説明

シクロデキストリン包接体の担持方法及びシクロデキストリン包接体の担持体

【課題】 包接化された化合物の反応性を低下させずにシクロデキストリン包接体を担持材料に担持させるシクロデキストリン包接体の担持方法及びシクロデキストリン包接体の担持体を提供する。
【解決手段】 担持材料11の官能基と反応する官能基を有する化合物を反応させて、この担持材料11に化合物を担持させた後、この化合物とシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体との包接体を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリン包接体の担持方法及びシクロデキストリン包接体の担持体に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な有機化合物が包接化されるホスト化合物として、シクロデキストリンが知られている。シクロデキストリンはD−グルコピラノシドがα−1,4−グルコシド結合してなる中空筒状の環状化合物であり、環状化合物の中空筒の外側は水酸基が多く親水性を有するが、中空筒の内側は疎水性を有する。このように、中空筒の内側が疎水性のため、シクロデキストリンには、疎水性基を有する様々な有機化合物が包接化される。このため、シクロデキストリンは、不安定な物質の安定化、異臭原因の物質の除去、脂溶性物質の水溶性化等のために利用されている。シクロデキストリン包接体は、担持材料に担持させて用いられる場合がある。従来、シクロデキストリン包接体の担持体を製造する場合には、非特異的な吸着法やシクロデキストリン表面の水酸基又はそれから誘導した官能基を用いた化学結合法によりシクロデキストリン包接体を担持材料に担持させている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1には、シクロデキストリンの水酸基の酸素に、カルボキシル基を有する炭化水素基を直接又はカルボニル基を介して結合させたシクロデキストリン誘導体を、水に不溶性の支持体に固定化する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平7−225225号公報(第3−5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のような方法では、シクロデキストリンが非特異的に担持材料に吸着されたり、担持材料と結合可能な官能基をシクロデキストリンが有していて、これらが非選択的に担持材料の官能基に結合したりする。このため、担持されたシクロデキストリン包接体の分子配向が一定とはならない。従って、シクロデキストリンに包接化された化合物の反応部位が担持材料表面に塞がれて、シクロデキストリン包接体の反応性が低下する場合がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、包接化された化合物の反応性を低下させずにシクロデキストリン包接体を担持材料に担持させるシクロデキストリン包接体の担持方法及びシクロデキストリン包接体の担持体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のシクロデキストリン包接体の担持方法は、担持材料の官能基と反応する官能基を有する化合物を反応させて、前記担持材料に前記化合物を担持させた後、前記化合物とシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体との包接体を形成させる。これによれば、シクロデキストリンに包接化される化合物の特定の官能基によりシクロデキストリン包接体を担持材料に結合させることができる。
このシクロデキストリン包接体の担持方法において、前記担持材料の官能基と反応する前記化合物の官能基は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、イソチオシアネート基、マレイミド基又はアミノ基とすることができる。
【0005】
このシクロデキストリン包接体の担持方法において、前記包接体において、前記化合物の特定の反応部位が、前記シクロデキストリン又は前記シクロデキストリン誘導体の中空筒型の構造の前記担持材料の側とは反対側で反応可能に位置するものとすることができる
。これによれば、前記化合物の特定の反応部位が担持材料表面による立体障害を受けることがない。
このシクロデキストリン包接体の担持方法において、前記シクロデキストリン又は前記シクロデキストリンの誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又は、これらのシクロデキストリンに何らかの化学修飾を施したものとすることができる。
本発明のシクロデキストリン包接体の担持体は、担持材料に前記担持材料の官能基と反応する官能基を有する化合物を反応させて、前記担持材料に前記化合物を担持させた後、前記化合物とシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体との包接体を形成させて成る。これによれば、シクロデキストリンに包接化される化合物の特定の官能基によりシクロデキストリン包接体を担持材料に結合させたシクロデキストリン包接体の担持体を得ることができる。
