説明

シャペロニン−目的タンパク質複合体及びその製造方法

【課題】単離・精製された膜受容体を活性保持した状態で安定化することができ、膜受容体の取扱いを容易にする技術を提供する。
【解決手段】2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と、当該シャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合している目的タンパク質とを含み、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されてなるリング状構造体を形成可能であると共に当該リング状構造体の内部に前記目的タンパク質を格納可能なシャペロニン−目的タンパク質複合体であって、前記目的タンパク質は、動物細胞内で発現させた膜受容体であることを特徴とするシャペロニン−目的タンパク質複合体が提供される。シャペロニン連結体と目的タンパク質とをタグを介して結合することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャペロニン−目的タンパク質複合体及びその製造方法に関する。本発明は、エンドセリン受容体等の膜受容体を標的とする医薬品開発等に有用なものである。
【背景技術】
【0002】
細胞表面上の膜受容体は、細胞外の情報を細胞内へ伝達するきわめて重要な働きを担っている。膜受容体に結合する物質はアゴニスト型/アンタゴニスト型医薬の候補となり得るため、膜受容体と被験物質との結合性や相互作用を正確かつ迅速に解析する技術が求められている。
【0003】
膜受容体を単離・精製する方法としては、細胞膜上に所望の膜受容体を発現させ、膜画分を界面活性剤等で可溶化し、その後、クロマトグラフィー等の手法を用いて行うのが一般的である。しかし、膜受容体はそれ自体が構造的に不安定であり、精製の過程でしばしば失活してしまい、取扱いが難しい。精製された膜受容体が不安定となる理由としては、膜受容体は細胞膜上では他のサブユニットや補因子によって安定化されているが、精製の過程で当該のサブユニット等が脱落してしまうことが考えられる。そのため、活性低下をできるだけ抑えるべく、膜受容体の活性保持に必要なサブユニット等を脱落させないような、できるだけ穏やかな条件で短時間に単離・精製を行う必要がある。また精製された膜受容体の保存についても、5℃程度の冷蔵あるいは−80℃程度の超低温冷凍保存が一般に採用されている。しかし、実際には超低温冷凍保存によっても活性低下を抑えることはできず、長期保存は難しい。このような現状の下、膜受容体を用いる実験、例えば膜受容体の結晶構造解析を行う際には、精製した膜受容体を保存することなく直ちに結晶作製等の次工程に供するのが、膜受容体を取り扱う上での技術常識となっている。なお、大腸菌等のバクテリアを宿主として膜受容体を大量発現させる系が存在するが、この系では、動物細胞の細胞膜上に存在している天然型の膜受容体と構造的に同等のものを得ることが一般に困難である。
【0004】
一方、目的タンパク質を安定した状態で保持できる技術として、シャペロニンのリング状構造体を利用する技術が知られている。シャペロニンは分子シャペロンの一種であり、分子量約6万のサブユニット(シャペロニンサブユニット)からなる複合タンパク質である。代表的なシャペロニンは、シャペロニンサブユニット7〜9個からなるリング状構造体が2個重なった、総分子量80万〜100万程度のシリンダー状の巨大な複合体を形成している。そしてシャペロニンは、そのリング状構造体の内部に他のタンパク質を格納可能であり、当該タンパク質を正しく折り畳む(リフォールディング)と共に外部環境から隔離することができる。
【0005】
2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結された人工タンパク質(シャペロニン連結体)が作製されている(特許文献1)。天然型のシャペロニンと同様に、シャペロニン連結体もリング状構造体を形成することができ、その内部に目的タンパク質を格納可能である。また、シャペロニン連結体と目的タンパク質とが非共有結合的に結合した「シャペロニン−目的タンパク質複合体」も知られている(特許文献2)。特許文献2によれば、いくつかの目的タンパク質とシャペロニンの組み合わせについて、シャペロニン−目的タンパク質複合体がリング状構造体を形成することができ、その内部に目的タンパク質を格納可能であることが実証されている。この際、シャペロニン連結体あるいは目的タンパク質を発現させる宿主として、大腸菌が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第02/052029号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/096859号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、膜受容体は取扱いが難しいものであり、膜受容体を活性保持した状態で容易に扱える技術が求められている。