説明

シクロヘキサノンの製造方法

【目的】 フェノールから一段階で、しかも高転化率かつ高選択率でシクロヘキサノンを製造する方法を提供する。
【構成】 水素選択透過性金属膜の一方の側、または多孔質支持体上に該金属膜を積層してなる複合膜の該金属膜の側にフェノールを供給し、該金属膜または複合膜の他方の側に水素または水素含有ガスを流し、該金属膜または複合膜を透過した水素によってフェノールを水素化することを特徴とする。
【効果】 水素選択透過性金属膜を透過してくる全ての水素は、水素選択透過性金属膜1の表面上で活性反応種、すなわち原子状水素またはイオン状水素になっている。従って、供給されたフェノールは水素選択透過性金属膜上で極めて効率良く水素化される。更に膜自体が有する触媒作用によって更に水素化が促進され、高転化率かつ高選択率でシクロヘキサノンが得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はシクロヘキサノンの製造方法に関し、より詳細にはフェノールから一工程でシクロヘキサノンを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】シクロヘキサノンは、ナイロン6の原料であり、その中間物質であるカプロラクタムの製造量 (世界で約3百万トン/年) の内、90%以上がシクロヘキサノンのオキシムを経由する方法によって製造されている。そしてシクロヘキサノンは、シクロヘキサンの酸化もしくはフェノールの水素化によって製造されており、シクロヘキサノン製造量 (世界で 280万トン) の80%がシクロヘキサン酸化法に基づいている。
【0003】シクロヘキサン酸化法は、通常 150−170℃、8−12気圧下、酸化剤として空気、触媒としてコバルト、クロムを用いて行われている。ワンパス転化率は、3−6%であり、未反応分は回収され循環使用されている。プロセス全体の収率は75−85%である。
【0004】一方、フェノールの水素化法では、まずフェノールがクメン法によってベンゼンから製造され、アセトンが副産物として生成する。このアセトンは、その売り価格がプロピレンよりも常に高く、経済上の不利をもたらしてはいない。フェノールからシクロヘキサノンの製造は2段階反応法によって行われている。すなわち、フェノールを完全水素化してまずシクロヘキサノールを得る。次に、それを脱水素してシクロヘキサノンを得る。
【0005】すなわち、フェノールの2段階反応によるシクロヘキサノンの製造は、中間物シクロヘキサノールの生成工程および脱水素吸熱反応工程を含み、設備コストおよび消費エネルギー共に大きい。そこで、もし1段階反応法でシクロヘキサノンが効率良く製造できる方法が見いだされれば、1段階法は、現存のプラントを少し変更するだけで良く、しかもシクロヘキサノールの生成工程および脱水素吸熱工程を削減できる。この結果は、シクロヘキサノン1kg当り 500kcalの省エネルギーになると見積もられる。また、出発原料のベンゼン消費量もシクロヘキサン酸化法よりも低く抑える事ができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする問題点は、フェノールから1段階で、しかも高転化率かつ高選択率でシクロヘキサノンを製造する方法を見いだすことにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明のシクロヘキサノンの製造方法は、水素選択透過性金属膜の一方の側、または多孔質支持体上に該金属膜を積層してなる複合膜の該金属膜の側にフェノールを供給し、該金属膜または複合膜の他方の側に水素または水素含有ガスを流し、該金属膜または複合膜を透過した水素によってフェノールを水素化することを特徴とする。
【0008】以下本発明を図1にもとづき説明する。反応容器2を、水素選択透過性金属膜または多孔質支持体上に水素選択透過性金属膜を積層してなる複合膜1によってA室とB室に区分し、A室を水素化反応室、B室を水素供給室とする。水素選択透過性金属膜を使用する場合には、膜のいづれの側をA室またはB室としても良いが複合膜を使用する場合には水素選択透過性金属膜の側をA室とする。次に、原料のフェノールを供給管路3を介して水素化反応室Aに供給し、水素化反応生成物を管路5によって取り出す。一方、水素または水素含有ガスを管路4によって水素供給室Bに供給し、管路6により抜き出す。
