説明

シャトルベクター

【課題】ロドコッカス属微生物用の誘導型発現シャトルベクターの提供。
【解決手段】ロドコッカス・エリスロポリスPR4株由来の潜在性プラスミドpREC2に由来するベクターであって、ロドコッカス属に属する微生物内およびエシェリキア属に属する微生物内において複製可能であり、ロドコッカス属に属する微生物内で目的遺伝子を誘導発現可能なベクター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロドコッカス属に属する微生物内およびエシェリキア属に属する微生物内で複製可能なシャトルベクターであって、ロドコッカス属に属する微生物用の誘導型発現ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
放線菌の一種であるロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物は、難分解性化合物に対する分解能の高い微生物種として知られており(特許文献1〜4)、その能力を活用することで、有用物質生産および環境浄化に利用されている。例えば、アクリルアミドやニコチンアミドの工業生産、脱硫による石油からの有用物質の生産、あるいは環境中への石油流出時におけるバイオレメディエーションにおいて、ロドコッカス属に属する微生物は利用されている。また、当該微生物の有する、ビフェニル、特にPCBの分解作用や重金属の集積作用を利用して、環境修復過程での利用も研究されている。
【0003】
さらにまた、ロドコッカス属に属する微生物は、有機溶媒耐性と強い酸化還元能とを有するため、特殊なバイオプロセス環境下での次世代宿主の候補として注目されている。
【0004】
このように、ロドコッカス属に属する微生物の有用性が明らかになると共に、ロドコッカス属の宿主ベクター系の開発が期待されてきた。本発明者は、ロドコッカス属に属する微生物を対象に、ニトリル代謝関連酵素のタンパク質、遺伝子の両レベルにおける基礎解析を行うとともに、有用物質の生産に関する研究を行ってきた。そして、ロドコッカス属に属する微生物を対象に、組換えタンパク質生産を行う発現系の構築を目的とした研究を進めている。
【0005】
これまでに、ロドコッカス属においてプラスミドの見出された株には、Rhodococcus sp. H13-A 株 (非特許文献1)、Rhodococcus erythropolis (rhodochrous) ATCC 14348株 (非特許文献2)およびRhodococcus rhodochrous ATCC 4276 等(特許文献5)などがある。そして、さらにRhodococcus属に属する菌株由来のプラスミドに由来する、新しいベクターの開発が強く要望されている。
【0006】
一方、ロドコッカス属用の発現ベクターは、遺伝子組換え時の操作の簡便さから、大腸菌内でもロドコッカス属に属する微生物内でも複製可能なシャトルベクターであることが望まれる。これまでに、大腸菌−ロドコッカス属に属する微生物間のシャトルベクターはいくつか作製されているが(特許文献6、7)、ロドコッカス属に属する微生物内でこれらのシャトルベクターを用いて組換えタンパク質生産を行う発現系の構築はされていなかった。さらに、これまでにロドコッカス属に属する微生物内で著量にタンパク質を生産させる系は、ほとんどなかった(特許文献8)。
【特許文献1】欧州特許第188316号明細書
【特許文献2】欧州特許第204555号明細書
【特許文献3】欧州特許第348901号明細書
【特許文献4】欧州特許出願第307926号明細書
【特許文献5】特許2983602号明細書
【特許文献6】特許第3142348号明細書
【特許文献7】特許第3142349号明細書
【特許文献8】特開2004-321013号明細書
【非特許文献1】Singer ME, Finnerty WR, J. Bacteriol., 170, 638-645 ,1988
【非特許文献2】Hashimoto Y, Nishiyama M, Yu F, Watanabe I, Horinouchi S, Beppu T, J. Gen. Microbiol. 138, 1003-1010,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物内およびエシェリキア属に属する微生物内において複製可能なシャトルベクターであって、ロドコッカス属に属する微生物で目的タンパク質を誘導発現可能なベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
工業的に有用なロドコッカス属に属する微生物から得られる環状プラスミドは、組換えタンパク質を効率的に発現するような調節遺伝子領域を含有していない潜在性プラスミドである。本発明者は、本発明の課題を解決するために、鋭意研究を行った。その結果、ロドコッカス属由来の環状プラスミドの複製可能なDNA領域であるプラスミド複製領域を明らかにし、このDNA領域を損なわないように、大腸菌内で複製可能なDNA領域(複製領域を含む)を環状プラスミドに導入することで、大腸菌とロドコッカス属に属する微生物とで複製可能なシャトルベクターを構築した。そしてニトリラーゼの調節遺伝子領域であるニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域を上記シャトルベクターにさらに導入すると、ロドコッカス属において組換えタンパク質を産生可能であることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ロドコッカス属に属する微生物内およびエシェリキア属に属する微生物内において複製可能なベクターであって、ロドコッカス属に属する微生物内で目的タンパク質を誘導発現可能なベクター。
(2)以下の(a)、(b)および(c)の領域を含むことを特徴とするベクター。
【0009】
(a) ロドコッカス属に属する微生物内で複製可能なDNA領域
(b) エシェリキア属に属する微生物内で複製可能なDNA領域
(c) ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域
ここで、上記(a) ロドコッカス属に属する微生物内で複製可能なDNA領域が、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株の環状プラスミド(例えばpREC2)由来のプラスミド複製領域であってもよい。このプラスミド複製領域は、例えば、複製タンパク質およびDNA結合複製タンパク質をコードするDNA領域である。
【0010】
また、上記(b) エシェリキア属に属する微生物内で複製可能なDNA領域が、pHSG298由来の複製領域を含む領域であってもよい。
【0011】
