説明

シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法

【課題】シクロヘキサンカルボニトリルを経済的に、工業的に有利に製造しうる手段を提供する。
【解決手段】本発明のシクロヘキサンカルボニトリルの製造方法は、下記化学式1:


で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを、無水酢酸と反応させて、下記化学式2:


で表されるシクロヘキサンカルボニトリルを得る工程(C)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法に関する。本発明により得られるシクロヘキサンカルボニトリルは、例えば、医薬、農薬の原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを原料とするシクロヘキサンカルボニトリルの製造方法として、(1)レニウム触媒で脱水する方法(非特許文献1;下記反応式1)、(2)ルテニウム触媒で脱水する方法(非特許文献2;下記反応式2)、(3)1,1’−チオカルボニルジ−2,2’−ピリドンで脱水する方法(非特許文献3;下記反応式3)が知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
【化2】

【0005】
【化3】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ブリティン オブ ザ ケミカル ソサイエティー オブ ジャパン (Bulletin of the Chemical Society of Japan)、2007年、第80巻、400〜406頁
【非特許文献2】オーガニック レターズ (Organic Letters)、2002年、第4巻、2369〜2371頁
【非特許文献3】ザ ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(The Journal of Organic Chemistry)、1986年、第51巻、2613〜2615頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した(1)や(2)の方法では、高価な金属触媒を多量に使用する必要がある。また、上記(3)の方法では、脱水剤として用いられる1,1’−チオカルボニルジ−2,2’−ピリドンを工業的に入手することは困難である。
【0008】
そこで本発明は、シクロヘキサンカルボニトリルを経済的に、工業的に有利に製造しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した背景技術の問題点を解決するために鋭意検討を行なった。その結果、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを、安価で入手容易な原料である無水酢酸と反応させることにより、シクロヘキサンカルボニトリルが製造されうることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のシクロヘキサンカルボニトリルの製造方法は、下記化学式1:
【0011】
【化4】

【0012】
で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを、無水酢酸と反応させて、下記化学式2:
【0013】
【化5】

【0014】
で表されるシクロヘキサンカルボニトリルを得る工程(本明細書中、この工程を「工程(C)」とも称する)を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、医薬、農薬の原料として有用なシクロヘキサンカルボニトリルを経済的に、工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のシクロヘキサンカルボニトリルの製造方法は、概説すれば、下記化学式1:
【0017】
【化6】

【0018】
で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを、無水酢酸と反応させて、下記化学式2:
【0019】
【化7】

【0020】
で表されるシクロヘキサンカルボニトリルを得る工程(C)を含む。このように、本発明の製造方法は、無水酢酸を必須に用いるという点で、高価な金属触媒であるレニウム触媒やルテニウム触媒、または工業的に入手が困難な脱水剤である1,1’−チオカルボニルジ−2,2’−ピリドンを用いる非特許文献1〜3に記載の技術とは異なる。
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、下記の具体的な形態のみに本発明の技術的範囲が限定されることはない。
【0022】
上述したように、工程(C)では、化学式1で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを、無水酢酸と反応させる。これにより、化学式2で表されるシクロヘキサンカルボニトリルを得る。
【0023】
工程(C)では、反応原料として、下記化学式1で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを用いる。
【0024】
【化8】

【0025】
工程(C)の原料として用いるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムの入手については、市販品が存在する場合にはその市販品を購入することにより準備することが可能である。また、自ら調製することにより当該化合物を準備してもよい。シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを自ら調製する手法について特に制限はなく、有機化学の技術分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0026】
シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを自ら調製する手法としては、例えば、シクロヘキサンカルボアルデヒドをオキシム化反応させるという手法が挙げられる(本明細書中、この工程を「工程(B)」とも称する)。
【0027】
工程(B)では、反応原料として、下記化学式3で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒドを用いる。
【0028】
【化9】

【0029】
工程(B)の原料として用いるシクロヘキサンカルボアルデヒドの入手についても、市販品が存在する場合にはその市販品を購入することにより準備することが可能である。また、自ら調製することにより当該化合物を準備してもよい。シクロヘキサンカルボアルデヒドを自ら調製する手法についても特に制限はなく、有機化学の技術分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0030】
シクロヘキサンカルボアルデヒドを自ら調製する手法としては、例えば、シクロヘキセンをヒドロホルミル化反応させるという手法が挙げられる(本明細書中、この工程を「工程(A)」とも称する)。このように、工程(A)から工程(B)を経る形態によれば、工業的に入手可能なシクロヘキセンから、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムが製造可能である。
【0031】
以下、工程(A)から工程(B)を経てシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを得て、最後に工程(C)によってシクロヘキサンカルボニトリルを製造する形態を詳細に説明する。ただし、本発明の製造方法における必須の工程は、工程(C)のみである。
【0032】
[工程(A)]
工程(A)は、シクロヘキセンをヒドロホルミル化反応させることにより、シクロヘキサンカルボアルデヒド(上述の化学式3を参照)を得る工程である。ここで得られるシクロヘキサンカルボアルデヒドは、後述する工程(B)の反応原料として用いられる。
【0033】
工程(A)では、反応原料として、下記化学式4で表されるシクロヘキセンを用いる。
【0034】
【化10】

