説明

シアル酸を生成する細菌

本発明は、一般に、シアル酸の分野、特にシアル酸補強食料品の分野及びこれらの使用に関する。本発明の一実施形態は、シアル酸を生成する食品用細菌及び/又はシアル酸を含有するその画分で補強した食料品に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、一般に、シアル酸の分野、特にシアル酸補強食料品の分野及びこれらの使用に関する。本発明の一実施形態は、シアル酸を生成する食品用細菌及び/又はその画分で補強した食料品に関する。
【0002】
シアル酸(SiAc)は、ノイラミン酸(NeuAc)から誘導される荷電性の9炭素の単糖のファミリーである。NeuAcは、ヒトにおいて通常形成される唯一のシアル酸である。その他の脊椎動物においては、例えば、N−グリコリルノイラミン酸(NeuGc)も存在する。
【0003】
SiAcは、脊椎動物の主な細胞機能にとって不可欠である。SiAcは、ガングリオシドの機能及び構造成分として、哺乳類におけるすべての組織中で合成される。しかし、アポトーシス率及び再生率が高くなる傾向がある成長の速い細胞及び組織は、例えば食事によってもたらされる追加的なNeuAcを必要とすることがある。
【0004】
したがって、今日では、シアル酸は、特に乳児栄養の分野で頻繁に使用される。例えば、乳児の認知発達にSiAcが関与する可能性は、Wang(Wang,B.及びBrand−Miller,J.(2003)Eur.J.Clin.Nutr.Nov;57(11):1351−69)によってまとめられた。簡潔に述べると、母乳で育てられた乳児と人工栄養で育てられた乳児とを比較する研究によって、通常の調製粉乳より母乳のNeuAc含有量が高いことが、乳児の唾液及び脳のNeuAc含有量の増加に関連していることが実証されている。しかし、ヒトにおけるNeuAc補給の行動的な効果は得られていない。にもかかわらず、NeuAcを牛乳に補給すると、子供の脳発達に影響を与え得る人乳の特質が牛乳に付与されることが推測される。
【0005】
SiAc、例えばNeuAcを豊富に含む天然源は、例えば人乳、象乳、インド水牛の乳、食肉、卵及び魚である。しかし、これらの供給源は、例えば、今日の食品工業においてSiAcを乳製品に補給するためには十分でも適切でもなく、及び/又は高価すぎる。
【0006】
そのため、代替のSiAcの供給源に対する高い必要性がある。本発明者らは、この必要性に対処してきた。
【0007】
したがって、本発明の目的は、産業環境での使用が容易で、比較的安価であり、食料品に使用できる純粋な形態で又は画分としてSiAcを単離することができるSiAcの供給源を、当技術分野に提供することであった。
【0008】
本発明者らは、請求項1及び10に記載の使用、並びに請求項9に記載のシアル酸強化食品によって、この目的を達成できることに驚いた。
【0009】
本発明者らは、SiAcを、食料品に適した形態で細菌源から容易に提供できることを発見した。
【0010】
SiAcは、毒性因子として作用する、ある種の病原菌の表面成分である。SiAcは、シアリル化した微生物が擬態することを可能にし、それによって宿主免疫機構を逃れることによって、反認識分子として機能すると考えられる。しかし、病原生物から得られるシアル酸は、食料品、特に乳児栄養のための食料品にとって適切ではないことが明らかである。
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、特に標準培地で成長した場合に、SiAc、例えばNeuAcを合成する食品用微生物を、今や同定した。
【0012】
そのため、本発明は、食品用細菌から得られるシアル酸に関する。
【0013】
したがって、本発明の一実施形態は、シアル酸で食品を強化するための、天然のシアル酸を生成する食品用細菌又は少なくとも1つのその画分の使用である。
【0014】
本発明は、シアル酸で食品を強化するための、食品用細菌から得られるシアル酸及び/又はシアル酸を含有する食品用細菌の細菌画分の使用にも関する。
【0015】
食品は、不活性化した若しくは生きた、シアル酸を生成する食品用細菌、並びに/又は細菌の画分、及び/若しくはこれらの成長培養物で補強することができる。
【0016】
「食品用」細菌は、ヒト又は動物による摂取が認められている細菌である。
【0017】
