説明

シミ関連遺伝子

【課題】シミ形成に関わる遺伝子、及び当該遺伝子の利用法の提供。
【解決手段】C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択され、チロシナーゼ活性の制御に関わることを特徴とする、シミ関連遺伝子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシミ関連遺伝子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
シミは加齢に伴い増加する色素増加症であり、特に露出部に頻発する。発生原因としては、長期の反復性の日光暴露が考えられ、病変部の表皮細胞では、色素細胞を活性化するサイトカインの分泌亢進がみられることが報告されている(非特許文献1−3)。
【0003】
従来、紫外線による一過性の色素沈着(日焼け)の機構については、様々な研究知見が蓄積されてきたが(非特許文献4)、一方で、紫外線照射がなくても慢性的に続く色素沈着(老人性色素斑など)の機構はほとんど明らかにされていなかった。
近年、慢性的色素沈着の機構解明の重要性が指摘され、老人性色素斑における網羅的遺伝子発現解析(非特許文献5)や、ヒトシミ組織を用いた関与因子の同定(特許文献1)が行われている。
【0004】
また、紫外線照射と老人性色素斑では、発現挙動に違いがある機能分子も見出され、例えば、IL-1αはヒト皮膚に対する紫外線の単回照射によって遺伝子発現が増加するが(非特許文献6)、老人性色素斑では逆に減少すること(非特許文献2)が報告されている。そして、紫外線を単回又は連続して照射した場合でも機能分子の発現挙動には違いが観察されていることから(非特許文献6)、一過性の色素沈着と慢性的な色素沈着では、機序が異なることが十分に考えられ得る。
さらに、老人性色素斑は加齢により増加することが知られており、過度の日光暴露部位以外の部位でも観察される場合もあることから、他の何らかの因子が発症に寄与している可能性も指摘されている(非特許文献7)。
斯様に、シミにおける生理機能は未だ未解明な点が多く、シミの本質に関与する新たな因子の解明が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3943490号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】最新皮膚科学大系第8巻 色素異常症 中山書店
【非特許文献2】Kadono S et al. (2001) J. Invest. Dermatol. 116: 571-577
【非特許文献3】Hattori H et al. (2004) J. Invest. Dermatol. 122: 1256-1265
【非特許文献4】Enk CD et al. (2004) Photodermatol. Photoimmunol. Photomed. 20: 129-137
【非特許文献5】Aoki H et al. (2007) Br. J. Dermatol. 156: 1214-1223
【非特許文献6】Seite S et al. (2004) Photochem. Photobiol. 79: 265-271
【非特許文献7】Unver N et al. (2006) Br. J. Dermatol. 155: 119-128
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シミ形成に関わる遺伝子、及び当該遺伝子の利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、様々な人種において、若くして現れる群発シミと加齢に伴って現れる単発シミを対象にして網羅的遺伝子発現解析を行い、群発シミと単発シミの両方に関与しているいくつかの遺伝子を見出した。さらに本発明者は、これらの遺伝子についてsiRNAを用いた遺伝子ノックダウンを行い、これらの遺伝子がメラノサイトの活性化に関与していることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(4)に係るものである。
(1)C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択され、チロシナーゼ活性の制御に関わることを特徴とする、シミ関連遺伝子。
(2)C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1及びFLT1から選択され、発現によってチロシナーゼ活性が増強する、上記(1)の遺伝子。
