説明

シミュレーション装置およびプログラム

【課題】柔軟媒体の挙動を良好にシミュレートすることができるシミュレーション装置およびプログラムを提供する。
【解決手段】経路作成部11は、RAM20に格納された位置情報格納テーブル21に基づいて、配置空間に搬送経路を作成する。モデル作成部12は、RAM20に格納されたモデル情報格納テーブル22に基づいて、柔軟媒体のモデルを作成する。柔軟媒体のモデルが、搬送パラメータに従い、複数の搬送要素により搬送される場合において、運動演算部14は、この柔軟媒体のモデルの運動の時間的変化を演算する。パラメータ演算部13は、搬送装置で用いられる搬送パラメータを演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送パラメータに従い搬送経路に沿って搬送される柔軟媒体の挙動を、モデルによりシミュレートするシミュレーション装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ウェブ搬送装置で搬送される柔軟媒体(例えば、一方向に延びる連続用紙および縦横サイズが規格化された固定サイズの用紙等)について、この柔軟媒体の搬送挙動をシミュレーションする技術が、知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の技術において、柔軟媒体は、質量を有する複数の剛体と、複数のバネ要素と、に分割されており、複数の剛体のうち隣接する2つは、対応するバネ要素により連結されている。そして、対応するバネ要素により運動させられる各剛体の挙動が解析されることによって、柔軟媒体の挙動がシミュレートされる。
【0004】
また、回転するローラにより柔軟媒体が搬送される時に、柔軟媒体およびローラの間に空気が巻き込まれることによって、ローラに対する搬送媒体の摩擦係数が変化することも、従来より知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-282650号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】橋本 巨著「ウェブハンドリングの基礎理論と応用」加工技術研究会、2008年4月1日、p.46〜47、p.78〜81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1のいずれの技術によっても、ウェブ搬送装置により搬送される柔軟媒体の挙動を、この摩擦係数の変化に基づいてシミュレートすることができなかった。その結果、柔軟媒体の搬送状態がシミュレーションとウェブ装置とで相違するという問題が、生じていた。
【0008】
そこで、本発明では、柔軟媒体の挙動を良好にシミュレートすることができるシミュレーション装置およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、搬送パラメータに従い搬送経路に沿って搬送される柔軟媒体の挙動を、モデルによりシミュレートするシミュレーション装置であって、前記搬送経路は、搬送ローラを含む複数の搬送要素により形成されており、前記モデルは、複数の質点と、各々が、前記複数の質点のうち隣接する2つの質点の間を連結する複数のバネとを有し、前記複数の搬送要素のそれぞれを、対応する位置情報にしたがって配置することにより、前記搬送経路を作成する経路作成部と、モデル情報に基づいて前記モデルを作成するモデル作成部と、前記搬送パラメータのうち、前記モデルの各質点と前記搬送ローラの表面との間の摩擦係数を演算するパラメータ演算部と、前記モデルが前記搬送パラメータに従って、前記複数の搬送要素により搬送される場合において、前記モデルの運動の時間的変化を演算する運動演算部とを備え、前記パラメータ演算部は、前記摩擦係数を、浮上量に従って時刻毎に演算するとともに、前記浮上量は、前記モデルの各質点と前記搬送ローラの表面との間の距離として、時刻毎に演算されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のシミュレーション装置において、前記運動演算部により演算された前記モデルの運動の時間的変化を、前記柔軟媒体の挙動として表示させる表示部、をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、搬送パラメータに従い搬送経路に沿って搬送される柔軟媒体の挙動を、モデルによりシミュレートするコンピュータ読み取り可能なプログラムであって、前記搬送経路は、搬送ローラを含む複数の搬送要素により形成されており、前記モデルは、複数の質点と、各々が、前記複数の質点のうち隣接する2つの質点の間を連結する複数のバネとを有し、前記コンピュータによる前記プログラムの実行は、前記コンピュータに(a)前記複数の搬送要素のそれぞれを、対応する位置情報にしたがって配置することにより、前記搬送経路を作成する機能