シアル酸を生成する食品用細菌の「画分」は、シアル酸を含む細菌及び/又は細菌培養物のいずれかの部分を含む。シアル酸を生成する食品用細菌の「画分」という用語はまた、食品用細菌が成長した培地、又はその一部を含むので、この培地は、自動的に細菌SiAcを含有することになる。さらに、シアル酸を生成する食品用細菌の「画分」という用語は、この細菌培養物からSiAcを精製したときに得られるいずれかのSiAc含有画分も含む。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、天然のシアル酸を生成する食品用細菌は、食品中で生存可能である。このことには、この細菌が、食品の摂取後でさえ、体内でシアル酸を生成し続けることができるという利点がある。さらに、細菌が体内で生存可能なままである場合、細菌が増殖し、その結果、細菌によって体にもたらされるシアル酸の量が著しく増加することになる。
【0019】
無菌製品に関しては、細菌が不活性な形態で存在する場合、又は生きた細菌を全く含有しない製品が、純粋な細菌SiAc又はSiAcを生成する細菌の培養物の画分で補強されている場合に好ましい場合もある。
【0020】
特に、食品用細菌が製品中で生存可能である場合、細菌又は少なくとも1つのその画分は、任意の量で有効となるであろう。細菌が生きて腸に届いた場合、コロニー形成及び増殖による強力な効果を達成するのには、単一の細菌で十分であり得る。
【0021】
しかし、本発明の食品に関しては、細菌又は少なくとも1つのその画分は、0.05〜2乾燥重量%、好ましくは0.4〜1.5乾燥重量%、より好ましくは0.6〜1乾燥重量%のシアル酸含有量の増加を食料品中で得るのに十分な量で使用されることが、一般には好ましい。
【0022】
本発明の食品は、栄養組成物、栄養補助食品、飲料、食品添加物又は薬剤とすることができる。食品添加物又は薬剤は、例えば錠剤、カプセル剤、トローチ剤又は液剤の形態とすることができる。
【0023】
食品は、乳汁ベースの食品、特に乳汁、乳清、ヨーグルト、チーズ、発酵製品;調製粉乳;固形離乳食;フォローオン調製乳(follow−on formula);幼児用の飲物;果汁;麦芽飲料、チョコレート飲料、カプチーノ、コーヒー飲料などの粉末形態の少なくとも部分的に可溶性の飲料ミックス;チョコレート;シリアル製品;菓子;クッキー;ゼラチンからなる群から選択されることが好ましい。
【0024】
乳汁は、動物又は植物源から得ることができる任意の乳汁であってよく、好ましくは牛乳、人乳、羊乳、山羊乳、馬乳、ラクダ乳又は豆乳である。
【0025】
乳汁の代わりに、乳汁由来のタンパク質画分又は初乳も使用することができる。
【0026】
食品は、親水性保護コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、膜形成剤、カプセル化剤/材料、壁/外殻材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、共用化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶剤)、流動剤、矯味剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、酸化防止剤及び抗菌剤を、さらに含有することができる。この食品は、これらだけには限らないが、水、任意の起源のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物油、ポリアルキレングリコール、香味剤、保存剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、滑沢剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などを含めた、従来の医薬品添加物並びに補助剤、賦形剤及び希釈剤も含有することができる。さらに、この食品は、USRDAなどの公共機関の推奨に従って、経口又は経腸投与に適した有機又は無機担体材料、並びにビタミン、ミネラル、微量元素及びその他の微量栄養素を含有することができる。
【0027】
本発明の食品は、タンパク質源、炭水化物源及び/又は脂質源を含有することができる。
【0028】
任意の適した食物タンパク質、例えば動物タンパク質(乳タンパク質、食肉タンパク質及び卵タンパク質など);植物タンパク質(大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質及び豆タンパク質など);遊離アミノ酸の混合物;又はこれらの組合せが使用され得る。カゼイン及び乳清などの乳タンパク質、並びに大豆タンパク質が、特に好ましい。
