説明

システアミン生成物を用いる非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療方法

本開示は、一般に、システアミン生成物を含む組成物を投与することを含んでなる脂肪性肝疾患の治療に関する。本開示は、腸溶性コーティングを施したシステアミン組成物を投与することにより、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のような脂肪性肝疾患を治療することを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年11月30日付の米国仮出願第60/991,517号および2008年7月31日付の米国仮出願第61/085,397号の優先権を主張するものであり、それぞれの開示内容をそのまま本明細書に参照により組み入れる。
【0002】
本発明は、一般的に、システアミン生成物を用いて脂肪性肝疾患を治療するための物質および方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
脂肪性肝疾患(または脂肪性肝炎)はしばしば過度のアルコール摂取や肥満と関係があるが、インスリン抵抗性や糖尿病といった代謝欠陥などの他の原因も関係している。脂肪肝は肝細胞の空胞にトリグリセリド脂肪が蓄積することから生じ、結果的に肝機能の低下をもたらし、しかも肝硬変または肝臓癌へと進行することがある。
【0004】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、アルコール乱用がなくても発症する、ある範囲の疾患を表す。NAFLDやNASHのような脂肪性肝疾患のための満足のいく治療は今のところ利用できない。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、治療に有効な量のシステアミン組成物を投与することを含んでなる、脂肪性肝疾患にかかっている被験者を治療する方法を提供する。一実施形態において、脂肪性肝疾患は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝炎から生じる脂肪性肝疾患、肥満症から生じる脂肪性肝疾患、糖尿病から生じる脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性から生じる脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症から生じる脂肪性肝疾患、無βリポタンパク血症、糖原病(グリコーゲン貯蔵症)、ウェーバー・クリスチャン病(Weber-Christian disease)、ウォルマン病(Wolmans disease)、急性妊娠脂肪肝、およびリポジストロフィー(脂肪萎縮症)からなる群より選択される。別の実施形態において、システアミン組成物の総1日量は約0.5〜1.0g/m2である。さらに別の実施形態において、システアミン組成物は1日4回以下(例えば、1日1、2または3回)の頻度で投与される。一実施形態において、前記組成物は小腸へのシステアミンまたはシステアミン誘導体の送達を増大させる遅延放出型または制御放出型の製剤である。その遅延放出型または制御放出型製剤は、同量のシステアミンまたはシステアミン誘導体を含む即時放出型製剤がもたらすCmaxよりも少なくとも約35%、50%、75%またはそれ以上高いシステアミン、システアミン誘導体またはその生物学的活性代謝産物のCmaxをもたらすことができる。さらに別の実施形態において、その遅延放出型または制御放出型製剤は、組成物が小腸に到達するか、またはpHが約pH4.5より高い被験者の胃腸管の領域に到達するとき、システアミン組成物を放出する腸溶性コーティングを含む。例えば、そのコーティングは以下の材料からなる群より選択することができる:重合ゼラチン、セラック、メタクリル酸コポリマーC型NF、セルロースブチレートフタレート、セルロースハイドロジェンフタレート、セルロースプロプリオネートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート、ジオキシプロピルメチルセルローススクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ならびにアクリル酸のポリマーおよびコポリマー、典型的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸エチルから生成されるもの(アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとのコポリマーを含む)。こうした組成物は経口的または非経口的に投与することができる。別の実施形態において、本方法は、システアミン組成物の投与前のレベルと比較して、結果的に肝線維症を改善させる。さらに別の実施形態において、本方法は肝臓の脂肪含量の低下、肝硬変の発生率もしくは進行の低下、または肝細胞癌の発生率の低下をもたらす。一実施形態では、本方法は肝アミノトランスフェラーゼ(アミノ基転移酵素)レベルを、システアミン組成物の投与前のレベルと比較して、低下させる。さらなる実施形態では、その投与が、治療前のレベルと比較して、結果的に肝トランスアミナーゼを約10〜40%低下させる。さらに別の実施形態では、その投与が、治療した患者におけるアラニンまたはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼのレベルを、正常ALTレベルより約30%、20%または10%上に、あるいは正常ALTレベルに低下させる。さらに他の実施形態では、その投与が血清フェリチンレベルを、システアミン組成物による治療前のレベルと比較して、低下させる。本開示の方法および組成物はまた、脂肪性肝疾患を治療するためにシステアミン組成物と組み合わせて第2の薬剤を投与することを含む。被験者は成人、若者または子供であってよい。
【0006】
ある態様において、本開示は、治療に有効な量の、システアミン生成物を含む組成物を投与することを含んでなる、NAFLDまたはNASHを含む脂肪性肝疾患にかかっている患者を治療する方法を提供する。本開示の方法はまた、脂肪性肝疾患治療用の医薬の製造におけるシステアミン生成物の使用、ならびに脂肪性肝疾患治療用の第2の薬剤と組み合わせて投与するための医薬の製造におけるシステアミン生成物の使用を包含する。さらにまた、システアミン生成物と組み合わせて投与するための医薬の製造における脂肪性肝疾患治療用の第2の薬剤の使用も包含する。さらに、脂肪性肝疾患治療用のシステアミン生成物、場合により脂肪性肝疾患治療用の第2の薬剤、および脂肪性肝疾患治療のための使用説明書を含んでなるキットを提供する。「脂肪性肝疾患」という用語はNASHを含めても除外してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】腹腔内投与した0、75および250mg/kg/日のシステアミンによる治療が、高脂肪食(HFD)を8日間与えた動物におけるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルに及ぼす影響を示す。HFDを与えなかった対照動物のASTレベルも示される。グラフは、試験前日(プレ)と試験8日目(SD8)に採取した血液サンプルから得られた平均AST値を示す。
【図2】腹腔内投与した0、75および250mg/kg/日のシステアミンによる治療が、HFDを8日間与えた動物におけるコレステロールレベルに及ぼす影響を示す。HFDを与えなかった対照動物のコレステロールレベルも示される。グラフは、試験前日(プレ)と試験8日目(SD8)に採取した血液サンプルから得られた平均コレステロール値を示す。
【図3】腹腔内投与した0、75および250mg/kg/日のシステアミンによる治療が、HFDを8日間与えた動物における低密度リポタンパクコレステロール(LDLコレステロール)レベルに及ぼす影響を示す。HFDを与えなかった対照動物のLDLコレステロールレベルも示される。グラフは、試験前日(プレ)と試験8日目(SD8)に採取した血液サンプルから得られた平均LDLコレステロール値を示す。
【図4】腹腔内投与した0、75および250mg/kg/日のシステアミンによる治療が、HFDを8日間与えた動物における乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)レベルに及ぼす影響を示す。HFDを与えなかった対照動物のLDHレベルも示される。グラフは、試験前日(プレ)と試験8日目(SD8)に採取した血液サンプルから得られた平均LDH値を示す。
【図5】飲料水によって送達された0、25、75および250mg/kg/日の目標量のシステアミンによる治療が、HFDを8週間与えた動物におけるASTレベルに及ぼす影響を示す。HFDを与えなかった対照動物のASTレベルも示される。グラフは、試験前日(0週)および示した週(2、4、6または8週)の最終日に採取した血液サンプルからの平均AST値±SEMを示す。
【図6】飲料水によって送達された0、25、75および250mg/kg/日の目標量のシステアミンによる治療が、HFDを8週間与えた動物におけるLDHレベルに及ぼす影響を示す。HFDを与えなかった対照動物のLDHレベルも示される。グラフは、試験前日(0週)および示した週(2、4、6または8週)の最終日に採取した血液サンプルからの平均LDH値±SEMを示す。
【図7】飲料水によって送達された0、25、75および250mg/kg/日の目標量のシステアミンによる治療が、HFDを8週間与えた動物における高密度リポタンパクコレステロール(HDLコレステロール)レベルに及ぼす影響を示す。HFDを与えなかった対照動物のHDLコレステロールレベルも示される。グラフは、試験前日(0週)および示した週(2、4、6または8週)の最終日に採取した血液サンプルからの平均HDLコレステロール値±SEMを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる単数形は、文脈が別の方法で明確に示さない限り、複数の指示対象物をも含むものとする。したがって、例えば、単数形で「誘導体」というときは複数のそのような誘導体を含み、また、単数形で「被験者」というときは1人以上の被験者を含む、といった具合である。
【0009】
また、特に明記しない限り、「または」を用いるときは「および/または」を意味する。同様に、「含む」、「含んでなる」、「含んでいる」、「包含する」および「包含している」は互いに置き替え可能であり、限定するものではない。
【0010】
さらに理解すべきこととして、さまざまな実施形態の記載で「含む」という語が用いられる場合、当業者であれば、ある特定の場合には、その代わりに「から実質的になる」または「からなる」という語を用いて実施形態を記載できることが理解されるだろう。
【0011】
特段の定めがない限り、本明細書中で用いる全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味である。本開示の方法および組成物を実施する際には、本明細書に記載したものと類似のまたは同等の方法および物質を使用できるが、本明細書には典型的な方法、装置および物質を記載する。
【0012】
上で、また本文を通して記載した刊行物は、本出願の出願日に先立つそれらの開示だけのために提供される。本明細書中の何ものも、本発明者らが事前開示によってそのような開示に先行する権利がないことを受け入れる、と解釈されるべきでない。
【0013】
本開示は、脂肪性肝疾患にかかっている患者において、該疾患に伴う症状を軽減することができる新しい治療を提供する。本開示は、治療が必要な患者に効果的な治療法をもたらすシステアミン組成物を提供する。
【0014】
以下の参考文献は本開示で用いる用語の多くの一般的な定義を当業者に提供する:Singletonら, DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY (第2版, 1994); THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY (Walker編, 1988); THE GLOSSARY OF GENETICS, 第5版, R. Riegerら (編), Springer Verlag (1991); およびHale and Marham, THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY (1991)。
【0015】