本発明の目的は、単離・精製された膜受容体を活性保持した状態で安定化することができ、膜受容体の取扱いを容易にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と、当該シャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合している目的タンパク質とを含み、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されてなるリング状構造体を形成可能であると共に当該リング状構造体の内部に前記目的タンパク質を格納可能なシャペロニン−目的タンパク質複合体であって、前記目的タンパク質は、動物細胞内で発現させた膜受容体であることを特徴とするシャペロニン−目的タンパク質複合体である。
【0009】
本発明はシャペロニン−目的タンパク質複合体に係るものである。本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体(以下、単に「本発明の複合体」と略記することがある。)は、シャペロニン連結体と目的タンパク質たる膜受容体とを含むものであり、当該膜受容体がシャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合することで複合体を構成している。また複合体自体は、シャペロニンサブユニットがリング状に配置されてなるリング状構造体を形成可能であり、かつ当該リング状構造体の内部に膜受容体を格納可能である。そして、本発明の複合体は上記の基本構成を備えるとともに、目的タンパク質たる膜受容体として動物細胞内で発現された膜受容体を有している。本発明の複合体では、含まれる膜受容体が動物細胞内で発現されたものであり、大腸菌等で発現させたものではない。そのため、細胞膜上に存在する天然型の膜受容体に、構造的に極めて近い。さらに、リング状構造体の内部に当該膜受容体を格納可能であるので、膜受容体が活性を保った状態で安定的に保持される。そのため、本発明の複合体によれば、天然型に極めて近い構造の膜受容体を、安心かつ容易に取り扱うことができる。またさらに、本発明の複合体はシャペロニン連結体と膜受容体とが非共有結合的に結合したものであるので、複合体を製造する際に必要となるシャペロニン連結体と膜受容体との結合を容易に行える。
【0010】
ここで「非共有結合的な結合」とは、共有結合以外の結合をいい、具体的には、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、などが例示される。
【0011】
請求項2に記載の発明は、シャペロニン連結体と目的タンパク質のいずれか一方にアフィニティタグが連結され、他方に当該アフィニティタグに対する特異的親和性を有するパートナータグが連結され、シャペロニン連結体と目的タンパク質とが前記アフィニティタグと前記パートナータグとを介して非共有結合的に結合していることを特徴とする請求項1に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体である。
【0012】
本発明の複合体では、シャペロニン連結体と目的タンパク質のいずれか一方にアフィニティタグ、他方にパートナータグが連結されており、当該アフィニティタグと当該パートナータグとの特異的親和性によってシャペロニン連結体と膜受容体とが非共有結合的に結合している。本発明ではアフィニティタグ/パートナータグの組み合わせを採用しているので、シャペロニンや膜受容体の種類を問わない画一的な構成をもってシャペロニン−目的タンパク質複合体を構築することができる。
【0013】
ここで「アフィニティタグ/パートナータグ」とは、例えば、抗原/抗体、酵素/基質のような非共有結合的な特異的親和性を有する2種類の物質をタグとして使用するとき、一方をアフィニティタグ、他方をパートナータグと称する。
【0014】
前記アフィニティタグと前記パートナータグがS−タグとS−タンパク質との組み合わせからなる構成が好ましい(請求項3)。
【0015】
前記膜受容体がエンドセリン受容体である構成が好ましい(請求項4)。
【0016】
前記シャペロニンが大腸菌GroELである構成が好ましい(請求項5)。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体を製造する方法であって、所望の膜受容体を発現している動物細胞の破砕物から当該膜受容体を単離する第一工程と、第一工程で単離された膜受容体をシャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合させる第二工程とを包含することを特徴とするシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法である。