【0035】
シクロヘキセンをヒドロホルミル化反応させる具体的な手法について特に制限はなく、有機化学の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、シクロヘキセンのヒドロホルミル化反応は、ロジウム化合物およびホスファイト配位子の存在下、一酸化炭素および水素の加圧下で行なわれうる。
【0036】
工程(A)においてシクロヘキセンのヒドロホルミル化反応に用いられるロジウム化合物について特に制限はない。ヒドロホルミル化触媒能を有するか、またはヒドロホルミル化反応条件下においてヒドロホルミル化触媒能を有するように変化する任意のロジウム化合物が、工程(A)において用いられうる。ロジウム化合物としては、例えば、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、Rh(acac)(CO)2、酸化ロジウム、塩化ロジウム、ロジウムアセチルアセトナート、酢酸ロジウムなどが挙げられる。ロジウム化合物は極めて高活性なヒドロホルミル化触媒作用を示すことから、工程(A)において用いられるロジウム化合物の量は、特に制限されないが、シクロヘキセンの量を基準(100モル%)として、0.0001〜0.01モル%の範囲が好ましい。
【0037】
工程(A)において用いられるホスファイト配位子は、下記化学式5で表される。
【0038】
【化11】

【0039】
式中、Rは、互いに同一であってもよいし異なってもよく、炭素数7以上の置換アリール基を示す。
【0040】
Rの炭素数は、7以上であれば特に上限は規定されない。ただし、Rの炭素数は、好ましくは7〜26であり、より好ましくは8〜18である。また、置換アリール基においてアリール基を置換する置換基の種類もまた、シクロヘキセンのヒドロホルミル化反応を阻害しない限りいかなる置換基であっても用いられうる。このようなホスファイト配位子としては、例えば、トリス(2−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−イソプロピルフェニル)ホスファイト、トリス(2−フェニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−メチル−4−クロルフェニル)ホスファイト、ジ(2−メチルフェニル)(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジ(2−t−ブチルフェニル)(2−メチルフェニル)ホスファイトまたはこれらの混合物が挙げられる。なかでも、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトまたはこれらの混合物が工業的に実施する上で好ましい。ホスファイト配位子の量は、特に制限されないが、ロジウム化合物1モルに対して、1.0〜1000モルの範囲が好ましく、10〜500モルの範囲がより好ましい。
【0041】
工程(A)は、溶媒の存在下または非存在下で実施することができる。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、n−オクタノール、エチレングリコールなどのアルコール類;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの飽和脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、プソイドクメン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールジメチルエーテル類;酢酸エチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類およびそれらの混合物などが挙げられる。溶媒を使用する場合、溶媒の使用量は、特に制限されないが、反応速度、経済性、環境保全の観点から、シクロヘキセン1質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0042】
工程(A)を行なう際の反応圧力は、特に制限されないが、0.1〜30MPaの範囲が好ましく、0.1〜10MPaの範囲がより好ましい。低圧では必要以上の長時間を要し、また高圧では反応速度は上昇するものの、あまり高すぎても顕著な有意性は認められず、経済的に不利である。
【0043】
なお、工程(A)では、下記化学式6で表されるシクロヘキサンメタノールが副生成物として生成する場合がある。
【0044】
【化12】

【0045】
シクロヘキサンメタノールは、後述する工程(B)において未反応のまま存在し、その後の工程(C)において無水酢酸との反応によってアセチル化され、下記化学式7で表されるシクロヘキサンメタノールアセテートを生成する。
【0046】
【化13】

