説明

シグマ受容体阻害剤の合成に有用なナフタレン−2−イル−ピラゾール−3−オン中間体の調製のためのプロセス

本発明は、ナフタレン−2−イル−ピラゾール−3−オン中間体、その互変異性体、および塩を調製するためのプロセス、新規な中間体、ならびにシグマ受容体阻害剤の調製における中間体の使用に関する。
【化1】



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフタレン−2−イル−ピラゾール−3−オン中間体、それらの互変異性体、および塩を調製するためのプロセス、新規な中間体、ならびにシグマ受容体阻害剤の調製におけるその中間体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
精神障害および神経障害は最も重篤かつ慢性的な疾患および状態に含まれる。これらの障害は、症状および病因の多重性のため、効果的に治療することが極めて困難でもある。
【0003】
これらの精神障害および神経障害と格闘するための治療上の集積の中でも、シグマ受容体阻害剤は、精神障害ならびに運動障害(ジストニーおよび遅発性ジスキネジア、ならびにハンチントン舞踏病またはトゥレット症候群に関連する運動障害およびパーキンソン病における運動障害など)の治療に有用であることが見出された(非特許文献1)。
【0004】
特許文献1および特許文献2は、シグマ受容体に対して薬理活性を有し、疼痛、特に神経因性疼痛またはアロディニアの治療に特に有用であるピラゾール含有化合物を記載する。これらの化合物は以下の化学構造:
【化1】

を有する。
【0005】
これらの化合物は、特許文献1および特許文献2に開示される経路スキームに従って調製されてもよい。特に興味深いのは、上記特許出願において式(II)によって表される中間体:
【化2】

(式中、RおよびRは、それらが結合するフェニル環と一緒にナフチル環を形成する)
である。
【0006】
上述の特許出願に提示された経路によれば、これらの中間体は、アセトヒドラジド誘導体をアセト酢酸エチルと反応させることにより、ヒドラジン誘導体をブチン酸エチルと反応させることにより、またはエトキシ−アクリル酸ヒドラジドを濃鉱酸と反応させる、非特許文献2に提供された方法により調製することができる。
【0007】
非特許文献3は、1−アリール−5−メチル−3−ピラゾロンの合成において有用な中間体である2−アリールアゾ−2,5−ジメチル−3−オキソ−2,3−ジヒドロフランを合成するためのプロセスを記載する。上記プロセスでは、1−アリール−5−メチル−3−オキソ−2,3−ジヒドロピラゾール(5)は、混合物の温度が30℃を超えないように注意しながら濃塩化水素酸に加えることにより、方法Aに従って調製される。方法Bでは、2−アリールアゾ−2,5−ジメチル−3−オキソ−2,3−ジヒドロフラン(3)は酢酸/濃塩化水素酸混合物(12.5:1 v/v、10ml)に溶解され、この溶液は25〜50℃に保たれる。
【0008】
Venturelloらによって提供された方法では、例示されたアリール誘導体はすべてフェニル含有化合物に限定されている。フェニルおよびナフチル環は、その芳香環のπ−安定化エネルギーの差に起因して明らかに異なる反応性を有する。加えて、ナフチルラジカルはフェニルラジカルよりも大きい立体障害を持ち込む。さらに、これらの方法は実験室環境用に工夫されており、大規模に実現可能なプロセとしては有効ではなかった。
【0009】
医薬開発中、中間体または最終生成物などの分子を合成するために最適化されたプロセスが探索される。収率の向上、純度、経路の簡素化、およびスケールアップできるプロセスの提供は、化学開発者にとっての目標の1つである。多くの場合、化学者は、スケールアップできるプロセスと十分な純度または収率との間には特定のバランスがあるということを見つけようと挑戦する。プロセスの中での余り極端すぎない条件の使用および無毒な試薬の使用は、当該化学者が解く必要がある方程式の一部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2006021462号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007098953号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Walker,J.M.ら、Pharmacological Reviews、1990年、第42巻、355頁
【非特許文献2】F.EffenbergerおよびW.Hartmann、Chem.Ber.、1969年、第102巻、第10号、3260−3267頁
【非特許文献3】C.VenturelloおよびR.D’Aloisio、Synthesis 1979年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それ故に、本発明の目的は、ナフタレン−2−イル−ピラゾール−3−オン中間体の調製のためのプロセスであって、以下のプロセス関連パラメータ、すなわち純度、収率、合成経路の簡素化、手ごろな条件の使用、環境に配慮した条件の使用、無毒な試薬の使用、または試薬または最終中間体生成物の改善されたプロセス可能性(processability)のうちの少なくとも1以上を改善することができるプロセスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、疼痛の治療に有用なピラゾール含有化合物の合成における中間体を調製するためのプロセスに関し、特に本発明は、式(V)の化合物、互変異性体(Va)およびそれらの塩を調製するためのプロセスであって、
【化3】