【0018】
本発明はシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法に係るものである。本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」と略記することがある。)は、上記した本発明の複合体を製造する方法に係り、動物細胞から膜受容体を単離する第一工程と、シャペロニン連結体と膜受容体とを結合させる第二工程を包含する。本発明の製造方法によれば、天然型に極めて近い構造の膜受容体を安定的に保持できる本発明の複合体を、効率的に製造することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、第一工程において、前記動物細胞又はその破砕物を界面活性剤又は脂質で処理することを特徴とする請求項6に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法である。
【0020】
かかる構成により、活性を保った状態の膜受容体を容易に調製することができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、前記動物細胞は、膜受容体をコードする遺伝子とアフィニティタグ又はパートナータグをコードする遺伝子とを連結させてなる融合遺伝子を有し、当該融合遺伝子を発現しているものであることを特徴とする請求項6又は7に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法である。
【0022】
本発明の製造方法は、主に、シャペロニン連結体と膜受容体とがアフィニティタグ/パートナータグを介して結合している本発明の複合体を製造する方法に係るものである。本発明では、アフィニティタグ又はパートナータグを連結させた膜受容体を調製するにあたり、膜受容体をコードする遺伝子とアフィニティタグ又はパートナータグをコードする遺伝子とを連結させてなる融合遺伝子を利用し、当該融合遺伝子を発現している動物細胞から膜受容体を調製する。本発明によれば、シャペロニン連結体と膜受容体とがアフィニティタグ/パートナータグを介して結合している本発明の複合体を、より効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体によれば、天然型に極めて近い構造の膜受容体を、安心かつ容易に取り扱うことができる。その結果、膜受容体を標的とした被験物質のスクリーニング等を簡単かつ正確に行うことが可能となる。
【0024】
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法によれば、本発明の複合体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体は、2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と、当該シャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合している目的タンパク質とを含み、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されてなるリング状構造体を形成可能であると共に当該リング状構造体の内部に前記目的タンパク質を格納可能なシャペロニン−目的タンパク質複合体であって、前記目的タンパク質は、動物細胞内で発現させた膜受容体であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の複合体に含まれる目的タンパク質は、「動物細胞内で発現させた膜受容体」である。動物細胞の由来としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、カエル、ウシ、ブタ、サル、ニワトリなどが挙げられる。動物細胞としては、組織から単離した細胞でもよいし、膜受容体遺伝子が導入された組換え体でもよい。膜受容体の例としては、エンドセリン受容体が挙げられる。ここで、ヒトエンドセリン受容体タイプA(hETAR)の遺伝子(cDNA)塩基配列とアミノ酸配列を配列番号1に、アミノ酸配列のみを配列番号2に示す。
【0027】