【0047】
シクロヘキサンメタノールアセテートは、本発明における最終生成物であるシクロヘキサンカルボニトリルの蒸留精製の際に分離困難な不純物となりうる。したがって、高純度なシクロヘキサンカルボニトリルを得るためには、工程(A)の生成物であるシクロヘキサンカルボアルデヒド中のシクロヘキサンメタノール含率が低いことが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
工程(A)の反応温度は、特に制限されないが、反応速度および反応収率の観点から、70℃〜120℃の範囲が好ましく、さらにシクロヘキサンメタノールの副生量を抑制するという観点からは、80〜100℃の範囲がより好ましい。
【0049】
工程(A)において得られたシクロヘキサンカルボアルデヒドは、蒸留、カラムクロマトグラフィ等の公知の方法によって、単離および精製可能されうる。工程(A)におけるシクロヘキサンメタノールの副生量が多い場合には、蒸留、カラムクロマトグラフィ等の公知の方法を用いて分離することにより、シクロヘキサンカルボアルデヒド中のシクロヘキサンメタノール含量を低減することが可能である。
【0050】
[工程(B)]
工程(B)は、シクロヘキサンカルボアルデヒド(上述の化学式3を参照)をオキシム化反応させることにより、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム(上述の化学式1を参照)を得る工程である。
【0051】
工程(B)では、反応原料として、シクロヘキサンカルボアルデヒドを用いる。このシクロヘキサンカルボアルデヒドは、例えば上述の工程(A)で得られたものである。
【0052】
シクロヘキサンカルボアルデヒドをオキシム化反応させる具体的な手法について特に制限はなく、有機化学の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。一例として、シクロヘキサンカルボアルデヒドのオキシム化反応は、シクロヘキサンカルボアルデヒドをヒドロキシルアミン(NHOH)と反応させることにより、行なわれうる。なお、ヒドロキシルアミンをそのまま反応に用いてもよいし、無機酸塩と塩基とから生成するものを反応に用いてもよい。後者の場合に用いられるヒドロキシルアミンの無機酸塩としては、例えば、硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミン、硝酸ヒドロキシルアミン、リン酸ヒドロキシルアミンなどが挙げられる。また、この際に用いられる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0053】
工程(B)においてシクロヘキサンカルボアルデヒドのオキシム化反応に用いられるヒドロキシルアミンの量(ヒドロキシルアミンの無機酸塩と塩基から発生させる場合には、発生するヒドロキシルアミンの量として)は、特に制限されないが、シクロヘキサンカルボアルデヒド1モルに対して、0.5〜50モルの範囲が好ましく、0.7〜20モルの範囲がより好ましく、0.9〜10モルの範囲がさらに好ましい。
【0054】
工程(B)において用いられうる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、n−オクタノール、エチレングリコールなどのアルコール類;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの飽和脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、プソイドクメン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールジメチルエーテル類;酢酸エチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類およびそれらの混合物などが挙げられる。溶媒の使用量は、反応速度、経済性、環境保全の観点から、シクロヘキセン1質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。なお、工程(B)は、溶媒の非存在下において行なわれてもよい。
【0055】
工程(B)の反応温度は、特に制限されないが、−30〜200℃の範囲が好ましく、0〜100℃の範囲がより好ましい。
【0056】
上述したように、工程(B)において用いられるシクロヘキサンカルボアルデヒドは、工程(A)により自ら製造したものであってもよいし、それ以外の公知の方法で自ら製造したものであってもよいし、市販品が存在する場合には市販品であってもよい。また、これも上述したように、シクロヘキサンカルボアルデヒド中に含まれるシクロヘキサンメタノールは工程(C)の目的生成物(本発明の最終生成物)であるシクロヘキサンカルボニトリルの純度を低減させる。このため、本発明において高純度なシクロヘキサンカルボニトリルを得るためには、工程(B)で用いられるシクロヘキサンカルボアルデヒド中のシクロヘキサンメタノール含率が低いことが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
[工程(C)]
工程(C)は、本発明の製造方法における必須の工程であり、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム(上述の化学式1を参照)を無水酢酸と反応させることにより、シクロヘキサンカルボニトリル(上述の化学式2を参照)を得る工程である。工程(C)の反応機構としては、オキシムの酸素原子が無水酢酸のカルボニル炭素を攻撃することによってオキシムと無水酢酸との付加物が中間体として生成し、当該中間体から酢酸が2分子脱離するとともに生成物であるニトリルが生成するというメカニズムが推定されている。ただし、本発明の技術的範囲は当該メカニズムに何ら拘束されることはない。
【0058】
工程(C)では、反応原料として、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを用いる。このシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムは、例えば上述の工程(B)で得られたものである。
【0059】
工程(C)において用いられる無水酢酸の量は、特に制限されないが、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム1モルに対して、0.5モル〜50モルの範囲が好ましく、0.7モル〜20モルの範囲がより好ましく、0.9モル〜10モルの範囲がさらに好ましい。
【0060】
工程(C)において用いられうる溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの飽和脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、プソイドクメン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールジメチルエーテル類;酢酸エチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類およびそれらの混合物などが挙げられる。溶媒の使用量は、特に制限されないが、反応速度、経済性、環境保全の観点から、シクロヘキセン1質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。なお、工程(C)は、溶媒の非存在下において行なわれてもよい。