さらに、上記(c) ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域が、fd-ter、nitAプロモーター、マルチクローニングサイト、fd-terおよびNitRからなる群から選ばれる少なくとも1つを含むものであってもよい。
(3)受領番号がFERM AP-20328であるベクター。
(4)配列番号7で表される塩基配列を含むベクター。
(5)上記(1)〜(4)記載のベクターに目的タンパク質をコードするDNAを挿入した組換えベクター。
(6)上記(1)〜(4)記載のベクターまたは上記(5)記載の組換えベクターにより、宿主を形質転換した形質転換体。
【0012】
上記目的タンパク質は、例えば、L-ニトリルヒドラターゼである。
(7)上記(6)記載の形質転換体を培養し、得られる培養物から目的タンパク質を採取することを特徴とする、目的タンパク質の製造方法。
【0013】
上記目的タンパク質は、例えばL-ニトリルヒドラターゼである。また、上記形質転換体は、例えば、ロドコッカス属に属する微生物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のベクターは、ロドコッカス属およびエシェリキア属に属する微生物内で自律複製可能である。したがって、本発明のベクターへのDNA断片の挿入操作などは、大腸菌を用いることができるため、組換えベクターを容易に構築することができる。
【0015】
本発明のベクターは、ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域を含有するため、目的タンパク質をコードする遺伝子を挿入した組換えベクターを用いて、ロドコッカス属に属する微生物を形質転換することができる。
【0016】
本発明のベクターを用いることで、ロドコッカス属微生物内でL-ニトリルヒドラターゼ(L-NHase)を大量に作らせることが初めて可能となった。本発明の発現系によって高効率に得られるL-NHaseの、芳香族ニトリルに良好に作用する性質を利用して、有用な(芳香族)アミド類の工業的生産への道を切り開くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
1.本発明の概要
本発明のベクターは、ロドコッカス(Rhodococcus)属に属する微生物(以下、「ロドコッカス属微生物」ともいう)内で複製可能なDNA領域、エシェリキア(Escherichia)属に属する微生物(以下、「エシェリキア属微生物」ともいう)内で複製可能なDNA領域およびロドコッカス属微生物由来のニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域を有する。すなわち、本発明のベクターは、ロドコッカス属微生物内およびエシェリキア属微生物内のいずれにおいても複製可能なシャトルベクタープラスミドであり、目的タンパク質をロドコッカス属微生物内で発現させるのに有効なベクターである。

2.ロドコッカス属に属する微生物内で複製可能なDNA領域
(1)PR4株由来環状プラスミド
本発明のシャトルベクターは、ロドコッカス・エリスロポリスPR4 (Rhodococcus erythropolis PR4)株(MBIC社)から得られる環状プラスミドである、pREC2をもとにして作製することができる。ロドコッカス・エリスロポリスPR4株の全ゲノム配列は、すでに独立行政法人 製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation; NITE)によって決定されている。それによると、ロドコッカス・エリスロポリスPR4株は、約270 kbpの線状プラスミド(pREL1;GC含量61.9%)一つと、約100 kbpと約3.6kbpの環状プラスミド二つ(pREC1;GC含量63.0%、pREC2;GC含量62.2%)とを有していることが明らかにされている(図1)。pREC2の塩基配列を配列番号1に示す。この環状プラスミド(pREC1、pREC2)は、上記PR4株の潜在性プラスミドであるため、PR4株で確実に複製されるものである。すなわち、pREC1またはpREC2上に存在するpREC1またはpREC2の複製に関与するDNA領域を明らかにし、当該DNA領域を含有させたプラスミドを作製すると、このようなプラスミドは、ロドコッカス属微生物内で複製することが可能となる。本発明のベクターは、pREC1またはpREC2のプラスミド複製領域を含むものであるため、ロドコッカス属微生物内で複製することが可能である。
(2)ロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域
本発明において、ロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域としては、ロドコッカス属微生物内で複製が可能であれば、pREC1またはpREC2の全体であってもよく、一部であってもよい。ここで、本発明のシャトルベクターがロドコッカス属微生物内で複製が可能となるには、pREC1またはpREC2の複製に関与する部位、すなわちプラスミド複製領域を少なくとも含む必要がある。上記のpREC1またはpREC2のプラスミド複製領域のプラスミド中での存在位置は、例えば、pREC1またはpREC2を各種制限酵素で処理して、種々の長さを有するDNA断片を調製し、得られたDNA断片でロドコッカス属微生物を形質転換し、いずれの長さのDNA断片を有する形質転換体が複製できるかを調べることにより、明らかにすることができる。あるいは、以下の方法により、プラスミド複製領域の存在位置を明らかにすることができる。
【0018】
まず、pREC1またはpREC2中のORF(open reading frame)を検索し、相同性検索を行う。ここで、「ORF」とは、遺伝子としてタンパク質をコードしている読み枠のことである。そして、他の微生物、例えばロドコッカス属と同じくグラム陽性菌に分類される他微生物のプラスミド複製に関与するタンパク質と相同性を有するタンパク質をコードするORFをpREC1中またはpREC2中に見出すことができる。見出したORFのコードするタンパク質は、グラム陰性菌のプラスミド複製に関与するタンパク質とも相同性を有する場合もある。例えば、pREC2の場合、グラム陽性菌のプラスミド複製に関与するタンパク質と相同性を有するタンパク質をコードする二つのORFを見出すことができる(表1)。この2つのORFのうち、ORF1は複製タンパク質(295aa)をコードしており、また、ORF2はDNA結合タンパク質(94aa)をコードしている。また、pREC2のORF1はアエロモナスやシゲラといったグラム陰性菌のプラスミド複製に関与するタンパク質とも相同性を有している。表1において、「Score」は類似性のスコアを意味し、値の大きいほど相同性の高いことを示す。また表1において、「E Value」は期待値(現在のデータベースにおいて、全く偶然に同じスコアになる配列数の期待値)を意味し、値の小さい程相同性の高いことを示す。
