ましい。
【0042】
上記構成によれば、吸着開始と同時にサンプル吸着部材を移動させることができるため、再現の良い結果を獲得出来ると同時に、サンプル吸着部材の無駄な使用も省くことができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明に係るサンプル分離吸着器具は、分離媒体に緩衝液を介して電流を流すことによって、上記分離媒体中のサンプルを分離し、かつ、分離されたサンプルを上記分離媒体からサンプル吸着部材へ吸着させるサンプル分離吸着器具であって、第1電極と、第2電極と、上記第1電極に対向する側に開口する第1開口および上記第2電極に対向する側に開口する第2開口を有し、かつ、上記分離媒体を格納するサンプル分離部と、上記第2開口に対向する位置にスリットを有するスリット構造体とを備え、上記サンプル吸着部材は、上記第2開口と上記スリットとの間に配置されるため、2次元目の電気泳動から転写を連続的に行うことが可能なサンプル分離吸着器具において、高分解能なサンプル吸着を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係るサンプル分離吸着器具の概略構造を示す断面図である。
【図2】(a)(b)は、上記サンプル分離吸着器具におけるスリット構造体の変形例を示す断面図である。
【図3】上記サンプル分離吸着器具におけるスリット構造体の変形例を示す断面図である。
【図4】上記サンプル分離吸着器具における移動アームの変形例を示す断面図である。
【図5】上記サンプル分離吸着器具におけるスリット構造体の変形例を示す断面図である。
【図6】(a)(b)は、上記サンプル分離吸着器具におけるスリット構造体の変形例を示す断面図である。
【図7】粒子軌道シミュレーションに用いるサンプル分離吸着器具のモデル構成を示す図である。
【図8】スリットの幅を変化させたときの、サンプル吸着部材中央における電気力線の広がりをプロットしたグラフである。
【図9】(a)〜(d)は、スリットの幅を変化させたときの電気力線の広がりを表わす図である。
【図10】(a)〜(c)は、スリット構造体の材料を変更したときの、電気力線の広がりを表わす図である。
【図11】第2開口とスリットとの間の距離を変化させたときの、サンプル吸着部材中央における電気力線の広がりをプロットしたグラフである。
【図12】(a)〜(c)は、第2開口とスリットとの間の距離を変化させたときの、電気力線の広がりを表わす図である。
【図13】粒子軌道シミュレーションに用いるサンプル分離吸着器具のモデル構成を示す図である。
【図14】(a)は、粒子軌道シミュレーション結果について第2開口付近を拡大して示す図であって、スリットを第2開口へ押し込んだ構成における結果を示す図であり、(b)は、スリットを第2開口へ押し込まない構成における結果を示す図である。
【図15】本発明の他の一実施形態に係るサンプル分離吸着器具の概略構造を示す断面図である。
【図16】上記サンプル分離吸着器具におけるスリットの変形例を示す断面図である。
【図17】(a)は、比較例に係るサンプル分離吸着器具のモデル構成を示す図であり、(b)は、粒子軌道シミュレーション結果について、(a)に示す装置における第2開口付近を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の一実施形態について、図面に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0046】
(サンプル分離吸着器具100)
まず、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100の概略的な構成について、図1を参照して説明する。図1は、サンプル分離吸着器具100を概略的に示す断面図である。なお、サンプル分離吸着器具100は、サンプル分離を略水平方向に行う横置きの装置であるが、本発明はこれに限られず、縦置きの装置であってもよい。
【0047】
図1に示すように、サンプル分離吸着器具100は、陰電極(第1電極)2、陽電極(第2電極)3、第1緩衝液槽4、第2緩衝液槽5、分離ゲル(分離媒体)7を収納するサンプル分離部6、スリット1を形成するスリット構造体8、2つの移動アーム10および16を備えている。また、サンプル分離部6とスリット1との間には転写膜(サンプル吸着部材)9が配置されている。
【0048】
サンプル分離部6は、第1緩衝液槽4に向かって開口する第1開口17、および第2緩衝液槽5に向かって開口する第2開口18を有している。このため、サンプル分離吸着器具100では、第1緩衝液槽4および第2緩衝液槽5に緩衝液を満たすことによって、第1緩衝液槽4内の陰電極2と第2緩衝液槽5内の陽電極3とが、2つの槽における緩衝液、分離ゲル7、および転写膜9を介して電気的に接続される。すなわち、サンプル分離吸着器具100は、陰電極2と陽電極3との間に電圧を印加することによって、第1開口17から導入されたサンプルを分離ゲル7によって分離し、分離された各成分を第2開口18から排出させて転写膜9に吸着させる器具である。
【0049】
以下に、主要な各部材について図1を参照して詳細に説明する。
【0050】
なお、以下の説明では、サンプル分離吸着器具100において、陰電極2および陽電極3に定義されるサンプルの分離方向をx軸方向とし、転写膜9の移動方向をy軸方向とし、x軸およびy軸のいずれにも垂直な方向をz軸方向とする。
【0051】
(陰電極2および陽電極3)
陰電極2は第1緩衝液槽4内に配置されており、陽電極3は第2緩衝液槽5内に配置されている。陰電極2および陽電極3は、金属などの導電性を有する材料から形成される。陰電極2および陽電極3を形成する材料としては、例えば電極のイオン化を抑制する観点から白金が好ましい。
【0052】
これらの電極配置に関しては、陰電極2、第2開口18、および陽電極3が、略一直線上に配置されていることが好ましい。このような配置において図1に示すように転写膜9が配置されれば、第2開口18を通る電気力線は転写膜9に対して略垂直になるため、サンプルの吸着の精度を向上し得る。
【0053】
