説明

シミュレーション装置、方法、および、プログラム

【課題】簡略モデルと詳細モデルの入力が異なる場合でも、簡略モデルから詳細モデルへの切り替えを信頼性を維持しつつ行うことが可能なシミュレーション装置を提供することである。
【解決手段】本発明のシミュレーション装置10では、第1シミュレーション(簡略モデル)13から第2シミュレーション(詳細モデル)17への切替時刻において、第1シミュレーション13から取得した位置と、その位置に対応する回転角を基に、第2シミュレーション17の情報位置情報算出部22による位置の算出が実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション装置、方法、および、プログラムに関し、特に、飛行物体の移動を扱うシミュレーションを実行するシミュレーション装置、方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
シミュレーションの実行時間を短縮するため、シミュレーションの実行途中に、シミュレーション用のモデルを、例えば、粗いモデルから詳細なモデルに切り替えることが行われている。例えば、対戦シミュレーションの場合、シミュレーション対象の航空機の移動を、出発地から対戦地までは粗いモデルで記述し、対戦地では詳細なモデルで記述することがある。
【0003】
対戦シミュレーションとは異なるが、特許文献1には、ハードウェアの検証モデルにおいて、シミュレーションの途中で、簡略モデルから詳細モデルに切り替える技術が示されている。この技術では、モデルの切替時刻に先立って、詳細モデルを起動している。なお、特許文献1の技術は、簡略モデルと詳細モデルでは、時刻精度が異なるのみで、入力されるデータは同じである。
【特許文献1】特開平10−261002号公報 「設計支援方法および設計支援装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、航空機のフライト・シミュレーションにおいて、簡略モデルでは航空機の重心の各時刻での位置を算出し、詳細モデルではその各時刻での位置と、その各時刻での位置における重心の回りの航空機の回転角を算出する場合を考える。
【0005】
このような場合、詳細モデルでの航空機の重心の各時刻での位置座標の算出は、通常、算出された位置座標の他に、ローリング角、ピッチング角、ヨーイング角も用いられる。このため、簡略モデルの位置算出処理と詳細モデルの位置算出処理では、入力データが異なることになり、特許文献1の技術を適用して、簡略モデルから詳細モデルへ信頼性を保ちつつ切り替えることはできない。
【0006】
本発明の課題は、簡略モデルと詳細モデルの入力が異なる場合でも、簡略モデルから詳細モデルへの切り替えを信頼性を維持しつつ行うことが可能なシミュレーション装置、方法、および、プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシミュレーション装置は、物体の移動を扱うシミュレーションを実行するシミュレーション装置において、前記物体を代表する点の各時刻での位置を算出するシミュレーションである第1シミュレーションと、前記物体を代表する点の各時刻での位置と、その各時刻での位置における代表する点の回りの前記物体の回転角を算出するシミュレーションである第2シミュレーションと、前記第1シミュレーション、および、前記第2シミュレーションの起動・終了を制御するシミュレーション実行制御部を備え、前記第2シミュレーションは、前記第1シミュレーションが補間して算出した位置を取得する補間データ取得部と、前記物体の位置と、その位置での前記物体の回転角を用いて、前記物体の次の時刻での位置を算出する位置情報算出部を備え、前記第2シミュレーションは、前記補間データ取得部を介して前記物体の位置を取得するとともに、十分な数の位置の組が揃った場合、前記代表する点の回りの前記物体の回転角を算出し、前記シミュレーション実行制御部は、指定された前記第1シミュレーションから前記第2シミュレーションへの切替時刻には、前記取得した位置とその位置に対応する回転角を基に、前記情報位置情報算出部による位置の算出が実行されるように、前記第2シミュレーションを、その切替時刻より前倒しして起動することを特徴とするシミュレーション装置である。
【0008】
