説明

シクロプロペン組成物

【課題】シクロプロペンを含有する組成物を提供する。
【解決手段】(a)少なくとも1種のシクロプロペン分子カプセル化剤複合体、および
(b)塩化カルシウム以外の少なくとも1種の塩
を含む組成物であって、前記塩の乾燥重量の、前記シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の乾燥重量に対する比が0.03〜500であり、前記組成物が
(i)前記組成物の重量基準で30重量%以下の水を有し、かつ非潮解性である少なくとも1つの塩を有するか、または
(ii)前記組成物の重量基準で30重量%より多い水を有し、かつ前記塩の乾燥重量の、前記水の重量に対する比が0.05以上であるか;のいずれかである組成物が提供される。
かかる組成物の保存法および使用法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
シクロプロペン化合物群は、植物または植物の部分を処理するために有用である。シクロプロペン類を保存する方法またはこれを植物の部分に送達する方法、またはその両方として、シクロプロペン類分子と分子複合化剤の複合体を形成することが有用である場合がある。過去において、かかる複合体と水との間の接触は、複合体から迅速にシクロプロペン分子を放出させると考えられていた。過去においてはまた、かかる複合体を水と混合する場合、シクロプロペンの一部または全部が消失し、これはおそらくは1以上の化学反応がシクロプロペンを異なる化合物に変えるためである。
【0002】
米国特許第6,426,319号は、シクロプロペンと分子カプセル化剤の複合体からシクロプロペンを放出する方法を開示している。米国特許第6,426,319号の方法は、分子カプセル化剤中に封入されたシクロプロペンおよび水吸収物質を含む組成物であって、例えば、無機潮解性化合物であってもよいものを含む組成物の使用を含む。米国特許第6,426,319号の方法において、かかる複合体が水または高湿度雰囲気にさらされた場合、シクロプロペンが雰囲気中に放出される。
【特許文献1】米国特許第6,426,319号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
シクロプロペンを含有する組成物であって;水を含有し;(A)保存中および/または加工中のシクロプロペンの分解を遅延または防止すること、または(B)シクロプロペンの大気への放出を遅延または防止することの一方または両方の利点を有する組成物を提供することが望ましい。シクロプロペンを含有し、水に添加されて、前記定義の(A)または(B)と同じ利点の一方または両方を有する水含有組成物を形成できる組成物を提供することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第一の態様において、
(a)少なくとも1種のシクロプロペン分子カプセル化剤複合体、および
(b)塩化カルシウム以外の少なくとも1種の塩
を含む組成物であって、前記塩の乾燥重量の、前記シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の乾燥重量に対する比が0.03〜500であり、前記組成物が
(i)前記組成物の重量基準で30重量%以下の水を有し、かつ非潮解性である少なくとも1つの塩を有するか、または
(ii)前記組成物の重量基準で30重量%より多い水を有し、かつ前記塩の乾燥重量の、前記水の重量に対する比が0.05以上であるか、
のいずれかである組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の実施は、1種以上のシクロプロペンの使用を含む。本明細書において用いられる場合、「シクロプロペン」は式:
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、各R、R、R、およびRは独立して、Hおよび式:
−(L)−Z
(式中、nは0〜12の整数である)
の化学基からなる群から独立して選択される)を有する任意の化合物である。各−L−は二価の基である。好適なL基は、例えば、B、C、N、O、P、S、Si、またはその混合物から選択される1以上の原子を含有する基を含む。L基内の原子は、単結合、二重結合、三重結合、またはその混合物により互いに結合することができる。各L基は直鎖、分岐、環状、またはその組み合わせである。任意の1つのR基(すなわち、R、R、R、およびRのいずれか1つ)において、ヘテロ原子(すなわち、HでもCでもない原子)の合計数は0〜6である。独立して、任意の1つのR基において、非水素原子の合計数は50以下である。各Zは独立して、水素、ハロ、シアノ、ニトロソ、アジド、クロレート、ブロメート、イオデート、イソシアナト、イソシアニド、イソチオシアナト、ペンタフルオロチオ、および化学基Gからなる群から選択され、ここで、Gは3〜14員環系である。
【0008】
、R、R、およびRの少なくとも1つが水素でなく、1より多いL基を有する実施態様において、この特定のR、R、R、またはR基内のL基は、同じR、R、R、またはR基内の他のL基と同じであってもよく、または特定のR、R、R、またはR基内の任意の数のL基は同じR、R、R、またはR基内の他のL基と異なっていてもよい。
【0009】
、R、R、およびRの少なくとも1つが1より多いZ基を含有する実施態様において、R、R、R、またはR基内のZ基はR、R、R、またはR基内の他のZ基と同じであってもよく、またはR、R、R、またはR基内の任意の数のZ基はR、R、R、またはR基内の他のZ基と異なっていてもよい。
【0010】
、R、R、およびR基は独立して好適な基から選択される。R、R、R、およびR基は、互いに同じであってもよく、あるいはこれらのうちの任意の数が他と異なっていてもよい。R、R、R、およびRの1以上としての使用に好適な基には、例えば、脂肪族基、脂肪族オキシ基、アルキルホスホナト基、脂環式基、シクロアルキルスルホニル基、シクロアルキルアミノ基、複素環式基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、シリル基、他の基、ならびにその混合物および組み合わせが含まれる。1以上のR、R、R、およびRとしての使用に好適な基は、置換されていても、置換されていなくてもよい。独立して、1以上のR、R、R、およびRとしての使用に好適な基は、シクロプロペン環に直接結合することができるか、または介在基、例えば、ヘテロ原子含有基を介してシクロプロペン環に結合させることができる。
