説明

シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム

【課題】シリンダ内面に形成される微細形状が油膜形成に及ぼす影響を短時間かつ精度良く算出する。
【解決手段】シミュレーション装置1の制御部11は、形状パラメータを入力し(S1)、シリンダ内面を微細形状と仮定してストンリング列とシリンダ内面との間の油膜の流れについて数値計算を行い(S2)、シリンダ内面を平滑面と仮定してピストンリング列とシリンダ内面との間の油膜の流れについて数値計算を行い(S3)、数値計算の結果に基づいて、修正係数を算出する(S4)。次に、制御部11は、修正係数を導入した潤滑基礎方程式を、ピストンリング列と、微細形状を有するシリンダ内面との間の潤滑膜に適用し、潤滑計算を行い(S5)、数値計算及び潤滑計算の結果に基づいて、摩擦力を算出し(S6)、計算結果を出力する(S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑基礎方程式を用いて潤滑計算を行うシミュレーション装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車工学等の分野では、エンジン内部等での潤滑、摩擦、摩耗等の現象について研究されている。
【0003】
例えば、非特許文献1、2に記載の技術(以下、「従来技術1」という。)では、機械加工等による表面微細形状を全て表面あらさとしてとらえ、あらさ形状を以下2つの代表パラメータによって表している。
(1)あらさの大きさ:2乗平均平方根(RMS:Root Mean Square)あらさσ (すべり方向)
(2)あらさの方向性パラメータ:γ =(すべり方向凹凸の特性波長)/(すべりに直交する方向の凹凸の特性波長)
従来技術1では、上記2つのパラメータを用いて仮想表面を発生させ、この表面を用いて修正係数を数値計算により求め、流体潤滑の基礎方程式であるレイノルズ方程式に導入する。
【0004】
また、例えば、非特許文献3〜5に記載の技術(以下、「従来技術2」という。)では、クロスハッチ形状の中の流れを直接3D‐CFD(3次元数値流体力学:three-dimensional
Computational Fluid Dynamics)解析により解いて、溝内の流速および圧力分布を求める解析を行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N.Patir and H.S.Cheng:“An Average Flow Model for Determining Effects of Three-DimensionalRoughness on Partial Hydrodynamic Lubrication” Trans.ASME J Lub.Tech Vol.100P.12, 1978
【非特許文献2】N.Patir and H.S.Cheng:“Application of Average Flow Model to Lubrication between RoughSliding Surfaces” Trans.ASME J Lub.Tech Vol.101 P.220, 1979
【非特許文献3】Li, Y., Chen, H. and Tian, T.,2008 “A deterministic model for lubricant transport within complex geometryunder sliding contact and its application in the interaction between the oilcontrol ring and rough liner in internal combustion engines”, SAE InternationalPowertrains, Fuels and Lubricants Congress, 08SFL-0364
【非特許文献4】Li, Y., Chen, H. and Tian, T.:A Deterministic Model for Lubricant Transport within ComplexGeometry under Sliding Contact and its Application in the Interaction betweenthe Oil Control Ring and Rough Liner in Internal Combustion Enginess ; SAE Tech Paper No.2008-01-1614
【非特許文献5】Chen, H. and Tian, T.:The Influences of Cylinder Liner Honing Patterns and Oil ControlRing Design Parameters on the Interaction between the Twinland Oil Control Ringand the Cylinder Liner in Internal Combustion Engines SAE Tech PaperNo.2008-01-1614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術1では、上記2パラメータが等しい2面は、全く等価なものとして扱われる。しかしながら、実際には、対象表面形状(実測値)から統計的手法により2つのパラメータを求める必要がある。このとき、例えばシリンダ内面に形成される微細形状がハッチ形状の場合、ハッチ角度は方向性パラメータγ、溝深さはRMSあらさσに反映されるが、プラトー率(溝密度)を反映させるパラメータがない。また、従来技術1では、ハッチ形状がクロスハッチ(両ハッチ)の場合と片ハッチの場合を区別することもできない。以上のように、従来技術1では、ハッチ形状の情報を十分に計算に反映させることができず、シリンダ内面に形成される最適なハッチ形状を求めるには不十分である。