このシクロデキストリン包接体の担持体において、前記担持材料の官能基と反応する前記化合物の官能基は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、イソチオシアネート基、マレイミド基又はアミノ基とすることができる。
このシクロデキストリン包接体の担持体において、前記包接体において、前記化合物の特定の反応部位が、前記シクロデキストリン又は前記シクロデキストリン誘導体の中空筒型の構造の前記担持材料の側とは反対側で反応可能に位置するものとすることができる。これによれば、前記化合物の特定の反応部位が担持材料表面による立体障害を受けることがない。
【0006】
このシクロデキストリン包接体において、前記シクロデキストリン又は前記シクロデキストリンの誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又は、これらのシクロデキストリンに何らかの化学修飾を施したものとすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、包接化された化合物の反応性を低下させずにシクロデキストリン包接体を担持材料に担持させるシクロデキストリン包接体の担持方法及びシクロデキストリン包接体の担持体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。本実施形態のシクロデキストリン包接体の担持方法は、包接化される化合物を担持材料に担持させた後に、この化合物をシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体で包接化する。
シクロデキストリンは、ブドウ糖を構成単位として、D−グルコピラノシドがα−1,4−グルコシド結合してなるバケツ型の中空筒状の環状化合物であって、デンプンから酵素反応により合成される。シクロデキストリンの中空筒の外側は水酸基が多く親水性を有する一方、中空筒の内側は疎水性を有する。このように、中空筒の内側が疎水性のため、シクロデキストリンには疎水性基を有する様々な有機化合物が包接化され、包接化された有機化合物を安定化させる。
シクロデキストリンには、環を構成するブドウ糖の数が異なる複数の種類がある。例えば、シクロデキストリンの環を構成するブドウ糖の数が、6個のもの(重合度が6のもの)をα−シクロデキストリン 、7個のもの(重合度が7のもの)をβ−シクロデキスト
リン 、8個のもの(重合度が8のもの)をγ−シクロデキストリンという。これらのシ
クロデキストリンのうち、いずれを用いてもよいが、後述するように、包接化された化合物の安定化や反応性の点から、包接化される化合物に応じて、より適したものを用いることが好ましい。
また、シクロデキストリンに代えて、シクロデキストリンに何らかの化学修飾を施したものを用いてもよい。例えば、シクロデキストリンの各種誘導体(例えばメチル体、ヒド
ロキシルプロピル体、モノアセチル体、トリアセチル体、モノクロロトリアジニル体などのシクロデキストリン各種誘導体)を、ゲストである化合物を包接するホストとして用いてもよい。
シクロデキストリン環の環内孔のサイズは、環を構成するブドウ糖の数により異なる。つまり、シクロデキストリンの環を構成するブドウ糖の数が少ないと、シクロデキストリンの中空筒の内側(環内孔)のサイズが小さいため、ホストとしてのサイズが小さくなる。このため、ゲストである包接化される化合物の包接の度合いが小さくなり、包接化される化合物の安定化の度合いが小さくなる。従って、包接化される化合物の安定化のため、包接化される化合物のサイズに応じて、より適したサイズのシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を選択することが好ましい。
一方、本発明のシクロデキストリン包接体の担持方法においてシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体に包接化される化合物は、シクロデキストリンの中空筒の一方の側で担持材料と結合し、もう一方の側で、特定の反応部位により反応を行う。シクロデキストリン包接体において、包接化された化合物が中空筒の一方の側で担持材料と結合した状態で、この特定の反応部位がシクロデキストリン環の中空筒の内部に埋もれた状態となっていると、この反応部位の反応性が低下する場合がある。このため、包接化される化合物は、シクロデキストリンに包接化されるとともに、中空筒の一方の側で担持材料と結合し、もう一方の側で特定の反応部位により反応を行うのに適したサイズである必要がある。
【0009】
従って、包接化される化合物を安定化するとともに、この化合物の特定の反応部位の反応性を保つために、包接化される化合物のサイズに応じて、より適したサイズのシクロデキストリン又はシクロデキストリン包接体を選択することが好ましい。