また、陽電極3を転写膜9から離して配置することが好ましい。これによって、陽電極3から発生する気泡が、転写膜9に対する分離成分の吸着に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0054】
(第1緩衝液槽4および第2緩衝液槽5)
第1緩衝液槽4および第2緩衝液槽5は、容器状のステージ13内にサンプル分離部6を取り付けて、ステージ13を2つの槽に分けることによって形成されている。
【0055】
第1緩衝液槽4および第2緩衝液槽5に入れる緩衝液は、導電性を有するあらゆる緩衝液であり得る。ただし、強酸性および強塩基性に緩衝域を有する緩衝液は、分離ゲル7および転写膜9に対して悪影響を及ぼすおそれがある。
【0056】
(サンプル分離部6)
サンプル分離部6は、上述したように第1緩衝液槽4に向かって開口する第1開口(サンプル供給媒体接続部)17、および第2緩衝液槽5に向かって開口する第2開口(サンプル成分排出口)18を有している。サンプル分離部6はその内部に分離ゲル7を収納し、この分離ゲル7は、第1開口17を介して第1緩衝液槽4内に面し、第2開口18を介して第2緩衝液槽5内に面する。
【0057】
サンプル分離部6は、ガラスまたはアクリルなどの絶縁体から形成された2枚の板から構成され得る。この2枚の板のうち、上側に配置される板は、第1開口17側において欠けていることが好ましい。これによって、分離ゲル7の第1開口17側が上面に露出し、この露出部分からサンプルを導入することができる。
【0058】
分離ゲル7は、第1開口17から導入されたサンプル成分を分子量にしたがって分離するためのゲルである。分離ゲル7は、サンプル分離部6をステージ13に対する取り付け前、または取り付けた後に、サンプル分離部6内に充填される。分離ゲル7の例としては、アクリルアミドゲルおよびアガロースゲルなどが挙げられる。
【0059】
なお、本実施形態においては、サンプル分離部6内に分離ゲル7を充填する構成を採用しているが、サンプル分離部6を構成する2枚の対向する板の間にナノピラーと呼ばれる多数の超微細柱を設ける構成も採用し得る。
【0060】
また、サンプル分離部6の第2開口18は、その周囲を含めて、多孔質材料によって形成された被覆部(導電性媒体:図示しない)によって覆われていてもよい。これによって、第2開口18に転写膜9が接するあるいは押付けられている場合(第2開口18と転写膜9の間に距離を設けない場合)において、転写膜9が搬送される時に転写膜9がサンプル分離部6および分離ゲル7から受ける摩擦抵抗および損傷を低減することができる。
【0061】
上記被覆部を形成する多孔質材料は、貫通している細孔を有する材料であり、かつ、親水性、低いサンプル吸着能、および高い強度を有する材料であることが好ましい。これによって、分離された成分が通過する経路に位置する被覆部が、分離された成分を好適に通過させ得る。
【0062】
例えば、貫通している細孔を有する多孔質材料が親水性を有していれば、分離ゲル7の充填時、第2開口18に対して十分に分離ゲル7が充填され、かつ当該細孔に分離ゲル7が充填される。これによって、転写膜9と分離ゲル7とを密着させることができる。したがって、分離された成分が緩衝液に拡散することを確実に抑制し、かつ安定した通電状態を維持し得る。
【0063】
被覆部を形成する材料の例としては、親水性PVDF(Polyvinylidene difluoride)膜、および親水性PTFE(Polytetra fluoro ethylene)膜などの膜状の材料が挙げられる。サンプル分離部6に対する被覆部の取り付け方法としては、粘着テープまたは接着剤を用いる方法、ならびにクリップなどを用いてサンプル分離部6と被覆部とを挟んで固定する方法などが挙げられる。
【0064】
被覆部内部に分離ゲル7を含ませる方法としては、第2開口18およびその周囲に被覆部を取り付けた後、分離ゲル7をサンプル分離部6に充填する方法が挙げられる。例えば、ポリアクリルアミドゲルを分離ゲル7として用いる場合、被覆部を取り付けたサンプル分離部6の第1開口17側から、ゲル重合前のアクリルアミド溶液を注ぎ込んだ後、ゲル重合させればよい。
【0065】
従来法では、サンプル成分排出口を被覆部で覆ってしまうと、電気力線が被覆部を通る間に余分に広がり、その結果、転写膜に到達するまでにサンプルがさらに広がってしまうため好ましくない。しかし、本発明のサンプル分離吸着器具100を用いた場合は、第2開口18が被覆部で覆われていても、後述するようにスリット1により収束を受けるため問題ない。
【0066】
加えて、後述するように第2開口18と転写膜9間に距離を設ける場合には、上記被覆部を設けることによって適切な距離を確保することができるため、より好ましいといえる。
【0067】
(スリット構造体8)
スリット構造体8は、サンプル分離部6の第2開口18に対向する位置にスリット1を形成している。陰電極2から陽電極3に発生する電気力線はスリット1の中央位置を収束点として収束される。
【0068】
ここで、スリット1は、転写膜9の裏面側(陽電極3側)に位置するため、電気力線を分離ゲル7からスリット1にかけて絞ることができる。その結果、スリット1の前面側(第2開口18側)に位置する転写膜9上へは、絞りの効果を受けた電気力線が通ることになる。サンプルは電気力線に沿って流れるため、上記収束の影響を受けることにより、転写膜9に濃縮された状態で吸着保持される。つまり、サンプルを転写膜9へ高分解能で転写することができる。
【0069】
サンプルをより高分解能で吸着させるためには、スリット1における電気力線の収束点に近い位置に転写膜9を配置する、すなわち、スリット1を転写膜9の裏面近傍に配置することが好ましく、転写膜9に接した状態(転写膜9の裏面直下)に配置することが最も好ましい。
【0070】
また、電気力線を収束させる効果をより強めるためには、スリット1のy方向の幅が第2開口18のy方向の幅よりも狭いことが望ましい。これによって、収束点への電場ベクトルの傾きを大きくすることができるため、転写膜9へ吸着するサンプルの濃縮効果を向上させることができる。なお、各点での電場ベクトルを結んだ線が電気力線である。
【0071】
さらに、電気力線を収束させる効果をより強めるために、スリット構造体8は、誘電率が低い材料から構成されることが好ましく、絶縁性の材料から構成されることがより好ましい。