ここで、第1シミュレーション(簡略モデル)から第2シミュレーション(詳細モデル)への切替時刻において、第1シミュレーションから取得した位置を第2シミュレーションでも用いているため、切替時点での位置情報の連続性が確保できるとともに、その切替時刻において、その取得した位置と、その位置に対応する回転角を基に、第2シミュレーションの情報位置情報算出部による位置の算出が実行されるように、シミュレーション実行制御部によって制御されている。このため、各時刻の位置を補間して算出する第1シミュレーションから、次時刻の位置の算出に、算出済みの位置の他にその位置に対応する回転角を用いる第2シミュレーションに、実行するシミュレーションを切り替える場合でも、その切り替えを信頼性を維持しつつ行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、各時刻の位置を補間して算出する第1シミュレーション(簡略モデル)から、次時刻の位置の算出に、算出済みの位置の他にその位置に対応する回転角を用いる第2シミュレーション(詳細モデル)に、実行するシミュレーションを切り替える場合でも、その切り替えを信頼性を維持しつつ行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態のシミュレーション装置の構成を示す図である。
図1に示すシミュレーション装置10は、航空機の移動についてのシミュレーションを実行する装置である。
【0011】
このシミュレーション装置10は、航空機を代表する点(例えば、その航空機の重心)の各時刻での位置を算出するシミュレーションである第1シミュレーション(粗いモデル)13と、航空機を代表する点の各時刻での位置と、その各時刻での位置における代表する点の回りの航空機の回転角を算出するシミュレーションである第2シミュレーション(詳細なモデル)17と、第1シミュレーション13、および、第2シミュレーション17の起動・終了を制御するシミュレーション実行制御部11を備える。
【0012】
第2シミュレーション17は、第1シミュレーション13が補間して算出した位置を取得する補間データ取得部21と、航空機の位置と、その位置での航空機の回転角を用いて、その航空機の次の時刻での位置を算出する位置情報算出部22を備える。
【0013】
第1シミュレーション13からの切替先として第2シミュレーション17が起動される場合の過渡的な動作モードでは、補間データ取得部21は、第1シミュレーション13で補間して算出された位置を第1シミュレーション13の出力データファイル15から取得し、第2シミュレーション17の出力データファイル19に出力する。このようにして、十分な数の位置の組が揃った場合、それらの位置を用いて、第2シミュレーション17は、代表する点の回りの航空機の回転角を算出する。切替時刻に達した場合、第2シミュレーション17の動作モードが過渡的なモードから通常モードに変更される。通常モードでは、位置情報算出部22により各時刻での航空機の位置が算出される。
【0014】
シミュレーション実行制御部11は、指定された第1シミュレーション13から第2シミュレーション17への切替時刻には、取得した位置とその位置に対応する回転角を基に、位置情報算出部22による算出が実行されるように、第2シミュレーション17を、その切替時刻より前倒しして起動する。
【0015】
第1シミュレーション13に用いられる入力データファイル14中に指定される情報と、第2シミュレーション17に用いられる入力データファイル18中に指定される情報は、完全には一致しないが、航空機(機体)の種類(型)、機体の揚力係数、機体の重量、航空機の飛行経路(航空機が通過する複数の位置とそれら位置を通過する時刻)については、双方の入力データファイル中に指定されている。いずれのシミュレーションにおいても、各時刻での算出結果は、出力データファイル15または19に出力される。
【0016】
図2は、シミュレーションの実行制御の一例を説明する図である。
図2では、粗いモデル(第1シミュレーション)が詳細なモデル(第2シミュレーション)に先立って起動され、切替時刻に、粗いモデルから詳細なモデルに切り替える場合が示されている。モデルの切替時刻情報は、モデル切替時刻情報データベース23に格納される。また、詳細なモデルを切替時刻からどれだけ前倒しして起動しなければならないかを示す時間、すなわち、第1シミュレーションで算出された補間データ(位置座標)をその第1シミュレーションから取得しなければならない時間(補間データ取得時間)は、補間データ取得時間情報データベース24に格納される。すなわち、詳細なモデルは、切替時刻より補間データ取得時間だけ前倒しして起動される。
【0017】
図1のシミュレーション実行制御部11は、シナリオ・データ12に基づいて、第1シミュレーション13、および、第2シミュレーション17の起動・終了を制御している。図3は、図2に対応するシナリオ・データの一例を示す図である。