【0007】
従来技術2では、任意のハッチ形状の解を正確に得ることが出来るが、計算負荷が高く、実際のピストンリングとシリンダ内面との間の流れを解いて摩擦特性を求めるには膨大な計算時間を要する。従って、従来技術2は、シリンダ内面に形成される微細形状の設計ツールとしては不向きである。
【0008】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、シリンダ内面に形成される微細形状が油膜形成に及ぼす影響を短時間かつ精度良く算出することが可能なシミュレーション装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために第1の発明は、潤滑基礎方程式を用いて潤滑計算を行うシミュレーション装置であって、エンジンのシリンダ内面に形成される微細形状を表す形状パラメータとして、少なくとも前記微細形状のプラトー率を入力する入力手段と、前記入力手段によって入力される前記形状パラメータに基づいて、前記潤滑基礎方程式に前記微細形状が油膜形成に及ぼす影響を導入するための係数である修正係数を算出する修正係数算出手段と、を具備することを特徴とするシミュレーション装置である。
第1の発明によって、シリンダ内面に形成される微細形状が油膜形成に及ぼす影響を短時間かつ精度良く算出することができる。
【0010】
第1の発明は、前記修正係数算出手段によって算出される前記修正係数を導入した前記潤滑基礎方程式を、前記エンジンのピストンリング列と、前記微細形状を有する前記シリンダ内面との間の潤滑膜に適用し、潤滑計算を行う潤滑計算手段、を更に具備することが望ましい。
これによって、シリンダ内面に形成される微細形状が及ぼす油膜厚さへの影響を理論的に推定することが可能となる。
【0011】
例えば、第1の発明における前記修正係数算出手段は、前記シリンダ内面を前記微細形状と仮定し、前記入力手段によって入力される前記形状パラメータに基づいて、前記ピストンリング列と前記シリンダ内面との間の油膜の流れの数値計算を行い、圧力流れ成分の流量、及び、せん断流れ成分の流量を算出する第1数値計算手段と、前記シリンダ内面を前記平滑面と仮定し、前記ピストンリング列と前記シリンダ内面との間の油膜の流れの数値計算を行い、圧力流れ成分の流量、及び、せん断流れ成分の流量を算出する第2数値計算手段と、前記第1数値計算手段によって算出される圧力流れ成分の流量と、前記第2数値計算手段によって算出される圧力流れ成分の流量との比を圧力流量係数として算出し、前記第1数値計算手段によって算出されるせん断流れ成分の流量と、前記第2数値計算手段によって算出されるせん断流れ成分の流量との比をせん断流量係数として算出する係数算出手段と、を含み、前記潤滑計算手段は、前記係数算出手段によって算出される前記圧力流量係数及び前記せん断流量係数を前記修正係数として導入した前記潤滑基礎方程式を用いて潤滑計算を行い、前記ピストンリング列と前記シリンダ内面との間の膜厚分布を算出する。
これによって、ピストンリング列と、所定の微細形状が形成されるシリンダ内面との間の膜厚分布を短時間かつ精度良く推定することができる。
【0012】
また、例えば、前記第1数値計算手段は、更に、前記シリンダ内面を前記微細形状と仮定して、圧力流れ成分のせん断応力、及び、せん断流れ成分のせん断応力を算出し、前記第2数値計算手段は、更に、前記シリンダ内面を前記平滑面と仮定して、圧力流れ成分のせん断応力、及び、せん断流れ成分のせん断応力を算出し、前記係数算出手段は、前記第1数値計算手段によって算出される前記圧力流れ成分のせん断応力と、前記第2数値計算手段によって算出される前記圧力流れ成分のせん断応力との比を圧力流せん断応力係数、前記第1数値計算手段によって算出される前記せん断流れ成分のせん断応力と、前記第2数値計算手段によって算出される前記せん断流れ成分のせん断応力との比をせん断流せん断応力係数として算出し、前記圧力流せん断応力係数、前記せん断流せん断応力係数、及び前記膜厚分布に基づいて、前記ピストンリング列と前記シリンダ内面との間の摩擦力を算出する摩擦力算出手段、を更に具備する。
これによって、ピストンリング列と、所定の微細形状が形成されるシリンダ内面との間の摩擦力を短時間かつ精度良く推定することができる。
【0013】
また、例えば、第1の発明における前記微細形状は、ハッチ形状であり、前記入力手段は、更に、前記形状パラメータとして、前記微細形状のハッチ角度、及び溝深さを入力し、前記修正係数算出手段は、前記入力手段によって入力される前記プラトー率、前記ハッチ角度、及び前記溝深さに基づいて、前記修正係数を算出する。
これによって、シリンダ内面に形成されるハッチ形状が油膜形成に及ぼす影響を短時間かつ精度良く算出することができる。
【0014】
