説明

サーマルプリンタ

【課題】濃度ムラが生じる可能性を低減したサーマルプリンタを提供する。
【解決手段】サーマルプリンタX1は、基板2と、基板2上に設けられた蓄熱膜17と、蓄熱膜17上に設けられた複数の発熱素子1と、発熱素子1を被覆する保護膜19と、保護膜19の厚みを示す第1膜厚値5に基づいて、複数の発熱素子1のそれぞれに印加する電圧を制御する制御部3とを備え、制御部3は、第1膜厚値5が大きくなるほど発熱素子1に印加する電圧を大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サーマルヘッドを備えたサーマルプリンタが知られている。サーマルプリンタは、基板と、基板上に設けられた蓄熱膜と、蓄熱膜上に設けられた複数の発熱素子と、発熱素子上に設けられた保護膜とを備えている。また、基板上に設けられた蓄熱膜の厚みのばらつきに起因して、蓄熱膜の表面にうねりが生じることが知られている。そして、この基板を用いたサーマルヘッドを備えるサーマルプリンタが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
蓄熱膜の表面にうねりが生じている場合に、蓄熱膜上に発熱素子を形成し、発熱素子を被覆するように保護膜を形成した場合、保護膜の表面にまでうねりが生じることになる。そして、保護膜の表面にうねりが生じると、媒体と保護膜との接触状態が悪くなる場合があるため、媒体と保護膜との接触状態を改善するために、保護膜の表面を研磨することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−268781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したサーマルプリンタでは、保護膜の表面の平滑性を高めることはできるものの、複数の発熱素子上に設けられた保護膜の厚みがばらつくという問題がある。そのため、発熱素子上に設けられた保護膜の厚みのばらつきに起因して濃度ムラが生じる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るサーマルプリンタは、基板と、基板上に設けられた蓄熱膜と、蓄熱膜上に設けられた複数の発熱素子と、発熱素子を被覆する保護膜と、保護膜の厚みを示す第1膜厚値に基づいて、複数の発熱素子のそれぞれに印加する電圧を制御する制御部とを備えている。また、制御部は、第1膜厚値が大きくなるほど発熱素子に印加する電圧を大きくする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、サーマルプリンタの濃度ムラが生じる可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係るサーマルプリンタの概略を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るサーマルプリンタの第1膜厚値メモリと、駆動制御部と、電圧印加部との関係を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係るサーマルプリンタの概略を示す斜視図である。
【図4】図3に示す一点鎖線Aにより囲まれた領域を拡大して示すI−I線拡大断面図である。
【図5】保護膜の膜厚と印画における濃度差との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は保護膜の表面のうねりの測定を示す説明図であり、(b)は保護膜の表面のうねりの状態を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るサーマルプリンタの概略を示すブロック図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るサーマルプリンタの第1膜厚値メモリと、駆動制御部と、電圧印加部との関係を示すブロック図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係るサーマルプリンタの図3に対応する拡大断面図である。
【図10】蓄熱膜の膜厚と印画における濃度差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1の実施形態>