【0009】ここで、水素選択透過性金属膜1としては、パラジウム金属膜、パラジウムとニッケル、銀あるいはルテニウム等の合金膜が使用され、かかる金属膜または合金膜は、パラジウム膜については溶解冷却後の圧延によって得、合金膜については、パラジウムに対して所定の割合のニッケル、銀、ルテニウムを混合し、溶解冷却後に圧延することにより製造することができる。また多孔質支持体としては、アルミナ、シリカ系のセラミックス、あるいは焼結金属体などが用いられ、複合膜は無電解メッキと電気メッキを組合わせた2段階法 (特開昭64-4216号) を応用することなどにより製造することができる。金属膜、合金膜および複合膜における金属膜部の厚みは通常10〜500μの範囲である。
【0010】また水素含有ガスとしては、数%〜100%濃度の水素を含むガスであればいづれも使用することができる。水素供給室Bに供給された水素、または水素含有ガス中の水素は、隔壁の水素選択透過性金属膜1を選択的に透過して水素化反応室Aに入る。このとき、透過してくる全ての水素は、水素化反応室A側の水素選択透過性金属膜1の表面上で活性反応種、すなわち原子状水素またはイオン状水素になっている。なぜならば、パラジウム系膜中への水素の溶解と拡散は原子状あるいはイオン状になることで可能となるからである。
【0011】従って、水素化反応室Aに供給されたフェノールは水素選択透過性金属膜1上で極めて効率良く水素化される。更に膜1自体が有する触媒作用によって部分水素化が促進され、フェノールから1段階、高転化率かつ高選択率でシクロヘキサノンを得ることができる。以下、本発明の実施例を述べる。
【0012】
【実施例】
実施例1図1に示した装置の水素化反応室Aを 200℃に保った。フェノールは湯浴中 (30℃以上) に浸した蒸発器内で同伴ガスとしてアルゴンを流して発生させ、その全流量が約5cc/分となるようにした。そのときのフェノール濃度は0.32%であった。一方、水素供給室Bに1気圧の水素を供給た。なお、膜1としては、パラジウム金属膜を使用した。結果を図2に示す。
【0013】図2において、転化率とは供給したフェノールの全転化率 (生成物はシクロヘキサノンとシクロヘキサノール) であり、選択率とは転化したフェノール内のシクロヘキサノンへの転化割合である。図2から明らかなとおり、透過水素量増加と共に選択率はやや低下するが、平衡状態においても約75%の高い選択率が得られる。
【0014】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のシクロヘキサノン製造方法は、水素選択透過性金属膜あるいはその複合膜を使用して、それらの膜を透過した活性水素を利用してフェノールの水素化反応を行うので、反応自体がきわめて効率良く進むという利点がある。また、膜自身の有する触媒作用によって、フェノールの部分的水素化反応が進み、高い選択率でシクロヘキサノンを製造できるという利点もある。さらに、本発明は炭化水素類全般の水素化反応にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施に使用する装置の一例を示す断面図である。
【図2】本発明における透過水素量と転化率および選択率との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 水素選択透過性金属膜、またはこの金属膜を多孔質支持体上に積層してなる複合膜
3 フェノール供給管路
4 水素供給管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水素選択透過性金属膜の一方の側、または多孔質支持体上に該金属膜を積層してなる複合膜の該金属膜の側にフェノールを供給し、該金属膜または複合膜の他方の側に水素または水素含有ガスを流し、該金属膜または複合膜を透過した水素によってフェノールを水素化することを特徴とするシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項2】 前記水素選択透過性金属膜がパラジウム金属膜、パラジウムとニッケル、銀またはルテニウムとの合金膜である請求項1の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−48976
【公開日】平成6年(1994)2月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−223436
【出願日】平成4年(1992)7月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成4年7月24日 社団法人化学工学会発行の「化学工学会室蘭大会研究発表講演要旨集」に発表
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院物質工学工業技術研究所長