シアノ架橋金属錯体超構造作成方法およびシアノ架橋金属錯体超構造作成装置
【課題】原子レベルで連続的な界面を有する錯体を得ること。
【解決手段】所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶により構成された層である第1の配向層(3a)を、電界析出により電極(3)表面に作成する第1の配向層作成工程と、前記第1の配向層(3a)の表面に、前記第1の配向層を構成するプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶とは異なる組成の錯体の結晶により構成された第2の配向層(13)であって、前記第1の配向層(3a)の結晶方位に揃った第2の配向層(13)を、電界析出により作成する第2の配向層作成工程と、を実行することを特徴とするシアノ架橋金属錯体超構造作成方法。
【解決手段】所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶により構成された層である第1の配向層(3a)を、電界析出により電極(3)表面に作成する第1の配向層作成工程と、前記第1の配向層(3a)の表面に、前記第1の配向層を構成するプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶とは異なる組成の錯体の結晶により構成された第2の配向層(13)であって、前記第1の配向層(3a)の結晶方位に揃った第2の配向層(13)を、電界析出により作成する第2の配向層作成工程と、を実行することを特徴とするシアノ架橋金属錯体超構造作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超構造のシアノ架橋金属錯体を作成するシアノ架橋金属錯体超構造作成方法およびシアノ架橋金属錯体超構造作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、シアノ架橋金属錯体は、電池の電極材料や、電圧を印加すると変色するエレクトロクロミック材料、ガスを検出するガスセンサー材料、水素吸蔵材料として、期待されており、精力的な研究が成されている。この研究の結果、シアノ架橋金属錯体の均質な膜が得られている。
このようなシアノ架橋金属錯体の均質な膜の作製方法として、非特許文献1には、室温で、0.5[mmol/L]のK3Fe(CN)6と、0.5[mmol/L]のCo(NO3)2と、1[mol/L]のNaNO3を含む水溶液の入った電解槽内において、ポテンショスタットを使用して、飽和カロメル電極(参照電極)にとの間で、白金(Pt)電極に−0.4[V]を印加することで、Na1.4Co1.3[Fe(CN)6]・5H2Oのシアノ架橋金属錯体の薄膜を白金電極に製膜する技術が記載されている。
【0003】
しかしながら、非特許文献1記載のシアノ架橋金属錯体の薄膜では、結晶方位が無方向(無配向)であり、結晶方位に強く依存する各種物性や機能性(磁化率やエレクトロクロミック応答性等)がそれほど高くない問題がある。また、無配向の場合、平坦な面が得られにくいという問題もある。
この問題に対応するための技術として、特許文献1記載の技術が知られている。
特許文献1としての特開2009−46748号公報には、析出用電極に交番電界を印加することで、電界析出により、所定の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体の膜を作成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−46748号公報(「0013」〜「0016」、図1、図2)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤治(O.Sato)、他4名,”シアン化コバルト鉄薄膜における室温でのスピン転移を伴う陽イオン制御による電荷移動(Cation-Driven Electron Transfer Involving a Spin Transition at Room Temperature in a Cobalt Iron Cyanide Thin Film)”,物理化学誌(The Journal of Physical Chemistry、J.Phys.Chem.B),米国,米国化学会(American Chemical Society),1997年3月,101,(20),p3903−p3905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
前記シアノ架橋金属錯体の薄膜は、特に、2種類以上の薄膜を接合することにより、電圧の印加により高速色変化や強磁性−常磁性のスイッチを示すデバイスを作成できることについて、本件出願人は、先に、特願2008−284295号や特願2009−202058号として出願している。しかしながら、特許文献1記載の発明により、2種類の薄膜を作成した場合、遷移金属の種類が変わると膜の結晶性・配向性が異なるため、特許文献1記載の発明で作成された2つの薄膜同士を接合させても、接合面(界面)が原子レベルでは平坦な錯体−錯体界面とはならない。したがって、錯体間の界面が原子レベルで、平坦、連続的にならず、微小な隙間が残った状態となり、エレクトロクロミック素子の性能である高速色変化や磁性のスイッチの機能の向上、最大化には限界があった。
【0007】
前述の事情に鑑み、本発明は、原子レベルで連続的な界面を有する錯体を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明のシアノ架橋金属錯体超構造作成方法は、
所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶により構成された層である第1の配向層を、電界析出により析出用電極表面に作成する第1の配向層作成工程と、
前記第1の配向層の表面に、前記第1の配向層を構成するプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶とは異なる組成の錯体の結晶により構成された第2の配向層であって、前記第1の配向層の結晶方位に揃った第2の配向層を、電界析出により作成する第2の配向層作成工程と、
を実行することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシアノ架橋金属錯体超構造作成方法において、
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容された電解槽内に、前記析出用電極を配置し、前記析出用電極に直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加することで、電界析出により、前記析出用電極に、所定の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体を析出させることで、前記第1の配向層を作成する前記第1の配向層作成工程と、
遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液が収容された電解槽内に、前記第1の配向層が作成された前記析出用電極を配置し、前記析出用電極に電界析出用の電圧を印加することで、電界析出により、前記析出用電極の前記第1の配向層の表面に、前記第1の配向層の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体を析出させることで、前記第2の配向層を作成する前記第2の配向層作成工程と、
を実行することを特徴とする。
【0010】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明のシアノ架橋金属錯体超構造作成装置は、
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容された第1の電解槽と、
前記第1の電解槽内に配置された析出用電極に、直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加し、電界析出により前記析出用電極に所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体により構成された第1の配向層を電界析出させる電源装置と、
前記第1の溶液に含まれる遷移金属イオンおよびシアノ錯体イオンの少なくとも一方が異なる遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液が収容された第2の電解槽と、
前記第2の電解槽内に配置された前記第1の配向層が作成された析出用電極に、電界析出用の電圧を印加し、電界析出により、前記析出用電極の前記第1の配向層の表面に前記第1の配向層の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体により構成された第2の配向層を電界析出させる前記電源装置と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜3に記載の発明によれば、第1の配向層の表面に錯体の組成が異なる第2の配向層を電界析出で作成することができ、原子レベルで連続的な界面を有する錯体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明の実施例1のシアノ架橋金属錯体作成方法の全体説明図であり、図1Aはシアノ架橋金属錯体作成装置の全体説明図、図1Bは第1の配向膜が作成された状態の説明図、図1Cは第1の配向膜の表面に第2の配向膜が作成された状態の説明図である。
【図2】図2は実験例1で得られたバッファー層の表面のSEM写真である。
【図3】図3は実験例1で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
【図4】図4は実験例1で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
【図5】図5は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例1−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例1の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例1−2としてのFe[Cr(CN)6]の錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
【図6】図6は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例1のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例1−2としてのFe[Cr(CN)6]の錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