【0011】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、脂肪族基が挙げられる。いくつかの好適な脂肪族基は、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニル基を包含する。好適な脂肪族基は、直鎖、分岐、環状、またはその組み合わせであってよい。独立して、好適な脂肪族基は置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0012】
本明細書において用いられる場合、目的の化学基の1以上の水素原子が置換基で置換されているならば、目的の化学基は「置換されている」と言われる。このような置換基は任意の方法、例えば、これに限定されないが、目的の化学基の非置換形態を形成し、次いで置換を行うことにより形成することができると考えられる。好適な置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アセチルアミノ、アルコキシ、アルコキシアルコキシ、アルコキシカルボニル、アルコキシイミノ、カルボキシ、ハロ、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、アルキルスルホニル、アルキルチオ、トリアルキルシリル、ジアルキルアミノ、およびその組み合わせが挙げられる。存在するならば、単独または別の好適な置換基との組み合わせにおいて存在し得る、さらなる好適な置換基は、−(L)−Zであり、式中、mは0〜8であり、LおよびZは前記定義の通りである。1より多い置換基が目的の1つの化学基上に存在するならば、各置換基は異なる水素原子と置換することができるか、または1つの置換基を別の置換基と結合させ、これを次に目的の化学基と結合させるか、またはその組み合わせであってよい。
【0013】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、置換および非置換脂肪族オキシ基、例えば、アルケノキシ、アルコキシ、アルキノキシ、およびアルコキシカルボニルオキシが含まれる。
【0014】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、置換および非置換アルキルホスホナト、置換および非置換アルキルホスファト、置換および非置換アルキルアミノ、置換および非置換アルキルスルホニル、置換および非置換アルキルカルボニル、ならびに置換および非置換アルキルアミノスルホニル、例えば、アルキルホスホナト、ジアルキルホスファト、ジアルキルチオホスファト、ジアルキルアミノ、アルキルカルボニル、およびジアルキルアミノスルホニルも含まれる。
【0015】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、置換および非置換シクロアルキルスルホニル基およびシクロアルキルアミノ基、たとえば、ジシクロアルキルアミノスルホニルおよびジシクロアルキルアミノも含まれる。
【0016】
好適なR、R、R、およびR基には、たとえば、置換および非置換ヘテロサイクリル基(すなわち、環中に少なくとも1つのヘテロ原子を有する非芳香族環状基)も含まれる。
【0017】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、介在オキシ基、アミノ基、カルボニル基、またはスルホニル基によりシクロプロペン化合物と結合した置換および非置換ヘテロサイクリル基も含まれ;かかるR、R、R、およびR基の例は、ヘテロサイクリルオキシ、ヘテロサイクリルカルボニル、ジヘテロサイクリルアミノ、およびジヘテロサイクリルアミノスルホニルである。
【0018】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、置換および非置換アリール基、ならびに置換および非置換ヘテロアリール基も含まれる。好適な置換基は、本明細書において前述のものである。いくつかの実施態様において、少なくとも1つの置換基がアルケニル、アルキル、アルキニル、アセチルアミノ、オキシ、アルコキシアルコキシ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、カルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、アリールアミノ、ハロアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、トリアルキルシリル、ジアルキルアミノ、アルキルスルホニル、スルホニルアルキル、アルキルチオ、チオアルキル、アリールアミノスルホニル、およびハロアルキルチオの1以上である、1以上の置換アリールまたはヘテロアリール基が使用される。
【0019】
好適なR、R、R、およびR基には、たとえば、介在オキシ基、アミノ基、カルボニル基、スルホニル基、チオアルキル基、またはアミノスルホニル基によりシクロプロペン化合物に結合した置換および非置換ヘテロアリール基が挙げられ;このようなR、R、R、およびR基の例は、ジヘテロアリールアミノ、ヘテロアリールチオアルキル、およびジヘテロアリールアミノスルホニルである。
【0020】
好適なR、R、R、およびR基には、例えば、水素、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、シアノ、ニトロ、ニトロソ、アジド、クロレート、ブロメート、イオデート、イソシアナト、イソシアニド、イソチオシアナト、ペンタフルオロチオ;アセトキシ、カルボエトキシ、シアナト、ニトラト、ニトリト、パークロラト、アレニル;ブチルメルカプト、ジエチルホスホナト、ジメチルフェニルシリル、イソキノリル、メルカプト、ナフチル、フェノキシ、フェニル、ピペリジノ、ピリジル、キノリル、トリエチルシリル、トリメチルシリル;およびその置換類似体が挙げられる。
【0021】
本明細書において用いられる場合、化学基Gは3〜14員環系である。化学基Gとして好適な環系は、置換されていても、または置換されていなくてもよく;これらは芳香族(たとえば、フェニルおよびナフチルを包含する)または脂肪族(不飽和脂肪族、部分飽和脂肪族、または飽和脂肪族を包含する)であってよく;これらは炭素環式または複素環式であってよい。複素環Gにおいて、いくつかの好適なヘテロ原子は、たとえば、窒素、硫黄、酸素、およびその組み合わせである。化学基Gとして好適な環系は単環式、二環式、三環式、多環式、または縮合環であってよく;二環式、三環式、または縮合環である好適な化学基G環系においては、1つの化学基G中の様々な環は全て同じ種類であっても、2種以上であってもよい(例えば、芳香族環は脂肪族環と縮合してもよい)。