以下、本発明のサーマルプリンタの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、符号は、同一または類似する構成のものについて、例えば、「発熱素子1a1,1b1」のように、同一の符号に小文字のアルファベットの付加符号を付することがある。また、この場合において、単に「発熱素子1」というなど、上記の付加符号を省略することがあるものとする。
【0010】
図1に示すように、サーマルプリンタX1は、複数の発熱素子1(1a1〜1a5,1b1〜1b5)と、発熱素子1を被覆する保護膜19(図3参照)と、保護膜19の厚みを示す第1膜厚値に基づいて、発熱素子1に印加する電圧を制御する制御部3とを備えている。
【0011】
制御部3は、第1膜厚値を格納する第1膜厚値メモリ5と、発熱素子1に電圧を印加する電圧印加部7と、第1膜厚値メモリ5に格納された第1膜厚値に基づいて、発熱素子1に印加する電圧を制御する駆動制御部9とを備えている。なお、第1膜厚値メモリ5に格納された第1膜厚値は、後述する膜厚検知手段4により検知された保護膜の表面に生じたうねりに基づいて検出される値である。ここで、制御部3としては、例えば、CPU,ROM,RAM,入出力インターフェースを主体に構成されるマイクロコンピュータを用いることができる。
【0012】
詳細は後述するが、第1膜厚値メモリ5は、うねり値(x,y)、初期膜厚値a、研磨値b、第1膜厚値(x,z)、第1膜厚値データテーブル、第1膜厚補正値(x,z´)を格納している。うねり値(x,y)は、図6で示す膜厚検知手段4により検知され、第1膜厚値メモリ5に格納されている。うねり値(x,y)は、図6に示すD1方向における位置情報x,および平均膜厚値に対する保護膜19の表面の高さ情報yを備えている。初期膜厚値aは、保護膜19の膜厚に設定された値として第1膜厚値メモリ5に格納されている。研磨値bは、保護膜19の研磨深さの値として第1膜厚値メモリ5に格納されて
いる。第1膜厚値データテーブルは、保護膜19の厚さと印画濃度との関係を示すデータテーブルである。なお、詳細は後述するが、研磨値bは、保護膜の最上面から保護膜を研磨した位置までの長さである。第1膜厚値メモリ5としては、ROM、あるいはRAM等を用いることができる。
【0013】
電圧印加部7は、発熱素子1ごとに個別に電圧を印加する機能を有している。電圧印加部7は、駆動制御部9により求められた第1膜厚補正値(x,z´)に基づいた出力で発熱素子1に電圧を印加する。第1膜厚補正値(x,z´)は、第1膜厚値(x,z)に基づいて算出されているため、発熱素子1には第1膜厚値(x,z)に基いた電圧が印加されている。電圧印加部7としては、マイクロコンピュータあるいはCPU等を用いることができる。
【0014】
駆動制御部9は、第1膜厚値(x,z)に基づいて、発熱素子1ごとに供給する電圧を個別に制御する機能を有している。駆動制御部9は、第1膜厚値メモリ5から、うねり値(x,z)と、初期膜厚値aと、研磨値bとを読み出して、後述する演算により第1膜厚値(x,z)を算出して第1膜厚値メモリ5に第1膜厚値(x,z)を格納する。第1膜厚値(x,z)は、図6に示すD1方向における位置情報xと、位置情報xに対応する保護膜19の厚み情報zとを備えている。
【0015】
そして、駆動制御部9は、第1膜厚値メモリ5から、第1膜厚値(x,z)と、第1膜厚値データテーブルとを読み出して、第1膜厚値(x,z)に対応した第1膜厚補正値(x,z´)を求める。駆動制御部9は、求めた第1膜厚補正値(x,z´)を格納するとともに、第1膜厚補正値(x,z´)に基づいて、発熱素子1に印加する電圧を算出し、電圧印加部7に信号を伝えている。第1膜厚補正値(x,z´)は、図6に示すD1方向における位置情報xと、位置情報xに対応する保護膜19の補正された厚み情報z´とを備えている。なお、第1膜厚補正値(x,z´)は、初期の駆動時に算出して第1膜厚値メモリ5に格納しておき、その後の駆動時においては、第1膜厚補正値(x,z´)を読出し、第1膜厚補正値(x,z´)に基づいて印加する電圧を算出している。
【0016】
以下、図3,4を用いてサーマルプリンタX1を構成する各部材について説明する。なお、制御部3は、図示しない外部基板上に設けられている。
【0017】
