説明

サーボプレスとその運転方法

【課題】モータ容量を大きくすることなく、スライドの移動区間ではより高速に、下死点近傍の加圧区間ではより大きな加圧力を得ることができるサーボプレスを提供する。
【解決手段】本発明のサーボプレス1は、複数のリンク(第1リンク11、第2リンク12、第3リンク13、第4リンク14)により、梃の原理による力の増幅作用を生じる箇所が3つあるように構成されたトグル機構10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
トグル機構によりスライドを昇降動させるサーボプレスとその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、サーボモータの回転を変換して取り出した直線動を、トグル機構(ナックル機構ともいう)によりスライドの昇降動に変換するサーボプレスが知られている。
一般的にトグル機構は、互いの一端部同士が軸着された第1リンク及び第2リンクを備え、第1リンクの他端はクラウンの一部に軸着され、第2リンクの他端はスライドに軸着され、さらに、第1リンクと第2リンクとの連結点に駆動リンクが軸着されている。
【0003】
このような構成のトグル機構では、駆動リンクを直動アクチュエータで第1及び第2リンクに対して進退動させると、第1リンクと第2リンクで構成されるトグル形状が開閉するように変形することにより、スライドが昇降動する。このようなトグル機構を採用することによって、下死点付近のスライド速度をクランク機構に比べて遅くすることができるので、移動区間(高速、加圧力無し)と加圧区間(低速、加圧力大)のそれぞれの要求を満足することができる。
トグル機構を採用したサーボプレスを開示するものとしては、下記特許文献1及び2がある。
【0004】
特許文献1のサーボプレスは、サーボモータにてボールねじ装置を備えるトグル駆動手段を駆動し、このトグル駆動手段により、連結ピンで連結された二つのリンクからなるトグル機構(特許文献1ではナックル機構と称している)を駆動して、このトグル機構の屈伸運動によりプランジャを介してスライドを昇降動させるものである。このサーボプレスのトグル機構は、1段のトグル効果(梃の原理による力の増幅作用)が得られる、いわゆる1段トグルである。
【0005】
特許文献2のサーボプレスは、鉛直方向の軸心まわりに回転駆動される多条角ネジと、この多条角ネジに螺合しネジの回転に伴って昇降可能な昇降体と、この昇降体とスライドとの間を連結する多リンク機構を備える。多リンク機構は、それぞれ一端が多条角ネジの左右に軸着された一対の第1リンクと、それぞれ一端がプレスフレームに軸着された左右一対の第2リンクと、それぞれ一端がスライドに軸着された左右一対の第3リンクとを有し、左右の第1〜第3リンクの他端同士が軸着されている。上記の多条角ネジを回転させると、昇降体と多リンク機構を介してスライドが昇降する。このサーボプレスのトグル機構は、2段のトグル効果が得られる、いわゆる2段トグルである。
【0006】
【特許文献1】特開2002−103089号公報
【特許文献2】特開2001−300778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1のサーボプレスは1段トグルを採用し、特許文献2のサーボプレスは2段トグルを採用している。このため、スライドの移動区間では高速に、加圧区間では低速且つ大きな加圧力を得ることができる。
しかしながら、これらのサーボプレスにおいて、スライドの移動区間でさらに高速に、下死点近傍の加圧区間でさらに大きな加圧力を得るためには、モータ容量を大きくする必要がある。このため、モータが大型化し、コストが嵩むという問題がある。
【0008】
また、特許文献1のサーボプレスでは、トグル機構の中間位置に相当する高さに直動部(トグル駆動機構)が配置されている。このため、スライドが上昇するときに直動部とスライドが干渉しないよう、すなわちストロークを確保できるよう、スライドと直動部との間にプランジャ(延長リンク)を介在させる必要がある。このようなプランジャは、スライドを駆動させるための機構としては、本質的には不必要な要素である。すなわち、本質的には不要な要素が含まれてしまうという問題がある。
【0009】