本発明の複合体は、2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体を含む。ここで一般に、シャペロニンはグループ1型とグループ2型とに大別されている。バクテリアや真核生物のオルガネラに存在するシャペロニンはグループ1型に分類され、いずれも分子量60kDaからなるシャペロニンサブユニット7つが環状に連なるリング状構造体を形成し、さらに2つのリング状構造体が重なった2層構造を有する、14量体のホモオリゴマーを形成する。これらはコシャペロニンと称される分子量約10kDaのタンパク質の環状7量体を補因子とする。グループ1型シャペロニンの具体例としては、大腸菌由来のシャペロニンであるGroELが挙げられる。一方、グループ2型シャペロニンは、真核生物の細胞質や古細菌にみられ、通常8〜9個のシャペロニンサブユニットからなるリング状構造体が重なった2層構造を有する、16〜18量体のホモ又はヘテロオリゴマーを形成する。本発明の複合体に含まれるシャペロニン連結体を構成するシャペロニンサブユニットは、グループ1型及びグループ2型のいずれに属するものでもよい。ここで、大腸菌GroEL(グループ1型シャペロニン)のサブユニットの遺伝子塩基配列とアミノ酸配列を配列番号3に、アミノ酸配列のみを配列番号4に示す。さらに、古細菌Thermococcus sp.由来のシャペロニン(グループ2型シャペロニン)のβサブユニットの遺伝子塩基配列とアミノ酸配列を配列番号5に、アミノ酸配列のみを配列番号6に示す。
【0028】
シャペロニン連結体を構成するシャペロニンサブユニットの数としては、複合体がリング状構造体を形成可能な数であればよい。好ましくは、グループ1型シャペロニンの場合には7個、グループ2型シャペロニンの場合には8〜9個である。
【0029】
本発明の複合体においては、シャペロニン連結体と目的タンパク質とが非共有結合的に結合している。前述のとおり、非共有結合的な結合とは共有結合(ペプチド結合等)以外の結合をいい、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、などが具体例として挙げられる。
【0030】
好ましい実施形態では、シャペロニン連結体と目的タンパク質のいずれか一方にアフィニティタグが連結され、他方に当該アフィニティタグに対する特異的親和性を有するパートナータグが連結され、シャペロニン連結体と目的タンパク質とが前記アフィニティタグと前記パートナータグとを介して非共有結合的に結合している。前述のとおり、非共有結合的な特異的親和性を有する2種類の物質をタグとして使用するとき、一方をアフィニティタグ、他方をパートナータグと称している。アフィニティタグ/パートナータグの例としては、S−タグとS−タンパク質;IgG(Fc部分)とプロテインA又はプロテインG;FLAGペプチドと抗FLAG抗体;プロテインLとイムノグロブリンκ軽鎖;アビジンとビオチン;ヒスチジンと金属キレート体(例えば、ニッケルイオンなど)、等の各組み合わせが挙げられる。特に、S−タグ/S−タンパク質のようなペプチド・タンパク質からなるタグであれば、シャペロニン連結体又は目的タンパク質との融合タンパク質として発現させることで、シャペロニン連結体又は目的タンパク質に対して容易に連結することができる。ここで、S−タグの遺伝子塩基配列とアミノ酸配列を配列番号7に、アミノ酸配列のみを配列番号8に示す。さらに、S−タンパク質の遺伝子塩基配列とアミノ酸配列を配列番号9に、アミノ酸配列のみを配列番号10に示す。
【0031】
本発明のシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法は、所望の膜受容体を発現している動物細胞の破砕物から当該膜受容体を単離する第一工程と、第一工程で単離された膜受容体をシャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合させる第二工程とを包含する。
【0032】
第一工程で用いる動物細胞としては、所望の膜受容体を発現しているものであれば、組織から単離した細胞でもよいし、膜受容体遺伝子が導入された組換え体でもよいが、生産効率の点で組換え体が好ましく用いられる。好ましい実施形態では、第一工程において、動物細胞又はその破砕物を界面活性剤又は脂質で処理する。本実施形態によれば、膜受容体をより温和な条件で可溶化することができる。界面活性剤の種類としては、陰イオン性、陽イオン性、両イオン性、非イオン性のいずれでもよく、膜受容体の性質によって適宜選択すればよい。脂質としては、リン脂質、糖脂質、コレステロール、またそれらの合成化合物類のいずれでもよく、膜受容体の性質によって適宜選択すればよい。第一工程で界面活性剤又は脂質で処理する際には、氷上等の低温でできるだけ短時間に行うことが好ましい。
【0033】
第二工程では、第一工程で単離された膜受容体をシャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合させる。例えば、第一工程で単離された膜受容体と、別途調製したシャペロニン連結体とを接触させることにより、両者を非共有結合的に結合させることができる。特に、アフィニティタグ/パートナータグを用いる実施形態によれば、両者の結合を容易に行うことができる。なお上述したように、ペプチド・タンパク質のタグ(例えば、S−タグとS−タンパク質)を採用する場合には、膜受容体遺伝子とタグ遺伝子との融合遺伝子を動物細胞内で発現させることで、タグが連結した膜受容体を調製することができる。
【0034】