【0072】
スリット1の内部に関しては、第2緩衝液で満たされていてもよいが、アクリルアミドやアガロースなどの導電性のゲルまたは多孔質膜などが充填されていてもよい。
【0073】
なお、本実施形態において、スリット構造体8を設置する場合、例えば図1に示すように、ステージ13の定位置に設けられた穴にスリット構造体8の端部を差し込むことによって固定することができる。
【0074】
(転写膜9)
転写膜9は、分離ゲル7によって分離されたサンプルを長期間にわたって安定に保存可能にし、さらに、その後の分析を容易にするサンプルの吸着・保持体であることが好ましい。転写膜9の材質としては、高い強度を有し、かつサンプル結合能(単位面積当たりに吸着可能な重量)が高いものが好ましい。転写膜9としては、サンプルがタンパク質である場合にはPVDF(Polyvinylidene difluoride)膜などが適している。なお、PVDF膜は予めメタノールなどを用いて親水化処理を行っておくことが好ましい。これ以外には、ニトロセルロース膜またはナイロン膜など、従来からタンパク質、DNAおよび核酸の吸着に利用されている膜も使用可能である。
【0075】
なお、サンプル分離吸着器具100において分離および吸着され得るサンプルとしては、これらに限定されないが、生物材料(例えば、生物個体、体液、細胞株、組織培養物、もしくは組織断片)からの調製物、または、市販の試薬などが挙げられる。例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドが挙げられる。
【0076】
また、転写膜9は、第2開口18とスリット1との間を経由して、その一端が緩衝液槽内の転写膜収納ロール11に保持され、他端が移動アーム(移動手段)10に保持される。転写膜収納ロール11から引き出された転写膜9は、サンプルの分離吸着時、移動アーム10の駆動により図1の矢印方向に向かって搬送される。
【0077】
なお、転写膜9の搬送時、転写膜9を定まった経路に導くために、ガイド12を適宜設けてもよい。ガイド12としては、例えば、回転式の軸を用いることができる。
【0078】
転写膜収納ロール11は、サンプル分離吸着器具100本体の内壁に対して回転可能に取り付けられている。サンプルの分離吸着時、転写膜収納ロール11は、巻きつけられた転写膜9とともにその全体が、緩衝液中にあるような高さに配置されることが好ましい。これは、サンプルの分離吸着時における転写膜9の乾燥を防ぐためである。また、転写膜収納ロール11は、各電極から離した位置に配置されることが好ましい。これは、各電極から生じる気泡が転写膜9に付着することを抑制するためである。また、転写膜収納ロール11は、金属などの電気によって化学反応を生じる材料以外の材料から構成されることが好ましい。例えば、転写膜収納ロール11の材料としては、種々のプラスティックおよびガラスなどが挙げられる。
【0079】
なお、サンプル分離吸着器具100は、転写膜9が取り付けられた状態、または使用者によって転写膜9が後から取り付けられる状態で提供されてもよく、いずれの場合も転写膜9は緩衝液に浸された状態となる。
【0080】
(移動アーム10および16)
移動アーム16は、サンプル分離部6の第1開口17に対してサンプルを導入するために用いられ、支持板15に支持されたゲルストリップ14を保持する。ゲルストリップ14は、一般的に薄く、かつ軟らかいので、移動アーム16によって直接に保持されるのではなく、アクリル板などからなる支持板15にゲルストリップ14を固定して移動アーム16に保持される。
【0081】
移動アーム10は、図1に示すように、転写膜9を+y方向に引き上げる構成を有する。なお、移動アーム10は、これに限られず、図4に示すように、回転動作によって転写膜9を巻き取る転写膜回収ロール10aであってもよい。転写膜回収ロール10aを用いれば、移動アーム10のように広い駆動範囲を確保する必要がなく、サンプル分離吸着器具100を小型化し得る。
【0082】
なお、本実施形態では、移動アーム10および16という2つのアームを用いているが、本発明はこれに限られず、一方を省いて、1つの移動アームのみを備える構成であってもよい。このとき、1つの移動アーム(10または16)は、ゲルストリップ14を第1開口17に導入した後、サンプルの分離および転写の際には転写膜9を保持して搬送すればよい。
【0083】
(サンプルの分離および吸着)
次に、サンプル分離吸着器具100におけるサンプルの分離および吸着の流れについて、図1を参照して説明する。
【0084】
まず、移動アーム16が、支持板15に支持されたゲルストリップ14を保持し、ゲルストリップ14が第1開口17内に挿入または接触するまで、図1の移動アーム16に付されている矢印の方向に移動する。ここで、ゲルストリップ14は、等電点電気泳動によってサンプルを1次元に分離した各成分を含有している。
【0085】
ゲルストリップ14が第1開口17内に挿入または接触した状態において、陰電極2と陽電極3との間に電圧を印加する。これによって、ゲルストリップ14に含まれる各成分が分離ゲル7において、さらにそれらの分子量に応じて分離される。
【0086】
なお、1次元目の電気泳動分離部は、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100に組み込まれていてもよい。これによって、1次元目の等電点電気泳動分離から2次元目の電気泳動分離および転写までを自動化することができる。
【0087】
また、1次元目の電気泳動を行わない場合は、分離ゲル7にサンプルを充填するためのウェル(凹み)を形成すればよい。当該ウェルにサンプルを導入後、アガロースゲルなどを用いてサンプルを固定して、第1緩衝液槽4へのサンプルの流出を防止する。このとき、サンプルをアガロースゲルと混合して導入して、ウェルにおいて凝固させてもよい。
【0088】
上記ウェルは、通常のSDS−PAGEと同様の方法によって形成される。つまり、ゲルモノマー溶液(重合してゲル化する前の溶液)を第1開口17に流し込んだ後、ゲルモノマーが重合する前にコーム(通常、5mm程度の高さ(深さ)を有する複数の凹凸が形成されたくし状の板)を第1開口17に差込んでからゲル化させる。ゲル化した後に、コームを取り外すことによって上記ウェルが形成される。
