説明

シメジの人工栽培用培養基

【課題】シメジを従来方法と異なり雑菌汚染がなく、高収量かつ短期間で栽培することのできる、商業的生産が可能な人工栽培方法を提供する。
【解決手段】爆砕処理を施した穀類を含有することを特徴とするシメジの人工栽培用培養基であり、好ましくは、爆砕処理が、圧力0.2MPa〜2.0MPa、温度121〜160℃の飽和水蒸気の存在下で、加圧、加熱した後、低圧下に放出する操作であるものであり、また穀類が、オオムギ、イネなどの穀粒である前記のシメジの人工栽培用培養基及びこの人工栽培用培養基を用いたシメジの人工栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シメジの人工栽培用培養基及びシメジの人工栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
担子菌、一部子嚢菌を含むキノコは、近年食品の利用にとどまらず、生理活性等も注目されており、医薬品を含めた多岐に渡る分野に置いて産業上有用な素材として認識されている(例えば、非特許文献1、2を参照)。
【0003】
現在、食用キノコの栽培として行われている菌床栽培技術は、栽培の対象となるキノコの種菌を、温度、湿度、照度、酸素濃度等の制御が行き届いた人工的な栽培環境下、極めて清潔・清浄な条件にて純粋栽培を行うものである。また、使用される培養基の基材には、クヌギ、コナラ等の広葉樹や、スギ等の針葉樹、コーンコブ等が用いられ、添加される栄養分としてフスマ、米糠、大豆粕、豆殻等様々な素材が用いられており、試験研究としても食品残渣等を用いたキノコ栽培方法も例示されている。
【0004】
また、培養基の含水率や培養基の水保持力、所謂水ポテンシャルがきのこの子実体形成、収量等に影響を及ぼすことが知られている(例えば、非特許文献3〜8参照)。
【0005】
これら従来の人工栽培技術を、大量の菌床を用いる工業的規模でのキノコ栽培で実施すると、使用する培養基によって含水率や水ポテンシャルが低い場合があり、この場合には栽培期間中に菌床下部に水がたまり、雑菌汚染やダニの発生等などが起こり、結果的にキノコの品質低下を招くこととなっていた。また、菌床によって栽培成果の差異が多少なりとも生じ、キノコの子実体原基の形成時期が菌床単位で多様に相違し、収穫期間が長きにわたってしまうという問題もあった。
【0006】
一般的に食用とされているシイタケ、ヒラタケ、ナメコ、エノキタケ、マイタケなどの木材腐朽菌の人工栽培においては、各種の栽培方法の工夫により工業的な栽培方法が行われてきている。
【0007】
また、「香りマツタケ味シメジ」に代表されるシメジについては、これまで、様々な人工栽培方法について報告されてきた(例えば、特許文献1〜4、非特許文献9〜12参照)。
【0008】
しかし、当該技術分野にあってはかねてより、水ポテンシャルに伴う含水率を安定的にし、キノコ栽培に用いる培養基の含水率安定化に要する労力の軽減と栽培効率の改善、換言すれば、工業的な菌床の均一化が、常に課題とされており未だその本質的な解決をみるに至っていない。
【0009】
一方、従来、既存の素材を加工し、培養基の膨張、水ポテンシャルを変えずキノコを人工栽培することについては、培養基に用いる基材自体の加工、処理を行った人工栽培方法については報告されているが(例えば、特許文献5、6参照)、培養基に用いる栄養分となる素材を加工、処理する方法については知られていなかった。
【非特許文献1】1171415591812_0著、「きのこを利用する―病気の治療・予防から環境改善まで」、地人書館、2006年4月
【非特許文献2】1171415591812_1著、「キノコを科学する―シイタケからアガリクス・ブラゼイまで」、地人書館、2001年5月
【非特許文献3】胡長慶,目黒貞利,河内進策著、「木材培地の水ポテンシャルが食用菌の成長に及ぼす影響」、日本木材学会大会研究発表要旨集、2002年3月、52巻、p.427
【非特許文献4】胡長慶,目黒貞利,河内進策著、「水分活性と水ポテンシャルバランスによる食用菌栽培条件の適正化」、日本木材学会大会研究発表要旨集、2003年3月、53巻、p.698
【非特許文献5】Culture maturity of Lentinula edodes on sawdust-based substrate in relation to fruiting potential.(Ohga, S., Min, D.-S, Koo, C.-D., Choi, T-H., Leonowicz, A., Cho, N.-S., ), Mokchae Konghak, 28: 55-64 (2000)