式(IV)の化合物が15〜80℃の温度で酸性条件に供され、
【化4】

これにより式(V)の化合物、互変異性体(Va)、またはそれらの塩が得られ、式(V)、(Va)、および(IV)の化合物において、
は、水素、C1〜6アルキル、または−C(=O)Rであり、
は、水素、C1〜6アルキル、またはフェニルであり、
は、水素またはC1〜6アルコキシであり、
は、水素またはC1〜4アルキルである、
プロセスに関する。
【0014】
さらなる実施形態では、本発明は、式(V)、(Va)、(IV)の化合物それ自体を提供し、式中、R、R、およびRは上で画定されたとおりである。
【0015】
さらなる実施形態では、本発明は、式(X)の化合物、それらの薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、および溶媒和物の調製における中間体としての、式(V)、(Va)、および(IV)の化合物の使用に関する。
【化5】

【発明を実施するための形態】
【0016】
大規模な生産のためにナフタレン−2−イル−ピラゾール−3−オン中間体に導く合成経路を最適化しようとする試みにおいて、本発明者らはある方法を構想し、驚くべきことに、その方法は機能して先行技術の方法よりも増加した収率をもたらすだけではなく、その方法により、重要なことに高い程度の純度でこれらの中間体の工業的生産が可能になるということを見出した。
【0017】
本発明は、式(V)の化合物、互変異性体(Va)、およびそれらの塩の調製のための方法であって、
【化6】