【0022】
いくつかの実施態様において、Gは飽和または不飽和3員環を含有する環系、例えば、置換または非置換シクロプロパン、シクロプロペン、エポキシド、またはアジリジン環を含有する。
【0023】
いくつかの実施態様において、Gは4員複素環を含有する環系であり;かかる実施態様のいくつかにおいて、複素環はちょうど1個のヘテロ原子を含有する。独立して、いくつかの実施態様において、Gは5員環以上の複素環を含有する環系であり;かかる実施態様のいくつかにおいて、複素環は1〜4個のヘテロ原子を含有する。独立して、いくつかの実施態様において、G中の環は非置換であり;他の態様において、環系は1〜5個の置換基を有し;Gが置換基を含有する実施態様のいくつかにおいて、各置換基は独立して、前記置換基から選択される。Gが炭素環系である実施態様も好適である。
【0024】
いくつかの実施態様において、各Gは独立して、置換または非置換フェニル、ピリジル、シクロヘキシル、シクロペンチル、シクロヘプチル、ピロリル、フリル、チオフェニル、トリアゾリル、ピラゾリル、1,3−ジオキソラニル、またはモルホリニルである。これらの実施態様には、例えば、Gが非置換または置換フェニル、シクロペンチル、シクロヘプチル、またはシクロヘキシルである実施態様が含まれる。これらの実施態様のいくつかにおいて、Gは、シクロペンチル、シクロヘプチル、シクロヘキシル、フェニル、または置換フェニルである。Gが置換フェニルである実施態様には、例えば、1、2、または3個の置換基がある実施態様が含まれる。独立して、Gが置換フェニルである実施態様には、例えば、置換基が独立して、メチル、メトキシ、およびハロから選択される実施態様も含まれる。
【0025】
およびRが組み合わされて1つの基であって、シクロプロペン環の第3番の炭素に二重結合により結合する基になる実施態様も想定される。このような化合物のいくつかは、米国特許出願公開番号2005/0288189号に記載されている。
【0026】
いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上が水素である1種以上のシクロプロペンが用いられる。いくつかの実施態様において、RまたはR、あるいはRおよびRの両方は水素である。独立して、RまたはR、あるいはRおよびRの両方は水素である。いくつかの実施態様において、R、R、およびRは水素である。
【0027】
いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上は二重結合を有さない構造である。独立して、いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上は三重結合を有さない構造である。独立して、いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上はハロゲン原子置換基を有さない構造である。独立して、いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上はイオン性である置換基を有さない構造である。独立して、いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上は酸素化合物を生成できない構造である。
【0028】
本発明のいくつかの実施態様において、R、R、R、およびRの1以上は水素または(C−C10)アルキルである。いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRのそれぞれは水素または(C−C)アルキルである。いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRのそれぞれは水素または(C−C)アルキルである。いくつかの実施態様において、R、R、R、およびRのそれぞれは水素またはメチルである。いくつかの実施態様において、Rは(C−C)アルキルであり、R、R、およびRのそれぞれは水素である。いくつかの実施態様において、Rはメチルであり、R、R、およびRのそれぞれは水素であり、このシクロプロペンは本明細書において「1−MCP」と呼ばれる。
【0029】
いくつかの実施態様において、1気圧で50℃以下;または25℃以下;または15℃以下の沸点を有するシクロプロペンが使用される。独立して、いくつかの実施態様において、1気圧で−100℃以上;−50℃以上;または−25℃以上;または0℃以上の沸点を有するシクロプロペンが使用される。
【0030】
本発明に適用可能なシクロプロペンは任意の方法で調製できる。シクロプロペンのいくつかの好適な調製法は、米国特許第5,518,988号および第6,017,849号において開示されている方法である。
【0031】
本発明の組成物は、少なくとも1つの分子カプセル化剤を含む。いくつかの実施態様において、少なくとも1つの分子カプセル化剤は、1以上のシクロプロペンまたは1以上のシクロプロペンの一部を封入する。分子カプセル化剤の分子中に封入されたシクロプロペン分子またはシクロプロペン分子の一部を含有する複合体は、本明細書においては「シクロプロペン分子カプセル化剤複合体」と呼ばれる。
【0032】
いくつかの実施態様において、少なくとも1つのシクロプロペン分子カプセル化剤複合体であって、包接複合体であるものが存在する。かかる包接複合体において、分子カプセル化剤は空洞を形成し、シクロプロペンまたはシクロプロペンの一部はこの空洞内に位置する。かかる包接複合体のいくつかにおいて、シクロプロペンと分子カプセル化剤の間に共有結合はない。独立して、かかる包接複合体のいくつかにおいて、シクロプロペン中の1以上の極性部分と分子カプセル化剤中の1以上の極性部分の間に静電気引力があるかどうかにかかわらず、シクロプロペンと分子カプセル化複合体の間にイオン結合はない。
【0033】
独立して、かかる包接複合体のいくつかにおいて、分子カプセル化剤の空洞の内部は実質的に非極性または疎水性または両方であり、かつシクロプロペン(または空洞内に位置するシクロプロペンの部分)も実質的に非極性または疎水性または両方である。本発明は任意の特定の理論またはメカニズムに限定されないが、かかる非極性シクロプロペン分子カプセル化剤複合体において、ファンデルワールス力、または疎水的相互作用、または両方は、シクロプロペン分子またはその部分を分子カプセル化剤の空洞内にとどまらせると考えられる。