【図7】図7は実験例2で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
【図8】図8は実験例2で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
【図9】図9は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例2−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例2の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例2−2としてのNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
【図10】図10は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例2のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例2−2としてのNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
【図11】図11は実験例3で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
【図12】図12は実験例3で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
【図13】図13は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例3−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例3の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例3−2としてのMn[Fe(CN)6]錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
【図14】図14は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例3のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例3−2としてのMn[Fe(CN)6]錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
【図15】図15は実施例2の積層膜の説明図であり、図15Aは第2の配向膜の表面に多数の配向膜が積層された状態の説明図、図15Bは図15Aにおいて電極のサイズを小さくした構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1のシアノ架橋金属錯体作成方法の全体説明図であり、図1Aはシアノ架橋金属錯体作成装置の全体説明図、図1Bは第1の配向膜が作成された状態の説明図、図1Cは第1の配向膜の表面に第2の配向膜が作成された状態の説明図である。
図1において、本発明の実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1は、第1の電解槽2を有する。前記第1の電解槽2には、アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容されている。
前記第1の電解槽2には、複数の電極3、4、5が浸漬されている。実施例1では、前記電極3〜5は、電源装置の一例としてのポテンショスタット6に接続されており、それぞれ、作用極(析出用電極)3、参照極4、対極5として作用する。すなわち、前記ポテンショスタット6により、作用極3と参照極4との間の電圧が、予め設定された第1の電圧となるように、作用極3と対極5との間の電流が制御される。実施例1では、前記作用極3に、直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とが重畳された重畳電圧が第1の電圧として印加されるように、ポテンショスタット6により作用極3と対極5との間に流れる電流が制御される。前記交番電圧は、正弦波状の交流電圧や、矩形波状の交番電圧、ノコギリ波状の交番電圧等、任意の波形の交番電圧とすることが可能である。
【0015】
図1Bにおいて、前記重畳電圧が印加されると、電界析出により、作用極3に所定の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体により構成された第1の配向層の一例としてのバッファー層3aが形成される。
なお、前記バッファー層3aを作成する方法は、前述の特許文献1記載の発明と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0016】
図1において、実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1は、第2の電解槽11を有し、第2の電解槽11には、第1の電解槽2に収容された第1の溶液に含まれる遷移金属イオンおよびシアノ錯体イオンの少なくとも一方が異なる遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液12が収容されている。
そして、第1の電解槽2で析出用電極3にシアノ架橋金属錯体により構成された第1の配向層が析出された後、前記各電極3〜5が、第2の電解槽11に浸漬される。そして、前記ポテンショスタット6により、作用極3と参照極4との間の電圧が、予め設定された電界析出用の第2の電圧となるように、作用極3と対極5との間の電流が制御され、作用極3にシアノ架橋金属錯体の膜が電界析出される。
【0017】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1では、第1の電解槽2に浸漬された作用極3にマイナスの電圧が印加されると、電界析出により、溶液中のアルカリ金属イオン、遷移金属イオン、シアノ錯体イオンが化合したシアノ架橋金属錯体として析出し、バッファー層3aが作成される。実施例1の重畳電圧が印加されて電界析出したシアノ架橋金属錯体は、所定の結晶方位に揃っており、すなわち、配向しており、配向性の高いバッファー層3aが形成される。そして、作用極3にバッファー層3aが形成された状態で、第2の溶液12に浸漬させて電界析出させることで、図1Cに示すように、バッファー層3aの表面に第2のシアノ架橋金属錯体により構成された第2の配向層の一例としての表面層13が析出する。このとき、形成される表面層13は、バッファー層3aと同様の配向性を有しており、いわゆるエピタキシャル成長している。よって、配向性の高いバッファー層3aおよび表面層13が積層された薄膜を作成することができる。
【0018】
(実験例)
次に、実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1で配向性の高いシアノ架橋金属錯体の積層膜を作成する実験を行った。
(実験例1)
実験例1では、まず、特許文献1記載の技術と同様にして、バッファー層3aとして、Co−Fe錯体の薄膜を形成する。すなわち、第1の電解槽2内に、0.5[mmol/L]のK3[Fe(CN)6]と、1.25[mmol/L]のCoCl2と、1[mol/L]のNa(NO3)を含む室温の第1の溶液を入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのNa+、遷移金属イオンとしてのCo2+、シアノ錯体イオンとしての[Fe(CN)6]3−が溶液中に含まれている。
【0019】
また、作用極3として基板表面に支持されたITO(Indium Tin Oxide、インジウム錫酸化物)電極、参照極4として銀塩化銀(Ag/AgCl)電極、対極5として白金(Pt)電極を使用した。さらに、前記作用極3には、中心電圧(直流電圧)−0.5[V]、振幅0.3[V]のノコギリ波状の交番電圧を印加し、ノコギリ波状の電圧の周期を変化させた。したがって、一周期でプラスマイナス0.3[V]変化し、交番電圧のピーク間では0.6[V]変化するため、周期を制御することで、単位時間当りの電圧の変化である掃引速度を制御できる。この方法で、30分程度でバッファー層3aが得られた。
【0020】
図2は実験例1で得られたバッファー層の表面のSEM写真である。
こうして得られたバッファー層3aの表面をSEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)で撮影した写真を図2に示す。図2において、バッファー層3aの表面に観察される三角形(三角錐状)の構造は、立方体結晶の角の部分に対応する。なお、得られたバッファー層3aは、膜厚が1000[nm]のNa0.84Co[Fe(CN)6]0.71-・3.8H2Oのプルシャンブルー型のシアノ架橋金属錯体であった。
【0021】
次に、バッファー層3aが形成された電極3を、7.5[mmol/L]のFeCl3と、5[mmol/L]のK3[Cr(CN)6]と、を含む室温の第2の溶液12に入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのK+、遷移金属イオンとしてのFe3+、シアノ錯体イオンとしての[Cr(CN)6]3−が溶液中に含まれている。
そして、作用極3に対して、参照極4(Ag/AgCl電極)に対して、−0.5[V]の第2の電圧を30分印加した。こうして得られた表面層13のSEM写真を図3に示す。
【0022】
図3は実験例1で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
図3において、得られた表面層13の表面は、バッファー層3aと同様な三角形の構造が観測された。したがって、Fe[Cr(CN)6]の錯体の膜がエピタキシャル成長していることが確認された。なお、実験例1で得られた表面層13は、膜厚が1200[nm]であった。
【0023】
図4は実験例1で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
次に、実験例1で得られたバッファー層3aと表面層13との積層膜3a+13の断面をSEMで撮影した写真を図4に示す。図4において、バッファー層3aと表面層13との界面部分にわずかな色の変化が見られる。そして、Fe[Cr(CN)6]錯体は直径数百nmの針状結晶として、ITO電極3に対して、垂直に成長、すなわち、エピタキシャル成長していることが確認された。したがって、ITO電極3に対しては、ほぼ単結晶であることが確認された。
【0024】
図5は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例1−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例1の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例1−2としてのFe[Cr(CN)6]の錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