(3)細胞に被験物質を投与する工程と、当該細胞におけるC19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子の発現量、又は当該遺伝子の発現産物の発現量又は活性を測定する工程を含む、シミ予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(4)ヒト表皮組織におけるC19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子の発現量、又は当該遺伝子の発現産物の量又は活性を指標とし、対照部位の同遺伝子の発現量、又は同遺伝子の発現産物の発現量又は活性と比較することにより、当該皮膚のシミ形成の進行度若しくは改善度を把握することを特徴とする皮膚のシミ状況分析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メラノサイト活性化に関与する因子が提供され、これを用いることにより、シミ予防又は改善剤を評価又は選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】各遺伝子ノックダウン細胞におけるドーパオキシダーゼ活性を示すグラフ。
【図2】各遺伝子ノックダウン細胞におけるチロシナーゼタンパク質の発現を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1)シミ関連遺伝子
本発明のシミ関連遺伝子は、C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択されるものである。
斯かる遺伝子の情報は表1に示すとおりであり、何れもNCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/omim)に登録されている。
【0013】
【表1】

【0014】
上記遺伝子をメラノサイトにおいてノックダウンさせると、C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1及びFLT1では、ドーパオキシダーゼ活性が低下し、チロシナーゼ蛋白質の発現が抑制され、MAPKBP1及びMKL2では、ドーパオキシダーゼ活性が増強する(実施例1及び2)。
チロシナーゼは、細胞におけるチロシンからのドーパの生合成にチロシンハイドロオキシラーゼとして作用し、またドーパオキシダーゼとしてドーパからのドーパキノンの生合成に働く酵素である。生合成されたドーパキノンは、中間物質を介した後、メラニンへと生合成される。すなわち、チロシナーゼの活性は、細胞のメラニン合成に深く寄与している。
従って、上記遺伝子は、その発現によって細胞のチロシナーゼ活性が増強又は低下し、結果としてメラニン産生が促進又は抑制する、チロシナーゼ活性の制御或いはメラノサイト活性化の制御に関わる遺伝子であり、シミ形成関連遺伝子と云える。
【0015】
本発明において、「シミ」とは主に老人性色素斑を意味するが、それに限らず皮膚に現われる茶褐色ないし濃褐色の斑紋であって、慢性的にメラニンなどの色素が沈着または停滞した光線性花弁状色素斑、雀卵斑、肝斑などの色素斑を広く含む意味として用いる。
【0016】
2)シミ予防又は改善剤の評価又は選択方法
本発明のシミ予防又は改善剤の評価又は選択方法は、C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子(「シミ関連遺伝子」ともいう)の発現量、又は当該遺伝子の発現産物の発現量又は活性を変化させる物質を候補として選択するものである。
【0017】
具体的には、細胞に被験物質を接触させる工程と、当該細胞における上記のシミ関連遺伝子のうちの少なくとも1つの発現量、又は当該遺伝子の発現産物の発現量又は活性を測定する工程を含むものである。
被験物質を接触させる細胞は、本発明のシミ関連遺伝子が発現しているかその発現物の活性が存在する動物由来の細胞、好ましくは表皮細胞であればよいが、当該遺伝子又は蛋白質の発現量が正常細胞に比べて増加したものが好ましく、より好ましくはメラノサイトであり、さらに好ましくはヒト由来培養メラノサイトである。
当該細胞の由来動物としては、非ヒト動物、例えばマウス、ラット、モルモット等げっ歯類でもよいが、ヒトであるのが好ましい。また、表皮細胞の由来組織としては、生体から外科的に切除した皮膚組織、それを免疫不全マウス等に移植した皮膚組織や、表皮細胞及びその他の皮膚構成細胞から作成した培養皮膚モデルや免疫不全マウス等を用いて作製した再構成皮膚等を使用できる。
被験物質の種類は特に限定されず、天然物でも合成物でもよく、また単一物質であっても組成物若しくは混合物であってもよい。また、細胞への接触の形態は、被験物質に依存して、任意の形態であり得る。
【0018】
本発明において、シミ関連遺伝子の発現産物の活性とは、遺伝子発現産物の転写活性化能、遺伝子発現産物の活性化状態を示すリン酸化或いはアセチル化等の蛋白質修飾能等をいい、遺伝子発現産物の活性を抑制(又は増強)する物質とは、当該転写活性、蛋白質修飾能等を調節する物質をいう。
また、本発明のシミ関連遺伝子の発現量を減少(又は増加)させる物質とは、当該遺伝子を構成するポリヌクレオチドに相補性のmRNAの発現を抑制(又は促進)する又は分解を促進(又は抑制)する物質をいい、当該遺伝子の発現産物の発現量を変化させる物質とは、当該遺伝子の発現産物の発現を抑制(又は促進)又は発現産物の分解を促進(又は抑制)し、その発現量を減少(又は増加)させる物質をいう。
