説明

シアン含有廃液の処理方法およびこれに使用する薬剤

【課題】毒性があるシアン成分を含むシアン含有廃水の処理を、処理水中にシアン成分が残留しないように効率的に除去できることは勿論のこと、従来の方法に比して処理にあたっての安全性が高く、簡便で工業的に利用可能な、より優れたシアン含有廃液の処理方法およびこれに使用する薬剤を提供すること。
【解決手段】シアン含有廃液に、アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物、カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物、グリオキシル酸或いはグリオキシル酸のエステル、アスコルビン酸或いはその光学異性体、リグニン或いはその誘導体、フミン酸或いはその誘導体および還元糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物を添加し、かつ、廃液をpH5〜12に保持して、上記化合物と廃液中のシアンとを反応させてシアノヒドリンとし、該シアノヒドリンを懸濁性物質に吸着させ、その後に該吸着物を固液分離することを特徴とするシアン含有廃液の処理方法およびこれに使用する薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン含有廃液の処理方法に関し、特に、メッキなどを行う化学工場や石炭工場、コークス工場などで生ずるシアン含有化合物を含む廃液中のシアン成分を工業的にかつ安全に除去できる処理方法に関する。より詳しくは、廃液中のシアン含有化合物を、廃液に添加した特定の化合物と反応させて、例えば、石炭由来の微粉などの懸濁性物質に吸着し易いシアノヒドリンとし、該シアノヒドリンが吸着した懸濁性物質を固液分離によってシアン成分を除去するシアン含有廃液の処理方法およびこれに使用する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキ工場、石炭工場やコークス工場などからの廃水には、シアン含有化合物が含有されている場合がある。従来、シアン含有廃水の処理方法としては、アルカリ塩素法が古くから行われてきた。しかし、この方法に使用される薬剤の次亜塩素酸塩は、その輸送に不便があり、さらに、その取り扱いにも危険性がないとはいえないものであり、使用薬剤に課題があった。さらに、アルカリ塩素法は、pH10以上で反応させる必要があるため、大量のpH調整剤が必要となり、この点で、経済性に課題があった。上記したような問題のない処理方法としては、シアン含有廃水を、ホルムアルデヒドを含む処理剤で処理することによって、毒性の少ないシアノヒドリンの1種であるホルムアルデヒドシアノヒドリンを生成させて、シアンを無毒化する方法が知られている(特許文献1参照)。さらに、上記方法におけるシアン化合物の低減効果を高め、安全性を高めるために、ホルムアルデヒドを添加しての第1反応後に過酸化水素を特定量添加し、pH7.0以上で第2反応を行うことが提案されている(特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、ホルムアルデヒドシアノヒドリンは、毒性が弱まっているとは言え、その毒性は比較的高い。また、工業的な利用が可能とされている上記したpH7.0以上で第2反応を行う方法では、中和工程が必要になる場合があるが、ホルムアルデヒドシアノヒドリンでは、アルカリの作用により逆反応が起こり、ホルムアルデヒドとシアン化物に解離するという問題がある。このような逆反応によるシアン化物の生成を防ぐ方法として、塩酸を加えてpHを6以下に保持して反応を実施すると、酸性条件下ではシアンガスが発生し、作業安全上の危険を伴うという問題がある。上記に挙げたように、シアン化合物の含有廃水を、ホルムアルデヒドを含む処理剤を添加してホルムアルデヒドシアノヒドリンを生成させることで処理する方法は、工業的に利用し得る方法としては、安全性を含めて多くの課題があり、実用化する方法として最適なものとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭45−36号公報
【特許文献2】特開平2−35991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、毒性があるシアン成分を含むシアン含有廃水の処理を、処理水中にシアン成分が残留しないように効率的に除去できることは勿論のこと、従来の方法に比して処理にあたっての安全性が高く、工業的に利用可能な、より優れたシアン含有廃液の処理方法およびこれに使用する薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、シアン含有廃液に、アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物、カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物、グリオキシル酸或いはグリオキシル酸のエステル、アスコルビン酸或いはその光学異性体、リグニン或いはその誘導体、フミン酸或いはその誘導体および還元糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物を添加し、かつ、廃液をpH5〜12に保持して、上記化合物と廃液中のシアンとを反応させてシアノヒドリンとし、該シアノヒドリンを懸濁性物質に吸着させ、その後に該吸着物を固液分離することを特徴とするシアン含有廃液の処理方法を提供する。