第2の発明は、コンピュータが潤滑基礎方程式を用いて潤滑計算を行うシミュレーション方法であって、エンジンのシリンダ内面に形成される微細形状について、プラトー率を含む前記微細形状を表す形状パラメータとして、少なくとも前記微細形状のプラトー率を入力する入力ステップと、前記入力ステップによって入力される前記形状パラメータに基づいて、前記潤滑基礎方程式に前記微細形状が油膜形成に及ぼす影響を導入するための係数である修正係数を算出する修正係数算出ステップと、を含むことを特徴とするシミュレーション方法である。
第2の発明によって、シリンダ内面に形成される微細形状が油膜形成に及ぼす影響を短時間かつ精度良く算出することができる。
【0015】
第3の発明は、コンピュータを、エンジンのシリンダ内面に形成される微細形状を表す形状パラメータとして、少なくとも前記微細形状のプラトー率を入力する入力手段と、前記入力ステップによって入力される前記形状パラメータに基づいて、潤滑計算に用いられる潤滑基礎方程式に前記微細形状が油膜形成に及ぼす影響を導入するための係数である修正係数を算出する修正係数算出手段と、して機能させるためのシミュレーションプログラムである。
第3の発明を汎用のコンピュータにインストールすることによって、第1の発明のシミュレーション装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、シリンダ内面に形成される微細形状が油膜形成に及ぼす影響を短時間かつ精度良く算出することが可能なシミュレーション装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】シミュレーション装置1を実現するコンピュータのハードウエア構成図
【図2】シミュレーション装置1の処理の流れを示すフローチャート
【図3】クロスハッチ面と形状パラメータを説明する図
【図4】圧力流れ成分の計算パラメータについて説明する図
【図5】圧力流量係数の計算結果の一例を示す図
【図6】圧力流せん断応力係数の計算結果の一例を示す図
【図7】せん断流れ成分の計算パラメータについて説明する図
【図8】せん断流量係数の計算結果の一例を示す図
【図9】せん断流せん断応力係数の計算結果の一例を示す図
【図10】潤滑計算及び摩擦計算を説明する図
【図11】膜厚分布と摩擦力の計算結果の一例を示す図
【図12】ハッチ角度による摩擦平均有効圧の比較結果の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、シミュレーション装置1を実現するコンピュータのハードウエア構成図である。尚、図1のハードウエア構成は一例であり、用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
【0019】
シミュレーション装置1は、制御部11、記憶部12、メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、表示部16、周辺機器I/F部17等が、バス18を介して接続される。
【0020】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成される。
【0021】
CPUは、記憶部12、ROM、記録媒体等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス18を介して接続された各装置を駆動制御し、シミュレーション装置1が行う後述する処理を実現する。
ROMは、不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。
RAMは、揮発性メモリであり、記憶部12、ROM、記録媒体等からロードしたプログラム、データ等を一時的に保持するとともに、制御部11が各種処理を行う為に使用するワークエリアを備える。
【0022】
記憶部12は、HDD(ハードディスクドライブ)であり、制御部11が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(オペレーティングシステム)等が格納される。プログラムに関しては、OS(オペレーティングシステム)に相当する制御プログラムや、後述する処理をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。
これらの各プログラムコードは、制御部11により必要に応じて読み出されてRAMに移され、CPUに読み出されて各種の手段として実行される。
【0023】
メディア入出力部13(ドライブ装置)は、データの入出力を行い、例えば、CDドライブ(−ROM、−R、−RW等)、DVDドライブ(−ROM、−R、−RW等)等のメディア入出力装置を有する。
通信制御部14は、通信制御装置、通信ポート等を有し、コンピュータとネットワーク間の通信を媒介する通信インタフェースであり、ネットワークを介して、他のコンピュータ間との通信制御を行う。ネットワークは、有線、無線を問わない。
【0024】
入力部15は、データの入力を行い、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置を有する。
入力部15を介して、コンピュータに対して、操作指示、動作指示、データ入力等を行うことができる。
表示部16は、液晶パネル等のディスプレイ装置、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)を有する。
【0025】