【0029】
食品が脂肪源を含有する場合、この脂肪源は、より好ましくは調製物のエネルギーの5%〜40%、例えばエネルギーの20%〜30%をもたらす。DHAを添加してもよい。適した脂肪プロファイルは、キャノーラ油、トウモロコシ油及び高オレイン酸ヒマワリ油のブレンドを使用して得ることができる。
【0030】
より好ましくは、炭水化物の供給源は、組成物のエネルギーの40%〜80%をもたらすことができる。任意の適した炭水化物、例えばスクロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、コーンシロップ固体、マルトデキストリン及びこれらの混合物が使用され得る。
【0031】
食品用細菌は、乳酸桿菌からなる群から選択されることが好ましい。
【0032】
本発明者らは、乳酸桿菌がN−アセチルノイラミン酸リアーゼ及び/又はN−アセチルノイラミン酸アルドラーゼを生成している場合、乳酸桿菌が特に大量のSiAcを生成することを発見した。
【0033】
本発明の目的のために使用することができる特に好ましい乳酸桿菌種は、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)及び/又はラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)である。ラクトバチルス・サケイNCC121、ラクトバチルス・サケイNCC2935、ラクトバチルス・サケイNCC2934、ラクトバチルス・サケイNCC166、ラクトバチルス・サケイNCC170、ラクトバチルス・サケイNCC1393、ラクトバチルス・サケイNCC1428、ラクトバチルス・サケイNCC1511、ラクトバチルス・サケイNCC2937、ラクトバチルス・プランタルムNCC2936、ラクトバチルス・プランタルムNCC252又はこれらの混合物からなる群から選択される細菌を用いて、特に良好な結果を得ることができた。
【0034】
任意の細菌画分を、本発明の目的のために使用することができる。特に好ましい画分は、成長培地で細胞を成長させるステップ、細胞を回収するステップ、酸性条件下で細胞を加水分解するステップ及びシアル酸を含有する上清を収集するステップによって得られる画分である。
【0035】
例えば、以下の方法の1つを使用することができる:
【0036】
方法1:API培地(ペプトン1%、酵母抽出物0.5%、ポリソルベート80 0.1%、クエン酸アンモニウム0.2%、酢酸ナトリウム0.5%、硫酸マグネシウム0.01%、硫酸マンガン0.005%及びリン酸二カリウム0.2%、グルコース1%)中、37℃で16時間の成長後、細胞を回収し、水で1回洗浄した。80℃で3時間、2M酢酸中での加水分解によって、細胞からシアル酸を遊離させた。遠心分離後に得られた上清を凍結乾燥した。
【0037】
方法2:細胞を、37℃で16時間、API培地(上を参照)中で成長させた。1lの発酵培地中で、トリクロロ酸250gを添加し、室温で1時間撹拌した。細胞の遠心分離後、アセトン1lを上清に添加し、4℃で終夜インキュベートして、再度遠心分離した。沈殿を50%のアセトンで洗浄し、水に再懸濁した。pHを7に調整し、再度遠心分離した。抽出物を水に対して透析し、凍結乾燥した。
【0038】
方法3:API培地(上を参照)中37℃で16時間の成長後、細菌細胞を、冷たいリン酸緩衝食塩水(137mM NaCl、2.7mM KCl、8.1mM NaHPO4、1.5mM KHPO、pH7.4)で2回、0.1M酢酸ピリジン(pH5)で1回洗浄した。予熱した酢酸ピリミジン0.1V(0.1M、pH5)に細菌を再懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。遠心分離後に得られた上清を凍結乾燥した。
【0039】
本発明の目的のために、任意のシアル酸を使用することができる。しかし、このシアル酸が以下の式を有する場合に好ましい。
【0040】
【化1】

【0041】
R1は、H、アセチル、ラクチル、メチル、スルフェート、ホスフェート、アンヒドロシアル酸、フコース、グルコース及び/又はガラクトースからなる群から選択することができる。
【0042】
R2は、N−アセチル、N−グリコリル、アミノ、ヒドロキシル、N−グリコリル−O−アセチル及び/又はN−グリコリル−O−メチルからなる群から選択することができる。
【0043】