化合物を包接化したシクロデキストリン包接体を化学結合により担持体に担持させようとすると、担持材料の官能基と結合可能な官能基によりシクロデキストリン包接体が担持材料に担持される。この場合、担持材料の官能基がシクロデキストリンの官能基にも包接化された化合物の官能基にも結合可能な場合、シクロデキストリンの官能基と包接化される化合物の官能基とのいずれかが、非選択的に担持材料の官能基と結合することとなる。
【0010】
一方、シクロデキストリンは、上述のように中空筒状の環状化合物であって、包接化により化合物を安定化できるとともに、この化合物の特定の反応部位による反応が中空筒の開口部側で行われることにより、包接化される化合物の反応性を維持できる。このようなシクロデキストリン包接体において、シクロデキストリン包接体の官能基のいずれかが非選択的に担持材料の官能基と結合すると、包接化された化合物の特定の反応部位が担持材料表面の立体障害によって塞がれる場合がある。このような場合、シクロデキストリン包接体を担持材料に担持させることによって、包接化された化合物の反応性が低下することとなる。
【0011】
本発明のシクロデキストリン包接体の担持方法によりこのような反応性の低下を防止する効果があるのは、シクロデキストリン包接体と担持材料とを反応させた場合に、シクロデキストリン包接体が非特異的に担持材料に結合してしまう場合である。つまり、用いられるシクロデキストリンの中空筒の外側の水酸基又はシクロデキストリンに化学修飾された官能基が、担持材料の官能基と結合可能な場合である。従って、このように、担持材料の官能基と結合可能な官能基がシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の中空筒の外側に存在する場合、本発明の方法により、まず、包接化される化合物を担持材料に結合させることにより、非特異的な結合を防止できる。
【0012】
つまり、包接化される化合物を、担持材料に先に結合させることで、この化合物の特定の反応部位が担持材料表面の立体障害によって塞がれることを防止する。これにより、シクロデキストリン包接体を担持させた場合の包接化された化合物の反応性が低下すること
を防止できる。このような効果を得ることができる包接化される化合物の官能基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、イソチオシアネート基、マレイミド基、アミノ基等が挙げられる。
【0013】
包接化される化合物が水酸基を有する場合、担持材料の官能基であって、この水酸基と結合可能な官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。包接化される化合物がカルボキシル基を有する場合、担持材料の官能基であって、このカルボキシル基と結合可能な官能基としては、アミノ基、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アルキニル基、アルケニル基等が挙げられる。包接化される化合物がスルホン酸基を有する場合、担持材料の官能基であって、このスルホン酸基と結合可能な官能基としては、水酸基等が挙げられる。包接化される化合物がイソチオシアネート基を有する場合、担持材料の官能基であって、このイソチオシアネート基と結合可能な官能基としては、アミノ基等が挙げられる。包接化される化合物がマレイミド基を有する場合、担持材料の官能基であって、このマレイミド基と結合可能な官能基としては、スルフヒドリル基等が挙げられる。包接化される化合物がアミノ基を有する場合、担持材料の官能基であって、このアミノ基と結合可能な官能基としては、イソチオシアネート基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0014】
従って、担持材料としては、包接化される化合物の官能基に応じて、この化合物と結合する官能基を有するもの、又は、このような官能基を導入可能なものであれば、特に限定されない。なお、このような官能基の担持材料への導入は、公知の方法で行うことができる。
【0015】
担持材料としては、具体的には、アガロース、デキストラン、セルロース等の多糖体や、各種の樹脂や、各種のビーズ等を使用することができる。使用される樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂等の各種の樹脂が挙げられる。また、使用されるビーズとしては、ポリアクリルアミドのような所謂ソフトビーズや、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール及びこれらの共重合物のような硬質の合成高分子ビーズや、アルミナ、チタニア、シリカゲル等の無機の硬質ビーズが挙げられる。
次に、本発明によるシクロデキストリン包接体の担持方法の手順について図1を用いて説明する。本発明によるシクロデキストリン包接体の担持方法では、まず、包接化される化合物を担持材料に担持させ(第1工程)、次に、担持材料に担持された化合物をシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体により包接化する(第2工程)。
【0016】