【0089】
サンプル導入後、陰電極2と陽電極3との間に電流を流すことによってサンプルの電気泳動による分離を行う。電極間に流す電流値としては、50mA以下であることが好ましく、20mA以上、30mA以下であることがより好ましい。上記範囲であれば、十分な速さにおいて電気泳動を行いつつ、発熱を抑制することができる。より大きい電流を流せば、より短時間において電気泳動を終了し得るが、過剰に発熱してゲル、サンプル、または電気泳動分離の分解能に悪影響を及ぼすおそれがある。ただし、サンプル分離吸着器具100の適当な箇所にペルチェ素子などを用いた強力な冷却装置を取り付ければ、過剰な発熱を防ぐことができるので、電流値を100mA以下にまで上昇させてもよい。
【0090】
転写膜9は、サンプル分離部6における電気泳動の進行に合わせて、移動アーム10の駆動により図1の矢印方向に向かって徐々に搬送される。
【0091】
分離された成分が第2開口18に到達したか否かは、サンプルに染色されたマーカーを予め混合して、泳動状態をマーカーの位置によって確認するか、または電圧値をモニターによって計測することによって判断すればよい。染色されたマーカーとしては、泳動の先頭を確認するために通常に用いられるBPB(Bromophenol Blue)が好ましい。また、電圧値を計測するモニターとしては、例えば、陰電極2と陽電極3との間の電圧をモニターする電圧モニター(電圧検出手段:図示せず)が挙げられる。
【0092】
ここで、電圧モニターを用いる場合の動作について説明する。第2開口18にサンプルが到達すると、分離ゲル7と転写膜9との接触位置において、導電率が低下して電極間の抵抗値が上昇し、電圧値は大きく上昇する。この電圧値の上昇をモニターすることによって、分離された成分が分離ゲル7から排出されて転写膜9に転写されたことを検出することができる。また、サンプル分離吸着器具100は、電圧値をモニターするプログラムが組み込まれることによって、分離ゲル7からの成分の排出を自動的に感知し、移動アーム10による転写膜9の引上げを開始することができる。また、同様に、成分の吸着開始後における転写膜9の引き上げ速度についても、電圧値または電流値によって制御することができる。なお、転写膜9の引き上げ速度は、十分な分解能をもってサンプルが転写膜9に吸着され得る速度であればよく、このような速度は当業者によって適宜設定され得る。これらの制御によれば、転写結果を再現性あるものとし、無駄な転写膜9の使用(成分を吸着していない部分の発生)を回避可能であり、サンプル分離吸着器具を小型化することが可能である。
【0093】
以上の工程によれば、1次元目または2次元目の電気泳動から転写までを1台の装置において連続的に行うことができる。
【0094】
サンプル成分吸着の終了後、転写膜9は移動アーム10によって回収され、染色または免疫反応などに供される。その後、蛍光検出器などによって、転写膜9に吸着された成分の分離パターンが検出される。このような蛍光検出器は、サンプル分離吸着器具100に組み込まれていてもよく、これによって電気泳動、転写、および検出の全工程を自動化することができる。
【0095】
(スリット構造体8の他の構成)
次に、スリット構造体8が他に採り得る構成例について、図2〜図6を参照して以下に説明する。
【0096】
図2(a)(b)は、スリット構造体8aを有するサンプル分離吸着器具110を示す断面図である。
【0097】
図2(a)(b)に示すように、スリット構造体8aは、サンプル分離部6と一体的に構成されてもよい。スリット構造体8aはスリット1を形成し、さらに、図2(a)中の点線で示すように、転写膜9のための差込口を有する。図2(b)に示すように、この差込口に対して転写膜9を差し込むことによって、転写膜9の設置が完了する。
【0098】
なお、サンプル分離部6におけるスリット構造体8aの部分をx方向に開閉可能にすることにより、転写膜9を差し込みし易くするなど、適宜変更が可能である。
【0099】
図2(a)(b)に示す構成例の利点としては、第2開口18に対するスリット1の位置の微調整がまったく必要ないこと、および、サンプル分離吸着器具110の準備に要する組み立て工程が少ないことが挙げられる。
【0100】
図3および図4は、スリット構造体8bを有するサンプル分離吸着器具120を示す断面図である。
【0101】
図3および図4に示すように、スリット構造体8bは、その一部が第2緩衝液槽5の底面付近を介して側面まで延伸し、第2緩衝液槽5の二重底を構成している延伸部12aを有する。この延伸部12aに対してプランジャー19等の治具をセットすることによって、スリット構造体8bを第2開口18側へ押付けてもよい。これによって、スリット1と転写膜9とが良好に接することができる。
【0102】
なお、二重底を構成している延伸部12aとステージ13との間に、転写膜9を経由させてもよい。
【0103】
また、スリット構造体8bの第2開口18側は、スリット1を中心としてy方向の両側へと傾斜をつけて対称に広がっている。この構成によれば、高誘電体の緩衝液がスリット1の後方(陽電極3側)に確保されるため、低誘電体のスリット構造体8bに囲まれたスリット空間へ電気力線を導く(収束させる)上でかかる抵抗を抑えることができる。
【0104】
なお、図4に示すサンプル分離吸着器具120は、上述したように、移動アーム10の代わりに転写膜回収ロール10aを備えている。
【0105】
図5は、スリット構造体8cを有するサンプル分離吸着器具130を示す断面図である。
【0106】
図5に示すように、スリット構造体8cは、その一部が第2開口18側に向かって口ばし状に突起する2つの突起部20を有しており、これら突起部20の間にスリット1を形成している。突起部20はその先端が第2開口18を介してサンプル分離部6の内側に入り込む構成を有している。この構成によれば、スリット1の中央位置と第2開口18の中央位置とが、より厳密に同一平面に一致しやすく、かつ、分離ゲル7とスリット構造体8c、言い換えると分離ゲル7と転写膜9の密着性を高めることができる。
【0107】