【0018】
図3において、1行目はモデルの切替時刻をファイルFILE1.DATから読み込んで変数tcに設定する処理、2行目は補間データ取得時間をファイルFILE2.DATから読み込んで変数tdに設定する処理、3行目はタイマーの初期化、4行目はモデル1(粗いモデル)の起動指示、6行目はモデル2(詳細なモデル)の起動時刻(tc−td)に達したかどうかの判定指示、7行目はモデル2の過渡的なモード(TRANSITIONAL_MODE)での起動指示、9行目はモデルの切替時刻tcに達したかどうかの判定処理、10行目はモデル1の終了指示、をそれぞれ示している。
【0019】
図4は、シミュレーションの実行制御の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、図1のシミュレーション実行制御部11がシナリオ・データ12として、図3のデータを読み込んで実行した場合の処理に相当する。
【0020】
図4において、まず、ステップS101で、モデル切替時刻が図2のモデル切替時刻情報データベース23から読み出され、ステップS102で、補間データ取得時間が図2の補間データ取得時間データベース24から読み出される。
【0021】
そして、ステップS103で、モデル切替時刻から補間データ取得時間を減算することで、詳細なモデルの起動時刻が算出される。ステップS104では、タイマーによって、起動時刻に達したかどうかが判定される。起動時刻に達したと判定された場合、ステップS105で、詳細なモデルが起動される。
【0022】
また、ステップS106では、タイマーによって、モデル切替時刻に達したかどうかが判定される。モデル切替時刻に達したと判定された場合、ステップS107で、粗いモデルを終了する。
【0023】
図5は、粗いモデルから詳細なモデルに切り替える場合に、詳細なモデルで入力として与えるデータ(粗いモデルが持たないデータ)を生成する様子を説明する図である。
図5に示すように、切替時刻tcの3ステップ前の時刻(tc−2)から粗いモデルで補間して算出した位置を詳細なモデルで取得している。すなわち、時刻(tc−2)で、粗いモデルが算出した位置座標(Xtc−2,Ytc−2,Ztc−2)、時刻(tc−1)で、粗いモデルが算出した位置座標(Xtc−1,Ytc−1,Ztc−1)、時刻tcで、粗いモデルが算出した位置座標(Xtc,Ytc,Ztc)、をそれぞれ詳細なモデルで取得している。
【0024】
そして、これらの位置座標の3つの履歴を基に、図8〜図10に示す方法によりピッチ、ロール、ヨーを切替時刻tcで算出している。
これにより、少なくとも切替時刻tcで実行される次位置(時刻tc+1の位置)の算出は、粗いモデルで算出された位置座標(Xtc,Ytc,Ztc)と、その粗いモデルで算出された3履歴分(時刻tc−2、tc−2、tc)の位置座標から算出されたピッチ(PITCHtc)、ロール(ROLLtc)、ヨー(YAWtc)の値を用いて行われることになり、粗いモデルから詳細なモデルへの切替を信頼性(位置座標の連続性)を保ちつつ行うことが可能になる。
【0025】
図6Aは、図1の第1シミュレーション13のより詳細な構成を示すブロック図である。
図6Aに示すように、第1シミュレーション13は、位置座標算出部(補間データ算出部)28を備える。位置座標算出部28は、第1シミュレーション13の入力データファイル14中に指定される、航空機の飛行経路情報(航空機が通過する各位置と、それらの位置を通過する時刻)を用いて、各時刻での航空機の位置を、その飛行経路情報中の位置を補間して算出している。
【0026】
図6Bは、図1の第2シミュレーション17のより詳細な構成を示すブロック図である。
図6Bに示すように、第2シミュレーション17は、上述の補間データ取得部21、位置座標算出部22に加えて、さらに、ローリング角算出部31、ピッチング角算出部32、ヨーイング角算出部33を備える。算出部31〜33は、算出された3履歴分の位置座標を基に、ピッチング角、ローリング角、ヨーイング角をそれぞれ算出する。
【0027】
第2シミュレーション17は、動作モードとして、過渡的なモードと、通常モードの2つを持つ。過渡的なモードは、第2シミュレーション17が、先に起動されている第1シミュレーション13からの切替先として起動される場合に指定されるモードである。例えば、第2シミュレーション17の起動時に動作モードを過渡的なモードに設定することを引数として指定することで、第2シミュレーション17を過渡的なモードで起動することができる。
【0028】