発熱素子1は、基板2の端面12における蓄熱膜17上に複数個設けられており、複数の発熱素子1は列状に配置されている。発熱素子1は、隣り合う発熱素子1a1〜1a5を1つの群とした発熱素子群1aを形成しており、これと同様に、隣り合う発熱素子1b1〜1b5を1つの群とした発熱素子群1bを形成している。
【0018】
そして、発熱素子1の一端に共通電極13が接続されており、他端に個別電極15が接続されている。なお、図3においては示していないが、各発熱素子1に接続された共通電極13同士が接続されており、共通電極13は、等電位となっている。個別電極15は、発熱素子1と、発熱素子群1a,1bごとに対応して設けられた駆動IC11a,11bとを電気的に接続している。なお、図面の見易さのために、図3では、発熱素子1上に設けられた保護膜を省略して示してある。
【0019】
発熱素子1は、電圧印加部7により電圧が印加されることにより発熱する機能を有している。発熱素子1としては、一般に知られているものを用いることができ、例えば、TaN系、TaSiO系、TaSiNO系、TiSiO系、TiSiCO系またはNbSiO系等の電気抵抗の比較的高い材料によって形成することができる。なお、発熱素子1は、説明の便宜上、図1〜4においては簡略化して記載しているが、例えば、600dpi(dot per inch)等の密度で配置されている。なお、発熱素子1の厚みは、0.01〜0.2μmとすることができる。
【0020】
基板2は、一方の端面12が円弧上に突出した形状を有している。そして、突出した端面12上に蓄熱膜17を介して発熱素子1が設けられている。そのため、突出した端面12が発熱素子1を印画媒体に押し当てる機能を有することとなる。基板2は、アルミナセラミックス等の電気絶縁性材料あるいは単結晶シリコン等の半導体材料等によって形成することができる。
【0021】
共通電極13は、各発熱素子1の一端同士を接続している。つまり、一端が各発熱素子1に接続されており、他端が図示しない外部基板に接続されている。これにより、外部基板から電圧を各発熱素子1に印加することができる。
【0022】
個別電極15は、各発熱素子1と駆動IC11とを接続しており、発熱素子1ごとに独立して設けられている。そのため、発熱素子1ごとに独立した電圧の制御を行うことができる。
【0023】
なお、図3に示していないが、共通電極13および個別電極15以外にその他の電極を設けてもよい。例えば、駆動IC11を動作させるための電圧を印加するためのIC電極、駆動IC11およびこの駆動IC11に接続された個別電極15を例えば0〜1Vのグランド電位に保持するためのグランド電極、あるいは駆動IC11内のスイッチング素子のオン・オフ状態を制御するように駆動IC11を動作させるための電気信号を供給するためのIC制御電極とを設けてもよい。
【0024】
共通電極13、個別電極15、および上述した種々の電極は、例えば、アルミニウム、金、銀および銅のうちのいずれか一種の金属またはこれらの合金によって形成することができる。そして、例えば、各々を構成する材料層を蓄熱膜17上に、スパッタリング法等の従来周知の薄膜成形技術によって順次積層した後、この積層体を従来周知のフォトリソグラフィー技術やエッチング技術等を用いて所定のパターンに加工することにより形成することができる。
【0025】
駆動IC11は、駆動IC11に接続された各個別電極15に対応するように、内部に複数のスイッチング素子が設けられている。駆動IC11の一端が個別電極15に接続されており、他端が外部基板に接続されている。図3に示す例では、駆動IC11aは発熱素子群1aに対応するように設けられており、駆動IC11bは、発熱素子群1bに対応するように設けられている。駆動IC11aは、発熱素子群1aを構成する各発熱素子1a1〜1a5の発熱駆動を制御している。また、駆動IC11bは、発熱素子群1bを構成する各発熱素子1b1〜1b5の発熱駆動を制御している。
【0026】
蓄熱膜17は、基板2の突出した端面12上に形成されており、断面が三日月形状である。蓄熱膜17は、例えば、熱伝導性の低いガラスで形成されており、発熱素子1で発生する熱の一部を一時的に蓄積することで、発熱素子1の温度を上昇させるのに要する時間を短くするとともに、サーマルプリンタX1の熱応答特性を高めるように機能する。
【0027】