式(IV)の化合物を15〜80℃の温度で酸性条件に供し、
【化7】

これにより式(V)の化合物、互変異性体(Va)、またはそれらの塩を得る工程を含み、式(V)、(Va)、および(IV)の化合物において、
は、水素、C1〜6アルキル、または−C(=O)Rであり、
は、水素、C1〜6アルキル、またはフェニルであり、
は、水素またはC1〜6アルコキシであり、
は、水素またはC1〜4アルキルである、
方法に関する。
【0018】
本願明細書中、これまでまたはこれ以降使用する場合、基または基の部分としてのC1〜4アルキルは、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチルなどの1〜4個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖の飽和炭化水素ラジカルを画定し、基または基の部分としてのC1〜6アルキルは、C1〜4アルキルについて画定された基およびペンチル、ヘキシル、2−メチルブチルなどの1〜6個の炭素原子を有する直鎖もしくは分枝鎖の飽和炭化水素ラジカルを画定する。
【0019】
用語C1〜6アルコキシは、C1〜6アルキルオキシまたはC1〜6アルキルエーテルラジカルを意味し、ここで用語C1〜6アルキルは上で画定されたとおりである。適切なアルキルエーテルラジカルの例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、iso−ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ヘキサノキシなどが挙げられる。
【0020】
用語ハロゲン化物はフッ素、塩素、臭素、およびヨウ素に対する総称である。
【0021】
上記画定において使用されるいずれの分子部分上のラジカル位置も、それが化学的に安定である限り、そのような部分の上のどこであってもよいことに留意されたい。
【0022】
可変要素の画定において使用されるラジカルは、特に示さない限り、すべての可能な異性体を含む。例えばペンチルは1−ペンチル、2−ペンチルおよび3−ペンチルを含む。
【0023】
いずれの構成要素においても、いずれの可変要素が複数回現れる場合でも、各画定は独立である。
【0024】
本発明の1つの実施形態では、式(V)、(Va)、(IV)、(II)、および(I)の化合物において、当該ナフチル環は、1位、3位、4位、5位、6位、7位、および8位の各々においてRによって置換されていてもよい。好ましい実施形態では、当該ナフチル環は非置換である、すなわちRは水素である。別の実施形態では、当該ナフチル環は、好ましくはメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、およびイソプロポキシから選択されるC1〜6アルコキシ基によって5位、6位、または7位で置換される。
【0025】
本発明の別の実施形態では、式(V)、(Va)、(IV)、および(III)によって表される化合物において、Rは、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、および−C(=O)R(式中、Rは、水素、メチル、またはエチルである)から選択される。好ましくは、Rは、水素、メチル、および−C(=O)R(式中、Rはメチルである)から選択される。より好ましくは、Rは水素である。
【0026】
本発明のさらなる実施形態では、式(V)、(Va)、(IV)、および(III)によって表される化合物において、Rは、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、およびフェニルから選択される。好ましくは、Rは、水素、メチル、イソプロピル、およびフェニルから選択される。より好ましくは、Rはメチルである。
【0027】
本願明細書中で言及する場合の用語「塩」は、式(V)または(Va)の中間体が形成することができるいずれも安定な塩も含むことが意図されている。無毒な塩形態である薬学的に許容できる塩が好ましい。薬学的に許容できない塩もまた本発明の範囲に包含される。なぜなら、それらは薬理活性を有する化合物の調製において有用である中間体に関するからである。この塩は、当該塩基形態を、例えば、ハロゲン化水素酸(例えば塩化水素酸、臭化水素酸など)、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、または有機酸、例えば、酢酸、プロパン酸、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロパン酸、2−オキソプロパン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパン−トリカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、2−ヒドロキシ安息香酸、4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸および類似の酸などの適切な酸で処理することにより、簡便に得ることができる。逆に、この塩形態は、アルカリを用いた処理によって遊離塩基形態へと変換できる。用語「塩」はまた、メタノール和物またはエタノール和物などの例えばアルコール和物を含めた、式(V)および(Va)の化合物が形成することができる水和物または溶媒和物を含むことも意図されている。
【0028】
語句「薬学的に許容できる」は、動物またはヒトへ投与されたときに有害な反応、アレルギー反応、または他の副作用をもたらさない分子実体および組成物を指す。
【0029】
式(IV)の化合物は、15〜80℃の温度で酸性条件に供され、式(V)、(Va)の化合物、またはそれらの塩を与える。
【0030】
用語「酸性条件」は、塩酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、スルホン酸、硫酸、リン酸、これらの混合物などの酸を指す。これらの酸は、希釈されたまたは濃縮された形態(濃塩化水素酸など)で用いられてもよい。この塩化水素酸は、およそ1N〜12N、好ましくは3N〜9N、より好ましくは5N〜7N、およびさらにより好ましくは約6Nの濃度で使用される。好ましくは、「酸性条件」はpH<3の溶液設定を指す。
【0031】
1つの実施形態では、酢酸および塩酸の混合物が、好ましくは1体積の塩酸に対して1〜5体積の酢酸の比で、より好ましくは、1体積の塩酸に対して2〜3体積の酢酸の比で用いられる。
【0032】
この反応の温度は15〜80℃に及ぶ。好ましい反応温度は、20〜75℃の範囲で、より好ましくは、30〜70℃の範囲で、さらにより好ましくは45〜65℃の範囲で選択される。
【0033】
上記の反応および以下の反応において、反応生成物は反応媒体から単離されてもよく、そして必要に応じて、抽出、結晶化およびクロマトグラフィなどの当該技術分野で一般に公知の方法論に従ってさらに精製されてもよいことは明らかである。
【0034】
本発明の1つの実施形態では、式(IV)の化合物は、式(II)の化合物を1未満のpHで水系媒体の中で式(III)の化合物と反応させることにより調製される。
【化8】