また、通常モードは、シミュレーションの当初から第2シミュレーションを起動する場合に指定されるモードである。第2シミュレーション17内で動作モードのデフォルト値は、この通常モードに設定されている。
【0029】
第2シミュレーション17の過渡的な動作モードでは、補間データ取得部21によって補間して算出された位置座標が第1シミュレーション13から取得される。十分な数の位置座標の組(例えば、3履歴分の位置座標の組)が揃った場合、ローリング角算出部31、ピッチング角算出部32、ヨーイング角算出部33による、ローリング角、ピッチング角、ヨーイング角の算出が行われる。
【0030】
切替時刻に達すると、動作モード変更部36によって、第2シミュレーション17の動作モードが過渡的なモードから通常モードに変更される。
第2シミュレーション17の通常の動作モードでは、位置座標算出部22によって、算出された位置座標と、算出されたローリング角、ピッチング角、ヨーイング角を基に、次ステップの航空機の位置座標が算出される。
【0031】
図7は、過渡的な動作モードで起動された場合の第2シミュレーション17のモデル切替までの動作を示すフローチャートである。
図7において、まず、ステップS201で、図6Bの補間データ取得部21によって、粗いモデル(第1シミュレーション)で補間により算出された位置座標が取得される。そして、ステップS202で、十分な数の位置座標の組(例えば、3組の位置座標)が取得(収集)されたかが判定される。ステップS202で十分な数の位置座標の組が取得されていないと判定された場合、ステップS204に進む。
【0032】
一方、ステップS202で十分な数の位置座標の組が取得されたと判定された場合、ステップS203で、図6Bのローリング角算出部31、ピッチング角算出部32、ヨーイング角算出部33によって、算出された3組分の位置座標を基に、ピッチング角、ローリング角、ヨーイング角がそれぞれ算出される。そして、ステップS204に進む。
【0033】
ステップS204では、タイマーによって、モデルの切替時刻に達したかどうかが判定される。切替時刻に達していないと判定された場合、ステップS201に戻る。一方、切替時刻に達したと判定された場合、ステップS205で、図6Bの動作モード変更部36によって、第2シミュレーション17の動作モードが過渡的なモードから通常モードに変更され、一連の処理を終了する。
【0034】
図8〜図10を参照して、ローリング角、ピッチング角、ヨーイング角の算出方法を例をあげて説明する。地面に固定された地面軸が、これらの角度の算出で用いられる座標系である。
【0035】
図8は、ローリング角の算出方法を説明する図である。このローリング角の算出処理は、図6Bのローリング角算出部31によって実行される。
図8において、まず、(1)で、算出済みの位置の3点を取得し、その3点を通る円を求めることで、その円の半径(旋回半径)と、旋回率(単位時間当たりの角度変化)を算出する。そして、(2)で、算出された旋回半径と旋回率を基に、機体の速度と向心力を以下の式により算出する。
速度=旋回半径×旋回率
向心力=旋回率×機体質量×速度
そして、(3)で、揚力とローリング角(バンク角)を以下の式により算出する。
揚力=速度×揚力係数
ローリング角=sin−1(向心力/揚力)
なお、揚力係数は、第2シミュレーション17の入力データファイル18中に指定される。
【0036】
図9は、ピッチング角の算出方法を説明する図である。このローリング角の算出処理は、図6Bのローリング角算出部32によって実行される。
図9において、まず、(1)で、算出済みの位置の3点を取得し、その3点を通る円を求めることで、その円の中心座標(Xc,Yc,Zc)を算出する。そして、(2)で、機体の現在位置(Xt,Yt,Zt)と、算出された中心座標(Xc,Yc,Zc)を用いて、次式により、ピッチング角を算出する。
ピッチング角=tan−1((Xt−Xc)/(Zt−Zc))
図10は、ヨーイング角の算出方法を説明する図である。このヨーイング角の算出処理は、図6Bのヨーイング角算出部33によって実行される。
【0037】
図10において、まず、(1)で、算出済みの位置の3点を取得し、その3点を通る円を求めることで、その円の中心座標(Xc,Yc,Zc)を算出する。そして、(2)で、機体の現在位置(Xt,Yt,Zt)と、算出された中心座標(Xc,Yc,Zc)を用いて、次式により、ヨーイング角を算出する。
ヨーイング角=tan−1((Xt−Xc)/(Yt−Yc))
図11は、詳細なモデルで用いられる座標系を説明する図であり、(a)は機体に固定される機体軸を、(b)は地面に固定される地面軸を、(c)は地面軸に対する機体軸の向きを示す図である。