【0019】
【表1】

続いて、見出したORFのコードするタンパク質の存在位置と、相同性の確認された微生物種のプラスミドにおけるタンパク質の存在位置とを、比較検討を行う。pREC2で見出された二つのORFのコードするタンパク質の存在位置を、当該タンパク質と相同性の確認された微生物種のプラスミド(図2「pRC4」、「pRG01」、「LIM」)におけるタンパク質の存在位置と比較すると、ORF1とORF2とは、連続して存在していることが明らかである(図2「pREC2」)。さらに、ORF1とORF2とがコードするタンパク質は、相同性の確認されたグラム陽性菌のプラスミドの、複製に関与するタンパク質と同様のサイズの場合もある。
【0020】
以上のような比較検討によって見出されるORFは、pREC1またはpREC2のプラスミド複製領域として同定することができる。
【0021】
本発明において、ロドコッカス属に属する微生物内で複製可能なDNA領域は、ORF1およびORF2を含む領域、すなわち、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、および配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNAを含む領域を含有するものである。また、本発明において、ORF1およびORF2がコードするポリペプチドは、変異ポリペプチドであってもよい。
【0022】
本発明において「変異ポリペプチド」とは、変異していない、基本となるポリペプチドの有する活性と同様の活性を有し、かつ、変異していないポリペプチドのアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、付加などされたアミノ酸配列からなるポリペプチドを意味する。すなわち、本発明においては、ロドコッカス属微生物内での複製活性を有する限り、配列番号3または5で表されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸に欠失、置換又は付加等の変異が生じたアミノ酸配列であって、ロドコッカス属微生物内で複製活性を有するポリペプチドも、本発明に含まれる。
【0023】
ここで、「複製活性」とは、プラスミドが宿主内で自律複製または自律増殖する性質を意味する。本発明において、ORF1およびORF2がコードする変異ポリペプチドは、ロドコッカス属微生物内で複製活性を有すればよく、変異による複製活性の大小に限定されるものではない。
【0024】
配列番号3または5で表されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸に欠失、置換又は付加等の変異が生じたアミノ酸配列としては、例えば(i)配列番号3又は5で表されるアミノ酸配列の1〜20個(好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号3又は5で表されるアミノ酸配列の1〜20個(好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、(iii)配列番号3又は5で表されるアミノ酸配列に1〜20個(好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iv)配列番号3又は5で表されるアミノ酸配列に1〜20個(好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜2個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(v)上記(i)〜(iv)を組み合わせたアミノ酸配列が挙げられる。これらのアミノ酸配列を有するポリペプチドも、ロドコッカス属微生物内での複製活性を有する限り、本発明に含まれる。
【0025】
当該変異ポリペプチドをコードするDNAは、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の部位特異的変異誘発法に従って調製することができる。DNAに変異を導入するには、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いて行うことができる。
【0026】
さらに、ORF1およびORF2のDNAは、前記ポリペプチドまたは変異ポリペプチドをコードする塩基配列を有するDNAであればいずれでもよい。例えば、配列番号3または5で表されるアミノ酸配列をコードするDNAのほか、配列番号3または5で表されるアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドであって、ロドコッカス属微生物内にて複製活性を有するポリペプチドをコードするDNAも本発明において用いることができる。本発明において、上記変異ポリペプチドは、ロドコッカス属微生物内にて複製活性を有するポリペプチドであればよく、変異による複製活性の大小に限定されるものではない。
【0027】
ロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域に含まれるDNAは、上記のとおり、配列番号3および5で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるものを含む。このような塩基配列としては、配列番号2および4で表される塩基配列を有するものの他、遺伝子暗号の縮重による縮重変異DNA並びに配列番号2および4で表される塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ロドコッカス属微生物内で複製活性を有するポリペプチドをコードするDNA(変異DNA)も含まれる。
【0028】
上記変異DNAは、配列番号2および4で表される塩基配列からなるDNAもしくはその相補鎖、またはこれらの断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、ゲノムライブラリーおよびcDNAライブラリーなどから得ることができる。ライブラリーは、公知の方法で作製されたものを利用することも、市販のゲノムライブラリーおよびcDNAライブラリーを利用することも可能である。
【0029】
