説明

シミュレータによる内燃機関用制御装置のリアルタイムテスト方法

【課題】内燃機関用制御装置のリアルタイムテスト方法を提供し、選択された機関状態量を、特に、第1のシミュレータ計算ユニットの第1のサンプリングステップ幅によって可能となるよりも高い頻度で利用できるようにする。また、こうした方法を実行できるシミュレータを提供する。
【解決手段】この課題は、冒頭に言及した内燃機関用制御装置のリアルタイムテスト方法において、シミュレータが、複数の機関状態量のうち少なくとも1つの所定の機関状態量を、機関部分モデルにより、第1のサンプリングステップ幅とは異なる第2のサンプリングステップ幅で計算することにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレータによる内燃機関用制御装置のリアルタイムテスト方法であって、シミュレータが第1のシミュレータ計算ユニットと第1のシミュレータI/Oインタフェースとを含み、制御装置が制御装置計算ユニットと制御装置I/Oインタフェースとを含み、制御装置とシミュレータは各I/Oインタフェースを介して第1のデータチャネルにより相互接続されており、制御装置は第1のデータチャネルを介して機関制御データをシミュレータへ伝送し、シミュレータは、機関制御データを用いて、第1のシミュレータ計算ユニット上の機関全体モデルにより、第1のサンプリングステップ幅で種々の機関状態量を計算し、計算された機関状態量の少なくとも一部を第1の伝送ステップ幅で制御装置へ伝送する、制御装置のリアルタイムテスト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冒頭に言及した形式の制御装置のリアルタイムテスト方法は、実用上は、"ハードウェアインザループテスト"の名称で知られている。また、冒頭に言及した形式の当該方法を実行するシミュレータは"ハードウェアインザループシミュレータ"もしくは"HiLシミュレータ"として知られている。ハードウェアインザループテストとは、テストすべきハードウェア、この場合は制御装置を、現実の環境、例えば当該制御装置が駆動制御する内燃機関を含むシステムにおいてではなく、少なくとも部分的にシミュレータによってシミュレートされた環境においてテストすることである。このために、シミュレータは、そのつど対応するI/Oインタフェースを介して当該制御装置に接続される。これにより、シミュレータは、当該制御装置から出力される電気信号を受け取り、機関全体モデルの計算にこれを利用する。反対に、リアルタイムで計算されたデータは、例えばシミュレータと制御装置とのあいだのデータチャネルを介して、信号の形態で制御装置へ伝送される。ここで、データチャネルとは、データないし信号を伝送するのに適したコネクションのことであり、例えばさらなる部分チャネルを含むバス線路である。リアルタイムとは、制御装置が現実の機関とともに駆動されるのか、シミュレーション環境において制御装置のみが駆動されるのかが事実上認識されない程度に迅速に機関状態量を計算することである。これを機能させるためには、第1のシミュレータI/Oインタフェースが、制御装置にとって現実の機関のI/Oインタフェースと同じに見なされるよう、ハードウェアについても信号処理についても適合化されなければならない。
【0003】
こうしたテスト手法の利点として、次のようなものが得られる。すなわち、完全に危険なく、制御装置を良好に監視し、極端な駆動条件のもとで測定する手段を得て、制御装置が機関を予測通りに駆動ないし監視するか否かの挙動を検査および確認することができる。恒常的に、機関状態量がシミュレータから制御装置へ伝送され、機関制御データが制御装置からデータチャネルを介してシミュレータへ伝送されるので、当該制御装置は"閉制御ループ"(すなわちインザループ)でテストされることになる。
【0004】
こうした制御装置のリアルタイムテストの品質にとって、基礎となる数学モデルの品質、すなわち、機関全体モデルのできるかぎり正確な計算が決定的に重要であることは明らかである。通常、内燃機関の熱力学モデルは、関心のある機関状態量を取得するために、リアルタイムで数値解を得るべき膨大な微分方程式系を含んでいる。ここで、シミュレータが機関全体モデルを含むという場合、当該機関全体モデルによって、シミュレータに接続されたテストすべき制御装置を適切に起動するために必要な全ての機関状態量を計算でき、さらに、データチャネルを介して、要求された全ての機関状態量を供給できるということしか意味しない。特に、制御装置が入力量としてシリンダ内圧を必要とする場合、シリンダ内の熱力学的特性をシミュレートする機関全体モデルを利用しなければならない。通常の機関全体モデルの複雑性により、シミュレータ計算ユニットには、各サンプリングステップで関心のある機関状態量を計算しなければならないという高い要求が課される。