【0038】
図11(a)に示すように、機体軸とは、機体の前後方向をX軸(Xa軸)方向、機体の左右方向をY軸(Ya軸)方向、機体の上下方向をZ軸(Za軸)方向とし、それらの軸が機体の重心で交わるように定義された右手系である。機体の前方をX軸(Xa軸)正方向とし、右翼方向をY軸(Ya軸)正方向とする。機体の重心の速度ベクトルをV、重心の回りの角速度ベクトルをωとする。u,v,wを速度ベクトルVの機体軸方向の各成分(Xa成分、Ya成分、Za成分)とする。また、p,q,rを角速度ベクトルωの機体軸方向の各成分(Xa成分、Ya成分、Za成分)とする。p,q,rをローリング(横揺れ)角速度、ピッチング(縦揺れ)角速度、ヨーイング(偏揺れ)角速度とそれぞれ呼ぶ。
【0039】
なお、位置座標の算出では、この他に、図11(b)に示すような地面に固定された地面軸も用いられる。地面軸はZ軸(Ze軸)の正方向が鉛直下方に一致する右手系である。
【0040】
また、オイラー角とは、剛体(この場合、航空機)がどの方向を向いているのかを示すのに用いる3つの角度(φ、θ、ψ)である。すなわち、図11(c)に示すように、オイラー角を指定することで、地面に固定された座標系(地面軸)に対して、航空機に固定された座標系(機体軸)の向きを示すことができる。
【0041】
図11において、定義した変数、座標系を用いて、第2シミュレーション(詳細なモデル)17の位置座標算出部22が行う位置座標の算出処理について以下に説明する。なお、算出処理に用いる微分方程式は、航空工学の分野等で周知のものであり、例えば、下記非特許文献1に示されている。
【非特許文献1】航空宇宙工学便覧 第2版、日本航空宇宙学会編、丸善、1992年、pp396−398 まず、ローリング角速度p、ピッチング角速度q、ヨーイング角速度rと、オイラー角(φ、θ、ψ、dφ/dt、dθ/dt、dψ/dt)は以下のような関係がある。p=(dφ/dt)−(dψ/dt)・sinθq=(dθ/dt)・cosθ+(dψ/dt)・sinφ・cosθr=−(dθ/dt)・sinφ+(dψ/dt)・cosφ・cosθ 図8〜図10で算出したローリング角、ピッチング角、ヨーイング角の値を前タイムステップと現タイムステップとの差分で割ることで、上式のローリング角速度p、ピッチング角速度q、ヨーイング角速度rが求まる。これにより、上式を解くことで、オイラー角φ、θ、ψが時間の関数として求まる。
【0042】
剛体(航空機)の運動方程式は、以下の通りである。
m(du/dt+qw−rv)=X
m(dv/dt+ru+pw)=Y
m(dw/dt+pv−qu)=Z
・(dp/dt)+Jxz・(dr/dt)−(I−I)qr+Jxz・pq=L
・(dq/dt)−(I−I)rp−Jxz(p−r)=M
・(dr/dt)+Jxz・(dp/dt)−(I−I)pq−Jxz・qr=N
ここで、X,Y,Zは、航空機に作用する外力の機体軸方向の各成分(Xa成分、Ya成分、Za成分)である。また、L,M,Nは、航空機に作用する外力がその航空機の重心の回りにつくるモーメントの機体軸方向の各成分(Xa成分、Ya成分、Za成分)である。また、mは航空機の質量、I,I,Iは慣性モーメント、Jxzは慣性乗積である。
【0043】
これらの(運動方程式を含む)9つの方程式を解くことで、u,v,w,φ,θ,ψ,等の諸量が時間tの関数として求まる。この算出結果と、既に算出済みの時刻tでの機体の位置座標(Xe(t),Ye(t),Ze(t))を用いて、次の時刻(t+1)での機体の位置座標(Xe(t+1),Ye(t+1),Ze(t+1))が以下の式により算出される。
【0044】
【数1】

ここで、a11、a12、・・・、a33は、下記のように定義される、地面軸と機体軸の方向余弦である。
【0045】
【表1】

方向余弦は、オイラー角(φ、θ、ψ)を用いて次のように表される。
【0046】
【数2】

これにより、次の時刻(t+1)での機体の位置座標を算出する式の右辺の積分記号内の項、例えば、(u・a11+v・a21+w・a31)が時間の関数として求められ、積分が実行されることで、次の時刻(t+1)での機体の位置座標(Xe(t+1),Ye(t+1),Ze(t+1))が算出される。
【0047】
図12は、第1シミュレーションで算出された機体の位置と第2シミュレーションで算出された機体の位置を比較して示した図である。