周辺機器I/F(インタフェース)部17は、コンピュータに周辺機器を接続させるためのポートであり、周辺機器I/F部17を介してコンピュータは周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部17は、USBやIEEE1394やRS−232C等で構成されており、通常複数の周辺機器I/Fを有する。周辺機器との接続形態は有線、無線を問わない。
バス18は、各装置間の制御信号、データ信号等の授受を媒介する経路である。
【0026】
シミュレーション装置1は、潤滑基礎方程式(レイノルズ方程式)を用いて、エンジンのピストンとシリンダ内面との間の潤滑計算を行う装置である。エンジンのシリンダ内面には、摩擦及びオイル消費の減少などを目的として、細かな凹凸の繰返しである微細形状を形成させることがある。以下では、図2から図12を参照しながら、微細形状として、ハッチ形状を例にして説明する。ハッチ形状は、クロスハッチ(両ハッチ)と片ハッチの2種類がある。
【0027】
図2は、シミュレーション装置1の処理の流れを示すフローチャートである。
図2に示すように、シミュレーション装置1の制御部11は、入力手段(メディア入出力部13、通信制御部14、入力部15、周辺機器I/F部17等)を介して、形状パラメータを入力する(S1)。また、制御部11は、記憶部12にファイルとして記憶されている形状パラメータを入力しても良い。
ハッチ形状の場合、形状パラメータは、ハッチ角度、溝深さ、プラトー率及びプラトー面あらさである。
【0028】
図3は、クロスハッチ面と形状パラメータを説明する図である。
図3(a)は、シリンダ内面に形成されるクロスハッチ面と油膜の模式図である。クロスハッチ面が形成されることによって、シリンダ内面は無数の溝を有する。シリンダ内面に対するピストン(不図示)のすべり方向、すなわちピストンの移動方向は、紙面に対して左右方向である。
図3(b)は、クロスハッチ面を正面方向から見たときの模式図と、この模式図の一部の拡大断面図である。
【0029】
図3に示すように、油膜の厚さは、平均膜厚hとして表現される。
ハッチ形状は、ハッチ角度、溝深さ、プラトー率及びプラトー面あらさの形状パラメータによって定義される。ここで、プラトー(台地領域)とは、溝ではない領域を意味する。
ハッチ角度とは、例えば、すべり方向と直交する方向に伸びる直線を基準線とし、基準線と溝とのなす角度である。尚、基準線は、すべり方向と平行する方向に伸びる直線としても良い。
溝深さaは、プラトーから最深部までの長さである。プラトー率は、隣接する溝の最深部同士の距離をL、プラトーの幅をWとしたとき、プラトー率=W/Lとして定義される。プラトー面あらさは、プラトー(台地領域)の面あらさである。面あらさの定義は、最大高さ、算術平均あらさ、自乗平均平方根あらさ(RMS)などがあり、本発明では、例えば、自乗平均平方根あらさ(RMS)を用いる。
図3は、両ハッチの例であるが、片ハッチの場合も同様に、ハッチ角度、溝深さ、プラトー率及びプラトー面あらさの形状パラメータが定義される。
【0030】
制御部11が実行するプログラムには、微細形状の関数f(・)として、ハッチ角度、溝深さ、及びプラトー率の形状パラメータを変数とする関数が定義されている。関数f(・)は、ピストンに嵌め込まれるピストンリング列(不図示)とシリンダ内面との間の膜厚を計算するための関数である。
例えば、片ハッチにおける膜厚h(hの「s」はsingleの頭文字)は、ハッチ角度をθ、溝深さをa、プラトー率をqとすると、h=f(θ、a、q)として計算される。
また、例えば、両ハッチにおける膜厚h(hの「d」はdoubleの頭文字)は、第1の方向の片ハッチについて、ハッチ角度をθ1、溝深さをa1、プラトー率をq1とし、第1の方向の片ハッチと交差する第2の方向の片ハッチについて、ハッチ角度をθ2、溝深さをa2、プラトー率をq2とすると、h=min(f(θ1、a1、q1)、f(θ2、a2、q2))として計算される。
【0031】
図2の説明に戻る。潤滑膜は流れ(すべり)方向に対して厚み方向が極めて小さい薄膜である。この流れは、通常圧力流れ(Poiseuille Flow)とせん断流れ(Couette Flow)に分離し、これらの和とみなすことができる。この圧力流れ、せん断流れそれぞれについて、微細形状が及ぼす影響を数値計算によって定量化する。
そこで、制御部11は、シリンダ内面を微細形状と仮定し、S11において入力される形状パラメータ(微細形状のハッチ角度、溝深さ、プラトー率及びプラトー面あらさ)に基づいて、ピストンリング列とシリンダ内面との間の油膜の流れについて数値計算を行い、圧力流れ成分の流量及びせん断応力、並びに、せん断流れ成分の流量及びせん断応力を算出する(S2:第1数値計算)。
また、制御部11は、シリンダ内面を平滑面と仮定し、ピストンリング列とシリンダ内面との間の油膜の流れについて数値計算を行い、圧力流れ成分の流量及びせん断応力、並びに、せん断流れ成分の流量及びせん断応力を算出する(S3:第2数値計算)。
【0032】
そして、制御部11は、数値計算の結果に基づいて、修正係数を算出する(S4)。より詳しくは、制御部11は、以下の4つの修正係数を算出する。
(1)圧力流量係数:S2において算出される圧力流れ成分の流量と、S3において算出される圧力流れ成分の流量との比
(2)せん断流量係数:S2において算出されるせん断流れ成分の流量と、S3において算出されるせん断流れ成分の流量との比