R3は、H、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸及び/又はN−グリコリルノイラミン酸からなる群から選択することができる。
【0044】
R1位の基は、互いに同じ又は異なっていてもよい。同様に、R2位の基は、互いに同じ又は異なっていてもよく、R3位の基も同様であってよい。
【0045】
本発明の特に好ましい実施形態では、シアル酸は、R1=H、R2=N−アセチル及びR3=Hを有するN−アセチルノイラミン酸である。
【0046】
本発明はまた、天然のシアル酸を生成する食品用細菌又はその画分を含むシアル酸強化食品に関する。シアル酸強化食品は、本発明の使用のために上述したのと同様の特徴を有し得る。
【0047】
シアル酸又はシアル酸を生成する細菌が食品に添加される場合、食品は、シアル酸で強化される。例えば、強化によって、食品中に自然に存在し得るシアル酸の量は、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも50重量%、さらにより好ましくは少なくとも100重量%増加する。
【0048】
本発明の食品は、対象に栄養を提供するため、例えば、内在性のシアル酸の生成の不足を埋め合わせるために使用することができる。特に、成長している生物において、シアル酸の必要性がその体自体の内在性のシアル酸の生成を上回ることが多い。したがって、シアル酸を補給した食料品は、対象の発達を支援するのを助けることになる。しかし、内在性のシアル酸の生成の不足は、これ以上成長しない対象においても起こることがある。
【0049】
したがって、本発明は、対象に栄養を提供することに使用するための本発明の食品にも関する。食品は、内在性のシアル酸の生成の不足を埋め合わせることに使用することができる。
【0050】
したがって、本発明の主題は、ヒト又は動物、特にコンパニオンアニマル、ペット及び/又は家畜を対象とする。本発明の主題は、一般に、どの特定の年齢群にも限定されない。食品は、妊娠中及び授乳中の母親に投与して、乳児に与えることができる。この食品は、乳児、子供、十代の若者、成人又は高齢の対象に投与することもできる。しかし、この食品は、乳児に提供することが好ましい。
【0051】
ヒトの栄養におけるシアル酸の役割及び可能性は、Wang,B.及びBrand−Miller,J.(2003)Eur.J.Clin.Nutr.Nov;57(11):1351−69によってまとめられた。
【0052】
本発明者らは、本発明の食品を対象に投与することにより、脳における、特に老齢の対象においてシアリル化が高まることを、近年発見した。このことは、例えば、ガングリオシドのシアリル化(シアリル−ラクトシルセラミド)を増加させて補強した脳標本によって見られる。シアリル化及びとりわけガングリオシドは、神経統合性を安定化させるとき、並びに中枢及び末梢神経系の神経可塑性を可能にするときに重要な要素である。
【0053】
また、本発明の食品を、好ましくは高齢者に投与することにより、胃腸管(GIT)、特に近位及び遠位結腸粘膜においてシアリル化が高まることが分かった。ここで、ムチンのシアリル化の改質は、粘膜バリアの物理化学的性質に影響を及ぼす。加えて、糖脂質結合型のシアリル化は、結腸中のガングリオシドのレベルの増加によって見られるように、増大することが分かった。
【0054】
本発明の食品を対象に投与すると、細胞媒介性免疫応答の向上をもたらすことが、さらに認められた。同時に、レクチンConAによる脾臓細胞のインビトロ刺激に対するIl−2レベルが、対照の対象と比較して、本発明の食品を摂取した対象において増大した。この効果は、高齢者よりも乳児及び子供において、より顕著であった。
【0055】
したがって、本発明の食品及び/又は食品用細菌から得られるシアル酸は、特に成人において神経変性を治療又は予防することに使用することができる。また、本発明の食品及び/又は食品用細菌から得られるシアル酸は、特に子供において認識能力を向上させること、及び/又は脳発達を支援することに使用することができる。
【0056】
本発明の食品及び/又は食品用細菌から得られるシアル酸のさらなる応用は、免疫系を支援すること、特に免疫性を高めること、及び/又は腸機能を向上させることである。
【0057】
本発明の食品及び/又は食品用細菌から得られるシアル酸で治療又は予防することができる特定の臨床的病状としては、例えば、炎症性腸疾患、腸症候群、認知症又はアルツハイマー病などの神経系の変性病理、感染後自己破壊免疫疾患及び/又はGIT神経退化が挙げられる。
【0058】