蓄熱膜17は、例えば、ガラス粉末に適当な有機溶剤を混合して得た所定のガラスペーストを従来周知のスクリーン印刷等によって基板2の上面に塗布し、これを焼成することで形成される。この蓄熱膜17を形成するガラスペーストの粘度が大きい場合、ガラスペーストの厚みが均一にならず、蓄熱膜17の印刷時の厚みがばらつくこととなる。そして、蓄熱膜17の厚みばらつきに起因して、図4に示すように、蓄熱膜17のうねりは保護膜19の表面にまで生じており、保護膜19の表面は0.1〜5μmの範囲でうねりが生じている。
【0028】
蓄熱膜17を形成するガラスとしては、例えば、SiO,Al,CaOおよびBaOを含有するもの、SiO,Al,およびPbOを含有するもの、SiO,AlおよびBaOを含有するもの、SiO,B,PbO,Al,CaOおよびBaOを含有するものをあげることができる。
【0029】
保護膜19は、蓄熱膜17および発熱素子1上に設けられている。保護膜19は、発熱素子1、共通電極13および個別電極15の被覆した領域を、大気中に含まれている水分等の付着による腐食、あるいは印画する記録媒体との接触による摩耗から保護するためのものである。
【0030】
保護膜19は、例えば、SiC系、SiN系、SiO系、SiAlON系およびSiO
N系等の材料で形成することができる。保護膜19は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の従来周知の薄膜成形技術や、スクリーン印刷法等の厚膜成形技術を用いて形成することができ、保護膜19の厚みは2〜30μmとすることが好適である。また、保護膜19として複数の材料層を積層して形成してもよい。
【0031】
上述したように、表面にうねりが生じた蓄熱膜17上に、発熱素子1および保護膜19を形成すると、蓄熱膜17の表面のうねりに起因して、保護膜19(19´)の表面までうねりが生じることとなる。そのため、保護膜19は、蓄熱膜17上に形成された後に表面を研磨することにより保護膜19の表面は平坦面となっている。なお、図3の一点鎖線で示す領域は、研磨される前の保護膜19´を示している。
【0032】
このように、蓄熱膜17上に保護膜19を形成し、保護膜19の表面を研磨すると、蓄熱膜17のうねりに起因して、保護膜19の厚みがばらつくこととなる。
【0033】
具体的には、図4に示すように、蓄熱膜17が厚く形成された発熱素子1b1上に形成された保護膜19は、保護膜19の表面を研磨することにより、保護膜19が厚さL1´分研磨されて、発熱素子1b1上の保護膜19の厚さはL1となる。つまり、発熱素子1b1に対応する第1膜厚値がL1となる。同様に、蓄熱膜17が薄く形成された発熱素子1b2上に形成された保護膜19は、厚さL2´分研磨されて、発熱素子1b2上の保護膜19の厚さはL2となる。つまり、発熱素子1b2に対応する第1膜厚値がL2となる。
【0034】
図5は、保護膜の膜厚と印画における濃度差との関係を示すグラフである。具体的には、印字速度を2.0msec/lineとした際の、保護膜19の膜厚と、保護膜19の厚みの差1μmあたりの濃度差との関係を示すグラフである。例えば、このグラフが示すように、保護膜19の膜厚が10μmであると、保護膜19の厚みの差1μmあたりの濃度差は2%となり、保護膜19の膜厚が4μmであると、保護膜19の厚みの差1μmあたりの濃度差は5%となる。
【0035】
つまり、発熱素子1b2上に形成された保護膜19の厚さL2は、発熱素子1b1上に形成された保護膜19の厚さL1よりも厚い構成となる。この厚みの差(L2−L1)に起因して、同じ電圧を発熱素子1b1,1b2に印加した場合においても、図5に示す保護膜19の膜厚差に起因する濃度差の関係から、発熱素子1b1の印画に比べて発熱素子1b2の印画が薄くなる場合がある。
【0036】
なお、保護膜19の厚みの差1μmあたりの濃度差は、保護膜19の組成によって定められる定数Kと保護膜19の膜厚の逆数を乗じることにより求めることができる。また、定数Kは、保護膜19の膜厚が異なる試料を作製して、保護膜19の厚みの差1μmあたりの濃度差を実測することにより求めることができる。
【0037】
以下、本発明の一実施形態に係るサーマルヘッドX1の製造方法および駆動制御について図1,6を用いて説明する。
【0038】