【0007】
前記シアン含有廃液の処理方法においては、さらに、下記のように構成することが好ましい。
前記懸濁物質が、廃液中に含まれる石炭、コークス、金属、活性炭、粘土鉱物或いはセラミックスから選ばれるいずれか、又は、廃液に添加した、活性炭、ゼオライトおよび粘土鉱物から選ばれるいずれかを少なくとも含むこと。
前記化合物の添加量を廃液中のシアンに対して0.2モル当量〜200モル当量とし、かつ、廃液のpHを6〜10に保持すること。
さらに、前記化合物を添加する際に、亜硫酸又はその塩、チオ硫酸又はその塩、および、亜硝酸又はその塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかを、前記化合物に対して0.01モル当量〜20モル当量の範囲で添加すること。
前記アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物が、1のアルデヒド基をもつ芳香族アルデヒド、1のケト基をもつ芳香族ケトン、1のアルデヒド基と1以上の不飽和結合とを有する不飽和アルデヒド、1のケト基と1以上の不飽和結合とを有する不飽和ケトン、1のアルデヒド基と炭素数2〜28のアルキル基を有する飽和アルデヒド、および、1のケト基と炭素数2〜28のアルキル基を有する飽和ケトンからなる群から選ばれる少なくともいずれかであること。
前記カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物が、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸のエステル、ケト酸又はケト酸のエステルからなる群から選ばれる少なくともいずれかであること。
前記シアン含有廃液が、コークス工場、石炭工場又はメッキ工場からの廃液であること。
【0008】
本発明の別の実施形態は、上記亜硫酸又はその塩を併用するシアン含有廃液の処理方法に使用する薬剤であって、アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物、カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物、グリオキシル酸或いはグリオキシル酸のエステル、アスコルビン酸或いはその光学異性体、リグニン或いはその誘導体、フミン酸或いはその誘導体および還元糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物Aと、亜硫酸又はその塩、チオ硫酸又はその塩、および、亜硝酸又はその塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物Bとを、モル比で、A:B=1:0.01〜1:10の範囲となるように混合してなることを特徴とするシアン含有廃液の処理用薬剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、処理作業にあたって安全性に問題がなく、シアン含有廃液中のシアン化合物を効率的に除去処理することができ、工業的に利用することが可能なシアン含有廃液の処理方法およびこれに使用するより有用な薬剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明する。
本発明者らは、シアン含有廃液からシアン成分を安全かつ効率的に処理できる、工業的に利用可能なシアン含有廃液の処理方法を開発するにあたり、前記したホルムアルデヒドを含む処理剤で処理し、ホルムアルデヒドシアノヒドリンを生成する処理方法に注目し、その改善について鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。すなわち、本発明の処理方法では、まず、シアン含有廃液に、ホルムアルデヒドではない特定の化合物を添加して、該化合物と廃液中のシアン成分とを反応させることで、該シアン成分を毒性の少ないシアノヒドリンであって、しかも、懸濁性物質に吸着し易い反応生成物とする。そして、該反応生成物を懸濁性物質に速やかに吸着固定させ、その後に、該懸濁性物質を、極めて一般的な分離手段である固液分離によって分離することで、シアン含有廃液中からのシアン成分の除去を行う。上記したように、本発明方法は、特別の装置を使用することなく、極めて簡易な手段によって、安全にかつ確実に、廃液中のシアン成分を効率よく除去できるので、工業的な利用が可能な有用な方法である。