ここで、スリット構造体8cの突起部20は、少なくとも転写膜9を介して分離ゲル7に接する、好ましくは転写膜9と共に分離ゲル7中に押し込まれる。このため、サンプル分離吸着器具130は、スリット構造体8cを第2緩衝液槽5側からサンプル分離部6側へ移動させる手段を備えていることが好ましい。例えば、図5に示すように、スリット構造体8cの一部が第2緩衝液槽5の二重底を構成し、これをプランジャー19等で第2開口18側に押付ける構成や、バネやリベット等でスリット構造体8cを一定位置まで押し込んで固定する構成などが挙げられる。
【0108】
図6(a)(b)は、スリット構造体8dを有するサンプル分離吸着器具140を示す断面図である。
【0109】
図6(a)(b)に示すように、スリット構造体8dは、スリット1の周囲から突起し、かつ、第2開口18を介してサンプル分離部6内に入り込む突起部21と、転写膜9を保持する保持部22とを有する。なお、図6(a)は突起部21の挿入前を示し、図6(b)は挿入後を示す。
【0110】
図6(b)に示すように、突起部21は、サンプル分離部6内の分離ゲル7を押し込むことによって、分離ゲル7を、転写膜9の前面側(第2開口18側)と突起部21とに囲まれた空間へ移動させ、当該空間に密着良く埋め合わせる。また、保持部22は、例えば突起部21とスリット1との間におけるスリット構造体8dの内部に転写膜9を通す空間を形成している。なお、保持部22は、図2(b)と同様に、x方向に開閉して転写膜9を固定するものであってもよい。
【0111】
つまり、スリット構造体8dによれば、スリット構造体8cを有する構成よりも、分離ゲル7と転写膜9の密着性を高めつつ、転写膜9の直線引上げを可能とする。さらに、スリット構造体8cを有する構成と同様、スリット1の中央位置と第2開口18の中央位置とがより厳密に同一平面に一致しやすくなる。
【0112】
なお、サンプル分離吸着器具140においても、バネやリベット等でスリット構造体8dを押し込み固定し得る手段を備えていることが好ましい。
【0113】
〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態について図15に基づいて説明すると以下の通りである。図15は、サンプル分離吸着器具150を示す断面図である。
【0114】
上述した実施形態1に対する本実施形態の主な相違点は、サンプル分離吸着器具150が縦置き型の装置である点にある。
【0115】
したがって、以下では、上記相違点を中心に説明する。なお、実施形態1における構成要素と対応する機能を有する構成要素には、同一符号を用いることとする。
【0116】
図15に示すように、サンプル分離吸着器具150では、ステージ13内にサンプル分離部6とスリット構造体8eとを取り付けることによりステージ13が2つの槽に分けて構成され、これによって第1緩衝液槽4および第2緩衝液槽5が形成されている。なお、スリット構造体8eは、ステージ本体と一体的に構成されていてもよい。
【0117】
また、転写膜収納ロール11は、第1緩衝液槽4内に配置され、転写膜9は、第1緩衝液槽4の上方へと引き出される。
【0118】
本実施形態によれば、上述した第1の実施形態と同様に、2次元目の電気泳動から転写までを連続的に行う様式において、高分解能のサンプル吸着を実現できる。
【0119】
また、図16は、変形例に係るサンプル分離吸着器具160を示す断面図である。ここで、スリット構造体8fは、ステージ13と一体的に構成され、かつ、スリット1の中央面(xz面)に対し対称形であるように構成されている。このように構成することによって、スリット1内に電気力線を収束するためにかかる抵抗を抑制することができる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0121】
(サンプル分離吸着器具120を用いた粒子軌道シミュレーション)
スリット1に関する詳細な検討について、粒子軌道シミュレーション結果に基づいて説明する。
【0122】
サンプル分離吸着器具のモデルとしては、図7に示すサンプル分離吸着器具120を用いた。サンプル分離吸着器具120はスリット構造体8bを有しており、その設定についてはサンプル分離部6をガラスとし、スリット構造体8bおよびステージ13をアクリル板とした。また、第2開口18のy方向の幅は1.2mm(=1200μm)に固定した。また、電極は白金とし、電極間には200Vの電圧を印加させる設定とした。
【0123】
以上の設定を基本とした上で、スリット1に関する条件を変更し、第1開口17を出発点とする、モデルサンプルのリゾチームタンパク質(分子量14307Da、等電点11.1)が示す泳動挙動を観察した。
【0124】
<スリット1の幅について>
まず、スリット1の条件について、スリット1のy方向幅を1.2mmから徐々に小さくなるよう変更して、粒子軌道シミュレーションを行った。その結果を図8および図9(a)〜(d)に示す。
【0125】
図8は、転写膜9中央(x方向厚さの中点)における電気力線の広がり(y方向の範囲(dm))を、粒子軌道シミュレーションに基づいてプロットした結果を示すグラフである。また、図9(a)〜(d)は、第2開口18近傍におけるシミュレーション結果を示す図である。なお、スリットのy方向幅について、図9(a)では0.1mmであり、図9(b)では0.2mm、図9(c)では0.5mm、図9(d)では1.0mmである。
【0126】
図8および図9に示すように、スリット1のy方向の幅が狭いほどdmは小さくなった。すなわち、スリット1のy方向の幅が狭いほど、転写膜9へのサンプル吸着が高分解能なものとなることが確認できる。したがって、スリット1のy方向の幅を規定することにより、目的とする分解能を獲得することが可能となる。
【0127】
なお、スリット1のx方向の幅に関しては、スリット1の強度が保てる程度において、より短い方が好ましい。これは、スリット1のx方向の幅が短いほど、電気が狭い空間を流れる上でかかる抵抗をより抑えることができるからである。
【0128】
<スリット構造体8bの材料の誘電率について>
次に、スリット1の条件について、スリット構造体8bの材料の誘電率を変更して、粒子軌道シミュレーションを行った。その結果を図10(a)〜(c)に示す。
【0129】