【0005】
ここで、例えば、制御装置によって、機関状態量を、シミュレータ計算ユニットの第1のサンプリングステップ幅に相応しない頻度、特に、シミュレータ計算ユニットの第1のサンプリングステップ幅で定義される頻度よりも大きな頻度で形成しなければならない場合、問題が発生する。また、機関状態量がシミュレータの固定の第1のサンプリングステップ幅とはまったく異なる時間パターン(特に可変の時間パターン)で伝送される場合、別の問題も発生する。こうした機関状態量の具体例として、シリンダ燃焼室内のシリンダ圧が挙げられ、このシリンダ圧は内燃機関のシリンダごとに制御装置に対して表示される。こうしたHiLシステムの例は、プレスレポートである"HiL-Simulation in der Praxis: Hochdynamische Regelung des Zylinderdruckverlaufs" (http://pressemitteilung.ws/node/140505)に説明されている。
【0006】
こんにちの制御装置では、シリンダ圧のデータは固定の時間パターンではなく、例えばクランクシャフトの回転角度による固定パターン、すなわち、機関の回転数領域全体にわたるクランク角度値によって、表される。これは、回転数6000min−1としたとき、そのつどのクランク角度の変化量につき1つまたは複数のシリンダ圧の計算値を制御装置へ送出するための機関全体モデルの計算に、30μsほどしか得られないことを意味する。機関全体モデルの計算の複雑性のためにこれはとうてい実現不可能であり、このため、リアルタイム条件は遵守されない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"HiL-Simulation in der Praxis: Hochdynamische Regelung des Zylinderdruckverlaufs" (http://pressemitteilung.ws/node/140505)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、内燃機関用制御装置のリアルタイムテスト方法を提供し、選択された機関状態量を、特に、第1のシミュレータ計算ユニットの第1のサンプリングステップ幅によって可能となるよりも高い頻度で利用できるようにすることである。また、本発明では、こうした方法を実行できるシミュレータを提供することも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、冒頭に言及した内燃機関用制御装置のリアルタイムテスト方法において、シミュレータが、複数の機関状態量のうち少なくとも1つの所定の機関状態量を、機関部分モデルにより、第1のサンプリングステップ幅とは異なる第2のサンプリングステップ幅で計算することにより解決される。所定の機関状態量とは、機関全体モデルのうち、第1のサンプリングステップ幅によって定められる時点とは異なる時点で形成される少なくとも1つの機関状態量であり、特には高い頻度もしくは可変の時点で形成される機関状態量である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】制御装置と本発明の制御装置のリアルタイムテスト方法のためのシミュレータとから成るシステムを示す概略図である。
【図2】内燃機関用制御装置と本発明の方法のためのシミュレータとから成るシステムの別の実施例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
所定の機関状態量を計算するために、機関全体モデルに加えて設けられる機関部分モデルが用いられる。ただし、当該所定の機関状態量の計算は、機関状態量を形成することへの時間的要求に合致するときに行われる。これは、機関全体モデルが、従前のごとく、第1のサンプリングステップ幅で得られる全ての機関状態量、すなわち、選択された複数の機関状態量を利用できることを意味する。機関部分モデルは、有利には、機関全体モデルによって最後のサンプリングステップで計算されて供給された機関状態量の値にアクセスし、これを機関状態量の独立計算の開始値として用いる。複雑な機関全体モデルによって計算された少なくとも1つの開始値に基づいて、機関部分モデルは選択的に、第1のサンプリングステップ幅および機関全体モデルの計算から独立に、選択された機関状態量の特に迅速な計算を行う。
【0012】
機関部分モデルは、通常、機関全体モデルの単なる一部分ではない。この概念は、機関の数学的モデルを表しており、主として所定の機関状態量の計算によって捉えられ、このため機関全体モデルで考慮される様相の一部のみを考慮している。機関部分モデルは、機関全体モデルとは異なるタイプの物理技術的モデルであってよい。機関全体モデルが通常は微分方程式系に基づくのに対して、機関部分モデルは例えば先行する既知の計算データおよび機関状態量の外挿に基づく。
【0013】
特に、所定の機関状態量が機関部分モデルよりも頻繁に計算されて制御装置へ伝送される場合、つまり、第2のサンプリングステップ幅が第1のサンプリングステップ幅よりも小さい場合、第1のデータチャネルの利用に関して問題が生じる。なぜなら、第1のデータチャネルを介して所定の機関状態量を頻繁に制御装置へ伝送しなければならないために第1のデータチャネルに負荷がかかり、第1のサンプリングステップ幅に関連する機関状態量の伝送が時間的に保証されなくなってしまうからである。この問題を解決するために、本発明の方法の有利な実施形態では、計算された機関状態量が、第1のデータチャネルとは異なる第2のデータチャネルを介して、制御装置へ伝送される。この場合、データチャネルが既存の第1のシミュレータI/Oインタフェースおよび既存の制御装置I/Oインタフェースが利用されてもよいし、また、別のインタフェースが設けられてもよい。ここで重要なのは、第1のデータチャネルと第2のデータチャネルとが相互に独立することのみである。本発明の方法の有利な実施形態では、第2のデータチャネルは第1のシミュレータI/Oインタフェースから独立した第2のシミュレータI/Oインタフェースによって実現される。
【0014】
本発明の方法の有利な別の実施形態では、第2のサンプリングステップ幅は第1のサンプリングステップ幅より小さく、特に、第1のサンプリングステップ幅は第2のサンプリングステップ幅の整数倍である。ここでは時間的に一定のサンプリングステップ幅が用いられるが、時間ではない他の基準量、例えばシミュレートすべき機関のクランクシャフト角度(クランク角度)に関するサンプリングステップ幅が用いられてもよい。熱力学的な機関全体モデルは例えばクランク角度の変化量10゜ごとに計算され、所定の機関状態量を計算するための機関部分モデルはクランク角度の1゜ごとに計算される。
【0015】
関心のある量として計算された機関状態量を第1のデータチャネルを介して制御装置へ伝送する際には、この伝送は第1のサンプリングステップ幅に関連しても関連しなくてもよい。所定の機関状態量を計算するための第2のサンプリングステップ幅も、同様に、必ずしも当該機関状態量を制御装置へ伝送する際の伝送ステップ幅に関連しなくてもよい。ただし、第1のデータチャネルおよび第2のデータチャネルが形成される場合、有利な実施形態では、機関状態量は、第1のデータチャネルを介した制御装置への伝送が行われる際の第1の伝送ステップ幅よりも小さい第2の伝送ステップで、第2のデータチャネルを介して伝送される。この方法は、第1のサンプリングステップ幅が第1の伝送ステップ幅に相当し、および/または、第2のサンプリングステップ幅が第2の伝送ステップ幅に相当し、対応するI/Oルーチンの処理が計算ルーチンの処理に関連することにより、簡単に実行可能である。
【0016】
特に有利な実施形態では、機関部分モデルによる所定の機関状態量の計算が、第1のシミュレータ計算ユニットとは異なる第2のシミュレータ計算ユニット上で行われる。ここで、第2のシミュレータ計算ユニットは有利には自立的なプロセッサであるかまたはマイクロコントローラであるが、マルチコアプロセッサのコアであってもよい。重要なのは、機関部分モデルによる機関状態量の計算が機関全体モデルによる機関状態量の計算に影響せず、相互に独立した計算容量を各計算に利用できるということである。
【0017】
本発明の方法のバリエーションとして、機関部分モデルによる所定の機関状態量の計算を、機関全体モデルが全ての機関状態量を計算する際のタスクとは別のタスクとして実行し、特に2つのタスクの双方を第1のシミュレータ計算ユニット上で実行することができる。この場合にも、機関部分モデルは、機関全体モデルの一部としてのみならず機関全体モデルに加えて存在するものであるが、機関全体モデルによって達成可能な機関状態量の計算よりも迅速な計算が可能となるように構成されることを考慮しなければならない。
【0018】
前述した本発明の方法は、具体的な実施形態において、例えば、機関全体モデルが機関状態量として内燃機関のシリンダ燃焼室内のシリンダ圧を含み、機関部分モデルが所定の機関状態量として同様に内燃機関のシリンダ燃焼室内のシリンダ圧を含む場合に、有利に適用される。ここで考慮すべきは、マルチシリンダ型内燃機関において、機関全体モデルが機関部分モデルと同様に機関の全てのシリンダのシリンダ圧を計算するということである。所定の機関では、対称性を利用して計算コストを低減することもできる。以下では、シリンダの燃焼室内のシリンダ圧を例として説明する。この場合のシリンダ圧はもちろん内燃機関の他のシリンダの燃焼室圧を含んでもよい。
【0019】
シリンダ内のシリンダ圧は内燃機関の制御に必須の機関状態量であり、特にクランク角度の設定変化量に関して、機関制御装置へ規則的に伝送される。逆に、制御装置からは、シリンダごとの内燃機関制御のために、機関状態量に依存して、(外部点火式の内燃機関の場合)噴射時間および点火角が伝送される。本発明の方法の有利な実施形態では、機関全体モデルが別の機関状態量として、また、機関部分モデルが別の所定の機関状態量として、シリンダ燃焼室内温度、および/または、シリンダ燃焼室内の温度勾配、および/または、シリンダ燃焼室容積、および/または、シリンダ燃焼室内の圧力勾配を含む。これらの量により、特にシリンダの燃焼室内のシリンダ圧が簡単に計算でき、その際に複雑な微分方程式系が必要なくなる。この場合、特に、機関部分モデルの範囲内でシリンダ圧の計算が可能となるので、機関全体モデルの計算時間の一部しか消費されない。
【0020】
有利な実施形態では、シリンダの燃焼室内のシリンダ圧は、機関部分モデルにより、この機関部分モデル内で計算される温度実際値および容積実際値に基づいて計算される。機関全体モデルを用いて最後に計算されたシリンダ圧値p,シリンダ燃焼室容積V,シリンダ燃焼室温度Tに基づいて、後の時点のシリンダ圧pが、次のサンプリングステップの到達前に、例えば、式
=p・(V/T)・(T/V) (1)
から簡単に計算される。ここで、pは、機関部分モデルの第2のサンプリングステップ幅によって計算されるステップkでのシリンダ圧の計算値であり、TおよびVは、機関部分モデルで計算されたシリンダ燃焼室内温度およびシリンダ燃焼室容積である。
【0021】
シリンダの燃焼室内温度Tは、機関部分モデル内で、式
=T+TS2・k・dT (2)
により、有利には積分ないし外挿によって求められる。ここで、TS2は機関部分モデルが計算に用いる第2のサンプリングステップ幅であり、dTは機関全体モデルによって最後の計算時点で求められた燃焼室内温度の温度勾配値である。
【0022】
本発明の別の有利な実施形態では、シリンダ燃焼室容積Vが、クランク角度φに基づいて機関部分モデル内で求められる。この実施形態では、容積は、行展開によって、
(φ)=α+α(φ−φ)+α(φ−φ)+... (3)
のように求められる。シリンダ燃焼室容積は、クランク角度に応じて周期的に、例えば正弦状に変化する特性を有しているので、行展開は有利には0゜から180゜までのクランク角度領域についてのみ行えばよい。この場合、行展開の小さな乗数しか計算に必要でないようにするには、さらなる部分領域への分割を行う。クランク角度φの値に応じて、例えば、角度領域が3つの部分領域へ分割される場合、3つの異なる行展開Vk1,Vk2,Vk3を計算することができる。
【0023】
別の実施形態では、クランク角度φに基づく容積が、機関部分モデルのテーブルへアクセス可能なように格納される。
【0024】
本発明のシミュレータは、内燃機関用制御装置のリアルタイムテストを行うために、第1のシミュレータ計算ユニットと第1のシミュレータI/Oインタフェースとを備える。ここで、制御装置は、制御装置計算ユニットと制御装置I/Oインタフェースとによって構成されている。シミュレータはシミュレータI/Oインタフェースおよび制御装置I/Oインタフェースを介して制御装置へ接続可能であり、このため、第1のデータチャネルを介して制御装置からの機関制御データをシミュレータへ伝送できる。第1のシミュレータ計算ユニット上には機関全体モデルが設けられており、この機関全体モデルは、伝送された機関制御データに基づいて、第1のシミュレータ計算ユニット上で、第1のサンプリングステップ幅で種々の機関状態量を計算するように構成されている。また、シミュレータは、機関状態量の少なくとも一部を、第1の伝送ステップ幅で、特に第1のデータチャネルを介して、制御装置へ伝送できるように構成されている。本発明によれば、シミュレータには、種々の機関状態量のうち少なくとも1つの所定の機関状態量を第1のサンプリングステップ幅TS1とは異なる第2のサンプリングステップ幅TS2で計算する機関部分モデルが設けられており、これにより、前述した制御装置のリアルタイムテスト方法が実行される。
【0025】
詳しく云うなら、本発明の制御装置のリアルタイムテスト方法ならびに本発明のシミュレータを実現するための複数の手段が存在する。これらについては、請求項1およびこれに従属する各請求項の記載、ならびに、本発明の方法ならびに本発明のシミュレータに関する図示の実施例およびその説明に表されている。
【実施例】
【0026】
図では、内燃機関用制御装置1と、この制御装置1のリアルタイムテストを行うためのシミュレータ2とが概略的に示されている。シミュレータ2は、第1のシミュレータ計算ユニット3と第1のシミュレータI/Oインタフェース4とを含む。制御装置1は、同様に、明示されていない制御装置計算ユニットと制御装置I/Oインタフェース5とを含む。I/Oインタフェース4,5のあいだには第1のデータチャネル6が設けられており、これを介して制御装置1とシミュレータ2とが接続されている。
【0027】
制御装置1は第1のデータチャネル6を介してシミュレータ2へ機関制御データを伝送する。シミュレータ2は、第1のシミュレータ計算ユニット3上で、機関制御データに基づき、機関全体モデル7により、第1のサンプリングステップ幅TS1で関心のある種々の機関状態量をリアルタイム計算し、これにより第1のサンプリングステップ幅によって区切られる各計算時間の終了時に、結果として、機関全体モデル7の各機関状態量が供給される。機関状態量として、図1には、シリンダ燃焼室内温度T、温度勾配dT、シリンダ燃焼室容積Vおよびシリンダ燃焼室内の圧力であるシリンダ圧pが示されている。
【0028】
シミュレータ2を用いて行われるプロセスは、シミュレータ2が少なくとも1つの所定の機関状態量、この場合にはシリンダ圧pを、機関部分モデル8によって、第1のサンプリングステップ幅TS1とは異なる第2のサンプリングステップ幅TS2で計算するように構成されている。機関部分モデル8は機関全体モデル7の下位の一部分ではなく、所定の機関状態量に対する付加的な計算手段であって、この場合には、所定の機関状態量を第1のサンプリングステップ幅TS1より小さい第2のサンプリングステップ幅TS2で計算するものである。有利には、機関全体モデル7によって最後に計算された状態量が機関部分モデル8に供給される。機関部分モデル8は供給された機関状態量を機関全体モデル7から独立した所定の機関状態量の計算のために利用する。
【0029】
図1,図2の実施例は、計算される機関状態量pが第1のデータチャネル6とは異なる第2のデータチャネル9を介して制御装置1へ伝送される点で共通している。ここで、第2のデータチャネル9は、図1の実施例では、第1のシミュレータI/Oインタフェース4と制御装置I/Oインタフェース5とのあいだに形成されている。図2の実施例では、第2のデータチャネル9は、第1のシミュレータI/Oインタフェース4から独立した第2のシミュレータI/Oインタフェース10と制御装置I/Oインタフェース5とのあいだに形成されている。制御装置1の側では、制御装置I/Oインタフェース5は(シリアル制御装置であればいずれの場合にも)接続スキーマとインタフェースとが設定されているので、問題なく変更可能である。
【0030】
2つの実施例の双方で、所定の機関状態量を計算するための機関部分モデル8は第1のシミュレータ計算ユニット3とは異なる第2のシミュレータ計算ユニット11上で計算され、機関全体モデル7の計算と機関部分モデル8の計算との最大限のハードウェア分離をもたらす。第1のシミュレータ計算ユニット3および第2のシミュレータ計算ユニット11はどちらもメモリ12へのアクセスを行う。メモリ12は、この実施例では、両方向からアクセス可能なメモリとして構成されたデュアルポートメモリである。
【0031】
図2の実施例では、機関全体モデル7の計算と機関部分モデル8の計算とは固定の時間パターンではなくクランク角度φに依存して行われるので、第1のサンプリングステップ幅TS1と第2のサンプリングステップ幅TSとはシミュレートされた内燃機関の回転数に依存して変化する。
【0032】
機関全体モデル7は各第1のサンプリングステップ幅TS1の終了時に機関状態量T,dT,V,pを形成し、メモリ12に格納する。こうして、複数の機関状態量が機関部分モデル8に利用可能となり、中間ステップ幅でシリンダ圧pの中間値が計算される。なお、この実施例では、計算の際に前掲の式(1)(2)(3)に示されている法則が適用される。
【0033】
図2の実施例では、クランク角度φはシミュレータ2内に設けられた角度計算ユニット13によって設定される。
【0034】