したがって、本発明の食品及び/又は食品用細菌から得られるシアル酸は、例えば、健全な成長及び健全な加齢を促進すること;乳児及び子供における脳発達を支援すること;認知機能を向上させること;例えば加齢、疾病若しくはストレスによる認知機能低下及び/又は神経変性を予防する若しくは抑えること;免疫成熟及び恒常性を支援すること;例えば免疫防御、低度の炎症の減少、腸バリアの向上、及び/又は全身性炎症の抑制のための食事性NeuAcを提供することによって、例えば老齢の人々におけるシアリル化を増加させることができる。
【0059】
本発明のシアル酸補給食品は、例えば、母乳(maternal milk)又は調製粉乳における、新生児に対するSiAcの最適な供給;及び最適なCNS発達に寄与し、例えば、妊娠中、授乳中及び/又は栄養不良の場合に、環境性のSiAc欠乏を回復させることができる。
【0060】
当業者らは、開示した本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載した本発明のすべての特徴を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明の使用のために記載した特徴は、本発明の食品に適用することができ、その逆も同様である。
【0061】
本発明のさらなる利点及び特徴は、以下の実施例及び図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】1,2−ジアミノ−4,5−メチレンジオキシベンゼンジヒドロクロリド(DMB)クロマトグラムを示す図である:L.プランタルムNCC2936(A);NeuAC及びNeuGc標準物質で刺激したNCC2936(B);並びにNeuAC及びNeuGc標準物質(C)。
【実施例】
【0063】
方法
細菌株及びこれらの生成
Nestle Culture Collection(NCC)から細菌株を入手し、API培地(ペプトン1%、酵母抽出物0.5%、ポリソルベート80 0.1%、クエン酸アンモニウム0.2%、酢酸ナトリウム0.5%、硫酸マグネシウム0.01%、硫酸マンガン0.005%及びリン酸二カリウム0.2%、グルコース1%)上で成長させた。30℃で16時間成長させた後、細菌を回収し、フリーズドライした。
【0064】
SiAcの検出
Jourdianら.(1971)J Biol Chem 246:430−435の方法を変更して使用して、SiAcを検出した。簡潔に述べると、0.04M過ヨウ素酸10μlを、試料50μl又はNeuAc標準物質50μl(0、20、40、60及び100μg/ml)と混合し、氷浴で35分間インキュベートした。28%のHCl6ml中のCuSO 0.04mg+6%のレゾルシノール1ml+HO 3mlからなる新鮮なミックス125μlを添加して、4℃で5分間インキュベートした。試料を15分間沸騰させ、冷却した。95%のtert−ブタノール125μlを添加し、37℃で3分間インキュベートして、色を安定化させた。試料の青色の強度と、異なる濃度の標準物質とを比較することによって、視覚的に採点を行った。
【0065】
SiAcの定量
1,2−ジアミノ−4,5−メチレンジオキシベンゼンジヒドロクロリド(DMB)法:細菌試料を水に溶解し、約2μg/mLの予測された総シアル酸濃度を得た。この溶液の一定分量200μLを、ギ酸(1.0M)200μLを添加して、80℃で2時間加熱することによって加水分解し、すべての結合シアル酸を遊離させた。次いで、α−ケト酸に特異的な蛍光ラベルである1,2−ジアミノ−4,5−メチレンジオキシベンゼンジヒドロクロリド(DMB)でシアル酸を誘導体化した。誘導体化を、DMB(0.75M 2−メルカプトエタノール及び18mMハイドロサルファイトナトリウムを含有する1.4M酢酸中7.0mM)の溶液200μLを、加水分解した試料の一定分量200μLに添加することによって実行し、次いで、混合物を80℃で50分間加熱した。誘導体化した試料(5μL)を逆相HPLCカラム(Zorbax SB−Aq、3.5μm、4.6×50mm)に注入し、2.0mL/分で流れる水/メタノール/酢酸(75/25/0.05(v/v/v))の移動相を用いて溶出した。蛍光検出(λex=373nm、λem=448nm)を用いて、カラム溶離液をモニターした。既知の濃度のシアル酸から検量曲線を作成し、試料からのピーク領域を標準物質のピーク領域と比較することによって、定量を実施した。
【0066】
NeuAcの同定(GC−MS分析)