また、特許文献2のサーボプレスでは、多条角ネジが垂直置きであるため、装置全高が高くなる。プレス機械では、装置全高を抑えつつ一定以上のストロークを確保することが要求されるが、特許文献2のサーボプレスでは、そのような要求を満足することが困難であるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、モータ容量を大きくすることなく、スライドの移動区間ではより高速に、下死点近傍の加圧区間ではより大きな加圧力を得ることができるサーボプレスを提供することを目的とする。また、トグル機構とスライドとの間にプランジャを介在させる必要が無いサーボプレスを提供することを目的とする。また、装置全高を抑えることができるサーボプレスを提供することを目的とする。また、このようなサーボプレスの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるサーボプレスは以下の手段を採用する。
(1)すなわち、本発明にかかるサーボプレスは、スライドを昇降動させるトグル機構と、該トグル機構を駆動するトグル駆動機構とを備えたサーボプレスにおいて、前記トグル機構は、複数のリンクにより、梃の原理による力の増幅作用を生じる箇所が3つあるように構成されている、ことを特徴とする。
【0012】
本発明のサーボプレスによれば、複数のリンクにより、梃の原理による力の増幅作用を生じる箇所が3つあるように構成されているトグル機構、すなわち、3段のトグル効果が得られる3段トグルを採用しているので、図8及び図9に示すように、1段トグルや2段トグルと比較して、下死点近傍より上死点側におけるスライド移動速度が速く、かつ下死点近傍で低速・加圧力大である。なお、図8及び図9は、3段トグルを採用した本発明のサーボプレスと、1段トグルや2段トグルを採用した従来のサーボプレスとを、モータ仕事量が同一として比較したものである。
したがって、モータ容量を大きくすることなく、スライドの移動区間ではより高速に、下死点近傍の加圧区間ではより大きな加圧力を得ることができ、モータの大型化及びコスト増大を招かない。あるいは、従来と同じ加圧力を維持する場合、モータ容量を小さくできるので、モータの小型化及びコスト低減を実現できる。
【0013】
(2)また、上記(1)のサーボプレスにおいて、前記トグル機構は、互いの一端同士で軸着された第1リンク及び第2リンクと、一端が前記第1リンクと前記第2リンクとの軸着点に軸着された第3リンクと、一端が前記第3リンクの他端に軸着された第4リンクとを有し、前記第1リンクの他端は前記スライドの一部に軸着され、前記第2リンクの他端はクラウンに軸着され、前記トグル駆動機構は、水平方向又は水平方向と傾斜する方向に直線往復動する直動部を有し、該直動部は前記第4リンクの他端に軸着され、前記直動部の直線往復動に連動して、前記第1リンク及び第2リンクが屈伸運動するよう前記第3リンク及び前記第4リンクが動作する、ことを特徴とする。
【0014】
このように、第1〜第4リンクを連結することにより、3段トグルを構成できる。
また、第1リンク及び第2リンクと、トグル駆動機構の直動部とは、第3リンク及び第4リンクを介して連結されているので、1段トグルの場合(特許文献1の場合)と比較して、直動部を上方に配置することが可能となる。そして、直動部を上方に配置できるので、スライドが上昇しても直動部との干渉が生じない。
また、スライドの上昇に伴って、第1リンクと第2リンクが閉じるよう動作し、第3リンクと第4リンクの軸着点が上方に移動するように第3リンク及び第4リンクが動作するので、スライドと第3リンク及び第4リンクとの干渉も生じない。したがって、トグル機構とスライダとの間にプランジャを介在させる必要がない。
また、本発明のサーボプレスは、直動部が鉛直方向に移動するものではなく、直動部が水平方向または水平方向と傾斜する方向に直線往復動するよう配置されるので、一定以上のストロークを確保しつつ装置全高を抑えることができる。
【0015】
(3)また、上記(2)のサーボプレスにおいて、前記トグル駆動機構は、送りねじ軸と該送りねじ軸に螺合するナット部材とからなる送りねじ機構を有し、前記ナット部材が前記直動部を構成している、ことを特徴とする。
【0016】
このように、送りねじ機構を採用するので、ストローク長さを変えることなく、送りねじ軸の外径やリードを変えることで減速比を自由に変えることができる。
【0017】
(4)また、上記(2)のサーボプレスにおいて、前記トグル機構と前記トグル駆動機構を、それぞれ1対ずつ備え、一方の前記トグル機構と他方の前記トグル機構における各々の前記第4リンクは、その一端同士が軸着され、一方の前記トグル駆動機構と他方の前記トグル駆動機構は、その各々の前記直動部が互いに接近離反するよう動作する、ことを特徴とする。
【0018】
このように、トグル機構とトグル駆動機構を複数備えることにより、スライドが複数の連結点で支持されるので、偏心荷重に対する能力が増大する。
また、各々の第4リンクの一端同士が軸着されているので、一方と他方における各々の第3リンクと第4リンクの軸着点に作用する横方向の荷重を支持するための支持手段を省略することができる。なお上記の支持手段は、実施形態においては「上下案内部材34」がこれに該当する。