基板2の端面12に、蓄熱膜17を形成し、基板2および蓄熱膜17を焼成する。次に、蓄熱膜17および基板2上に、発熱素子1と、共通電極13と、個別電極15とを形成して、発熱素子1と、共通電極13と、個別電極15とを被覆するように保護膜19を形成する。保護膜19は、例えば、5μm程度の所定の膜厚となるように形成されており、この保護膜19の厚みは、初期膜厚値aとして図2に示す第1膜厚値メモリ5に格納される。なお、初期膜厚値aは、図6(a)に示すD1方向に異なるものではなく一定値aを示す。
【0039】
そして、図6(a)に示すように、膜厚検知手段4を用いて保護膜19の表面のうねりを測定する。うねりの測定方法について詳細に説明すると、測定は、サーマルヘッドX1の発熱素子1上の保護膜19に触針を接触させ、サーマルヘッドX1を主走査方向であるD1方向に移動させることにより、発熱素子1上の保護膜19のうねりを測定することができる。つまり、保護膜19のうねりの測定は、D1方向に保護膜19の表面の高さを測定することにより求めることができる。
【0040】
なお、膜厚検知手段4としては、触針式表面形状測定器あるいは非接触の表面形状測定器を例示することができる。また、一般的に知られている表面粗さ計を用いることもできる。
【0041】
膜厚検知手段4により測定された保護膜19のうねりは、図6(b)に示すように平均膜厚値を中心として、保護膜19の最も高い部位である最上面Hと、保護膜19の最も低い部位である最下面Lとの間に位置することとなる。つまり、膜厚検知手段4により測定されるうねり値(x,y)は、D1方向における位置情報x、および平均膜厚値に対する保護膜19の表面の高さ情報yであり、D1方向における位置情報と保護膜19の表面の高さ情報とが対をなすうねり値(x,y)として、第1膜厚値メモリ5に格納されることとなる。
【0042】
次に、保護膜19の最下面Lより下の部位まで、保護膜19の表面の高さが平滑となるように保護膜19の表面を研磨する。研磨する位置としては、保護膜19の最下面Lより0.5μm程度の位置まで研磨する例を示すことができる。そして、保護膜19の最上面Hから保護膜19を研磨した位置までの長さは研磨値bとして、第1膜厚値メモリ5に格納される。なお、研磨値bは、図6(a)に示すD1方向に異なるものではなく一定値bである。
【0043】
研磨処理は、例えば、ポリエステル等からなるベースフィルムに平均粒径0.5〜5μmのSiC粒子が多数被着されて形成されたラッピングフィルムを保護膜19の表面に押し当てた状態で、これをプラテンローラを用いて副走査方向に摺動させることにより、研磨することができる。
【0044】
駆動制御部9は、初期膜厚値a、うねり値(x,y)および研磨値bを用いて第1膜厚値(x,z)を算出する。ここで、保護膜19の表面の高さは、うねりが生じているため、D1方向に高さが異なる構成となるが、うねり値(x,y)と初期膜厚値aとを用いて表すと、保護膜19の表面の高さは(x,y+a)となる。この値はD1方向に変化するものである。そして、図4の一点鎖線で示すように、上述した保護膜19の最上面Hは(x,ymax+a)となり、一定の値をとる。保護膜19の最上面Hから研磨値bを減じた値が、研磨された後の保護膜19の表面となり(x,ymax+a−b)と表すことができる。そのため、保護膜19の厚みである第1膜厚値(x,z)は、研磨された後の保護膜19の表面(x,ymax+a−b)から、うねり値(x,y)を減ずることにより求めることができ、(x,ymax+a−b−y)と表すことができる。なお、x,yが変数である。
【0045】
具体的には、発熱素子1b1上に位置する保護膜19の第1膜厚値(x,z)は、(x,ymax+a−b−y1)と表すことができ、発熱素子1b2上に位置する保護膜19の第1膜厚値(x,z)は、(x,ymax+a−b−y2)と表すことができる。そして、第1膜厚値(x,ymax+a−b−y)は、D1方向における位置情報xと、D1方向における位置情報に対応した保護膜19の膜厚情報zが対をなす値(x,z)として、第1膜厚値メモリ5に格納される。
【0046】
第1膜厚値メモリ5には、うねり値(x,y)と、初期膜厚値aと、研磨値bと、第1膜厚値(x,z)と、保護膜19の膜厚および保護膜19の厚みの差1μmあたりの濃度差の関係である第1膜厚値データテーブルとが格納されている。そのため、駆動制御部9は、保護膜19の膜厚および保護膜19の厚みの差1μmあたりの濃度差の関係に基づき、印加する電圧の補正値を算出する。具体的には、制御部3は、第1膜厚値(x,z)の保護膜19の膜厚情報zを、第1膜厚値データテーブルに基づき、印加する電圧の補正値z´に置き換えて第1膜厚補正値(x,z´)とする。そして、駆動制御部9は、第1膜厚補正値(x,z´)に従って電圧印加部7に信号を送り、電圧印加部7が第1膜厚補正値(x,z´)に従った補正された電圧を発熱素子1に印加する。