メタノール(25滴)中の1M HClで、80℃で15時間処理し、続いて、メタノール(20滴)中のピリジン(5滴)及び無水酢酸(5滴)で、室温で1時間再N−アセチル化することによって、計量した量の試料からメチルグリコシドを調製した。次いで、80℃で(15分)Tri−Sil(10滴、Pierce)での処理によって、試料をペル−O−トリメチルシリル化した。これらの手順を、既に記載されている通りに実行した(Merkle,R.K.及びI.Poppe(1994)Methods Enzymol.230:1−15;York,W.A.at al(1986)Methods Enzymol 118:3−40)。TMSメチルグリコシドのGC/MS分析を、DB−1カラム(30m×0.25mm ID)を用いて、5970MSDに接続したHP5890GC上で実施した。
【0067】
結果
SiAcを生成する細菌の検出
周期法を用いて、Nestle Culture Collectionからの細菌を、SiAc生成のためにスクリーニングした。以下の株は、SiAc生成において特に有効であると同定され、ブダペスト条約の下で寄託された。
【0068】
ラクトバチルス・サケイNCC121 (寄託番号CNCM I−4020)
ラクトバチルス・サケイNCC2935 (寄託番号CNCM I−4064)
ラクトバチルス・サケイNCC2934 (寄託番号CNCM I−4025)
ラクトバチルス・サケイNCC166 (寄託番号CNCM I−4066)
ラクトバチルス・サケイNCC170 (寄託番号CNCM I−4067)
ラクトバチルス・サケイNCC1393 (寄託番号CNCM I−4022)
ラクトバチルス・サケイNCC1428 (寄託番号CNCM I−4023)
ラクトバチルス・サケイNCC1511 (寄託番号CNCM I−4024)
ラクトバチルス・サケイNCC2937 (寄託番号CNCM I−4065)
ラクトバチルス・プランタルムNCC2936 (寄託番号CNCM I−4026)
ラクトバチルス・プランタルムNCC252 (寄託番号CNCM I−4021)
【0069】
SiAcタイプの同定
材料及び方法において記載した通り、SiAcを生成する株の乾燥粉末を調製した。同様の粉末を、2つの異なる方法:DMB及びGC−MSを用いて分析した。
【0070】
a)図1は、DMB法を用いて生成した分析株(NCC2936)の典型的なクロマトグラムを表している。この方法を用いて、本発明者らは、N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)とほぼ同様の保持時間で現れるが、保持時間のわずかな変動を示すピークを確認した。N−グリコリルノイラミン酸(NeuGc)に近い明確なピークは検出されなかった。試料がカラムの固定相に結合する何かを含有する場合に、このような変動が起きることがある。このような結合は、固定相を有する分析物の相互作用を減少させ、したがって、保持時間は変動する。あるいは、SiAcは、追加の化学基によって修飾されることがあり、したがって、変化した保持時間を示す。
【0071】
試料中の妨害化合物によってピークが変動した場合の試験を行うために、本発明者らは、「刺激」実験を実施した。NeuAc標準物質の規定量を1つの試料調製物に添加して、試料を再度HPLCにかけた。刺激した試料中で観察されたピークの保持時間は、おそらくは希釈効果による標準物質のNeuAcピークの保持時間により近かった。試料に添加した標準物質が、元の試料ピークと同じ位置で現れることを示す唯一のピークが、NeuAc刺激試料中で検出された。したがって、本発明者らは、このピークがNeuAcを表していることがほぼ確実であり、最初に観察された保持時間の変動は、試料中の妨害化合物による可能性があり、NeuAcの改質によるものではなかったと結論付ける。
【0072】
b)細菌がNeuAcを生成するというさらなる証拠が、GC−MS分析において得られた。この方法を用いて、細菌試料のグリコシル組成物を分析した(表1)。その結果、細菌試料中に存在するSiAcはNeuAcであることが確認された。
【0073】
【表1】

【0074】
SiAcの定量化
DMB法及び周期アッセイ法を用いて、細菌試料中のSiAcの定量化を行った。DMBは定量的方法であるが、試料の半定量的分析には、周期アッセイを使用した。背景色が強く、結果の分光学的な読取りを妨げるので、周期アッセイを用いる正確な定量化は不可能であった。細菌の同様のバッチ上で実施した定量化の結果を表2に示す。