【0019】
本発明の評価又は選択方法のうち、シミ関連遺伝子の発現量を指標とする候補物質の選択は、具体的には、例えば以下のように行われる。
(1a)C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子が発現している細胞に、被験物質を接触させる工程、
(2a)被験物質を接触させた細胞における、同遺伝子の発現量を測定する工程、
(3a)(2a)で測定された発現量を被験物質に接触させない対照細胞の同遺伝子の発現量と比較する工程、
(4a)(3a)の結果に基づいて、同遺伝子の発現量を減少又は増加させる被験物質をシミ予防又は改善剤として選択する工程。
【0020】
工程(1a)における被験物質の細胞への接触は、例えば、エタノール、DMSO、水等の溶媒に溶解した被験物質0.0001〜10w/v%溶液を、直接若しくは適宜希釈した後、塗布又は培地中に添加することにより行うことができる。
【0021】
遺伝子発現の検出及び定量は、前記組織から調製したRNA又はそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、RT−PCR法など公知の方法で実施できる。
【0022】
本発明の評価又は選択方法のうち、シミ関連遺伝子の発現産物の発現量を指標とする候補物質の選択は、具体的には、例えば以下のように行われる。
(1b)C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子の発現産物が発現している細胞に、被験物質を接触させる工程、
(2b)当該細胞中の同遺伝子発現産物の発現量を測定する工程、
(3b)(2b)で測定された発現量を被験物質に接触させない対照細胞の同遺伝子発現産物の発現量と比較する工程、
(4b)(3b)の結果に基づいて、同遺伝子発現産物の発現量を減少又は増加させる被験物質をシミ予防又は改善剤として選択する工程。
【0023】
工程(1b)における被験物質の細胞への接触は、上記(1a)と同様に行うことができる。
【0024】
工程(2b)における遺伝子発現産物の発現量の測定は、例えば、当該発現産物を認識する抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知の方法に従って定量できる。
ウェスタンブロット法は、一次抗体として当該発現産物を認識する抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。
抗体は、当該発現産物を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またモノクローナル抗体であってもよい。また、抗体は当該発現産物を認識することが保証されている市販の製品を使用すればよいが、ウサギやマウスなどを免疫動物として作製してもよい。
【0025】
本発明の評価又は選択方法のうち、シミ関連遺伝子の発現産物の活性を指標とする候補物質の選択は、具体的には、例えば以下のように行われる。
(1c)C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子の発現産物の活性が存在する細胞に、被験物質を接触させる工程、
(2c)当該細胞中の前記遺伝子発現産物の活性を測定する工程、
(3c)(2c)で測定された活性を被験物質に接触させない対照細胞の同活性と比較する工程、
(4c)(3c)の結果に基づいて、同活性を抑制又は増強させる被験物質をシミ予防又は改善剤として選択する工程。
【0026】
工程(1c)における被験物質の細胞への接触は、上記(1a)と同様に行うことができる。
【0027】
工程(2c)における活性の測定は、例えば、シミ関連遺伝子発現産物の活性化状態を示す種々の蛋白質修飾を認識する抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知の方法に従って定量できる。ウェスタンブロット法は、一次抗体として前記遺伝子発現産物の活性化状態を示す抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。
抗体は、当該修飾部位を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またモノクローナル抗体であってもよい。また、抗体は当該修飾部位を認識することが保証されている市販の製品を使用すればよいが、ウサギやマウスなどを免疫動物として作製してもよい。
【0028】
以上より、定量した、シミ関連遺伝子の発現量、シミ関連遺伝子発現産物の発現量又はその活性に基づき、当該遺伝子又は発現産物の発現抑制物質若しくは発現促進物質、又は活性抑制物質若しくは活性増強物質を選択することができるが、この場合、その発現量又は活性が、対照の細胞での発現量又は活性と比較して統計的に有意に低ければ、該被験物質を発現抑制物質又は活性抑制物質として選択することができ、その発現量又は活性が、対照の細胞での発現量又は活性と比較して統計的に有意に高ければ、該被験物質を発現促進物質又は活性増強物質として選択することができる。