式(II)および(III)の化合物において、
Xはハロゲン化物アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン、硫酸アニオン、ホウ酸アニオン、またはテトラフルオロホウ酸アニオンであり、
、R、およびRは上で画定されたとおりである。
【0035】
本発明の式(III)の出発物質は、市販されているか、または以下の一覧に開示されるように当該技術分野で公知の方法から入手できる:
・ 2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン、Ryan Scientific Product Listから。
・ 4−(1,1−ジメチルエチル)−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノン、特開平10−36259号公報(JP10036259)から。
・ (S)−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンおよび(R)−2,5−ジメチル−(2H)−フラノン、Eghbaldarら、Parfums,Cosmetiques,Aromes(1992)、104、71−8から。
・ (R)−5−ヘキシル−2−メチル−3(2H)−フラノンおよび(S)−5−ヘキシル−2−メチル−3(2H)−フラノン、Mosandlら、Journal of High Resolution Chromatography(1990)、13(9)、660−2から。
・ 2−メチル−4−(2−メチルプロピル)−3(2H)−フラノンおよび2−メチル−4−ペンチル−3(2H)−フラノン、Baraldiら、Tetrahedron(1987)、43(1)、235−42から。
・ 2−メチル−5−(2−メチルプロピル)−3(2H)−フラノン、2−メチル−5−フェニル−3(2H)−フラノン、および2−メチル−5−ペンチル−3(2H)−フラノン、Baraldiら、Tetrahedron Letters(1984)、25(38)、4313−16から。
・ 5−ヘキシル−2−メチル−3(2H)−フラノン、Winklerら、Organic Letters(2005)、7(3)、387−389から。
・ 5−エチル−2−メチル−3(2H)−フラノン、Liら、Organic Letters(2007)、9(7)、1267−1270から。
・ 5−エチル−2,4−ジメチル−3(2H)−フラノン、Shuら、ACS Symposium Series(1989),Volume Date 1988、409(Therm.Gener.Aromas)、229−41から。
・ 2,4−ジメチル−5−フェニル−3(2H)−フラノン、Batsonら、Organic Letters(2005)、7(13)、2771−2774から。
・ 2,4,5−トリメチル−3(2H)−フラノン、米国特許第4234616号明細書または英国特許第2026482号明細書から。
・ 2−メチル−3(2H)−フラノン、Coxonら、Journal of the Chemical Society,Chemical Communications(1973)、(8)、261−2から。
・ 2,4−ジメチル−3(2H)−フラノン、Yeretzianら、International Journal of Mass Spectrometry(2003)、223−224(1−3)、115−139から。
・ 5−イソプロピル−2−メチル−3(2H)−フラノン、Mukerjiら、Tetrahedron(1983)、39(13)、2231−5から。
【0036】
本願明細書で言及される水系媒体は水も含む。
【0037】
水系媒体の中に式(II)および(III)の化合物を含む反応混合物で1未満のpHを得るために、塩化水素酸、フッ化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、およびテトラフルオロホウ酸などの濃酸が加えられてもよい。好ましくは、濃塩酸が使用される。
【0038】
本願明細書に提示されるプロセスの利点は、式(II)および(III)の化合物を反応させた後、得られた式(IV)の化合物を精製することは必要でないということである。式(IV)の化合物を含む有機相は、上記のとおりの15〜80℃の温度で酸性条件に直ちに供して、これにより式(V)の化合物、互変異性体(Va)、またはそれらの塩を得ることができる。
【0039】
従って、本発明の1つの実施形態は、式(V)の化合物、互変異性体(Va)、およびそれらの塩の調製のための方法であって、1未満のpHの水系媒体の中で式(II)の化合物を式(III)の化合物と反応させ、これにより式(IV)の化合物を含む反応混合物を得る工程を含む方法に関する。次いでその有機相は、15〜80℃の温度で酸性条件に供され、これにより式(V)の化合物、互変異性体(Va)、またはそれらの塩が得られる。式中、X、R、R、およびRは、式(II)、(III)、(IV)、(V)、および(Va)の化合物において上で画定されたとおりである。
【0040】
任意に、この有機相から式(IV)の化合物の分離が所望される場合、当該化合物はその水相の濾過によって分離されてもよい。式(IV)の化合物が水と混和性でない場合、当該化合物は注ぎこみまたは液液抽出によって分離することができる。
【0041】
式(III)および(IV)の化合物は少なくとも1つのキラル中心(center of chirality)(下記に星印で示される)を有し、立体化学的な異性体として存在する。用語「立体化学的な異性体」は、本願明細書で使用する場合、同じ結合順序によって結合された同じ原子から構成されているが交換可能ではない異なる三次元構造を有する、式(III)または(IV)の化合物が有する可能性があるすべての可能な化合物を画定する。
【化9】