図12において、○印は、航空機のある時刻での位置を示している。そして、×印は、第1シミュレーション13および第2シミュレーション17の入力データファイル中に指定された航空機の位置を示す位置情報である。T1,T2,T3はそれぞれの×印の位置を航空機が通過する時刻を示している。この時刻情報と位置情報とを合わせて飛行経路情報として入力データファイル中に指定されている。
【0048】
第1シミュレーション13では、飛行経路情報に指定される各位置を結ぶ直線(図中、実線矢印にて表記)を航空機が飛行すると仮定しているので、各区間(時刻T1,T2の間、時刻T2,T3の間、等)での航空機の平均速度がその区間の端点間の距離より分かる。そして、その平均速度を用いて、補間をすることで、各時刻の航空機の位置(図中、●印にて表記)を算出している。
【0049】
一方、第2シミュレーション17では、航空機を剛体として扱っているので、航空機の重心の回りの回転(バンク角等)が航空機の位置の算出にあたって考慮される。このため、第2シミュレーション17による航空機の各時刻の位置(図中、▲印にて表記)は、直線的な経路よりやや迂回した(図中、破線矢印にて表記)、実在の航空機により近い経路となっている。
【0050】
また、第2シミュレーション17では、入力データファイル中に指定される飛行経路情報との整合性を保つため、飛行経路情報中に指定された位置の1つ前の位置(例えば、時刻T2の直前の▲印の位置)では、その飛行経路情報中に指定された位置(例えば、時刻T2の×印の位置)を算出結果としている。
【0051】
図13は、記憶媒体例を示す図である。
本発明のシミュレーション処理は、情報処理装置61によって実現することが可能である。本発明の処理のためのプログラムやデータは、情報処理装置61の記憶装置65から情報処理装置61のメモリにロードして実行することも、可搬型記憶媒体63から情報処理装置61のメモリにロードして実行することも、また、外部記憶装置62からネットワーク66を介して情報処理装置61のメモリにロードして実行することも可能である。
【0052】
なお、上記実施例は航空機を利用して説明を行ったが、本発明の適用はこれに限るものではなく、船や潜水艦などの航行物体のシミュレーションにも適用できる。
【0053】
本発明は下記構成でもよい。
(付記1) 物体の移動を扱うシミュレーションを実行するシミュレーション装置において、
前記物体を代表する点の各時刻での位置を算出するシミュレーションである第1シミュレーションと、
前記物体を代表する点の各時刻での位置と、その各時刻での位置における代表する点の回りの前記物体の回転角を算出するシミュレーションである第2シミュレーションと、
前記第1シミュレーション、および、前記第2シミュレーションの起動・終了を制御するシミュレーション実行制御部を備え、
前記第2シミュレーションは、前記第1シミュレーションが補間して算出した位置を取得する補間データ取得部と、前記物体の位置と、その位置での前記物体の回転角を用いて、前記物体の次の時刻での位置を算出する位置情報算出部を備え、
前記第2シミュレーションは、前記補間データ取得部を介して前記物体の位置を取得するとともに、十分な数の位置の組が揃った場合、前記代表する点の回りの前記物体の回転角を算出し、
前記シミュレーション実行制御部は、指定された前記第1シミュレーションから前記第2シミュレーションへの切替時刻には、前記取得した位置とその位置に対応する回転角を基に、前記位置情報算出部による位置の算出が実行されるように、前記第2シミュレーションを、その切替時刻より前倒しして起動することを特徴とするシミュレーション装置。
(付記2) 前記物体は航空機であり、
前記物体の回転角とは、その航空機のそれぞれの機体軸の回りの回転角であるローリング角、ピッチング角、ヨーイング角であることを特徴とする付記1記載のシミュレーション装置。
(付記3) 前記第1シミュレーション、前記第2シミュレーションの起動指示を含むシミュレーションの実行シナリオであるシナリオ・データを基に、前記シミュレーション実行制御部は、シミュレーションの実行を制御することを特徴とする付記1記載のシミュレーション装置。
(付記4) 物体の移動を扱うシミュレーションをコンピュータが実行するシミュレーション方法において、
前記物体を代表する点の各時刻での位置を算出するシミュレーションである第1シミュレーションを実行する第1シミュレーション実行ステップと、
前記物体を代表する点の各時刻での位置と、その各時刻での位置における代表する点の回りの前記物体の回転角を算出するシミュレーションである第2シミュレーションを実行する第2シミュレーション実行ステップを備え、
前記第2シミュレーション実行ステップは、前記第1シミュレーションが補間して算出した位置を取得する補間データ取得ステップと、前記物体の位置と、その位置での前記物体の回転角を用いて、前記物体の次の時刻での位置を算出する位置情報算出ステップを備え、