図10は、第2開口18近傍におけるシミュレーション結果を示す図である。なお、スリット構造体8bの材料について、図10(a)では誘電率が10であり、図10(b)では誘電率が5であり、図10(c)では絶縁性材料である。
【0130】
図10(a)〜(c)に示すように、誘電率がより低い材料からスリット構造体8bを構成した方が、スリット1に電気力線を収束しやすく、絶縁性材料からスリット構造体8bを構成することが最も電気力線を収束することが分かった。また、誘電率がより低い材料からスリット構造体8bを構成した方が、スリット1の隙間を形成する以外のスリット構造体8bの壁部や転写膜9上などを電気力線が走ることがなくなった。具体的には、誘電率10のときdm値は443.1μmであり(図10(a))、誘電率5のときdm値は267.1μmであり(図10(b))、絶縁性材料のときdm値は96.7μmであった(図10(c))。
【0131】
したがって、誘電率がより低い材料(好ましくは5.0以下)、より好ましくは絶縁性材料からスリット構造体8bを構成することによって、転写膜9へのサンプルの吸着をより高分解能なものにすることができることが分かった。
【0132】
以上のことから、スリット構造体8bの材料について、スリット1を可能な限り薄く加工できる材料であって、かつ、絶縁体(あるいは低誘電体)の材料で形成されることが望ましい。このような材料として、例えば、アクリル(誘電率2.7〜4.5)、もしくはポリカーボネイト(誘電率2.9〜3.0)、または、4−フッ化エチレン(PTFE)(誘電率2)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)(誘電率2.1)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)(誘電率2.3〜2.8)などのフッ素樹脂などが挙げられる。
【0133】
<スリット1と第2開口18との間の距離について>
次に、スリット1の条件について、スリット1と第2開口18との間の距離を変更して、粒子軌道シミュレーションを行った。その結果を図11および図12に示す。なお、上記距離を変更する際、転写膜9とスリット1とは常に接した状態になるようにしたため、上記変更に従って第2開口18と転写膜9との距離も変更された。
【0134】
図11は、第2開口18とスリット1との間の距離がdm値に与える影響をシミュレーションし、その結果をプロットしたグラフである。なお、図11に示すグラフでは横軸として第2開口18と転写膜9との間の距離を示している。図12(a)〜(c)は、上記距離を変更したときのシミュレーション結果を示す図である。なお、上記距離は、図12(a)では140μmであり、図12(b)では1000μmであり、図12(c)では5000μmである。
【0135】
以下、図11および12を参照しながら説明する。図11に示すように、第2開口18と転写膜9との間の距離が0μm(両者が接した状態)から700μmまで離れるにつれて、dm値がより低くなり、高分解能な結果となることが分かった。これは、図12(a)に示すように、第2開口18とスリット1との間に、サンプルが収束するための距離が確保されることによって、スリット1の収束力が効果に加わるためである。
【0136】
一方、第2開口18と転写膜9との間の距離が700μm以上に離れていくと、第2開口18から排出された直後のサンプルに対して伝わるスリット1の収束効果は弱くなり、排出直後のサンプルは拡散しようとする力が強くなる。
【0137】
上記距離が700μm以上3000μm未満の範囲にある場合、この拡散しようとする力と、上記距離の寄与分が加わるスリット1の収束力との兼ね合いにより、dm値が最低値に落ち着く平衡状態が続く。この範囲では、図12(b)に示すように、第2開口18から排出された直後のサンプルは一度広がる傾向を示し、その後、スリット1に近づくにつれスリット1の収束力が強く効いてきて絞られるようになる。
【0138】
第2開口18と転写膜9との間の距離が3000μm以上になると、図12(c)に示すように、第2開口18から排出されたサンプルが受ける拡散力が大きくなっていき、サンプルの拡散が広範囲に及ぶため、dm値が上昇していくことになる。
【0139】
以上のことをまとめて、図11を参照すると、第2開口18と転写膜9との間の距離が300μm以上4000μm以下である場合、両者が接している場合と比較して、dm値が低い、すなわちより高い分解能を示すことが分かる。
【0140】
ただし、第2開口18とスリット1間に存在する媒体が緩衝液であると、サンプルが拡散してしまうため、第2開口18とスリット1間には、ゲルなどのサンプル透過可能な導電性媒体が挿入されることが好ましい。この導電性媒体としては、例えば上述のサンプル分離部6の項目で説明した被覆部も該当する。
【0141】
なお、上述したスリット構造体8bに関する好ましい条件等は、全て、他のスリット構造体に対しても適用することができる。
【0142】
(サンプル分離吸着器具130を用いた粒子軌道シミュレーション)
次に、スリット構造体8cに関して、スリット1をサンプル分離部6内に押し込む構成の詳細を、粒子軌道シミュレーション結果に基づいて説明する。
【0143】
なお、サンプル分離吸着器具のモデルとして、図13に示すサンプル分離吸着器具130を用いた。その他の基本設定については、上述のシミュレーションと同様である。また、比較対照のモデルとして、スリット1が押し込まれない構成であるサンプル分離吸着器具120を用いた。
【0144】
図14(a)は、サンプル分離吸着器具130の第2開口18近傍におけるシミュレーション結果を示す図である。また、図14(b)は、比較対照であるサンプル分離吸着器具120の第2開口18近傍におけるシミュレーション結果を示す図である。
【0145】
図14(a)において、dm値は114.2μmであり、図14(b)において、dm値は96.7μmであった。すなわち、スリット1を押し込んだ構成の方が、スリット1の上下(y方向)に分離ゲルが位置しているため、電気力線が僅かにその方向に発散する力を受け、分解能が少し悪くなる(dm値が少し大きくなる)。
【0146】