システアミンはタンパク質グルタチオン(GSH)前駆体に対する前駆物質であり、現在、リソソーム内のシスチン蓄積障害であるシスチン症(cystinosis)の治療に用いることがFDAにより認可されている。シスチン症では、システアミンがシスチンをシステインとシステイン-システアミン混合ジスルフィドに変換することにより作用し、その後、両物質はそれぞれシステインおよびリシン輸送体を介してリソソームを去ることができる (Gahl et al., N Engl J Med 2002;347(2):111-21)。サイトゾル内で、混合ジスルフィドはグルタチオンとの反応によって還元され、また、放出されたシステインはさらなるGSH合成のために使用される。システインからのGSHの合成は2種類の酵素、γ-グルタミルシステイン合成酵素とGSH合成酵素によって触媒される。この経路はほぼ全ての細胞型で起こるが、肝臓がGSHの主要な生産体および排出輸送体である。還元されたシステイン-システアミン混合ジスルフィドはまた、システアミンを放出し、理論上は、その後システアミンがリソソームに再び入り、より多くのシスチンと結合して、このプロセスを繰り返すことができる (Dohil et al., J Pediatr 2006;148(6):764-9)。シスチン症の子供での最近の研究において、システアミンの腸内投与は血漿システアミンレベルを上昇させ、続いて白血球シスチンレベルを下げるうえで長期の効力をもたらした (Dohil et al., J Pediatr 2006;148(6):764-9)。これは、十分な量の薬物がリソソームに達したときに、システアミンの「リサイクル」によるものであった可能性がある。システアミンがこの様式で作用するならば、GSHの生産も大幅に高まるかもしれない。
【0016】
システアミンは、実験動物において十二指腸潰瘍を誘発するために使用される強力な胃酸分泌促進剤である。ヒトおよび動物での研究は、システアミン誘発型の胃酸過剰分泌には高ガストリン血症が介在する可能性が高いことを示した。習慣的な上部胃腸症状を患うシスチン症の子供で行った以前の研究では、システアミンの単回経口用量(11〜23mg/kg)が高ガストリン血症と、胃酸過剰分泌の2〜3倍上昇と、さらに血清ガストリンレベルの50%上昇を引き起こすことが示された。これらの個体が訴える症状として、腹痛、胸焼け、吐き気、嘔吐、それに食欲不振が含まれていた。米国特許出願第11/990,869号および国際公開WO 2007/089670号(両方とも2006年1月26日付の米国仮特許出願第60/762,715号に対する優先権を主張する;これらのすべてをそのまま本明細書に参照により組み入れる)は、システアミン誘発型の高ガストリン血症が一部には、感受性個体の胃前庭部に顕著なG細胞への局所作用として生じることを明らかにした。そのデータはまた、これがシステアミンによるガストリン放出の全身的な作用であることを示唆する。投与経路に応じて、血漿ガストリンレベルは通常、胃内送達後30分以内でピークに達するが、血漿システアミンレベルは遅れてピークに達する。
【0017】
シスチン症の被験者は昼夜を問わず6時間ごとに経口システアミン(CYSTAGON(登録商標))を摂取する必要がある。規則的に摂取する場合、システアミンは(循環白血球細胞において測定したとき)細胞内シスチンを最大90%まで激減させることができ、また、これは腎不全/移植への進行率を下げ、かつまた、甲状腺補充療法の必要性を未然に防ぐことが示されていた。CYSTAGON(登録商標)を服用することの困難性のため、必要な投与量を減らすことが治療レジメンの順守を向上させる。国際公開WO 2007/089670号は、小腸へのシステアミンの送達が胃部不快感と潰瘍形成を減少させ、Cmaxを高め、かつAUCを増加させることを実証している。小腸へのシステアミンの送達は、小腸からの吸収率が向上するため、および/または小腸から吸収されるときに肝初回通過除去(hepatic first pass elimination)を受けるシステアミンがより少ないため、有用である。白血球シスチンの減少は治療後1時間以内に観察された。
【0018】
本開示は、脂肪性の肝疾患および肝障害の治療に有用なシステアミン生成物を提供する。システアミン生成物は、一般的に、システアミン、シスタミン、もしくはそれらの生物学的活性代謝産物、またはシステアミンもしくはシスタミンの組み合わせを意味し、以下のものを包含する:システアミンまたはシスタミンの塩、エステル、アミド、アルキル化化合物、プロドラッグ、類似体、リン酸化化合物、硫酸化化合物、またはラベリング(例えば、放射性核種や種々の酵素による)のような技法、もしくはPEG化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)のようなポリマー共有結合による、これらの化合物の他の化学的修飾体。
【0019】
システアミン生成物には、システアミン、シスタミン、生物学的活性代謝産物、またはエステル化、アルキル化(例えば、C1、C2またはC3)、ラベリング(例えば、放射性核種や種々の酵素による)、PEG化(ポリエチレングリコールによる誘導体化)のようなポリマー共有結合による、該化合物の化学的修飾体、またはこれらの混合物が含まれる。いくつかの実施形態において、システアミン生成物は、限定するものではないが、塩酸塩、酒石酸水素塩、リン酸化誘導体、および硫酸化誘導体を包含する。その他のシステアミン生成物の例としては、2-アミノプロパンチオール-1、1-アミノプロパンチオール-2、N-およびS-置換システアミン、AET、アミノアルキル誘導体、チオリン酸エステル(phosphorothioate)、アミホスチン(amifostine) (米国特許第4,816,482号)が挙げられる。一実施形態では、システアミン生成物は特にN-アセチルシステインを除外する。一実施形態では、システアミン生成物が、限定するものではないが、下記の構造を含み、
【化1】

【0020】
式中、nは2または3を表し、R1およびR2はそれぞれ水素原子、または場合によりヒドロキシ、アミノ、アルキルアミノもしくはジアルキルアミノ基で置換されてもよいアルキル基を表すか、あるいはシクロアルキルまたはアリール基を表し、そしてX1は、=N-CN、=N-NO2、=N-COR3、=N-NR-COOR3、=N-NR-CONH2、=N-SO2R3、=CH-NO2、-CH-SO2R3、=C(CN)2、=C(CN)COOR3および=C(CN)CONH2からなる群より選択される基を表し、ここで、R3はアルキルまたはアリール基である。別の態様では、システアミン生成物は任意の数の下記の無毒性基に連結されたシステアミン基を含むものであってよく、
【化2】

【0021】
式中、R1は水素原子または炭素原子数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖アルキル基を表す。
【0022】
さらに、システアミン生成物の製薬上許容される塩が包含され、製薬上許容されるアニオンおよび/またはカチオンを含む。製薬上許容されるカチオンとしては、とりわけ、以下のものが挙げられる:アルカリ金属カチオン(例:Li+、Na+、K+)、アルカリ土類金属カチオン(例:Ca2+、Mg2+)、無毒性重金属カチオン、ならびにアンモニウム(NH4+)および置換アンモニウム(N(R')4+、ここで、R'は水素、アルキル、または置換アルキルであり、すなわち、メチル、エチル、またはヒドロキシエチルを含み、特に、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、およびトリエタノールアンモニウムカチオン)。製薬上許容されるアニオンとしては、とりわけ、以下のものが挙げられる:ハロゲン化物(例:Cl-、Br-)、硫酸、酢酸類(例:酢酸、トリフルオロ酢酸)、アスコルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、クエン酸および乳酸のアニオン。
【0023】
システアミン生成物には腸溶性コーティングを施すことができる。腸溶性コーティング薬物または錠剤は、一般に、胃ではその薬物または錠剤が通過するように、もとのままの完全な状態または実質的に完全な状態を保持するが、小腸ではその薬物を溶解して放出する材料(「腸溶性コーティング」)により被覆されている薬物または錠剤をさす。
【0024】
腸溶性コーティングは薬剤コア(例えば、シスタミン、システアミン、CYSTAGON(登録商標)、または他のシステアミン生成物)を包み込む1種以上のポリマー材料でありうる。典型的には、薬剤または治療活性物質が製剤(剤形)から放出される前に、相当量または全部の腸溶性コーティング材料が溶解し、その結果として薬剤コアの遅れた溶解または送達が達成される。適当なpH感受性ポリマーは、小腸内部のような比較的高いpHレベル(4.5より高いpH)の腸環境で溶解し、したがって小腸の領域では薬理活性物質を放出するが、胃のようなGI管の上部では放出できないポリマーである。
【0025】
システアミン生成物はまた、追加の製薬上許容される担体またはビヒクルを含むことができる。製薬上許容される担体またはビヒクルは、一般に、被験者に投与するのに適した物質をさし、かかる担体またはビヒクルは生物学的に有害でないか、さもなくば、望ましくない作用を生じさせないものである。典型的には、そのような担体またはビヒクルは薬剤の不活性成分である。担体またはビヒクルは通常、活性成分と共に被験者に投与されるが、その際、望ましくない生物学的作用を引き起こしたり、それを含む医薬組成物の他の成分と有害な方法で相互作用したりすることがあってはならない。
【0026】
システアミン生成物または他の活性成分は製薬上許容される塩、エステルまたは他の誘導体を含むことができる。例えば、塩、エステルまたは他の誘導体は、親化合物と比較して同様の生物学的作用を有する生物学的活性形態を含む。典型的な塩として、塩酸塩および酒石酸水素塩が挙げられる。
【0027】
本開示の活性成分、医薬組成物または他の組成物は安定剤を含むことができる。安定剤は、一般的に、医薬(特に、貯蔵環境条件下での経口医薬製剤)が分解する速度を下げる化合物をさす。
【0028】
本明細書中で用いる「治療に有効な量」または「有効量」とは、症状の改善(例えば、関係する病状の治療、治癒、予防もしくは改善、またはそのような病状の治療、治癒、予防もしくは改善の速度の向上)をもたらすのに十分な化合物の量をさし、典型的には、処置した患者集団において統計的に有意な改善をもたらす化合物の量をさす。単独で投与される個別の活性成分に言及する場合、治療に有効な用量はその成分のみの量をさす。組み合わせに言及する場合、治療に有効な用量は、組み合わせて(連続的または同時を含む)投与されようとなかろうと、治療効果をもたらす活性成分の総量をさす。一実施形態において、治療に有効な量のシステアミン生成物は、限定するものではないが、以下を含む症状を改善する:肝線維症、肝臓の脂肪含量、肝硬変の発生率または進行、肝細胞癌の発生率、増加した肝アミノトランスフェラーゼレベル(ALTおよびASTなど)、増加した血清フェリチン、上昇したγ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GT)レベル、ならびに上昇した血漿インスリン、コレステロールおよびトリグリセリドレベル。
【0029】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、アルコール乱用がなくても発症する、ある範囲の疾患を表す。それは脂肪症(肝臓内の脂肪)の存在を特徴とし、また、メタボリックシンドローム(肥満、糖尿病、および高トリグリセリド血症を含む)の肝兆候をあらわす可能性がある。NAFLDはインスリン抵抗性に関連しており、それは成人および子供に肝疾患を引き起こし、最終的に肝硬変を招くおそれがある (Skelly et al., J Hepatol 2001; 35: 195-9; Chitturi et al., Hepatology 2002;35(2):373-9)。NAFLDの重症度は、比較的良性の、主として大滴性脂肪症(すなわち、非アルコール性脂肪肝またはNAFL)から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)までの範囲に及ぶ (Angulo et al., J Gastroenterol Hepatol 2002;17 Suppl:S186-90)。NASHは脂肪変性、細胞学的バルーニング(cytological ballooning)、散在性炎症および細胞周囲線維化が組織学的に存在することを特徴とする (Contos et al., Adv Anat Pathol 2002;9:37-51)。NASHから生じる肝線維症は肝硬変や肝不全に進行する可能性があり、場合によっては肝細胞癌を招くことすらある。
【0030】
インスリン抵抗性(および高インスリン血症)の程度はNAFLDの重症度と相関し、単純な脂肪肝の患者よりもNASHの患者において顕著である (Sanyal et al., Gastroenterology 2001;120(5):1183-92)。その結果、脂肪分解のインスリン介在抑制が起こり、循環脂肪酸レベルが上昇する。NASHに関連した2つの要因として、インスリン抵抗性と、肝臓への遊離脂肪酸送達の増加が挙げられる。インスリンはミトコンドリアの脂肪酸酸化を阻止する。肝臓での再エステル化および酸化のための遊離脂肪酸生成の増加は、肝内脂肪の蓄積をもたらし、かつ肝臓の脆弱性(vulnerability)を二次傷害へと増大させる。
【0031】