【0034】
シクロプロペン分子カプセル化剤複合体は、任意の手段により調製できる。1つの調製法において、たとえば、かかる複合体は、シクロプロペンを分子カプセル化剤の溶液またはスラリーと接触させ、次いで、たとえば、米国特許第6,017,849号において開示されている方法を用いて複合体を単離することにより調製される。たとえば、1−MCPが分子カプセル化剤中に封入されている複合体を調製する1つの方法において、1−MCPガスをアルファ−シクロデキストリンの水中溶液中に吹き込み、この溶液から複合体がまず沈殿し、次いで濾過により単離される。いくつかの実施態様において、複合体は前記方法により調製され、単離後、乾燥され、固体形態、たとえば、粉末において後に有用な組成物に添加するために保存される。
【0035】
分子カプセル化剤の量は、有用には、分子カプセル化剤のモル数の、シクロプロペンのモル数に対する比により特徴づけることができる。いくつかの実施態様において、分子カプセル化剤のモル数の、シクロプロペンのモル数に対する比は0.1以上;または0.2以上;または0.5以上;または0.9以上である。独立して、このような実施態様のいくつかにおいて、分子カプセル化剤のモル数の、シクロプロペンのモル数に対する比は2以下;または1.5以下である。
【0036】
好適な分子カプセル化剤としては、たとえば、有機および無機分子カプセル化剤が挙げられる。好適な有機分子カプセル化剤としては、たとえば、置換シクロデキストリン類、非置換シクロデキストリン類、およびクラウンエーテル類が挙げられる。好適な無機分子カプセル化剤としては、たとえばゼオライト類が挙げられる。好適な分子カプセル化剤の混合物もまた好適である。本発明のいくつかの態様において、カプセル化剤はアルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリン、ガンマ−シクロデキストリン、またはこれらの混合物である。本発明のある態様において、アルファ−シクロデキストリンが使用される。好ましいカプセル化剤は使用されるシクロプロペン(単一種または複数種)の構造に応じて変化するであろう。任意のシクロデキストリンまたはシクロデキストリン類の混合物、シクロデキストリンポリマー、変性シクロデキストリン、またはこれらの混合物も本発明に従って使用することができる。いくつかのシクロデキストリン類は、ミシガン州エイドリアンのWacker Biochem Inc.,またはインディアナ州ハモンドのCerestar USA、ならびにその他の供給業者から入手することができる。
【0037】
本発明の実践は、塩化カルシウム以外の少なくとも1種の塩の使用を含む。本明細書において用いられる場合、塩は、少なくとも1種のアニオンおよび少なくとも1種のカチオンを含むイオン性化合物である。塩はイオン性固体として、または水中溶液として存在することができる。いくつかの好適なアニオンは、たとえば、5以下のpKa値を有する酸のアニオン残基である。いくつかの好適な塩は、たとえば、実際にこれらを調製するために使用された方法に関係なく、5以下のpKaを有する酸;または2.5以下のpKaを有する酸;または0以下のpKaを有する酸中において、水素イオンを水素でないカチオンと置換することにより形成される化合物の構造を有する。
【0038】
いくつかの態様において、1以上の塩であって、農作植物を処理するために好適なものが使用される。独立して、いくつかの実施態様において、1以上の塩であって、25℃、1気圧の水中で、水100mlあたり1グラム以上、または3グラム以上、または10グラム以上、または20グラム以上、または30グラム以上の溶解度を有する塩が使用される。
【0039】
好適なアニオンのいくつかの非制限的例は:アセテート、クロリド、ニトレート、ホスフェート、またはスルフェートである。独立して、好適なカチオンのいくつかの非制限的例は:アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、カリウム、またはナトリウムである。好適なカチオンおよび好適なアニオンは任意の組み合わせまたは混合物で用いることができることが想定されるが、ただし塩化カルシウムでない少なくとも1種の塩が用いられる。
【0040】
いくつかの実施態様において、感知できる量の塩化カルシウムが本発明の組成物中に存在しない。有限であるが感知できない量の塩化カルシウムが本発明の組成物中に存在し得ることが想定される(たとえば、1以上の不純物のために)。塩化カルシウムは、塩化カルシウムの乾燥重量の、合計塩の乾燥重量に対する比が0.03以下;または0.01以下;または0.003以下;または0.001以下;または0で存在することができる。
【0041】
いくつかの実施態様において、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マンガン、酢酸カリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸カリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、または硫酸ナトリウムから選択される1以上の塩が用いられる。いくつかの実施態様において、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸二ナトリウム、または硫酸ナトリウムから選択される1以上の塩が用いられる。いくつかの実施態様において、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸二ナトリウム、または硫酸ナトリウムから選択される1以上の塩が使用される。好適な塩の混合物も適している。
【0042】
いくつかの実施態様において、1以上の硫酸塩が使用される。独立して、いくつかの実施態様において、塩化物塩は使用されない。
【0043】
本発明の組成物において、塩の乾燥重量の、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の乾燥重量に対する比は0.03以上;または0.1以上;または0.3以上;または1以上である。独立して、本発明の組成物において、塩の乾燥重量の、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の乾燥重量に対する比は、500以下;または200以下;または100以下;または50以下;または20以下である。
【0044】