【0042】
(R)または(S)が置換基内のキラル原子の絶対配置を表示するために使用される場合に関して、この表示は、当該置換基を分離して考慮するのではなく化合物全体を考慮に入れて行われる。
【0043】
特に言及も示しもしない場合、ある化合物の化学表示は、その化合物が有する可能性があるすべての可能な立体化学的な異性体の混合物を包含する。当該混合物は、当該化合物の基本分子構造のすべてのジアステレオマーおよび/または鏡像異性体を含有してもよい。純粋な形態にある場合または互いに混合されている場合の両方の本発明の化合物のすべての立体化学的な異性体は、本発明の範囲の内に包含されることが意図されている。
【0044】
本願明細書中で言及する場合の化合物および中間体の純粋な立体異性体は、当該化合物または中間体の同じ基本分子構造の他の鏡像異性体またはジアステレオマー形態を実質的に含まない異性体と定義される。特に、用語「立体異性体として純粋な」は、少なくとも80%の立体異性体過剰率(すなわち最低90%の1つの異性体および最大10%の他の可能な異性体)から100%の立体異性体過剰率(すなわち100%の1つの異性体で、他のものを含まない)を有する化合物または中間体、より特には90%〜100%の立体異性体過剰率を有する、なおより特には94%〜100%の立体異性体過剰率を有する、最も特には97%〜100%の立体異性体過剰率を有する化合物または中間体に関する。用語「鏡像異性体として純粋な」および「ジアステレオマーとして純粋な」は、それぞれ当該混合物の鏡像体過剰率、およびジアステレオマー過剰率が考慮されることを除いて、同様に理解されたい。
【0045】
本発明の化合物および中間体の純粋な立体異性体は、当該技術分野で公知の手順の適用により得てよい。例えば、鏡像異性体は、それらのジアステレオマー塩の、光学活性な酸または塩基を用いた選択的な結晶化によって互いから分離されてもよい。光学活性な酸または塩基の例は、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸およびカンファースルホン酸である。あるいは、鏡像異性体は、キラル固定相を使用するクロマトグラフィ手法によって分離されてもよい。当該純粋な立体化学的な異性体はまた、反応が立体特異的に起こるのであれば、適切な出発物質の対応する純粋な立体化学的な異性体から誘導されてもよい。好ましくは、特定の立体異性体が所望される場合、当該化合物は立体特異的な調製方法によって合成されることになる。これらの方法では、鏡像異性体として純粋な出発物質を用いることが有利であろう。
【0046】
本発明の1つの実施形態では、式(II)の化合物は、水系媒体の中で、−10〜10℃の間の温度で式(I)の化合物を亜硝酸溶液と反応させることにより調製される。
【化10】

式中、Rは、上で画定されたとおりである。
【0047】
この亜硝酸溶液は鉱酸を亜硝酸ナトリウムと反応させることにより調製されてもよい。亜硝酸溶液を調製するための適切な鉱酸としては、塩化水素酸、フッ化水素酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、およびテトラフルオロホウ酸が挙げられる。
【0048】
式(II)の化合物の調製で用いられる反応温度は、−10〜10℃の間、好ましくは−5〜5℃の間で適切に選択され、より好ましくはおよそ0℃である。
【0049】
式(I)の出発物質は市販されているか、または当該技術分野で公知の方法によって市販の生成物から容易に得られる可能性がある。例として、以下のものに言及することができる:
・ 5−メトキシ−2−ナフタレンアミン、Chemstepから。
・ 2−アミノナフタレン、Sigmaから。
・ 2−ナフタレンアミン、臭化水素酸塩、Salorから。
・ 2−ナフチルアミン塩酸塩、International Laboratoryから。
・ 6−メトキシ−2−ナフタレンアミン、Chemstepから。
・ 7−メトキシ−2−ナフタレンアミン、Chemstepから。
・ 8−メトキシ−2−ナフチルアミン、Hornerら、Chemische Berichte(1963)、96、786−97から。
・ 7−メトキシ−2−ナフチルアミン塩酸塩、LaBuddeら、Journal of the American Chemical Society(1958)、80、1225−36から。
・ 6−プロポキシ−2−ナフタレンアミン、Liら、Chemical Research in Chinese Universities(1991)、7(3)、197−200から。
・ 8−メトキシ−2−ナフチルアミン塩酸塩および5−メトキシ−2−ナフチルアミン塩酸塩、Muellerら、Journal of the American Chemical Society(1944)、66、860−2から。
【0050】
上記のそれぞれの反応において、得られる化合物の各々は、必要な場合には、当該技術分野で公知の方法に従って反応混合物から回収することができる。例えば、不溶性の物質が存在する場合、所望の化合物は、 −濾過によってその不溶性の物質を除去した後− その溶媒を除去することにより、例えば減圧下でその溶媒を除去することにより、および/または水をこの残渣に加えてこの混合物を酢酸エチルなどの水と非混和性の有機溶媒を用いて抽出することにより得ることができる。任意に、この所望の化合物は、例えば無水硫酸ナトリウムで乾燥した後に、およびさらに必要に応じて再結晶、カラムクロマトグラフィ、または他の手法などのいずれかの従来の方法を用いて精製することによって、得ることができる。
【0051】
本発明の別の実施形態は、式(V)の化合物、互変異性体(Va)、およびそれらの塩自体に関する。
【化11】