グルタチオン(γ-グルタミル-システイニル-グリシン;GSH)は主要な内因性の抗酸化物質であり、その枯渇は肝細胞損傷の発生に関与している (Wu et al., J Nutr 2004; 134(3): 489-92)。そうした損傷のひとつがアセトアミノフェン中毒であり、この場合にはその薬物の肝毒性代謝産物を抱合して不活性化しようとして、低下したGSHレベルが枯渇してしまう。毒性量のアセトアミノフェンの後、過剰の代謝産物(N-アセチル-ベンゾキノンイミン)が肝臓のタンパク質および酵素と共有結合して、結果的に肝障害をもたらす (Wu et al., J Nutr 2004; 134(3): 489-92; Prescott et al., Annu Rev Pharmacol Toxicol 1983; 23:87-101)。したがって、増大したグルタチオンレベルは、ROSの減少を介して、いくらかの保護作用があるようである。グルタチオンそのものは、大量に投与されたときでさえ、容易には細胞に入り込まない。しかし、グルタチオン前駆体は細胞内に入ることができ、N-アセチルシステインのような一部のGSH前駆体は、GSH枯渇を遅らせるかまたは防止することにより、アセトアミノフェン毒性などの症状の治療に有効であることが示された (Prescott et al., Annu Rev Pharmacol Toxicol 1983; 23:87-101)。GSH前駆体の例として、システイン、N-アセチルシステイン、メチオニンおよび他の硫黄含有化合物、例えばシステアミンが挙げられる (Prescott et al., J Int Med Res 1976; 4(4 Suppl): 112-7)。
【0032】
システインはGSH合成のための主な律速因子であり、しかも細胞によるシステイン取込みを刺激する因子(例えば、インスリン、成長因子)は一般に細胞内GSHレベルの増加をもたらす (Lyons et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2000;97(10):5071-6; Lu SC. Curr Top Cell Regul 2000;36:95-11)。
【0033】
N-アセチルシステインはNASHの患者にすでに投与されている。トルコからの報告では、NASHの肥満個体をN-アセチルシステインで4〜12週間治療したところ、被験者の肥満度指数(body mass index)の変化が一切報告されなかったけれども、アミノトランスフェラーゼレベルとγ-GTの改善が示された (Pamuk et al., J Gastroenterol Hepatol 2003; 18(10): 1220-1)。
【0034】
システアミン(HS-CH2-CH2-NH2)は、その小さいサイズのために、細胞膜を容易に通過することができる。現在、システアミンはリソソーム内のシスチン蓄積障害であるシスチン症の治療にのみFDAから認可されている。シスチン症では、システアミンがシスチンをシステインとシステイン-システアミン混合ジスルフィドに変換することにより作用し、その後、両物質はそれぞれシステインおよびリシン輸送体を介してリソソームを去ることができる (Gahl et al., N Engl J Med 2002;347(2):111-21)。システアミンによる治療は循環白血球における細胞内シスチンレベルの低下をもたらすことが示されている (Dohil et al., J. Pediatr 2006; 148(6): 764-9)。
【0035】
マウスとヒトでの研究から、システアミンはアセトアミノフェン誘発肝細胞損傷を防ぐのに有効であることが示された (Prescott et al., Lancet 1972;2(7778):652; Prescott et al., Br Med J 1978;1(6116):856-7; Mitchell et al., Clin Pharmacol Ther 1974;16(4):676-84)。シスタミンとシステインは数種の肝毒性物質により誘発される肝細胞の壊死を軽減することが報告されている (Toxicol Appl Pharmacol. 1979 Apr; 48(2): 221-8)。シスタミンは、組織型トランスグルタミナーゼの阻害を介して、四塩化炭素により誘発される肝線維症を改善することが明らかになっている (Qiu et al., World J Gastroenterol. 13: 4328-32, 2007)。
【0036】
子供におけるNAFLDの有病率は、診断を裏付けるために肝臓の組織学的分析が必要となるため、不明である (Schwimmer et al., Pediatrics 2006; 118(4): 1388-93)。しかし、有病率の概算は、肝臓の超音波検査、血清トランスアミナーゼレベルの上昇、およびNAFLDの子供の85%が肥満であるという情報を用いて、小児肥満症データから推定可能である。米国全国健康・栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey)からのデータは、子供・青少年肥満症の有病率が過去35年間で3倍に増加したことを明らかにした;2000年のデータからは、6〜19才の子供の14〜16%が肥満(BMI>95%)であり(Fishbein et al., J Pediatr Gastroenterol Nutr 2003; 36(1): 54-61)、しかもNAFLDの子供の85%が肥満であるという事実も提起される。
【0037】
NAFLDが組織学的に証明された患者では、血清肝アミノトランスフェラーゼ(特に、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT))のレベルが正常レベルの上限からそのレベルの10倍まで上昇する (Schwimmer et al., J Pediatr 2003;143(4):500-5; Rashid et al., J Pediatr Gastroenterol Nutr 2000;30(1):48-53)。ALT/AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)の比は>1(1.5〜1.7の範囲)であり、これは、その比が一般に<1であるアルコール性脂肪性肝炎と相違する。NASHにおいて異常に上昇することがある、その他の異常な血清学的検査としては、γ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GT)および血漿インスリン、コレステロールおよびトリグリセリドの空腹時レベルなどがある。
【0038】
NAFLDがNASHへと進展する正確なメカニズムは依然として不明である。インスリン抵抗性はNAFLDとNASHの双方に関連しているので、NASHが生じるには他の追加の要因がさらに必要であると仮定される。これは、「2ヒット説」(two-hit hypothesis)と呼ばれており (Day CP. Best Pract Res Clin Gastroenterol 2002;16(5):663-78)、第一に肝臓内への脂肪の蓄積、第二に酸化ストレスの増加を伴う大量のフリーラジカルの存在を含む。大滴性脂肪症(macrovesicular steatosis)はトリグリセリドの肝蓄積に相当し、これはひいては肝臓への遊離脂肪酸の送達と利用との不均衡の原因となる。カロリー摂取が増加している間、トリグリセリドは蓄積して貯蔵エネルギー源として作用する。食事のカロリーが不足すると、蓄えられた(脂肪中の)トリグリセリドが脂肪分解を受けて、脂肪酸を循環系に放出し、それを肝臓が取り込む。脂肪酸の酸化は利用のためのエネルギーを生み出す。現在、NASHの治療は2つの主な病原因子(すなわち、肝臓内への脂肪沈着および酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルの過度の蓄積)を減らすことを中心に展開している。脂肪の蓄積は、カロリー消費を増やすだけでなく、脂肪摂取を減らすことにより低下する。一つの治療アプローチは持続した着実な体重減少である。明確に証明されてはいないが、体重の10%を超える減量は、一部の例において、肝脂肪蓄積を減らし、肝トランスアミナーゼを正常化し、肝臓の炎症および線維症を改善することが示されている (Ueno et al., J Hepatol 1997;27(1):103-7; Vajro et al., J Pediatr 1994;125(2):239-41; Franzese et al., Dig Dis Sci 1997;42(7):1428-32)。
【0039】
抗酸化物質を用いた治療による酸化ストレスの減少もまた、一部の研究において有効であることが明らかにされている。例えば、脂肪症にかかった肥満の子供を、ビタミンE(400〜1000IU/日)を用いて4〜10ヵ月間治療した (Lavine J Pediatr 2000;136(6):734-8)。BMI値のどのような顕著な変化にもかかわらず、平均ALTレベルは175±106IU/Lから40±26IU/L (P<0.01)に低下し、また、平均ASTレベルは104±61IU/Lから33±11IU/L (P<0.002)に低下した。ビタミンE療法を中止することを選んだ患者では、肝トランスアミナーゼが増加した。ビタミンEを1年間用いる成人試験では、肝トランスアミナーゼの同様の低下のほかに、線維症マーカーであるTGFβレベルの低下も証明された (Hasegawa et al., Aliment Pharmacol Ther 2001;15(10):1667-72)。
【0040】
脂肪症はまた、活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)と低下した抗酸化物質防御による酸化ストレスを通して、脂肪性肝炎に進展する可能性がある (Sanyal et al., Gastroenterology 2001;120(5):1183-92)。ROSはいくつかの経路(ミトコンドリア、ペルオキシソーム、チトクロムP450、NADPHオキシダーゼおよびリポオキシゲナーゼを含む)を通って肝臓で発生しうる (Sanyal et al., Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatol 2005;2(1):46-53)。インスリン抵抗性およびインスリン過剰症は、増加した肝CYP2EI活性を介して、肝臓の酸化ストレスおよび脂質の過酸化を高めることがわかっている (Robertson et al., Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2001;281(5):G1135-9; Leclercq et al., J Clin Invest 2000;105(8):1067-75)。
【0041】
現在、NAFLDの病因について理解されていることの多くは動物試験から得られている。脂肪症/脂肪性肝炎を示すマウスモデルがいくつか存在し、かかるモデルとして遺伝子改変レプチン欠損(ob/ob)またはレプチン耐性(db/db)モデルおよび飼料メチオニン/コリン欠乏(MCD)モデルが挙げられる。いろいろな系統(Wistar、Sprague-Dawley、Long-Evans)の雌雄ラットとマウス系統(C57BL/6)とをNASHのモデルとして比較する研究が行われた。これらの動物にMCD食を4週間与えた;WistarラットではALT上昇と脂肪症がより顕著であったが、マウス肝臓の全体的な組織学的変化はNASHによる変化によらず比較的一定していた。最近になって、動物に超栄養食(supra-nutritional diets)を使用したところ、ヒト表現型と生理学的によく似ているNAFLDモデルが得られた。NAFLDに最も一般的に見られる医学的症状は肥満、II型糖尿病および脂質異常症(dyslipidemia)である。これらの症状はマウスおよびラットに高脂肪食または高ショ糖食を与えることによって誘発することができる。>70%高脂肪食を3週間与えたラットは、汎小葉型脂肪症、斑状炎症、酸化ストレスの増強、および血漿インスリン濃度の上昇(インスリン抵抗性を示唆する)を発生した。NASHマウスは胃内過剰摂取により誘発されてきた。マウスにそれらの標準摂取量を最大85%超えて9週間与えた。マウスは肥満になり、最終体重が71%増加した;これらは白色脂肪組織の増加、高血糖、高インスリン血症、高レプチン血症、耐糖能異常、およびインスリン抵抗性を示した。これらのマウスのうち、46%はALTの増加(13+/-1 U/Lに対して121=/-27 U/L)ならびにNASHを示唆する組織学的特徴を呈した。過剰摂取マウスの肝臓は、予期されたように約2倍の大きさで、ベージュ色をしており、次の微視的証拠を示した:脂質滴、細胞質空胞、およびクラスター状の炎症。
【0042】
NASHのマウスモデルは特別な食餌(メチオニン・コリン欠乏、MCD)または胃内過剰摂取により作られる。これらのマウスはNASHの血清学的および組織学的特徴を発現する。NASHマウスはNASH関連疾患・障害に対するシステアミンの作用をスクリーニングし測定するのに有用である。例えば、治療の効果は、NASHマウスを、マウスがMCD食のみを摂取し続ける対照グループと、マウスがMCD食のほかに抗酸化物質療法を受ける3つの他の治療グループとに分けることで測定可能である。3つの治療グループはシステアミン50mg/kg/日、100mg/kg/日およびsAMEを受け取るものである。
【0043】
システアミンは細胞膜を容易に通過することができる小分子(HS-CH2-CH2-NH2)である。システアミンは、十二指腸潰瘍を誘発するために実験動物において使用された強力な胃酸分泌促進剤である;ヒトおよび動物での研究において、システアミン誘発型の胃酸過剰分泌には高ガストリン血症が介在する可能性の高いことが示された。
【0044】