【0019】
(5)また、上記(3)のサーボプレスにおいて、前記1対のトグル駆動機構は、水平軸方向の一方寄りを右ねじ部とし他方寄りを左ねじ部とした共通の送りねじ軸と、前記右ねじ部と前記左ねじ部にそれぞれ螺合する1対のナット部材とからなる送りねじ機構であり、
一方の前記ナット部材が一方の前記トグル駆動機構の前記直動部を構成し、他方の前記ナット部材が他方の前記トグル駆動機構の前記直動部を構成している、ことを特徴とする。
【0020】
このように、送りねじ機構を採用するので、ストローク長さを変えることなく、送りねじ軸の外径やリードを変えることで減速比を自由に変えることができる。
また、一方と他方の直動部を構成する1対のナット部材が、一本の送りねじ軸に螺合しているので、右ねじ部と左ねじ部の外径およびリードを同一とすることで、各々の直動部を同期制御することなく左右対称に同速度で移動させることができる。したがって、動作制御が容易である。
【0021】
(6)また、上記(2)のサーボプレスにおいて、前記トグル機構と前記トグル駆動機構を、それぞれ1対ずつ備え、前記1対のトグル駆動機構は、水平軸方向の一方寄りを右ねじ部とし他方寄りを左ねじ部とした共通の送りねじ軸と、前記右ねじ部と前記左ねじ部にそれぞれ螺合する1対のナット部材とからなる送りねじ機構であり、一方の前記ナット部材が一方の前記トグル駆動機構の前記直動部を構成し、他方の前記ナット部材が他方の前記トグル駆動機構の前記直動部を構成しており、前記送りねじ軸の回転により前記1対のナット部材が互いに接近離反する、ことを特徴とする。
【0022】
このように、トグル機構とトグル駆動機構を複数備えることにより、スライドが複数の連結点で支持されるので、偏心荷重に対する能力が増大する。
また、送りねじ機構を採用するので、ストローク長さを変えることなく、送りねじ軸の外径やリードを変えることで減速比を自由に変えることができる。
また、一方と他方の直動部を構成する1対のナット部材が、一本の送りねじ軸に螺合しているので、右ねじ部と左ねじ部の外径およびリードを同一とすることで、各々の直動部を同期制御することなく左右対称に同速度で移動させることができる。したがって、動作制御が容易である。
【0023】
(7)また、上記(5)または(6)のサーボプレスにおいて、前記トグル駆動機構は、前記送りねじ軸を回転駆動するサーボモータを複数備える、ことを特徴とする。
【0024】
このように、トグル駆動機構が、送りねじ軸を回転駆動するサーボモータを複数備えるので、サーボプレスの運転中にいずれかのサーボモータが故障した場合でも、残りの他のサーボモータにより送りねじ軸を回転駆動し、運転を継続することができる。したがって、運転中止となる事故を防止することができる。
【0025】
(8)また、本発明にかかるサーボプレスの運転方法は、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のサーボプレスの運転方法であり、被加工物のプレス加工に必要な成形力を確保できるようにストロークを調整・設定し、当該ストロークにおいて被加工物のプレス加工を行う、ことを特徴とする。
【0026】
上述したように、本発明のサーボプレスは、3段トグルを採用したことにより、スライドの移動区間ではより高速に、下死点近傍の加圧区間ではより大きな加圧力を得ることができるため、打ち抜き加工において優れた能力を発揮できる。
ここで、3段トグルを採用したサーボプレスにより、絞り加工のように加圧区間が長い加工を行う場合において下死点からストロークを定義したとき、加圧区間全般に渡って成形力を確保するためには、通常は、大容量のモータが必要になる。これは、3段トグルでは下死点近傍より上の区間では高速であるが加圧力が低いからである。
そこで、本発明のサーボプレスの運転方法では、被加工物のプレス加工に必要な成形力を確保できるようにストロークを調整・設定し、このストロークにおいて被加工物のプレス加工を行う。これにより、モータ容量を大きくすることなく、打ち抜き加工から絞り加工まで幅広くプレス加工を行うことができる。すなわち、本発明の運転方法によれば、ストロークを無段階で調整できるので、必要な形成力が得られるストロークに設定すれば、あるモータ容量で最も高い生産性が得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のサーボプレスによれば、モータ容量を大きくすることなく、スライドの移動区間ではより高速に、加圧区間ではより大きな加圧力を得ることができる。また、トグル機構とスライドとの間にプランジャを介在させる必要が無い。また、装置全高を抑えることができる。