いくつかの実施態様において、本発明の組成物は、組成物の重量基準で30重量%より多い水を含有する。かかる実施態様は、本明細書において「比較的湿潤な」実施態様と呼ばれる。いくつかの比較的湿潤な実施態様は、組成物の重量基準で50重量%以上;または60%重量以上の量で水を有する。
【0045】
比較的湿潤な実施態様において、塩の乾燥重量の、水の重量に対する比は、0.05以上;または0.1以上;または0.2以上;または0.3以上:または0.35以上である。独立して、いくつかの比較的湿潤な実施態様において、塩の乾燥重量の、水の重量に対する比は、0.6以下;または0.5以下である。
【0046】
いくつかの比較的湿潤な実施態様において、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の乾燥重量の、水の重量および塩の重量の合計に対する比は0.005以上;または0.01以上;または0.02以上;または0.05以上;または0.1以上;または0.2以上である。独立して、いくつかの比較的湿潤な実施態様において、シクロプロペン分子カプセル化複合体の乾燥重量の、水の重量および塩の重量の合計に対する比は、0.65以下;または0.45以下;または0.3以下である。
【0047】
いくつかの比較的湿潤な実施態様において、少なくとも1種のシクロプロペン分子カプセル化複合体は水全体にわたって分布している。独立して、いくつかの比較的湿潤な実施態様において、少なくとも1種の塩が水中に溶解している。
【0048】
本発明の組成物が、配合物の重量基準で30重量%より多い、水以外の少なくとも1種の化合物を含有する液体を含有する配合物中に存在する実施態様も想定される。このような液体は水を有さくてもよい。いくつかの実施態様において、このような液体は、水と水以外の1以上の水混和性液体の混合物であり得る。このような混合物において、水の量は、液体の重量基準で、99重量%以下;または95重量%以下;または90重量%以下;または50重量%以下;または10重量%以下である。独立して、このような混合物において、水の量は、液体の重量基準で、5重量%以上;または45重量%以上;または75重量%以上である。
【0049】
いくつかの実施態様において、本発明の組成物は、比較的乾燥しており、たとえば、粉末、ペースト、またはペレットの形態であってよい。本明細書において用いられる場合、比較的乾燥した実施態様は、組成物の重量基準で30重量%以下の水を含有する本発明の組成物である。いくつかの比較的乾燥した実施態様は、組成物の重量基準で30重量%以下;または10重量%以下;または3重量%以下;または1重量%以下の量で水を有する。いくつかの比較的乾燥した実施態様は、任意に1以上のさらなる成分、たとえば、結合剤または流動助剤を含有してもよい。
【0050】
本発明の実施において、本発明の比較的乾燥した実施態様は、少なくとも1つの非潮解性塩を含有する。非潮解性塩は、潮解性塩でない塩である。潮解性塩は、その固体形態において、大気から大量の水を容易に吸収する塩である。25℃、1気圧で、相対湿度がゼロでないならば、潮解性塩は大気から十分な水を吸収して、液状溶液を形成するであろう。いくつかの公知の潮解性塩は、たとえば、ギ酸アンモニウム;塩化カルシウム;塩化マグネシウム;リン酸カリウム(一塩基性);およびリン酸カリウム(二塩基性)である。いくつかの実施態様において、本発明の比較的乾燥した実施態様は、感知できる量の潮解性塩を含有しない。有限であるが、感知できない量の潮解性塩が本発明の比較的乾燥した実施態様中に存在し得ることも想定される(たとえば、1以上の不純物のために)。非潮解性塩は、潮解性塩の乾燥重量の、合計塩の乾燥重量に対する比が0.01以下;または0.001以下;またはゼロで存在し得る。
【0051】
本発明の比較的乾燥した実施態様は、使用されるならば、任意の方法により調製できる。たとえば、比較的乾燥した形態(たとえば、粉末または顆粒)における塩を比較的乾燥した形態(たとえば、粉末)におけるシクロプロペン分子カプセル化剤複合体と混合することができる。もう一つ別の例として、塩およびシクロプロペン分子カプセル化剤複合体を含有する、30%より多い水を含有する組成物を調製することができ、水を組成物の他の成分から、たとえば乾燥、濾過、凝固、またはその組み合わせにより分離することができる。いくつかの比較的乾燥した実施態様は押し出され、任意に切断されてペレットにされる。
【0052】
いくつかの比較的乾燥した実施態様において、塩の重量の、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の重量に対する比は、0.01以上;または0.03以上;または0.1以上;または0.3以上;または1以上である。独立して、いくつかの比較的乾燥した実施態様において、塩の重量の、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の重量に対する比は200以下;または100以下;または50以下;または20以下である。
【0053】
比較的湿潤な実施態様であって、潮解性塩である塩が存在しないか、または有限であるが、感知できない量の潮解性塩(前記定義の通り)が存在する実施態様も想定される。
【0054】
いくつかの実施態様において、本発明の組成物は1種以上の金属錯化剤を含まない。
【0055】
いくつかの実施態様において、本発明の1以上の組成物は、1種以上の金属錯化剤を含む。金属錯化剤は、金属原子と配位結合を形成することができる化合物である。ある種の金属錯化剤はキレート化剤である。本明細書で使用される場合、「キレート化剤」は、そのそれぞれの分子が1つの金属原子と2以上の配位結合を形成することができる化合物である。ある金属錯化剤は金属原子との配位結合に関与する電子供与原子を含有するので、金属錯化剤は金属元素と配位結合を形成する。好適なキレート化剤としては、たとえば有機および無機キレート化剤が挙げられる。好適な無機キレート化剤の中には、たとえば、リン含有キレート化剤、たとえばピロリン酸四ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、およびヘキサメタリン酸がある。好適な有機キレート化剤の中には、マクロ環状構造および非マクロ環状構造を有するキレート化剤がある。好適なマクロ環状有機キレート化剤の中には、たとえば、ポルフィン化合物類、環状ポリエーテル類(クラウンエーテル類とも呼ばれる)、および窒素原子と酸素原子の両方を有するマクロ環状化合物がある。
【0056】