第1工程では、化合物の官能基と結合しうる官能基を有する担持材料に、この化合物を結合させる。図1では、ヒドラジン誘導体であるフェニルヒドラジンp−スルホン酸を担持材料11に担持させる場合について示している。ここで、(a)は第1工程の反応前の状態を示し、(b)は第1工程の反応後の状態を示す。なお、図1において、シクロデキストリン及びシクロデキストリン誘導体は、バケツ型の中空筒の外側に水酸基が付いた状態の概略図により示している(図2も同様)。
第2工程では、上記の第1工程で担持材料に結合させた化合物を、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体で包接化する。具体的には、例えば、上記の第1工程において化合物を担持した担持材料を、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の溶液に浸漬する。これにより、担持材料に担持された化合物が、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体により包接化される。
【0017】
図1では、担持材料11に担持されたフェニルヒドラジンp−スルホン酸をシクロデキストリンで包接化している。ここで、(b)は第2工程の反応前の状態を示す。このように担持材料11に化合物が結合した状態で、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を反応させると、(c)に示すように、担持材料11に結合させた化合物が、シク
ロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体に包接化される。
【0018】
上記の第1工程及び第2工程を経て得られたシクロデキストリン包接体の担持体は、化合物が特定の官能基により担持材料に担持され、この化合物がシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体が包接化されている。このため、包接化された化合物の、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の中空筒の担持材料の側と反対側で反応可能な反応部位は、担持材料表面による立体障害を受けることがない。従って、このシクロデキストリン包接体の担持体は、シクロデキストリン包接体が担持材料に担持されたことによっては、上記の反応部位の反応性が損なわれることがない。
【0019】
このようにして得られたシクロデキストリン包接体の担持体において、上記の反応部位での反応を、図2に示す。シクロデキストリン環の中空筒の担持材料に担持された側と反対側で、上記の反応部位における反応が行われる。このため、この反応は、担持材料11の表面による立体障害を受けることがなく、シクロデキストリン包接体が担持材料11に担持されていることによっては、包接化された化合物の反応性が損なわれることはない。
【0020】
<具体例>
次に、包接化される化合物の具体例を挙げて説明する。ここでは、包接化される化合物の具体例として、ヒドラジン誘導体と、4,4’−ジイソチオシアノ−2,2’−スチルベンジスルホン酸ジナトリウム塩(DIDS (4,4'-Diisothiocyano-2,2'-Stilbenedisulfonic Acid, Disodium Salt))とを挙げて説明する。なお、これらは本発明の範囲を何ら制限するものではない。
(包接化される化合物がヒドラジン誘導体である場合)
包接化される化合物がヒドラジン誘導体である場合について、上記の説明で用いた図1及び図2を用いて、具体的に説明する。まず、ヒドラジン誘導体を包接化したシクロデキストリン包接体の担持体を製造する手順について、図1を用いて説明する。
この場合、まず、ヒドラジン誘導体を、例えば、上記のような樹脂から成るフィルタ素材に担持材料に担持させる。具体的には、担持されるヒドラジン誘導体を含有する溶液中に、このフィルタ素材を浸漬する。これにより、フィルタ素材の上記の官能基とヒドラジン誘導体の官能基とが結合して、フィルタ素材にヒドラジン誘導体が担持される。
【0021】
これにより、ヒドラジン誘導体は、上記の特定の官能基の部位でのみフィルタ素材に担持され、(b)に示すように、ヒドラジノ基(−NH−NH2)は、残存される。
このように、フィルタ素材にヒドラジン誘導体を担持させた場合、ヒドラジン誘導体を担持したフィルタ素材を、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の溶液に浸漬する。これにより、(c)に示すように、担持材料に担持されたヒドラジン誘導体が、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体により包接化される。
【0022】