さらに、システアミン、シスタミンおよびグルタチオンといったスルフヒドリル(SH)化合物は最も重要かつ有効な細胞内抗酸化物質の一群である。システアミンは骨髄および胃腸の放射線症候群に対して動物を防護する。SH化合物の重要性に関する論理的根拠は有糸分裂細胞における観察によりさらに支持される。これらの細胞は細胞増殖死の点から放射線傷害に最も感受性であり、また、最低レベルのSH化合物を含むことが知られている。反対に、S期細胞は、同様の基準を用いる放射線傷害に対して最も抵抗性のある細胞であるが、最高レベルの固有のSH化合物を含むことが実証されている。その上、有糸分裂細胞をシステアミンで処理したとき、これらの細胞は放射線に対して非常に抵抗性になった。さらに、システアミンが突然変異の誘発から細胞を直接保護しうることもわかっている。かかる保護はフリーラジカルの掃去により、直接的にまたはタンパク質結合型GSHの放出を介して、生じると考えられる。補酵素Aからシステアミンを解放する酵素がトリ肝臓およびブタ腎臓において報告されている。近年、肝毒性物質であるアセトアミノフェン、ブロモベンゼンおよびファロイジン(phalloidine)に対するシステアミンの保護効果を実証する研究が登場してきている。
【0045】
シスタミンは、放射線防護剤としてのその役割に加えて、ハンチントン病(HD)の遺伝子変異をもつマウスにおいて震えを軽減しかつ寿命を引き延ばすことが見い出された。この薬物は、神経細胞つまりニューロンを変性から保護するタンパク質の活性を高めることによって機能する可能性がある。シスタミンはトランスグルタミナーゼと呼ばれる酵素を不活性化するようであり、こうして結果的にハンチントン病タンパク質の減少をもたらす (Nature Medicine 8, 143-149, 2002)。さらに、シスタミンは特定の神経保護タンパク質のレベルを上昇させることが見い出された。しかし、シスタミンを送達するための現在の方法および製剤の結果としての分解および不十分な吸収が過剰投与を余儀なくしている。
【0046】
現在、システアミンはシスチン症の治療のためにのみFDAから認可されている。シスチン症の患者は通常6時間ごとにシステアミンを摂取する必要がある。理想的には、システアミンの有効な制御放出製剤(1日2回ほどの服用)がこれらの患者のクオリティー・オブ・ライフを改善するだろう。
【0047】
本開示は特定のシステアミンもしくはシスタミンの塩、エステルまたは誘導体に関して限定されない;本開示の組成物はどのようなシステアミンもしくはシスタミン、システアミンもしくはシスタミンの誘導体、またはシステアミンもしくはシスタミンの組み合わせを含んでもよい。本組成物中の活性物質(すなわち、システアミンもしくはシスタミン)は、薬理学的に許容される塩、エステル、アミド、プロドラッグもしくは類似体の形で、またはこれらの組み合わせとして投与することができる。活性物質の塩、エステル、アミド、プロドラッグおよび類似体は、合成有機化学の分野で当業者に知られた標準方法、例えば、J. March, "Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms and Structure," 第4版 (New York: Wiley-Interscience, 1992)に記載の方法を用いて製造可能である。例えば、塩基付加塩は、活性物質の遊離ヒドロキシル基の1個以上を適当な塩基と反応させることを含む慣用方法を用いて、中性の薬物から製造される。一般的には、中性形態の薬物をメタノールやエタノールのような極性有機溶媒に溶解して、これに塩基を加える。生成する塩は、極性の小さい溶媒を添加することで、溶液から沈降または析出させることができる。塩基付加塩を形成するのに適した塩基には、限定するものではないが、以下のものが含まれる:無機塩基、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミンなど。エステルの製造は、薬物の分子構造中に存在するヒドロキシル基の官能基化を含む。エステルは典型的には遊離アルコール基のアシル置換誘導体、すなわち、式R-COOH(ここで、Rはアルキル、一般的には低級アルキルである)のカルボン酸から誘導される部分である。エステルは、必要に応じて、従来の水素化分解法または加水分解法により、遊離酸に再変換することもできる。アミドおよびプロドラッグの製造は類似の方法で実施可能である。活性物質の他の誘導体および類似体は、合成有機化学の分野で当業者に知られた標準方法を用いて製造されるか、関連文献を参照することにより推測しうる。
【0048】
本開示の方法または組成物はさらに、投与回数の減少(4回/日に対して2回/日)、患者コンプライアンスの向上、ならびに胃腸の副作用(例えば、痛み、胸焼け、酸生産、嘔吐)および他の副作用(例えば、患者が腐った卵のような匂いがする−被験者が思春期に達するときの特定のコンプライアンスの問題)の減少をもたらす腸溶性コーティング組成物を提供する。本開示は、腸溶性コーティングを施したシステアミン組成物(スルフヒドリル/CYSTAGON(登録商標))およびシスタミン組成物を提供する。
【0049】
本開示は、以下の疾患を含むがそれらに限定されない、脂肪性肝疾患の治療方法を提供する:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝炎から生じる脂肪性肝疾患、肥満症から生じる脂肪性肝疾患、糖尿病から生じる脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性から生じる脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症から生じる脂肪性肝疾患、無βリポタンパク血症、糖原病(グリコーゲン貯蔵症)、ウェーバー・クリスチャン病(Weber-Christian disease)、ウォルマン病(Wolmans disease)、急性妊娠脂肪肝、およびリポジストロフィー(脂肪萎縮症)。
【0050】
本明細書に記載した方法または組成物の有効性は、例えば、白血球シスチン濃度を測定することにより、評価することができる。本開示の方法の有効性のさらなる尺度は、脂肪性肝疾患に関連した症状の軽減を評価することを含み、かかる症状としては、限定するものではないが、肝線維症、肝臓の脂肪含量、肝硬変の発生もしくは進行、肝細胞癌の発生、上昇した肝アミノトランスフェラーゼレベル、増加したアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、増加したアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、および上昇した血清フェリチンが挙げられる。投与量の調節および治療は、例えば脂肪性肝疾患の重症度および/またはシスチンの濃度に応じて、専門医により行われる。例えば、脂肪性肝疾患の治療の結果として、肝トランスアミナーゼが治療前のレベルと比べて約10〜40%減少する。関連する実施形態では、治療の結果として、治療を行った患者におけるアラニンアミノトランスフェラーゼレベルが正常ALTレベルより約30%、20%もしくは10%上に、または正常ALTレベル(≧40iu/L)に低下する。別の実施形態では、システアミン生成物を用いた治療の結果として、患者におけるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼレベルが正常ASTレベルより約30%、20%もしくは10%上に、または正常ASTレベルにまで低下する。
【0051】
一実施形態において、本開示は、脂肪性肝炎で活性酸素種(ROS)に起因する酸化ストレスを減らすことにより、システアミン生成物を用いてNAFLを治療する方法を提供する。システアミンは、肝臓内のグルタチオンレベルを高めるその直接的または間接的能力を介して、それを達成することができる。グルタチオンは酸化的損傷に対する防護作用があるものの、それ自体は、大量療法で投与したときでさえ、細胞内に容易に入ることはない。しかし、グルタチオンの前駆物質は細胞内に入ることができ、かかる前駆物質としては、システイン、N-アセチルシステイン、s-アデノシルメチオニン(SAMe)、および他の硫黄含有化合物、例えばシステアミンが挙げられる。
【0052】
本開示の組成物は、NAFLD、NASHまたは他の脂肪性肝障害を治療するのに有用な第2の薬剤または他の治療法と組み合わせて用いることができる。例えば、システアミン生成物組成物をインスリン抵抗性に有効なグリタゾン/チアゾリジンジオンのような薬物と一緒に投与してもよく、こうした薬物として以下のものが挙げられる:メシレート(トログリタゾン(REZULIN:登録商標))、ロシグリタゾン(AVANDIA:登録商標)、ピオグリタゾン(ACTOS:登録商標)、ならびにメトホルミン、スルホニル尿素類、α-グルコシダーゼ阻害剤、メグリチニド(Meglitinides)、ビタミンE、テトラヒドロリプスタチン(XENICALTM)、マリアアザミ(milk thistle)タンパク質(SILIPHOS:登録商標)、および抗ウイルス剤を含むがこれらに限定されない、他の薬剤。
【0053】
システアミン生成物の副作用を少なくする他の治療法は、NAFLDまたはNASHに起因するかまたはこれから生じる疾患・障害を治療するための本開示の方法または組成物と組み合わせて用いることができる。尿中へのリン喪失は、例えばくる病(rickets)を引き起こし、リンのサプリメントを投与する必要があるかもしれない。カルニチンが尿中に失われると、血中濃度が低下する。カルニチンは筋肉に脂肪を使わせて、エネルギーを供給することができる。時にはホルモン補給が必要である。甲状腺が十分な甲状腺ホルモンを産生しないことがある。これはチロキシン(点滴剤または錠剤)として投与される。膵臓が十分なインスリンを産生しないで、糖尿病があらわれるならば、インスリン治療が必要になるかもしれない。こうした治療はシステアミン生成物で治療した子供ではめったに必要とならなかった。なぜなら、この治療が甲状腺と膵臓を保護するからである。若者のなかには、思春期が遅れている場合、テストステロン治療が必要な者もいる。水-電解質バランスが良好であるにもかかわらず成長が十分でないならば、成長ホルモン療法が指示されるかもしれない。したがって、こうした治療法は本開示のシステアミン生成物組成物および方法と組み合わせることができる。オメプラゾール(PRILOSEC(登録商標))の使用を含むさらなる治療法は消化管に影響する有害な症状を軽くすることがある。
【0054】
本開示は、脂肪性肝疾患・障害を治療するのに有用なシステアミン生成物を提供する。システアミン生成物をヒトまたは試験動物に投与するために、システアミン生成物は1種以上の製薬上許容される担体を含む組成物に製剤化することが好ましい。先に記載したように、製薬上または薬理上許容される担体もしくはビヒクルは、以下で述べるように、当技術分野で周知の経路を用いて投与したときアレルギー反応や他の有害反応を引き起こさないか、あるいは米国食品医薬品局もしくは同等の外国規制当局が経口または非経口医薬品への許容される添加剤として承認している分子成分および組成物をさす。製薬上許容される担体としては、ありとあらゆる臨床上有用な溶媒、分散媒、コーティング材料、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが挙げられる。
【0055】
製薬上の担体は、特に化合物に塩基性または酸性の基が存在する場合、製薬上許容される塩を含む。例えば、-COOHのような酸性の置換基が存在するときは、投与のためにアンモニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの塩が考えられる。さらに、酸性基が存在する場合、その化合物の製薬上許容されるエステル(例えば、メチル、tert-ブチル、ピバロイルオキシメチル、スクシニルなど)が好ましい形態と考えられ、かかるエステルは、持続放出製剤またはプロドラッグ製剤として用いるために、溶解性および/または加水分解特性を変更することが当技術分野で公知である。
【0056】
塩基性基(例えば、アミノ、またはピリジルなどの塩基性ヘテロアリール基)が存在する場合は、酸塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などが投与形態として考えられる。
【0057】
さらに、化合物は水または一般的な有機溶媒と溶媒和物を形成することができる。そのような溶媒和物も考えられる。
【0058】
システアミン生成物の組成物は、経口的に、非経口的に、眼内に、鼻腔内に、経皮的に、経粘膜的に、吸入噴霧により、経膣的に、直腸内に、または頭蓋内注射により投与することができる。本明細書中で用いる非経口という語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、嚢内注射、または輸液技術を含む。静脈内、皮内、筋肉内、乳房内、腹腔内、髄腔内、眼球後方、肺内注射および/または特定部位での外科的埋め込みによる投与も考えられる。一般的に、上記方法により投与される組成物は、発熱物質のみならず、レシピエントに有害と思われる他の不純物を本質的に含まない。さらに、非経口投与用の組成物は無菌である。
【0059】
活性成分としてシステアミン生成物を含む本開示の医薬組成物は、投与経路に応じて、製薬上許容される担体または添加剤を含むことができる。そのような担体または添加剤の例として、以下のものが挙げられる:水、製薬上許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、乳糖、製薬上許容される界面活性剤など。用いる添加剤は、組成物の剤形に応じて、適宜に、上記のものまたはそれらの組み合わせから選択されるが、これらに限定されない。
【0060】