本発明において「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄時の条件であって、例えば300〜2000mM、温度が40〜75℃、好ましくは塩濃度が600〜900mM、温度が65℃の条件を意味する。例えば、2×SSCで50℃等の条件を挙げることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、本発明のロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域を得るための条件を設定することができる。
【0030】
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))等を参照することができる。ハイブリダイズするDNAとしては、配列番号2又は4で表される塩基配列に対して少なくとも40%以上、好ましくは60%、さらに好ましくは90%(特に好ましくは95%)以上の同一性を有する塩基配列を含むDNA又はその部分断片が挙げられる。
【0031】
本発明において、DNAの塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463) 等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
【0032】
本発明において、ロドコッカス属微生物内にて複製可能なDNA領域に含まれるORF1とORF2の両領域は、1〜200塩基のスペーサー領域を介して存在することができるし、スペーサーを介さず、ORF1の終止コドンに続いてORF2の開始コドンが存在してもよい。また、本発明において、ロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域は、本発明のベクターに、正方向または逆方向に連結させることができる。
【0033】
本発明において、ロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域は、ORF1およびORF2だけではなく、その他の領域、例えば薬剤耐性遺伝子領域、伝達性領域などを含んでいてもよい。
(3)制限酵素認識部位
上記(2)のロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域は、本発明のベクターが当該微生物内において複製するのに必要なプラスミド複製領域であるため、本発明のベクターを構築する上で、これらの領域を破壊しないような制限酵素を選択しておく必要がある。前述のpREC2の場合も、二つのORFを破壊しないような制限酵素を選択する必要がある。
【0034】
このような制限酵素を選択するには、例えば、これまでに明らかになったゲノム情報と、ORFの情報とをもとにして、制限酵素の候補を抽出し、PR4株から例えばアルカリ−SDS法(実施例1を参照できる)によって得られたpREC1またはpREC2を、候補制限酵素で実際に切断することによって確認すればよい。上記操作によって、pREC2上の制限酵素切断部位(制限酵素サイト)を示すプラスミドマッピングが得られる(図3)。本発明のベクターの構築には、pREC2の場合、図3に示す制限酵素を用いることが可能であるが、用いる制限酵素はこれに限定されるわけではなく、当業者であれば、適宜選択することができる。また、決定された全塩基配列情報からもプラスミドマッピングを得ることができる。

3.エシェリキア属に属する微生物内で複製可能なDNA領域
本発明のベクターは、エシェリキア属微生物内において複製可能なDNA領域を含むため、エシェリキア属に属する微生物内で複製することができる。プラスミドがエシェリキア属微生物内において複製可能であるためには、エシェリキア属微生物のプラスミド由来の複製領域(ori)を含有すればよい。エシェリキア属微生物内において複製可能なDNAとしては、pHSG299、pHSG298(以上、タカラバイオ社)、pUC19、pUC18などのプラスミドを用いることが可能であり、複製領域を有する限り、プラスミド全体であってもよく、あるいは一部分であってもよい。pHSG298の塩基配列を配列番号6に示す。
【0035】
すなわち、本発明において、エシェリキア属微生物内で複製可能なDNA領域は、配列番号6で表される塩基配列の複製領域を有するものの他、配列番号6で表される塩基配列からなるDNAの複製領域とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、エシェリキア属微生物内で複製領域として機能するDNA(変異DNA)も含まれる。このような変異DNAは上記2(2)に記載した方法で得ることができる。
【0036】
本発明において、エシェリキア属微生物内で複製可能なDNA領域は、複製領域のほか、さらに薬剤耐性遺伝子、伝達性領域などを含有してもよい。薬剤耐性遺伝子としては、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子などを選択することができる。
【0037】
本発明において、エシェリキア属に属する好ましい微生物は、大腸菌(Escherichia coli)である。

4.シャトルベクターの構築
本発明のベクターは、ロドコッカス属微生物内およびエシェリキア属微生物内で複製可能なシャトルベクターである。上記2および3のDNA領域を含有したベクターは、ロドコッカス属微生物内およびエシェリキア属由来微生物内で複製することが可能である。
【0038】
ロドコッカス属微生物内およびエシェリキア属微生物内で複製可能なシャトルベクターの構築例を以下に示す(図4)。まず、ロドコッカス属PR4株由来の潜在性プラスミドであるpREC2を制限酵素ClaIで切断し、大腸菌発現プラスミドpHSG298を制限酵素AccIで切断する。続いて、切断した両DNA断片を連結させることによって、pRES10を得ることができる。遺伝子組換えの手法は、当業者であれば、公知の技術によって適宜選択することができる。
【0039】
ここで、PR4株は、カナマイシンに感受性である。pHSG298は、カナマイシン耐性遺伝子を有しており、この遺伝子はロドコッカス属微生物で機能することが明らかになっている。すなわち、pRES10を導入したPR4株がカナマイシン耐性活性を獲得したかを調べることによって、構築したベクターがPR4株内で複製可能かが明らかとなり、シャトルベクター構築の成否を判断することができる。
【0040】
ロドコッカス属をシャトルベクターで形質転換するには、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法を用いることができる。
【0041】