本発明のサーボプレスの運転方法によれば、加工の種類に応じて適切なストロークを選択することによりモータ容量を大きくすることなく、打ち抜き加工から絞り加工まで幅広くプレス加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0029】
[第1実施形態]
図1及び図2は、本発明の第1実施形態にかかるサーボプレス1の構成を示す図である。図1はスライド5が上死点位置にある状態を示し、図2はスライド5が下死点位置にある状態を示している。図3は、図1のサーボプレス1の平面図である。
図1において、サーボプレス1では、上部にボルスタ2が固定されたベッド3の上に、コラム4(アップライトともいう)が立設され。コラム4の上にクラウン6が設けられている。コラム4には、スライド5が上下にスライド動可能に支持されている。ボルスタ2の上面には下型(図示せず)が取り付けられ、スライド5の下面には上型(図示せず)が取り付けられる。
【0030】
また、サーボプレス1は、スライド5を昇降動させるトグル機構10と、トグル機構10を駆動するトグル駆動機構20と、トグル駆動機構20を駆動するサーボモータ30とを備えている。
トグル機構10は、複数のリンク(第1リンク11〜第4リンク14)により、梃の原理による力の増幅作用を生じる箇所が3つあるように構成されている。すなわち、このサーボプレス1におけるトグル機構10は、3段のトグル効果が得られる3段トグルである。本実施形態にかかるサーボプレス1は、このトグル機構10を線対称状に1対備えている。また、トグル駆動機構20を線対称状に1対備えている。
【0031】
各トグル機構10は、第1〜第4のトグルからなる。第1リンク11と第2リンク12は、互いの一端(第1リンク11の上端と第2リンク12の下端)において連結ピン16aを介して軸着されている。第1リンク11の他端(下端)は連結ピン16bを介してスライド5に軸着されている。第2リンク12の他端(上端)は連結ピン16cを介してクラウン6に軸着されている。第3リンク13の一端は、連結ピン16aを介して第1リンク11と第2リンク12との軸着点に軸着されている。第3リンク13の他端は第4リンク14の一端に連結ピン16dを介して軸着されている。第4リンク14の他端は、スライド駆動機構の直動部に連結ピン16eを介して軸着されている。また、一方と他方のトグル機構10における各々の第4リンク14は、その一端同士が連結ピン16dを介して軸着されている。
各トグル機構10における第1リンク11同士、第2リンク12同士、第3リンク13同士、第4リンク14同士は、それぞれ長さが同一である。
このように構成されたトグル機構10は、トグル駆動機構20の直動部(ナット部材23)の直線往復動に連動して、第1リンク11及び第2リンク12が屈伸運動するよう第3リンク13及び第4リンク14が動作する。
【0032】
トグル駆動機構20は、水平方向に直線往復動する直動部を有し、本実施形態では、第2リンク12の上方に設置されている。
本実施形態では、1対のトグル駆動機構20は、水平軸方向の一方寄りを右ねじ部22aとし他方寄りを左ねじ部22bとした共通の送りねじ軸21と、右ねじ部22aと左ねじ部22bにそれぞれ螺合する1対のナット部材23とからなる送りねじ機構である。
本実施形態では、1対のうち一方のナット部材23が一方のトグル駆動機構20の直動部を構成し、他方のナット部材23が他方のトグル駆動機構20の直動部を構成している。
【0033】
送りねじ軸21は、クラウン6に内蔵された軸受24により水平軸心を中心に回転可能に支持されている。送りねじ軸21の両端部には大歯車26が固定されている。クラウン6の上部には送りねじ軸21を回転駆動するサーボモータ30が複数(本実施形態では4つ:図3参照)設置されている。サーボモータ30の出力軸には、大歯車26と噛合する小歯車27が固定されている。サーボモータ30の駆動力は、小歯車27と大歯車26を介して送りねじ軸21に伝達される。
【0034】
なお、サーボモータ30とトグル駆動機構20との間に介在される動力伝達機構は、上述したような歯車伝達機構に限られず、ベルト伝達機構、チェーン伝達機構などの他の機構であってもよい。
【0035】
1対のナット部材23は、クラウン6に設けられた案内部材29により、水平方向にスライド可能に支持されている。案内部材29は、プレス加工を行うときにナット部材23に作用する垂直方向の荷重を受けるものである。
このように構成されたトグル駆動機構20は、サーボモータ30により送りねじ軸21が一方向に回転駆動されると、1対のナット部材23が互いに接近する。また、送りねじ軸21が逆方向に回転駆動されると、1対のナット部材23が互いに離反する。すなわち、一方のトグル駆動機構20と他方のトグル駆動機構20は、その各々の直動部(ナット部材23)が互いに接近離反するよう動作する。