式中、
は、水素、C1〜6アルキル、または−C(=O)Rであり、
は、水素、C1〜6アルキル、またはフェニルであり、
は、水素またはC1〜6アルコキシであり、
は、水素またはC1〜4アルキルである。
【0052】
本発明に係る特定の式(V)または(Va)の化合物の例としては、下記の実施例で言及される化合物番号1、2、3、および4、ならびにそれらの塩が挙げられる。
【0053】
本発明の別の実施形態は式(IV)の化合物それ自体に関する。
【化12】

式中、
は、水素、C1〜6アルキル、または−C(=O)Rであり、
は、水素、C1〜6アルキル、またはフェニルであり、
は、水素またはC1〜6アルコキシであり、
は、水素またはC1〜4アルキルである。
【0054】
式(V)または(Va)によって包含される異なる化合物は、当該技術分野で公知の官能基変換反応に従って互いへと変換されてもよい。それらは、所望の置換基R、RまたはRをすでに保有している出発物質、すなわち式(I)および(III)の化合物を用いて得られることが適切である。
【0055】
本発明の式(V)または(Va)の化合物は、三価の窒素をそのN−オキシド形態に変換するための当該技術分野で公知の手順に従って対応するN−オキシド体へと変換されてもよい。本発明の化合物のN−オキシド体は、1個または数個の窒素原子がいわゆるN−オキシドへと酸化されている式(V)または(Va)の化合物を含むことが意図されている。当該N−酸化反応は、一般に、式(V)または(Va)の化合物を適切な有機または無機の過酸化物と反応させることにより実施されてもよい。適切な無機の過酸化物は、例えば、過酸化水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の過酸化物、例えば過酸化ナトリウム、過酸化カリウムを含み、適切な有機過酸化物は、例えば、過安息香酸またはハロ置換過安息香酸、例えば3−クロロ過安息香酸、過アルカン酸、例えば過酢酸などの過酸、アルキルヒドロペルオキシド、例えばtert−ブチルヒドロペルオキシドを含んでよい。適切な溶媒は、例えば、水、低級アルコール(例えばエタノールなど)、炭化水素(例えばトルエン)、ケトン(例えば2−ブタノン)、ハロゲン化炭化水素(例えばジクロロメタン)。およびこのような溶媒の混合物である。
【0056】
実施例から明らかとなるように、本発明の化合物の好適なプロセス可能性という特性に起因して、本発明の化合物は、上で画定された式(X)の化合物の調製における中間体として有用である。一般に、本発明の化合物は、オピオイドの不快気分、幻覚発動および心臓賦活(cardiac stimulant)効果と関連があると言われているシグマ受容体−中枢神経系の細胞表面受容体−に対して薬理活性を有する式(X)の化合物、その薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、および溶媒和物の調製において有用である。
【0057】
従って、本発明の1つの実施形態は、式(X)の化合物、それらの薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、および溶媒和物
【化13】