次に、実験例1で得られた積層膜3a+13について、赤外吸収スペクトルを測定した結果を図5に示す。図5の中段の○(「exp」の波形)に示す実験例1の赤外吸収スペクトルでは、上段のバッファー層3aのみのスペクトル(波数2090[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)と下段の錯体の薄膜のみのスペクトル(波数2160[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)とを適当な整数倍して足した波形(「Fit」で示す波形)でほぼ再現されている。
したがって、バッファー層3aの表面にFe[Cr(CN)6]の錯体の表面層13が成膜できたことが確認された。
【0025】
図6は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例1のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例1−2としてのFe[Cr(CN)6]の錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
次に、実験例1で得られた積層膜3a+13について、X線回折パターンを測定した結果を図6に示す。図6の上段に示す実験例1のX線回折パターンでの反射の強度比は、図6の下段に示すFe[Cr(CN)6]の錯体のみの薄膜のものと著しく異なっており、特に、結晶面(111)の回折の反射強度が増大している。これは、結晶方位<111>に配向しているバッファー層3aの上に表面層13を成膜することで、(111)のエピタキシャル成長が発生したことを示している。
【0026】
(実験例2)
実験例2では、実験例1と同様に、特許文献1記載の技術と同様にして、バッファー層3aを形成した。実験例2では、バッファー層3aの膜厚は1000[nm]とした。
次に、バッファー層3aが形成された電極3を、0.5[mmol/L]のCo(NO3)2と、0.8[mmol/L]のK3[Cr(CN)6]と、5[mol/L]のNaNO3を含む室温の第2の溶液12に入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのNa+、遷移金属イオンとしてのCo2+、シアノ錯体イオンとしての[Cr(CN)6]3−が溶液中に含まれている。
そして、作用極3に対して、参照極4(Ag/AgCl電極)に対して、−0.45[V]の第2の電圧を30分印加した。こうして得られた表面層13のSEM写真を図7に示す。
【0027】
図7は実験例2で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
図7において、実験例2で得られた表面層13の表面は、実験例1の表面層13と同様に、図2に示すバッファー層3aと同様な三角形の構造が観測された。したがって、Na1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の膜がエピタキシャル成長していることが確認された。なお、実験例2で得られた表面層13は、膜厚が1000[nm]であった。
【0028】
図8は実験例2で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
次に、実験例2で得られたバッファー層3aと表面層13との積層膜3a+13の断面をSEMで撮影した写真を図8に示す。図8において、Na0.84Co[Fe(CN)6]0.71・3.8H2Oのバッファー層3aとNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの表面層13との界面部分にわずかな色の変化が見られる。そして、Na1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの膜は直径数百nmの針状結晶として、ITO電極に対して、垂直に成長、すなわち、エピタキシャル成長していることが確認された。
【0029】
図9は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例2−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例2の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例2−2としてのNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
次に、実験例2で得られた積層膜3a+13について、赤外吸収スペクトルを測定した結果を図9に示す。図9の中段に示す実験例2の赤外吸収スペクトルでは、上段のバッファー層3aのみのスペクトル(波数2090[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)と下段の錯体の薄膜のみのスペクトル(波数2090[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)との和で再現されている。
したがって、バッファー層3aの表面にNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの表面層13が成膜できたことが確認された。
【0030】
図10は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例2のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例2−2としてのNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
次に、実験例2で得られた積層膜3a+13について、X線回折パターンを測定した結果を図10に示す。図10の上段に示す実験例2のX線回折パターンでの反射の強度比は、図10の下段に示すNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体のみの薄膜のものと著しく異なっており、特に、結晶面(111)の回折の反射強度が増大している。これは、結晶方位<111>に配向しているバッファー層3aの上に表面層13を成膜することで、(111)のエピタキシャル成長が発生したことを示している。なお、図10の上段のグラフにおいて、(111)と(1−11)とに分裂しているのは、菱面晶ひずみのため(結晶がひずんだため)である。
【0031】
(実験例3)
実験例3では、実験例1と同様に、特許文献1記載の技術と同様にして、バッファー層3aを形成した。なお、実験例3では、バッファー層3aの膜厚は1300[nm]とした。
次に、バッファー層3aが形成された電極3を、1.5[mmol/L]のMnCl2と、1.5[mmol/L]のK3[Cr(CN)6]と、1[mol/L]のNaClを含む室温の第2の溶液12に入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのNa+、遷移金属イオンとしてのMn2+、シアノ錯体イオンとしての[Cr(CN)6]3−が溶液中に含まれている。
そして、作用極3に対して、参照極4(Ag/AgCl電極)に対して、−0.5[V]の第2の電圧を30分印加した。こうして得られた表面層13のSEM写真を図11に示す。
【0032】
図11は実験例3で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
図11において、実験例3で得られた表面層13の表面は、実験例1の表面層13と同様に、図2に示すバッファー層3aと同様な三角形の構造が観測された。したがって、Mn[Fe(CN)6]錯体の膜がエピタキシャル成長していることが確認された。なお、実験例3で得られた表面層13は、膜厚が1500[nm]であった。
【0033】
図12は実験例3で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
次に、実験例3で得られたバッファー層3aと表面層13との積層膜3a+13の断面をSEMで撮影した写真を図12に示す。図12において、バッファー層3aとMn[Fe(CN)6]錯体の表面層13との界面部分にわずかな色の変化が見られる。そして、Mn[Fe(CN)6]錯体の膜は直径数百nmの針状結晶として、ITO電極に対して、垂直に成長、すなわち、エピタキシャル成長していることが確認された。
【0034】
図13は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例3−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例3の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例3−2としてのMn[Fe(CN)6]錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
次に、実験例3で得られた積層膜3a+13について、赤外吸収スペクトルを測定した結果を図13に示す。図13の中段に示す実験例3の赤外吸収スペクトルでは、上段のバッファー層3aのみのスペクトル(波数2090[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)と下段の錯体の薄膜のみのスペクトル(波数2070[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)との和で再現されている。
したがって、バッファー層3aの表面にMn[Fe(CN)6]錯体の表面層13が成膜できたことが確認された。
【0035】
図14は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例3のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例3−2としてのMn[Fe(CN)6]錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
次に、実験例3で得られた積層膜3a+13について、X線回折パターンを測定した結果を図14に示す。図14の上段に示す実験例3のX線回折パターンでの反射の強度比は、図14の下段に示すMn[Fe(CN)6]錯体のみの薄膜のものと著しく異なっており、特に、結晶面(111)の回折の反射強度が増大している。これは、結晶方位<111>に配向しているバッファー層3aの上に表面層13を成膜することで、(111)のエピタキシャル成長が発生したことを示している。
【0036】