エレクトロポレーション法とカナマイシン耐性活性の確認法は、例えば以下のように行うことができるが、これに限定されるわけではない。2YT培地などのロドコッカス属微生物培養培地100mLに、ロドコッカス属微生物を植菌し、30℃で24時間前後培養をした後、集菌する。ペレットを滅菌水と10%グリセロールで洗浄した後、さらに10%グリセロール2.5 mlでペレットを懸濁する。懸濁液を80μlずつ分注し、エレクトロポレーション用のコンピテントセルとする(750倍希釈)。次に、コンピテントセルに、構築したシャトルベクターを2μg加え、混合した後、エレクトロポレーションを行う。パルスは、例えば、1.5kV, 25μF, 400Ωの条件でかけることができる。パルス後、直ちにSOC培地を0.42 ml添加して混合し、30℃で3時間振とう培養する。培養後の菌液を2YT/カナマイシンプレートに塗布し、28℃で5日間培養を行う。
【0042】
以上の条件で得たコロニーを培養し、プラスミドの抽出を行うことによって目的とするシャトルベクターの構築を確認することができる。例えば、pRES10は、PR4株において複製可能であることが示されたため、本発明のシャトルベクターの構築方法に作製したベクターは、ロドコッカス属微生物内においても、エシェリキア属微生物内においても複製することが可能であるといえる。

5.ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域
ロドコッカス・ロドクロスJ1(Rhodococcus rhodochrous J1)株は、アクリルアミドやニコチンアミドの工業的生産に用いられている菌である。J1株からは、ニトリル(RCN)の加水分解を触媒するニトリラーゼが発現しており、ε−カプロラクタム(caprolactam)またはイソバレロニトリルの添加によって、J1株の可溶性タンパク質全体の35%にも相当する量のニトリラーゼが産生されることが知られている(図5)。
【0043】
J1株では、ニトリラーゼはnitA遺伝子によってコードされており、その発現はNitRと呼ばれる転写調節タンパク質(transcriptional positive regulator protein)によって制御されている(Komeda, H., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 10572-10577, 1996)。ε−カプロラクタムまたはイソバレロニトリルといった誘導剤(図5中「Inducer」)が菌体溶液中に添加されると、NitRはε−カプロラクタムまたはイソバレロニトリルと複合体を形成し、nitAプロモーター(図5中「P」)領域の特異的な部位に結合し、ニトリラーゼの発現を活性化する(図5右上図)。このニトリラーゼの発現システムは、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属する微生物における誘導発現系として用いられている(Herai et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 14031-14035, 2004)。
【0044】
本発明のニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域は、例えば5'末端から順にfd-ter、nitAプロモーター(PnitA)、マルチクローニングサイト(MCS)、fd-ter、nitAプロモーター、nitRなどの全部または一部を含むものである(図5右下図)。
【0045】
上記の各要素について、以下に説明する。NitRは誘導剤と複合体を形成し、nitAプロモーターに結合し、nitAプロモーターの下流に位置する遺伝子の発現を活性化する。MCSは発現目的のタンパク質をコードする遺伝子を挿入するための制限酵素サイトが多重化した部位である。MCSのすぐ上流にnitAプロモーターを位置することにより、標的遺伝子の発現を強力に誘導する。NitRもその直前に位置するnitAプロモーターにより誘導されるが、ε−カプロラクタム、イソバレロニトリル、尿素といった誘導剤が存在しなくても、極微量の発現が起こる。また、nitAプロモーターの上流からの読み過ごし(read through)転写を最小限に抑えるために、ターミネーターとしてfd-ターミネーター(fd-ter)を、各nitAプロモーターのすぐ上流に配置する。pIJ418由来のfd-terは、「Kieser, T., Bibb, M. J., Buttner, M.J., Chater, K.F. & Hopwood, D.A. (2000), Practical Streptomyces Genetics: A Laboratory Manual. (The John Innes Foundation, Norwich, United Kingdom)」に記載されており、その塩基配列の情報は「Gentz, R., Langner, A., Chang, A.C.Y., Cohen, S.N. & Bujard, H. (1981) Proc.Natl. Acad. Sci. USA 78, 4936-4940.」に記載されている。例えば、fd-terは、388 bpの大腸菌ファージゲノムからSau3Aフラグメントとして単離することができるが、そのフラグメントの内部配列の両末端を用いてPCR増幅を行い、本発明に用いることもできる。
【0046】
本発明のニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域は、例えばpSH031あるいはpSH19の全部または一部を利用することができる。図6にpSH031およびpSH19作製の概略を示す。
【0047】
本発明において、ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域は、誘導剤によって標的遺伝子の発現が誘導されるものであればよく、pSH031またはpSH19由来の塩基配列からなるDNAに限定されず、変異DNAであってもよい。また、本発明の当該プロモーター領域は、上記の要素のほか、スペーサー、オペレーター、スプライシング領域、ポリA付加部位などを含有することもできる。

6.ロドコッカス属微生物用の誘導型発現シャトルベクターの構築
本発明のロドコッカス属微生物用の誘導型発現シャトルベクターは、pREC2由来のロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域(上記2参照)と、エシェリキア属微生物内で複製可能なDNA領域(上記3参照)と、ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域(上記5参照)とを含むものである。上記の各DNA領域を単離し、連結することは、当業者であれば、適宜公知の技術を用いて容易に行うことができる。
【0048】
本発明のロドコッカス属微生物用の誘導型発現シャトルベクターの構築例を図7に示す。
【0049】