【0011】
シアノヒドリンは、アルデヒド又はケトンに、シアン化合物イオンが付加されて生成される。しかし、先に述べたように、従来、提案されているホルムアルデヒドを添加してホルムアルデヒドシアノヒドリンを生成する方法は、安全性を含め、シアン含有廃液の処理方法として実用化するには種々の課題があった。これに対し、本発明者らは鋭意検討の結果、アルデヒド基やケト基に、シアン化合物イオンが付加されて生成したシアノヒドリンの中には、例えば、廃液中の石炭由来の懸濁性物質などに速やかに吸着して固定されるものがあることを見出した。すなわち、例えば、1のアルデヒド基をもつ芳香族アルデヒドであるシンナムアルデヒドなどの化合物をシアン含有廃液に添加することで得られる、該アルデヒドとシアン成分との反応物のシアノヒドリンは、毒性が少なく、しかも懸濁性物質に速やかに吸着して固定されることがわかった。
【0012】
本発明者らは、この性質を利用し、シアン含有廃液の処理を行うことについてさらに検討した結果、後述する特定の化合物を用いた場合にも上記と同様の効果が得られ、この場合に得られる反応物のシアノヒドリンも毒性が少なく、しかも懸濁性物質に速やかに吸着することがわかった。さらに、処理の際に、処理廃液のpHを5〜12に保持すれば、上記化合物と廃液中のシアンとを安全に効率よく反応させることができることがわかった。さらに、例えば、石炭工場、コークス工場からの廃液などでは、反応物が吸着する石炭由来の懸濁物質が多く存在するので、シンナムアルデヒドなどの化合物を添加するだけでよいが、廃液の状況によっては反応物が吸着できる懸濁物質が不足する場合もある。このような場合には、処理によって生成したシアノヒドリンの吸着を促進させるために、廃液中に、活性炭、ゼオライト或いは粘土鉱物といった多孔質体からなる懸濁物質を添加して、より吸着が速やかに確実に行われるようにすることが好ましい。以下、本発明を構成する各要件について説明する。
【0013】
(化合物の添加工程)
本発明では、シアン含有廃液に、下記に挙げる化合物を添加して、該化合物とシアン成分とを反応させてシアノヒドリンとする。本発明では、アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物、カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物、グリオキシル酸或いはグリオキシル酸のエステル、アスコルビン酸或いはその光学異性体、リグニン或いはその誘導体、フミン酸或いはその誘導体および還元糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物を添加する。これらの化合物は、その構造中にアルデヒド基又はケト基(カルボニル基)などを有し、これらの基にシアン化合物イオンが容易に付加すると同時に、該化合物は、その構造中に疎水性基を持つため、得られる反応物(付加体)は、例えば、石炭の微粉や上記に挙げた多孔質体からなる懸濁物質に速やかに吸着される。
【0014】
本発明で使用し得る化合物のより具体的なものとしては、下記のものが挙げられ、いずれも本発明に使用できる。アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物としては、1のアルデヒド基をもつ芳香族アルデヒド、1のケト基をもつ芳香族ケトン、1のアルデヒド基と1以上の不飽和結合とを有する不飽和アルデヒド、1のケト基と1以上の不飽和結合とを有する不飽和ケトン、1のアルデヒド基と炭素数2〜28のアルキル基を有する飽和アルデヒド、1のケト基と炭素数2〜28のアルキル基を有する飽和ケトンなどが挙げられる。上記芳香族アルデヒドとしては、例えば、シンナムアルデヒド、ベンズアルデヒド、バニリンなどが挙げられる。また、上記の不飽和アルデヒドとしては、クロトンアルデヒドなどが挙げられ、上記の飽和アルデヒドとしては、ペンタナール、ヘキサナールなどが挙げられる。
【0015】
上記したカルボキシ基と疎水性基とを有する化合物としては、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸のエステル、ケト酸又はケト酸のエステルなどが挙げられる。より具体的には、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、ピルビン酸、ピルビン酸メチルおよびαケトグルタル酸などが挙げられる。その他、その構造中にアルデヒド基とケト基とを有するグリオキシル酸或いはグリオキシル酸のエステルや、アスコルビン酸或いはその光学異性体、リグニン或いはその誘導体、フミン酸或いはその誘導体および還元糖などが挙げられる。還元糖としては、グルコース、リボースなどが挙げられる。