このようにして得られたシクロデキストリン包接体の担持体においては、包接化されたヒドラジン誘導体のヒドラジノ基は、担持材料表面による立体障害を受けることがない。つまり、図2に示すように、シクロデキストリン環の中空筒の担持材料に担持された側と反対側で、包接化されたヒドラジン誘導体のヒドラジノ基がアルデヒド類又はケトン類と反応するため、この反応は、担持材料表面による立体障害を受けることがない。従って、このようにして得られたシクロデキストリン包接体の担持体では、包接化されたヒドラジン誘導体のヒドラジノ基の反応性が、シクロデキストリン包接体が担持材料に担持されたことによって損なわれることがない。
(包接化される化合物がDIDSである場合)
DIDSは、陰イオン交換阻害剤として知られている化合物であり、次の化1の化学式で示される。
【0023】
【化1】

化1に示すように、DIDSは、2つのイソチオシアネート基(−N=C=S)を有している。このイソチオシアネート基の一方を担持材料と結合させて、もう一方のイソチオシアネート基をタンパク質と結合させることにより、DIDSを介してタンパク質を担持材料に結合させることができる。このDIDSの安定性は高くないが、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体により包接化することにより、このDIDSを安定化することができる。この場合も、上記の第1工程及び第2工程を経てシクロデキストリン包接体の担持体を形成させることにより、包接化されたDIDSの担持材料と結合していないイソチオシアネート基は、担持材料表面による立体障害を受けることがない。
【0024】
包接化される化合物がDIDSである場合について、シクロデキストリン包接体の担持方法と、得られたシクロデキストリン包接体の担持体の反応について、以下に詳述する。
イソチオシアネート基は、タンパク質やペプチドのN末端アミノ酸残基のα−アミノ基やリシン残基側鎖のε−アミノ基とカップリングする。このため、このイソチオシアネート基を表面に有する固体担体を用いることにより、タンパク質やペプチドを回収することが可能となる。
【0025】
このイソチオシアネート基を表面に有する固体担体は、例えば、DIDSを担持材料に担持させることにより得られる。上述のようにDIDSは、2つのイソチオシアネート基を有しており、そのうちの1つを担持材料との結合に用い、もう1つをタンパク質との結合に用いる。イソチオシアネート基によるDIDSの担持材料との結合のためには、担持材料がイソチオシアネート基と結合する官能基を有していればよい。例えば、担持材料が遊離のアミノ基を有している場合には、DIDSを担持材料に担持させることができる。
【0026】
そして、この担持材料に担持されたDIDSをシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体により包接化する。これにより、DIDSが安定化される。また、担持材料と結合していないイソチオシアネート基は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の中空筒の担持材料と結合している側とは反対側で反応可能となっている。
このようにして得られたシクロデキストリン包接体の担持体においては、包接化されたDIDSの一方のイソチオシアネート基は、担持材料表面による立体障害を受けることがない。従って、このようにして得られたシクロデキストリン包接体の担持体では、包接化されたDIDSのイソチオシアネート基の反応性が、シクロデキストリン包接体が担持材料に担持されたことによって損なわれることがない。
そして、このイソチオシアネート基が、タンパク質やペプチドのN末端アミノ酸残基のα−アミノ基やリシン残基側鎖のε−アミノ基とカップリングすることにより、包接化されたDIDSを介して、担持材料にタンパク質やペプチドが結合される。
このようにしてDIDSを包接化したシクロデキストリン包接体を介して担持材料にタンパク質又はペプチドを結合することにより、タンパク質又はペプチドの回収や、各種の分析を行うことが可能となる。
以上、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
・ 上記実施形態では、担持材料の官能基と反応する官能基を有する化合物を反応させて、前記担持材料に前記化合物を担持させた後、前記化合物とシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体との包接体を形成させる。これにより、シクロデキストリンに包接化される化合物の特定の官能基によりシクロデキストリン包接体を担持材料に結合させ
ることができる。このため、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の中空筒型の構造の一方の側は、担持材料表面とは反対側に位置することとなり、この位置で反応する反応部位が担持材料表面による立体障害を受けることがない。従って、シクロデキストリン包接体を担持材料に担持させた場合に、シクロデキストリン包接体における包接化された化合物の反応性を低下させないようにすることができる。
【0027】