前記第2シミュレーション実行ステップにおいて、前記補間データ取得ステップを介して前記物体の位置が取得されるとともに、十分な数の位置の組が揃った場合、前記代表する点の回りの前記物体の回転角が算出され、
指定された前記第1シミュレーションから前記第2シミュレーションへの切替時刻には、前記取得した位置とその位置に対応する回転角を基に、前記位置情報算出部による位置の算出が実行されるように、前記第2シミュレーションを、その切替時刻より前倒しして起動する第2シミュレーション起動ステップをさらに備えることを特徴とするシミュレーション方法。
(付記5) 物体の移動を扱うシミュレーションをコンピュータに実行させるシミュレーション・プログラムにおいて、
前記物体を代表する点の各時刻での位置を算出するシミュレーションである第1シミュレーションを実行する第1シミュレーション実行ステップと、
前記物体を代表する点の各時刻での位置と、その各時刻での位置における代表する点の回りの前記物体の回転角を算出するシミュレーションである第2シミュレーションを実行する第2シミュレーション実行ステップを前記コンピュータに実行させ、
前記第2シミュレーション実行ステップは、前記第1シミュレーションが補間して算出した位置を取得する補間データ取得ステップと、前記物体の位置と、その位置での前記物体の回転角を用いて、前記物体の次の時刻での位置を算出する位置情報算出ステップを備え、
前記第2シミュレーション実行ステップにおいて、前記補間データ取得ステップを介して前記物体の位置が取得されるとともに、十分な数の位置の組が揃った場合、前記代表する点の回りの前記物体の回転角が算出され、
指定された前記第1シミュレーションから前記第2シミュレーションへの切替時刻には、前記取得した位置とその位置に対応する回転角を基に、前記位置情報算出部による位置の算出が実行されるように、前記第2シミュレーションを、その切替時刻より前倒しして起動する第2シミュレーション起動ステップをさらに前記コンピュータに実行させることを特徴とするシミュレーション・プログラム。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態のシミュレーション装置の構成を示す図である。
【図2】シミュレーションの実行制御の一例を説明する図である。
【図3】図2に対応するシナリオ・データの一例を示す図である。
【図4】シミュレーションの実行制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】粗いモデルから詳細なモデルに切り替える場合に、詳細なモデルで入力として与えるデータ(粗いモデルが持たないデータ)を生成する様子を説明する図である。
【図6A】図1の第1シミュレーションのより詳細な構成を示すブロック図である。
【図6B】図1の第2シミュレーションのより詳細な構成を示すブロック図である。
【図7】過渡的な動作モードで起動された場合の第2シミュレーションのモデル切替までの動作を示すフローチャートである。
【図8】ローリング角の算出方法を説明する図である。
【図9】ピッチング角の算出方法を説明する図である。
【図10】ヨーイング角の算出方法を説明する図である。
【図11】詳細なモデルで用いられる座標系を説明する図であり、(a)は機体に固定される機体軸を、(b)は地面に固定される地面軸を、(c)は地面軸に対する機体軸の向きを示す図である。
【図12】第1シミュレーションで算出された機体の位置と第2シミュレーションで算出された機体の位置を比較して示した図である。
【図13】記憶媒体例を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
10 シミュレーション装置
11 シミュレーション実行制御部
12 シナリオ・データ
13 第1シミュレーション(粗いモデル)
14、18 入力データファイル
15、19 出力データファイル
17 第2シミュレーション(詳細なモデル)
21 補間データ取得部
22、28 位置情報算出部
23 モデル切替時刻情報データベース
24 補間データ取得時間情報データベース
31 ローリング角算出部
32 ピッチング角算出部
33 ヨーイング角算出部
36 動作モード変更部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の移動を扱うシミュレーションを実行するシミュレーション装置において、
前記物体を代表する点の各時刻での位置を算出するシミュレーションである第1シミュレーションと、