【0047】
具体的には、制御部3は、第1膜厚値が大きい場合には、発熱素子1で発熱した熱が、保護膜19により伝熱されにくくなるため、第1膜厚値が小さい部位に比べて発熱素子1に印加する電圧を大きくする制御を行なっている。一方、制御部3は、第1膜厚値が小さい場合には、発熱素子1で発熱した熱が、保護膜19により伝熱されやすくなるため、第1膜厚値が大きい部位に比べて発熱素子1に印加する電圧を小さくする制御を行なっている。
【0048】
制御部3が上記のような制御をすることにより、発熱素子1上に設けられた保護膜19の厚みのばらつきが生じている場合においても、印画ムラを低減させることができる。つまり、発熱素子1ごとに対応する保護膜19の第1膜厚値に基づいて、制御部3が、印加する電圧を制御することにより、発熱素子1の上に設けられた保護膜19表面にて所望の熱を伝熱させることができる。それにより、サーマルプリンタX1の印画ムラを低減させることができる。特に細やかな階調制御を行うサーマルプリンタにおいては、好適に用いることができる。
【0049】
ここで、発熱素子1に印加する電圧について説明する。
【0050】
発熱素子1に印加する電圧は、発熱素子1に対して印加する電圧の大きさを示す電圧値と、発熱素子1に対して電圧を印加する時間を示す時間値とを含んでいる。つまり、電圧とは発熱素子1に供給されるエネルギーを示している。そして、発熱素子1に印加する電圧を大きくするには、時間値を一定として電圧値を大きくする方法、電圧値を一定として時間値を大きくする方法、電圧値および時間値を大きくする方法を例示することができる。なお、電圧値を一定として時間値を大きくすること方法を用いることにより、容易に発熱素子1に印加する電圧を大きくすることができる。
【0051】
つまり、発熱素子1に印加する電圧は、供給する電圧値を常に一定として、発熱素子1に対して電圧を印加する時間を示す時間値を変化させることにより、制御部3により制御されている。このような構成とすることで、制御部3が時間値のみを制御することにより、発熱素子1に印加する電圧を制御することができ、制御部3での制御を簡易なものとすることができる。
【0052】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係るサーマルプリンタX2について図7〜10を用いて説明する。
【0053】
サーマルプリンタX2は、制御部3が、発熱素子1の下方に位置する蓄熱膜17の厚みを示す第2膜厚値、および第1膜厚値に基づいて、発熱素子1に印加する電圧を制御している。その他の点は、第1の実施形態に係るサーマルプリンタX1と同様であり、説明を省略する。
【0054】
サーマルプリンタX2は、制御部3が、電圧印加部7と、駆動制御部9と、第1膜厚値メモリ5と、第2膜厚値メモリ6とを備えている。そして、第1膜厚値および第2膜厚値に基づいて、制御部3が発熱素子1a1〜1a5,1b1〜1b5に印加する電圧をそれぞれ制御している。
【0055】
図8に示すように、第2膜厚値メモリ6は、うねり値(x,y)と、第2膜厚値(x,m)と、第2膜厚値データテーブルと、第2膜厚補正値(x,m´)とを格納している。第2膜厚値(x,m)は、図6に示すD1方向における位置情報xと、位置情報xに対応する蓄熱膜17の厚み情報mとを備えている。第2膜厚値データテーブルは、蓄熱膜17の厚さと印画濃度との関係を示すデータテーブルである。
【0056】
駆動制御部9は、うねり値(x,y)から第2膜厚値(x,m)を求めている。第2膜厚値(x,m)は、上述したうねり値(x,y)とすることができる。つまり、第2膜厚値mはうねり値yとすることができる。これは、蓄熱膜17の厚みばらつきが、基板2の凹凸に比べて大きいためである。また、保護膜19の厚みバラつきは、蓄熱膜17の厚みばらつきに比べて小さいためである。そして、第2膜厚値(x,m)は、D1方向における位置情報xと、位置情報xに対応する蓄熱膜17の厚み情報mとが一対一で対応した状態で、第2膜厚値メモリ6に格納されている。
【0057】