まず、pREC2を制限酵素StuIで消化し、複製タンパク質とDNA結合タンパク質をコードするDNA領域を含むStuI断片(2524bp)を作製する。
【0050】
また、エシェリキア属微生物内で複製可能なpHSG298を、制限酵素SacIとSphIで消化し、SacI−SphI断片を平滑末端処理する。
【0051】
次に、pREC2からのStuI断片と、pHSG298からのSacI−SphI断片とを連結させて、pREHSG298(5161bp)を作製する。pREHSG298は、ロドコッカス属微生物とエシェリキア微生物とのシャトルベクタープラスミドである。続いて、得られたpREHSG298を制限酵素EcoRIとXhoIとで消化し、EcoRI−XhoI断片を平滑末端処理する。
【0052】
この一方で、ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域を含有するpSH031を制限酵素EcoT221とBsp14071とで消化し、得られたEcoT221−Bsp14071断片(ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域を含む)を平滑末端処理しておく(2003bp)。
【0053】
次に、pREHSG298からのEcoRI−XhoI断片(平滑末端処理済み)と、pSH031からのEcoT221−Bsp14071断片(平滑末端処理済み)とを連結させてpREIT19(6204bp)を作製する。
【0054】
このpREIT19は、pREC2由来のロドコッカス属微生物内で複製可能なDNA領域、pHSG298由来のエシェリキア属微生物内で複製可能なDNA領域、およびpSH031由来のニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域を含むものである。配列番号7にpREIT19の塩基配列を示す。本発明のベクターは、配列番号7で表される塩基配列からなるベクターだけではなく、ロドコッカス属微生物内で目的タンパク質の発現を誘導する限り、変異を含んだ変異ベクターであってもよい。
【0055】
変異ベクターとは、例えば配列番号7で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ロドコッカス属微生物内で目的タンパク質の発現を誘導しうるベクターである。変異ベクターの作製方法は、上記2(2)を参照すればよい。
【0056】
図8に、pREIT19の構造を示す。pREIT19は、カナマイシン(Km)に対して耐性を示し、pREIT19で形質転換した大腸菌の安定性は、カナマイシン存在下で20世代培養後のプラスミド保持率が85.8%であるのに対して、カナマイシン非存在下で20世代培養後のプラスミド保持率は43.6%である。また、pREIT19で形質転換したPR4株の安定性は、カナマイシン存在下で20世代培養後のプラスミド保持率が98.2%であるのに対して、カナマイシン非存在下で20世代培養後のプラスミド保持率は76.4%である。
【0057】
本発明は、受領番号がFERM AP-20328であるベクター〔表示名:「pREIT19」、寄託先:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305-8566)、寄託日:平成16年12月16日)を提供する。
【0058】
本発明のロドコッカス属微生物用の誘導型発現シャトルベクターには、目的タンパク質をコードするDNAが含まれていてもよい。当該DNAは、本発明のベクター中に存在するMCSに挿入することができる。

7.ロドコッカス属微生物における目的タンパク質の発現
(1)組換えベクター
本発明のロドコッカス属微生物用誘導発現シャトルベクターを用いて目的のタンパク質をロドコッカス属微生物において発現させるためには、本発明のベクターに目的タンパク質をコードするDNAを挿入した組換えベクターを作製する必要がある。
【0059】
本発明の組換えベクターは、本発明のベクター(例えばpREIT19)に目的タンパク質をコードするDNAを挿入して作製してもよいし、本発明のベクター(例えばpREIT19)を作製する途中で使用するプラスミド(例えばpHSG298)に当該DNAを挿入した後、本発明のベクターを作製するのと同じ手順で、当該DNAを含む組換えベクターを作製してもよい。
【0060】
本発明において、目的タンパク質は、特に限定されるものではなく、酵素、ホルモン、サイトカイン、調節タンパク質などを任意に挙げることができ、例えばL-ニトリルヒドラターゼ(L-NHase)を用いることができる。これらのタンパク質をコードするDNAを本発明のベクターのMCSに挿入することで、本発明の組換えベクターを作製することができる。L-NHaseをロドコッカス属微生物で発現させるために用いる組換えベクターは、L-NHaseのαサブユニットおよびβサブユニットをコードする遺伝子(nhlAおよびnhlB)を増幅し、本発明のベクター中のMCSに挿入することで作製することができる。当該L-NHase遺伝子は、例えば、Rhodococcus rhodochrous J1由来のL-NHase遺伝子(nhlB、nhlA)を含むプラスミドpLJK60(J. Biol. Chem., 271, 15796-15802 1996)を鋳型に用いたPCR法により得ることができる。pLJK60の塩基配列を配列番号8に示す。nhlBの塩基配列は配列番号8の1133-1813番であり、アミノ酸配列を配列番号9に示す。nhlAの塩基配列配列番号8の1877-2500番であり、アミノ酸配列を配列番号10に示す。L-NHaseの塩基配列はGenBankに登録されており(accession number; X64360)、この塩基配列の情報から当業者であれば、L-NHase遺伝子をRhodococcus rhodocurous J1の染色体DNA、ゲノムライブラリーなどから得ることもできる。
(2)形質転換体
本発明の形質転換体は、宿主を本発明のベクターまたは本発明の組換えベクターで形質転換することで作製できる。形質転換の方法は、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法を用いることができる。エレクトロポレーション法は、上記4を参照することができる。本発明において用いる宿主は、ロドコッカス属微生物、エシェリキア属微生物である。目的タンパク質を発現させるために用いる宿主は、好ましくはロドコッカス属微生物である。ベクタープラスミドの増殖、回収に用いる宿主は、ロドコッカス属微生物またはエシェリキア属微生物を用いることができるが、好ましくはエシェリキア属微生物である。
(3)タンパク質の産生
本発明は、目的タンパク質の製造方法も提供することができる。すなわち、(2)の形質転換体を培養し、得られる培養物から目的タンパク質を採取することにより、目的タンパク質を製造することができる。