【非特許文献6】Effect of water potential on fruit body formation of Lentinula edodes in sawdust-based substrate.(Ohga, S.), J. Wood Sci., 45: 337-342 (1999)
【非特許文献7】Water potential in relation to culture maturity in sawdust-based substrate of Lentinula edodes.(Ohga, S., Katoh, Y., Nakaya, M.), Mushroom Sci. Biotechnol., 6: 65-69 (1998)
【非特許文献8】富樫巌,瀧澤南海雄著「吸水材を用いたナラタケ属の栽培試験」、林産試験場報、北海道立林産試験場、1993年3月、7巻2号、p.7−9
【特許文献1】特公平08−004427号公報
【特許文献2】特開2001−120059号公報
【特許文献3】特開2000−106752号公報
【特許文献4】特開2002−247917号公報
【非特許文献9】「林経協月報」、No.422、1998年7月、P.29−34
【非特許文献10】「日本菌学会会報」、39巻1号、1998年、p.13−20
【非特許文献11】「滋賀県森林センター業務報告書」、34巻、2001年、p.1−3
【非特許文献12】「2004年度版 きのこ年鑑」、2004年、プランツワールド、p.202−203
【特許文献5】特公昭55−22078号公報
【特許文献6】特公昭59−55122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、含水率を安定に維持することができ、しかも高い通気性を有するシメジの人工栽培に適した培養基を提供すること及びその培養基を用いて、キノコが良好な子実体形成能を有し雑菌汚染が起こらず栽培の日数を短縮できる商業的人工栽培法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこのような課題を解決するために、鋭意検討した結果、穀類に爆砕処理を施して得られるものを培養基に含め、この培養基を用いてシメジを人工栽培することにより、通常よりも短期間に栽培でき、かつ平均収量が増加する事実を見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明の第一は、爆砕処理を施した穀類を含有することを特徴とするシメジの人工栽培用培養基を要旨とするものであり、好ましくは、爆砕処理が、圧力0.2MPa〜2.0MPa、温度121〜160℃の飽和水蒸気の存在下で、加圧、加熱した後、低圧下に放出する操作であるものであり、また好ましくは、穀類が、オオムギ又はイネなどの穀粒である前記のシメジの人工栽培用培養基である。
【0013】
本発明の第二は、前記したシメジの人工栽培用培養基にシメジの種菌を接種し、人工栽培を行い、発生した子実体を収穫することを特徴とするシメジの人工栽培方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、爆砕処理した穀類が充分な隙間を保って固形化しているため通気性が高く、菌床の下部に水が溜まらないため、バクテリアなどの雑菌汚染が見られず、シメジの良好な子実体をより短い栽培日数で大量に収穫することができる。さらに爆砕処理した穀類は栄養分としても利用されるため、本来キノコの生長に必要でない赤玉土、鹿沼土などの園芸用土等の添加材を添加する必要がなく、工業的な生産も可能であり産業上の可能性において付加価値を高くしたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明において用いられる穀類としては、オオムギ(Hordeum vulgare L. var. hexastlchon Aschers.)イネ(Oryza sativa L.)、コムギ(Triticum aestivum L.)、ライムギ(Secale cereale L.)、ビールムギ(Hordeum distichum L.)、ハトムギ(Coix lacryma-jobi L. Var. Frumentacea Makino)等が挙げられ、原産国や産地、あるいは食用、加工用、飼料用等の用途、さらには品種などには限定されず、食品として流通している発芽米、発芽麦なども好適に使用できる。これらの中で、より好ましくは、オオムギであり、食用として市販されているものが好適に使用でき、例えば、株式会社はくばく又は日本精麦株式会社等から市販されているものを購入して使用することができる。
【0017】