【0036】
次に、本実施形態にかかるサーボプレス1の動作について説明する。
図1に示す状態から、サーボモータ30により送りねじ軸21が一方向に回転駆動されると、1対のナット部材23が互いに近接する方向に動作する。すると、第3リンク13及び第4リンク14が回動するとともに第1リンク11と第2リンク12からなる「くの字形状」が伸長し、スライド5が下降する。すると、図2の状態になる。
反対に、図2の状態から、サーボモータ30により送りねじ軸21が逆方向に回転されると、1対のナット部材23が互いに離反する方向に動作する。すると、第3リンク13及び第4リンク14が回動するとともに第1リンク11と第2リンク12からなる「くの字形状」が収縮し、スライド5が上昇する。すると、図1の状態になる。
【0037】
次に、3段トグルの特性について説明する。
図4〜図6は、順に、1段トグル、2段トグル、3段トグルの挙動を模式的に示したものである。これらにおいて、最終段のトグルを構成する2つのリンクの長さはそれぞれ500mmで、動力出力点のストロークが1000mmであるという共通の条件の下、最終段のトグルがフルストローク動作できるように他のリンクの長さと動力入力点のストロークを切の良い長さで決定した。以下、動力入力点のストロークを入力ストロークと呼び、動力出力点のストロークを出力ストロークと呼ぶ。
なお、入力ストローク長さが各図のトグルで異なるが、減速比(減速機の減速比や送りねじ機構であれば送りねじ軸のリード)を調整すればモータの入力回転・入力トルクは同等に設計できるため、それぞれ異なっても、議論の本質には影響しない。
【0038】
このようにして決めた入力ストロークを4等分し、動力出力点が下死点から上死点に移動するように動力入力点を移動させたときにおける上記の4等分した入力ストロークの各区間に対応する出力ストロークの各区間を、下死点側から順に、第1区間、第2区間、第3区間、第4区間とする。第1〜第4区間の移動量を表1に示す。また、表1をグラフ化したものを図7に示す。なお、表1及び図7において「直動(0段)」は、サーボモータ30から取り出した直線動をそのまま出力ストロークとした駆動形式を意味するものとする。
【0039】
【表1】

【0040】
図4〜図6の各トグルにおいて、動力入力点の仕事量(モータ仕事量)が同等である場合、各区間における動力出力点の移動量は図7の通りに変化する。
図7の結果に基づいて、各トグルにおける動力出力点の位置と加圧力及び速度との関係を示すと、概ね図8及び図9のようになる。
図8及び図9から、3段トグルは、1段トグルや2段トグルと比較して、下死点近傍より上死点側における動力出力点の移動速度(つまりスライド移動速度)が速く、かつ下死点近傍で低速・加圧力大であることが分かる。なお、図8及び図9は、各トグルを、モータ仕事量がある位置Xで同一として比較したものであり、各線がそれぞれ点P、点Qで交わっている。
【0041】
次に、本実施形態にかかるサーボプレス1の作用・効果について説明する。
本実施形態によれば、1段トグルや2段トグルと比較して、下死点近傍より上死点側におけるスライド移動速度が速く、かつ下死点近傍で低速・下圧力大である。
したがって、モータ容量を大きくすることなく、スライドの移動区間ではより高速に、下死点近傍の加圧区間ではより大きな加圧力を得ることができ、モータの大型化及びコスト増大を招かない。あるいは、従来と同じ加圧力を維持する場合、モータ容量を小さくできるので、モータの小型化及びコスト低減を実現できる。
【0042】
本実施形態によれば、第1リンク11及び第2リンク12と、トグル駆動機構20の直動部(ナット部材23)とは、第3リンク13及び第4リンク14を介して連結されているので、1段トグルの場合と比較して、直動部を上方に配置することが可能となる。そして、直動部を上方に配置できるので、スライド5が上昇しても直動部との干渉が生じない。
また、スライド5の上昇に伴って、第1リンク11と第2リンク12が閉じるよう動作し、第3リンク13と第4リンク14の軸着点が上方に移動するように第3リンク13及び第4リンク14が動作するので、スライド5と第3リンク13及び第4リンク14との干渉も生じない。したがって、トグル機構10とスライダ5との間にプランジャを介在させる必要がない。
また、直動部が鉛直方向に移動するものではなく、直動部が水平方向に直線往復動するよう配置されるので、一定以上のストロークを確保しつつ装置全高を抑えることができる。
【0043】
本実施形態によれば、トグル駆動機構20として送りねじ機構を採用したので、ストローク長さを変えることなく、送りねじ軸21の外径やリードを変えることで減速比を自由に変えることができる。
【0044】