したがって、前記実験例1〜3により、配向性の高いバッファー層3aの表面に、異なる組成のシアノ架橋金属錯体のエピタキシャル成長させることができることが確認された。すなわち、2つの異なる錯体による超構造(超格子構造)を作成できることが確認された。特に、プルシャンブルー型のシアノ架橋金属錯体の格子定数は、遷移金属の種類によらず10[Å]程度であり、格子のミスマッチが小さい。なお、一般的に錯体を成膜する場合には、表面層13の表面は微粒子から構成され、図6、図10、図14に示すように、配向はつかず、無配向になるが、実施例1のように、配向性の高いバッファー層の表面に成膜した場合に表面層13の表面も配向性が高くすることができる。
したがって、バッファー層3aの表面に、配向性の高く且つ界面が原子レベルで連続的に積層され、バッファー層3aとは異なる錯体により構成された表面層13が形成できる。すなわち、表面層13の材料を選択する(溶液の組成や印加電圧を変える)ことで、従来は配向性の高い膜を作成できなかった錯体についても、結晶性や配向性の高い薄膜が形成できると共に、原子レベルで平坦、連続的な界面の構築が可能になる。
【0037】
よって、無配向の場合や、界面が原子レベルで連続的でない場合に比べて、性能が向上、最大化可能なシアノ架橋金属錯体を作製でき、エレクトロクロミック素子の高速色変化や磁性のスイッチの機能を向上させることができる。
また、実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1では、電圧の印加時間を制御することで、膜厚を容易に制御することができる。したがって、作成したい配向膜に応じた溶液を用意しておくことで、成膜作業を容易に自動化することも可能である。
さらに、従来、エピタキシャル成長をさせる方法(人工的な超構造を造る方法)として、真空蒸着法の1つである分子線エピタキシー法:MBE(Molecular Beam Epitaxy)や、溶媒に対する溶質の溶解度の温度依存性を利用する液相エピタキシー法等が知られているが、実施例1では、電界析出という電気化学的な方法で、シアノ架橋金属錯体のエピタキシャル成長を実現できる。したがって、超高真空状態にする真空ポンプ等が必要となって費用が高く量産化に不向きなMBEや、溶媒が高温になって基板等が変質したり反応しやすい液相エピタキシー法等に比べて、比較的低コストで基板等の変質といった問題も発生しにくくなっている。
【実施例2】
【0038】
図15は実施例2の積層膜の説明図であり、図15Aは第2の配向膜の表面に多数の配向膜が積層された状態の説明図、図15Bは図15Aにおいて電極のサイズを小さくした構成の説明図である。
この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
図15において、実施例2では、実施例1と同様にして電極3の表面にバッファー層3aおよび第2の配向層13を成膜した後に、第2の配向層13と異なるシアノ架橋金属錯体について同様の作業を繰り返して、第3の配向膜14〜第11の配向膜22を積層している。したがって、各配向膜13〜22の材料を選択することで、任意の錯体による超格子を作成することができる。
図15Bにおいて、図15Aのバッファー層3aを作成する前に、フォトリソエッチング等の従来の加工方法で100nm程度の大きさまで作用極3を小さくしておき、作用極3にバッファー層3aおよび配向膜13〜22を形成することで、任意の形状のエレクトロクロミック素子を作成することも可能である。特に、作用極3の大きさを、SEM写真における三角錐1つ分に対応する大きさに加工した場合、単一ドメイン(結晶1つ分)でエピタキシャル成長をさせることができ、ナノ超構造を作成することができる。
【0039】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H09)を下記に例示する。
(H01)前記実験例において例示した媒質や溶媒については、例示したものに限定されず、電気分解によりシアノ架橋金属錯体を析出可能な任意の溶媒、溶質を使用可能である。一例を挙げると、CoCl2に替えて、Co(NO3)2を使用したり等、適宜変更可能である。
(H02)前記実施例において、ITO電極にシアノ架橋金属錯体の膜を製膜する場合について説明したが、これに限定されず、白金、金、アルミニウム等の導電体表面に製膜することが可能である。さらに、ITO電極のパターンニングは、図15Bに示すような形態に限定されず、任意の形状、パターンとすることが可能であり、そのパターンどおりの製膜が可能であり、デバイス化にとって有利である。また、薄膜状に形成する場合に限定されず、層状、板状のように、ある程度の厚みを有するように形成することも当然可能である。
【0040】
(H03)前記実施例において、シアノ架橋金属錯体は、実験例で例示した構成に限定されず、製法や用途等に応じて、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、zを0より大きく14以下の数とした場合に、化学式AxM[L(CN)6]y・nH2Oで表されるシアノ架橋金属錯体を使用可能である。なお、前記Aのアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、前記Mの遷移金属としては、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、V、Cu、Znが挙げられる。また、Lの遷移金属としては、Fe、Cr、V、Mn、Tiが挙げられる。また、x、y、zは、それぞれ、遷移金属Mの1モルに対するアルカリ金属A、L(CN)6、結晶水H2Oの割合(モル)を示し、シアノ架橋金属錯体では、製法や構造により、xが0〜2、yが0〜1、zが0〜14の値を取りうる。なお、本願明細書および特許請求の範囲において、「異なる組成の錯体」とは、アルカリ金属A、遷移金属M,Lおよび数x、yの少なくとも1つが異なるものを指している。
【0041】
(H04)前記実験例で示した重畳電圧の中心電圧や振幅、掃引速度等の具体的な数値について、設計や装置の仕様等に応じて、適宜変更可能である。
(H05)前記実験例において、ポテンショスタットを使用することが望ましいが、ポテンショスタットを使用せず、例えば、電極が2つの二端子型の装置の電極に重畳電圧を印加して電気分解を行うことも可能である。なお、バッファー層3aを表面層13を作成する際に1つのポテンショスタットを使用して行ったが、これに限定されず、各電解槽2,11毎に電源装置を設けて、電極部分、セルだけを交換して電界析出させる構成とすることも可能である。
(H06)前記実施例において、配向膜13〜22の数や膜厚は、例示した構成に限定されず、任意に変更可能である。また、配向膜13〜22は、錯体Aと錯体Bとを交互に積層する構成としたり、全ての配向膜が異なる錯体で構成する等、各配向膜13〜22を構成する錯体の組み合わせは、任意に変更可能である。
【0042】
(H07)本件出願人が先に出願した特願2009−111178号には、シアノ架橋金属錯体では、K+(カリウムイオン)で錯体の膜の表面を処理すると、カチオンとしてのNa+(ナトリウムイオン)の移動が制限されることが記載されており、錯体間の界面にK+処理を行うことで、電圧非印加時に状態を保持し且つ閾値以上の電圧印加時にのみカチオンが移動する構成を実現できるが、前記実施例において、例えば、第2の配向層の表面にK+を含む結晶性および配向性の高い層を電界析出で成膜すると共に、成膜された層のさらに表面に第3の配向層を積層させることも可能である。なお、このとき、電界析出用の電圧印加時間を制御することで、K+を含む層の厚さを精度良く制御することが可能であり、カチオンが移動する閾値の電圧の制御が可能になることが期待される。
【0043】
(H08)前記実施例において、特許文献1に記載されているように、掃引速度(振動数)の制御により、シアノ架橋金属錯体の表面の形態を制御することも可能である。
(H09)前記実施例において、第1の電解槽2と第2の電解槽11とを別の容器としたが、これに限定されず、バッファー層3aの作成後に、第1の電解槽2を洗浄して第2の溶液12を収容する構成、すなわち、第1の電解槽2と第2の電解槽11とを共通化することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
前述の本発明のシアノ架橋金属錯体の析出による製膜を行うことにより、例えば、膜状のシアノ架橋金属錯体についてエレクトロクロミック応答性を向上させたり、電池の電極材料やガスセンサー、水素吸蔵合金としての性能が向上することが期待される。また、結晶方位が揃った高性能な錯体界面を有するデバイスの作成にも適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1…シアノ架橋金属錯体作成装置、
2,11…電解槽、
3…電極、析出用電極、
3a…第1の配向層、
6…電源装置、
13…第2の配向層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超構造のシアノ架橋金属錯体を作成するシアノ架橋金属錯体超構造作成方法およびシアノ架橋金属錯体超構造作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、シアノ架橋金属錯体は、電池の電極材料や、電圧を印加すると変色するエレクトロクロミック材料、ガスを検出するガスセンサー材料、水素吸蔵材料として、期待されており、精力的な研究が成されている。この研究の結果、シアノ架橋金属錯体の均質な膜が得られている。
このようなシアノ架橋金属錯体の均質な膜の作製方法として、非特許文献1には、室温で、0.5[mmol/L]のK3Fe(CN)6と、0.5[mmol/L]のCo(NO3)2と、1[mol/L]のNaNO3を含む水溶液の入った電解槽内において、ポテンショスタットを使用して、飽和カロメル電極(参照電極)にとの間で、白金(Pt)電極に−0.4[V]を印加することで、Na1.4Co1.3[Fe(CN)6]・5H2Oのシアノ架橋金属錯体の薄膜を白金電極に製膜する技術が記載されている。
【0003】
しかしながら、非特許文献1記載のシアノ架橋金属錯体の薄膜では、結晶方位が無方向(無配向)であり、結晶方位に強く依存する各種物性や機能性(磁化率やエレクトロクロミック応答性等)がそれほど高くない問題がある。また、無配向の場合、平坦な面が得られにくいという問題もある。
この問題に対応するための技術として、特許文献1記載の技術が知られている。
特許文献1としての特開2009−46748号公報には、析出用電極に交番電界を印加することで、電界析出により、所定の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体の膜を作成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−46748号公報(「0013」〜「0016」、図1、図2)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】佐藤治(O.Sato)、他4名,”シアン化コバルト鉄薄膜における室温でのスピン転移を伴う陽イオン制御による電荷移動(Cation-Driven Electron Transfer Involving a Spin Transition at Room Temperature in a Cobalt Iron Cyanide Thin Film)”,物理化学誌(The Journal of Physical Chemistry、J.Phys.Chem.B),米国,米国化学会(American Chemical Society),1997年3月,101,(20),p3903−p3905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