本発明においては、上記したような穀類に爆砕処理を施すことが必要となるが、爆砕処理を施す部位は、穀類の植物体のうち穂に生じる穀粒の部分が好ましい。また、穀粒の大きさとしては、長径が3〜15mm、好ましくは3.5〜12mm、より好ましくは5.0〜10mmを有する粒状体である。
【0018】
本発明における爆砕処理とは、穀類を一定時間加圧下においた後、瞬時に常圧に戻すことにより、当該穀類を粉砕する処理のことをいう。具体的には、穀類を、耐熱容器に入れ、水蒸気の存在下に所定時間、所定の圧力に保持した後、急激に大気圧に開放する操作をいう。加圧は、コンプレッサーにより容器内を加圧する方法、高温高圧蒸気により加圧する方法、密封容器を加圧することにより加圧する方法があるが、密封容器を加圧する方法が好ましい。
【0019】
加圧圧力は、通常ゲージ圧で0.1〜2.0MPaが好ましく、0.2〜1.8MPaがより好ましく、0.5〜1.5MPaが最も好ましい。
【0020】
上記した条件で加圧、加熱する時間としては3分〜15分、好ましくは4分〜12分、より好ましくは、5分〜10分である。
【0021】
爆砕処理に用いる装置としては、上記ような条件により処理が行なえるものであれば特に限定されず、例えば、株式会社タチバナ機工製の商品名「電動式ポン菓子機No.11」などが好適に利用できる。
【0022】
上記のような爆砕処理によって、穀類が粉砕され形状としては、長径が3.5〜20mm、好ましくは3.8〜18mm、より好ましくは4.0〜16mmを有する多孔質構造の粒状体である多孔質構造の爆砕処理穀類を得ることできる。
【0023】
爆砕処理を施した穀類の含水率は、4.5〜30質量%、好ましくは4.8〜25質量%、より好ましくは5〜22質量%である。含水率が上記の範囲を外れるようであれば、熱風乾燥、真空乾燥、凍結真空乾燥などの処理によって含水率を調整してもよい。
【0024】
本発明における爆砕処理の具体例について、オオムギの場合で説明する。株式会社タチバナ機工製の商品名「電動式ポン菓子機No.11」に、オオムギ(株式会社はくばく)を1500〜1600g(含水率は17質量%)入れ、ゲージ圧力が1.2〜1.3MPaになるまで15〜20分加熱し、穀類を高圧密閉釜の扉を急激に開放し、爆砕穀類を空中に曝露させる処理によって、多孔質構造を有する爆砕処理オシムギを得ることができる。オオムギは、食用や飼料用としてオシムギ、麦割り、圧扁押し麦、ひき割り等の名称で市販されているが、上記の条件によって爆砕処理が可能であれば、それらを好適に用いることもできる。
【0025】
本発明は、上記したような穀類に爆砕処理を施したものを人工栽培用培養基に含ませることを特徴としている。爆砕処理後の穀類の一部分だけを含ませてもよいし、籾殻、胚芽が付着しているものあっても、またそれらを取り除いたものであってもよい。培養基に含ませる爆砕処理を施した穀類の量としては、他に含ませる基材や栄養分となる素材によっても影響されるが、おおよそ培養基全体のうち体積比として、爆砕処理穀類:他に含ませる基材や栄養分=1:0.1〜0.8が好ましいが、より好ましくは、1:0.2〜0.6、最も好ましくは1:0.3〜0.5である。
【0026】
本発明においては、人工栽培用培養基にさらに基材として機能するものを加えることが好ましい。そのようなものとしては、従来一般的なキノコの菌床栽培において用いられている基材が好適に用いられ、具体的には、鋸屑、コーンコブ、サトウキビ絞り粕(バガス)、椰子実の繊維塊が挙げられ、より好ましくは鋸屑である。鋸屑は、針葉樹でも広葉樹由来のものでも良いが、好ましくは、植物分類学上、針葉樹であるマツ科(Pinaceae)、スギ科(Taxodiaceae)、広葉樹では、ヤマモモ科(MYRICACEAE)、クルミ科(JUGLANDACEAE)、クワ科(MORACEAE)、ヤマグルマ科(TROCHODENDRACEAE)、フサザクラ科(EUPTELEACEAE)、カツラ科(CERCIDIPHYLLACEAE)アケビ科(LARDIZABALACEAE)、メギ科(BERBERIDACEAE)、モクレン科(モクレン科)、クスノキ科(LAURACEAE)、ユキノシタ科(SAXIFRAGACEAE)、トベラ科(PITTOSPORACEAE)、マンサク科(HAMAMELIDACEAE)、スズカケノキ科(PLATANACEAE)、バラ科(ROSACEAE)、マメ科(FABACEAE)、ミカン科(RUTACEAE)、センダン科(MELIACEAE)、トウダイグサ科(EUPHORBIACEAE)、ツゲ科(BUXACEAE)、モチノキ科(AQUIFOLIACEAE)、ニシキギ科(CELASTRACEAE)、トチノキ科(HIPPOCASTANACEAE)、アワブキ科(SABIACEAE)、クロウメモドキ科(RHAMNACEAE)、ブドウ科(VITACEAE)、アオイ科(MALVACEAE)、マタタビ科(ACTINIDIACEAE)、ツバキ科(THEACEAE)、イイギリ科(FLACOUTIACEAE)、キブシ科(STACHYURACEAE)、グミ科(ELAEGNACEAE)、ミソハギ科(LYTHRACEAE)、ザクロ科(PUNICACEAE)、ウコギ科(ARALIACEAE)、ミズキ科(CORNACEAE)、リョウブ科(CLETHRACEAE)、ツツジ科(ERICACEAE)、ヤブコウジ科(MYRSINACEAE)、カキノキ科(EBENACEAE)、ハイノキ科(SYMPLOCACEAE)、エゴノキ科(STYRACACEAE)、モクセイ科(OLEACEAE)、キョウチクトウ科(APOCYNACEAE)、クマツヅラ科(VERBENACEAE)、ノウゼンカズラ科(BIGNONIACEAE)、アカネ科(RUBIACEAE)、スイカズラ科(CAPRIFOLIACEAE)、より好ましくは、ヤナギ科(SALICACEAE)、ブナ科(Fragaceae)、シナノキ科(TILIACEAE)、カエデ科(ACERACEAE)、カバノキ科(BETULACEAE)、ニレ科(ULMACEAE)に分類される植物由来の鋸屑が好適に使用できる。鋸屑の粒径としては、0.2〜7mm、好ましくは、0.25〜5mm、より好ましくは、0.3〜3mmである。
【0027】
これら基材の含有量は、体積比で爆砕処理穀類:基材=1:0.1〜1.0が好ましいが、より好ましくは1:0.2〜0.8、最も好ましくは1:0.4から0.6である。なお、基材の粒径の違いによる体積比は本発明において特に限定されるものではない。また、基材に用いられているものの含水率は5〜40質量%、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%の乾燥状態が望ましい。
【0028】
本発明における、穀類に爆砕処理を施したものは、穀粒を用いた場合にはデンプンを多く含むものであるので、シメジの生育に必要な栄養分としても機能する。そのため、本発明の人工栽培用培養基には爆砕処理を施した穀類の他に栄養分を加えなくても構わないが、好ましくは、一般的な食用キノコの菌床栽培に用いられる栄養分を添加するのがよい。そのような栄養分としては、フスマ、オカラ、大豆かす、ビール粕、海藻類等が挙げられ、これらの形状としては長径が1.0mm以上の顆粒状の形態を呈していることが望ましく、さらに好ましくは直径が、1.0〜60mm、より好ましくは1.5〜5.9mm、最も好ましくは1.6〜5.8mmである。これら栄養分の添加量としては、体積比で、爆砕処理穀類:その他の栄養源=1:0.1〜0.5が好ましいが、より好ましくは、1:0.1〜0.4、最も好ましくは1:0.1〜0.2が望ましい。なお、栄養分として用いる素材の粒径の違いによる体積比は本発明において特に限定されるものではない。また、栄養分の素材に用いられているものの含水率は5〜40質量%、より好ましくは5〜25質量%、最も好ましくは5〜20質量%の乾燥状態が望ましい。
【0029】
本発明の人工栽培用培養基の作製方法の一例を以下にあげる。
【0030】
本発明の人工栽培用培養基に含ませる爆砕処理を施した穀類、培養基の基材、および必要に応じて栄養分を所定量計量し、攪拌し、加水して水分調整を行なう。
【0031】
次に本発明の第二のシメジの人工栽培方法について説明する。本発明のシメジの人工栽培方法は、上記した本発明の第一のシメジの人工栽培用培養基を用いる以外は、従来からのシメジの人工栽培方法を採用することができる。栽培方法の種類としては、ビン栽培、袋栽培、トロ箱栽培等の菌床栽培を適用することができる。一例としてビン栽培についてその手順を述べると、培養基の作製、培養基のビン詰め、殺菌、シメジ種菌の接種、培養、芽出し操作、生育、収穫の各工程からなる。次にこれらを具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
まず、培養基の作製は、上記の本発明の第一の人工栽培用培養基の作製方法で述べたとおりである。
【0033】
培養基のビン詰めとは、作製した培養基をビンに詰める工程であり、通常400〜2300ml容の耐熱性広口培養ビンに、培養基を例えば850mlビンの場合は500〜800g、好ましくは600〜750g圧詰し、中央に1〜3cm程度の穴を開け打栓する工程をいう。本発明において、培養基に開ける穴は中央に1つでも、2つ以上の複数であってもよい。より好ましくは、3つ以上である。
【0034】