【0016】
本発明の処理方法について、添加する化合物として、芳香族アルデヒドの一種であるシンナムアルデヒドを例にとって、以下に具体的に説明する。まず、シアン含有廃液にシンナムアルデヒドを添加し、該化合物のアルデヒド基と廃液中のシアンとを反応させて、そのシアノヒドリン誘導体とする。先に述べたように、該誘導体は、廃液中の浮遊している石炭由来の懸濁物質などに速やかに吸着する。本発明の処理方法では、この特性を利用し、シアン成分を取り込んだ反応物を吸着した懸濁物質を固液分離することで、効率よく安全にシアンを廃液中から除去する。
【0017】
シアン含有廃液中のシアン成分と、添加するシンナムアルデヒドなどの化合物との反応は、下記のような条件で行うことが好ましい。まず、添加する化合物の添加量としては、シアン含有廃液中のシアン成分の0.2モル当量以上に相当する量を添加するとよい。より好ましくは、0.2モル当量〜200モル当量の範囲、さらには0.5モル当量〜20モル当量の範囲とすればよい。経済性を考慮すると、シアン含有廃液のシアン量に対してほぼ等量の0.8〜1.2モル当量の範囲で化合物を添加することが好ましいが、実廃液の場合はシアン量が変動することが考えられるため、廃液中のシアン量を常時モニタリングして、シアン量に応じて化合物を添加することは有効な方法である。このようなモニタリングを行わない場合には、廃液中のシアン量の測定値に対して、例えば、5〜20倍程度の過剰な量で化合物を添加して処理するように条件を設定することが好ましい。
【0018】
さらに、化合物を添加すると同時に、亜硫酸又はその塩、チオ硫酸又はその塩および亜硝酸又はその塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかを、前記化合物に対して0.01モル当量〜20モル当量の範囲で、より好ましくは、0.05モル当量〜5モル当量の範囲で添加することも好ましい形態である。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩などが使用できる。本発明者らの検討によれば、処理槽内に亜硫酸水素ナトリウムなどを添加することで、より速やかに、しかも確実に上記反応が進行するといった効果が得られる。
【0019】
また、これらの化合物は、シアン含有廃液に、本発明で必須とするシアン成分を毒性の少ないシアノヒドリンであって、しかも、懸濁性物質に吸着し易い反応生成物とするシンナムアルデヒドなどの化合物とは別に添加してもよいが、シンナムアルデヒドなどの化合物と混合した混合薬剤として添加することも好ましい態様である。このようにすれば、その添加割合を安定な状態にできる上に、添加作業が簡易になる。さらに、本発明者らの検討によれば、別個に添加するよりも、混合薬剤として添加した方が処理の安定性が担保される傾向が見られた。本発明者らは、混合薬剤を使用することで、廃液中のシアン成分とシンナムアルデヒドなどの化合物とが反応する際に、触媒的な役割をする亜硫酸水素ナトリウムなどの化合物を確実に存在させることが可能になるためと考えている。この際に使用する化合物としては、亜硫酸水素ナトリウムの他、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどが挙げられ、特に、亜硫酸水素ナトリウムなどが好ましい。これらの化合物Bと、シンナムアルデヒドなどの化合物Aとの混合薬剤とする場合の混合比A:Bとしては、モル比で、A:B=1:0.01〜1:10、より好ましくは、A:B=1:0.1〜1:1程度にすることが好ましい。
【0020】
本発明で行う上記の反応は、処理槽内のpHを5〜12に保持して行うことを要する。上記pHが5よりも小さいと、シアン成分を所定値以下に低減する効果が期待できないばかりか、処理中にシアンガスが発生する危険があるので避けねばならない。一方、pH12よりも高い範囲においては、生成したシアノヒドリンがアルカリの作用により逆反応を起こし、シアン化物が生成する可能性があるので避ける必要がある。より好ましくは、処理槽内のpHを6〜10の範囲内に保持した状態で処理することが好ましい。
【0021】
本発明者らは鋭意検討の結果、上記のようにして生成される反応物のシアノヒドリン或いはその誘導体は、廃液中の、石炭やコークス由来の微粉や、金属やセラミックスなどの多孔質体である微粉からなる懸濁物質と吸着しやすい特性を持つことを見出した。本発明では、特定の化合物との反応によって得られるこのような反応物の持つ特性を巧みに利用して、シアン含有廃液中のシアン成分を懸濁物質に、より吸着し易い反応物とし、該反応物を吸着した懸濁物質を廃液中から固液分離によって簡易に除去することで、廃液中からのシアン成分の除去を達成した。この場合の懸濁物質としては、廃液の種類にもよるが、例えば、石炭工場、コークス工場からの廃液であれば浮遊する原料炭由来の微粉などで十分である。また、廃液中に懸濁物質が少ない場合や、懸濁物質が反応物を吸着しにくい場合は、廃液中に懸濁物質を添加してもよい。添加させる懸濁物質としては、例えば、活性炭、ゼオライト、粘土鉱物などの多孔質体が挙げられる。