と、(b)モデル情報に基づいて前記モデルを作成するモデル作成部と、(c)前記搬送パラメータのうち、前記モデルの各質点と前記搬送ローラの表面との間の摩擦係数を演算するパラメータ演算部と、(d)前記モデルが、前記搬送パラメータに従って前記複数の搬送要素により搬送される場合において、前記モデルの運動の時間的変化を演算する機能とを実現させ、前記機能(c)は、前記摩擦係数を、浮上量に従って時刻毎に演算するとともに、前記浮上量は、前記モデルの各質点と前記搬送ローラの表面との間の距離として、時刻毎に演算されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1から請求項3に記載の発明によれば、各時刻における摩擦係数は、モデルの各質点と搬送ローラの表面との間の浮上量に従って演算される。これにより、搬送ローラ付近における柔軟媒体の挙動を、浮上量および摩擦係数の変化に応じて把握することができる。そのため、柔軟媒体の挙動を、より正確にシミュレートすることが可能となる。
【0013】
特に、請求項2に記載の発明によれば、柔軟媒体の挙動を表示部に表示することができる。そのため、使用者は、柔軟媒体の挙動を視覚的に観察することができ、柔軟媒体の挙動を容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態におけるシミュレーション装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】搬送経路の一例を示す正面図である。
【図3】運動演算部により演算された柔軟媒体の搬送速度と、時刻tとの関係を示すグラフである。
【図4】搬送ローラ付近の構成の一例を示す正面図である。
【図5】パラメータ演算部により演算された浮上量の平均値および有効摩擦係数と、時刻tとの関係を示すグラフである。
【図6】運動演算部により演算された柔軟媒体の搬送速度と、時刻tとの関係を示すグラフである。
【図7】解析例および実機試験の試験条件を説明するための図である。
【図8】解析例および実機試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
<1.シミュレーション装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態におけるシミュレーション装置1の構成の一例を示すブロック図である。シミュレーション装置1は、ウェブ搬送装置で搬送される柔軟媒体の挙動を、モデルによりシミュレートする。
【0017】
図1に示すように、シミュレーション装置1は、主として、CPU10と、RAM20と、ROM30と、大容量記憶部40と、表示処理部50と、入出力部60と、を有している。また、CPU10と、RAM20と、ROM30と、大容量記憶部40と、表示処理部50と、入出力部60と、は、バス8を介して電気的に接続されている。
【0018】
RAM(Random Access Memory)20は、揮発性の記憶部であり、例えば、CPU10の演算で使用されるデータが格納されている。また、図1に示すように、RAM20は、位置情報格納テーブル21およびモデル情報格納テーブル22を記憶する。
【0019】
位置情報格納テーブル21は、柔軟媒体の搬送に用いられる各搬送要素(例えば、搬送ローラ、直線ガイド、または円弧ガイド等)と、対応する位置情報と、を関連付けて格納する。ここで、搬送要素は、例えば、上述の搬送ローラ、直線ガイド、または円弧ガイド等を含み、柔軟媒体が搬送される搬送経路を形成する。
【0020】
モデル情報格納テーブル22は、柔軟媒体を模倣するためのモデルに関する情報を格納している。ここで、柔軟媒体のモデルは、主として、複数の質点と、各々が複数の質点のうち隣接する2つの質点の間を連結する複数のバネと、を有している。
【0021】
ROM(Read Only Memory)30は、いわゆる不揮発性の記憶部であり、例えば、プログラム31が格納されている。なお、ROM30としては、読み書き自在の不揮発性メモリであるフラッシュメモリが使用されてもよい。
【0022】
大容量記憶部40は、シリコンディスクドライブやハードディスクドライブ等のようにRAM20と比較して記憶容量の大きな素子により構成された記憶部であり、必要に応じてRAM20との間でデータの授受を行う。
【0023】
CPU(Central Processing Unit)10は、ROM30のプログラム31に従った動作制御やデータ処理を実行する。また、図1中のCPU10内に記載されているブロック(それぞれ符号11〜14が付与されている)に対応する演算機能は、CPU10により実現される。なお、各ブロック11〜14に対応する演算機能については後述する。
【0024】
表示処理部50は、いわゆるビデオコントローラにより構成されており、信号線50aを介して表示部51と電気的に接続されている。表示処理部50は、描画処理を実行することにより表示部51の画面に文字や図形等を表示させる。
【0025】
入出力部60は、いわゆるI/Oポート(Input/Output Port)により構成されており、信号線60aを介してシミュレーション装置1の入出力機器(例えば、キーボードやタッチパッドを有する操作部61)と電気的に接続されている。したがって、入出力部60は、CPU10と入出力機器との間でデータの授受を実行する。
【0026】
<2.CPUにより実現される演算機能>
図2は、搬送経路70bの一例を説明するための正面図である。図3は、運動演算部14により演算された柔軟媒体80の搬送速度と、時刻tとの関係を示すグラフである。ここでは、図1から図3を参照しつつ、経路作成部11、モデル作成部12、パラメータ演算部13、および運動演算部14に対応する機能を説明する。
【0027】
なお、図2および以降の各図には、方向関係を明確にすべく必要に応じて適宜、Z軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系が、付されている。
【0028】
経路作成部11は、RAM20に格納された位置情報格納テーブル21に基づいて、配置空間70aに搬送経路70bを作成する。例えば、図2に示すように、複数の搬送要素(従動ローラ71〜73、テンションローラ74、および搬送ローラ75等)のそれぞれは、対応する位置情報にしたがって配置空間70a内に配置される。これにより、従動ローラ71〜73、テンションローラ74、および搬送ローラ75に沿った搬送経路70bが形成される。
【0029】
モデル作成部12は、RAM20に格納されたモデル情報格納テーブル22に基づいて、柔軟媒体80のモデルを作成する。例えば、図2の柔軟媒体80は、上述のように、複数の質点と、複数のバネと、によって模倣される。
【0030】
ここで、経路作成部11で用いられる位置情報格納テーブル21と、モデル作成部12で用いられるモデル情報格納テーブル22は、シミュレーション装置1において、操作部61を介したシミュレーション装置1の使用者の指示に従い作成されても良い。また、位置情報格納テーブル21およびモデル情報格納テーブル22は、シミュレーション装置1とは異なった情報処理装置で、その情報処理装置の使用者により作成されても良い。さらに、位置情報格納テーブル21およびモデル情報格納テーブル22は、シミュレーションにより作成されてもよい。
【0031】
パラメータ演算部13は、搬送装置で用いられる搬送パラメータを演算する。例えば、パラメータ演算部13は、搬送パラメータのうち、柔軟媒体80のモデルの各質点と、搬送ローラ75の表面と、の間の有効摩擦係数μeffを演算する。なお、パラメータ演算部13によって実行される演算の詳細は、後述する。
【0032】
運動演算部14は、柔軟媒体80のモデルが搬送パラメータに従って複数の搬送要素により搬送される場合において、この柔軟媒体80のモデルの運動の時間的変化を演算する。例えば、図3には、有効摩擦係数μeffの時間的変化を考慮した場合における柔軟媒体80のモデルの搬送速度の時間的変化と、有効摩擦係数μeffの時間的変化を考慮しない場合における柔軟媒体80のモデルの搬送速度の時間的変化と、が、示されている。
【0033】
そして、表示部51は、運動演算部14により演算された柔軟媒体モデルの運動の時間的変化に基づいて、柔軟媒体の挙動を表示する。例えば、図3に示すように、運動演算部14は、各時刻tにおける柔軟媒体の速度を、表示部51に表示させることができる。すなわち、表示部51は、運動演算部14により演算されたモデルの運動の時間的変を、柔軟媒体の挙動として表示することができる。そのため、シミュレーション装置1の使用者は、柔軟媒体の挙動を視覚的に観察することができ、容易に柔軟媒体の挙動を把握することができる。
【0034】
<3.パラメータ演算部による演算>
図4は、搬送ローラ75付近の構成の一例を示す正面図である。ここでは、図4を参照しつつ、有効摩擦係数μeff(t)の演算手法について説明する。
【0035】
ここで、図4に示すように、搬送ローラ75が矢印R1方向に回転することによって、柔軟媒体80が矢印AR1方向(以下、「搬送方向」とも称する)に搬送される場合、搬送ローラ75の周速度Urによっては、搬送ローラ75と柔軟媒体80の間に空気が巻き込まれる。その結果、柔軟媒体80が搬送ローラ75に対して浮上する。
【0036】
この場合において、搬送ローラ75に対する柔軟媒体80の浮上量hが大きくなるに従って、柔軟媒体80と搬送ローラ75の表面との間の摩擦係数は小さくなる。そして、浮上量hの値が一定値以上となると、この摩擦係数が「0」になり、柔軟媒体80に対して搬送ローラ75が空転する。
【0037】
また、この浮上量hは、柔軟媒体80のモデルの各質点と搬送ローラ75の表面との間の距離であり、式(1)のように表すことができる。
【0038】
【数1】

【0039】
ただし、式(1)中において、
a)Rは、搬送ローラ75の半径を、
b)Θは、巻角を、
c)σは、柔軟媒体80および搬送ローラ75の間の合成表面粗さを、
d)ηは、空気粘度を、
e)Urは、搬送ローラ75の周速度を、
f)Uwは、搬送経路70bに沿った柔軟媒体80の搬送速度を、
g)T1は、柔軟媒体80に負荷される張力を、
h)kは、柔軟媒体80の透気率を、
i)twは、柔軟媒体80の厚さを、
i)xは、搬送経路70b上における位置を、
それぞれ示すものである。
【0040】
なお、式(1)中の位置xの値は、原点P0より搬送方向下流側(巻付開始位置P1側)が負数、原点P0より搬送方向上流側(巻付終了位置P2側)が正数となるように、設定されている。
【0041】
また、搬送ローラ75の周速度Urおよび柔軟媒体80の搬送速度Uwは、時刻tの関数と見ることができる。したがって、式(1)は、式(2)のように変形することができ、浮上量hは、各位置xにおいて時刻t毎に演算できる。
【0042】
【数2】

【0043】
ただし、式(2)のa、b、c、p(t)、およびq(t)は、それぞれ式(3)、式(4)、式(5)、式(6)、および式(7)のように表される。
【0044】
【数3】

【0045】
【数4】

【0046】
【数5】

【0047】
【数6】

【0048】
【数7】

【0049】
したがって、巻付開始位置P1から巻付終了位置P2までの浮上量hの平均値have(t)は、式(8)のように表される。
【0050】
【数8】

【0051】
ただし、式(8)中において、
j)μsは、初期摩擦係数を、
示すものである。
【0052】
また、搬送ローラ75に対する柔軟媒体80の摩擦係数μ1は、 式(9)のように表すことができる。
【0053】
【数9】

【0054】
よって、式(9)に式(8)を代入すると、有効摩擦係数μeff(t)は、式(10)のように表すことができる。
【0055】
【数10】

【0056】
式(10)から分かるように、パラメータ演算部13は、予め定められた初期摩擦係数μsと、浮上量hの平均値have(t)と、から有効摩擦係数μeff(t)を演算することができる。すなわち、パラメータ演算部13は、有効摩擦係数μeff(t)を浮上量hの平均値have(t)に従って時刻t毎に演算することができる。
【0057】
これにより、空気浮上により有効摩擦係数μeff(t)が変化することを考慮した柔軟媒体80の搬送速度Uwを、容易に演算することができる。そのため、柔軟媒体80の挙動を、計算コストを増大させることなく、正確にシミュレートすることができる。
【0058】
なお、「空気浮上」とは、搬送ローラ75および柔軟媒体80の間に空気が巻き込まれ、搬送ローラ75に対して柔軟媒体80が浮上することを言うものとする。
【0059】
<4.シミュレーション結果>
図5は、パラメータ演算部13により演算された浮上量hの平均値have(t)および有効摩擦係数μeff(t)と、時刻tとの関係を示すグラフである。図6は、運動演算部14により演算された柔軟媒体80の搬送速度Uwと、時刻tとの関係を示すグラフである。
【0060】
図5において、横軸は時刻tを示す。また、図5において、左側の縦軸は、有効摩擦係数μeff(t)を示し、点線が対応する。一方、右側の縦軸は、浮上量hの平均値have(t)を示し、実線が対応する。
【0061】
図3および図6において、横軸は時刻tを示し、縦軸は柔軟媒体80の搬送速度Uwを示す。また、図3および図6中の点線は、空気浮上により有効摩擦係数μeff(t)が変化することを考慮した場合おける柔軟媒体80の搬送速度Uwを示す。一方、図3および図6中の実線は、空気浮上を考慮しない場合における柔軟媒体80の搬送速度Uwを示す。
【0062】
なお、「空気浮上」とは、搬送ローラ75および柔軟媒体80の間に空気が巻き込まれ、搬送ローラ75に対して柔軟媒体80が浮上することを言うものとする。また、本シミュレーションにおいて、合成表面粗さσの値は、「0.583」(μm)に設定されている。
【0063】
図5および図6に示すように、時刻t1において、搬送ローラ75に対して柔軟媒体80が浮上し始める。ただし、時刻t1において、浮上量hの平均値have(t1)は合成表面粗さσより小さいため、有効摩擦係数μeff(t1)は、初期摩擦係数μsとなる。この場合において、搬送ローラ75の周速度Urと、柔軟媒体80の周速度Urは、同一値である。
【0064】
次に、時刻t2において、浮上量hの平均値have(t2)は合成表面粗さσ以上となり、有効摩擦係数μeffが減少し始める。また、図6に示すように、時刻t2から時刻t3までの期間において、搬送ローラ75の周速度Urと、柔軟媒体80の周速度Urと、は、同一値となる。
【0065】
続いて、時刻t3において、搬送ローラ75に対して柔軟媒体80が滑り始める。これにより、図6に示すように、柔軟媒体80の搬送速度Uwが、搬送ローラ75の周速度Ur以下となる。
【0066】
続いて、時刻t4において、浮上量hの平均値have(t4)は、合成表面粗さσの3倍となり、有効摩擦係数μeffが「0」となる。すなわち、時刻t5において、柔軟媒体80の搬送速度Uwが一定値となる。すなわち、少なくとも時刻t5から時刻t7において、搬送ローラ75の周速度Urが増大しても、柔軟媒体80の搬送速度Uwは変化しない。
【0067】
そして、時刻t6において搬送ローラ75の周速度Urが一定になると(図3参照)、時刻t7以降において浮上量hの平均値have(t7)は一定値となる。
【0068】
<5.本実施の形態のシミュレーション装置の利点>
以上のように、本実施の形態のシミュレーション装置1は、各時刻における有効摩擦係数μeffは、柔軟媒体80のモデルの各質点と搬送ローラ75の表面との間の浮上量hの平均値have(t)に従って演算される。
【0069】
これにより、搬送ローラ75付近における柔軟媒体80の挙動を、浮上量hの平均値have(t)および有効摩擦係数μeffの変化に応じて把握することができる。例えば、有効摩擦係数μeffを考慮に入れた柔軟媒体80の搬送速度を求めることが可能となる。そのため、柔軟媒体80の挙動が、より正確にシミュレートできる。
【0070】
<6.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0071】
(1)本実施の形態のシミュレーションでは、一方向に延びる連続用紙(図2参照)が柔軟媒体80として用いられているが、これに限定されるものでない。例えば、縦横サイズが規格化された固定サイズの用紙が、柔軟媒体80として用いられても良い。
【0072】
(2)また、本実施の形態において、経路作成部11、モデル作成部12、パラメータ演算部13、および運動演算部14により実現される機能は、いずれもCPU10によりソフトウェア的に実現されるものとして説明したが、これに限定されるものでない。例えば、これらの機能は、電子回路等のハードウェアによって実現されてもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0074】