駆動制御部9は、第2膜厚値(x,m)と、第2膜厚値データテーブルとにより、第2膜厚補正値(x,m´)を算出して、第2膜厚値メモリ6に格納している。そのため、第2膜厚補正値(x,m´)は、図6に示すD1方向における位置情報xと、位置情報xに対応する蓄熱膜17の補正厚み情報とを備えている。そして、第2膜厚補正値(x,m´)に基づいた電圧を印加するように、電圧印加部7に信号を送っている。
【0058】
ここで、上述したように蓄熱膜17は、発熱素子1にて発熱した熱を蓄熱する機能を有している。そのため、蓄熱膜17の厚みにばらつきが生じている場合、発熱素子1に対応した蓄熱膜17の蓄熱機能にばらつきが生じることとなる。つまり、蓄熱膜17の厚みのばらつきに起因して、発熱素子1に対応した保護膜19の表面までの伝熱にばらつきが生じる場合がある。それにより、印画ムラが生じる可能性がある。
【0059】
しかしながら、第2の実施形態X2は、制御部3が第2膜厚値に基づいて発熱素子1に電圧を印加するため、発熱素子1に対応した保護膜19の表面までの伝熱にばらつきが生じる可能性を低減することができる。それにより、印画ムラの生じる可能性を低減することができる。
【0060】
以下、第2膜厚値(x,m)に基づいた、制御部3の制御について説明する。
【0061】
図9は、基板2と、蓄熱膜17と、発熱素子1b1,1b2と、保護膜19とを示す断面図である。なお、一点鎖線19´で囲まれる領域は研磨された保護膜19を示している。
【0062】
図9に示すように、発熱素子1b1の下方に位置する蓄熱膜17の厚みH1が第2膜厚値(x,m)となる。また、発熱素子1b2の下方に位置する蓄熱膜17の厚みH2が第2膜厚値(x,m)となる。そして、発熱素子1b1に対応する保護膜19の第1膜厚値(x,z)はL1となり、同様に、発熱素子1b2に対応する保護膜19の第1膜厚値(x,z)はL2となる。
【0063】
図10は、蓄熱膜の膜厚と印画における濃度差との関係を示すグラフである。具体的には、印字速度を2.0msec/lineとした際の蓄熱膜17の膜厚と、蓄熱膜17の
厚みの差1μmあたりの濃度差との関係を示すグラフである。例えば、このグラフが示すように、蓄熱膜17の膜厚が50μmであると、蓄熱膜17の厚みの差1μmあたりの濃度差は1%となり、蓄熱膜17の膜厚が25μmであると、蓄熱膜17の厚みの差1μmあたりの濃度差は2%となる。
【0064】
発熱素子1b1と発熱素子1b2において、発熱素子1b1の第1膜厚値と、発熱素子1b2の第1膜厚値とを比較すると、発熱素子1b2の第1膜厚値のほうが大きくなっている。そのため、前述したように、制御部3は、発熱素子1b2に印加する電圧を大きくするように制御する。
【0065】
発熱素子1b1と発熱素子1b2において、発熱素子1b1の第2膜厚値と、発熱素子1b2の第2膜厚値とを比較すると、発熱素子1b1の第2膜厚値のほうが大きくなっている。そのため、発熱素子1b2に対応する蓄熱機能が、発熱素子1b1に対応する蓄熱機能よりも小さいこととなる。そのため、制御部3は蓄熱機能を補うように、発熱素子1b2に印加する電圧を制御する。具体的には、制御部3は、発熱素子1b2に印加する電圧を大きくするように制御する。
【0066】
つまり、サーマルプリンタX2は、第1膜厚値に基づいて発熱素子1に印加する電圧を制御するとともに、第2膜厚値に基づいて発熱素子1に印加する電圧を制御している。このように、第2膜厚値にも基づいて発熱素子1に印加する電圧を制御することから、蓄熱機能のばらつきに起因して印画ムラが生じる可能性を低減することができる。なお、第1膜厚値および第2膜厚値との間に相関関係はなく、互いに独立して保護膜19表面の伝熱に作用している。
【0067】
そのため、第2膜厚値に基づいて発熱素子1に印加する電圧を制御することにより、さらに印画ムラが生じる可能性を低減することができる。
【0068】
また、制御部3は、第2膜厚値が大きい場合には、発熱素子1で発熱した熱が、蓄熱膜17に蓄熱されやすいため、第2膜厚値が小さい部位に比べて発熱素子1に印加する電圧を小さくする制御を行なっている。
【0069】
発熱素子1に印加する電圧の大きさを大きくする方法は、第1の実施形態に係るサーマルプリンタX1と同様の方法を用いればよい。
【0070】
また、制御部3が、時間値分の電圧を発熱素子1に対して複数回に分けて供給するように制御してもよい。つまり、発熱素子1に対して電圧を印加する時間である時間値を一定として、複数回に分けて電圧を印加する構成としてもよい。それにより、発熱素子1にて発熱する温度を細やかに制御することができる。