【0022】
上記のようにして廃液中の懸濁物質に吸着されたシアノヒドリン誘導体は、簡便な固液分離法によって容易に分離される。固液分離法としては、一般に使用されている、例えば、重力沈降を利用した沈殿や、加圧浮上、ろ過、遠心分離などの方法をいずれも用いることができる。また、固液分離の前に、一般に使用されている、例えば、ポリ塩化アルミ(PAC)などの無機凝集剤や、ポリアクリルアミドなどの有機高分子凝集剤を使用してもよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
下記のような水質のコークス工場からのシアン含有廃液を用いて、処理を行った。なお、下記のSSの大半は、原料炭由来のものであることを確認した。
pH:9.0
T−CN:10mg/L
CNイオン:10mg/L
SS:20,000mg/L
【0024】
この廃液を試料水として容積500ミリリットルの複数のビーカーに分注し、種々の薬剤をそれぞれに用い、廃液中からのシアン成分が除去されるか否かを調べた。まず、シンナムアルデヒドを用いて処理を行ったが、同時に、上記試料水に対するシンナムアルデヒドの最適な添加量と、処理の際の最適pHを確認する試験も同時に行った。具体的には、下記のように処理条件を変化させて処理を行った。それぞれの処理条件と、それぞれの処理によって得られた処理水の性状を表1にまとめて示した。
1)試料水に、シンナムアルデヒドを表1に示した量それぞれ添加した。その際に、亜硫酸水素ナトリウムの添加の有無による効果の違い、反応時間による処理効果の違いについても検証した。
2)pHを、0.1モル/L硫酸又は0.1モル/L水酸化ナトリウムにより表1に示す値に調整し、所定時間反応させた。
3)反応液に、高分子凝集剤を添加して懸濁物質を凝集し、固液分離して上澄水を得た。
4)上澄水のシアン濃度を測定した。
【0025】

【0026】
表1に示した結果から、シンナムアルデヒドを添加することによって試料水中のシアン量を低減できることが確認された。また、シアンイオンに対する添加する化合物の量としては、ほぼ等量とした場合に十分な処理が行われることが確認された。具体的には、表1に示したように、シアンイオンに対して0.8〜1.0モル当量あれば十分な処理が行えることが確認された。このため、実際の処理にあたって、化合物の添加量を決定する場合には、廃液中のシアン濃度を予め測定し、該シアンがすべて付加できる量を添加すれば足りることがわかった。また、処理の際のpHは、5.0〜12.0、より好ましくは6.0〜10.0とすることが好ましいことがわかった。さらに、反応時間も短時間であることが確認され、短時間に確実にシアン成分の除去処理が可能となることがわかった。さらに、反応時に、亜硫酸水素ナトリウムを添加してシンナムアルデヒドと併存させることで、より速やかに、しかも確実に廃液中のシアンの除去が行えることを確認した。
【0027】
(実施例2)
本実施例では、実施例1と同じ廃液を用いて、添加する化合物の種類を変えて、下記の手順で、pH、化合物の添加量および処理時間の処理条件を一定としてそれぞれ処理を行った。その結果を表2に示した。
1)試料水に、表2に示す薬剤をそれぞれ1.0モル添加した。
2)pHを、0.1モル/L硫酸により8.0に調整し、30分反応させた。
3)反応液に、高分子凝集剤を添加して懸濁物質を凝集し、固液分離して上澄水を得た。
4)上澄水のシアン濃度を測定した。
【0028】

【0029】
表2に示した結果から、いずれの化合物についても、実施例1で検討したシンナムアルデヒドと同様に、試料水中のシアン量を低減できることが確認された。特に、芳香族アルデヒド、不飽和アルデヒド、アルデヒド基とケト基(カルボニル基)をともに有する化合物、がより良好な結果を示すことが確認された。
【0030】
(実施例3)
本実施例では、試料水に実施例1と同じ廃液を用いて、シンナムアルデヒドと亜硫酸水素ナトリウムを別々に入れた場合と、予め混合した混合薬剤とした場合の効果の違いについて、下記の手順で処理を行った。使用した混合薬剤は、モル比でシンナムアルデヒドと亜硫酸水素ナトリウムを1:1の混合比、1:0.5の混合比で混合したものを用いた。同様の処理をそれぞれに5回行い、処理水中のCN量の変動を、化合物を別個に添加したものと比較した。別個に添加する方法としては、シンナムアルデヒドを添加した後、5分経過後に亜硫酸水素ナトリウムを添加した。得られた結果を表3に示したが、混合薬剤とした場合の方が安定した処理ができた。
1)試料水に、表3に示す薬剤をそれぞれ1.0モル添加した。
2)pHを、0.1モル/L硫酸により8.0に調整し、30分反応させた。
3)反応液に、高分子凝集剤を添加して懸濁物質を凝集し、固液分離して上澄水を得た。