殺菌とは、蒸気により培養基中のすべての微生物を死滅させる工程であればよく、通常常圧殺菌では98〜100℃、4〜12時間、高圧殺菌では101〜125℃、好ましくは121℃、30〜90分間である。
【0035】
シメジ種菌の接種とは、殺菌後放冷された培養基に種菌を植え付ける工程であり、通常種菌としてはシメジ菌糸をPDA(ポテトデキストロース)(和光純薬工業株式会社)寒天培地等の寒天培地で25℃、30〜60日前培養し、それをブナ鋸屑を体積比で3、オオムギを体積比で2の割合で混合し、上記方法で殺菌し、無菌的に植え付け、25℃で60〜150日間培養後、菌廻りしたものを用いる。これを1ビン当り20gほど無菌的に植え付ける。
【0036】
培養とは、菌糸を生育、熟成させる工程で、通常接種済みの培養基(菌床)を温度20〜25℃、湿度40〜70%において菌糸をまん延させ、更に熟成をさせる。熟成は省くこともできる。培養工程は、850mlビンの場合は通常60〜150日間、好ましくは80日間前後行われる。
【0037】
芽出し操作とは、培養工程を終了した後に栓を外し、子実体原基を形成させる工程で、通常10〜20℃、好ましくは15℃前後、湿度80%以上、照度500〜1000ルクスで15〜20日間行う。この際、菌床面に適当な素材で覆土を施してもよい。覆土素材の例としては、赤玉土、ピートモス、鹿沼土等の園芸用土、天然土壌、パーライト、バーミキュライト等の無機鉱物用土、籾殻、ミズゴケ等の植物由来素材等が好ましい。
【0038】
これらの覆土材は単独でも混合して使用してもよい。更に、覆土材をあらかじめ適当な含水率になるように吸水させておいてから使用してもよい。また栓を外した後、種菌部分と菌床表面に傷をつける、ぶっかき・菌押し、まんじゅう型菌掻き等の操作を行ってもよい。また、芽出し工程中は加湿で結露水が発生しやすいため、濡れを防ぐ目的で菌床面を新聞紙、不織布等で覆ってもよい。また、芽出し工程としてビンを逆さまにして発蕈を促す操作を行ってもよい。
【0039】
生育とは、子実体原基から成熟子実体を形成させる工程で、通常芽出し工程とほぼ同じ条件で10〜15日間行う。以上の工程により成熟子実体を得ることができ、収穫を行って栽培の全工程を終了する。
【0040】
以上、本発明をビン栽培方法により説明したが、袋栽培、トロ箱栽培においても上記の方法により実施することが可能である。
【0041】
次に本発明の人工栽培方法に好適なシメジの菌株について説明する。シメジの菌株としては、生物分類学上シメジ属(Lyophyllum)ヒラタケ属(Pleurotus)、ムラサキシメジ属(Lepista)、キシメジ属(Tricholoma)が挙げられ、日本で標準和名で認識されるホンシメジ(L.shimeji)、オシロイシメジ(L.connatum)、カクミノシメジ(L.sykosporum)、スミゾメシメジ(L.semitale)、シャカシメジ(L.fumosum)、ヤケノシメジ(L.anthracophilum)、イバリシメジ(L.tylicolor)、ハタケシメジ(L.decastes)、ヒラタケ(P. ostreatus)、ヒマラヤヒラタケ(P.sajor-caju)、エリンギ(P.eryngii)、トキイロヒラタケ(P.djamor)、タモギタケ(P.cornucopiae)、ムラサキシメジ(L.nuda)、コムラサキシメジ(L.sordida)、ニオウシメジ(T.giganteum)のほかシメジ属、ヒラタケ属、ムラサキシメジ属、キシメジ属のすべてのキノコが含まれる。これらの株は、野生子実体よりの分離株、種菌メーカーによる市販の菌株、公的機関の保存菌株等が挙げられ、またこれら菌株の変異株、交配株、細胞融合株等、子実体形成能を有している菌株がすべて挙げられる。
【0042】
具体的には、ホンシメジとしては、独立行政法人製品評価技術基盤機構にて微生物標本株として保存されているNBRC100035、シャカシメジとしては、同じくNBRC30662、ムラサキシメジとしてはNBRC30484、スミゾメシメジとしては、ATCC−90762、ヒラタケとしては、株式会社北研で販売している北研H7号、エリンギとしては、株式会社かつらぎ産業で販売しているKE−106号菌株が挙げられるが、子実体形成能力を有する菌株であれば、公的機関の保存菌株であっても、野生からの分離株であってもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、爆砕処理は前述0017の方法に基づき実施し、オオムギの場合で説明する。爆砕処理は、株式会社タチバナ機工で販売されている(商品名「電動式ポン菓子機No.11」)を用いて行った。爆砕処理の条件としては、オオムギ(株式会社はくばく)を1550g(含水率は17質量%)容器内に入れ、ゲージ圧力が1.2MPaになるまで17分加熱し、穀類を高圧密閉釜の扉を急激に開放し、オオムギを空中に曝露させる処理によって、多孔質構造を有する爆砕処理オオムギを得た。