非マクロ環状構造を有するいくつかの好適な有機キレート化剤としては、たとえば、アミノカルボン酸、1,3−ジケトン類、ヒドロキシカルボン酸類、ポリアミン類、アミノアルコール類、芳香族複素環式塩基、フェノール、アミノフェノール類、オキシム類、シッフ塩基、硫黄化合物、およびこれらの混合物が挙げられる。いくつかの態様において、前記キレート化剤としては、1以上のアミノカルボン酸、1以上のヒドロキシカルボン酸、1以上のオキシム類、またはこれらの混合物が挙げられる。いくつかの好適なアミノカルボン酸としては、たとえば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、N−ジヒドロキシエチルグリシン(2−HxG)、エチレンビス(ヒドロキシフェニルグリシン)(EHPG)、およびこれらの混合物が挙げられる。いくつかの好適なヒドロキシカルボン酸としては、たとえば、酒石酸、クエン酸、グルコン酸、5−スルホサリチル酸、およびこれらの混合物が挙げられる。いくつかの好適なオキシム類としては、たとえば、ジメチルグリオキシム、サリチルアルドキシム、およびこれらの混合物が挙げられる。いくつかの態様において、EDTAが使用される。
【0057】
いくつかのさらなる好適なキレート化剤は、高分子物質である。いくつかの好適な高分子キレート化剤としては、たとえば、ポリエチレンイミン類、ポリメタクリロイルアセトン類、ポリ(アクリル酸)およびポリ(メタクリル酸)が挙げられる。ポリ(アクリル酸)がいくつかの態様で使用される。
【0058】
キレート化剤ではない、いくつかの好適な金属錯化剤は、たとえば、アルカリ炭酸塩、たとえば炭酸ナトリウムである。
【0059】
金属錯化剤は、中性の形態で、または1以上の塩の形態で存在することができる。好適な金属錯化剤の混合物もまた好適である。
【0060】
いくつかの比較的湿潤な実施態様において、金属錯化剤の量は、水の合計重量基準で、25重量%以下;または10重量%以下;または1重量%以下である。独立して、いくつかの比較的湿潤な実施態様において、金属錯化剤の量は、水の合計重量基準で、0.00001%以上;または0.0001%以上;または0.01%以上である。
【0061】
独立して、いくつかの比較的湿潤な実施態様において、金属錯化剤の水中のモル濃度(水1リットルあたりの金属錯化剤のモル数)は、0.00001mM(すなわち、ミリモル濃度)以上;または0.0001mM以上;または0.001mM以上;または0.01mM以上;または0.1mM以上である。独立して、いくつかの比較的湿潤な実施態様において、金属錯化剤の濃度は、100mM以下;または10mM以下;または1mM以下である。
【0062】
いくつかの比較的乾燥した実施態様において、金属錯化剤の重量の、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の重量に対する比は、0.001以上;または0.003以上;または0.01以上;または0.03以上;または0.1以上である。独立して、いくつかの比較的乾燥した実施態様において、金属錯化剤の重量の、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の重量に対する比は、1000以下;または300以下;または100以下;または30以下;または10以下である。
【0063】
本発明のいくつかの実施態様では、本発明の組成物中に1またはそれ以上の補助剤も含まれている。補助剤の使用は、本発明の実践において任意であると考えられている。補助剤は、単独または任意の組み合わせにおいて使用することができる。1つより多くの補助剤が使用される場合、1つまたはそれ以上の補助剤の任意の組合せを使用できることが想定されている。いくつかの適切な補助剤は、界面活性剤、アルコール、油、エキステンダー、顔料、充填剤、結合剤、可塑剤、潤滑剤、湿潤剤、展着剤、分散剤、固着剤、接着剤、消泡剤、増粘剤、輸送剤および乳化剤である。
【0064】
いくつかの実施態様では、アルコール、油、および前述のものの混合物から選択される少なくとも1つの補助剤を含有する本発明の組成物が使用され;このような組成物は、1つまたはそれ以上の界面活性剤を付加的に含んでいてよく、または含んでいなくてもよい。
【0065】
いくつかの実施態様において、本発明の組成物は後に使用するために保存することができる。本発明の組成物は、(たとえば、比較的乾燥した形態で存在するかどうか、またはたとえば、比較的湿潤な形態で存在するかどうかに関係なく)任意の形態で保存することができる。いくつかの実施態様において、本発明の組成物は、密封容器中で保存することができる。密封容器は有効な量の物質(固体、液体、または気体)が容器の内外に出入りしないような構造のものである。使用される容器の種類と関係なく、本発明の組成物は3時間以上;または8時間以上;または1日以上;または1週間以上;または3週間以上;または2ヶ月以上;または6ヶ月以上保存することができる。
【0066】
本発明の組成物は、様々な方法で使用できる。たとえば、比較的乾燥した実施態様を調製し、次いで、後に使用するために保存することができる。いくつかの実施態様において、このような比較的乾燥した実施態様を水と混合して、比較的湿潤な実施態様を調製することができる。本発明の比較的乾燥した実施態様は、場合によっては、塩をほとんどまたは全く有さない、対応する比較的乾燥した組成物よりも容易に水中に溶解および/または分散すると考えられる。
【0067】
比較的湿潤な実施態様が使用される場合、場合によっては、このような実施態様は後で使用されるまで保存することができる。いくつかの場合において、保存は密封された容器中であることが想定される。いくつかの場合において、このような実施態様が密封容器中で保存される場合、この密封容器は小さなヘッドスペースを有するか、またはヘッドスペースを有さない。本明細書において用いられる場合、「ヘッドスペース」とは、固体または液体物質により占有されていない密封容器の内部の容積である。ヘッドスペースは、たとえば、空気、水、シクロプロペン、またはその混合物でありうる気体で満たされていると考えられる。小さなヘッドスペースとは、ヘッドスペースの容積の、容器の容積に対する比が、パーセンテージで表すと、5%以下であることを意味する。いくつかの実施態様において、ヘッドスペースの容積の、容器の容積に対する比は2%以下;または1%以下;または0.5%以下;または0である。
【0068】