医薬組成物(例えば、溶液、エマルション)の処方は選択された投与経路により変化する。投与すべきシステアミン生成物を含む適切な組成物は、生理学的に許容されるビヒクルまたは担体中に調製することができる。溶液またはエマルションの場合、適当な担体として、例えば、生理食塩水および緩衝媒体を含めて、水性またはアルコール/水性の溶液、エマルションまたは懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲル液ブドウ糖、ブドウ糖および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液または固定油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、各種の添加剤、防腐剤、または水分、栄養素もしくは電解質補給剤が挙げられる。
【0061】
さまざまな水性担体、例えば水、緩衝水、0.4%食塩水、0.3%グリシン、または水性懸濁液は、水性懸濁液の調製に適する添加剤と混合された活性化合物を含むことができる。そのような添加剤は懸濁化剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムである;分散剤または湿潤剤は天然のホスファチド、例えばレシチン、またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物、例えばポリオキシエチレンステアレート、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物、例えばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキシドと、脂肪酸およびへキシトールから誘導される部分エステルとの縮合物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、またはエチレンオキシドと、脂肪酸およびへキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレエートでありうる。水性懸濁液はまた、1種以上の防腐剤、例えばp-ヒドロキシ安息香酸エチルもしくはn-プロピル、1種以上の着色剤、1種以上の香味剤、および1種以上の甘味剤、例えばショ糖またはサッカリンを含んでもよい。
【0062】
いくつかの実施形態において、本開示のシステアミン生成物は貯蔵のために凍結乾燥して、使用前に適当な担体で用時調製することができる。適当な凍結乾燥法および用時調製法であれば、どれを利用してもよい。当業者であれば、凍結乾燥および用時調製はさまざまな程度の活性低下を招くことがあり、それを埋め合わせるために使用レベルを調整する必要があることを十分理解している。
【0063】
水の添加によって水性懸濁液を調製するのに適した分散性粉末および顆粒は、分散もしくは湿潤剤、懸濁化剤および1種以上の防腐剤と混合された活性化合物を提供する。適当な分散もしくは湿潤剤および懸濁化剤はすでに上で挙げたものにより代表される。追加の添加剤、例えば甘味剤、香味剤および着色剤が存在してもよい。
【0064】
一実施形態において、本開示は腸溶性コーティングを施したシステアミン生成物の組成物の使用を提供する。腸溶性コーティングは、システアミン生成物が腸管、一般的には小腸に達するまで放出を引き延ばす。腸溶性コーティングのために小腸への送達が高まり、それにより活性成分の吸収が向上する一方で、胃での副作用が減少する。
【0065】
一部の実施形態では、コーティング材料は、その製剤が小腸またはpH4.5以上の領域に達したとき治療活性物質を放出するように選択される。コーティングはpH感受性材料とすることができ、かかる材料は、胃の比較的低いpH環境ではもとのままの形を保持するが、患者の小腸によく見られるpHでは崩壊または溶解する。例えば、腸溶性コーティング材料は約4.5〜約5.5のpHの水溶液中で溶解を開始する。例えば、pH感受性材料は、その製剤が胃から出てしまうまで有意な溶解を受けないだろう。小腸のpHは約4.5から十二指腸球部の約6.5へ、さらに小腸の遠位部の約7.2まで徐々に上昇する。約3時間(例えば2〜3時間)の小腸通過時間に相当する予測可能な溶解をもたらし、かつそこでの再現可能な放出を可能にするため、コーティングは小腸内のpH範囲で溶解を開始する必要がある。したがって、腸溶性ポリマーコーティングの量は、近位小腸や中腸といった小腸内で、約3時間の通過時間をかけて実質的に溶解するのに十分な量とすべきである。
【0066】
腸溶性コーティングは、経口摂取可能な製剤からの薬物の放出を阻止するために、多年にわたり使用されている。組成および/または厚さに応じて、腸溶性コーティングは、それらが胃下部または小腸上部で崩壊して薬物を放出し始める前に必要とされる時間の間、胃酸に抵抗する。いくつかの腸溶性コーティングの例が米国特許第5,225,202号に開示されており、この特許をそのまま本明細書に参照により組み入れる。米国特許第5,225,202号に記載されるように、以前に用いられたコーティングの一部の例は以下のものである:ミツロウとモノステアリン酸グリセリル;ミツロウとセラックとセルロース;およびセチルアルコールとマスチック(mastic)とセラック;ならびにセラックとステアリン酸(米国特許第2,809,918号);ポリ酢酸ビニルとエチルセルロース(米国特許第3,835,221号);およびポリメタクリル酸エステルの中性コポリマー(Eudragit L30D) (F. W. Goodhart et al. , Pharm. Tech., pp. 64-71, April 1984);メタクリル酸とメタクリル酸メチルエステルのコポリマー(Eudragits)、またはステアリン酸金属塩を含むポリメタクリル酸エステルの中性コポリマー(Mehtaらの米国特許第4,728,512号および同第4,794,001号)。そのようなコーティングは脂肪と脂肪酸、セラックとセラック誘導体、およびセルロース酸フタレート(例えば、遊離カルボキシル含量をもつもの)の混合物から構成される。適当な腸溶性コーティング組成物の説明については、Remington's 1590頁およびZeitovaら(米国特許第4,432,966号)を参照されたい。こうして、システアミン生成物組成物の腸溶性コーティングによる小腸での吸収増加は、結果的に効力の向上をもたらすことができる。
【0067】
一般的に、腸溶性コーティングはポリマー材料で構成され、かかるポリマー材料は、胃の低pH環境でシステアミン生成物の放出を妨げるが、やや高いpH(典型的には、pH4またはpH5)ではイオン化し、それゆえ小腸で十分に溶解して活性物質をそこに徐々に放出するものである。したがって、最も効果的な腸溶性コーティング材料の中には、pKaが約3〜5の範囲にあるポリ酸がある。適当な腸溶性コーティング材料としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:重合ゼラチン、セラック、メタクリル酸コポリマーC型 NF、セルロースブチレートフタレート、セルロースハイドロジェンフタレート、セルロースプロプリオネートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート、ジオキシプロピルメチルセルローススクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ならびにアクリル酸のポリマーおよびコポリマー、典型的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸エチルから生成されるもの、例えばアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとのコポリマー(Eudragit NE、Eudragit RL、Eudragit RS)。例えば、腸溶性コーティングはEudragit L30D、クエン酸トリエチル、およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)から構成され、その際、コーティングは最終製品の10〜13%を占める。
【0068】
一実施形態において、システアミン生成物組成物は錠剤の形で投与される。錠剤を製造するには、最初にシステアミン生成物に腸溶性コーティングを施す。本明細書での錠剤成形方法は、腸溶性コーティングシステアミン生成物を、場合により希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、安定剤などと組み合わせて含む粉末を、直接圧縮することによる。直接圧縮に代わる方法として、湿式造粒法または乾式造粒法を用いて圧縮錠剤を製造してもよい。錠剤はまた、適当な水溶性滑沢剤を含有する湿った材料から出発して、圧縮ではなく成形することもできる。
【0069】
一部の実施形態において、システアミン生成物組成物は、同量のシステアミン生成物を含む即時放出型製剤がもたらすCmaxよりも少なくとも約35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、または100%高いシステアミン生成物のCmaxをもたらす遅延または制御放出型製剤である。ある実施形態では、Cmaxが即時放出型製剤のCmaxより最大約75%、100%、125%または150%高い。Cmaxは、投与後のシステアミン生成物の最大血中濃度をさし、薬物が全身に吸収されることの指標を提供する。
【0070】
一部の実施形態においては、遅延または制御放出型製剤のAUCもまた、即時放出型製剤と比べて少なくとも約20%、25%、30%、35%、40%、45%、もしくは50%、または最大約50%、60%、75%もしくは100%まで増加する。AUC、すなわち「曲線下面積」は、薬物投与後、時間に対する血漿薬物濃度を測定するときに誘導される速度論的曲線をさす。
【0071】
望ましい薬物動態特性を示す医薬組成物の遅延、制御または持続/延長放出型剤形の製造は当技術分野で公知であり、さまざまな方法を用いて行うことができる。例えば、経口制御デリバリーシステムには、溶解制御放出型(例えば、カプセル化溶解制御もしくはマトリックス溶解制御)、拡散制御放出型(貯蔵器具もしくはマトリックス器具)、イオン交換樹脂、浸透圧制御放出型、または胃内滞留型(gastroretentive)のシステムが含まれる。溶解制御放出型は、例えば、胃腸管内での薬物の溶解速度を遅くすることにより、薬物を可溶性ポリマーの中に組み込むことにより、また、粒状もしくは顆粒状の薬物にさまざまな厚さのポリマー材料をコーティングすることにより、得られる。拡散制御放出型は、例えば、ポリマー膜もしくはポリマーマトリックスからの拡散を制御することにより、得られる。浸透圧制御放出型は、例えば、半透膜を横切る溶媒流入を制御する(次いでレーザードリル加工オリフィスから薬物を搬出する)ことにより、得られる。膜の両側での浸透圧および静水圧の差が液体輸送を支配する。長期胃内滞留型は、例えば、胃内膜への製剤の生体接着の密度を変えることにより、または胃内で浮いている時間を増加することにより、達成される。さらなる詳細については、Handbook of Pharmaceutical Controlled Release Technology, Wise編, Marcel Dekker, Inc., New York, NY (2000)を参照されたい。この文献を全体として本明細書に参照により組み入れるが、例えば、第22章の「制御放出システムの概説」(An Overview of Controlled Release Systems)を参照のこと。
【0072】
これらの製剤中のシステアミン生成物の濃度は、例えば約0.5重量%未満(通常は約1%またはそれ以上)から15または20重量%までもの範囲で、広範に変化し、そして特定の投与様式に従って、主に液体量、製造上の特徴、粘度などに基づいて選択される。投与可能な組成物の実際の調製方法は当業者に公知であるか明白であり、例えばRemington's Pharmaceutical Science, 第15版, Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1980)に詳しく記載される。
【0073】