【0071】
例えば、発熱素子1に1μsecの時間値分、電圧を印加する場合に、1μsecの間電圧を印加する場合と、0.5μsecの間電圧を印加して0.1μsecの間電圧を印加せず、その後0.5μsecの間電圧を印加する場合とでは、発熱素子1が発熱する温度が異なることとなる。発熱素子1に複数回に分けて供給することにより、発熱素子1が発熱する温度を細かい温度範囲で制御することができる。そのため、細やかな階調制御をすることができる。
【0072】
発熱素子1に印加する電圧を複数回に分けて印加する制御は、実験によりデータを算出して、電圧を印加しない時間に対応した温度の低下を示すデータテーブルを作製し、制御部3がデータテーブルに基づいて、発熱素子1に印加する電圧を複数回に分けて印加すればよい。
【0073】
さらに、実験により算出したデータテーブルを、第1膜厚値および第2膜厚値に基づいて補正をして、補正したデータテーブルに基づいて、制御部3が発熱素子1に印加する電圧を制御することから、さらに細やかな階調制御をすることができる。
【0074】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、サーマルプリンタX1およびサーマルプリンタX2を組み合わせた構成のサーマルプリンタとしてもよい。
【0075】
サーマルプリンタX2では制御部3が、時間値分の電圧を2回に分けて印加する例を示したが、3回以上に分けて印加する構成としてもよい。
【0076】
また、合わせて発熱素子1ごとの抵抗値を測定し、抵抗値のばらつきを低減するように、発熱素子1ごとに印加する電圧を制御してもよい。例えば、発熱素子1に抵抗値が低い場合には、発熱素子1に対して印加する電圧を大きくすることにより、発熱素子1ごとの発熱量のばらつきを抑えることができる。
【0077】
さらに、蓄熱膜19を形成した後に、膜厚検知手段4によりうねり値(x,y)を検知してもよい。その場合においても、うねり値(x,y)から第1膜厚値(x,z)を算出することができる。
【0078】
なお、第1膜厚値メモリに第1補正膜厚値を格納した例を示したが、第1補正膜厚値を格納せず、第1膜厚値に基づいて駆動制御部が印画のたびに演算してもよい。第2補正膜厚値についても同様である。
【符号の説明】
【0079】
X1、X2 サーマルプリンタ
1 発熱素子
1a、1b 発熱素子群
2 基板
3 制御部
5 第1膜厚値メモリ
6 第2膜厚値メモリ
7 電圧印加部
9 駆動制御部
17 蓄熱膜
19 保護膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に設けられた蓄熱膜と、
該蓄熱膜上に設けられた複数の発熱素子と、
該発熱素子を被覆する保護膜と、
該保護膜の厚みを示す第1膜厚値に基づいて、複数の前記発熱素子のそれぞれに印加する電圧を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第1膜厚値が大きくなるほど前記発熱素子に印加する電圧を大きくする、ことを特徴とするサーマルプリンタ。
【請求項2】
前記制御部が、前記蓄熱膜の厚みを示す第2膜厚値、および前記第1膜厚値に基づいて、複数の前記発熱素子のそれぞれに印加する電圧を制御し、
前記制御部は、前記第2膜厚値が小さくなるほど前記発熱素子に印加する電圧を大きくする、請求項1に記載のサーマルプリンタ。
【請求項3】
前記電圧が、前記発熱素子に対して印加する電圧の大きさを示す電圧値と、前記発熱素子に対して電圧を印加する時間を示す時間値とを含み、
前記制御部が、前記第1膜厚値が大きくなるほど前記時間値を大きくする、請求項1または2に記載のサーマルプリンタ。
【請求項4】
前記制御部が、前記時間値分の前記電圧を前記発熱素子に対して複数回に分けて印加する、請求項3に記載のサーマルプリンタ。
【請求項5】
前記制御部が、前記第2膜厚値が小さくなるほど前記時間値を大きくする、請求項2乃至4のいずれか1項に記載のサーマルプリンタ。
【請求項6】
前記制御部が、前記時間値分の前記電圧を前記発熱素子に対して複数回に分けて印加する、請求項5に記載のサーマルプリンタ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate