説明

シクロブタノン誘導体の安定化方法

【課題】シクロブタノン誘導体を安定化するにあたり、添加される安定化剤を、シクロブタノン誘導体から、再び簡単に取り除くことができ、その安定化剤自体が、更なる医薬品作用物質合成の妨げとならず、かつ毒性の問題がないことことが望まれていた。
【解決手段】シクロブタノン誘導体中に溶解されていない、例えば、2質量%の炭酸ナトリウムもしくは酸化カルシウムの添加でも、複数週間にわたるシクロブタノンの貯蔵安定性をもたらすことが判明し、それにより、この安定化剤が生成物中に未溶解で存在するため、濾過によって簡単に生成物から取り除け、前記安定化剤は、毒性の問題がない物質であって、くわえて廉価な物質であるという利点を有していた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロブタノン誘導体の安定化方法にも、相応して安定化されたシクロブタノン誘導体にも関する。
【背景技術】
【0002】
シクロブタノンとその誘導体は、有機化合物の幾つかの製造方法のために重要な出発物質である。シクロブタノンの製造は、種々の方法により知られている。ここで、シクロブタノンは、例えばDE10162456号に記載されるように、シクロプロピルメタノールを水溶液中で酸性の不均一系触媒の存在下で転位させ、そして引き続き不均一系触媒を使用して脱水素させることによって得ることができる。シクロブタノンの更なる製造方法を、DE19910464号が記載しており、そこでは、シクロブタノンの製造は、シクロブタノールをアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の次亜塩素酸塩により酸化させることによって行われている。
【0003】
純粋なシクロブタノンの製造は、格別な挑戦である。それというのも、その目的生成物は、出発物質によって、シクロブタノンの製造に際して、貯蔵によっても生じうる二次成分によって、一般に汚染されているからである。ここで、WO2002/48083号A2は、水性シクロブタノン中で不純物として検出できる数多くの化合物を記載している。これらの不純物は、しばしば有色の化合物であるため、汚染されたシクロブタノンは、その色により察しが付く。ここで、Eastman社は、WO2002/48083号においても、EP1180509号においても、5段階の方法工程を介した、粗製シクロブタノンの精製方法を記載しており、それにより、シクロブタノンは、90%より高い純度で得ることができる。
【0004】
前記の手間のかかるシクロブタノンの製造方法にもかかわらず、数日後又は数ヶ月後には、シクロブタノン中に沈殿物が形成する。この沈殿物は、シクロブタノンを数多くの製造方法で使用するためには非常に煩わしいものである。不純物の形成を低下させるために、シクロブタノンは、冷却され、かつ遮光された包装において供給される。シクロブタノンの分解のメカニズムは、例えばWO2002/48083号に列挙されるように、幾つかの文献において記載されている。
【0005】
シクロブタノンとその誘導体は、医薬品作用物質合成のための合成用構成単位として用いられるので、どのような二次生成物の阻止も望まれている。一方で、この場合に、シクロブタノンの重合傾向が阻止されるべきであり、他方で、反応生成物の形成が阻止されるべきである。ここで、WO2002/48083号は、輸送及び貯蔵による副生成物の形成を阻止するために、シクロブタノン及びその誘導体にフェノール性化合物を添加することを記載しており、それらは、生成物中に均質に分配されている。このフェノール性化合物は、フェノールを基礎とする古典的な安定化剤、いわゆる立体障害フェノール、例えばKuerzel BHTとしても知られる、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールである。
【特許文献1】DE10162456号
【特許文献2】DE19910464号
【特許文献3】WO2002/48083号A2
【特許文献4】EP1180509号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、目下、シクロブタノン誘導体の安定化方法を提供することであった。特に、添加された安定化剤は、シクロブタノン誘導体から、再び簡単に取り除くことができ、そのため、安定化剤自体が、更なる医薬品作用物質合成の妨げとならないことが望ましい。更に、使用される安定化剤は、毒性の問題がないことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、シクロブタノン誘導体中に溶解されていない安定化剤も十分に安定化することを見出すことができた。ここで、例えば、2質量%の炭酸ナトリウムもしくは酸化カルシウムの添加でも、複数週間にわたるシクロブタノンの貯蔵安定性をもたらす。本発明は、先行技術に対して、この安定化剤が生成物中に未溶解で存在するため、濾過によって簡単に生成物から取り除けるという利点を有する。更に、本発明による方法で使用される安定化剤は、毒性の問題がない物質であって、くわえて廉価な物質である。
【0008】
従って、本発明の対象は、シクロブタノン誘導体の安定化方法において、構造1
【化1】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、互いに無関係に、水素、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、シアン基又はカルボキシ基である]で示されるシクロブタノン誘導体に、安定化剤として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は酸化物を添加することを特徴とする方法である。
【0009】
本発明の更なる対象は、安定化されたシクロブタノン誘導体であって、構造1で示されるシクロブタノン誘導体が、安定化剤として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は酸化物を有することを特徴とする、安定化されたシクロブタノン誘導体である。
【0010】
本発明によるシクロブタノン誘導体の安定化方法は、構造1で示されるシクロブタノン誘導体に、安定化剤として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は酸化物を添加することを特徴とする。
【0011】
有利には、本発明による方法において、R1〜R6の種類の置換基として水素を有する、シクロブタノン誘導体が使用される。本発明による方法の格別な一実施態様において、種々のシクロブタノン誘導体の混合物を使用することもできる。
【0012】