C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1及びFLT1から選択される遺伝子を指標とする場合、その発現量又は活性が、対照の細胞での発現量又は活性と比較して統計的に有意に低ければ、該被験物質をシミ予防又は改善剤として評価又は選択でき、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子を指標とする場合、その発現量又は活性が、対照の細胞での発現量又は活性と比較して統計的に有意に高ければ、該被験物質をシミ予防又は改善剤として評価又は選択することができる。
【0029】
3)シミ状況分析方法
本発明のシミ状況分析方法は、例えばシミが観察される部位の表皮組織におけるシミ関連遺伝子の発現量、又は当該遺伝子の発現産物の発現量又は活性が、正常な表皮細胞に比べて亢進しているかどうかを調べることにより行うことができる。コントロールとして用いる正常部位としては、シミ周辺部位を比較対照としてよいが、シミが比較的できにくい非露光部位であってもよい。
すなわち、シミ部の表皮組織における、C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子の発現量、又は当該遺伝子の発現産物の発現量又は活性が、コントロールである正常部の表皮細胞と比較して亢進又は減少している場合、当該皮膚のシミ形成の進行度若しくは改善度を把握でき、皮膚のシミ状況分析が可能となる。
ここで、測定対象としては、パンチバイオプシーなどの皮膚生検により採取した皮膚組織でもよいし、サクションブリスター法などにより採取した表皮組織であってもよい。また、採取した皮膚組織に酵素処理或いは熱処理などを施して分離した表皮組織であってもよい。また、採取した皮膚又は表皮組織を器官培養したものでもよい。さらに、皮膚又は表皮組織から分離した表皮細胞を用いてもよく、適宜培養を行ったものでもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1 siRNAによる遺伝子ノックダウン細胞におけるドーパオキシダーゼ活性の測定
1.siRNAによる遺伝子ノックダウン
96ウェルプレートにヒト新生児包皮由来のメラノサイト100μLを1×104個/ウェルの細胞密度となるように各ウェルに播種した。培地はMedium 254にPMAを除くHMGS(Human Melanocyte Growth Supplement)(いずれもCascade Biologics社製)を添加したものを用いた。
24時間の培養後、TransIT-TKO(登録商標)Transfection Reagent(Mirus社製)を用いて、メラノサイトに各種siRNAを終濃度20nMになるよう導入した(N=6)。前掲の表1に示した各遺伝子に対するsiRNAはいずれもInvitrogen社 Stealth Select RNAiを用いた。トランスフェクション翌日、新しい培地添加し、全量を200μLとした。
【0031】
なお、培地には、HMGSに含有される以下の添加物も添加されている。
bFGF(塩基性線維芽細胞成長因子) 3ng/mL
BPE(ウシ脳下垂体抽出液) 0.4体積%
FBS(ウシ胎児血清) 0.5体積%
ハイドロコーチゾン 5×10-7mol/L
インスリン 5μg/mL
トランスフェリン 5μg/mL
ヘパリン 3μg/mL
【0032】
siRNA導入後、5日間培養した後、メラノサイトをCa2+及びMg2+を除去したPhosphate-buffered saline(PBS)で洗浄し、抽出バッファー(0.1M Tris-HCL(pH7.2)、1% Nonidet P-40、0.01% SDS、100μM PMSF(フェニルメチルスルホニルフルオライド)、1μg/ml アプロチニン)を20μL/ウェル、ならびにAssay buffer(4%ジメチルホルムアミドを含有する100mM Sodium phosphate-buffered(pH7.1))を20μL/ウェル添加し、4℃、3時間で細胞を可溶化した。
【0033】
2.ドーパオキシダーゼ活性の測定
ドーパオキシダーゼ活性(チロシナーゼ活性)を指標として遺伝子発現のメラニン産生への関与を調べた。ドーパオキシターゼ活性測定は、MBTH法(例えば、Winder A.J., Harris H., Eur. J. Biochem., 198:317-326, 1991)を参考に、以下のように行った。
【0034】
可溶化した細胞溶液の各ウェルに、Assay bufferを80μL/ウェル、20.7mM MBTH(3−メチル−2−ベンゾチアゾリノン ヒドラゾン)溶液を60μL、基質として5mM L−ドーパ(L−ジヒドロキシフェニルアラニン)溶液40μLをそれぞれ加え、37℃で30〜60分反応させた後、その呈色反応を505nmの吸光度で測定した。
【0035】