システアミン生成物は組成物中に治療に有効な量で存在する;典型的には、組成物は単位剤形をしている。投与されるシステアミン生成物の量は、当然ながら、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、治療すべき症状の重症度、および処方医師の判断に依るだろう。適切な治療量は当業者に知られているか、または関連テキストおよび文献に記載される。現在の非腸溶性コーティング用量は約1.35g/m2(体表面積)であり、1日あたり4〜5回投与する。ある態様では、その用量を1日1回または1日数回投与する。システアミン生成物は1日1回、2回、3回、4回または5回投与することができる。いくつかの実施形態において、システアミン生成物の有効投与量は0.01〜1000mg/kg(体重)/日の範囲内である。さらに、有効投与量は0.5mg/kg、1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、90mg/kg、100mg/kg、125mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、200mg/kgであって、最大1000mg/kgまで25mg/kgずつ増やすことができ、前記数値のいずれか2つの間にあってもよい。いくつかの実施形態では、システアミン生成物を約0.25g/m2〜4.0g/m2(体表面積)の総1日量で投与し、例えば、少なくとも約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9もしくは2g/m2、または最大約0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.2、2.5、2.7、3.0もしくは3.5g/m2で投与する。一部の実施形態では、システアミン生成物を約1〜1.5g/m2(体表面積)、または0.5〜1g/m2(体表面積)、または約0.7〜0.8g/m2(体表面積)、または約1.35g/m2(体表面積)の総1日量で投与する。同活性成分の塩またはエステルはその塩またはエステル部分の種類および重量により分子量が変化しうる。製剤、例えば腸溶性コーティングを施したシステアミン生成物を含む錠剤、カプセル剤または他の経口製剤を投与する場合は、約100mg〜1000mgの範囲の総量を用いる。製剤は、NAFLDおよびNASHを含むがこれらに限らない脂肪性肝疾患(かかる疾患のためにシステアミン生成物が示唆される)にかかっている患者に経口投与される。投与は少なくとも3ヶ月間、6ヶ月間、9ヶ月間、1年間、2年間またはそれ以上継続することができる。
【0074】
投与するのに有用な組成物はその効力を高めるために摂取または吸収促進剤を用いて製剤化することができる。そうした促進剤としては、例えば、サリチル酸塩、グリココール酸塩/リノール酸塩、グリコール酸塩、アプロチニン、バシトラシン、SDS、カプリン酸塩などが挙げられる。例えば、Fix (J. Pharm. Sci., 85:1282-1285, 1996)およびOliyai and Stella (Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 32:521-544, 1993)を参照されたい。
【0075】
腸溶性コーティングされたシステアミン生成物は、製薬分野で周知であるように、各種の添加剤を含むことができるが、そうした添加剤は組成物中のどの成分に対しても不安定化作用を示さないものである。こうして、結合剤、増量剤、希釈剤、崩壊剤、滑沢剤、充填剤、担体などの添加剤はシステアミン生成物と併用可能である。固体組成物では、圧縮により実用的なサイズが得られるよう錠剤のかさを増すために、一般的には希釈剤が必要である。適当な希釈剤として、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、乳糖、セルロース、カオリン、マンニトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプンおよび粉砂糖が挙げられる。結合剤は錠剤処方物に凝集性を付与するために用いられ、こうして圧縮後に錠剤がそのままの状態を保持することを保証する。適当な結合剤材料としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:デンプン(トウモロコシデンプン、予備ゼラチン化デンプンを含む)、ゼラチン、糖類(ショ糖、グルコース、デキストロース、乳糖を含む)、ポリエチレングリコール、ワックス、天然および合成ゴム、例えばアカシア、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系ポリマー(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどを含む)、ならびにVeegum。滑沢剤は錠剤の製造を容易にするために用いられる;適当な滑沢剤の例は、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、およびステアリン酸であり、一般には錠剤の重量に対しておよそ1重量%以下で存在する。崩壊剤は投与後の錠剤の崩壊または「分解」を促進するために用いられ、一般的には、デンプン、クレー、セルロース、アルギン、ガムまたは架橋ポリマーである。必要であれば、投与される医薬組成物は少量の無毒性の補助物質、例えば湿潤もしくは乳化剤、pH緩衝剤など(例:酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、酢酸ナトリウムトリエタノールアミン、オレイン酸トリエタノールアミンなど)を含んでもよい。必要に応じて、香味剤、着色剤および/または甘味剤を添加してもよい。経口製剤に添加されるその他の任意の成分としては、限定するものではないが、防腐剤、懸濁化剤、増粘剤などが挙げられる。充填剤には、例えば、不溶性物質としての二酸化ケイ素、酸化チタン、アルミナ、タルク、カオリン、粉末セルロース、微結晶性セルロースなど、さらに可溶性物質としてのマンニトール、尿素、ショ糖、乳糖、デキストロース、塩化ナトリウム、ソルビトールなどが含まれる。
【0076】
医薬組成物はまた、米国特許第4,301,146号に開示されるように、ヒドロキシプロピルメチルセルロースやポリビニルピロリドンといった安定剤を含むことができる。その他の安定剤としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:セルロース系ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、酢酸トリメリト酸セルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウム;ならびにビニルポリマーおよびコポリマー、例えばポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセテートフタレート、酢酸ビニル-クロトン酸コポリマー、およびエチレン-酢酸ビニルコポリマー。安定剤は望ましい安定化作用をもたらすのに十分な量で存在する;一般に、それは、システアミン生成物と安定剤の比が少なくとも約1:500 (w/w)、通常は約1:99 (w/w)であることを意味する。
【0077】
錠剤を製造するには、最初にシステアミン生成物に腸溶性コーティングを施す。本明細書での錠剤成形方法は、腸溶性コーティングシステアミン生成物を、場合により希釈剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、安定剤などと組み合わせて含む粉末を、直接圧縮することによる。直接圧縮に代わる方法として、湿式造粒法または乾式造粒法を用いて圧縮錠剤を製造することができる。錠剤はまた、適当な水溶性滑沢剤を含有する湿った材料から出発して、圧縮ではなく成形することもできる。
【0078】
別の実施形態では、腸溶性コーティングを施したシステアミン生成物を顆粒化し、その顆粒を圧縮して錠剤にするか、またはカプセル内に充填する。カプセル材料は硬質でも軟質でもよく、典型的には、ゼラチンバンドなどを用いて、シールされる。経口用の錠剤およびカプセル剤は一般に、本明細書に記載したような1種以上の慣用添加剤を含有する。
【0079】
製剤、すなわち腸溶性コーティングを施したシステアミン生成物を含む錠剤またはカプセル剤、を投与する場合は、約100mg〜1000mgの範囲の総量が用いられる。製剤は、NAFLDおよびNASHを含むがこれらに限らない症状(かかる症状のためにシステアミン生成物が示唆される)にかかっている患者に経口投与される。
【0080】
本開示の組成物は、NAFLおよびNASHを治療するのに有用な他の治療法と組み合わせて用いることができる。例えば、グリチルリチン、シサンドラ(schisandra)エキス、アスコルビン酸、グルタチオン、シリマリン(silymarin)、リポ酸、およびd-α-トコフェロールのような抗酸化物質、ならびにグリチルリチン、アスコルビン酸、グルタチオン、およびビタミンB複合体の被験者への非経口投与を組み合わせて(単一の組成物で同時に、または別々の組成物で)投与することができる。あるいはまた、治療薬の組み合わせを連続して投与してもよい。
【0081】
本開示の方法または組成物の有効性は、肝臓における脂肪酸含量および代謝作用を測定することで評価することができる。投与量の調節および治療は、例えばNAFLの重症度に応じて、専門医により行われる。
【0082】
さらに、腸溶性コーティングを施したシステアミンの使用により各種のプロドラッグを「活性化」することができる。プロドラッグは薬理学的に不活性であって、それ自体が体内で効力を奏することはないが、ひとたび吸収されると、プロドラッグが分解される。プロドラッグの手法は、抗生物質、抗ヒスタミン薬および潰瘍治療薬を含めて、いくつかの治療分野で成功裏に使用されてきた。プロドラッグを用いることの利点は、活性物質が化学的に隠蔽されていて、薬物が胃腸を通過して細胞に入るまで活性物質が放出されない点である。例えば、いくつかのプロドラッグはS-S結合を利用する。システアミンのような弱い還元剤はこうした結合を還元して、薬物を放出する。したがって、本開示の組成物は、薬物の持続放出のためにプロドラッグと組み合わせて用いるのに有用である。この態様では、プロドラッグを投与し、続いて本開示の腸溶性コーティングシステアミン組成物を(希望の時間に)投与することで、そのプロドラッグを活性化することができる。
【0083】
理解すべきこととして、本開示を特定の実施形態に関連して説明してきたが、前述の説明ならびに以下の実施例は本開示を例示するためのもので、その範囲を限定するものではない。本開示が属する技術分野の当業者には、本開示の範囲内で、他の態様、利点および修飾が明白であろう。
【実施例1】
【0084】
腸溶性コーティングを施したシステアミンの製剤化
国際公開WO 2007/089670号には、鼻腔栄養チューブを用いてシスチン症患者にシステアミンを投与することにより、シスチン症の改善に及ぼす腸内投与の有効性を調査したことが記載されている。WO 2007/089670号からは、システアミンの腸内投与がシステアミンの吸収速度を改善し、かつ血漿システアミンレベルを高めたことが示されている。腸内投与によって白血球中のシスチンのレベルも低下した。これらの結果は、腸内システアミンがシステアミンの経口投与よりも有効であることを明らかにした。
【0085】
より効果的で、より簡単な投与をめざして、システアミンの腸溶性コーティング製剤(Cystagon-EC)を作り出した。4/6インチのコーティングチャンバーを備えたModel 600 Wursterコーティング装置を使って、CYSTAGON(登録商標)カプセル(米国ペンシルベニア州、Mylan Laboratories社)に腸溶性コーティングを施した。コーティング材料はEudragit L30 D-55 (ドイツ国ダルムシュタット、Rohm GmbH & Co KG)であり、EC化合物がカプセル化された(ウィスコンシン州ベロナ、Coating Place社、連邦政府の施設設立番号2126906)。カプセルはFDAに認可された施設および材料を用いて製造した。
【0086】
胃酸中でのカプセルの不溶性を確かめるために、腸溶性コーティングをin vitroで試験した。この試験は、カプセルを37℃の0.1N HCl溶液100mL中に2時間置くことにより行った。カプセルが10%未満のシステアミンを放出する場合に、そのカプセルを受け入れ可能とみなす。2時間後、NaHCO3バッファーを加えて溶液のpHをpH6.8に上げる。カプセルが80%以上のシステアミンを2時間以内に放出する場合に、そのカプセルを受け入れ可能とみなす。
【0087】
6人の成人対照被験者と6人のシスチン症患者をCystagon-ECを用いて試験した。血漿システアミンレベルは、患者が通常のシステアミン(CYSTAGON(登録商標))製剤を受け取ったときよりCystagon-ECを受け取ったときのほうが高かった。さらに、シスチン症患者がCystagon-ECを受け取った場合は、12時間トラフ白血球シスチンレベルが約<0.2にとどまり、また、一般にタンパク質mgあたり1nmol以下の半シスチンであったことから、この新しいシステアミン製剤は1日2回の投与で有効であることが示唆される。
【実施例2】
【0088】
脂肪性肝疾患にかかっている患者へのシステアミンの投与
システアミンの投与は、有害なシスチンのレベルを下げることによって、シスチン症の症状を軽減することが示されている。システアミンが線維症(NASH患者において肝損傷を引き起こす)に及ぼす影響を調べるため、非アルコール性脂肪性疾患の12人の子供と若者を腸溶性コーティングシステアミンで治療するオープンラベル非ランダム化パイロット試験を行った。
【0089】
NASHの診断が確定した患者であって、少なくとも3ヶ月間ライフスタイルの変化(食事や運動など)に取り組んだ患者を試験に採用する。完全な病歴検査と身体検査を行う。酸消化性疾患のために考案され、以前にシステアミンを服用している子供に使用された、症状重症度点数(symptom score)を採用する。肝機能(肝トランスアミナーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、ビリルビンおよびγ-GTを含む)のために血液を採取する。さらに、全血球数、ESR、CRP、空腹時インスリン、空腹時脂質、コレステロールプロファイル、酸化ストレスのマーカーおよび肝線維症のマーカーのためにも血液(全15ml)を採取する。患者の体重を記録する。
【0090】