【0061】
形質転換体の培養方法は、宿主に用いるロドコッカス属微生物、エシェリキア属微生物に適した方法を適宜選択すればよい。
【0062】
また、本発明のベクターは誘導剤によって目的遺伝子の発現を誘導することができるため、培養時にε−カプロラクタム、イソバレロニトリルなどの誘導剤を添加することができる。宿主にロドコッカス属微生物を用いるときは、ε−カプロラクタムを0.01〜1%、好ましくは0.05〜0.2%、より好ましくは0.1%添加して、またはイソバレロニトリルを0.01〜1%、好ましくは0.05〜0.2%、より好ましくは0.1%添加して、24〜96日培養することができる。
【0063】
本発明において「培養物」とは、菌体、培養液、無細胞抽出液、細胞膜などの培養により得られるものを意味する。無細胞抽出液は、培養後の菌体を、例えばリン酸ナトリウム緩衝液を加えてホモジナイザーなどで物理的に破砕した後、遠心(15,000rpm, 10min, 4℃)し、破砕できない菌体(細胞)が存在しないように上清を回収して得ることができる。細胞膜は、上記遠心で得られたペレットを溶解バッファーで懸濁することにより得ることができる。
【0064】
目的タンパク質は、培養物をそのまま用いてもよいし、透析や硫安沈殿などの公知の方法、あるいはゲルろ過、イオン交換、アフィニティー等の各種クロマトグラフィーなどの公知の方法を単独または適宜組み合わせることによって、濃縮、精製したものを用いてもよい。

以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0065】
プラスミドの抽出
(1)ロドコッカス属微生物からのプラスミドの抽出
ロドコッカス属微生物からのプラスミドの大量調製は、Sambrook and Russellの方法を参考にした。培養液には2YT +Km(カナマイシン)を用いた。
【0066】
まず、培養液にロドコッカス属微生物を植菌し、培養液を遠心して集菌した。この集菌サンプルにSolution Iを6mL添加して菌を懸濁し、リゾチーム(0.5 mg/ 500 mL培養液)を加えて37℃で3時間反応した。Solution II 12mLを加え、氷中に5 minおき、氷冷したsolution III 9mLを加えた後、室温で10 min静置した。混和し遠心(8,000rpm, 10min, 4℃)し、上清を回収した。上清にイソプロパノール18 mLを加え、室温で10 min静置した後、遠心(8,000rpm, 10min, 4℃)した。上清を除き、ペレットを75% エタノールでリンスした後、遠心(8,000rpm, 10min, 4℃)し、アスピレーターでエタノールを除き、室温乾燥で残留したエタノールを完全に揮発させた。
【0067】
続いて、1×TE(Tris-EDTA)700 μLでペレットを完全に溶解させ、氷中に置いた5M LiClを700 μL加えてよく混ぜた後、遠心(8,000rpm, 10min, 4℃)した。上清を回収し、イソプロパノール1.4 mLを加え、室温で10 min静置した後、遠心(8,000rpm, 10min, 4℃)した。上清をデカントで除き、ペレットを75% エタノールでリンスし、室温で乾燥させた。さらに1M NaClを加えてよく混ぜ、室温で10minおいた後、遠心(8,000rpm, 10min, 4℃)した。回収したペレットをエタノール沈殿にてリンスし、得られたサンプルを50~100μLの滅菌水で溶解させた。
【0068】
超遠心によるcccプラスミド(共有結合的閉環状DNA;covalently closed circular DNA)の回収はサンプル量と1×TE量が合計5.0mLになるように1×TEを加え、さらに1×TEの1.15倍量のCsCl2、1×TEの1/10量の10mg/ml エチジウムブロミド(EtBr)溶液を加えた。遠心(12,000rpm, 10min, 室温)後、上清を超遠心チューブ二つに分注し、バランスをとって超遠心(80,000rpm, 16h, 室温)にかけた。cccプラスミド層を回収し、塩飽和1-ブタノール(Butanol)で(EtBrに由来する)溶液の赤色が無くなるまで1- Butanol抽出を繰り返し行った。サンプル回収量に対して2倍量の1×TEを加え、更に倍量のエタノールを加えて、室温で10min静置した後、遠心(12,000rpm, 20min,室温)した。ペレットを75%エタノールでリンスした後、滅菌milliQに溶解させた。
(2)大腸菌からのプラスミド抽出
大腸菌の培養液は、5 ml 2YT +50μg/ml Km(カナマイシン)を用いた。
【0069】
培養した大腸菌からのプラスミド抽出は、MagExtractor-Plasmidキット(東洋紡社)を用い、説明書に従ってプラスミドを抽出した。
(3)アガロースゲルからのDNA断片抽出
MagExtractor-PCR & Gel clean up-キット(東洋紡社)を用いて、アガロースゲルから説明書に従いDNA断片を抽出した。
【実施例2】
【0070】
L-ニトリルヒドラターゼ(L-NHase)の発現
(1)PCR組成、PCR反応条件
L-NHaseは、αサブユニットとβサブユニットとが会合した高次構造をとっている。L-NHaseを構成するαサブユニットとβサブユニットをコードするそれぞれの遺伝子(nhlA、nhlB)をKOD-PLUS DNA Polymerase (東洋紡社)で増幅した。鋳型には、pLJK60を用いた。PCRに用いたプライマーは、以下のとおりである。
L-NHase-S; 5'-CATCTAgAAgCAACggAggTACggACATggATggAATCCACgACCTCggTggCCgC-3'(配列番号11)(5'末端側にXbaIサイトを付加してある)、および、
L-NHase-AS; 5'-CAgAgCTCTCAggCCTTgCTgggTgTgg-3'(配列番号12)(5'末端側にSacIサイトを付加してある)
反応液組成は、KOD-PLUS DNA Polymeraseの説明書に従った。
【0071】
【表2】

(2)組換えベクターの作製
増幅したPCR産物はアガロースゲル電気泳動後、ゲルから抽出した後、HincII切断処理したpHSG298に導入した。
【0072】
さらに、得られたプラスミドをSacI-XbaI(それぞれプライマーに付加させた制限酵素サイト)で切断し、アガロースゲル電気泳動後、ゲルから抽出した。同時にpREIT19をSacI-XbaIで切断し、BAP(大腸菌由来のアルカリフォスファターゼ)処理(60℃, 1h)した後、アガロースゲル電気泳動を行い、ゲルから抽出した。それぞれをライゲーションすることで、目的とする組換えベクターを構築した。ライゲーションはLigation highキット(東洋紡社)を用いて、16℃、1h以上反応させることで行った。