前記シアノ架橋金属錯体の薄膜は、特に、2種類以上の薄膜を接合することにより、電圧の印加により高速色変化や強磁性−常磁性のスイッチを示すデバイスを作成できることについて、本件出願人は、先に、特願2008−284295号や特願2009−202058号として出願している。しかしながら、特許文献1記載の発明により、2種類の薄膜を作成した場合、遷移金属の種類が変わると膜の結晶性・配向性が異なるため、特許文献1記載の発明で作成された2つの薄膜同士を接合させても、接合面(界面)が原子レベルでは平坦な錯体−錯体界面とはならない。したがって、錯体間の界面が原子レベルで、平坦、連続的にならず、微小な隙間が残った状態となり、エレクトロクロミック素子の性能である高速色変化や磁性のスイッチの機能の向上、最大化には限界があった。
【0007】
前述の事情に鑑み、本発明は、原子レベルで連続的な界面を有する錯体を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明のシアノ架橋金属錯体超構造作成方法は、
所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶により構成された層である第1の配向層を、電界析出により析出用電極表面に作成する第1の配向層作成工程と、
前記第1の配向層の表面に、前記第1の配向層を構成するプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶とは異なる組成の錯体の結晶により構成された第2の配向層であって、前記第1の配向層の結晶方位に揃った第2の配向層を、電界析出により作成する第2の配向層作成工程と、
を実行することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシアノ架橋金属錯体超構造作成方法において、
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容された電解槽内に、前記析出用電極を配置し、前記析出用電極に直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加することで、電界析出により、前記析出用電極に、所定の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体を析出させることで、前記第1の配向層を作成する前記第1の配向層作成工程と、
遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液が収容された電解槽内に、前記第1の配向層が作成された前記析出用電極を配置し、前記析出用電極に電界析出用の電圧を印加することで、電界析出により、前記析出用電極の前記第1の配向層の表面に、前記第1の配向層の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体を析出させることで、前記第2の配向層を作成する前記第2の配向層作成工程と、
を実行することを特徴とする。
【0010】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明のシアノ架橋金属錯体超構造作成装置は、
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容された第1の電解槽と、
前記第1の電解槽内に配置された析出用電極に、直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加し、電界析出により前記析出用電極に所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体により構成された第1の配向層を電界析出させる電源装置と、
前記第1の溶液に含まれる遷移金属イオンおよびシアノ錯体イオンの少なくとも一方が異なる遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液が収容された第2の電解槽と、
前記第2の電解槽内に配置された前記第1の配向層が作成された析出用電極に、電界析出用の電圧を印加し、電界析出により、前記析出用電極の前記第1の配向層の表面に前記第1の配向層の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体により構成された第2の配向層を電界析出させる前記電源装置と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1〜3に記載の発明によれば、第1の配向層の表面に錯体の組成が異なる第2の配向層を電界析出で作成することができ、原子レベルで連続的な界面を有する錯体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明の実施例1のシアノ架橋金属錯体作成方法の全体説明図であり、図1Aはシアノ架橋金属錯体作成装置の全体説明図、図1Bは第1の配向膜が作成された状態の説明図、図1Cは第1の配向膜の表面に第2の配向膜が作成された状態の説明図である。
【図2】図2は実験例1で得られたバッファー層の表面のSEM写真である。
【図3】図3は実験例1で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
【図4】図4は実験例1で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
【図5】図5は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例1−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例1の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例1−2としてのFe[Cr(CN)6]の錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
【図6】図6は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例1のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例1−2としてのFe[Cr(CN)6]の錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
【図7】図7は実験例2で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
【図8】図8は実験例2で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
【図9】図9は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例2−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例2の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例2−2としてのNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
【図10】図10は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例2のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例2−2としてのNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
【図11】図11は実験例3で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
【図12】図12は実験例3で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
【図13】図13は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例3−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例3の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例3−2としてのMn[Fe(CN)6]錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
【図14】図14は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例3のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例3−2としてのMn[Fe(CN)6]錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
【図15】図15は実施例2の積層膜の説明図であり、図15Aは第2の配向膜の表面に多数の配向膜が積層された状態の説明図、図15Bは図15Aにおいて電極のサイズを小さくした構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1のシアノ架橋金属錯体作成方法の全体説明図であり、図1Aはシアノ架橋金属錯体作成装置の全体説明図、図1Bは第1の配向膜が作成された状態の説明図、図1Cは第1の配向膜の表面に第2の配向膜が作成された状態の説明図である。
図1において、本発明の実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1は、第1の電解槽2を有する。前記第1の電解槽2には、アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容されている。
前記第1の電解槽2には、複数の電極3、4、5が浸漬されている。実施例1では、前記電極3〜5は、電源装置の一例としてのポテンショスタット6に接続されており、それぞれ、作用極(析出用電極)3、参照極4、対極5として作用する。すなわち、前記ポテンショスタット6により、作用極3と参照極4との間の電圧が、予め設定された第1の電圧となるように、作用極3と対極5との間の電流が制御される。実施例1では、前記作用極3に、直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とが重畳された重畳電圧が第1の電圧として印加されるように、ポテンショスタット6により作用極3と対極5との間に流れる電流が制御される。前記交番電圧は、正弦波状の交流電圧や、矩形波状の交番電圧、ノコギリ波状の交番電圧等、任意の波形の交番電圧とすることが可能である。