図示の方法では、シリンダ燃焼室容積は、クランクの半回転の角度領域にわたって求められる。ここで、クランク角度が180゜より大きい場合には、実際のクランク角度φのシリンダ燃焼室容積が等容積のクランク角度によって置換される。この場合、クランク角度領域は複数の部分領域へ分割される。ここでは、シミュレートすべき機関タイプごとに、シリンダ容積の行展開の展開係数が全ての部分領域に対してシミュレーション前に求められるように構成されている。
【符号の説明】
【0035】
1 制御装置、 2 シミュレータ、 3 第1のシミュレータ計算ユニット、 4 第1のシミュレータI/Oインタフェース、 5 制御装置I/Oインタフェース、 6 第1のデータチャネル、 7 機関全体モデル、 8 機関部分モデル、 9 第2のデータチャネル、 10 第2のシミュレータI/Oインタフェース、 11 第2のシミュレータ計算ユニット、 12 メモリ、 13 角度計算ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレータ(2)による内燃機関用制御装置(1)のリアルタイムテスト方法であって、
前記シミュレータ(2)が第1のシミュレータ計算ユニット(3)と第1のシミュレータI/Oインタフェース(4)とを含み、
前記制御装置(1)が制御装置計算ユニットと制御装置I/Oインタフェース(5)とを含み、
前記制御装置(1)と前記シミュレータ(2)とは各I/Oインタフェースを介して第1のデータチャネル(6)により相互接続されており、前記制御装置(1)は前記第1のデータチャネル(6)を介して機関制御データを前記シミュレータ(2)へ伝送し、
前記シミュレータ(2)は、前記機関制御データを用いて、前記第1のシミュレータ計算ユニット(3)上の機関全体モデル(7)により、第1のサンプリングステップ幅(TS1)で複数の機関状態量を計算し、該複数の機関状態量のうち少なくとも一部を第1の伝送ステップ幅で前記制御装置(1)へ伝送する、
制御装置のリアルタイムテスト方法において、
前記シミュレータ(2)は、前記複数の機関状態量のうち少なくとも1つの所定の機関状態量を、機関部分モデル(8)により、前記第1のサンプリングステップ幅(TS1)とは異なる第2のサンプリングステップ幅(TS2)で計算する
ことを特徴とする、制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項2】
計算された前記所定の機関状態量を、第2の伝送ステップ幅で、前記第1のデータチャネル(6)とは異なる第2のデータチャネル(9)を介して前記制御装置(1)へ伝送する、請求項1記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項3】
前記第2のサンプリングステップ幅(TS2)は前記第1のサンプリングステップ幅(TS1)より小さく、例えば、前記第1のサンプリングステップ幅(TS1)は前記第2のサンプリングステップ幅(TS2)の整数倍である、請求項1または2記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項4】
前記第2の伝送ステップ幅は前記第1の伝送ステップ幅よりも小さい、請求項1から3までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項5】
前記第2のデータチャネル(9)は前記第1のシミュレータI/Oインタフェース(4)から独立した第2のシミュレータI/Oインタフェース(10)を介して形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項6】
前記機関部分モデル(8)による前記所定の機関状態量の計算を、前記第1のシミュレータ計算ユニット(3)とは異なる第2のシミュレータ計算ユニット(11)上で行う、請求項1から5までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項7】
前記機関部分モデル(8)による前記所定の機関状態量の計算を、前記機関全体モデル(7)が全ての機関状態量を計算する際のタスクとは別のタスクとして実行し、例えば2つのタスクとも第1のシミュレータ計算ユニット(3)上で実行する、請求項1から6までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項8】
前記機関全体モデルによって最後のサンプリングステップで求められた機関制御量の各値を、前記機関部分モデルへ供給する、請求項1から7までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項9】
前記機関全体モデル(7)は、前記機関状態量として、内燃機関のシリンダ燃焼室内のシリンダ圧pを含み、前記機関部分モデル(8)は、前記所定の機関状態量として、同様に、内燃機関のシリンダ燃焼室内のシリンダ圧pを含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項10】
前記機関全体モデル(7)が別の機関状態量として、また、前記機関部分モデル(8)が別の所定の機関状態量として、シリンダ燃焼室内温度、および/または、シリンダ燃焼室内温度勾配、および/または、シリンダ燃焼室容積、および/または、シリンダ燃焼室内圧力勾配を含む、請求項9記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項11】
前記機関部分モデル(8)において、シリンダ燃焼室内温度を積分により求め、該シリンダ燃焼室内温度を前記シリンダ圧の計算に用いる、請求項9または10記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項12】
前記機関部分モデル(8)において、例えば行展開もしくはテーブル問い合わせにより、シリンダ燃焼室容積を求め、該シリンダ燃焼室容積を前記シリンダ圧の計算に用いる、請求項9から11までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項13】
前記シリンダ圧を、前記機関部分モデル(8)において、設定されたクランク角度(φ)に基づいて求め、例えば、前記クランク角度(φ)を前記シミュレータ(2)内に配置された角度計算ユニット(12)によって設定する、請求項9から12までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項14】
前記シリンダ燃焼室容積の計算を、クランクの半回転の角度領域、例えば0゜から180゜に対して行い、クランク角度が180゜より大きい場合には、前記シリンダ燃焼室容積を求める際に、実際のクランク角度(φ)を等容積となるクランク角度によって置換し、前記クランク角度領域を複数の部分領域へ分割し、シミュレートすべき全てのタイプの機関に対して、前記シリンダ燃焼室容積の行展開の展開係数を、各部分領域ごとにシミュレーション前に求める、請求項13記載の制御装置のリアルタイムテスト方法。
【請求項15】
内燃機関用制御装置(1)のリアルタイムテストを行うために、第1のシミュレータ計算ユニット(3)と第1のシミュレータI/Oインタフェース(4)とを含む、シミュレータ(2)であって、
前記制御装置(1)が制御装置計算ユニットと制御装置I/Oインタフェース(5)とを含み、
前記シミュレータ(2)は前記シミュレータI/Oインタフェース(4)および前記制御装置I/Oインタフェース(5)を介して前記制御装置(1)へ接続可能であり、これにより前記第1のデータチャネル(6)を介して前記制御装置(1)から前記シミュレータ(2)へ機関制御データを伝送され、
前記第1のシミュレータ計算ユニット(3)上に、伝送された前記機関制御データに基づいて第1のサンプリングステップ幅(TS1)で複数の機関状態量を計算するように構成された機関全体モデル(7)が設けられており、
前記シミュレータ(2)は、前記複数の機関状態量の少なくとも一部を第1の伝送ステップ幅で前記制御装置(1)へ伝送するように構成されている、
シミュレータにおいて、
該シミュレータ(2)内に、前記複数の機関状態量のうち少なくとも1つの所定の機関状態量を前記第1のサンプリングステップ幅(TS1)とは異なる第2のサンプリングステップ幅(TS2)で計算するための機関部分モデル(8)が設けられており、これにより、前記シミュレータ(2)によって請求項1から14までのいずれか1項記載の制御装置のリアルタイムテスト方法が実行される
ことを特徴とする、シミュレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−83646(P2013−83646A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222910(P2012−222910)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【出願人】(506012213)ディスペース デジタル シグナル プロセッシング アンド コントロール エンジニアリング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (21)
【氏名又は名称原語表記】dspace digital signal processing and control engineering GmbH
【住所又は居所原語表記】Rathenaustr.26,D−33102 Paderborn, Germany
【Fターム(参考)】