本発明の実施のいくつかの実施態様において、本発明の組成物の比較的湿潤な実施態様は、密封容器中で保存される。このような実施態様には、たとえば、幾分かのヘッドスペースがある実施態様が含まれる。ヘッドスペースの容積の大きさに関係なく、ヘッドスペースのあるいくつかの実施態様において、ヘッドスペース中の圧力は、最大で大気圧+配合物の蒸気圧であると考えられる。すなわち、密封容器を含むいくつかの実施態様において、密封容器の内容物に過剰の圧力は加えられない;すなわち、このような実施態様において、密封容器の内部圧力を大気圧と配合物の蒸気圧の合計の圧力よりも高くするために、ポンプ、ピストン、または他の手段は使用されない。
【0069】
本発明の組成物を含む方法を用いて植物が処理される実施態様においては、処理される植物は、有用な生成物を産する任意の植物でありうる。本発明の組成物を含む方法を用いて植物の部分が処理される実施態様においては、処理される植物の部分は有用な生成物を産する植物の任意の部分である。いくつかの実施態様において、有用な植物の部分は本発明の組成物の使用を包含する方法で処理される。
【0070】
本明細書において用いられる場合、植物または植物の部分を「処理する」とは、植物または植物の部分を物質と接触させることを意味する。
【0071】
植物または植物の部分が処理される本発明の実施態様において、本発明の組成物は、シクロプロペンを植物または植物の部分と接触させるような方法で使用される。いくつかの実施態様において、方法は、シクロプロペンが植物または植物の部分と後に接触するようになる条件下で、シクロプロペンをシクロプロペン分子カプセル化剤複合体から放出させる方法で本発明の組成物を使用することを含む。
【0072】
たとえば、本発明の組成物の比較的湿潤な実施態様は、シクロプロペンを植物または植物の部分と接触させる方法において使用できる。このような接触は、様々な方法の任意のもので行うことができる。たとえば、本発明の組成物の比較的湿潤な実施態様は、閉鎖空間(たとえば、輸送トレーラーまたは人工空気室)中に植物または植物の部分とともに置かれ、操作は、組成物から閉鎖空間の雰囲気中へのシクロプロペンの放出を促進するように、組成物に関して行われる。組成物からのシクロプロペンの放出を促進する操作は、たとえば、気泡を組成物中に導入することを包含する。
【0073】
もう一つ別の例として、本発明の組成物の比較的乾燥した実施態様は、閉鎖空間中に植物または植物の部分とともに置かれ、操作は、組成物から閉鎖空間の雰囲気中へのシクロプロペンの放出を促進するように、組成物に関して行われうる。組成物からのシクロプロペンの放出を促進する操作は、たとえば、本発明の比較的乾燥した組成物を水または高湿度雰囲気と接触させることを含む。
【0074】
いくつかの実施態様において、本発明の実施は、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体を植物または植物の部分と接触させることを含む。本発明は任意の特定の理論またはメカニズムに限定されないが、シクロプロペン分子カプセル化剤複合体が植物または植物の部分と接触させられる実施態様において、シクロプロペンの一部または全部はその後分子カプセル化剤から放出され、おそらくは拡散プロセス後、植物または植物の部分と直接接触するようになると考えられる。
【0075】
たとえば、本発明の組成物の比較的湿潤な実施態様は、植物または植物の部分と直接接触するようにすることができる。このような接触法のいくつかは、例えば噴霧法、発泡法、雲霧法、注液法、刷毛塗り法、浸漬法、同様な方法、およびその組合せである。いくつかの実施態様では、噴霧法または浸漬法または両方が使用される。いくつかの実施態様では、噴霧法が使用される。このような接触は、屋内または屋外で行うことができる。かかる実施態様のいくつかにおいて、接触は植物が田畑で成長している際に植物の全部または一部に対して行われる。
【0076】
通常、植物の特定の部分は有用な生成物を形成する。複数の有用な植物の部分は、複数の植物から採取された後、「作物」と呼ばれる。ある種類の植物は1種の有用な植物の部分を有し、一方、他の種類の植物は、複数の種類の有用な植物の部分を有する。
【0077】
本発明における使用に好適な植物および植物の部分には、たとえば、食べられる植物の部分を有する植物(およびその部分)、食べられないが、ある他の目的に関して有用である植物の部分を有する植物(およびその部分)、およびその組み合わせが含まれる。好適な植物(およびその部分)としては、有用な物質を抽出できるものが想定され;このような有用な物質は、たとえば、可食物質、製造の原材料、医学的に有用な物質、および他の目的に有用な物質である。
【0078】
好適な植物(およびその部分)として、その美的および/または装飾的特性に関して有用である植物の部分を産するものもさらに想定される。このような装飾的植物部分としては、たとえば、花および他の装飾的植物部分、たとえば装飾的な葉が挙げられる。このような植物のいくつかは、有用な球根を産生する。いくつかの実施態様において、装飾植物全体が有用な植物部分であると見なされる。
【0079】
あらゆる種類の可食植物部分を産生する植物は、本発明において使用するために適していると考えられる。あらゆる種類の可食植物部分も適している。
【0080】
本発明の実施において使用するのに適した多くの植物(およびその部分)は有用には種類または群に分類することができる。このようなグループを規定する1つの有用な方法は、国連の食糧農業機関(FAO)により草案として2006年3月23日またはそれ以前に発行された「商品の定義および分類(Definition and Classification of Commodites)」である。本発明のいくつかの態様の実施において、FAOにより定義される作物群のいずれかに含まれる1以上の作物を産する植物を処理することが想定される。いくつかの実施態様において、これらの群の1以上に含まれる1以上の作物を処理することが想定される。
【0081】
本明細書および特許請求の範囲の目的上、ここで言及されている範囲および比の限度は組み合わせられ得ることを理解すべきである。例えば、ある特定のパラメーターに対して60から120まで、および80から110までの範囲が言及されている場合には、60から110まで、および80から120までの範囲も想定されている。別の例として、ある特定のパラメーターに対して1、2および3の最小値が言及されており、また、このパラメーターに対して4および5の最大値が言及されている場合には、以下の範囲もすべて想定されているものと理解される:1から4まで、1から5まで、2から4まで、2から5まで、3から4まで、および3から5まで。