【0015】
図1Bにおいて、前記重畳電圧が印加されると、電界析出により、作用極3に所定の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体により構成された第1の配向層の一例としてのバッファー層3aが形成される。
なお、前記バッファー層3aを作成する方法は、前述の特許文献1記載の発明と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0016】
図1において、実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1は、第2の電解槽11を有し、第2の電解槽11には、第1の電解槽2に収容された第1の溶液に含まれる遷移金属イオンおよびシアノ錯体イオンの少なくとも一方が異なる遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液12が収容されている。
そして、第1の電解槽2で析出用電極3にシアノ架橋金属錯体により構成された第1の配向層が析出された後、前記各電極3〜5が、第2の電解槽11に浸漬される。そして、前記ポテンショスタット6により、作用極3と参照極4との間の電圧が、予め設定された電界析出用の第2の電圧となるように、作用極3と対極5との間の電流が制御され、作用極3にシアノ架橋金属錯体の膜が電界析出される。
【0017】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1では、第1の電解槽2に浸漬された作用極3にマイナスの電圧が印加されると、電界析出により、溶液中のアルカリ金属イオン、遷移金属イオン、シアノ錯体イオンが化合したシアノ架橋金属錯体として析出し、バッファー層3aが作成される。実施例1の重畳電圧が印加されて電界析出したシアノ架橋金属錯体は、所定の結晶方位に揃っており、すなわち、配向しており、配向性の高いバッファー層3aが形成される。そして、作用極3にバッファー層3aが形成された状態で、第2の溶液12に浸漬させて電界析出させることで、図1Cに示すように、バッファー層3aの表面に第2のシアノ架橋金属錯体により構成された第2の配向層の一例としての表面層13が析出する。このとき、形成される表面層13は、バッファー層3aと同様の配向性を有しており、いわゆるエピタキシャル成長している。よって、配向性の高いバッファー層3aおよび表面層13が積層された薄膜を作成することができる。
【0018】
(実験例)
次に、実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1で配向性の高いシアノ架橋金属錯体の積層膜を作成する実験を行った。
(実験例1)
実験例1では、まず、特許文献1記載の技術と同様にして、バッファー層3aとして、Co−Fe錯体の薄膜を形成する。すなわち、第1の電解槽2内に、0.5[mmol/L]のK3[Fe(CN)6]と、1.25[mmol/L]のCoCl2と、1[mol/L]のNa(NO3)を含む室温の第1の溶液を入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのNa+、遷移金属イオンとしてのCo2+、シアノ錯体イオンとしての[Fe(CN)6]3−が溶液中に含まれている。
【0019】
また、作用極3として基板表面に支持されたITO(Indium Tin Oxide、インジウム錫酸化物)電極、参照極4として銀塩化銀(Ag/AgCl)電極、対極5として白金(Pt)電極を使用した。さらに、前記作用極3には、中心電圧(直流電圧)−0.5[V]、振幅0.3[V]のノコギリ波状の交番電圧を印加し、ノコギリ波状の電圧の周期を変化させた。したがって、一周期でプラスマイナス0.3[V]変化し、交番電圧のピーク間では0.6[V]変化するため、周期を制御することで、単位時間当りの電圧の変化である掃引速度を制御できる。この方法で、30分程度でバッファー層3aが得られた。
【0020】
図2は実験例1で得られたバッファー層の表面のSEM写真である。
こうして得られたバッファー層3aの表面をSEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)で撮影した写真を図2に示す。図2において、バッファー層3aの表面に観察される三角形(三角錐状)の構造は、立方体結晶の角の部分に対応する。なお、得られたバッファー層3aは、膜厚が1000[nm]のNa0.84Co[Fe(CN)6]0.71-・3.8H2Oのプルシャンブルー型のシアノ架橋金属錯体であった。
【0021】
次に、バッファー層3aが形成された電極3を、7.5[mmol/L]のFeCl3と、5[mmol/L]のK3[Cr(CN)6]と、を含む室温の第2の溶液12に入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのK+、遷移金属イオンとしてのFe3+、シアノ錯体イオンとしての[Cr(CN)6]3−が溶液中に含まれている。
そして、作用極3に対して、参照極4(Ag/AgCl電極)に対して、−0.5[V]の第2の電圧を30分印加した。こうして得られた表面層13のSEM写真を図3に示す。
【0022】
図3は実験例1で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
図3において、得られた表面層13の表面は、バッファー層3aと同様な三角形の構造が観測された。したがって、Fe[Cr(CN)6]の錯体の膜がエピタキシャル成長していることが確認された。なお、実験例1で得られた表面層13は、膜厚が1200[nm]であった。
【0023】
図4は実験例1で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
次に、実験例1で得られたバッファー層3aと表面層13との積層膜3a+13の断面をSEMで撮影した写真を図4に示す。図4において、バッファー層3aと表面層13との界面部分にわずかな色の変化が見られる。そして、Fe[Cr(CN)6]錯体は直径数百nmの針状結晶として、ITO電極3に対して、垂直に成長、すなわち、エピタキシャル成長していることが確認された。したがって、ITO電極3に対しては、ほぼ単結晶であることが確認された。
【0024】
図5は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例1−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例1の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例1−2としてのFe[Cr(CN)6]の錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
次に、実験例1で得られた積層膜3a+13について、赤外吸収スペクトルを測定した結果を図5に示す。図5の中段の○(「exp」の波形)に示す実験例1の赤外吸収スペクトルでは、上段のバッファー層3aのみのスペクトル(波数2090[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)と下段の錯体の薄膜のみのスペクトル(波数2160[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)とを適当な整数倍して足した波形(「Fit」で示す波形)でほぼ再現されている。
したがって、バッファー層3aの表面にFe[Cr(CN)6]の錯体の表面層13が成膜できたことが確認された。
【0025】
図6は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例1のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例1−2としてのFe[Cr(CN)6]の錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
次に、実験例1で得られた積層膜3a+13について、X線回折パターンを測定した結果を図6に示す。図6の上段に示す実験例1のX線回折パターンでの反射の強度比は、図6の下段に示すFe[Cr(CN)6]の錯体のみの薄膜のものと著しく異なっており、特に、結晶面(111)の回折の反射強度が増大している。これは、結晶方位<111>に配向しているバッファー層3aの上に表面層13を成膜することで、(111)のエピタキシャル成長が発生したことを示している。
【0026】
(実験例2)
実験例2では、実験例1と同様に、特許文献1記載の技術と同様にして、バッファー層3aを形成した。実験例2では、バッファー層3aの膜厚は1000[nm]とした。
次に、バッファー層3aが形成された電極3を、0.5[mmol/L]のCo(NO3)2と、0.8[mmol/L]のK3[Cr(CN)6]と、5[mol/L]のNaNO3を含む室温の第2の溶液12に入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのNa+、遷移金属イオンとしてのCo2+、シアノ錯体イオンとしての[Cr(CN)6]3−が溶液中に含まれている。
そして、作用極3に対して、参照極4(Ag/AgCl電極)に対して、−0.45[V]の第2の電圧を30分印加した。こうして得られた表面層13のSEM写真を図7に示す。
【0027】
図7は実験例2で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
図7において、実験例2で得られた表面層13の表面は、実験例1の表面層13と同様に、図2に示すバッファー層3aと同様な三角形の構造が観測された。したがって、Na1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の膜がエピタキシャル成長していることが確認された。なお、実験例2で得られた表面層13は、膜厚が1000[nm]であった。
【0028】
図8は実験例2で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
次に、実験例2で得られたバッファー層3aと表面層13との積層膜3a+13の断面をSEMで撮影した写真を図8に示す。図8において、Na0.84Co[Fe(CN)6]0.71・3.8H2Oのバッファー層3aとNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの表面層13との界面部分にわずかな色の変化が見られる。そして、Na1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの膜は直径数百nmの針状結晶として、ITO電極に対して、垂直に成長、すなわち、エピタキシャル成長していることが確認された。