(3)圧力流せん断応力係数:S2において算出される前記圧力流れ成分のせん断応力と、S3において算出される圧力流れ成分のせん断応力との比
(4)せん断流せん断応力係数:S2において算出されるせん断流れ成分のせん断応力と、S3において算出されるせん断流れ成分のせん断応力との比
ここで、修正係数とは、潤滑基礎方程式(レイノルズ方程式)に、微細形状が油膜形成に及ぼす影響を導入するための係数である。制御部11が実行するプログラムには、各項に修正係数が含まれる潤滑基礎方程式(レイノルズ方程式)が定義されている。
【0033】
図4は、圧力流れ成分の計算パラメータについて説明する図である。
図4に示すように、油膜長さLx、油膜幅Lyの仮想油膜を考える。油膜の厚さは、油膜長さLx、油膜幅Lyに対して十分小さく、薄膜近似ができるものとする。また、油膜長さLx×油膜幅Ly内の領域には、ハッチ形状の凹凸が十分な数だけ存在するとする。そして、油膜の左側面(x=0)における境界条件を圧力p=p、油膜の右側面(x=Lx)における境界条件を圧力p=0とすると、圧力差pに起因する流れ(圧力流れ、Poiseuille流れ)が油膜内に生じる。Poiseuille流れの流量Qxは、次式の潤滑基礎方程式(レイノルズ方程式)を解くことによって求まる。
【0034】
【数1】

尚、hは流体膜厚さ、ηは粘度、pは圧力である。
【0035】
図5は、圧力流量係数の計算結果の一例を示す図である。
式(1)を解いて得られる流量は、下面(シリンダ内面)が微細形状の場合と、平滑面の場合とで異なる。制御部11は、平滑面の場合の流量に対する微細形状の場合の流量との比を、圧力流量係数φxと定義し、数値計算の結果から算出する。すなわち、制御部11は、φx=Qx{下面が微細形状の場合}/Qx{下面が平滑面の場合}を算出する。
図5(a)には、圧力流量係数φxの計算結果の一例が示されている。また、図5(b)には、図5(a)に示す計算結果の物理的意味が示されている。
【0036】
図5(a)の横軸は「油膜厚さ/溝深さ」であり、縦軸は「圧力流量係数φx」である。図5(a)には、3種の異なるハッチ形状A、B、Cの例が示されている。3つの例のそれぞれについて、「油膜厚さ/溝深さ」が異なる数回の数値計算の結果に基づき、カーブフィットによって圧力流量係数φxの近似式を求める。図5(a)に示されている3つの曲線は、カーブフィットによって求めた近似式によって描画されている。図5(a)における3つの曲線のうち、実線(数値計算結果を正方形にて図示)が「ハッチ形状A」、点線(数値計算結果を菱形にて図示)が「ハッチ形状B」、一点鎖線(数値計算結果を三角形にて図示)が「ハッチ形状C」を示している。
図5(b)に示すように、ハッチ形状によって下面(シリンダ内面)近傍の流動抵抗が増大し、φx分だけ流量が減少しようとする。これに逆らって同一流量を流そうとすると油膜圧力が発生し、平均膜厚を増大させる方向に作用する。
【0037】
図6は、圧力流せん断応力係数の計算結果の一例を示す図である。
式(1)を解いて得られる下面(シリンダ内面)上の速度勾配から、下面(シリンダ内面)に作用するせん断応力が決まる。制御部11は、平滑面の場合のせん断応力に対する微細形状の場合のせん断応力との比を、圧力流せん断応力係数φfと定義し、数値計算の結果から算出する。すなわち、制御部11は、φf=du/dy{下面が微細形状の場合}/du/dy{下面が平滑面の場合}を算出する。
図6(a)には、圧力流せん断応力係数φfの計算結果の一例が示されている。また、図6(b)には、図6(a)に示す計算結果の物理的意味が示されている。
【0038】
図6(a)の横軸は「油膜厚さ/溝深さ」であり、縦軸は「圧力流せん断応力係数φf」である。図6(a)には、3種の異なるハッチ形状A、B、Cの例が示されている。3つの例のそれぞれについて、「油膜厚さ/溝深さ」が異なる数回の数値計算の結果に基づき、カーブフィットによって圧力流せん断応力係数φfの近似式を求める。図6(a)に示されている3つの曲線は、カーブフィットによって求めた近似式によって描画されている。図6(a)における3つの曲線のうち、実線(数値計算結果を正方形にて図示)が「ハッチ形状A」、点線(数値計算結果を菱形にて図示)が「ハッチ形状B」、一点鎖線(数値計算結果を三角形にて図示)が「ハッチ形状C」を示している。
図6(b)に示すように、ハッチ形状によって下面(シリンダ内面)近傍の速度勾配が減少し、φf分だけせん断応力(粘性摩擦)が減少する。
【0039】
図7は、せん断流れ成分の計算パラメータについて説明する図である。
圧力流れ成分の計算と同様に、図7に示すように、油膜長さLx、油膜幅Lyの仮想油膜を考える。油膜の厚さhは、油膜長さLx、油膜幅Lyに対して十分小さく、薄膜近似ができるものとする。また、油膜長さLx×油膜幅Ly内の領域には、ハッチ形状の凹凸が十分な数だけ存在するとする。また、上面をxの正方向の速度Uによって平行に滑らせるとする。そして、油膜の左側面(x=0)における境界条件を圧力p=0、油膜の右側面(x=Lx)における境界条件を圧力p=0とすると(圧力差を0とすると)、上面のすべりUに起因する流れ(せん断流れ、Couette流れ)が油膜内に生じる。Couette流れの流量Qsは、次式の潤滑基礎方程式(レイノルズ方程式)を解くことによって求まる。
【0040】
【数2】

尚、hは流体膜厚さ、ηは粘度、pは圧力、Uは速度である。