前記物体を代表する点の各時刻での位置と、その各時刻での位置における代表する点の回りの前記物体の回転角を算出するシミュレーションである第2シミュレーションと、
前記第1シミュレーション、および、前記第2シミュレーションの起動・終了を制御するシミュレーション実行制御部を備え、
前記第2シミュレーションは、前記第1シミュレーションが補間して算出した位置を取得する補間データ取得部と、前記物体の位置と、その位置での前記物体の回転角を用いて、前記物体の次の時刻での位置を算出する位置情報算出部を備え、
前記第2シミュレーションは、前記補間データ取得部を介して前記物体の位置を取得するとともに、十分な数の位置の組が揃った場合、前記代表する点の回りの前記物体の回転角を算出し、
前記シミュレーション実行制御部は、指定された前記第1シミュレーションから前記第2シミュレーションへの切替時刻には、前記取得した位置とその位置に対応する回転角を基に、前記情報位置情報算出部による位置の算出が実行されるように、前記第2シミュレーションを、その切替時刻より前倒しして起動することを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
物体の移動を扱うシミュレーションをコンピュータが実行するシミュレーション方法において、
前記物体を代表する点の各時刻での位置を算出するシミュレーションである第1シミュレーションを実行する第1シミュレーション実行ステップと、
前記物体を代表する点の各時刻での位置と、その各時刻での位置における代表する点の回りの前記物体の回転角を算出するシミュレーションである第2シミュレーションを実行する第2シミュレーション実行ステップを備え、
前記第2シミュレーション実行ステップは、前記第1シミュレーションが補間して算出した位置を取得する補間データ取得ステップと、前記物体の位置と、その位置での前記物体の回転角を用いて、前記物体の次の時刻での位置を算出する位置情報算出ステップを備え、
前記第2シミュレーション実行ステップにおいて、前記補間データ取得ステップを介して前記物体の位置が取得されるとともに、十分な数の位置の組が揃った場合、前記代表する点の回りの前記物体の回転角が算出され、
指定された前記第1シミュレーションから前記第2シミュレーションへの切替時刻には、前記取得した位置とその位置に対応する回転角を基に、前記位置情報算出ステップによる位置の算出が実行されるように、前記第2シミュレーションを、その切替時刻より前倒しして起動する第2シミュレーション起動ステップをさらに備えることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項3】
物体の移動を扱うシミュレーションをコンピュータに実行させるシミュレーション・プログラムにおいて、
前記物体を代表する点の各時刻での位置を算出するシミュレーションである第1シミュレーションを実行する第1シミュレーション実行ステップと、
前記物体を代表する点の各時刻での位置と、その各時刻での位置における代表する点の回りの前記物体の回転角を算出するシミュレーションである第2シミュレーションを実行する第2シミュレーション実行ステップを前記コンピュータに実行させ、
前記第2シミュレーション実行ステップは、前記第1シミュレーションが補間して算出した位置を取得する補間データ取得ステップと、前記物体の位置と、その位置での前記物体の回転角を用いて、前記物体の次の時刻での位置を算出する位置情報算出ステップを備え、
前記第2シミュレーション実行ステップにおいて、前記補間データ取得ステップを介して前記物体の位置が取得されるとともに、十分な数の位置の組が揃った場合、前記代表する点の回りの前記物体の回転角が算出され、
指定された前記第1シミュレーションから前記第2シミュレーションへの切替時刻には、前記取得した位置とその位置に対応する回転角を基に、前記位置情報算出ステップによる位置の算出が実行されるように、前記第2シミュレーションを、その切替時刻より前倒しして起動する第2シミュレーション起動ステップをさらに前記コンピュータに実行させることを特徴とするシミュレーション・プログラム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−178693(P2007−178693A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376677(P2005−376677)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)