4)上澄水のシアン濃度を測定した。
【0031】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン含有廃液に、アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物、カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物、グリオキシル酸或いはグリオキシル酸のエステル、アスコルビン酸或いはその光学異性体、リグニン或いはその誘導体、フミン酸或いはその誘導体および還元糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物を添加し、かつ、廃液をpH5〜12に保持して、上記化合物と廃液中のシアンとを反応させてシアノヒドリンとし、該シアノヒドリンを懸濁性物質に吸着させ、その後に該吸着物を固液分離することを特徴とするシアン含有廃液の処理方法。
【請求項2】
前記懸濁物質が、廃液中に含まれる石炭、コークス、金属、活性炭、粘土鉱物或いはセラミックスから選ばれるいずれか、又は、廃液に添加した、活性炭、ゼオライトおよび粘土鉱物から選ばれるいずれかを少なくとも含む請求項1に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【請求項3】
前記化合物の添加量を廃液中のシアンに対して0.2モル当量〜200モル当量とし、かつ、廃液のpHを6〜10に保持する請求項1又は2に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【請求項4】
さらに、前記化合物を添加する際に、亜硫酸又はその塩、チオ硫酸又はその塩、および、亜硝酸又はその塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物を、前記化合物に対して0.01モル当量〜20モル当量の範囲で添加する請求項1〜3のいずれか1項に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【請求項5】
前記アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物が、1のアルデヒド基をもつ芳香族アルデヒド、1のケト基をもつ芳香族ケトン、1のアルデヒド基と1以上の不飽和結合とを有する不飽和アルデヒド、1のケト基と1以上の不飽和結合とを有する不飽和ケトン、1のアルデヒド基と炭素数2〜28のアルキル基を有する飽和アルデヒド、および、1のケト基と炭素数2〜28のアルキル基を有する飽和ケトンからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1〜4のいずれか1項に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【請求項6】
前記カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物が、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸のエステル、ケト酸又はケト酸のエステルからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1〜5のいずれか1項に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【請求項7】
前記シアン含有廃液が、コークス工場、石炭工場又はメッキ工場からの廃液である請求項1〜6のいずれか1項に記載のシアン含有廃液の処理方法。
【請求項8】
請求項4に記載のシアン含有廃液の処理方法に使用する薬剤であって、アルデヒド基又はケト基と疎水性基とを有する化合物、カルボキシ基と疎水性基とを有する化合物、グリオキシル酸或いはグリオキシル酸のエステル、アスコルビン酸或いはその光学異性体、リグニン或いはその誘導体、フミン酸或いはその誘導体および還元糖からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物Aと、亜硫酸又はその塩、チオ硫酸又はその塩、および、亜硝酸又はその塩からなる群から選ばれる少なくともいずれかの化合物Bとを、モル比で、A:B=1:0.01〜1:10の範囲となるように混合してなることを特徴とするシアン含有廃液の処理用薬剤。

【公開番号】特開2012−239955(P2012−239955A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110396(P2011−110396)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000156581)日鉄環境エンジニアリング株式会社 (67)
【Fターム(参考)】