<実施例1>
図2は、搬送経路70bの一例を示すとともに、本実施の形態の有効性の確認を行うための「実機試験」を実行した実験装置70の構成の一例を示す正面図である。図7は、解析例および実機試験の試験条件を説明するための図である。図8は、解析例および実機試験の試験結果を示すグラフである。
【0075】
ここで、図8において、解析例と実機試験の駆動ローラの速度Urは同じ破線で表す。実線および点線は、それぞれ解析例および実機試験のウェブ速度Uwを示す。また、図7に示すように、解析例および実機試験では、PTME(Poly Tetramethylene Ether)で形成された連続用紙が柔軟媒体80として使用されている。
【0076】
また、解析例は、空気浮上により有効摩擦係数μeff(t)が変化することを考慮して、柔軟媒体80の搬送速度Uwをシミュレートし、その演算結果をグラフにプロットしたものである。さらに、実機試験は、実験装置70により計測された柔軟媒体80の搬送速度Uwをプロットしたものである。
【0077】
図8に示すように、実機試験の試験結果は、解析例の試験結果に符合した。このように、空気浮上により有効摩擦係数μeff(t)が変化することを考慮することによって、柔軟媒体80の挙動が、より正確にシミュレートできた。
【符号の説明】
【0078】
1 シミュレーション装置
10 CPU
11 経路作成部
12 モデル作成部
13 パラメータ演算部
14 運動演算部
20 RAM
21 位置情報格納テーブル
22 モデル情報格納テーブル
30 ROM
31 プログラム
50 表示処理部
51 表示部
60 入出力部
61 操作部
70 実験装置
70b 搬送経路
75 搬送ローラ
80 柔軟媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送パラメータに従い搬送経路に沿って搬送される柔軟媒体の挙動を、モデルによりシミュレートするシミュレーション装置であって、
前記搬送経路は、搬送ローラを含む複数の搬送要素により形成されており、
前記モデルは、
複数の質点と、
各々が、前記複数の質点のうち隣接する2つの質点の間を連結する複数のバネと、
を有し、
(a) 前記複数の搬送要素のそれぞれを、対応する位置情報にしたがって配置することにより、前記搬送経路を作成する経路作成部と、
(b) モデル情報に基づいて前記モデルを作成するモデル作成部と、
(c) 前記搬送パラメータのうち、前記モデルの各質点と前記搬送ローラの表面との間の摩擦係数を演算するパラメータ演算部と、
(d) 前記モデルが前記搬送パラメータに従って前記複数の搬送要素により搬送される場合において、前記モデルの運動の時間的変化を演算する運動演算部と、
を備え、
前記パラメータ演算部は、前記摩擦係数を、浮上量に従って時刻毎に演算するとともに、
前記浮上量は、前記モデルの各質点と前記搬送ローラの表面との間の距離として、時刻毎に演算されることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシミュレーション装置において、
(e) 前記運動演算部により演算された前記モデルの運動の時間的変化を、前記柔軟媒体の挙動として表示させる表示部、
をさらに備えることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項3】
搬送パラメータに従い搬送経路に沿って搬送される柔軟媒体の挙動を、モデルによりシミュレートするコンピュータ読み取り可能なプログラムであって、
前記搬送経路は、搬送ローラを含む複数の搬送要素により形成されており、
前記モデルは、
複数の質点と、
各々が、前記複数の質点のうち隣接する2つの質点の間を連結する複数のバネと、
を有し、
前記コンピュータによる前記プログラムの実行は、前記コンピュータに
(a) 前記複数の搬送要素のそれぞれを、対応する位置情報にしたがって配置することにより、前記搬送経路を作成する機能と、
(b) モデル情報に基づいて前記モデルを作成するモデル作成部と、
(c) 前記搬送パラメータのうち、前記モデルの各質点と前記搬送ローラの表面との間の摩擦係数を演算するパラメータ演算部と、
(d) 前記モデルが、前記搬送パラメータに従って前記複数の搬送要素により搬送される場合において、前記モデルの運動の時間的変化を演算する機能と、
を実現させ、
前記機能(c) は、前記摩擦係数を、浮上量に従って時刻毎に演算するとともに、
前記浮上量は、前記モデルの各質点と前記搬送ローラの表面との間の距離として、時刻毎に演算されることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−4060(P2013−4060A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138184(P2011−138184)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】