【0041】
図8は、せん断流量係数の計算結果の一例を示す図である。
式(2)を解いて得られる流量は、下面(シリンダ内面)が微細形状の場合と、平滑面の場合とで異なる。制御部11は、平滑面の場合の流量に対する微細形状の場合の流量との比を、せん断流量係数φsと定義し、数値計算の結果から算出する。すなわち、制御部11は、φs=Qs{下面が微細形状の場合}/Qs{下面が平滑面の場合}を算出する。
図8(a)には、せん断流量係数φsの計算結果の一例が示されている。また、図8(b)には、図8(a)に示す計算結果の物理的意味が示されている。
【0042】
図8(a)の横軸は「油膜厚さ/溝深さ」であり、縦軸は「せん断流量係数φs」である。図8(a)には、3種の異なるハッチ形状A、B、Cの例が示されている。3つの例のそれぞれについて、「油膜厚さ/溝深さ」が異なる数回の数値計算の結果に基づき、カーブフィットによってせん断流量係数φsの近似式を求める。図8(a)に示されている3つの曲線は、カーブフィットによって求めた近似式によって描画されている。図8(a)における3つの曲線のうち、実線(数値計算結果を正方形にて図示)が「ハッチ形状A」、点線(数値計算結果を菱形にて図示)が「ハッチ形状B」、一点鎖線(数値計算結果を三角形にて図示)が「ハッチ形状C」を示している。
図8(b)に示すように、ハッチ形状によって下面(シリンダ内面)近傍の流動抵抗が増大し、φs分だけ流量が減少しようとする。これに逆らって同一流量を流そうとすると油膜圧力が発生し、平均膜厚を増大させる方向に作用する。
【0043】
図9は、せん断流せん断応力係数の計算結果の一例を示す図である。
式(2)を解いて得られる下面(シリンダ内面)上の速度勾配から、下面(シリンダ内面)に作用するせん断応力が決まる。制御部11は、平滑面の場合のせん断応力に対する微細形状の場合のせん断応力との比を、せん断流せん断応力係数φfsと定義し、数値計算の結果から算出する。すなわち、制御部11は、φfs=du/dy{下面が微細形状の場合}/du/dy{下面が平滑面の場合}を算出する。
図9(a)にはせん断流せん断応力係数φfsの計算結果の一例が示されている。また、図9(b)には、図9(a)に示す計算結果の物理的意味が示されている。
【0044】
図9(a)の横軸は「油膜厚さ/溝深さ」であり、縦軸は「せん断流せん断応力係数φfs」である。図9(a)には、3種の異なるハッチ形状A、B、Cの例が示されている。3つの例のそれぞれについて、「油膜厚さ/溝深さ」が異なる数回の数値計算の結果に基づき、カーブフィットによってせん断流せん断応力係数φfsの近似式を求める。図9(a)に示されている3つの曲線は、カーブフィットによって求めた近似式によって描画されている。図9(a)における3つの曲線のうち、実線(数値計算結果を正方形にて図示)が「ハッチ形状A」、点線(数値計算結果を菱形にて図示)が「ハッチ形状B」、一点鎖線(数値計算結果を三角形にて図示)が「ハッチ形状C」を示している。
図9(b)に示すように、ハッチ形状によって下面(シリンダ内面)近傍の速度勾配が増加し、φfs分だけせん断応力(粘性摩擦)が増加する。
【0045】
図2の説明に戻る。
次に、制御部11は、S4において算出される修正係数を導入した潤滑基礎方程式(レイノルズ方程式)を、ピストンリング列と、微細形状を有するシリンダ内面との間の潤滑膜に適用し、潤滑計算を行い、ピストンリング列とシリンダ内面との間の圧力分布や膜厚分布を算出する(S5)。
更に、制御部11は、数値計算及び潤滑計算の結果に基づいて、摩擦力を算出する(S6)。より詳しくは、制御部11は、圧力流せん断応力係数、せん断流せん断応力係数、及び膜厚分布等に基づいて、ピストンリング列とシリンダ内面との間の摩擦力を算出する。
そして、制御部11は、出力手段(メディア入出力部13、通信制御部14、表示部16、周辺機器I/F部17等)を介して、S5及びS6の計算結果を出力する(S7)。また、制御部11は、記憶部12に、ファイルとしてS5及びS6の計算結果を出力しても良い。
【0046】
図10は、潤滑計算及び摩擦計算を説明する図である。
図10(a)は、ピストンとシリンダ内面の一部の模式図である。図10(b)は、図10(a)の一部を拡大した図であり、ピストンに嵌め込まれている3つのピストンリング、シリンダ内面、及び油膜の模式図である。図10(c)は、図10(b)の一部を拡大した図であり、1つのピストンリング、シリンダ内面、及び油膜の模式図である。
【0047】
図10(b)に示す「Top」は、ピストンリングの1つであるトップリング、「2nd」は、ピストンリングの1つであるセカンドリング、「Oil」は、ピストンリングの1つであるオイルリングを示している。トップリングやセカンドリングは、燃焼室で発生した燃焼ガスを外に出さないように、燃焼室内の機密性を保つ役割を果たしている。オイルリングは、シリンダ内面の潤滑油をかき落とし、オイルの使い過ぎを防ぐ役割を果たしている。図10(b)に示すように、シリンダ内面と対向する面の形状は、ピストンリングごとに異なる。
本発明は、図10に示すピストンリングの例に限定されるわけではなく、例えば、2ピース構造のリングなどにも同様に適用可能である。
【0048】