(3)形質転換方法
2YT培地(100mL/500mL坂口フラスコ)に前述のPR4株またはRhodococcus fascians JCM6163菌を植菌し、28℃でOD660=0.9-1.2まで培養した後、集菌(3,000rpm, 10min, 4℃)した。菌体を、氷冷した滅菌milliQで1回、同じく氷冷した10%グリセロールで2回リンスした後、10%グリセロール 2.5mLに懸濁し(40倍濃縮)、分注してコンピテントセルとした。コンピテントセルを-80℃で保存し、使用する直前に氷中にて融解させて使用した。
【0073】
このコンピテントセル80μLにプラスミド2μgを加え混合した。予冷した0.1cmキュベットに全量移し、Gene Pulser(BioRad社)にセットし、1.5kV, 25μF, 400Ωでパルスをかけ、その後すぐにSOC培地 0.42mLを加え、ピペッティングにより均一に混合した。全量を新しい1.5mLエッペンドルフチューブに移し、30℃, 3h培養した後、2YT/Km プレートにスプレッドし、28℃で培養を行い、コロニー形成によってプラスミド導入の確認を行った。
(4)コロニーの確認
プラスミド導入から3-5日でロドコッカス属にてコロニーの形成を確認した。大腸菌から抽出したプラスミドを導入した場合の形質転換効率は、PR4株を宿主とした場合は、101 cfu/μgプラスミド、JCM6163株を宿主とした場合は103 cfu/μgプラスミドであった。ロドコッカス属から抽出したプラスミドを導入した場合の形質転換効率は、JCM6163株を宿主とした場合は105 cfu/μgプラスミドであった。
(5)プラスミド抽出
実施例1記載の方法と同様の方法で、大腸菌及びロドコッカス属のコロニーからプラスミドの抽出を行った。
(6)SDS-PAGE
Sambrook and Russellの方法に従い、12%のポリアクリルアミドゲルを作製し、SDS-PAGEを行った。
(7)発現の比較
pREIT19にL-NHaseを連結したプラスミドを導入したRhodococcus fascians(JCM6163)株を、50μg/ml Kmと0.01% CoCl2を添加した10 mlの2YT培地に植菌し、培養開始時から誘導剤としてイソバレロニトリルを0.1%添加した。比較実験としてイソバレロニトリルを添加していない培地を用いた。28℃で3日間培養し、L-NHaseの発現の検討を行った。12,000rpm, 5min, 4℃で集菌し、リン酸ナトリウム緩衝液を加え、菌体を破砕した後、遠心(15,000rpm, 10min, 4℃)し、回収した上清を無細胞抽出液とした。無細胞抽出液を等量のSDS-PAGE用のサンプル溶液と混合し、湯浴上で5min加熱処理し、SDS-PAGEに用いるサンプルとした。
【0074】
SDS-PAGEの結果、誘導剤を添加した場合においてのみL-NHaseのαβ両サブユニットが著量発現しているのを確認することが出来た(図9)。また、誘導剤としてε-カプロラクタムを添加した場合にもL-NHaseの誘導発現が確認できた。誘導発現効果はイソバレロニトリルの方がε-カプロラクタムよりも高かった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】Rhodococcus erythropolis PR4のクロモソームと、潜在性プラスミドを模式的に示す図である。「IS」はInsertion Sequence(挿入配列)を、「rRNA」はribosomal RNA(リボソームRNA)を意味する。
【図2】pREC2、pRC4、pRG01およびLIMにおけるプラスミド複製領域を比較した図である。
【図3】pREC2のプラスミドマッピングを示す図である。
【図4】ロドコッカス属微生物内およびエシェリキア属微生物内で複製可能なシャトルベクターの構築例を示す図である。
【図5】ロドコッカス・ロドクロスJ1株のニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター系を示す概略図である。
【図6】pSH031およびpSH19作製の概略を示す図である。
【図7】本発明のロドコッカス属微生物用の誘導型発現シャトルベクター構築例を示す図である。
【図8】pREIT19の性質を示す図である。
【図9】L-NHaseを発現する組換えベクターおよび当該ベクターを用いてL-NHaseをRhodococcus fasciansで発現させたときのSDS-PAGEの結果を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0076】
配列番号6;ベクター
配列番号7;ベクター
配列番号8;ベクター
配列番号11;プライマー
配列番号12;プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロドコッカス属に属する微生物内およびエシェリキア属に属する微生物内において複製可能なベクターであって、ロドコッカス属に属する微生物内で目的タンパク質を誘導発現可能なベクター。
【請求項2】
以下の(a)、(b)および(c)の領域を含むことを特徴とするベクター。
(a) ロドコッカス属に属する微生物内で複製可能なDNA領域
(b) エシェリキア属に属する微生物内で複製可能なDNA領域
(c) ニトリラーゼ系誘導型発現プロモーター領域
【請求項3】
受領番号がFERM AP-20328であるベクター。
【請求項4】
配列番号7で表される塩基配列を含むベクター。
【請求項5】
請求項1〜4記載のベクターに目的タンパク質をコードするDNAを挿入した組換えベクター。
【請求項6】
請求項1〜4記載のベクターまたは請求項5記載の組換えベクターにより、宿主を形質転換した形質転換体。
【請求項7】
請求項6記載の形質転換体を培養し、得られる培養物から目的タンパク質を採取することを特徴とする、目的タンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−180843(P2006−180843A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380940(P2004−380940)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年7月1日 日本放線菌学会発行の「2004年度 日本放線菌学会大会要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、生物機能を活用した生産プロセスの基盤技術開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】