結果を図1に示す。なお、ドーパオキシダーゼ活性の値は、Stealth RNAi Negative Controlを導入した場合の吸光度に対する相対値で示している。本発明のシミ制御遺伝子の発現をノックダウンすることにより、細胞のドーパオキシダーゼ活性(チロシナーゼ活性)が変化した。C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1及びFLT1は、siRNA導入に伴いドーパオキシダーゼ活性が低下し、MAPKBP1及びMKL2については同活性が上昇した。従って、これらの遺伝子の発現がメラニン産生に影響を及ぼすことが示された。
【0036】
実施例2 siRNAによる遺伝子ノックダウン細胞におけるチロシナーゼタンパク質の発現解析
1.siRNAによる遺伝子ノックダウン
6ウェルプレートにヒト新生児包皮由来のメラノサイトを1×105個/ウェルの細胞密度となるように各ウェルに播種した。培地はMedium 254にPMAを除くHMGS(Human Melanocyte Growth Supplement)(いずれもCascade Biologics社製)を添加したものを用いた(1mL/ウェル)。
24時間培養後、TransIT-TKO(登録商標)Transfection Reagent(Mirus社製)を用いて、メラノサイトに各種siRNAを終濃度20nMになるよう導入した。前掲の表1に示した各遺伝子に対するsiRNAはいずれもInvitrogen社 Stealth Select RNAiを用いた。トランスフェクション翌日、培地交換を行った。
【0037】
2.チロシナーゼタンパク質の発現解析
siRNAを導入してから5日間培養した後、メラノサイトをCa2+及びMg2+を除去したPhosphate-buffered saline(PBS)で洗浄し、RIPA buffer (Santacruz社製)0.1mLで回収し、超音波処理により細胞を破砕した。その後、15,000rpmで15分間遠心分離し、その上清についてタンパク定量を行った後、定法に従ってSDS−PAGE(7.5% gel)に供した。一次抗体はanti-Tyrosinase antibody(Zymed, 1:1000)を用いた。二次抗体はanti-mouse IgG peroxidase linked F(AB`)2 fragment(GE healthcare bioscience)を5000倍に希釈して用いた。その後、ECL plus western blotting detection reagents(GE healthcare bioscience社製)を用いて発色させ、LAS4000(GE healthcare bioscience)を用いてイメージングした。内部標準としてβ−actinについて、Sigma-Aldrich社製のmonoclonal antibody specific forβ−actinを用いた発現確認を行った。
【0038】
結果を図2に示す。C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、及びFLT1は、siRNA導入に伴いチロシナーゼのタンパク質発現が低下した。従って、これらの遺伝子はチロシナーゼの発現を抑制することで、メラニン産生を抑制できることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択され、チロシナーゼ活性の制御に関わることを特徴とする、シミ関連遺伝子。
【請求項2】
C19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1及びFLT1から選択され、発現によってチロシナーゼ活性が増強する、請求項1記載の遺伝子。
【請求項3】
細胞に被験物質を接触させる工程と、当該細胞におけるC19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子の発現量、又は当該遺伝子の発現産物の発現量又は活性を測定する工程を含む、シミ予防又は改善剤の評価又は選択方法。
【請求項4】
ヒト表皮組織におけるC19orf28、TRIM63、PI15、KCNE4、HOXD8、IGFBP7、LPL、LOC375295、NLRP2、CRTAC1、DOCK8、PFTK2、C2orf88、TRIM9、HMCN1、AEBP1、FLT1、MAPKBP1及びMKL2から選択される遺伝子の発現量、又は当該遺伝子の発現産物の量又は活性を指標とし、対照部位の同遺伝子の発現量、又は同遺伝子の発現産物の発現量又は活性と比較することにより、当該皮膚のシミ形成の進行度若しくは改善度を把握することを特徴とする皮膚のシミ状況分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−44874(P2012−44874A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187151(P2010−187151)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】