図10(c)に示すように、制御部11は、ピストンリングの面をすべり方向(x軸方向)に速度Uによって平行に滑らせ、すべり方向と直交する方向(y軸方向)に荷重Wをかけると仮定する。そして、制御部11は、図5に示す圧力流量係数φxの近似式、図8に示すせん断流量係数φsの近似式を、次式に示すように、ピストンリング列の潤滑基礎方程式(レイノルズ方程式)に導入し、ピストンリングとシリンダ内面との間の油膜の潤滑計算を行い、膜厚分布を算出する。
【0049】
【数3】

尚、hは流体膜厚さ、ηは粘度、pは圧力、Uは速度、tは時間である。
【0050】
更に、制御部11は、潤滑計算によって算出される膜厚分布に基づいて、ピストンリングとシリンダ内面が固体接触している箇所(固体接触部)と、油膜を介して接触している箇所とを判別し、固体接触部については公知の境界潤滑モデルによって境界摩擦の計算を行い、油膜を介して接触している箇所については粘性摩擦の計算を行う。境界摩擦の計算においては、公知の境界潤滑モデルにおいて、予め与えられるプラトー面あらさと、クロスハッチ溝によって形成される微細形状とを合成したあらさを用いる。粘性摩擦の計算については、制御部11は、潤滑計算によって算出される膜厚分布、図5に示す圧力流量係数φxの近似式、図8に示すせん断流量係数φsの近似式に基づいて、次式によって、粘性せん断応力τ(摩擦力)を算出する。
【0051】
【数4】

尚、hは流体膜厚さ、pは圧力、Uは速度である。
【0052】
図11は、膜厚分布と摩擦力の計算結果の一例を示す図である。図11では、中速中負荷での計算結果を示している。
図11(a)の横軸は「CA」(Crank Angle:クランク角)であり、縦軸は「リング列摩擦力」である。図11(b)の横軸は「CA」(Crank Angle:クランク角)であり、縦軸は「Topリング油膜厚さ」である。
(1)CA=−360°〜−180°が吸気行程、(2)CA=−180°〜0°が圧縮行程、(3)CA=0°〜180°が燃焼(膨張)行程、(4)CA=180°〜360°が排気行程である。
図11(a)における3つの曲線のうち、実線が「ハッチ形状A」、点線が「ハッチ形状B」、一点鎖線が「ハッチ形状C」を示している。リング列摩擦力は、「ハッチ形状A」が最も大きく、続いて「ハッチ形状B」、「ハッチ形状C」という結果となった。
また、図11(b)においても、実線が「ハッチ形状A」、点線が「ハッチ形状B」、一点鎖線が「ハッチ形状C」を示している。Topリング油膜厚さは、「ハッチ形状A」が最も薄く、「ハッチ形状B」及び「ハッチ形状C」はほとんど変わらず、「ハッチ形状A」よりも厚いという結果となった。
【0053】
図12は、ハッチ角度による摩擦平均有効圧の比較結果の一例を示す図である。図12では、中速中負荷での計算結果を示している。
図12の縦軸は「FMEP」(Friction Mean Effective Pressure:摩擦平均有効圧)である。
図12では、「ハッチ形状A」、「ハッチ形状B」、「ハッチ形状C」について、それぞれ「Top」(トップリング)、「2nd」(セカンドリング)、「Upper」(オイルリングの上部)、及び「Lower」(オイルリングの下部)のFMEPの合算値を棒グラフとして表現している。
図12に示す計算結果からは、摩擦を減らす為には、シリンダ内面の微細形状を「ハッチ形状C」とすることが望ましいと推察される。
【0054】
以上の通り、本発明のシミュレーション装置1によって、ハッチ形状の具体的な形状パラメータ(ハッチ角度、溝深さ、プラトー率、及びプラトー面あらさ)に基づいて、油膜厚さ及び摩擦力への影響を理論的に推定することが可能となる。本発明は、例えば、摩擦及びオイル消費の最小化に最も有利なシリンダ内面に形成されるハッチ形状の形状パラメータの指針提示に極めて有用である。
【0055】
<変形例>
以上では、シリンダ内面に形成される微細形状として、特に、ハッチ形状(両ハッチ及び片ハッチを含む。)を例にして説明したが、本発明は、この例に限定されない。
ハッチ形状の例のように、シリンダ内面に形成される微細形状について、いくつかの形状パラメータを変数とする形状関数を定義することができれば、本発明を適用することができる。
例えば、微細形状として、ディンプル形状(小さな無数のくぼみ領域を有する形状。ゴルフボールなどに形成されることが多い。)などについても、本発明を適用することができる。くぼみ領域が縦横に規則正しく配置されるディンプル形状の場合、くぼみ領域の半径をr、隣接するくぼみ領域の最深部同士の距離をdとすると、例えば、プラトー率=プラトー領域の面積/全体の面積=(全体の面積−くぼみ領域の面積)/全体の面積=(d^2−π×r^2)/d^2のように定義することができる。但し、「x^y」は、xのy乗を表す。そして、その他の形状パラメータとして、くぼみ領域の最深部の深さ(ハッチ形状の溝深さに対応)やプラトー面あらさなどを定義し、これらの形状パラメータを変数とする形状関数を定義することができる。
その他、レーザ加工などによって形成される様々な加工溝の形状についても、本発明を適用することができる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係るシミュレーション装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0057】
1………シミュレーション装置
11………制御部
12………記憶部
13………メディア入出力部
14………通信制御部
15………入力部
16………表示部
17………周辺機器I/F部