【0044】
実施例1
PDA(ポテトデキストロース)培地(和光純薬工業株式会社)にホンシメジ(NBRC100035)の菌糸を接種し、25℃で30日間前培養し、寒天培地を種菌とした。オオムギ(京都やましろ農業協同組合より購入)を爆砕処理したものとブナ鋸屑(有限会社新井商店)を乾物体積比で3:2に混合し、培養基の含水率が最終的に60%になるように水を加えて十分に攪拌・混合して本発明の培養基を作製した。
【0045】
得られた培養基をポリプロピレン製のヒラタケ培養ビン850ml(千曲化成(株)850cc-直径58mm)に詰めて圧詰し、中央に直径3cm程度の穴を開けたのち打栓し、120℃で60分間高圧蒸気殺菌を行い、放冷した。
【0046】
この栽培ビン32本に上記の寒天培地種菌を接種し、暗所にて温度23℃、湿度60〜70%の条件下で30日間菌糸を培養し、菌床全体に菌糸をまん延させた。次いで栓を外しビン口をオートクレーブ滅菌した土で覆土した後、温度15℃、加湿を85〜100%となるように制御した発生室に移動し、500〜1500ルクス以下の照明下、生育を続け、成熟子実体を得た。得られた成熟子実体の1ビン当りの平均収量は99.5gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、79日であった。
【0047】
比較例1
実施例1においてオオムギに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた1ビン当りの平均収量は、81gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、95日であった。
【0048】
実施例2
実施例1においてシャカシメジ(NBRC30662)菌株を用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当り平均収量は、80.5gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、88日であった。
【0049】
比較例2
実施例2においてオオムギに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。1ビン当りの平均収量は、30.7gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、102日であった。
【0050】
実施例3
実施例1においてムラサキシメジ(NBRC30484)菌株を用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当りの成熟子実体の平均収量は、95gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、125日であった。
【0051】
比較例3
実施例3においてオオムギに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当りの成熟子実体の平均収量は、50.3gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、162日であった。
【0052】
実施例4
実施例1においてスミゾメシメジ(ATCC−90762)菌株を用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当りの成熟子実体の1ビン当りの平均収量は、40.5gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、110日であった。
【0053】
比較例4
実施例4においてオオムギに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当り平均収量は得られた成熟子実体の1ビン当りの平均収量は、25.4gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、121日であった。
【0054】
実施例5
実施例1においてヒラタケ(北研H7号)菌株を用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は90.5gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、45日であった。
【0055】
比較例5