・ 上記実施形態では、担持材料の官能基と反応する化合物の官能基は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、イソチオシアネート基、マレイミド基又はアミノ基とすることができる。これによれば、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、イソチオシアネート基、マレイミド基又はアミノ基を有する化合物を、その官能基と結合可能な官能基を有する担持材料にそれぞれ担持させることができる。
【0028】
・ 上記実施形態では、包接体において、化合物の特定の反応部位が、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体の中空筒型の構造の担持材料の側とは反対側で反応可能に位置する。これによれば、化合物の特定の反応部位が担持材料表面による立体障害を受けることがない。従って、シクロデキストリン包接体を担持材料に担持させた場合に、シクロデキストリン包接体における包接化された化合物の反応性を低下させないようにすることができる。
・ 上記実施形態では、シクロデキストリン又はシクロデキストリンの誘導体として、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又は、これらのシクロデキストリンに何らかの化学修飾を施したものを用いる。これにより、包接化される化合物のサイズに応じて、この化合物をより安定化し、かつ、この化合物の反応性を保つのにより適したサイズのシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を選択することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のシクロデキストリン包接体の担持方法を示す説明図。
【図2】シクロデキストリン包接体の担持体による反応を示す説明図。
【符号の説明】
【0030】
11…担持材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持材料の官能基と反応する官能基を有する化合物を反応させて、前記担持材料に前記化合物を担持させた後、前記化合物とシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体との包接体を形成させることを特徴とするシクロデキストリン包接体の担持方法。
【請求項2】
前記担持材料の官能基と反応する前記化合物の官能基は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、イソチオシアネート基、マレイミド基又はアミノ基であることを特徴とする請求項1に記載のシクロデキストリン包接体の担持方法。
【請求項3】
前記包接体において、前記化合物の特定の反応部位が、前記シクロデキストリン又は前記シクロデキストリン誘導体の中空筒型の構造の前記担持材料の側とは反対側で反応可能に位置すること特徴とする請求項1又は2に記載のシクロデキストリン包接体の担持方法。
【請求項4】
前記シクロデキストリン又は前記シクロデキストリンの誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又は、これらのシクロデキストリンに何らかの化学修飾を施したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のシクロデキストリン包接体の担持方法。
【請求項5】
担持材料に前記担持材料の官能基と反応する官能基を有する化合物を反応させて、前記担持材料に前記化合物を担持させた後、前記化合物とシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体との包接体を形成させたシクロデキストリン包接体の担持体。
【請求項6】
前記担持材料の官能基と反応する前記化合物の官能基は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、イソチオシアネート基、マレイミド基又はアミノ基であることを特徴とする請求項5に記載のシクロデキストリン包接体の担持体。
【請求項7】
前記包接体において、前記化合物の特定の反応部位が、前記シクロデキストリン又は前記シクロデキストリン誘導体の中空筒型の構造の前記担持材料の側とは反対側で反応可能に位置すること特徴とする請求項5又は6に記載のシクロデキストリン包接体の担持体。
【請求項8】
前記シクロデキストリン又は前記シクロデキストリンの誘導体が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又は、これらのシクロデキストリンに何らかの化学修飾を施したものであることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つに記載のシクロデキストリン包接体の担持体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−45269(P2006−45269A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224623(P2004−224623)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】