(式中、
、R、およびRは上で画定されたとおりであり、
nは2であり、
およびRは、各々独立に、C1〜6アルキルであるか、またはそれらが結合する窒素原子と一緒にモルホリニル、ピペリジニル、またはピロリジニル基を形成する)
の調製における中間体としての、式(V)の化合物、互変異性体(Va)、およびそれらの塩の使用に関する。
【0058】
本発明の別の実施形態は、上で言及したとおりの式(X)の化合物、その薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、および溶媒和物の調製における中間体としての、各々独立に、式(IV)、(III)、(II)、および(I)の化合物の使用に関する。
【0059】
本願明細書全体で使用される場合の用語「プロドラッグ」は、エステル、アミドおよびホスフェートなどの薬理学的に許容できる誘導体を意味し、そのため、この誘導体の生じるインビボ生体内変換生成物は、式(X)の化合物で画定される活性薬物である。プロドラッグを全般的に記載するGoodmanおよびGilmanによる参考文献(The Pharmacological Basis of Therapeutics,8th ed,McGraw−I−Till,hit Ed. 1992, 「Biotransformation of Drugs」、13−15頁)は、本願明細書に援用したものとする。プロドラッグは、好ましくは優れた水溶性、高められたバイオアベイラビリティーを有し、インビボで活性な阻害剤へと容易に代謝される。本発明の化合物のプロドラッグは、当該化合物に存在する官能基を、修飾された化合物が慣用的な操作によるかまたはインビボのいずれかで当該親化合物へと切断されるように、修飾することによって調製されてもよい。
【0060】
用語「溶媒和物」は、化学量論量または非化学量論量のいずれかの溶媒を含有する式(X)の化合物の結晶形態を指す。水は溶媒であるため、溶媒和物は水和物をも包含する。
【0061】
用語「偽多形(pseudopolymorph)」は、溶媒和物の同義語である。なぜなら、それは、溶媒分子が格子構造の中に組み込まれた多形の結晶性形態に当てはまるからである。
【0062】
溶媒和物の例は、水和物、およびメタノール和物またはエタノール和物などのアルコール和物である。
【0063】
以下の特定の実施例は、本発明および種々の好ましい実施形態をさらに例証するために提供される。
【実施例】
【0064】
実施例1:2,5−ジメチル−2−(ナフタレン−2−イルジアゼニル)フラン−3(2H)−オンの合成
O(12mL)中のナフタレン−2−アミン(2.86g、20mmol)の懸濁液に濃HCl(5mL)を加え、氷浴の中で冷却し、その後、NaNO溶液(HO(8mL)中に1.48g、21.5nnmol)を、混合物を0℃で20分間撹拌することを維持しながら滴下した。
【0065】
上記の溶液をHO(25mL)に希釈し、2,5−ジメチルフラン−3(2H)−オン(2.48g、22mmol)を加え、室温で1.5時間撹拌したままにし、これにより橙色の濃厚な油状物を得た。エチルエーテルを加え、この有機相を水、NaHCOの飽和溶液および水で洗浄した。この有機相を注ぎ込み、乾燥し、そして減圧で取り除き、これにより2,5−ジメチル−2−(ナフタレン−2−イルジアゼニル)フラン−3(2H)−オン(4.5g、16.9mmol、84.5%)を、橙色の濃厚な油状物の形態で得た。この油状物は、静置していると固化し、精製なしで以下の反応で使用することができた。
【0066】
実際は、上記の粗製油状物を、次の合成工程に先立って、CHClを溶離液として使用するシリカゲルでのクロマトグラフィによって精製し、2,5−ジメチル−2−(ナフタレン−2−イルジアゼニル)フラン−3(2H)−オン(3.4g、12.8mmol、64.0%)を橙色の固体物質として得た。融点76〜77℃。
【0067】
H NMR(300MHz,CDCl)δ 1.80(s,3H)、2.48(s,3H)、5.56(s,1H)、7.56(m,2H)、7.79−7.89(m,3H)、7.98(m,1H)、8.42(s,1H)。
【0068】
実施例2:5−メチル−1−(ナフタレン−2−イル)−1H−ピラゾール−3(2H)−オン(化合物1)の合成
酢酸(15mL)に溶解した2,5−ジメチル−2−(ナフタレン−2−イルジアゼニル)フラン−3(2H)−オン(2.0g、7.51mmol)を、65℃の温度(58℃内温)に予め加熱した酢酸(10mL)および6N塩酸(10mL)の混合物へ加えた。この混合物を、65℃の同じ温度で2時間の間、撹拌し続けた。この溶液を冷却し、水/氷の混合物(200mL)を加え、得られた固体物質を濾過し、水で洗浄した。得られた粗製物(1.27g、純度HPLC 94%)を水(40〜50mL)の中に懸濁させ、塩基性のpH(10〜12)を達成するまでNaOH 10%を加え、不溶性の不純物を濾過し、HCl 2Nを用いてこの溶液を酸性にし、得られた沈殿物を濾過して水で洗浄し、これにより5−メチル−1−(ナフタレン−2−イル)−1H−ピラゾール−3(2H)−オン(1.09g、4.86mmol、65%、純度HPLC 96%(再結晶なし))を得た。
【0069】
H NMR(300MHz,DMSO−d)δ 2.36(s,3H),5.64(s,1H),7.54(m,2H),7.69(m,1H),7.93−8.02(m,4H),9.97(s,1H)。
【0070】
実施例3
実施例1および実施例2に記載した方法に従って調製したさらなる化合物は、以下のとおりである。
【0071】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(V)の化合物、互変異性体(Va)、およびそれらの塩の調製のための方法であって、
【化1】