実施例5においてオオムギに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、80.2gであった。接種後の収穫までに要した平均日数は50日であった。
【0056】
実施例6
実施例1においてエリンギKE−106号菌株を用いた以外は全く同様の方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当りの平均収量は、84.3gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、63日であった。
【0057】
比較例6
実施例6においてオオムギに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、79.8gであった。接種後収穫までに要した平均日数は、77日であった。
【0058】
実施例7
実施例1において、オオムギの代わりにイネ(京都やましろ農業協同組合より購入)を用い、オオムギと同様の方法で爆砕処理を行なった。爆砕処理したイネとブナ鋸屑を乾物体積比で3:2に混合し実施例1と同様にして成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、84.6gであった。接種後収穫までに要した日数は、85日であった。
【0059】
比較例7
実施例7においてイネに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、80.4gであった。接種後収穫までに要した日数は、80日であった。
【0060】
実施例8
実施例7において、イネとブナ鋸屑(有限会社新井商店)を乾物体積比で1:1に混合した以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、76.2gであった。接種後収穫までに要した日数は、96日であった。
【0061】
比較例8
実施例8においてイネに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、60.0gであった。接種後収穫までに要した日数は、102日であった。
【0062】
実施例9
実施例8においてヒラタケ(北研H7号)菌株を用いた以外は全く同様の方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、115.6gであった。接種後収穫までに要した日数は、54日であった。
【0063】
比較例9
実施例9においてイネに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、98.4gであった。接種後収穫までに要した日数は、61日であった。
【0064】
実施例10
実施例8においてエリンギ(KE−106号)菌株を用いた以外は全く同様の方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、142.0gであった。接種後収穫までに要した日数は、67日であった。
【0065】
比較例10
実施例10においてイネに爆砕処理を施さずにそのまま用いた以外は全く同様な方法で成熟子実体が得られるまで栽培を行った。得られた子実体の1ビン当たりの平均収量は、112.4gであった。接種後収穫までに要した日数は、88日であった。
以上で得られた結果を表1に示す。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
爆砕処理を施した穀類を含有することを特徴とするシメジの人工栽培用培養基。
【請求項2】
爆砕処理が、圧力0.2MPa〜2.0MPa、温度121〜160℃の飽和水蒸気の存在下で、加圧、加熱した後、低圧下に放出する操作である請求項1記載のシメジの人工栽培用培養基。
【請求項3】
穀類が、オオムギ又はイネである請求項1又は2記載のシメジの人工栽培用培養基。
【請求項4】
穀類が、穀類の穀粒である請求項1〜3のいずれかに記載のシメジの人工栽培用培養基。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のシメジの人工栽培用培養基にシメジの種菌を接種し、人工栽培を行い、発生した子実体を収穫することを特徴とするシメジの人工栽培方法。


【公開番号】特開2008−193969(P2008−193969A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33558(P2007−33558)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】