有利には、本発明による方法において、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムから選択されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、又は酸化マグネシウム及び酸化カルシウムから選択されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物が、安定化剤として使用される。有利には、本発明による方法においては、シクロブタノン誘導体に、炭酸ナトリウムが添加される。種々のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる混合物も、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物からなる混合物も、いずれも安定化剤として使用することができる。本発明による方法において、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩と酸化物からなる混合物も、安定化剤として使用することができる。安定化剤、すなわちアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩及び酸化物は、シクロブタノン誘導体に、有利には、合計で、シクロブタノン誘導体に対して、0.1〜5質量%の量で、好ましくは0.5〜3質量%の量で、本発明による方法において添加される。
【0013】
安定化剤の添加は、本発明による方法においては、有利には固体として行われる。本発明による方法で使用される安定化剤は、シクロブタノン誘導体中に不溶性なので、従って安定化剤を、製造方法で、出発物質としてシクロブタノン誘導体を使用する直前に、例えば濾過又はデカンテーションによって簡単に分離することができる。
【0014】
安定化剤の添加は、本発明による方法においては、有利には、20〜30℃の温度で、好ましくは20.5〜24℃の温度で、特に好ましくは室温で行われる。
【0015】
本発明による方法において好ましいのは、安定化剤が、後処理の最後の方法工程の直後に添加されることであり、そのため、安定化剤の添加前には、もう不所望な副生成物は可能な限り形成されない。好ましくは、安定化剤の添加は、シクロブタノン誘導体の蒸留直後に行われる。
【0016】
本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体は、構造1
【化2】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、互いに無関係に、水素、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、シアン基又はカルボキシ基である]で示されるシクロブタノン誘導体が、安定化剤として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は酸化物を有することを特徴とする。
【0017】
好ましくは、本発明による安定化されたシクロブタノンは、R1〜R6の種類の置換基として水素を有するシクロブタノン誘導体を有する。本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体の格別な一実施態様においては、これは、種々のシクロブタノン誘導体の混合物を有してもよい。
【0018】
有利には、本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体は、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムから選択されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、又は酸化マグネシウム及び酸化カルシウムから選択されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物を、安定化剤として有する。有利には、本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体は、安定化剤として、炭酸ナトリウムを有する。本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体は、種々のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩からなる混合物も、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物からなる混合物も、いずれも安定化剤として有してよい。また、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び酸化物からなる混合物を、本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体が、安定化剤として有してもよい。
【0019】
本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体は、安定化剤、すなわちアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩及び酸化物を、合計で、シクロブタノン誘導体に対して、0.1〜5質量%の量で、好ましくは0.5〜3質量%の量で有する。
【0020】
安定化剤は、本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体においては、主に固体として存在し、特にアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩も酸化物も、沈殿物として又は懸濁液の形態で存在する。
【0021】
本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体は、本発明による方法に従って製造することができる。
【0022】
以下の実施例は、本発明による安定化されたシクロブタノン誘導体もその製造をも詳説するが、但し本発明はこの実施態様に制限されるべきではない。
【実施例】
【0023】
5gのシクロブタノンを、スナップキャップ付ガラス容器(Schnappdeckelglaeschen)中に秤量し、そして試験されるべき安定化剤それぞれ0.1gと混合する。貯蔵を室温で行う。純度の調査は、ガスクロマトグラフィー分析によって行う(カラム:30mのDB−WAX,ID 0.25mm、FD 0.25μ;等温50℃で6分/1分間で10℃において250℃まで;評価は面積%GC−FI%で行う)。それらのサンプルを、ガスクロマトグラフィー分析の前に、ジエチルエーテルで、シクロブタノンとジエチルエーテルの比率1:2(質量に対する)において希釈する。
【0024】
【表1】