ALTに関する試験エントリーレベルは≧60iu/Lと決定され、治療への功を奏する応答は肝トランスアミナーゼレベルの正常化または>35%低下とする。正常ALTレベルを40iu/Lと定める。被験者は腸溶性コーティングシステアミンの総1日量1g/m2(体表面積)を1日2回、最大用量1000mgを1日2回で開始する。シスチン症の患者は通常1〜1.5g/m2(体表面積)/日を服用する。
【0091】
重大な胃腸症状を訴えている被験者では、システアミンの1日量を10%減らしてもよい。投与量を10%減らしたにもかかわらずGI症状が3日間持続する場合には、投与量のさらに10%減少(初期用量の最大50%まで)が容認される。EC-システアミン用量を最大限に減らしたにもかかわらず症状が持続するならば、その被験者を試験から外す。
【0092】
症状が重篤ならば、被験者はどの時点で試験から抜けてもよい。患者がプロトンポンプ阻害薬のような酸抑制治療を受けていたときは、EC-システアミンを開始する1週間前に治療を中止するように求める。患者をEC-システアミンで最初は3ヶ月間、最長6ヶ月間治療する。肝トランスアミナーゼレベルの10〜25%低下が検出されるならば、治療をさらに3ヶ月間延長する。しかし、3ヶ月治療後にALTレベルの<10%低下が認められるときには、その被験者をそれ以上試験に参加させないことにする。6ヶ月間の治療後、血清肝トランスアミナーゼレベルの改善(>35%)が見られるならば、患者を身体検査によりさらに6ヶ月間モニタリングし、同じ血液検査を2ヶ月ごとに行う。月経のある女性は、開始時および試験中は毎月、血液妊娠検査を受ける。適切な場合には、二重バリア法を用いて避妊の対策を講じるように患者にアドバイスする。
【0093】
患者は症状に関する日記をつけることを求められ、さらに、患者の試験薬の正体に対してブラインドにされているので、それについての情報を得るためにGCRC/病院で診てもらうことにする。酸消化性疾患のために考案され、以前にシステアミンを服用している子供に使用された症状重症度点数(symptom score)を採用する。4週おきに、肝機能検査、全血球数、および血漿システアミンレベルを含む患者の血液検査(10ml)を繰り返す。試験の終了時に、患者は繰り返されたすべてのベースライン検査を受けるようにする。
【実施例3】
【0094】
システアミン生成物の効果は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の規定食動物モデルにおいて評価したが、これは一般的にOtogawa et al., Am. J. Pathol., 170(3):967-980 (2007)に記載されるように実施された。雄のニュージーランド白ウサギに、20%のコーン油と1.25%のコレステロールを含む高脂肪食(HFD)を与えて、NAFLDおよび非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に特徴的な臨床兆候と組織学的特徴を引き出すようにした。7日間継続するパイロット試験は、システアミン酒石酸水素塩を8時間おきのスケジュール(Q8H)で2つの投与量レベル、すなわち75または250mg/kg/日、にて腹腔内(IP)投与することにより実施した。8週間継続する長期試験では、システアミン酒石酸水素塩を飲料水に混ぜて25、75または250mg/kg/日で送達した。
【0095】
以下でより詳しく述べるように、両試験から得られたデータは、システアミンによる治療がHFD未治療対照グループと比較して肝トランスアミナーゼ(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、つまりAST)のレベルの改善をもたらしたことを示した。ASTの上昇は、NAFLDおよびNASHにおける肝炎症の最良のマーカーの1つとみなされる。HFD食の対照動物と比べて、ASTレベルはシステアミン治療により1.6〜1.9倍低下し、すなわち、それぞれ37〜47%低下した。これらのデータはまた、システアミン治療が、HFD対照グループと比べて、有利なLDH(組織損傷の一般的マーカー)の変化ならびに有利な脂質プロファイル(総コレステロール、LDLコレステロール、およびHDLコレステロールなど)の変化と関連があることを明らかにした。これらのウサギモデルで観察された改善は、NASHをはじめとするヒトの非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のシステアミン治療が臨床的有益性をもたらすという結論を支持する。
【0096】
パイロット試験
パイロット試験では、高脂肪食(HFD)を与えたニュージーランド白ウサギに、2つの異なる用量レベルのシステアミンを腹腔内(IP)経路で8時間おき(Q8H)に7日間投与した。2.5〜3.5kgの雄ウサギを次のグループに分割した:1)対照標準食、2匹の動物;2)対照HFD、2匹の動物;3)低用量のシステアミン酒石酸水素塩、75mg/kg/日、HFD、4匹の動物;および4)高用量のシステアミン酒石酸水素塩、250mg/kg/日、HFD、4匹の動物。エンドポイントは以下の項目を含んでいた:毎日の標準的な臨床観察、毎日の食餌消費量、-1日目、2日目、5日目および8日目(剖検の日)の試験日(SD)の体重、ならびに所定の臨床化学(アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アミラーゼ、リパーゼ、総コレステロール、トリグリセリド、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、高密度リポタンパク質コレステロール(HDLコレステロール)、低密度リポタンパク質コレステロール(LDLコレステロール))および全血液学的パネルの評価のためにSD-1およびSD8に採取した血液サンプル。動物をSD8に犠牲にした。
【0097】
SD-1のベースライン時とSD8に得られた臨床観察、体重、または血液学的数値に関して、薬理学的に重要な差異は何も認められなかった。ALT、アミラーゼ、リパーゼ、トリグリセリド、およびHDLコレステロールについて観察された値は、7日間の試験にわたりグループ間で変化がなかった。しかし、HFDを与えた動物では、総コレステロール、LDLコレステロールおよびLDH値の増加が観察された。
【0098】
重要なことには、HFD対照グループと比較して、システアミンで治療したグループでは、4種類の血清化学的数値、すなわちAST、総コレステロール、LDLコレステロール、およびLDHの改善が示された。
【0099】
ASTはNASHにおける肝炎症の最良のマーカーとして浮上してきており、ALTよりもすぐれたマーカーであると考えられる。HFD対照グループと比較して、高用量システアミンのグループ(250mg/kg/日)では、図1に示すように、SD8での平均AST値の低下が観察された。対照HFDグループの平均AST値は19.0U/Lであったのに対して、250mg/kg/日のシステアミンを受け取ったウサギは、10.0U/Lへと、この数値の1.9倍の低下を示し、つまり対照HFD値の47%の低下を示した。対照HFDグループには2匹の動物しか存在しなかったので、統計的比較を行うことが可能ではなかった。しかし、SD8での75mg/kg/日グループのAST結果を250mg/kg/日システアミン動物のAST結果に対して比較すると、高用量システアミングループでは、Mann-Whitney U検定により、低用量グループからの統計的差異が認められた(p=0.03)。これらのデータから、このレジメンでの250mg/kg/日のシステアミン治療はAST値にプラスの影響を及ぼしたことが明らかにされた。
【0100】
ベースライン時(SD-1)での平均血清総コレステロール値は、すべてのグループにおいて42.5〜55.25mg/dLの範囲であり、これは20〜78mg/dLの正常ウサギの検査室履歴の範囲内である。SD8には、75または250mg/kg/日のシステアミンを受け取ったウサギは、図2に示すように、対照HFDグループと比較して、平均総コレステロールがそれほど増加しないことがわかった。HFDを与えたグループ2の対照ウサギは、平均総コレステロール値がSD8に842mg/dLであり、そのベースライン値に対し20倍ほど増加していた。75mg/kg/日のシステアミンを受け取ったグループ3のウサギは、652mg/dLの平均値を有し、そのベースライン値に対し約12倍だけの増加、すなわちHFD対照より23%少ない増加を示した。250mg/kg/日のシステアミンを受け取ったグループ4のウサギは、SD8に347mg/dLの平均値を有し、そのベースライン値に対し約7.5倍だけの増加、すなわちHFD対照値より59%少ない増加を示した。これらのデータから、システアミン治療はHFD食による血清総コレステロール増加のはっきりとした用量依存的な低下をもたらすことが示された。
【0101】
LDLコレステロール値もまた、システアミン投与により影響を受けるようであった。総コレステロールマーカーの場合と同様に、対照HFDグループで観察されたLDLコレステロールの増加は、図3に示すように、75または250mg/kg/日のシステアミンを用いて治療したウサギでは著しく下がった。ベースライン時での全グループにおける平均LDLコレステロール値は9.5〜18mg/dLの範囲であり、これは4〜19mg/dLの検査室履歴の範囲内である。SD8には、対照HFDウサギは272.5mg/dLの平均値を有し、ベースラインに対し約29倍の増加を示した。75mg/kg/日のシステアミンで治療したグループ3のウサギは、SD8に210mg/dLの平均値を有し、そのベースライン値に対し約12倍だけの増加、すなわちHFD対照より23%少ない増加を示した。250mg/kg/日で治療したグループ4のウサギは、150.5mg/dLの平均LDLコレステロール値を有し、そのベースライン値に対して約14倍だけの増加、すなわちHFD対照より45%少ない増加を示した。これらのデータから、システアミン治療はHFD食によるLDLコレステロール増加の著しい低下をもたらすことが示された。
【0102】
LDH値も同様の傾向を示した。すなわち、75または250mg/kg/日のシステアミンを受け取ったウサギは、図4に示すように、対照HFDウサギと比べて、LDHがそれほど増加しなかった。グループ2の対照HFDウサギはSD8に190U/Lの平均LDH値を有し、そのベースライン値に対し1.7倍の増加を示した。グループ3(75mg/kg/日)のウサギはSD8に128U/Lの平均値を有し、これはそのベースライン値に比し1.2倍の低下、すなわちSD8での対照HFD値の33%の低下であった。グループ4(250mg/kg/日)のウサギはSD8に77.5U/Lの平均値を有し、これはそのベースライン値に比し3.1倍の低下、すなわちSD8での対照HFD値の59%の低下であった。これらのデータから、システアミン治療は、HFDを与えた対照ウサギと比べたとき、LDH値の用量依存的な低下をもたらすことが示された。
【0103】
上記データは、HFDを与えたウサギをQ8Hスケジュールで75または250mg/kg/日(腹腔内)のシステアミン酒石酸水素塩で治療すると、NAFLDにおける肝炎症・損傷の重要なマーカーである肝トランスアミナーゼ(AST)のレベルが改善されることを示している。システアミンによる治療はまた、生化学的血清マーカーの総コレステロール、LDLコレステロールおよびLDHの有利な変化とも関連していた。総合すると、これらのデータは、システアミン治療がNASHのようなNAFLDのヒト患者において臨床的有益性をもたらすという結論を支持する。
【0104】
8週試験
この試験の目的は、NAFLDおよびNASHの動物モデルでシステアミン治療の効果を評価することであり、このモデルは、雄のニュージーランド白ウサギに20%のコーン油と1.25%のコレステロールを含む高脂肪食(HFD)を与えて、NAFLDおよびNASHに特徴的な臨床兆候と組織学的特徴を引き出すものである。
【0105】
この試験デザインは1グループ8匹のウサギを5グループ含んでいた。2つの対照グループ、すなわち通常のウサギ用固形飼料を与えた1つの対照グループと、HFDを与えたもう1つの対照グループは飲料水中に入れたシステアミンを受け取らなかった。HFDを与えたウサギの3つのグループでは、システアミン酒石酸水素塩を、25、75、または250mg/kg/日を送達するように計算した濃度で飲料水中に入れた。飲料水は、この濃度範囲にわたるシステアミン酒石酸水素塩についての室温安定性情報に基づいて、毎日新しく調製した。
【0106】
試験中の観察項目には、週2回の体重、毎日の飼料・水の消費量、ならびに毎日の臨床観察が含まれていた。血液サンプルを試験の開始前と2、4、6および8週目に、血液学的パラメーターの全パネルおよび血清化学の所定のパネル(ALT、AST、アミラーゼ、リパーゼ、総コレステロール、トリグリセリド、LDH、HDLコレステロール、およびLDLコレステロールを含む)のために採取した。
【0107】
HFDを受け取った全グループにおいて、粗毛や静かな動作といった臨床観察が8週目の中頃に認められ出したが、黄疸の兆候はそれより早く、6週目の中頃にあらわれ始めた。一部の動物はこれらと時を同じくして黒ずんだ色または赤い色をした尿を排泄し、これは胆管閉塞(胆汁うっ滞)の可能性を暗示している。試験期間全体を通して、HFDを与えた動物は標準食を与えた動物と比べて、たびたび便が軟らかかった。HFDを与えた動物はまた、NAFLDを示唆する組織学的特徴をも示した。グループ4(中用量システアミングループ)の3匹の動物は試験中に死亡したか、SD 51、55および56に瀕死状態のため犠牲にした。グループ5(高用量グループ)の1匹の動物はSD 55に瀕死状態のため犠牲にした。試験中のこれらの死は進行性NAFLDに関係があるようであった。