式(IV)の化合物を15〜80℃の温度で酸性条件に供し、
【化2】

これにより式(V)の化合物、互変異性体(Va)、またはそれらの塩を得る工程を含み、式(V)、(Va)、および(IV)の化合物において、
は、水素、C1〜6アルキル、または−C(=O)Rであり、
は、水素、C1〜6アルキル、またはフェニルであり、
は、水素またはC1〜6アルコキシであり、
は、水素またはC1〜4アルキルである、方法。
【請求項2】
前記酸性条件は、濃塩化水素酸、または酢酸および濃塩化水素酸の混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度は45〜65℃である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記式(IV)の化合物は、1未満のpHの水系媒体の中で式(II)の化合物を式(III)の化合物と反応させること
【化3】

(式(II)および(III)の化合物において、
Xはハロゲン化物アニオン、硝酸アニオン、リン酸アニオン、硫酸アニオン、ホウ酸アニオン、またはテトラフルオロホウ酸アニオンから選択され、
、R、およびRは請求項1に記載されたとおりである)
により調製される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記式(II)の化合物は、−10〜10℃の温度で水系媒体の中で式(I)の化合物を亜硝酸溶液と反応させること
【化4】

(式中、Rは請求項1に記載されたとおりである)
により調製される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
式(V)の化合物、互変異性体(Va)、およびそれらの塩
【化5】

(式中、R、R、およびRは請求項1に記載されたとおりである)。
【請求項7】
式(IV)の化合物
【化6】

(式中、R、R、およびRは請求項1に記載されたとおりである)。
【請求項8】
は、水素、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、およびイソプロポキシから選択される、請求項6または請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
は、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、および−C(=O)R(式中、Rは、水素、メチル、またはエチルである)から選択される、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
は、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、およびフェニルから選択される、請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項11】
式(X)の化合物、その薬学的に許容できる塩、異性体、プロドラッグ、および溶媒和物
【化7】

(式中、
、R、およびRは請求項1に記載されたとおりであり、
nは2であり、
およびRは、各々独立に、C1〜6アルキルであるか、またはそれらが結合する窒素原子と一緒にモルホリニル、ピペリジニル、またはピロリジニル基を形成する)
の調製における中間体としての、請求項6に記載の式(V)の化合物、互変異性体(Va)、およびそれらの塩の使用。
【請求項12】
請求項11に記載の式(X)の化合物の調製における中間体としての、請求項7に記載の式(IV)の化合物の使用。

【公表番号】特表2011−518808(P2011−518808A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505524(P2011−505524)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/054981
【国際公開番号】WO2009/130314
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(500031124)ラボラトリオス・デル・ドクトル・エステベ・ソシエダッド・アノニマ (55)