本発明の複合体は、様々な用途に利用できる。1つの用途は、膜受容体を標的としたアゴニスト/アンタゴニスト候補のスクリーニングである。すなわち、従来は界面活性剤等で可溶化して得た膜画分をそのまま用いていたが、膜画分の代わりに本発明の複合体を用いることで安定化された膜受容体を標的とすることができ、取扱いが容易となる。他の用途としては、膜受容体の結晶構造解析が挙げられる。すなわち、本発明の複合体を用いた二次元結晶化後の電子顕微鏡観察や、三次元結晶化後のX線回折像解析によって、より天然に近い状態の膜受容体の構造を解析することが可能となる。
【0035】
本発明の複合体を担体に固定化することにより、対応するリガンドの精製に利用することもできる。例えばポリスチレンやアガロースからなる担体(ビーズ、プレート、基板、繊維など)に本発明の複合体を固定化すればよい。その他、本発明の複合体を含有する試薬や、本発明の複合体を備えたキットも有用である。
【0036】
以下に実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
(1)S−タンパク質が連結されたGroEL7回連結体を発現するベクターの構築
大腸菌K12株のゲノムDNAを鋳型とし、CPN−F1プライマー(配列番号11)とCPN−R1プライマー(配列番号12)を用いてPCRを行い、GroEL遺伝子(配列番号3)を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片の5’末端と3’末端には、それぞれプライマーに由来するSpeIサイトとXbaIサイトが導入された。このDNA断片7個を直列に連結し、GroEL7回連結体遺伝子((GroEL)7遺伝子)を作製した。一方、S−タンパク質遺伝子(配列番号9)を含むDNA断片を鋳型とし、S−F1プライマー(配列番号13)とS−R1プライマー(配列番号14)を用いてPCRを行い、S−タンパク質遺伝子を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片の5’末端と3’末端には、それぞれプライマーに由来するXbaIサイトとHindIIIサイトが導入された。
【0038】
(GroEL)7遺伝子を含むDNA断片とS−タンパク質遺伝子を含むDNA断片とを連結し、(GroEL)7遺伝子とS−タンパク質遺伝子との融合遺伝子を含むDNA断片を作製した。このDNA断片をpTrc99A発現ベクター(アマシャムファルマシア社)のSpeI/HindIIIサイトに導入し、GroEL7回連結体((GroEL)7)とS−タンパク質との融合タンパク質を発現できるベクターpTrc(GV)7Sを構築した。さらに、このベクターにHisタグ配列を付加するため、5'末端をリン酸化した合成DNA−1(配列番号17)と合成DNA−2(配列番号18)のアニーリング産物を、NcoI処理したpTrc(GV)7Sに挿入した。得られたベクターをpTrcH(GV)7Sと命名した。
【0039】
(2)S−タグが連結されたヒトエンドセリン受容体を発現する動物細胞の作製
ヒト由来エンドセリン受容体のクローン(Missouri S&T cDNA Resource Center, Clone ID EDNRA00000)を鋳型とし、hETAR-F1プライマー(配列番号15)とhETAR-R1プライマー(配列番号16)を用いてPCRを行い、hETAR遺伝子(配列番号1)を含むDNA断片を増幅した。このDNA断片の5’末端と3’末端には、それぞれプライマーに由来するNheIサイトとNotIサイトが導入された。また、hETAR-R1プライマーに由来するS−タグをコードする配列も導入された。
【0040】
得られた増幅DNA断片を動物細胞用の発現ベクターであるpCIベクター(プロメガ社)に導入し、S−タグが連結されたヒトエンドセリン受容体を発現できるベクターを構築した。このベクターをCHO細胞に導入し、S−タグが連結されたヒトエンドセリン受容体を発現する組換えCHO細胞を作製した。
【0041】
(3)シャペロニン−目的タンパク質複合体の製造
上記(1)で構築したベクターpTrcH(GV)7Sで大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、組換え体を作製した。この組換え体を培養し、菌体を得た。菌体懸濁液を融解して、超音波破砕後、超遠心分離に供し、その上清画分を回収した。さらに上清をニッケルキレートカラム(5mL)にロードした。500mMイミダゾール/PBSによる直線グラジエントにより溶出し、GroEL7回連結体を含む画分を回収および濃縮した。
【0042】
一方、上記(2)で作製した組換えCHO細胞を培養し、細胞を回収した。回収した細胞を破砕し、膜画分を得た。得られた膜画分を1%オクチルグルコシドと0.5% Chapsoとを含むPBSで処理し、可溶化した。この可溶化物と先に精製したGroEL7回連結体とを2:1のモル比で混合した。
【0043】