【0075】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアル酸で食品を強化するための、天然のシアル酸を生成する食品用細菌又はシアル酸を含有する少なくとも1つのその画分の使用。
【請求項2】
前記天然のシアル酸を生成する食品用細菌が、食品の摂取後に体内でシアル酸を生成するように生存可能である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記細菌又は前記少なくとも1つのその画分が、0.05〜2乾燥重量%、好ましくは0.4〜1.5乾燥重量%、より好ましくは0.6〜1乾燥重量%のシアル酸含有量の増加を食料品中で得るのに十分な量で使用される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記細菌が、乳酸桿菌、特にN−アセチルノイラミン酸リアーゼ及び/又はN−アセチルノイラミン酸アルドラーゼを生成する乳酸桿菌、さらにより好ましくはラクトバチルス・サケイ、ラクトバチルス・プランタルム及び/又はラクトバチルス・サリバリウスの群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記細菌が、ラクトバチルス・サケイNCC121、ラクトバチルス・サケイNCC2935、ラクトバチルス・サケイNCC2934、ラクトバチルス・サケイNCC166、ラクトバチルス・サケイNCC170、ラクトバチルス・サケイNCC1393、ラクトバチルス・サケイNCC1428、ラクトバチルス・サケイNCC1511、ラクトバチルス・サケイNCC2937、ラクトバチルス・プランタルムNCC2936、ラクトバチルス・プランタルムNCC252又はこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記細菌画分が、以下のステップ、成長培地で細胞を成長させるステップ、細胞を回収するステップ、酸性条件下で細胞を加水分解するステップ及びシアル酸を含有する上清を収集するステップを含むプロセスによって得られる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記シアル酸が以下の式
【化1】


を有し、好ましくはN−アセチルノイラミン酸(R1=H、R2=N−アセチル、R3=H)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の天然のシアル酸を生成する食品用細菌又はその画分を含む、シアル酸強化食品。
【請求項9】
対象に栄養を提供することに使用するための、請求項8に記載のシアル酸強化食品。
【請求項10】
内在性のシアル酸の生成の不足を埋め合わせることに使用するための、請求項8に記載のシアル酸強化食品。
【請求項11】
特に成人において神経変性を治療又は予防することに使用するための、請求項8に記載のシアル酸強化食品。
【請求項12】
免疫系を支援すること、特に免疫性を高めること、及び/又は腸機能を向上させることに使用するための、請求項8に記載のシアル酸強化食品。
【請求項13】
特に子供における認識能力を向上させること、及び/又は脳発達を支援することに使用するための、請求項8に記載のシアル酸強化食品。
【請求項14】
ラクトバチルス・サケイNCC121、ラクトバチルス・サケイNCC2935、ラクトバチルス・サケイNCC2934、ラクトバチルス・サケイNCC166、ラクトバチルス・サケイNCC170、ラクトバチルス・サケイNCC1393、ラクトバチルス・サケイNCC1428、ラクトバチルス・サケイNCC1511、ラクトバチルス・サケイNCC2937、ラクトバチルス・プランタルムNCC2936及びラクトバチルス・プランタルムNCC252からなる群から選択される、シアル酸を生成する食品用細菌。
【請求項15】
食品用細菌から得られるシアル酸。

【図1】
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【公表番号】特表2012−508000(P2012−508000A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535123(P2011−535123)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064842
【国際公開番号】WO2010/052324
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】