【0061】
工程(C)の反応温度は、特に制限されないが、反応速度の観点から、0〜200℃の範囲が好ましく、50〜150℃の範囲がより好ましい。
【0062】
工程(C)で得られたシクロヘキサンカルボニトリルの単離・精製は、有機化合物の単離・精製において一般的な方法(例えば、減圧下での蒸留)を用いて行なわれうる。かような手法により、生成物であるシクロヘキサンカルボニトリルの純度を容易に高めることができる。
【0063】
上述したように、工程(C)において用いられるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムは、工程(B)により自ら製造したものであってもよいし、それ以外の公知の方法で自ら製造したものであってもよいし、市販品が存在する場合には市販品であってもよい。また、これも上述したように、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム中に含まれるシクロヘキサンメタノールは工程(C)において分離困難なシクロヘキサンメタノールアセテートとなり、工程(C)の目的生成物(本発明の最終生成物)であるシクロヘキサンカルボニトリルの純度を低減させる。このため、本発明において高純度なシクロヘキサンカルボニトリルを得るためには、工程(C)で用いられるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム中のシクロヘキサンメタノール含率が低いことが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
本発明の製造方法により製造されるシクロヘキサンカルボニトリルは、医薬、農薬その他の精密化学品の原料などとして好適に用いられうる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明の実施形態をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の実施例のみには限定されない。
【0066】
<実施例>
シクロヘキサンカルボアルデヒドの合成(工程(A))
圧力計および温度センサーを取り付けた内容積300mLのSUSオートクレーブに、シクロヘキセン79.2g(0.96モル)、トルエン85.3g、Rh(acac)(CO)25.2mg(0.02ミリモル)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト1.3g(2ミリモル)を仕込んだ。次いで、反応系を一酸化炭素/水素(モル比1:1)混合ガスで3MPaに加圧し、オフガスを10L/hrに設定した。その後、100℃にて9時間攪拌し、シクロヘキサンカルボアルデヒド トルエン溶液174.3gを得た。当該溶液中の触媒を除去する目的で、単蒸発処理(沸点53.0℃〜76.0℃/44.0mmHg)を行ない、シクロヘキサンカルボアルデヒド トルエン溶液168.2g(ネット101.2g;収率94%)を得た。当該溶液におけるシクロヘキサンカルボアルデヒド濃度に対するシクロヘキサンメタノール濃度の割合は0.07質量%であった。
【0067】
シクロヘキサンカルボニトリルの合成(工程(B)→工程(C))
攪拌機および温度計を取り付けた内容積1Lの四つ口フラスコに、50質量%シクロヘキサンカルボアルデヒド トルエン溶液192.0g(0.86モル)、35.5%硫酸ヒドロキシルアミン水溶液212.7g(0.46モル)を仕込み、攪拌しながら反応溶液を10〜15℃に冷却した。次いで、18質量%水酸化ナトリウム水溶液200.0g(0.90モル)を30分かけて反応溶液に滴下した。滴下終了後、40〜45℃にて30分間攪拌を行った後、分液を行ない、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム トルエン溶液192.1gを得た。当該溶液におけるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム濃度に対するシクロヘキサンメタノール濃度の割合は0.06質量%であった。
【0068】
次いで、攪拌機および温度計を取り付けた内容積500mLの四つ口フラスコに、上記で得られたシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム トルエン溶液を仕込み、120〜130℃にて30分間、加熱還流しながら水分を除去した。その後、無水酢酸91.9g(0.90モル)を115〜125℃にて30分かけて反応溶液に滴下した。滴下終了後、1時間攪拌を行なった後、分液を行ない、シクロヘキサンカルボニトリル トルエン溶液272.2gを得た。当該溶液を蒸留して、沸点74.0℃/15.0mmHgでシクロヘキサンカルボニトリル83.2g(収率89%、純度99.8%、シクロヘキサンメタノールアセテート濃度0.04質量%)を得た。
【0069】
上述した実施例に示す結果から、本発明の製造方法によれば、シクロヘキサンカルボニトリルが経済的に、工業的に有利に製造されうることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1:
【化1】

で表されるシクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを、無水酢酸と反応させて、下記化学式2:
【化2】

で表されるシクロヘキサンカルボニトリルを得る工程(C)を含む、シクロヘキサンカルボニトリルの製造方法。
【請求項2】
前記シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシム中のシクロヘキサンメタノール含率が0.1質量%以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
シクロヘキセンのヒドロホルミル化反応により、シクロヘキサンカルボアルデヒドを得る工程(A)と、
前記工程(A)で得られた前記シクロヘキサンカルボアルデヒドのオキシム化反応により、シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを得る工程(B)と、
をさらに含み、前記工程(B)で得られた前記シクロヘキサンカルボアルデヒドオキシムを前記工程(C)において用いる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(A)におけるヒドロホルミル化反応を、80〜100℃の温度条件下において行なう、請求項3に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−180142(P2010−180142A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22916(P2009−22916)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】