ただし、押し込む構成におけるdm値の上昇は、スリット1の幅やスリット構造体8cの材料を変更することにより十分補える程度の値であり、スリット構造体8cの上述した利点を考慮すると大きな問題にはならない。
【0147】
(比較例における粒子軌道シミュレーション)
比較例として、スリット構造体を備えないサンプル分離吸着器具200を用いて、粒子軌道シミュレーションを行った。
【0148】
サンプル分離吸着器具200の設定は、スリット構造体を備えない点以外は、上述のシミュレーションと同様にした。具体的には、図17(a)に示すように、サンプル分離吸着器具200は、第1電極201が配置された第1緩衝液槽202、第2電極203が配置された第2緩衝液槽204、分離媒体205が格納されたサンプル分離部206を備えている。また、第2緩衝液槽204には、分離媒体205の一端に接する多孔質層(転写膜)207、および、多孔質層207を支える液体吸収媒体層208を配置した。
【0149】
なお、図17(a)は、比較例に係るサンプル分離吸着器具200のモデル構成を示す図であり、(b)は、粒子軌道シミュレーション結果について、(a)に示す装置における第2開口付近を拡大して示す図である。
【0150】
図17(b)に示すように、電気力線のy方向の幅(dm)が、多孔質層206において第2開口210に接する側(位置A)で476.2μm、厚みの真ん中(位置B)で505.6μm、液体吸収媒体層207側(位置C)で535.1μmと広がった。すなわち、スリットが存在しないサンプル分離吸着器具200では、電気力線はy方向幅において拡散しており、第2開口210から排出されたサンプルは、電気力線に応じて広がりながら多孔質層206へ転写されてしまうことが分かった。
【0151】
したがって、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100〜160によれば、高分解能なサンプル吸着を実現することができることが明らかとなった。
【0152】
(サンプル分離吸着器具120の作製)
次に、図3に示すサンプル分離吸着器具120を以下のように作製し、電気泳動および転写を連続的に行った。
【0153】
まず、サンプル分離部6を幅70mm×長さ30mm×厚さ5mmの寸法でガラスから形成し、その内部には、分離ゲル7としてpH6.4のBis−Tris/HClバッファーを用いた13%ポリアクリルアミド(幅60mm×長さ30mm×厚さ1.2mm)を充填した。このとき、コーム(4mm×6mm×1mmの凸部を有する)を、第1開口17側に挿入し、サンプルアプライ用のウェル(4mm×6mm×1mmの凹み)を設けた。なお、第2開口18は、厚さ125μmを有する親水性のDurapore膜(millipore社製のポリビニリデンフロライド膜)によって覆っておき、分離ゲル7が第2開口18の先端にまで充填されるようにしておいた。このDurapore膜は、ナイロン膜、ニトロセルロース膜およびPTFE(Polytetra fluoro ethylene)膜などと比べて、非常に低いタンパク質吸着能(4μg/cm2)を有している。そのため、サンプルの分離および吸着の際にサンプル成分の通り道(第2開口18)に存在していても、サンプルの分離および吸着に悪影響を与えないと判断した。
【0154】
ポリアクリルアミドがゲル化した後、コームを抜き取り、サンプルをウェルへ導入した。このとき、サンプルが第1緩衝液槽4内の緩衝液中に流出しないように、ウェルを封するため、1%アガロースを注入し、その後、アガロースがゲル化することでサンプルを固定化した。
【0155】
サンプルとしては、市販の分子量マーカー(SeeBlue Plus2 Pre−stained Standard、Invitrogen)を用いた。
【0156】
サンプル分離部6を、アクリル製のステージ13上に固定した。また、電圧印加時の発熱防止のために、ペルチェ素子を用いた冷却装置(図示せず)を、予めステージ13下部に取り付けておいた。サンプル分離部6を取り付けることによって、第1開口17側に第1緩衝液槽4および第2開口18側に第2緩衝液槽が形成された。第1緩衝液槽4に市販のpH7.3のMOPSバッファー(Invitrogen)を注いで、第1緩衝液槽4を満たした。そして、白金線からなる陰電極2を、第1緩衝液槽4の第1開口17とは反対側に挿入した。
【0157】
次に、予め親水化処理した転写膜9(Millipore社製のPVDF膜(Immobiron PSQ))を第2緩衝液槽5に挿入した。転写膜9の一端は、移動アーム10に保持させ、かつ転写膜9の他端は、アクリル製の転写膜収納ロール11に巻きつけられている。続いて、x方向幅50μm、y方向幅100μm、z方向幅60mmに開いたスリット1を有するアクリルで形成された凹型の槽(スリット構造体8b)を第2緩衝液槽へはめ込んだ。なお、スリット構造体8bの底面が転写膜9上へ直接載らないように、第2緩衝液槽5の底面両側部(側壁から各5mm幅)は中央部(60mm幅)より3mm底上げされており、盛り上がったレール状の上記底面両側部にスリット構造体8bが載り、第2緩衝液槽5の底面両側部と上記中央部、そして、スリット構造体8bの底面に囲まれた空間に転写膜9を位置させた。
【0158】
その後、スリット1および転写膜9を第2開口18へ押付けて固定させるために、スリット構造体8bと、第2緩衝液槽5の第2開口18に対向した壁面との間にプランジャー19を挿入した。続いて、第2緩衝液槽5に市販のpH7.2のNuPAGE転写バッファー(Invitrogen)に20%メタノールを混合した緩衝液を注いで満たし、白金線からなる陽電極3を挿入した。
【0159】
以上の準備を行った後、陰電極2と陽電極3との間に電圧を印加して、電気泳動分離を行った(25mAの定電流、25分間)。上記サンプルのSeeBlue Plus2 Pre−stained Standard(Invitrogen)は、染色されたタンパク質の混合物であるので、サンプルが電気泳動されている状態を目視によって確認することができた。移動アーム10の動作は、泳動の先端が第2開口18に達したときに生じる電圧上昇点において引き上げを開始するように予めプログラミングされており、サンプル成分の排出と同時に、自動的にかつ多変速において引き上げが開始された。なお、2極間の電圧は、各電極に接続された電圧測定器によって検出された。