本実施形態によれば、トグル機構10とトグル駆動機構20を複数備えることにより、スライド5が複数の連結点で支持されるので、偏心荷重に対する能力が増大する。
また、各々の第4リンク14の一端同士が軸着されているので、一方と他方における各々の第3リンク13と第4リンク14の軸着点(連結ピン16d)に作用する横方向の荷重を支持するための支持手段を省略することができる。
【0045】
本実施形態によれば、一方と他方の直動部である一対のナット部材23が、一本の送りねじ軸21に螺合しているので、右ねじ部22aと左ねじ部22bの外径およびリードを同一とすることで、各々の直動部を同期制御することなく左右対称に同速度で移動させることができる。したがって、動作制御が容易である。
【0046】
本実施形態によれば、トグル駆動機構20が、送りねじ軸21を回転駆動するサーボモータ30を複数備えるので、サーボプレス1の運転中にいずれかのサーボモータ20が故障した場合でも、残りの他のサーボモータ30により送りねじ軸21を回転駆動し、運転を継続することができる。したがって、運転中止となる事故を防止することができる。
【0047】
[第2実施形態]
図10は、本発明の第2実施形態にかかるサーボプレス1の構成を示す図である。
本実施形態にかかるサーボプレス1は、第1実施形態と同様に、1対のトグル機構10と、1対のトグル駆動機構20を備えている。
上述した第1実施形態では、ナット部材23が螺合する送りねじ軸21は一本の共通したねじ軸であったが、本実施形態では、各ナット部材23は別々の送りねじ軸21Aに螺合している。各送りねじ軸21Aは、軸受24によって水平軸線を中心に回転可能に支持されている。
また、本実施形態では、各送りねじ軸21Aは、それぞれ、2つのサーボモータ30によって回転駆動される。
【0048】
また、第1実施形態では、一方と他方のトグル機構10における各々の第4リンク14は、その一端同士で軸着されていたが、本実施形態では、分離している。また、第3リンク13と第4リンク14の軸着点(連結ピン16d)に作用する横方向の荷重を支持し、且つこの軸着点を上下方向にスライド可能にするため、連結ピン16dが固定されたスライダ32と、スライダ32を上下方向にスライド可能に支持する上下案内部材34がクラウン6に設置されている。
本実施形態にかかるサーボプレス1のその他の部分の構成は、第1実施形態と同様である。
【0049】
本実施形態の構成によっても、各送りねじ軸21Aを、サーボモータ30により回転駆動させることにより、各トグル機構10を駆動し、スライド5を昇降動させることができる。その際の動作は、第1実施形態の説明から容易に理解できるため、その詳細については説明を省略する。
【0050】
本実施形態では、一つの上下案内部材の両側に2つのスライダ32がスライドするように構成されているが、2つのスライダ32ごとに別々の上下案内部材が設置されてもよい。
本実施形態では、上下案内部材はスライダを鉛直方向にスライドさせる構成であるが、鉛直方向に対して傾斜した方向にスライドさせる構成であってもよい。
【0051】
本実施形態では、各ナット部材23は別々の送りねじ軸21Aに螺合し、且つ一方と他方のトグル機構10における各々の第4リンク14は分離している構成であったが、このような構成に代えて、各ナット部材23が螺合する送りねじ軸を一本の共通したねじ軸(すなわち、送りねじ軸については、第1実施形態と同様)とし、且つ一方と他方のトグル機構10における各々の第4リンク14は分離している構成としてもよい。あるいは、各ナット部材23は別々の送りねじ軸に螺合し、且つ一方と他方のトグル機構10における各々の第4リンク14は、その一端同士で軸着された構成(すなわち第4リンク14の一端同士が軸着された構成については、第1実施形態と同様)であってもよい。
【0052】
本実施形態では、トグル機構10とトグル駆動機構20を、それぞれ1対ずつ備えたが、このような構成に代えて、トグル機構10とトグル駆動機構20を1つずつ備える構成であってもよい。すなわち、トグル機構10とスライド5が一点で連結される一点プレスであってもよい。
【0053】
[第3実施形態]
以下、本発明の第3実施形態として、上記の実施形態にかかるサーボプレス1の運転方法について、図11を参照して説明する。
上述したように、本発明のサーボプレス1は、3段トグルを採用したことにより、スライドの移動区間ではより高速に、下死点近傍の加圧区間ではより大きな加圧力を得ることができるため、打ち抜き加工において優れた能力を発揮できる。
ここで、3段トグルを採用したサーボプレス1により、絞り加工のように加圧区間が長い加工を行う場合において下死点からストロークを定義したとき、加圧区間全般に渡って成形力を確保するためには、通常は、大容量のモータが必要になる。これは、3段トグルでは下死点近傍より上の区間では高速であるが加圧力が低いからである。
