説明

シクロオクテンとアクリル酸との開環交差メタセシス(ROCM)による、ドデカ−2,10−ジエン−1,12−ジカルボン酸又は1,12−ドデカンジカルボン酸の製造方法

シクロオクテンとアクリル酸とを、ルテニウム触媒と一緒に、メタセシス反応により、高い基質濃度で、反応が生じるまで塊状で変換させ、その際に生じた不飽和ジカルボン酸が沈澱し、かつ第2の反応工程で水素化する、1,12−ドデカ−2,10−ジエン二酸及び1,12−ドデカン酸を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルキルジカルボン酸は、プラスチック、例えばポリエステル及びポリアミドを製造するための重要な化合物である。これに関して特に挙げられるのは、ポリアミドをベースとする高性能プラスチックであり、これは、例えば燃料管を製造するために使用される。このジカルボン酸の一つは、1,12−ドデカンジカルボン酸(DDS)である。DDSを製造するための工業的方法としては、特に以下のものが挙げられる:
−濃硝酸を用いてのシクロドデカノールの分離(Invista und Degussa)
−H用いてのシクロヘキサノンの酸化カップリング及び開環(Ube)
−n−ドデカン末端をDDSに酸化する、バイオテクノロジーによる方法(Cathay Biotechnology)等。
【0002】
この方法は、エネルギー集約的であり、かつ、コストのかかる処理をしなければならない多量の廃棄物が生じる。さらに、この選択性はしばしばさほど大きくない。したがって、例えば硝酸を用いてのシクロドデカノールの酸化的分離の際には、酸化分解による短鎖の"破断酸(Bruchsaeuren)"の形成が問題となる。
【0003】
ジカルボン酸の製造のための新規試みの一つは、メタセシスである。開環メタセシス(ROM)と交差メタセシス(CM)との組合せによって、シクロアルケンとアクリル酸とから成る、適した予備触媒の使用下で、一の工程で、脂肪族α,β−不飽和ジカルボン酸を製造することができる。出発材料としてのシクロオクテン(1)とアクリル酸(2)とを反応させることにより、ドデカン−2,10−ジエン−1,12−ジカルボン酸(3)が得られる(反応式1)。双方の反応工程の組合せは、ROCM−(開環/交差メタセシス)又はROX−メタセシスとも呼称される。
【0004】
【化1】

【0005】
得られたα、β−不飽和ジカルボン酸は、第2工程において水素化され、その際、望ましい1,12−ドデカンジカルボン酸(4)が得られる(反応式2)。
【0006】
【化2】

【0007】
不飽和ポリアミド又はポリエステルを製造するためのモノマーとして、不飽和ジカルボン酸を使用することも当然可能である。このようにして得られたポリマーは、後になって架橋することができ、これは、多くの使用のために重要である。
【0008】
メタセシス反応は、相当する生成物分布を有する平衡反応である。前記反応は、異なる反応経路をとってもよい。したがってシクロアルケンは、開環メタセシス−重合の意味においてポリオレフィンに反応することができる。他には、種々のテレケリック(telechelen)オリゴマーを形成することができる。この副次的反応は、望ましい生成物の収率において悪影響を及ぼし、かつさらに反応混合物の後処理を困難にするものである。液相のガスとして除去することができるエチレンの形成によって、生成物のために平衡を偏らせることができる。しかしながらこの効果は、副次的反応、例えば重合を完全に阻害するには十分とはいえない。
【0009】
技術水準
これまでの技術水準(Morgan, John, P., Morrill, Christie; Grubbs, Robert, H.; Choi, Tae-Lim WO 02/079127 Al.Choi, T-L.; Lee, C. W.; Chatterjee, A. K.; Grubbs, R. H. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 10417-10418.Randl, S.; Connon, S. J.; Blechert, S. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 2001,1796-1797)では、反応を低分子量の生成物の方向へ誘導するために、希釈された溶液(c〜0.2M)中で実施する。反応混合物の後処理及び触媒の除去のために、主にシリカゲルを用いてのカラムクロマトグラフィーを使用することができる。他に、溶剤として、主にジクロロメタンを使用することができるが、これは、工業的変換を考慮した場合にはみるからに問題がある。大規模の希釈における実施は、後処理の際に多量の溶剤を消費すること、及び健康上有害な溶剤を使用することは、工業的変換が基づくべき持続的な方法の概念に反する。
【0010】
驚くべきことに、本願請求項に係る方法によって、大規模な希釈中で実施することなしに、平衡を望ましい生成物の方向に完全に偏らせることが可能であることが見出された。さらに、記載された方法によって、触媒の効果的な再利用が可能となる。これは、従来の実施とは対照的に、高い基質濃度で、反応するまで塊状で(in Substanz)反応を実施することにより達成される。反応の過程において、生成物の溶解性が超過した場合には、α,β−不飽和ジカルボン酸が沈澱し、それによって平衡(均一相における)が解かれる。望ましい生成物の方向への平衡の偏りに加えて、気体のエチレンの形成によって、ここで第2の有利な作用が付加される。
【0011】
他の試みは、触媒の分離及び場合による再利用である。しばしば触媒は、カラムクロマトグラフィーによって高いコストで分離され、これは、この工業的変換を採算のとれないものとしていた。
【0012】
本発明で方法を用いて固体として生成物が沈澱させることによって、これは容易に濾別、精製され、かつ濾液中に溶解された触媒を再利用することができる。
【0013】
本発明の反応は10〜100℃、好ましくは20〜80℃及び特に好ましくは20〜60℃の温度で実施する。
【0014】
本発明の反応は、塊状と同様に溶剤を使用することによっても実施することができる。溶剤としては、非環式炭化水素と同様に環式炭化水素も適している。特に、芳香族ハロゲン化炭化水素及び特に好ましくはアルキル基を有する芳香族が適している。
【0015】
溶液中で実施する場合には、>1M濃度のシクロオクテンが好ましい。特に好ましくは、溶剤に対して1〜2Mの濃度及び特に好ましくは2〜4Mの濃度のシクロオクテンである。
【0016】
本発明の方法により、触媒をシクロオクテンの量に対して5〜0.0001モル%の量で使用する。好ましくは、使用されたシクロオクテンの物質量に対して2〜0.001モル%及び特に好ましくは1〜0.5モル%の触媒の量である。
【0017】
ポリマーグレードの品質におけるα,β−不飽和ジカルボン酸を得るために、晶出、蒸留又は双方の組合せによる精製を実施する。
【0018】
触媒として、ルテニウム−カルベン錯体が適しており、これは、特徴の一つとしてN−複素環式カルベンリガンドを有するものである。例は、好ましくは第1図の触媒である。これに関して特に好ましくは、ベンジリデンリガンドにおいて電子求引基R’を有する、タイプ7の触媒である。
【0019】
【化3】