【0108】
体重のデータからは、標準食の動物とHFD食の動物が、試験の最初の6週間に、ほぼ同じ比率で体重を増加させたことが示された。しかし、7週目に入る頃、HFD食の動物は標準食の動物と比べて体重が減り始めた。システアミンで治療した動物の体重は対照HFD動物の体重と同等であるように見えた。飼料消費データからは、HFDを与えた動物が消費した飼料は試験の第1週後に標準食の動物より少ないことが明らかになったが、これはHFDのカロリー含量が高いためと予想される。治療グループとHFD対照グループの飼料消費は同様であった。6週目頃まで、HFD食の動物は、曲線下面積(AUC)に基づいて、標準食の動物が消費した飼料量の15〜30%ほどしか消費していなかった。
【0109】
水消費データも同様のパターンをたどった。HFD食の動物はすべて、水消費量が標準食の動物よりも少なかったが、これはおそらくHFD中に含まれる水分量が高いためであろう。AUCに基づいて、対照HFDグループは標準食の動物が消費した水の約65%を消費した。システアミン含有水を飲用したグループは、HFD対照グループが消費した水の3分の2ほどを消費した。これらのデータは、システアミン含有水がこれらのウサギにとって対照の水よりやや口当たりが悪かったことを示唆するだろう。
【0110】
血液学的データからは、試験を通して薬理学的に重要な変化が明らかにされなかった。HFDを与えた対照ウサギでは、標準食の対照と比べて、主にリンパ球が原因で、白血球(WBC)数がやや増加する傾向が見られた。システアミン治療グループはHFD対照グループと同様であった。
【0111】
血清化学的データは、HFDを与えた対照動物が標準食の対照動物と対比して相違することを示した。試験の終わりに(8週目)、グループ2のHFD対照動物では、標準食対照値(グループ1)と比較して、AST (2.6倍)、リパーゼ(6.6倍)、コレステロール(64倍)、トリグリセリド(3.8倍)、LDH (3倍)、HDLコレステロール(2.3倍)、およびLDLコレステロール(55倍)が上昇していた。アミラーゼとALTの数値に変化はなかった。
【0112】
ASTはALTより良好な肝炎症マーカーであると考えられる。8週間で、HFDを与えた対照動物は、図5に示すように、平均AST値が117.1U/Lであり、標準食を与えた対照動物と比べて2.6倍に上昇した。しかし、低用量(25mg/kg/日)および高用量(250mg/kg/日)システアミン治療グループの双方の平均AST値は、対照HFD動物と比べて低下した。グループ3の動物(25mg/kg/日)は平均AST値が62.5U/Lにすぎず、これはHFD対照グループに対して1.9倍の減少、47%の低下に相当する。同様に、グループ5の動物(250mg/kg/日)は平均AST値が75.7U/Lにすぎず、これはHFD対照に対して1.6倍の減少、35%の低下に相当する。飲料水中にシステアミンを供給することによって薬物送達を評価することの困難性を考慮すると、これらのAST値の減少はシステアミン治療を受けた3グループのうち2つと関連していたことが注目に値する。同様のASTの減少がパイロット試験においても見られた。
【0113】
パイロット試験で観察されたように、この試験でもシステアミン治療動物にLDHの減少が観察された。図6に示すように、8週目に、グループ2のHFD対照動物では平均LDH値が375U/Lであった。システアミンへの暴露は、グループ2のHFD対照と比較して、治療動物において3つ全ての用量レベルでLDH値の減少をもたらした。高用量(250mg/kg/日)グループであるグループ5では、8週目の平均LDH値が140U/Lであり、これは平均LDH値が125.6U/Lであるグループ1の標準食対照グループとほぼ同じである。HFD対照のLDH値と高用量システアミン(250mg/kg/日)値とのこの差は、Mann-Whitney U検定により統計的に有意であった(p=0.03)。これらのデータは、システアミンによる治療がHFDに起因するLDHの増加を著しく低下させたことを示している。
【0114】
HDLコレステロール値が健康な脂質プロファイルのプラスの指標であることは広く認識されている。ウサギはヒトの脂質プロファイルのための特にすぐれたモデルであることが知られているが、それは、ウサギがヒトに見い出されるベースライン比率と類似した比率をもつからである。ウサギはヒト心血管疾患の良好なモデルと考えられる。したがって、この試験において、高用量システアミン(250mg/kg/日)で治療した動物が、図7に示すように、標準食対照グループとHFD対照グループの双方と比較して、HDLコレステロールの有利な増加を示したことは、注目に値することであった。8週目に、250mg/kg/日システアミングループの平均HDLコレステロール値は58.3mg/dLであり、これはHFD対照の平均値36.9mg/dLに対して1.6倍の増加、そして標準食対照の平均値15.7mg/dLに対して3.7倍の増加であった。
【0115】
総合すると、この8週試験で集められたデータは、HFDを与えたウサギがNAFLDおよびNASHと一致する肝疾患に伴う臨床兆候および血清学的特徴をあらわすことを明らかにした。飲料水ボトルでのシステアミン投薬は治療動物へのばらつきのある薬物送達をもたらすようであった。それにもかかわらず、パイロット試験で改善された同じ血清化学的マーカーのうちの2つ(すなわち、ASTとLDH)が、システアミンの存在下でこの8週試験においても改善されたことがわかった。ASTはヒトNASHにおける炎症の最良のマーカーであると考えられることから、また、LDHの低下はおそらくこれらの動物における炎症の軽減と細胞毒性からの有望な保護をも反映することから、これらは重要な知見であると考えられた。
【0116】
この長期試験でのもう一つの注目すべき知見は、システアミン治療が血清HDLコレステロール値の有益な上昇を伴っていたことであった。
【0117】
当業者であれば、上記実施例で説明した本発明において多数の修飾および変更が可能であることを予想できる。したがって、添付の特許請求の範囲に記載する制限のみが本発明に課されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療に有効な量のシステアミン生成物を投与することを含んでなる、脂肪性肝疾患にかかっている患者の治療方法。
【請求項2】
脂肪性肝疾患が、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝炎から生じる脂肪性肝疾患、肥満症から生じる脂肪性肝疾患、糖尿病から生じる脂肪性肝疾患、インスリン抵抗性から生じる脂肪性肝疾患、高トリグリセリド血症から生じる脂肪性肝疾患、無βリポタンパク血症、糖原病、ウェーバー・クリスチャン病、ウォルマン病、急性妊娠脂肪肝、およびリポジストロフィーからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
治療に有効な量の、システアミンもしくはシスタミン、またはその製薬上許容される塩を含む組成物を投与することを含んでなる、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)または非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)にかかっている患者の治療方法。
【請求項4】
システアミン生成物の総1日量が約0.5〜2.0g/m2である、請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
システアミン生成物の総1日量が約0.5〜1.0g/m2である、請求項1または3に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物を1日4回またはそれ以下の頻度で投与する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物を1日2回投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が小腸へのシステアミンまたはシステアミン誘導体の増大した送達をもたらす遅延放出型または制御放出型の製剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
遅延放出型または制御放出型製剤が、同量のシステアミンまたはシステアミン誘導体を含む即時放出型製剤がもたらすCmaxよりも少なくとも約35%高いシステアミンもしくはシステアミン誘導体またはその生物学的活性代謝産物のCmaxをもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
遅延放出型または制御放出型製剤が、即時放出型製剤のCmaxよりも少なくとも約50%高いCmaxをもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
遅延放出型または制御放出型製剤が、即時放出型製剤のCmaxよりも最大で約75%高いCmaxをもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が小腸に到達するか、またはpHが約pH4.5より高い被験者の胃腸管の領域に到達するときに、遅延放出型または制御放出型製剤がシステアミン生成物を放出する腸溶性コーティングを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が重合ゼラチン、セラック、メタクリル酸コポリマーC型 NF、セルロースブチレートフタレート、セルロースハイドロジェンフタレート、セルロースプロプリオネートフタレート、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテート、ジオキシプロピルメチルセルローススクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ならびにアクリル酸のポリマーおよびコポリマー、典型的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸エチルから生成されるもの(アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとのコポリマーを含む)からなる群より選択されるコーティングを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物を経口的に投与する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物を非経口的に投与する、請求項1または3に記載の方法。
【請求項16】
前記投与がシステアミン生成物の投与前のレベルと比較して肝線維症の改善をもたらす、請求項1または3に記載の方法。
【請求項17】
前記投与が肝臓の脂肪含量の低下をもたらす、請求項1または3に記載の方法。
【請求項18】
前記投与が肝硬変の発生率または進行の低下をもたらす、請求項1または3に記載の方法。
【請求項19】
前記投与が肝細胞癌の発生率の低下をもたらす、請求項1または3に記載の方法。
【請求項20】
前記投与がシステアミン生成物の投与前のレベルと比較して肝アミノトランスフェラーゼレベルの減少をもたらす、請求項1または3に記載の方法。
【請求項21】
前記投与が治療前のレベルと比較して肝トランスアミナーゼを約10〜40%低下させる、請求項1または3に記載の方法。
【請求項22】
前記投与が、治療した患者におけるアラニンアミノトランスフェラーゼのレベルを、正常ALTレベルより約30%、20%もしくは10%上に、または正常ALTレベル(≧40iu/L)に低下させる、請求項1または3に記載の方法。
【請求項23】
前記投与が、治療した患者におけるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼのレベルを、正常ASTレベルより約30%、20%もしくは10%上に、または正常ASTレベルに低下させる、請求項1または3に記載の方法。
【請求項24】
前記投与がシステアミン生成物による治療前のレベルと比較して血清フェリチンレベルの低下をもたらす、請求項1または3に記載の方法。
【請求項25】
システアミン生成物を、脂肪性肝疾患を治療するのに有用な第2の薬剤と一緒に投与する、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記患者が子供または若者である、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−505375(P2011−505375A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536206(P2010−536206)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/085064
【国際公開番号】WO2009/070781
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(500445295)ザ レジェンツ オブ ザ ユニヴァースティ オブ カリフォルニア (28)
【Fターム(参考)】