【0054】
例えば、図11(A)のL1で示すような加圧カーブをもつ3段トグルの場合、必要な成形力がA1の範囲で示されるような被加工物(打ち抜き加工品など)に対しては、A1が加圧カーブL1の内側にあるため、プレス加工が可能である。
一方、必要な成形力がA2の範囲で示されるような被加工物(絞り加工品など)に対しては、A2が加圧カーブL1からはみ出るため、プレス加工することができない。
【0055】
そこで、加圧カーブL3であれば、A2の範囲の成形力が必要な被加工物をプレス加工することができる。この加圧カーブの設計方法は、次の通りである。まず、サーボプレスのストローク無段階調整機能を利用して、本来の下死点よりも上死点側でストロークを定義する。この結果、加圧カーブL1はその形状を維持したまま水平方向にシフトし、加圧カーブL2が得られる。
【0056】
次に、交点Pを通るような所定倍率で加圧カーブL2を拡大すると、加圧カーブL3が得られる。但し、交点Pは図8に示したものと同様の意味である。加圧カーブL3も交点Pを通るため、L1とモータ容量は同等である。
加圧カーブの拡大は、上記のサーボプレス1において、サーボモータ30とトグル駆動機構20のうちトグル機構10に動力を伝達する部分(上記の実施形態ではナット部材23)との間に減速機を介在させ、この減速機の減速比を調整することにより、行なうことができる。
【0057】
上記の実施形態にかかるサーボプレス1では、大歯車26と小歯車27のギヤ比を設定することにより、これを減速機として機能させることができる。サーボモータ30とトグル駆動機構20との間の動力伝達機構として他の機構(ベルト駆動機構など)を採用する場合も、同様に減速機として機能させることができる。あるいは、送りねじ軸21、21Aの外径やリードを調整することによって、送りねじ機構自体を減速機として機能させることができる。また、サーボプレス1は、プレス加工の種類に応じて適切なストロークに調整できるようプログラムされた制御部を備える。
【0058】
上記のように変化させた加圧カーブL3は、L1と比較比して、絞り加工に対応しやすく、打ち抜き加工が不得意なカーブとなる。必要な成形力が比較的小さなものは、このような加圧カーブで1段トグルや2段トグルなどと同等の速度(生産速度)で処理することができる。
【0059】
ここで、比較的大きな成形力が必要な品種を対象とする場合、図11(B)に示すように、下死点に近いストロークに変更することにより、より大きな成形力が得られる(加圧カーブL4)。この結果、A3の範囲までの被加工物をプレス加工することができる。ただし、加圧カーブL4の場合、成形速度の遅い領域を利用していることになるため、L3よりも生産速度は低下する。
【0060】
このように、本発明のサーボプレスの運転方法は、被加工物のプレス加工に必要な成形力を確保できるようにストロークを調整・設定し、このストロークにおいて被加工物のプレス加工を行うので、モータ容量を大きくすることなく、打ち抜き加工から絞り加工まで幅広くプレス加工を行うことができる。すなわち、本発明の運転方法によれば、ストロークを無段階で調整できるので、必要な形成力が得られるストロークに設定すれば、あるモータ容量で最も高い生産性が得られる。
【0061】
利用するストロークを変更することにより得られる成形力、生産速度の変更機能は、必ずしも3段トグルだけではない。しかし、図8、図9に示したように、3段トグルを採用した本発明のサーボプレス1は、1段トグルや2段トグルを採用した従来のサーボプレスよりも、成形力の大きな領域から小さな領域、速度の大きな領域から小さな領域の幅が大きいため、次の利点を有する。すなわち、3段トグルによれば、対応しようとする成形力の可変範囲を同等とする場合、調整するストローク変化量が最も小さく済むという利点がある。この利点は、一定以上のストロークを確保しつつ装置全高を抑えることができる、という3段トグルの特徴にも適合するものである。
【0062】
なお、上記の各実施形態におけるトグル駆動機構20は、送りねじ機構であったが、本発明はこれに限られず、直動部をもつ機構として、ラックアンドピニオン機構、リニアモータなどを採用することができる。
上記の実施形態におけるトグル駆動機構20の直動部は、水平方向に直線往復動するものであったが、本発明はこれに限られず、水平方向と傾斜する方向に直線往復動するものであってもよい。
【0063】
上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるサーボプレスの構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかるサーボプレスの構成を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態にかかるサーボプレスの構成を示す図である。