【0029】
図9は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例2−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例2の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例2−2としてのNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
次に、実験例2で得られた積層膜3a+13について、赤外吸収スペクトルを測定した結果を図9に示す。図9の中段に示す実験例2の赤外吸収スペクトルでは、上段のバッファー層3aのみのスペクトル(波数2090[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)と下段の錯体の薄膜のみのスペクトル(波数2090[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)との和で再現されている。
したがって、バッファー層3aの表面にNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの表面層13が成膜できたことが確認された。
【0030】
図10は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例2のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例2−2としてのNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
次に、実験例2で得られた積層膜3a+13について、X線回折パターンを測定した結果を図10に示す。図10の上段に示す実験例2のX線回折パターンでの反射の強度比は、図10の下段に示すNa1.60Co[Fe(CN)6]0.9・2.9H2Oの錯体のみの薄膜のものと著しく異なっており、特に、結晶面(111)の回折の反射強度が増大している。これは、結晶方位<111>に配向しているバッファー層3aの上に表面層13を成膜することで、(111)のエピタキシャル成長が発生したことを示している。なお、図10の上段のグラフにおいて、(111)と(1−11)とに分裂しているのは、菱面晶ひずみのため(結晶がひずんだため)である。
【0031】
(実験例3)
実験例3では、実験例1と同様に、特許文献1記載の技術と同様にして、バッファー層3aを形成した。なお、実験例3では、バッファー層3aの膜厚は1300[nm]とした。
次に、バッファー層3aが形成された電極3を、1.5[mmol/L]のMnCl2と、1.5[mmol/L]のK3[Cr(CN)6]と、1[mol/L]のNaClを含む室温の第2の溶液12に入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのNa+、遷移金属イオンとしてのMn2+、シアノ錯体イオンとしての[Cr(CN)6]3−が溶液中に含まれている。
そして、作用極3に対して、参照極4(Ag/AgCl電極)に対して、−0.5[V]の第2の電圧を30分印加した。こうして得られた表面層13のSEM写真を図11に示す。
【0032】
図11は実験例3で得られた第2の配向層の表面のSEM写真である。
図11において、実験例3で得られた表面層13の表面は、実験例1の表面層13と同様に、図2に示すバッファー層3aと同様な三角形の構造が観測された。したがって、Mn[Fe(CN)6]錯体の膜がエピタキシャル成長していることが確認された。なお、実験例3で得られた表面層13は、膜厚が1500[nm]であった。
【0033】
図12は実験例3で得られた積層膜の断面のSEM写真である。
次に、実験例3で得られたバッファー層3aと表面層13との積層膜3a+13の断面をSEMで撮影した写真を図12に示す。図12において、バッファー層3aとMn[Fe(CN)6]錯体の表面層13との界面部分にわずかな色の変化が見られる。そして、Mn[Fe(CN)6]錯体の膜は直径数百nmの針状結晶として、ITO電極に対して、垂直に成長、すなわち、エピタキシャル成長していることが確認された。
【0034】
図13は横軸に波数を取り縦軸に吸収係数を取った赤外吸収スペクトルのグラフであり、上段が比較例3−1としてのバッファー層のみの赤外吸収スペクトル、中段が実験例3の積層膜の赤外吸収スペクトル、下段が比較例3−2としてのMn[Fe(CN)6]錯体の薄膜のみの赤外吸収スペクトルである。
次に、実験例3で得られた積層膜3a+13について、赤外吸収スペクトルを測定した結果を図13に示す。図13の中段に示す実験例3の赤外吸収スペクトルでは、上段のバッファー層3aのみのスペクトル(波数2090[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)と下段の錯体の薄膜のみのスペクトル(波数2070[cm−1]近傍のCN伸縮モードによる吸収帯)との和で再現されている。
したがって、バッファー層3aの表面にMn[Fe(CN)6]錯体の表面層13が成膜できたことが確認された。
【0035】
図14は横軸に散乱角を取り縦軸に強度を取ったX線回折パターンのグラフであり、上段が実験例3のX線回折パターンのグラフ、下段が比較例3−2としてのMn[Fe(CN)6]錯体の無配向の薄膜のみのX線回折パターンのグラフである。
次に、実験例3で得られた積層膜3a+13について、X線回折パターンを測定した結果を図14に示す。図14の上段に示す実験例3のX線回折パターンでの反射の強度比は、図14の下段に示すMn[Fe(CN)6]錯体のみの薄膜のものと著しく異なっており、特に、結晶面(111)の回折の反射強度が増大している。これは、結晶方位<111>に配向しているバッファー層3aの上に表面層13を成膜することで、(111)のエピタキシャル成長が発生したことを示している。
【0036】
したがって、前記実験例1〜3により、配向性の高いバッファー層3aの表面に、異なる組成のシアノ架橋金属錯体のエピタキシャル成長させることができることが確認された。すなわち、2つの異なる錯体による超構造(超格子構造)を作成できることが確認された。特に、プルシャンブルー型のシアノ架橋金属錯体の格子定数は、遷移金属の種類によらず10[Å]程度であり、格子のミスマッチが小さい。なお、一般的に錯体を成膜する場合には、表面層13の表面は微粒子から構成され、図6、図10、図14に示すように、配向はつかず、無配向になるが、実施例1のように、配向性の高いバッファー層の表面に成膜した場合に表面層13の表面も配向性が高くすることができる。
したがって、バッファー層3aの表面に、配向性の高く且つ界面が原子レベルで連続的に積層され、バッファー層3aとは異なる錯体により構成された表面層13が形成できる。すなわち、表面層13の材料を選択する(溶液の組成や印加電圧を変える)ことで、従来は配向性の高い膜を作成できなかった錯体についても、結晶性や配向性の高い薄膜が形成できると共に、原子レベルで平坦、連続的な界面の構築が可能になる。
【0037】
よって、無配向の場合や、界面が原子レベルで連続的でない場合に比べて、性能が向上、最大化可能なシアノ架橋金属錯体を作製でき、エレクトロクロミック素子の高速色変化や磁性のスイッチの機能を向上させることができる。
また、実施例1のシアノ架橋金属錯体作成装置1では、電圧の印加時間を制御することで、膜厚を容易に制御することができる。したがって、作成したい配向膜に応じた溶液を用意しておくことで、成膜作業を容易に自動化することも可能である。
さらに、従来、エピタキシャル成長をさせる方法(人工的な超構造を造る方法)として、真空蒸着法の1つである分子線エピタキシー法:MBE(Molecular Beam Epitaxy)や、溶媒に対する溶質の溶解度の温度依存性を利用する液相エピタキシー法等が知られているが、実施例1では、電界析出という電気化学的な方法で、シアノ架橋金属錯体のエピタキシャル成長を実現できる。したがって、超高真空状態にする真空ポンプ等が必要となって費用が高く量産化に不向きなMBEや、溶媒が高温になって基板等が変質したり反応しやすい液相エピタキシー法等に比べて、比較的低コストで基板等の変質といった問題も発生しにくくなっている。
【実施例2】
【0038】
図15は実施例2の積層膜の説明図であり、図15Aは第2の配向膜の表面に多数の配向膜が積層された状態の説明図、図15Bは図15Aにおいて電極のサイズを小さくした構成の説明図である。
この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
図15において、実施例2では、実施例1と同様にして電極3の表面にバッファー層3aおよび第2の配向層13を成膜した後に、第2の配向層13と異なるシアノ架橋金属錯体について同様の作業を繰り返して、第3の配向膜14〜第11の配向膜22を積層している。したがって、各配向膜13〜22の材料を選択することで、任意の錯体による超格子を作成することができる。
図15Bにおいて、図15Aのバッファー層3aを作成する前に、フォトリソエッチング等の従来の加工方法で100nm程度の大きさまで作用極3を小さくしておき、作用極3にバッファー層3aおよび配向膜13〜22を形成することで、任意の形状のエレクトロクロミック素子を作成することも可能である。特に、作用極3の大きさを、SEM写真における三角錐1つ分に対応する大きさに加工した場合、単一ドメイン(結晶1つ分)でエピタキシャル成長をさせることができ、ナノ超構造を作成することができる。
【0039】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H09)を下記に例示する。
(H01)前記実験例において例示した媒質や溶媒については、例示したものに限定されず、電気分解によりシアノ架橋金属錯体を析出可能な任意の溶媒、溶質を使用可能である。一例を挙げると、CoCl2に替えて、Co(NO3)2を使用したり等、適宜変更可能である。
(H02)前記実施例において、ITO電極にシアノ架橋金属錯体の膜を製膜する場合について説明したが、これに限定されず、白金、金、アルミニウム等の導電体表面に製膜することが可能である。さらに、ITO電極のパターンニングは、図15Bに示すような形態に限定されず、任意の形状、パターンとすることが可能であり、そのパターンどおりの製膜が可能であり、デバイス化にとって有利である。また、薄膜状に形成する場合に限定されず、層状、板状のように、ある程度の厚みを有するように形成することも当然可能である。
【0040】