【0160】
第2開口18から排出されたサンプルの成分は、連続的に転写膜9に吸着(転写)され、転写の終了後に転写膜9は移動アーム16によって回収された。回収した転写膜9を目視によって確認したところ、サンプルが良好に分離および転写されていることを確認した。
【0161】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られるような実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、生体試料および化学的試料などの解析およびその解析器具の製造に対して好適に使用され得る。
【符号の説明】
【0163】
1 スリット
2 陰電極
3 陽電極
4 第1緩衝液槽
5 第2緩衝液槽
6 サンプル分離部
7 分離ゲル
8 スリット構造体
9 転写膜
10 移動アーム
12 ガイド
13 ステージ
17 第1開口
18 第2開口
20 突起部
21 突起部
100〜160 サンプル分離吸着器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離媒体に緩衝液を介して電流を流すことによって、上記分離媒体中のサンプルを分離し、かつ、分離されたサンプルを上記分離媒体からサンプル吸着部材へ吸着させるサンプル分離吸着器具であって、
第1電極と、
第2電極と、
上記第1電極に対向する側に開口する第1開口および上記第2電極に対向する側に開口する第2開口を有し、かつ、上記分離媒体を格納するサンプル分離部と、
上記第2開口に対向する位置にスリットを有するスリット構造体とを備え、
上記サンプル吸着部材は、上記第2開口と上記スリットとの間に配置されることを特徴とするサンプル分離吸着器具。
【請求項2】
上記第1電極および上記第2電極により規定される第1方向に対して垂直な第2方向において、
上記スリットの幅は、上記第2開口の幅よりも狭いことを特徴とする請求項1に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項3】
上記スリット構造体は、絶縁性の材料から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項4】
上記スリットは、誘電率5.0以下の材料から構成されていることを特徴とする請求項3に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項5】
上記サンプル吸着部材は上記スリットに接して配置され、
上記第2開口と上記スリットとの間の距離は、300μm以上4000μm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項6】
上記第2開口と上記サンプル吸着部材との間には、サンプル透過可能な導電性媒体が介在することを特徴とする請求項5に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項7】
上記スリット構造体は、上記第2開口側に突起した2つの突起形状の間に上記スリットを形成している突起部を有しており、
上記突起部の少なくとも一部は、上記サンプル吸着部材と共に、上記第2開口を介して上記サンプル分離部内に入り込み、かつ、上記サンプル吸着部材を介して上記分離媒体に接していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項8】
上記スリット構造体は、
上記スリットの周囲から上記第2開口側に突起する形状であって、上記第2開口を介して上記サンプル分離部内に入り込む突起部と、
上記突起部と上記スリットとの間において上記サンプル吸着部材を保持する保持部とを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項9】
上記第1電極が内部に配置された第1緩衝液槽と、
上記第2電極が内部に配置された第2緩衝液槽とをさらに備え、
上記スリット構造体は、上記第2緩衝液槽と一体的に構成されており、
上記スリット構造体を含む上記第2緩衝液槽の少なくとも一部は、上記第1電極および上記第2電極により規定される第1方向に対して垂直な第2方向における上記スリットの中心を通る、当該第2方向に垂直な平面に対して対称に構成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項10】
上記スリット構造体は、上記サンプル分離部の上記第2開口側において、当該サンプル分離部と一体的に構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項11】
上記第1電極、上記第1開口、上記第2開口、および上記第2電極が、略一直線上に配置されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項12】
上記サンプル吸着部材が移動する経路を規定するガイドをさらに備えていることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項13】
上記第2開口に対向する位置において、上記サンプル吸着部材を、上記第1電極および上記第2電極により規定される第1方向に対して垂直な第2方向に移動させる移動手段をさらに備えていることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のサンプル分離吸着器具。
【請求項14】
上記第1電極と上記第2電極との間の電圧を測定する電圧検出手段をさらに備えており、
上記移動手段は、上記電圧検出手段によって検出された電圧に基づき、サンプル吸着部材の移動を開始させることを特徴とする請求項13に記載のサンプル分離吸着器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−196914(P2011−196914A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65962(P2010−65962)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)