18………バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑基礎方程式を用いて潤滑計算を行うシミュレーション装置であって、
エンジンのシリンダ内面に形成される微細形状を表す形状パラメータとして、少なくとも前記微細形状のプラトー率を入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力される前記形状パラメータに基づいて、前記潤滑基礎方程式に前記微細形状が油膜形成に及ぼす影響を導入するための係数である修正係数を算出する修正係数算出手段と、
を具備することを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
前記修正係数算出手段によって算出される前記修正係数を導入した前記潤滑基礎方程式を、前記エンジンのピストンリング列と、前記微細形状を有する前記シリンダ内面との間の潤滑膜に適用し、潤滑計算を行う潤滑計算手段、
を更に具備することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記修正係数算出手段は、
前記シリンダ内面を前記微細形状と仮定し、前記入力手段によって入力される前記形状パラメータに基づいて、前記ピストンリング列と前記シリンダ内面との間の油膜の流れの数値計算を行い、圧力流れ成分の流量、及び、せん断流れ成分の流量を算出する第1数値計算手段と、
前記シリンダ内面を前記平滑面と仮定し、前記ピストンリング列と前記シリンダ内面との間の油膜の流れの数値計算を行い、圧力流れ成分の流量、及び、せん断流れ成分の流量を算出する第2数値計算手段と、
前記第1数値計算手段によって算出される圧力流れ成分の流量と、前記第2数値計算手段によって算出される圧力流れ成分の流量との比を圧力流量係数として算出し、前記第1数値計算手段によって算出されるせん断流れ成分の流量と、前記第2数値計算手段によって算出されるせん断流れ成分の流量との比をせん断流量係数として算出する係数算出手段と、
を含み、
前記潤滑計算手段は、前記係数算出手段によって算出される前記圧力流量係数及び前記せん断流量係数を前記修正係数として導入した前記潤滑基礎方程式を用いて潤滑計算を行い、前記ピストンリング列と前記シリンダ内面との間の膜厚分布を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記第1数値計算手段は、更に、前記シリンダ内面を前記微細形状と仮定して、圧力流れ成分のせん断応力、及び、せん断流れ成分のせん断応力を算出し、
前記第2数値計算手段は、更に、前記シリンダ内面を前記平滑面と仮定して、圧力流れ成分のせん断応力、及び、せん断流れ成分のせん断応力を算出し、
前記係数算出手段は、前記第1数値計算手段によって算出される前記圧力流れ成分のせん断応力と、前記第2数値計算手段によって算出される前記圧力流れ成分のせん断応力との比を圧力流せん断応力係数、前記第1数値計算手段によって算出される前記せん断流れ成分のせん断応力と、前記第2数値計算手段によって算出される前記せん断流れ成分のせん断応力との比をせん断流せん断応力係数として算出し、
前記圧力流せん断応力係数、前記せん断流せん断応力係数、及び前記膜厚分布に基づいて、前記ピストンリング列と前記シリンダ内面との間の摩擦力を算出する摩擦力算出手段、
を更に具備することを特徴とする請求項3に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記微細形状は、ハッチ形状であり、
前記入力手段は、更に、前記形状パラメータとして、前記微細形状のハッチ角度、及び溝深さを入力し、
前記修正係数算出手段は、前記入力手段によって入力される前記プラトー率、前記ハッチ角度、及び前記溝深さに基づいて、前記修正係数を算出する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
コンピュータが潤滑基礎方程式を用いて潤滑計算を行うシミュレーション方法であって、
エンジンのシリンダ内面に形成される微細形状について、プラトー率を含む前記微細形状を表す形状パラメータとして、少なくとも前記微細形状のプラトー率を入力する入力ステップと、
前記入力ステップによって入力される前記形状パラメータに基づいて、前記潤滑基礎方程式に前記微細形状が油膜形成に及ぼす影響を導入するための係数である修正係数を算出する修正係数算出ステップと、
を含むことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項7】
コンピュータを、
エンジンのシリンダ内面に形成される微細形状を表す形状パラメータとして、少なくとも前記微細形状のプラトー率を入力する入力手段と、
前記入力ステップによって入力される前記形状パラメータに基づいて、潤滑計算に用いられる潤滑基礎方程式に前記微細形状が油膜形成に及ぼす影響を導入するための係数である修正係数を算出する修正係数算出手段と、
して機能させるためのシミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−225721(P2012−225721A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92603(P2011−92603)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】