【実施例】
【0082】
以下の実施例において、「粉末1」は、粉末1の重量基準で4.1重量%の1−MCPを含有する1−MCPとアルファ−シクロデキストリンの複合体である乾燥粉末であった。粉末1が液体中でスラリー化される場合、濃度は、本明細書において、粉末1の重量(グラム)の、液体の体積(ミリリットル)に対する比(パーセントとして表す)として特徴づけられる(たとえば、20mlの液体中の0.5グラムの粉末1は2.5%スラリーを形成する)。塩の水溶液の濃度は、本明細書においては、塩の重量の、溶液の重量に対する比(パーセンテージで表す)により特徴づけられる。
【0083】
実施例1
2.5%水性スラリーからの1−MCPの放出
スラリーにおいて用いられる液体は、脱イオン水または塩溶液のいずれかであった。各スラリーをガラス製セプタムボトル(容積122ミリリットル)中に入れ、これを次いで密封した。次いで、表1において以下に示される密封後の時間のそれぞれで、ヘッドスペースガスのサンプルを取り出し、試験した。ヘッドスペースガスをガスクロマトグラフィーによりヘッドスペースガス中の1−MCPの濃度について分析し、これからヘッドスペースガス中の1−MCPの合計量を計算し、ガラスセプタムボトル中の合計1−MCPのパーセンテージとして記載した。
【0084】
【表1】

【0085】
サンプル1a−Cおよび1h−Cは比較例である。本発明の塩溶液を用いて調製されたスラリーからの1−MCPの放出は、スラリー1a−Cおよび1h−Cからの1−MCPの放出よりもかなり少なかった。
【0086】
実施例2
ヘッドスペースなしで保存された6.25%スラリーの安定性
6.25%スラリーを脱イオン水および40%硫酸アンモニウム中、粉末1から調製した。各スラリーをヘッドスペースなしでバイアル(容積8ミリリットル)中に入れた。バイアルを暗所、約25℃で保存した。
【0087】
かかる水中スラリーを保存する場合、1−MCPは最終的に消失することが知られている。1−MCPが徐々に複合体から拡散し、次いで化学反応により影響を受けて、ある別の化合物になることが考えられる。この消失が起こるかどうかを研究するために、特定の保存時間の後、スラリーを分析して、初期1−MCPが依然としてスラリー中にどれだけ存在するかを測定する。この分析を行うために、バイアルの中身をチャンバー(容積36リットル)中の蒸発皿中にあけ;20ミリリットルの界面活性剤(商標アルクアッド(Arquad)C−33、1%溶液、Akzo−Nobelから入手)を添加して、本質的に全ての1−MCPをスラリーから放出させ;チャンバーを密封し;チャンバーの雰囲気中の1−MCPの濃度をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにより分析した。この濃度から、雰囲気中の1−MCPの合計量を計算した。雰囲気中の1−MCPの量をスラリーの形成時間でスラリー中に存在する全1−MCPのパーセンテージとして表した。従って、たとえば75%の1−MCPの結果は、当初の1−MCPの25%が消失したことを意味する。様々な保存時間にわたって、この現象を研究するために、一連の同じスラリーを調製し、次いで、異なる保存時間で分析した。保存前に行われた分析は「初期」として示す。結果を表2おいて以下に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
40%硫酸アンモニウム中6.5%スラリー(実施例2b)は水中6.5%スラリー(比較例2a−C)よりも安定であった。
【0090】
実施例3
25%スラリーの保存安定性
様々な塩溶液中、粉末1を用いて25%スラリーを調製した。安定性を実施例2においてと同様に試験した。結果は表3のとおりである。
【0091】
【表3】

【0092】
試験されたスラリーは全て3週間にわたって有用に安定である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のシクロプロペン分子カプセル化剤複合体、および
(b)塩化カルシウム以外の少なくとも1種の塩
を含む組成物であって、
前記塩の乾燥重量の、前記シクロプロペン分子カプセル化剤複合体の乾燥重量に対する比が0.03〜500であり、かつ前記組成物が
(i)前記組成物の重量基準で30重量%以下の水を有し、および非潮解性である少なくとも1種の前記塩を有するか;または
(ii)前記組成物の重量基準で30重量%より多い水を有し、および前記塩の乾燥重量の、前記水の重量に対する比が0.05以上であるか;
のいずれかである組成物。
【請求項2】
前記組成物中の水の量が前記組成物の重量基準で5重量%以下である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物中の水の量が前記組成物の重量基準で30重量%より多い請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記塩の重量の、前記水の重量に対する比が0.3以上である請求項3記載の組成物。
【請求項5】
組成物を容器中に配置し、前記容器を密封し、かつ前記組成物を前記密封容器中で3時間以上保存することを含む、請求項1記載の組成物を保存する方法。
【請求項6】
前記組成物中の水の量が前記組成物の重量基準で30重量%より多く、かつ前記密封容器中のヘッドスペース容積が前記密封容器の全容積の0〜5%である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が前記密封容器中で3週間以上保存される請求項5記載の方法。
【請求項8】
植物または植物の部分を処理する方法であって、
前記植物または植物の部分を配合物と接触させることを含み、前記配合物が
(a)請求項3記載の組成物、
(b)任意に、1種以上の金属錯化剤、および
(c)任意に、1種以上の補助剤:
を含む方法。
【請求項9】
前記接触が噴霧により行われる請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記接触が浸漬により行われる請求項8記載の方法。

【公開番号】特開2008−150363(P2008−150363A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−290507(P2007−290507)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】