(H03)前記実施例において、シアノ架橋金属錯体は、実験例で例示した構成に限定されず、製法や用途等に応じて、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、zを0より大きく14以下の数とした場合に、化学式AxM[L(CN)6]y・nH2Oで表されるシアノ架橋金属錯体を使用可能である。なお、前記Aのアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、前記Mの遷移金属としては、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、V、Cu、Znが挙げられる。また、Lの遷移金属としては、Fe、Cr、V、Mn、Tiが挙げられる。また、x、y、zは、それぞれ、遷移金属Mの1モルに対するアルカリ金属A、L(CN)6、結晶水H2Oの割合(モル)を示し、シアノ架橋金属錯体では、製法や構造により、xが0〜2、yが0〜1、zが0〜14の値を取りうる。なお、本願明細書および特許請求の範囲において、「異なる組成の錯体」とは、アルカリ金属A、遷移金属M,Lおよび数x、yの少なくとも1つが異なるものを指している。
【0041】
(H04)前記実験例で示した重畳電圧の中心電圧や振幅、掃引速度等の具体的な数値について、設計や装置の仕様等に応じて、適宜変更可能である。
(H05)前記実験例において、ポテンショスタットを使用することが望ましいが、ポテンショスタットを使用せず、例えば、電極が2つの二端子型の装置の電極に重畳電圧を印加して電気分解を行うことも可能である。なお、バッファー層3aを表面層13を作成する際に1つのポテンショスタットを使用して行ったが、これに限定されず、各電解槽2,11毎に電源装置を設けて、電極部分、セルだけを交換して電界析出させる構成とすることも可能である。
(H06)前記実施例において、配向膜13〜22の数や膜厚は、例示した構成に限定されず、任意に変更可能である。また、配向膜13〜22は、錯体Aと錯体Bとを交互に積層する構成としたり、全ての配向膜が異なる錯体で構成する等、各配向膜13〜22を構成する錯体の組み合わせは、任意に変更可能である。
【0042】
(H07)本件出願人が先に出願した特願2009−111178号には、シアノ架橋金属錯体では、K+(カリウムイオン)で錯体の膜の表面を処理すると、カチオンとしてのNa+(ナトリウムイオン)の移動が制限されることが記載されており、錯体間の界面にK+処理を行うことで、電圧非印加時に状態を保持し且つ閾値以上の電圧印加時にのみカチオンが移動する構成を実現できるが、前記実施例において、例えば、第2の配向層の表面にK+を含む結晶性および配向性の高い層を電界析出で成膜すると共に、成膜された層のさらに表面に第3の配向層を積層させることも可能である。なお、このとき、電界析出用の電圧印加時間を制御することで、K+を含む層の厚さを精度良く制御することが可能であり、カチオンが移動する閾値の電圧の制御が可能になることが期待される。
【0043】
(H08)前記実施例において、特許文献1に記載されているように、掃引速度(振動数)の制御により、シアノ架橋金属錯体の表面の形態を制御することも可能である。
(H09)前記実施例において、第1の電解槽2と第2の電解槽11とを別の容器としたが、これに限定されず、バッファー層3aの作成後に、第1の電解槽2を洗浄して第2の溶液12を収容する構成、すなわち、第1の電解槽2と第2の電解槽11とを共通化することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
前述の本発明のシアノ架橋金属錯体の析出による製膜を行うことにより、例えば、膜状のシアノ架橋金属錯体についてエレクトロクロミック応答性を向上させたり、電池の電極材料やガスセンサー、水素吸蔵合金としての性能が向上することが期待される。また、結晶方位が揃った高性能な錯体界面を有するデバイスの作成にも適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1…シアノ架橋金属錯体作成装置、
2,11…電解槽、
3…電極、析出用電極、
3a…第1の配向層、
6…電源装置、
13…第2の配向層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶により構成された層である第1の配向層を、電界析出により析出用電極表面に作成する第1の配向層作成工程と、
前記第1の配向層の表面に、前記第1の配向層を構成するプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶とは異なる組成の錯体の結晶により構成された第2の配向層であって、前記第1の配向層の結晶方位に揃った第2の配向層を、電界析出により作成する第2の配向層作成工程と、
を実行することを特徴とするシアノ架橋金属錯体超構造作成方法。
【請求項2】
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容された電解槽内に、前記析出用電極を配置し、前記析出用電極に直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加することで、電界析出により、前記析出用電極に、所定の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体を析出させることで、前記第1の配向層を作成する前記第1の配向層作成工程と、
遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液が収容された電解槽内に、前記第1の配向層が作成された前記析出用電極を配置し、前記析出用電極に電界析出用の電圧を印加することで、電界析出により、前記析出用電極の前記第1の配向層の表面に、前記第1の配向層の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体を析出させることで、前記第2の配向層を作成する前記第2の配向層作成工程と、
を実行することを特徴とする請求項1に記載のシアノ架橋金属錯体超構造作成方法。
【請求項3】
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容された第1の電解槽と、
前記第1の電解槽内に配置された析出用電極に、直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加し、電界析出により前記析出用電極に所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体により構成された第1の配向層を電界析出させる電源装置と、
前記第1の溶液に含まれる遷移金属イオンおよびシアノ錯体イオンの少なくとも一方が異なる遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液が収容された第2の電解槽と、
前記第2の電解槽内に配置された前記第1の配向層が作成された析出用電極に、電界析出用の電圧を印加し、電界析出により、前記析出用電極の前記第1の配向層の表面に前記第1の配向層の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体により構成された第2の配向層を電界析出させる前記電源装置と、
を備えたことを特徴とするシアノ架橋金属錯体超構造作成装置。
【請求項1】
所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶により構成された層である第1の配向層を、電界析出により析出用電極表面に作成する第1の配向層作成工程と、
前記第1の配向層の表面に、前記第1の配向層を構成するプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体の結晶とは異なる組成の錯体の結晶により構成された第2の配向層であって、前記第1の配向層の結晶方位に揃った第2の配向層を、電界析出により作成する第2の配向層作成工程と、
を実行することを特徴とするシアノ架橋金属錯体超構造作成方法。
【請求項2】
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容された電解槽内に、前記析出用電極を配置し、前記析出用電極に直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加することで、電界析出により、前記析出用電極に、所定の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体を析出させることで、前記第1の配向層を作成する前記第1の配向層作成工程と、
遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液が収容された電解槽内に、前記第1の配向層が作成された前記析出用電極を配置し、前記析出用電極に電界析出用の電圧を印加することで、電界析出により、前記析出用電極の前記第1の配向層の表面に、前記第1の配向層の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体を析出させることで、前記第2の配向層を作成する前記第2の配向層作成工程と、
を実行することを特徴とする請求項1に記載のシアノ架橋金属錯体超構造作成方法。
【請求項3】
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む第1の溶液が収容された第1の電解槽と、
前記第1の電解槽内に配置された析出用電極に、直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加し、電界析出により前記析出用電極に所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー型シアノ架橋金属錯体により構成された第1の配向層を電界析出させる電源装置と、
前記第1の溶液に含まれる遷移金属イオンおよびシアノ錯体イオンの少なくとも一方が異なる遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとアルカリ金属イオンとを含む第2の溶液が収容された第2の電解槽と、
前記第2の電解槽内に配置された前記第1の配向層が作成された析出用電極に、電界析出用の電圧を印加し、電界析出により、前記析出用電極の前記第1の配向層の表面に前記第1の配向層の結晶方位に揃ったシアノ架橋金属錯体により構成された第2の配向層を電界析出させる前記電源装置と、
を備えたことを特徴とするシアノ架橋金属錯体超構造作成装置。
【図1】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−208217(P2011−208217A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76810(P2010−76810)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
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