【0020】
例:
例1.1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン[2−(i−プロポキシ)−5−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド(0.333g、0.45mmol)を、還流冷却器を備えた三首フラスコ中で、アクリル酸(13.09g、0.182モル)中でアルゴン下に装入し、かつ60℃に加熱した。シクロオクテン(10g、0.091モル)を20分に亘って滴加した。1.5時間後に、反応混合物を室温に冷却し、かつトルエン(200ml)を添加した。短時間に沸点まで加熱し、引き続いて攪拌しながらゆっくりと冷却した。これにより沈澱した固体を濾別し、かつ冷却したトルエン(3×10ml)で洗浄した。生成物は、真空下で乾燥した後に白色の固体として得られた(10.2g、50%)。NMR−分析によれば、生成物は>99%の純度を有していた。
【0021】
例2.トルエン(20ml)中のシクロオクテン(10g、0.091モル)及びアクリル酸(13.09g、0.182モル)から成る混合物を、60℃に加熱した。トルエン(25ml)中の1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4,5−ジヒドロイミダゾール−2−イリデン[2−(i−プロポキシ)−5−(N,N−ジメチルアミノスルホニル)フェニル]メチレンルテニウム(II)ジクロリド(0.667g、0.00091モル)の溶液を、最初に10ml添加し、かつ残りの15mlを1時間に亘って滴加した。完全に添加した後に、提供された温度で1時間に亘って撹拌し、かつその後に冷却した。沈澱した固体を濾別し、かつ冷却したトルエン(3×5ml)で洗浄した。生成物は、真空乾燥後に白色の固体として得られた(10.2g、50%)。NMR−分析によれば、生成物は>99%の純度を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドデカ−2,10−ジエン−1,12−ジカルボン酸の製造方法において、シクロオクテン及びアクリル酸をルテニウム触媒と一緒に、メタセシス反応を介して、高い基質濃度で、反応が生じるまで塊状で変換させ、その際に生じたジカルボン酸が沈澱する、前記方法。
【請求項2】
得られた不飽和ドデカ−2,10−ジエン−1,12−ジカルボン酸を第2工程で、1,12−ドデカン二酸に水素化する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応の実施の際に、溶液中でシクロオクテンが>1モル/Lの濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
反応の実施の際に、溶剤中でシクロオクテンが2〜4モル/Lの濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
触媒として、N−複素環式リガンドを有するルテニウム−カルベン錯体を使用する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法
【請求項6】
ルテニウム−触媒を、シクロオクテンの物質量に対して5〜0.0001モル%の量で使用する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ルテニウム−触媒を、シクロオクテンの物質量に対して2〜0.001モル%の量で使用する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ルテニウム−触媒を、シクロオクテンの物質量に対して1〜0.5モル%の量で使用する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
溶剤として、非環式炭化水素及び/又は環式炭化水素を使用する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
溶剤として、芳香族ハロゲン化炭化水素を使用する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
濾液中に溶解されたルテニウム触媒を再利用する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
得られた不飽和ジカルボン酸を、晶出、蒸留又はこれらの組合せによって精製する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−521920(P2011−521920A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510920(P2011−510920)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054519
【国際公開番号】WO2009/144089
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】