【0025】
2,2,6,6−テトラメチルピペリジンは、同様に安定化剤であるが、その毒性学的データに基づき、実際にはシクロブタノン用の安定化剤としては排除されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロブタノン誘導体の安定化方法において、構造
【化1】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、互いに無関係に、水素、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、シアン基又はカルボキシ基である]で示されるシクロブタノン誘導体に、安定化剤として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は酸化物を添加することを特徴とする、シクロブタノン誘導体の安定化方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシクロブタノン誘導体の安定化方法において、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムから選択されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、又は酸化マグネシウム及び酸化カルシウムから選択されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物を、安定化剤として使用することを特徴とする、シクロブタノン誘導体の安定化方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシクロブタノン誘導体の安定化方法において、安定化剤として、炭酸ナトリウムを使用することを特徴とする、シクロブタノン誘導体の安定化方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載のシクロブタノン誘導体の安定化方法において、安定化剤を、シクロブタノン誘導体に対して、0.1〜5質量%の量で、シクロブタノン誘導体に添加することを特徴とする、シクロブタノン誘導体の安定化方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のシクロブタノン誘導体の安定化方法において、安定化剤を固体として添加することを特徴とする、シクロブタノン誘導体の安定化方法。
【請求項6】
安定化されたシクロブタノン誘導体であって、構造
【化2】

[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、互いに無関係に、水素、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、シアン基又はカルボキシ基である]で示されるシクロブタノン誘導体が、安定化剤として、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は酸化物を有することを特徴とする、安定化されたシクロブタノン誘導体。
【請求項7】
請求項6に記載の安定化されたシクロブタノン誘導体であって、安定化されたシクロブタノン誘導体が、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムから選択されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、又は酸化マグネシウム及び酸化カルシウムから選択されるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物を、安定化剤として有することを特徴とする、安定化されたシクロブタノン誘導体。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の安定化されたシクロブタノン誘導体であって、安定化されたシクロブタノン誘導体が、安定化剤として、炭酸ナトリウムを有することを特徴とする、安定化されたシクロブタノン誘導体。
【請求項9】
請求項6から8までのいずれか1項に記載の安定化されたシクロブタノン誘導体であって、安定化されたシクロブタノン誘導体が、安定化剤を、シクロブタノン誘導体に対して、0.1〜5質量%の量で有することを特徴とする、安定化されたシクロブタノン誘導体。
【請求項10】
請求項6から9までのいずれか1項に記載の安定化されたシクロブタノン誘導体であって、安定化されたシクロブタノン誘導体が、安定化剤を固体として有することを特徴とする、安定化されたシクロブタノン誘導体。

【公開番号】特開2008−222715(P2008−222715A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56260(P2008−56260)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】