【図4】1段トグルの挙動を示す図である。
【図5】2段トグルの挙動を示す図である。
【図6】3段トグルの挙動を示す図である。
【図7】各トグルの特性を示す図である。
【図8】各トグルの特性を示す図である。
【図9】各トグルの特性を示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態にかかるサーボプレスの構成を示す図である。
【図11】本発明の実施形態にかかるサーボプレスの運転方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0065】
1 サーボプレス
5 スライド
10 トグル機構
11 第1トグル
12 第2トグル
13 第3トグル
14 第4トグル
20 トグル駆動機構
21,21A 送りねじ軸
22a 右ねじ部
22b 左ねじ部
23 ナット部材(直動部)
30 サーボモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スライドを昇降動させるトグル機構と、該トグル機構を駆動するトグル駆動機構とを備えたサーボプレスにおいて、
前記トグル機構は、複数のリンクにより、梃の原理による力の増幅作用を生じる箇所が3つあるように構成されている、ことを特徴とするサーボプレス。
【請求項2】
前記トグル機構は、互いの一端同士で軸着された第1リンク及び第2リンクと、一端が前記第1リンクと前記第2リンクとの軸着点に軸着された第3リンクと、一端が前記第3リンクの他端に軸着された第4リンクとを有し、前記第1リンクの他端は前記スライドに軸着され、前記第2リンクの他端はクラウンに軸着され、
前記トグル駆動機構は、水平方向又は水平方向と傾斜する方向に直線往復動する直動部を有し、該直動部は前記第4リンクの他端に軸着され、
前記直動部の直線往復動に連動して、前記第1リンク及び第2リンクが屈伸運動するよう前記第3リンク及び前記第4リンクが動作する、ことを特徴とする請求項1に記載のサーボプレス。
【請求項3】
前記トグル駆動機構は、送りねじ軸と該送りねじ軸に螺合するナット部材とからなる送りねじ機構であり、前記ナット部材が前記直動部を構成している、ことを特徴とする請求項2に記載のサーボプレス。
【請求項4】
前記トグル機構と前記トグル駆動機構を、それぞれ1対ずつ備え、
一方の前記トグル機構と他方の前記トグル機構における各々の前記第4リンクは、その一端同士が軸着され、
一方の前記トグル駆動機構と他方の前記トグル駆動機構は、その各々の前記直動部が互いに接近離反するよう動作する、ことを特徴とする請求項2に記載のサーボプレス。
【請求項5】
前記1対のトグル駆動機構は、水平軸方向の一方寄りを右ねじ部とし他方寄りを左ねじ部とした共通の送りねじ軸と、前記右ねじ部と前記左ねじ部にそれぞれ螺合する1対のナット部材とからなる送りねじ機構であり、
一方の前記ナット部材が一方の前記トグル駆動機構の前記直動部を構成し、他方の前記ナット部材が他方の前記トグル駆動機構の前記直動部を構成している、ことを特徴とする請求項4に記載のサーボプレス。
【請求項6】
前記トグル機構と前記トグル駆動機構を、それぞれ1対ずつ備え、
前記1対のトグル駆動機構は、水平軸方向の一方寄りを右ねじ部とし他方寄りを左ねじ部とした共通の送りねじ軸と、前記右ねじ部と前記左ねじ部にそれぞれ螺合する1対のナット部材とからなる送りねじ機構であり、
一方の前記ナット部材が一方の前記トグル駆動機構の前記直動部を構成し、他方の前記ナット部材が他方の前記トグル駆動機構の前記直動部を構成しており、前記送りねじ軸の回転により前記1対のナット部材が互いに接近離反する、ことを特徴とする請求項2に記載のサーボプレス。
【請求項7】
前記送りねじ軸を回転駆動するサーボモータを複数備える、ことを特徴とする請求項5又は6に記載のサーボプレス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のサーボプレスの運転方法であって、
被加工物のプレス加工に必要な成形力を確保できるようにストロークを調整・設定し、当該ストロークにおいて被加工物のプレス加工を行う、ことを特徴とするサーボプレスの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−43970(P2008−43970A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221148(P2006−221148)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】