プロテインGビーズ(GEヘルスケア社)と抗シャペロニン抗体(ストレスジェン社)を混合した。遠心分離を行った後に上澄みを捨て、プロテインGビーズに未結合の抗シャペロニン抗体を除いた。この操作を3回繰り返し、抗シャペロニン抗体固定化ビーズを調製した。このビーズを、膜画分可溶化物とGroEL7回連結体との混合物に添加した。そのまま60分間静置した後、遠心分離を行い、上澄みを捨てた。PBS(オクチルグルコシド等を含まない)を加えてビーズを洗浄し、遠心分離の後、上澄みを捨てた。この操作を3回繰り返した。これにより、GroEL7回連結体とhETARとがS−タグ/S−タンパク質を介して結合した「シャペロニン−目的タンパク質複合体」が、ビーズに固定化された状態で得られた。
【0044】
(4)得られたシャペロニン−目的タンパク質複合体のリガンド結合評価
1mM CaCl2と5mM MgCl2を含む50mM HEPES−NaOH(pH7.4)に、約50μgのヒトエンドセリン受容体相当分の試料を添加し、エンドセリン受容体に対するアゴニスト[125I]-ET-1(Perkinelmer, Inc)をホットトレーサー、エンドセリン受容体に対するアゴニストであるコールドのエンドセリンを置換体とするリガンド結合特異性評価を行った。反応条件は25℃、60分間とした。反応終了後、複合体固定化担体を遠心分離し、上澄みを捨てた。再度1mM CaCl2と5mM MgCl2を含む50mM HEPES−NaOH(pH7.4)を添加し、未反応のエンドセリンを除去した。この操作を3回繰り返した。再分散させた後、γ線測定用バイアルに移し、γ線カウンターにて放射活性を測定(2分間)した。その結果、4763dpmの計数値を示した。これにより、得られたシャペロニン−目的タンパク質複合体がエンドセリン受容体に特異的なリガンド結合活性を有していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上のシャペロニンサブユニットが直列に連結されてなるシャペロニン連結体と、当該シャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合している目的タンパク質とを含み、前記シャペロニンサブユニットがリング状に配置されてなるリング状構造体を形成可能であると共に当該リング状構造体の内部に前記目的タンパク質を格納可能なシャペロニン−目的タンパク質複合体であって、
前記目的タンパク質は、動物細胞内で発現させた膜受容体であることを特徴とするシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項2】
シャペロニン連結体と目的タンパク質のいずれか一方にアフィニティタグが連結され、他方に当該アフィニティタグに対する特異的親和性を有するパートナータグが連結され、シャペロニン連結体と目的タンパク質とが前記アフィニティタグと前記パートナータグとを介して非共有結合的に結合していることを特徴とする請求項1に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項3】
前記アフィニティタグと前記パートナータグは、S−タグとS−タンパク質との組み合わせからなることを特徴とする請求項2に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項4】
前記膜受容体は、エンドセリン受容体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項5】
前記シャペロニンは、大腸菌GroELであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体を製造する方法であって、
所望の膜受容体を発現している動物細胞の破砕物から当該膜受容体を単離する第一工程と、第一工程で単離された膜受容体をシャペロニン連結体に対して非共有結合的に結合させる第二工程とを包含することを特徴とするシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法。
【請求項7】
第一工程において、前記動物細胞又はその破砕物を界面活性剤又は脂質で処理することを特徴とする請求項6に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法。
【請求項8】
前記動物細胞は、膜受容体をコードする遺伝子とアフィニティタグ又はパートナータグをコードする遺伝子とを連結させてなる融合遺伝子を有し、当該融合遺伝子を発現しているものであることを特徴とする請求項6又は7に記載のシャペロニン−目的タンパク質複合体の製造方法。

【公開番号】特開2010−235492(P2010−235492A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84117(P2009−84117)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】